京 を 利 用 した 新 しい 創 薬 プロセスの 可 能 性 2013 年 9 月 9 日 HPCI 戦 略 プログラム 分 野 1 課 題 2 東 京 大 学 先 端 科 学 技 術 研 究 センター 山 下 雄 史 Supercomputational Life Science
要 点 私 たちの 研 究 グループは 化 合 物 ( 薬 の 候 補 )とタンパク 質 との 結 合 強 度 の 高 精 度 計 算 を 薬 づくりのプロセスに 導 入 する 試 みをおこなっている がん 治 療 のための 標 的 タンパク 質 に 対 して 医 薬 品 の 候 補 化 合 物 を 選 ぶ 応 用 研 究 をスタートさせている 昨 年 度 下 半 期 で 300 化 合 物 を 計 算 することができた これは 普 通 のパ ソコンをフル 稼 働 させても600 年 以 上 かかる 量 の 計 算 である この 経 験 は 京 の 強 力 な 計 算 力 がこの 新 しい 薬 づくりプロセスを 実 行 可 能 にするものであることを 示 している 1
目 次 1. 自 己 紹 介 2. 背 景 3. 研 究 の 目 的 4. 研 究 の 内 容 5. 波 及 効 果 と 将 来 へのビジョン 6. まとめ 2
自 己 紹 介 藤 谷 秀 章 ( 分 野 1 課 題 2 代 表 者 ) 経 歴 1985 年 5 月 東 京 大 学 理 学 系 研 究 科 博 士 課 程 単 位 取 得 中 退 1985 年 5 月 富 士 通 研 究 所 入 社 1995 年 4 月 英 国 オックスフォード 大 学 招 聘 研 究 員 2004 年 1 月 米 国 スタンフォード 大 学 客 員 研 究 員 2010 年 4 月 東 京 大 学 先 端 科 学 技 術 研 究 センター 特 任 教 授 山 下 雄 史 経 歴 2004 年 3 月 京 都 大 学 大 学 院 理 学 研 究 科 博 士 課 程 修 了 2004 年 4 月 東 京 大 学 大 学 院 総 合 文 化 研 究 科 博 士 研 究 員 2007 年 4 月 米 国 ユタ 大 学 博 士 研 究 員 2010 年 4 月 米 国 シカゴ 大 学 博 士 研 究 員 2011 年 1 月 東 京 大 学 先 端 科 学 技 術 研 究 センター 特 任 准 教 授 これまでの 研 究 興 味 ; 物 理 学 的 な 観 点 から 化 学 現 象 や 生 物 現 象 を 考 える 化 学 現 象 や 生 物 現 象 に 含 まれる 物 理 の 問 題 を 考 える 分 野 の 間 の 橋 渡 しに 興 味 最 近 は 基 礎 的 な 生 命 科 学 と 応 用 的 な 創 薬 の 橋 渡 しに 重 点 を 置 いて 研 究 を 進 めている 3
背 景 : 難 病 への 対 策 健 康 で 長 生 きしたい 難 病 への 対 策 特 に 癌 を 克 服 したい 患 者 さんの 経 済 的 精 神 的 負 担 薬 の 副 作 用 による 苦 痛 => 少 しでも 軽 減 新 しい 病 気 への 対 応 ( 厚 生 労 働 省 : 平 成 20 年 度 人 口 動 態 統 計 ) 4
背 景 : 医 薬 品 開 発 の 成 功 率 費 用 時 間 薬 の 値 段 は 高 いか? 金 子 哲 雄 : 流 通 ジャーナリスト 2012 年 10 月 ハイカルチノイド のため 死 去 享 年 41 ) 4 月 に 入 ると カルチノイドの 治 療 薬 であるザノザールという 抗 生 剤 の 投 与 を 週 1 回 野 崎 クリニックで 開 始 した この 薬 は 日 本 国 内 では 未 承 認 のため 保 険 適 用 されていない そのため 1 回 の 点 滴 治 療 で 薬 価 が 約 4 万 円 毎 月 16 万 円 の 費 用 がかかった ( 中 略 )だが 私 の 場 合 薬 を 体 内 に 投 与 すると どうも 吐 き 気 を もよおしてしまう 指 先 もしびれ 便 秘 にもなった ( 中 略 ) 固 まっ た 便 を 指 