福 島 原 発 事 故 の 法 的 責 任 を 検 証 する 2014/12/12 文 責 : 吉 岡 律 夫 2014 年 12 月 6 日 の 失 敗 学 会 年 次 大 会 において 福 島 原 発 事 故 の 法 的 責 任 を 検 証 する という 講 演 が 古 川 元 晴 淵 上 正 朗 吉 岡 律 夫 の 3 名 の 講 師 によって 行 なわれました 当 日 のスライドなどを 掲 載 し 内 容 を 紹 介 します 失 敗 学 会 は 2014 年 に 3 回 のフォーラムを 開 催 し ました このフォーラムは 福 島 原 発 事 故 の 責 任 を 誰 も 取 ら ないのはおかしい あるいは 事 故 の 根 本 原 因 究 明 が 不 十 分 で このままでは 別 の 新 たな 大 事 故 に 繋 が る という 意 見 を 持 つ 関 係 者 が 討 議 しよう という ことで 始 まったものです 福 島 原 発 事 故 の 刑 事 責 任 失 敗 学 会 は 福 島 原 発 事 故 の 刑 事 責 任 に 関 連 して 2014 年 度 に3 回 のフォー ラムを 開 催 1 回 目 :2014 年 2 月 22 日 3.11 原 発 過 酷 事 故 と 東 電 等 の 刑 事 責 任 - 未 知 の 危 険 と 危 惧 感 説 の 再 評 価 - 古 川 元 晴 パネリスト: 畑 村 洋 太 郎 古 川 元 晴 吉 岡 律 夫 2 回 目 :2014 年 6 月 21 日 東 電 等 の 刑 事 責 任 - 再 稼 動 云 々の 前 に 白 黒 つけたいことがある- 古 川 元 晴 淵 上 正 朗 吉 岡 律 夫 後 藤 政 志 中 尾 政 之 3 回 目 : 2014 年 9 月 27 日 福 島 原 発 事 故 は 技 術 的 に 回 避 可 能 であったか 古 川 元 晴 淵 上 正 朗 飯 野 謙 次 吉 岡 律 夫 2 今 回 の 討 議 の 出 発 点 であり かつ 柱 となってい るのが 危 惧 感 説 と 呼 ばれる 思 想 で 以 下 に 説 明 します さらに 詳 しく 知 りたい 方 は 参 考 文 献 [Ref.1,2]を 御 覧 下 さい 危 惧 感 説 既 知 の 危 険 の 限 度 で 刑 事 責 任 を 問 う という 理 論 では 起 きたことが ない 事 故 は 防 止 できない これに 代 わるものが 危 惧 感 説 危 惧 感 とは 虫 の 知 らせや 第 6 感 のような 単 なる 予 感 ではなく 科 学 的 に 予 見 すること 高 度 の 安 全 義 務 を 課 されている 事 業 者 には 科 学 的 な 予 見 により 今 ま でに 事 故 が 起 きていなくても 未 来 の 危 険 を 予 見 し 回 避 する 義 務 があ る 従 って 回 避 措 置 重 心 説 とも 称 される 3 最 新 の 安 全 工 学 の 思 想 つまり 起 きると 予 想 される 危 険 ( 潜 在 危 険 ) を 洗 い 出 し リスクとベネフィットのバランス 点 で 設 計 を 行 う という 思 想 つまり リスクによる 予 見 と 回 避 思 想 とほぼ 同 等 法 学 と 工 学 の 一 致! 危 惧 感 説 : 現 行 法 理 論 には2つあり その1つは 既 知 の 危 険 の 限 度 で 刑 事 責 任 を 問 う というもので 具 体 的 予 見 可 能 性 説 と 言 われるものです しかし この 考 えでは 複 雑 化 高 度 化 した 近 代 科 学 技 術 のシス テムには 対 応 できません 即 ち 過 去 に 起 きたことがある( 既 知 の) 事 故 を 基 にするだけでは 起 きた ことがない 事 故 ( 未 知 の 危 険 )は 防 止 できません また 全 く 新 しい 科 学 技 術 に 対 しては 経 験 がない わけだから 事 故 が 起 きても 仕 方 がないことになってしまいます もう1つは これに 代 わるものとして 1960 年 代 から 提 唱 されている 危 惧 