発 達 障 害 児 の SST と 養 育 不 安 の 変 化 白 百 合 女 子 大 学 五 十 嵐 一 枝 発 達 障 害 児 の 理 解 発 達 障 害 は 広 い 概 念 である ここでは 高 機 能 広 汎 性 発 達 障 害 ( 以 下 HFPDD) 注 意 欠 陥 / 多 動 性 障 害 ( 以 下 AD/HD) 学 習 障 害 ( 以 下 LD)などのいわゆる 軽 度 発 達 障 害 ( 以 下 発 達 障 害 )に 関 し て 言 及 する これらの 発 達 障 害 の 本 質 的 な 問 題 はそれぞれ 異 なる HFPDD では 社 会 的 相 互 性 や 言 語 コミュニケーションの 障 害 と 行 動 の 偏 りや 想 像 性 の 欠 如 などが 特 徴 的 問 題 としてあげられる AD/HD では 行 動 抑 制 困 難 と 注 意 の 集 中 持 続 の 困 難 が 主 たる 問 題 である また LD では 文 章 が 読 めない 文 字 や 文 が 書 けない 計 算 ができない などの 学 習 における 特 異 な 困 難 が 見 られる このように 障 害 の 本 質 的 特 徴 は 異 なっているものの これらの 障 害 が 発 達 障 害 というひと つのまとまりの 中 で 支 援 が 検 討 されてきたことにはそれなりの 理 由 がある 発 達 障 害 は 脳 機 能 に 由 来 すると 考 えられる 認 知 発 達 の 遅 れや 偏 りや 歪 みによって 生 ずる 認 知 の 問 題 は 各 発 達 障 害 によって 異 なる 部 分 と 共 通 する 部 分 とがあるが 多 くの 発 達 障 害 児 が 認 知 発 達 のアンバランスによる 一 次 的 または 二 次 的 な 集 団 適 応 上 の 問 題 すなわち 社 会 適 応 上 の 問 題 を 持 っている 例 えば 子 ども 達 はしばしば 他 者 の 表 情 や 身 振 りや 声 の 調 子 などの 手 掛 かり に 気 付 かず 周 囲 に 気 配 りや 目 配 りができず 場 にふさわしい 言 葉 の 使 用 ができない あるいは 冗 談 や 比 喩 を 理 解 せず ひとりよがりであり 先 を 見 通 した 行 動 ができない また どのように 行 動 したらよいかを 分 かっているのに 場 にふさわしい 行 動 をとることができない このような 社 会 的 能 力 の 問 題 は それが 本 質 的 であるか 二 次 的 であるかによらず 幼 稚 園 保 育 園 学 校 あるいは 家 庭 や 地 域 社 会 において 本 人 自 身 はもちろん 周 囲 の 人 々にも 戸 惑 いやトラブルを 生 じさせがちである しかも 知 的 遅 れがないことにより 能 力 のアンバランスや 生 活 上 の 困 難 が 周 囲 から 理 解 されにくく 本 人 自 身 も 高 い 能 力 を 持 っているにも 関 わらず 自 分 の 困 難 さの 本 質 がわか っていないため 悩 みも 深 いという 点 で 共 通 している 子 どもの 特 徴 と 親 の 養 育 不 安 発 達 障 害 児 の 特 徴 と 親 が 子 育 ての 過 程 で 抱 く 不 安 について 表 1と 表 2に 示 す 発 達 障 害 児 では 乳 幼 児 期 および 幼 児 期 早 期 の 親 への 愛 着 の 示 し 方 や 親 との 相 互 性 の 形 成 や 他 者 理 解 な どが 通 常 の 乳 幼 児 とは 異 なっていることが 多 い 親 を 認 識 せず 後 追 いをしない 手 のかから ない しかし 応 答 の 少 ない 乳 児 であったり 夜 泣 きや 寝 ぐずりが 多 い 育 てにくい 乳 児 であったり する 一 人 歩 きができるようになると 同 時 に 駆 け 出 しなどの 危 険 