でかき 出 すという 医 療 行 為 大 変 な 割 に 安 価 だ 保 険 適 用 で1000 円 くらいにしかならない ( 中 略 ) 一 方 で 薬 が4 万 円 ( 僕 の 死 に 方 ( 小 学 館 )より) 医 薬 品 の 研 究 開 発 には 研 究 開 始 から 承 認 取 得 まで9 年 ~ 17 年 の 年 月 を 要 し その 成 功 確 率 はわずか2~3 万 分 の1 と 極 めて 低 く 1 成 分 あたりの 開 発 費 用 は 途 中 で 断 念 した 費 用 も 含 めて1,000 億 円 近 くとも 言 われている ( 厚 生 労 働 省 医 薬 品 産 業 ビジョン2013 ) 5
背 景 : 新 しい 病 気 への 対 策 健 康 で 長 生 きしたい 難 病 への 対 策 特 に 癌 を 克 服 したい 患 者 さんの 経 済 的 精 神 的 負 担 薬 の 副 作 用 による 苦 痛 => 少 しでも 軽 減 新 しい 病 気 への 対 応 1918 年 1957 年 1968 年 2009 年 スペインかぜ スペインインフルエンザ (H1N1 型 / 弱 毒 性 ) アジアかぜ アジアインフルエンザ (H2N2 型 / 弱 毒 性 ) 香 港 かぜ 香 港 インフルエンザ (H3N2 型 / 弱 毒 性 ) 豚 インフルエンザ (H1N1 型 / 弱 毒 性 ) 代 表 的 な 新 型 インフルエンザの 流 行 世 界 での 感 染 者 は 約 6 億 人 死 亡 者 は 約 4,000~ 5,000 万 人 で 全 人 類 の 約 3 割 が 感 染 したことになる 日 本 での 感 染 者 は 約 2300 万 人 死 亡 者 約 45 万 人 といわれる 記 録 がある 限 りで 最 初 のインフルエン ザの 大 流 行 (パンデミック) 世 界 での 死 亡 者 は 約 100~200 万 人 日 本 での 感 染 者 は 約 300 万 人 死 亡 者 約 5,700 人 世 界 での 死 亡 者 はおよそ50 万 人 といわれる WHOがまとめた2009 年 7 月 末 日 時 点 での 累 計 は 症 例 数 が 約 16 万 死 亡 者 が 約 1,100 人 歴 史 的 に 見 て 10 40 年 くらいで 新 型 インフルエンザが 流 行 している 6
研 究 の 目 的 効 率 良 く 良 い 薬 を 作 る! 良 い 薬 = 効 く 薬 副 作 用 が 少 ない 薬 薬 の 標 的 を 的 確 に 見 つける そのために 病 気 のメカニズムに 関 連 する 基 礎 研 究 を 推 進 効 率 良 く= 開 発 期 間 が 短 い 開 発 費 用 が 安 い 試 行 錯 誤 が 少 ない 最 高 レベルのシミュレーション 技 術 を 創 薬 に 応 用 京 の 莫 大 な 計 算 資 源 プログラムの 改 良 ( 特 に 京 への 最 適 化 )でより 高 速 な 計 算 7
分 子 標 的 薬 従 来 の 抗 がん 剤 はマシンガン 型 正 常 細 胞 がん 細 胞 がん 細 胞 以 外 の 正 常 な 細 胞 にも 影 響 が 出 る = 副 作 用 の 原 因 分 子 標 的 薬 は ライフル 型 正 常 細 胞 がん 細 胞 がん 細 胞 以 外 には ほとんど 影 響 がない = 副 作 用 が 小 さい
分 子 標 的 薬 のメカニズム 標 的 タ ン パ ク 質 薬 がない 状 態 化 学 反 応 標 的 タ ン パ ク 質 薬 がある 状 態 分 子 標 的 薬 悪 い 物 質 の 素 悪 い 物 質 がん 細 胞 の 増 殖 に 必 要 な 化 学 反 応 が 起 こす 薬 は 悪 い 物 質 の 素 より 強 くタンパク 質 に 結 合 して 化 学 反 応 が 起 きない ようにしている 薬 になる 化 合 物 とは 標 的 タンパク 質 に 強 く 結 合 する 性 質 を 持 っていることが 重 要 本 発 表 では この 性 質 を 結 合 強 度 と 表 現 している 学 問 的 には 親 和 性 結 合 自 由 エネル ギー と 言 う