感 説 です ここで 危 惧 感 とは 虫 の 知 らせや 第 6 感 のような 単 なる 予 感 ではなく 科 学 的 に 予 見 すること を 意 味 しています そして 高 度 の 安 全 義 務 を 課 されている 事 業 者 には 科 学 的 な 予 見 により 今 までに 事 故 が 起 きていな くても 未 来 の 危 険 を 予 見 し 回 避 する 義 務 がある という 学 説 です 危 惧 感 説 というと 人 間 の 曖 昧 な 思 いに 重 きを 置 くような 説 と 取 られかねないので 回 避 措 置 重 心 説 と 称 することもあります 1
このことは 最 新 の 安 全 工 学 の 思 想 つまり 起 きると 予 想 される 危 険 ( 潜 在 危 険 )を 洗 い 出 し リス クとベネフィットのバランス 点 で 設 計 を 行 う という 思 想 つまり リスクによる 予 見 と 回 避 思 想 と 比 べると 法 理 論 の 危 惧 感 説 とほぼ 同 等 と 言 えます [Ref.1] 古 川 元 晴 3.11 原 発 過 酷 事 故 と 東 電 等 の 刑 事 責 任 未 知 の 危 険 と 危 惧 感 説 の 再 評 価 法 と 経 済 のジャーナル 2014 年 3 月 10 日 号 ( 右 記 URL に 掲 載 )http://judiciary.asahi.com/fukabori/2014030700001.html [Ref.2] 古 川 元 晴 なぜ 日 本 では 大 事 故 が 裁 かれないのか : 過 失 を 裁 く 法 理 の 再 検 討 世 界 pp.167-176 2014 年 6 月 号 福 島 原 発 事 故 の 刑 事 責 任 の 本 質 的 論 点 は 何 か? 2013 年 9 月 検 察 は 東 電 幹 部 と 原 子 力 安 全 委 員 会 幹 部 に 対 して 放 射 性 物 質 により 福 島 県 民 など を 被 曝 させ 傷 害 を 与 えたこと 及 び 避 難 中 の 病 院 患 者 が 亡 くなったことなどに 対 し 業 務 上 過 失 致 傷 罪 などの 容 疑 で 告 訴 されていた 件 について 不 起 訴 の 処 分 を 出 しました その 後 2014 年 7 月 に 検 察 審 査 会 は 起 訴 相 当 の 議 決 を 出 しました 検 察 の 不 起 訴 処 分 (2013 年 9 月 ) 検 察 審 査 会 の 起 訴 相 当 議 決 (2014 年 7 月 ) 採 用 した 学 説 具 体 的 予 見 可 能 性 説 危 惧 感 説 具 体 的 予 見 可 能 性 説 とは 右 記 のように 予 見 義 務 を 中 心 に 据 えるもので 高 度 の 安 全 義 務 が 課 さ れるか 否 かは 関 係 ないとする 考 え 方 です 第 2 刑 事 ( 業 務 上 過 失 致 死 傷 罪 ) 上 の 注 意 義 務 について 1 2つの 理 論 ( 学 説 )がある (1) 具 体 的 予 見 可 能 性 説 ア 予 見 義 務 を 中 心 に 据 える 精 神 の 緊 張 を 欠 いた 心 理 状 態 ( 責 任 )の 観 点 から 考 える 1 具 体 的 確 実 な 予 見 可 能 性 がある 場 合 に ( 具 体 的 はっきりと= 確 実 に ) イ 高 度 の 安 全 義 務 が 課 されるか 否 かは 関 係 ない 回 避 措 置 義 務 を 根 拠 づけるのは 予 見 可 能 性 だけである 高 度 の 安 全 義 務 とは 1 意 義 万 が 一 にも 結 果 を 発 生 させることがないように 万 全 ( 最 善 )の 措 置 をとるべき 義 務 2 該 当 する 業 務 の 例 万 全 の 安 全 を 保 証 する 立 場 にあ る 事 業 者 の 業 務 ( 食 品 製 造 業 幼 稚 園 鉄 道 事 業 等 ) 4 2