な 行 動 やこだわりなどの 迷 惑 行 動 が 頻 繁 になる 言 葉 の 発 達 が 遅 れることもある ようやく 言 語 を 獲 得 しても 理 解 や 表 出 に ずれがあり 親 からみて 宇 宙 人 のような 理 解 困 難 児 であるといわれたりする この 時 期 は 子 ど もの 特 徴 の 理 解 特 に 子 どもの 障 害 特 徴 の 理 解 が 必 要 になる 表 2のごとく 発 達 障 害 児 の 親 の 養 育 不 安 は 子 どもの 年 齢 によってさまざまである 臨 床 経 験 を 通 して 感 じることは 発 達 の 問 題
から 目 をそらさず 問 題 に 対 する 具 体 的 支 援 法 を 考 えて 実 施 し そして 子 どもの 発 達 的 変 化 を 親 と 共 に 確 認 することが 発 達 障 害 児 の 親 の 養 育 不 安 の 軽 減 に 最 も 有 効 であるということである 子 どもの 障 害 特 徴 に 適 した 療 育 や 治 療 的 教 育 が 効 果 を 上 げて 子 どもが 発 達 的 変 化 をとげること が 親 の 不 安 を 軽 くし 将 来 の 発 達 の 可 能 性 を 見 出 し 子 育 てに 希 望 と 意 欲 を 持 つことにつなが る ( 表 3) 表 1 子 どもの 特 徴 育 てにくい または 手 のかからない 乳 児 目 が 離 せない 幼 児 期 理 解 困 難 な 言 動 が 目 立 つ 児 童 期 以 降 通 常 の 育 児 方 法 がうまくいかない 表 2 親 の 不 安 障 害 の 理 解 育 て 方 教 育 機 関 集 団 適 応 友 人 教 師 関 係 きょうだい 親 子 親 戚 近 隣 関 係 就 学 将 来 仕 事 その 他
表 3 子 どもへの 実 際 的 支 援 問 題 の 明 確 化 ( 発 達 的 問 題 の 特 徴 ) 子 どもに 対 する 具 体 的 支 援 方 法 の 提 示 療 育 治 療 的 教 育 の 実 践 発 達 障 害 児 の SST 低 年 齢 の 発 達 障 害 児 は 集 団 の 中 で 問 題 を 呈 してはいるものの 自 分 の 特 徴 が 親 や 周 囲 を 混 乱 させ 悩 ませているという 自 覚 はない しかし 発 達 と 共 に 周 囲 との 違 いを 意 識 しだし 自 分 の 特 徴 に 関 する 葛 藤 や 悩 みが 深 くなると 言 われる 子 ども 達 の 集 団 適 応 上 の 問 題 は 決 して 小 さくない し 放 置 できないことである 低 年 齢 であっても 問 題 を 改 善 していくための 対 応 を 検 討 するこ とが 必 要 である 子 どもが 自 分 の 特 徴 を 自 覚 していなくても 集 団 の 中 での 自 分 の 行 動 を 他 者 か らフィードバックされることにより 発 達 段 階 に 応 じた 自 覚 に 至 ることが 出 来 る 実 生 活 の 中 で 見 られる 問 題 に 注 目 し 子 ども 達 が 自 分 の 行 動 や 認 知 の 特 徴 を 自 覚 するように 促 し 問 題 解 決 の 方 略 を 積 極 的 に 提 示 し 解 決 スキルの 発 見 と 獲 得 を 助 けることが 私 達 の SST の ねらいである SST は 対 象 児 の 問 題 や 人 数 により 個 別 指 導 と 集 団 指 導 が 考 えられ 内 容 的 には 障 害 の 本 質 的 問 題 である 一 次 的 問 題 への 対 応 と 障 害 を 持 っていることから 派 生 した 二 次 的 問 題 への 対 応 および 問 題 発 生 の 予 防 的 対 応 とがある 私 達 の 研 究 グループは 発 達 障 害 児 のソーシ ャル コミュニケーションの 困 難 に 着 目 し 小 集 団 