分 子 動 力 学 シミュレーションの 発 展 超 高 倍 率 の 顕 微 鏡 として インフルエンザの 原 因 タンパク 質 に 結 合 するタミフル 実 際 には 存 在 しないバーチャルな 状 況 を 創 り 出 す =>より 効 率 の 良 い 計 算 をおこなう 工 夫 になる λ 1 λ 2 λ 3 λ n 化 合 物 とタンパク 質 の 相 互 作 用 が 少 しずつ 消 えてしまう シミュレーションから 結 合 強 度 を 求 める 10
計 算 値 従 来 の 剛 体 モデル 従 来 のDocking 法 で 使 われる 結 合 自 由 エネルギー 予 測 実 験 値 Warren et al. J. Med. Chem. (2006) 計 算 値 (kcal/mol) 現 実 的 なモデル 分 子 動 力 学 シミュレーションに 基 づく 結 合 自 由 エネルギー 予 測 -8-10 -12-14 結 合 力 が 足 りない 薬 の 候 補 -14-12 -10-8 実 験 値 (kcal/mol) 計 算 量 は 少 ない タンパク 質 は 動 かない 水 の 効 果 は 考 慮 しない 予 測 精 度 が 低 い 計 算 量 は 莫 大 京 で 解 決 タンパク 質 は 自 然 に 揺 らぐ 水 の 効 果 を 正 確 に 考 慮 予 測 精 度 が 高 い
研 究 内 容 高 精 度 で 結 合 強 度 を 計 算 し 予 測 する 技 術 を 薬 開 発 プロセスに 導 入 して 実 際 に 有 効 性 を 実 証 することに 挑 戦 する 我 々の 手 法 を 実 行 できるプログラムを 京 に 移 植 実 際 に がんの 標 的 タンパク 質 に 対 しての 設 計 をスタートさせ 提 案 したプ ロセスを 実 施 まだ 医 薬 品 設 計 は 完 了 していないが 新 しい 設 計 プロセスは 京 を 用 い ることで 十 分 実 行 可 能 であることは 示 させた 12
新 しい 薬 開 発 プロセスの 提 案 従 来 のプロセス 新 しいプロセス 新 しい 化 合 物 を 作 る 実 験 は 大 変 な 苦 労 がある 京 で 予 測 する=> 実 験 と 設 計 の 繰 り 返 し 回 数 を 減 らす 実 験 を 補 完 する 役 割
計 算 量 約 60 化 合 物 の 計 算 地 球 シミュレータと 同 等 のスーパーコンピュータ(MDADD 東 大 先 端 研 )を 用 いて2ヶ 月 近 くかかる 計 算 である 普 通 のパソコンだと 100 年 以 上 かかる 京 を 活 用 すれば 3 日 程 度 で 出 来 るようになっている ( 実 際 は 2 週 間 程 度 ) このスピード 感 は 京 を 利 用 して 初 めて 得 られるものである 実 験 チームへ フィードバックするの 時 間 が 非 常 に 短 縮 される 昨 年 下 半 期 で この 規 模 の 計 算 を5 回 実 行 京 の 計 算 資 源 の 一 部 で 約 300 化 合 物 の 計 算 を 実 施 できた
京 での 計 算 の 効 率 化 オープンソースソフトウェアGROMACS Lindahl 教 授 (ストックホルム 大 スウェーデン)のグループと 共 同 で 京 へ の 最 適 化 を 実 施 (2013 年 5 月 30 日 に 公 開 http://www.lsbm.org/news/2013/0603.html) GROMACSを 京 に 最 適 化 =>2 倍 くらい 速 く 計 算 できる 2 倍 速 い=2 倍 の 計 算 ができる=いわば 京 が2つになる 15
今 回 の 計 算 の 意 義 京 の 計 算 力 = 一 部 を 使 うだ けでも 300 個 の 化 合 物 を2 3ヶ 月 で 調 査 できる 一 度 に 設 計 される 数 百 個 の 化 合 物 を 数 ヶ 月 で 全 部 調 べる ことができる 新 しいプロセス 一 度 に 数 百 化 合 物 を 提 案 実 験 を 待 たずに その 結 果 を 設 計 にフィードバックできる 多 数 の 結 果 から 傾 向 がでるの で 設 計 思 想 にフィードバック をかけることができる 実 験 で 一 度 にできる のは せいぜい10 個 くらい 16