危 惧 感 説 ( 回 避 措 置 重 心 説 合 理 的 予 見 可 能 性 説 )とは 回 避 義 務 を 中 心 に 据 えるもので そ の 基 準 は 条 理 即 ち 一 般 の 常 識 に 基 づいて 判 断 し かつ 高 度 の 安 全 義 務 が 課 される 業 務 につ いては 合 理 的 に 起 き 得 ると 予 測 される 危 険 に ついて 注 意 義 務 が 発 生 するという 考 え 方 です 第 2 刑 事 ( 業 務 上 過 失 致 死 傷 罪 ) 上 の 注 意 義 務 について 1 2つの 理 論 ( 学 説 )がある(つづき) (2) 危 惧 感 説 ( 回 避 措 置 重 心 説 合 理 的 予 見 可 能 性 説 ) 社 会 がどのような 義 務 を 課 しているか ( 違 法 性 )の 観 点 から 考 える ア 回 避 義 務 を 中 心 に 据 える 1 それぞれの 危 険 業 務 につき その 性 質 に 応 じて 2 不 確 実 な 未 知 の 危 険 をも 含 めてどの 程 度 の 危 険 までをも 予 測 した 回 避 措 置 義 務 が 課 されるのかを 判 断 する < 判 断 基 準 > 条 理 ( 物 事 の 道 理 筋 道 ) 即 ち 一 般 の 常 識 に 基 づいて 社 会 的 に 許 された 危 険 法 理 の 下 に 判 断 する イ 業 務 の 性 質 高 度 の 安 全 義 務 が 課 される 業 務 については 合 理 的 ( 科 学 的 )に 起 き 得 ることが 予 測 ( 危 惧 )される 危 険 についても 注 意 義 務 が 発 生 2 注 意 義 務 の 構 造 事 故 今 次 の 津 波 過 酷 事 故 ( 死 傷 ) 危 険 推 本 予 測 予 見 可 能 性 回 避 可 能 性 予 見 義 務 回 避 義 務 5 なお 事 故 の 前 に 危 険 性 を 予 測 する 訳 ですから その 予 測 の 根 拠 がどの 程 度 であったかが 問 題 と なります 第 2 刑 事 ( 業 務 上 過 失 致 死 傷 罪 ) 上 の 注 意 義 務 について 3 危 険 とはなにか (1) 意 義 事 故 ( 人 の 死 傷 )が 起 きる 危 険 ( 前 兆 兆 候 ) (2) 内 容 ア 具 体 性 の 程 度 ( 見 える 程 度 ) イ 根 拠 の 程 度 ( 見 える 根 拠 ) (3) 見 える 根 拠 1 過 去 に 起 きたことがある( 既 知 ) 確 実 に 見 える( 確 実 ) 2 未 だ 起 きたことがない( 未 知 ) 全 く 見 えない( 不 明 ) (4) 見 える 根 拠 の 程 度 a 全 部 が 確 実 (1) 確 実 に 起 きる(A 類 型 ) b 基 本 的 部 分 が 確 実 (1+2) 確 実 に 起 きる(A 類 型 ) c 一 部 が 確 実 (1+2) 起 きる 可 能 性 がある(B 類 型 ) ( 合 理 的 根 拠 がある) 起 きる 可 能 性 が 不 明 (C 類 型 ) ( 合 理 的 根 拠 がない) d 全 部 が 不 明 (2) 起 きる 可 能 性 が 不 明 (C 類 型 ) ( 合 理 的 根 拠 がない) 6 また 法 理 論 の 変 遷 としては 予 見 可 能 性 が 中 心 の 具 体 的 予 見 可 能 性 説 から 回 避 義 務 が 中 心 の 学 説 あるいは 危 惧 感 説 に 移 行 してきてい ると 見 られます 第 2 刑 事 ( 業 務 上 過 失 致 死 傷 罪 ) 上 の 注 意 義 務 について 4 予 見 可 能 性 の 内 容 2つの 学 説 の 比 較 (1) 具 体 性 基 本 的 部 分 ( 死 傷 )が 見 える 必 要 (2) 根 拠 の 程 度 A 類 型 だけか? B 類 型 までもか? 5 過 失 についての 法 理 論 その 変 遷 と 内 容 旧 過 失 論 予 見 可 能 性 が 中 心 具 体 的 予 見 可 能 性 説 古 い 過 失 論 新 過 失 論 回 避 義 務 が 中 心 同 上 ( 許 された 危 険 ) 過 渡 期 の 過 失 論 新 々 過 失 論 同 上 危 惧 