における 臨 床 的 アプローチ(ソーシャル コ ミュニケーション プロジェクト:SCP)を 試 みてきた (1)ソーシャル コミュニケーション プロジェクト(SCP)とは 従 来 から SST は 様 々な 目 的 を 持 って 多 領 域 で 適 用 されてきており 定 義 も 種 々 認 められ 対 象 となる 行 動 や 年 齢 も 多 様 である SCP は 私 と 研 究 スタッフが 2001 年 から 始 めた 発 達 障 害 児 (AD/HD LD HFPDD 児 )の 社 会 的 相 互 性 の 発 達 を 目 的 とした SST に 始 まる SCP は 発 達 障 害 児 の 社 会 的 な 認 知 とコミュニケーションの 発 達 に 焦 点 を 置 いた 心 理 教 育 的 なアプローチであり
次 のように 特 徴 づけられる SCP は 1 参 加 2 協 力 3コミュニケーション 4 適 切 な 援 助 を 重 視 した 指 導 プログラムを 組 み 遊 びや 制 作 や 発 表 などを 含 む 構 造 化 された 場 面 において 仲 間 と 指 導 者 との 実 際 のやり 取 りを 行 うなかで 自 己 と 他 者 の 認 知 やコミュニケーションの 特 徴 を 理 解 し 社 会 的 相 互 作 用 に 必 要 なソーシャル コミュニケーション スキルの 発 達 を 促 すプログ ラムである ここで 言 うソーシャル コミュニケーション スキルとは 自 己 と 他 者 の 双 方 にと って 有 益 な 方 法 で 社 会 的 に 相 互 作 用 する 能 力 であり 社 会 的 相 互 作 用 の 発 達 段 階 において 不 可 欠 な 機 能 で 構 造 化 された 小 集 団 における 認 知 的 アプローチによって 発 達 が 促 進 されるスキルを 指 している SCP は 表 4 のような 特 徴 を 持 つ SCP グループの 構 成 や 目 標 設 定 プログラム 内 容 の 検 討 など に 先 立 って 医 学 診 断 と 事 前 の 心 理 学 的 アセスメントを 行 う 心 理 学 的 アセスメントには ウェ クスラー 法 他 の 知 能 検 査 や 各 種 認 知 能 力 検 査 社 会 生 活 能 力 検 査 行 動 観 察 保 護 者 面 接 を 含 む 各 対 象 児 について 認 知 発 達 のどの 段 階 で 問 題 があるか あるいはどのような 認 知 発 達 の 特 徴 が あるかを 明 らかにしたうえで 年 齢 や 性 別 も 考 慮 してグループを 構 成 し 集 団 と 個 人 の 目 標 を 設 定 する 原 則 として 1 年 間 はグループメンバーを 変 更 しないで 行 う 同 一 メンバーでグループを 継 続 することの 意 義 として メンバー 相 互 の 親 近 感 と 信 頼 感 が 育 ちやすいこと プログラムへの 反 応 やチェックリスト 等 により 長 期 的 変 化 を 確 認 できることがあげられる (2)SCP のプログラム SCP のプログラム 例 を 表 5 に 示 す プログラムは 1 始 まりの 挨 拶 2 出 席 確 認 3 今 日 の 課 題 説 明 4ウォーミングアップ 課 題 (ゲーム 制 作 など) 5 主 課 題 ( 発 表 など HFPDD の 特 徴 に 特 化 した 課 題 ) 6 次 回 の 説 明 7 終 わりの 挨 拶 の 7 場 面 から 構 成 される このプログラムの 構 成 は 年 齢 や 性 別 やグループや 期 間 によって 変 更 がないが 4と5の 課 題 内 容 は グループの 認 知 発 達 のレベルや 特 徴 獲 得 目 標 を 考 慮 して 計 画 する 5では 発 表 作 文 リレー 話 し 合 いなど 対 象 児 の 社 会 的 