今 後 の 展 開 展 望 なんとかして がんの 新 薬 につながる 化 合 物 を 発 見 する そのために 今 回 の 計 算 の 精 査 さらなる 詳 細 な 解 析 今 回 の 結 果 をフィードバックして 新 たな 化 合 物 を 設 計 さらに これら 新 しい 化 合 物 の 結 合 強 度 予 測 計 算 を 京 で 実 施 実 験 との 密 なコラボレーション 技 術 のブラッシュアップ 経 験 が 蓄 積 され より 完 成 度 の 高 い 技 術 へ 実 際 に 見 て 使 ってみて 技 術 の 価 値 感 は 浸 透 普 及 していく 分 子 動 力 学 計 算 ができた 結 合 強 度 の 予 測 ができた 使 ってみてもい いか と 思 える 17 使 うのが 当 たり 前 と 思 える 個 別 医 療 へ の 展 開
研 究 の 波 及 効 果 生 命 現 象 の 正 確 な 理 解 に 基 づく 合 理 的 な 薬 づくり 健 康 に 延 命 できる (これまで 治 らなかった 病 気 を 治 せるように ) 薬 が 安 くなる ( 患 者 さんの 経 済 的 負 担 ) 新 型 の 病 気 に 素 早 く 対 応 できるようになる 希 少 な 病 気 に 対 する 治 療 薬 開 発 が 活 発 になる 経 済 効 果 他 の 最 新 技 術 との 組 み 合 わせで より 良 い 医 薬 品 を (QOL) ips 細 胞 を 用 いた 再 生 医 療 における 癌 化 の 問 題 より 良 いターゲットを 選 出 ( 実 験 情 報 学 的 アプローチ)=> 副 作 用 の 少 ない 薬 18
まとめ: 要 点 私 たちの 研 究 グループは 化 合 物 ( 薬 の 候 補 )とタンパク 質 との 結 合 強 度 の 高 精 度 計 算 を 薬 づくりのプロセスに 導 入 する 試 みをおこなっている がん 治 療 のための 標 的 タンパク 質 に 対 して 医 薬 品 の 候 補 化 合 物 を 選 ぶ 応 用 研 究 をスタートさせている 昨 年 度 下 半 期 で 300 化 合 物 を 計 算 することができた これは 普 通 のパ ソコンをフル 稼 働 させても600 年 以 上 かかる 量 の 計 算 である この 経 験 は 京 の 強 力 な 計 算 力 がこの 新 しい 薬 づくりプロセスを 実 行 可 能 にするものであることを 示 している 19
資 料 : 経 済 的 な 効 果 世 界 売 上 上 位 5 品 目 (2011 年 ) 製 品 名 一 般 名 薬 効 メーカー 売 り 上 げ ( 単 位 : 百 万 ドル) 1 リヒ トール アトルハ スタチン 高 脂 血 症 /スタチン ファイサ ー /アステラス 他 10,860 2 フ ラヒ ックス クロヒ ト ク レル 抗 血 小 板 薬 サノフィ/BMS 9,729 3 レミケード インフリキシマフ リウマチ/クローン 病 他 J&J/メルク / 田 辺 三 菱 9,016 4 ヒュミラ アタ リムマフ 関 節 リウマチ アホ ット/エーサ イ 8,242 5 クレストール ロスハ スタチン 高 脂 血 症 /スタチン 塩 野 義 /アストラセ ネカ 7,919 20
参 考 資 料 別 角 度 での 解 説 : スーパーコンピュータ 京 を 知 る 集 い in 長 崎 での 講 演 の 動 画 http://www.youtube.com/watch?v=tpblf_hifws 資 料 High-performance Computing for Drug Development on K computer Fujitani et al., J. Phys.: Conf. Ser. 454 012018 (2013) 21