感 説 ( 許 されざる 危 険 ) 真 の 過 失 論 筆 者 ( 吉 岡 )は この 変 遷 の 背 後 には 近 代 の 急 速 な 科 学 技 術 の 進 歩 に 対 して 未 知 の 危 険 を 防 ぐこと が 社 会 の 要 請 であること また 発 生 確 率 が 低 くても 重 大 事 故 となった 場 合 に 広 範 囲 の 一 般 人 が 被 害 を 被 ること などが 回 避 義 務 を 中 心 とし かつ 一 般 人 の 条 理 に 基 づく 判 断 を 優 先 するという 考 え 方 の 根 本 になっているのではないかと 考 えます 7 3
上 記 の 危 惧 感 説 に 基 づいて 福 島 原 発 事 故 の 法 的 責 任 を 問 う 為 には 下 記 の 2 点 を 検 証 する 必 要 があります 1 事 故 に 対 する 科 学 的 予 見 は 可 能 であったか? 2どうすれば 事 故 を 回 避 できたか? フォーラムでの 討 議 の 重 点 1 事 故 に 対 する 科 学 的 予 見 は 可 能 であったか? 今 回 の 原 発 事 故 の 直 接 原 因 は 下 記 : M9の 巨 大 地 震 15mの 巨 大 津 波 全 電 源 喪 失 等 炉 心 熔 融 大 量 の 放 射 能 放 出 M9の 巨 大 地 震 を 予 測 できなかったから 原 発 事 故 は 予 見 できなかった という3 段 論 法 は 正 しいか? 4 2どうすれば 事 故 を 回 避 できたか? ( 事 故 前 に 何 をすれば 良 かったのか に 焦 点 ) ( 事 故 発 生 後 に 何 か 出 来 たのか?は 検 討 外 ) 1 事 故 に 対 する 科 学 的 予 見 は 可 能 であったか? 津 波 の 科 学 的 予 見 性 に 関 しては 文 科 省 地 震 調 査 研 究 推 進 本 部 が 2002 年 に 福 島 沖 の 更 に 沖 合 を 含 む 日 本 海 溝 沿 いのどこかで M8.2 の 大 地 震 が 起 きる 確 率 は 20% との 見 解 を 出 してい ました この 見 解 を 基 に 東 電 は 2008 年 3 月 福 島 原 発 で 15.7m の 津 波 が 予 測 される という 結 果 を 得 ていました 1 予 見 可 能 性 (まとめ) 文 科 省 地 震 調 査 研 究 推 進 本 部 は 2002 年 福 島 沖 の 更 に 沖 合 を 含 む 日 本 海 溝 沿 いのどこかで M8.2の 大 地 震 の 確 率 は20% との 見 解 を 出 した この 見 解 を 基 に 東 電 は2008 年 3 月 福 島 原 発 で15.7mの 津 波 が 予 測 され る という 結 果 を 得 た ( 数 字 は 遡 上 高 ) 3.11の 地 震 とは 震 源 は 異 なるが 巨 大 津 波 来 襲 と 言 う 点 では 等 価 ( 前 頁 の3 段 論 法 の 誤 り) ( 文 部 科 学 省 地 震 調 査 研 究 推 進 本 部 地 震 調 査 委 員 会 三 陸 沖 から 房 総 沖 に かけての 地 震 活 動 の 長 期 評 価 について 2002 年 7 月 31 日 ) 5 4
更 に 上 記 以 前 の 2000 年 にも 右 記 のように 政 府 内 での 指 摘 を 基 に 電 力 業 界 内 で 福 島 原 発 の 津 波 の 危 険 性 が 認 識 されていました 福 島 原 発 事 故 に 関 して 10 件 もの 調 査 報 告 書 が 出 されていますが この 事 実 を 指 摘 したの は 国 会 事 故 調 査 報 告 書 のみです ( 同 報 告 書 参 考 資 料 1.2.1 及 び 1.2.2) 事 故 の11 年 前 にも 見 直 しの 機 会 があった! 1999 年 国 土 庁 等 の 七 省 庁 による 津 波 対 策 地 域 防 災 計 画 における 津 波 対 策 強 化 の 手 引 き がまとめられた それまでの 原 発 は 既 往 最 大 の 