状 況 の 理 解 やコミュニケーションの 特 徴 を 前 提 に 考 案 された 課 題 が 行 われ 4では ゲームや 制 作 などにおいて 各 々の 社 会 的 実 践 力 が 発 揮 される これらのプログラムの 内 容 は 個 人 が 注 目 される 場 面 ( 始 まりと 終 わりの 挨 拶 出 席 確 認 発 表 や 話 し 合 い) 競 争 する 場 面 (ゲーム 話 し 合 い) 協 力 する 場 面 (ゲーム 制 作 作 文 リレー 話 し 合 い) 説 明 を 聞 く 場 面 ( 今 日 と 次 回 の 説 明 ゲームや 制 作 や 主 課 題 の 内 容 説 明 ) を 含 んで いる 発 達 障 害 児 は 日 常 生 活 の 中 で 好 奇 のまなざしで 注 目 されたり あるいは 逆 に 無 視 された り 不 適 切 な 競 争 や 妥 協 をしたり 言 われたことを 勘 違 いしたりすることが 多 い 注 目 をプラス に 生 かせるように 適 度 の 競 争 や 挑 戦 が 出 来 るように グループのメンバーとして 仲 間 と 力 や 物 の 貸 し 借 りが 出 来 るように 言 われたことのポイントを 理 解 できるように そしてこれらのこと を 出 来 るだけ 楽 しく 実 践 できるように 配 慮 してプログラムが 作 成 される
表 4 SCPの 特 徴 特 徴 1:4~5 人 からなる 小 グループを 構 成 し 児 同 士 の 相 互 作 用 に 着 目 した 指 導 を 展 開 児 の 発 達 段 階 に 合 わせた 指 導 者 の 介 入 を 行 う 特 徴 2: 発 達 臨 床 心 理 学 を 専 門 とする 指 導 者 によって 計 画 統 制 された 各 場 面 のなかで 仲 間 との 関 係 性 を 重 視 しながら 児 らの 社 会 的 行 動 の 自 覚 を 促 すことに 焦 点 を 置 く 表 5 SCPプログラム X 年 5 月 18 日 のプログラムより 1 はじまりのあいさつ 2 分 着 席 し 一 斉 にあいさつする 2 出 席 3 分 係 りの 人 は 全 員 の 名 前 を 読 み 上 げ 皆 はそれに 応 える 3 今 日 の 説 明 5 分 話 を 聞 き 理 解 する 4 制 作 <あじさい かたつむり 作 り> 20 分 個 人 で 見 本 を 見 て 解 読 し 折 り 紙 を 折 る 5 発 表 < 僕 の 好 きな 本 > 20 分 自 分 の 考 えを 発 表 する 他 の 人 はしっかり 聞 く 6 次 回 の 説 明 シール 貼 り 7 分 話 を 聞 き 理 解 する 7 終 わりのあいさつ 3 分 着 席 し 一 斉 にあいさつする ウォーミングアップ 課 題 グループによって 制 作 プログラム ゲームプロ グラムが 交 互 に 行 われ る 実 践 の 場 発 達 障 害 児 の 特 性 を 考 慮 したプログラ ム グループによっ て 作 文 リレー 話 し 合 いなどに 変 更 SCP の 効 果 と 親 の 養 育 不 安 の 変 化 構 造 化 された 集 団 場 面 におけるメンバーやスタッフの 言 動 を 自 分 自 身 の 行 動 に 関 連 付 けて 自 らの 特 徴 を 知 って 発 達 的 に 変 化 していく 過 程 が SCP の 効 果 である これまでの 経 過 を 踏 まえて 次 の 4 点 の 発 達 的 変 化 をあげることが 出 来 る すなわち 1メンバー 間 の 種 々の 感 情 に 気 づく 2 他 者 の 立 場 から 考 える 3 状 況 に 適 した 言 動 を 考 える 4 自 分 の 特 徴 についての 肯 定 的 な 気 づ きを 得 る である SCP の 長 期 的 実 施 は 構 造 化 場 面 における 社 会 的 スキルの 獲 得 のみではなく
発 達 障 害 児 の 認 識 や 言 語 コミュニケーションのあり 方 に 発 達 的 変 化 をもたらし 子 ども 達 の 生 活 の 質 を 変 えることができると 考 える( 表 6) この 様 な 子 どもの 発 達 的 変 化 は 親 の 養 育 不 安 を 大 きく 変 える 親 は 通 常 の 育 児 書 には 記 載 がないようなわが 子 の 行 動 やコミュニケーションなどの 発 達 上 の 問 題 について 理 解 の 仕 方 や 対 応 のポイントとなる 視 点 があることを 理 解 する 他 のきょうだい 達 とは 少 し 異 なる 視 点 から 認 識 や 感 じ 方 の 特 徴 を 受 け 止 めて 子 どもに 返 していくと その 子 どもは 親 にとっては 思 いがけない ような 変 化 を 見 せる 力 があることに 気 づく AD/HD LD HFPDD といった 発 達 障 害 児 は 宇 宙 人 の ように 理 解 不 能 な 存 在 ではなく 立 つ 位 置 を 少 しずらして 観 点 を 変 えれば 子 どもの 困 難 につい ての 相 互 理 解 が 可 能 であり 適 切 な 支 援 によって 子 どもは 発 達 する この 理 解 が 親 が 子 どもの 発 達 障 害 を 肯 定 的 に 受 け 入 れ 親 の 関 わりの 意 味 を 見 出 して 養 育 を 行 うことにつながる( 表 7) 表 6 SCPの 効 果 スキルの 獲 得 に 終 わらない 発 達 障 害 児 の 認 識 の 仕 方 言 語 コミュニケ ーションのあり 方 の 変 化 子 どもの 生 活 の 質 の 変 化 表 7 子 どもの 発 達 と 親 の 変 化 子 どもの 物 の 見 方 コミュニケーションの 変 化 親 の 驚 き 子 どもが 変 化 できることの 認 識 親 の 関 与 の 自 覚
子 どもは 安 全 の 基 地 を 必 要 としている 白 百 合 女 子 大 学 児 童 文 化 学 科 繁 多 進 子 どもは 自 分 ひとりの 力 で 生 きていくことはできません ですから この 人 といれば 自 分 の 生 命 は 大 丈 夫 だ この 人 はいざというときは 必 ず 助 けてくれる 人 だ と 思 える 人 を 子 どもは 必 要 と しています 子 どもの 安 全 の 基 地 になるのはこのように 人 なのです 子 どもの 最 初 の 安 全 の 基 地 になる 人 は 多 くの 場 合 両 親 です とりわけ 母 親 がその 有 力 候 補 です 赤 ちゃんは 生 後 6 ヶ 月 頃 になると 母 親 と 他 の 人 々とを 区 別 して 母 親 に 対 して 特 別 の 行 動 を 示 すようになります 母 親 の 姿 が 見 えなくなると 泣 き 叫 び 誰 が 慰 めても 泣 き 止 まないのに 母 親 が 帰 ってきて 抱 き 上 げるとぴたりと 泣 き 止 むというような 行 動 を 示 すようになります このよ うな 行 動 が 生 じるのはこの 赤 ちゃんが この 人 が 自 分 の 生 命 を 守 ってくれる 人 だから いつもこ の 人 と 一 緒 にいたい という 気 持 ちをもったからにほかなりません このような 特 定 の 対 象 に 対 する 特 別 の 感 情 は 愛 着 と 呼 ばれています この 赤 ちゃんは 母 親 を 最 初 の 愛 着 の 対 象 にしたの です 養 育 者 ( 生 母 でなくても)が 赤 ちゃんのさまざまなシグナルを 読 み 取 り それにある 程 度 応 答 する 人 であるならば 赤 ちゃんたちはその 養 育 者 を 愛 着 の 対 象 として この 人 に 守 られている という 安 心 感 をもって つまり 愛 着 の 対 象 を 安 全 の 基 地 にしながら 