歴 史 津 波 と 活 断 層 から 想 定 される 最 も 影 響 の 大 きい 津 波 を 想 定 していた 上 記 手 引 きで ( 既 知 でなくても) 現 在 の 知 見 により 想 定 し 得 る 最 大 規 模 の 地 震 津 波 を 選 定 する となった 2000 年 この 方 式 で 福 島 第 一 原 発 を 評 価 すると 津 波 高 さは5mとなり 解 析 の 不 確 かさ 上 限 の2 倍 では10mの 津 波 と 予 測 され 6mで 海 水 ポンプ が 停 止 する との 報 告 書 を 提 出 ( 電 気 事 業 連 合 会 津 波 に 関 するプラント 概 略 影 響 評 価 非 公 開 ) 6 なお 上 記 のように 見 直 しの 機 会 は 2 度 あ りましたが 2002 年 不 確 かさを 考 慮 する 必 要 はなく また 既 往 地 震 津 波 のみを 対 象 と して 良 い という 東 電 提 案 を 土 木 学 会 が 承 認 したため 福 島 沖 の 巨 大 津 波 の 危 険 性 は 除 外 されてしまいました [Ref.3] 土 木 学 会 原 子 力 発 電 所 の 津 波 評 価 技 術 報 告 書,2002 年 2つの 津 波 予 測 1 2つの 津 波 予 測 1 東 電 予 測 東 電 等 が 想 定 していた 社 団 法 人 土 木 学 会 の 予 測 ( 波 高 5.7m) 2 推 本 予 測 政 府 の 専 門 機 関 である 地 震 調 査 研 究 推 進 本 部 が 2002 年 7 月 に 公 表 した 地 震 予 測 に 基 づき 東 電 が 2008 年 3 月 に 試 算 した 予 測 ( 最 高 波 高 15.7m) 2 津 波 予 測 を 評 価 する2つの 視 点 1 純 科 学 的 な 視 点 からの 評 価 2 法 律 的 な 視 点 からの 評 価 3 純 科 学 的 な 視 点 からの 評 価 (1) 実 際 の 津 波 をどこまで 予 測 できていたか (2) 各 予 測 にどの 程 度 の 科 学 的 根 拠 があったか 4 法 律 的 な 視 点 からの 評 価 (1) 予 見 し 回 避 措 置 を 講 じるべき 予 測 であったか * 法 的 に どこまでの 危 険 を 予 測 すべき 義 務 があったかの 問 題 A 類 型 だけか B 類 型 までか? (2) 予 測 は 実 際 に 発 生 した 津 波 を 予 測 できていたといえるか * 法 的 に どこまで 合 致 すれば 予 測 できていたと 評 価 できるかの 問 題 基 本 的 部 分 が 合 致 しているか? 7 2つの 学 説 のいずれを 採 用 するかについて は 右 記 のように 幾 つかの 観 点 から 考 える 必 要 があります 第 4 本 質 的 な 論 点 についての 判 断 基 準 はなにか 1 注 意 義 務 の 発 生 根 拠 という 観 点 からの 判 断 一 般 の 常 識 による 判 断 2 リスク 管 理 という 観 点 からの 判 断 一 般 の 常 識 による 判 断 3 刑 罰 の2つの 役 割 という 観 点 からの 判 断 法 律 的 な 観 点 からの 判 断 4 従 来 の 検 察 裁 判 の 実 務 という 観 点 からの 判 断 法 律 的 な 観 点 から の 判 断 8 5
最 後 に 司 法 の 役 割 について 触 れます 過 去 の 事 故 の 責 任 追 及 を 行 ない 刑 事 処 罰 を 求 め ることは 後 ろ 向 きの 考 えと 言 う 批 判 があるかも 知 れません しかし 近 代 社 会 の 重 大 事 故 では 原 因 が 複 雑 化 し 往 々にして 組 織 面 に 至 る 可 能 性 が 高 くなりま す( ) 従 って こういった 事 故 の 根 本 原 因 の 究 明 を 行 な い これを 人 類 の 共 有 財 産 とすることで 未 来 の 事 故 を 防 ぐことが 司 法 の 目 的 となるはずです ( 吉 岡 注 :いわゆる 組 織 事 故 と 言 われる 事 故 また 上 記 の 考 え 方 は 近 代 の 安 全 工 学 の 思 想 と 同 等 です ) 2 責 任 追 及 ( 刑 事 処 罰 )と 原 因 解 明 再 発 防 止 との 関 係 (1) 原 因 解 明 とはなにか? 