自 らの 好 奇 心 の 赴 く ままに 伸 び 伸 びと 探 索 活 動 に 勤 しむようになります しかしながら すべての 赤 ちゃんがこのような 健 全 な 愛 着 の 対 象 をもてるとは 限 りません 養 育 者 に 対 して この 人 は 本 当 にいざというときに 自 分 を 守 ってくれるのだろうか そうではない かもしれない と 疑 いの 念 を 抱 いたり この 人 に 期 待 するのは 無 理 かもしれない あきらめたほ うがよいのかもしれない と 感 じたりする 赤 ちゃんたちもいます このような 子 どもたちは 安 全 の 基 地 をもてないわけですから 不 安 と 闘 いながら 毎 日 を 生 きていかなければなりません このように 乳 幼 児 期 に 健 全 な 愛 着 の 対 象 をもてなかった 子 どもは 成 長 しても 養 育 者 に 対 して 彼 らは 私 の 要 求 に 応 じてくれず 感 受 性 に 乏 しく 信 頼 できない という 気 持 ちを 抱 き 続 ける ばかりでなく 自 分 自 身 についても 私 は 悪 い 人 間 で 望 まれていず 価 値 がなく 愛 されない 人 間 という 自 己 像 を 作 り 上 げ そして 世 界 は 安 全 でなく 人 生 は 生 きる 価 値 がない という 信 念 をもつことになるでしょう 近 年 大 きな 事 件 を 起 こしてきた 青 年 たちがこのような 信 念 を 抱 いていたであろうことは 疑 う 余 地 のないことだと 思 います 親 が 子 どもの 健 全 な 愛 着 の 対 象 になるためには 親 子 間 に 暖 かく 継 続 的 な 相 互 作 用 の 積 み 重 ねが 必 要 だとされています 子 どものそのときどきの 情 緒 を 読 み 取 り なぞりながら 応 答 する 親 に 対 して 子 どもは この 人 には 自 分 の 気 持 ちが 伝 わる という 気 持 ちを 抱 き 信 頼 の 感 情 を 高 めていくのでしょう 多 くの 親 はごく 自 然 にこのような 相 互 作 用 をしているのですが 残 念 なが ら 子 どもとの 暖 かい 接 触 ができないばかりか 子 どもを 虐 待 するような 親 もいます 1
このような 親 に 育 てられた 子 どもが 健 全 な 愛 着 の 対 象 をもつことができず 安 全 の 基 地 をもつ ことができず 上 記 のような 信 念 をもつことになりがちなことはすでに 述 べてきた 通 りです こ のような 子 どもに 支 援 の 手 を 差 し 伸 べなければならないことはいうまでもありません 保 育 園 や 幼 稚 園 に 通 っている 子 どもなら まず 保 育 者 がその 子 どもの 愛 着 の 対 象 になるよう 懸 命 の 努 力 をしなければなりません この 人 は 自 分 の 気 持 ちをわかってくれる この 人 は 自 分 を 守 ってく れる 人 だ と 思 われるようにならなければなりません 保 育 園 や 幼 稚 園 に 行 っていない 子 どもで あれば 近 隣 や 親 戚 の 人 々がその 役 割 を 取 らなければなりません 支 援 すべきは 子 どもだけではありません 子 どもの 健 全 な 愛 着 の 対 象 になりえない 親 も 支 援 の 対 象 です まずは 保 育 者 も 近 隣 の 人 々もそのような 親 にあたたかい 目 を 向 けることです 虐 待 し たり 適 切 な 養 育 ができない 親 にあたたかい 目 を 向 けることは 難 しいことではありますが その ような 親 こそがまわりの あたたかい 目 を 必 要 としているのです 苦 しんでいる 親 子 を 冷 たい 目 で 突 き 放 すのではなく 暖 かく 包 み 込 むような 社 会 であればと 願 っています 2