1 科 学 技 術 面 原 発 事 故 の 科 学 技 術 面 からの 解 明 政 府 事 故 調 2 人 間 組 織 面 役 割 ( 責 任 ) 解 明 組 織 及 び 構 成 員 について 課 されている 役 割 ( 責 任 ) 及 びその 実 態 を 解 明 国 会 事 故 調 民 間 事 故 調 ( 想 定 外 の 実 態 解 明 ) (2) 原 因 解 明 の 目 的 はなにか 再 発 防 止 科 学 技 術 面 人 間 組 織 面 の 両 面? (3) 科 学 技 術 面 の 再 発 防 止 策 はなにか? (4) 人 間 組 織 面 の 再 発 防 止 策 はなにか? ア 組 織 面 イ 人 間 面 (5) 刑 事 処 罰 は 原 因 解 明 を 妨 げるか? ア 論 点 1 刑 事 処 罰 の 目 的 はなにか? 2 原 因 解 明 との 関 係 は? イ 具 体 的 予 見 可 能 性 説 によった 場 合 と 危 惧 感 説 によった 場 合 10 2どうすれば 事 故 を 回 避 できたか? については その 手 段 が 実 行 可 能 なものであったかを 検 証 しなければなりません 福 島 原 発 事 故 の 直 接 原 因 は 津 波 の 浸 水 により 長 時 間 の 全 交 流 電 源 喪 失 が 起 き 更 に 直 流 電 源 も 喪 失 したことが 致 命 的 でした 従 って 電 源 喪 失 対 策 と 浸 水 対 策 が 事 故 回 避 の 主 要 な 手 段 と 考 えられます はじめに:この 事 故 は 何 だったのか? 起 こった 事 実 は 複 雑 であり 安 易 な 結 論 付 けは 適 当 では ないが 下 記 の 事 は 間 違 いなく 言 える (1) 最 大 津 波 高 さの 予 想 を 誤 り 発 電 所 主 要 部 の1 階 と 地 下 1 階 が 水 没 したことが 直 接 の 事 故 原 因 である (2)その 為 長 時 間 全 電 源 を 喪 失 するという 想 定 外 の 事 態 に 陥 った 特 に 操 作 や 計 測 を 行 う 直 流 電 源 を 失 ったことが 致 命 的 であった (3)それでも 過 酷 事 故 を 防 ぐための 手 段 は 残 っていて 現 場 は 良 く 奮 闘 したが 対 応 は 後 手 に 回 り 過 酷 事 故 は 防 げなかった (4) 東 日 本 一 帯 の 避 難 が 必 要 となるような 最 悪 の 最 悪 の 事 態 は 回 避 されたが その 因 果 関 係 の 検 証 は 未 だ 十 分 ではない 6
全 電 源 喪 失 や 原 発 への 浸 水 は 海 外 事 例 があり これらの 国 は 事 故 後 に 全 電 源 喪 失 や 原 発 浸 水 への 対 策 を 取 っていました 従 って これらに 学 ぶ 機 会 はあった と 考 えます 参 考 にすべきだった 海 外 の 事 故 事 例 ( 浸 水 全 電 源 喪 失 事 故 ) 年 月 1999 年 12 月 発 生 国 発 電 所 フランス ルブレイエ 事 故 事 象 原 因 全 交 流 電 源 喪 失 河 川 の 洪 水 発 生 国 等 での 対 応 全 電 源 喪 失 の 想 定 継 続 時 間 を1 日 から3 日 間 へ の 変 更 浸 水 防 護 策 を 強 化 日 本 での 対 応 外 部 電 源 喪 失 と 溢 水 の 場 合 の 危 険 性 の 指 摘 はあったが 規 制 には 反 映 され なかった 2001 年 3 月 台 湾 馬 鞍 山 全 交 流 電 源 喪 失 ( 約 2 時 間 ) 海 の 塩 害 (+ 非 常 用 発 電 機 不 作 動 ) 全 電 源 喪 失 対 策 による 可 搬 式 の 緊 急 用 ディーゼ ル 発 電 機 が 有 効 に 機 能 した 事 例 であった 日 本 では 信 頼 性 が 高 いと 考 え 見 直 し は 必 要 ないとした 2004 年 12 月 インド カルパカム 海 水 進 入 による 緊 急 停 止 津 波 (スマトラ 沖 大 地 震 ) IAEAから 多 重 の 防 護 として 水 規 制 機 関 による 評 密 性 を 持 たせる 価 審 査 は 行 われ 等 の 対 策 を 採 る なかった ( ) ことが 求 められた ( )なお 上 記 のスマトラ 沖 地 震 津 波 によるインド 原 発 事 故 を 受 け 経 産 省 傘 下 の 機 関 と 原 子 力 安 全 保 安 院 が 2006 年 に 溢 水 勉 強 会 を 開 催 し 東 電 は 福 島 第 一 原 発 での 津 波 が 10m を 超 えると 建 屋 が 浸 水 し 全 電 源 喪 失 に 至 る と 報 告 していました ( 国 会 事 故 調 査 報 告 書 P85) その 他 米 国 では 全 電 源 喪 失 や 原 発 浸 水 への 対 策 として 右 記 の 例 があります これらは 防 潮 堤 などに 比 べ それほど 費 用 の かからない 対 策 です (2) 現 実 的 な 安 全 対 策 アメリカで 行 なわれていた 安 全 対 策 可 搬 式 電 源 ディアブロ キャニオン 原 発 のシュ ノーケル 式 の 非 常 用 発 電 機 NHK BS 番 組 より 水 密 扉 その 他 の 例 として スイスでは 河 川 の 洪 水 に よる 浸 水 対 策 として 右 記 のような 対 策 を 採 用 しており これらは 防 潮 堤 などに 比 べ それ ほど 費 用 のかからない 対 策 です スイスで 行 われていた 安 全 対 策 ベントでの 放 射 能 除 去 NHK BS 番 組 より MARKⅠ 型 BWR 別 建 屋 の 独 立 非 常 用 冷 却 設 備 ベント 開 操 作 の 手 動 可 能 化 7
米 国 西 海 岸 の 原 発 では 福 島 原 発 以 上 の 地 震 津 波 の 設 計 基 準 を 設 け その 対 策 を 取 っていま した 1985 年 運 転 開 始 の 本 原 発 の 津 波 基 準 や 対 策 を 日 本 でも 反 映 することは 可 能 だったはずです 米 国 での 津 波 対 策 例 9,500m 3 の 淡 水 貯 水 池 ( 落 差 式 ) ディアブロ キャニオン 原 子 力 発 電 所 1985 年 運 転 開 始 カリフォルニア 州 1 高 さ26mの 断 崖 高 さ26mの 断 崖 地 震 大 国 津 波 大 国 のはずなのに? 地 震 加 速 度 津 波 高 さ ディアブロキャニオン 設 計 基 準 735cm/s2 10.7m 福 島 第 一 設 計 基 準 3.11 449 507 5.7m 14-15m 失 敗 学 会 は 2014 年 6 月 のフォーラムの 後 6 月 24 日 に 下 記 左 側 のメモをホームページに 掲 載 し 上 記 の 危 惧 感 説 に 基 づき 1 事 故 に 対 する 科 学 的 予 見 は 可 能 であったか?2どうすれば 事 故 を 回 避 できた か?など 主 要 な 5 点 を 指 摘 しました その 後 2014 年 7 月 31 日 に 検 察 審 査 会 が 刑 事 責 任 を 問 うため 起 訴 すべき という 議 決 書 を 出 しま した[Ref.4] 下 記 に 両 者 を 比 較 しますが 当 フォーラムの 結 論 とほぼ 同 様 のものでした 失 敗 学 会 フォーラムメモ(2014/6/24) 検 察 審 査 会 議 決 書 (2014/7/31) 1) 専 門 家 の 注 意 義 務 一 部 の 判 例 によれば 万 全 の 安 全 を 保 障 すべき 事 業 者 は 万 が 一 にも 結 果 を 発 生 させることがないよう 万 全 の 措 置 をとる 義 務 がある とされており 原 発 の 設 計 運 転 規 制 に 関 わる 関 係 者 は 高 度 な 注 意 義 務 が 課 せられている 2) 予 見 可 能 性 ( 地 震 発 生 確 率 の 問 題 ) 地 震 調 査 研 究 推 進 本 部 は 福 島 沖 の 更 に 沖 合 を 含 む 日 本 海 溝 沿 いのどこかで M8.2 の 大 地 震 が 起 きる 確 率 が 20% と 示 した この 見 解 を 基 に 東 電 は 2008 年 福 島 原 発 で 15.7m の 津 波 が 予 測 される という 結 果 を 得 た なお 実 際 に 3.11 で 起 きた 地 震 は 宮 城 沖 を 震 源 としているが 非 常 に 広 い 範 囲 が 同 時 に 滑 ったとされてお り 地 震 学 的 には 上 記 予 測 と 地 震 が 起 きた 仕 組 みが 異 なる 議 決 書 は 冒 頭 に 電 力 会 社 には 高 度 な 注 意 義 務 がある としており この 項 目 を 重 視 している 左 記 は 議 決 書 と 同 一 である また 議 決 書 はこの 見 解 が 無 視 された 経 緯 についても 調 べ 過 失 があったとしている 議 決 書 はこれには 触 れていない 8
3) 結 果 回 避 可 能 性 電 源 対 策 や 浸 水 対 策 をすれば 福 島 事 故 は 防 げた 議 決 書 も 同 様 のことを 述 べている なお 議 決 書 は 予 見 可 能 性 が 成 り 立 つとした 上 で 回 避 可 能 性 を 述 べているが 次 節 に そうでない 場 合 も 書 いている 4) 回 避 措 置 重 心 説 回 避 措 置 重 心 説 とは 不 確 実 であっても 科 学 的 な 根 拠 の 議 決 書 はこの 考 え 方 も 示 していて 検 察 が 不 ある 未 知 の 危 険 につき 予 見 可 能 性 からではなく 社 起 訴 とした 際 の 予 見 可 能 性 が 無 かった と 会 的 に 許 された 危 険 か 許 されていない 危 険 か によっ いう 言 い 訳 の 穴 を 塞 ごうとしたものと 思 わ て 回 避 措 置 をとるべきか 否 かを 判 断 する 学 説 である れる 5) 条 理 による 判 断 科 学 的 な 事 故 発 生 確 率 は 専 門 家 による 科 学 的 な 判 断 方 法 議 決 書 の 最 後 に 安 全 性 に 疑 問 があれば 原 発 であり それが 社 会 的 に 許 容 され 得 るかどうかは その を 止 めるべき とし 安 全 だろうという 雰 科 学 的 な 判 断 を 尊 重 しつつも 最 終 的 には 条 理 つまり 囲 気 で 原 発 を 運 転 する 規 制 当 局 電 力 会 社 の 一 般 人 の 常 識 や 社 会 の 要 請 の 方 が 上 位 にある ので そ 態 度 は 一 般 常 識 からずれている と 批 判 し の 判 断 によって 決 めるというのが 法 律 的 な 考 えである ている [Ref.4] 平 成 25 年 東 京 第 五 検 察 審 査 会 審 査 事 件 第 11 号 同 第 12 号 に 関 する 議 決 結 論 : 以 上 のように 原 発 のような 複 雑 化 した 巨 大 システムを 扱 う 関 係 者 には 高 度 な 注 意 義 務 があり 福 島 原 発 に 対 して 津 波 の 危 険 性 が 指 摘 された 時 点 および 海 外 事 故 例 などを 踏 まえれば 十 分 に 予 見 可 能 性 が あったと 言 えます また 防 潮 堤 のような 巨 費 を 投 じなくても 電 源 喪 失 対 策 および 浸 水 対 策 は 可 能 であり 事 故 の 回 避 可 能 性 もあったと 言 えます 高 度 な 産 業 システムが 多 数 存 在 する 近 代 社 会 においては 危 惧 感 説 に 基 づき 適 切 な 法 的 対 応 を 行 なう ことが 今 後 の 安 全 安 心 な 社 会 の 確 立 に 不 可 欠 と 考 えます 9