妊 娠 出 産 育 児 期 における 女 性 のキャリア 形 成 の 課 題 妊 娠 差 別 に 関 する 最 高 裁 判 決 を 受 けて 法 政 大 学 キャリアデザイン 学 部 教 授 武 石 恵 美 子 1. 問 題 意 識 2014 年 10 月 23 日 最 高 裁 において 妊 娠 に よる 降 格 が 男 女 雇 用 機 会 均 等 法 の 不 利 益 取 扱 いに 当 たるとする 初 めての 判 断 が 示 され 注 目 を 集 め た 妊 娠 や 出 産 に 伴 う 職 場 における 不 利 益 な 取 扱 いは マタニティ ハラスメント とも 呼 ばれ 近 年 この 問 題 が 取 り 上 げられることが 多 くなって きた 1) 2014 年 に 連 合 が 実 施 した 第 2 回 マタニティ ハラスメント(マタハラ)に 関 する 意 識 調 査 2) によれば 妊 娠 経 験 のある 女 性 のうち 自 身 が マ タハラ を 経 験 した 割 合 は 1/4 程 度 にのぼり そ の 内 容 としては 妊 娠 中 や 産 休 明 けなどに 心 無 い 言 葉 を 言 われた (10.3%) 妊 娠 を 相 談 で きる 職 場 文 化 がなかった (8.2%)などの 他 に 妊 娠 出 産 がきっかけで 望 まない 異 動 をさせられ た (2.8%)など 今 回 の 最 高 裁 判 決 の 事 案 に 類 似 する 状 況 もあげられている 厚 生 労 働 省 が 発 表 している 平 成 25 年 度 都 道 府 県 労 働 局 雇 用 均 等 室 での 法 施 行 状 況 の 公 表 資 料 によれば 雇 用 均 等 室 に 寄 せられた 男 女 雇 用 機 会 均 等 法 に 関 する 相 談 (21,418 件 )の 内 容 は 第 11 条 関 係 (セクシュアルハラスメント) が 最 も 多 く 9,230 件 次 いで 第 9 条 関 係 ( 婚 姻 妊 娠 出 産 等 を 理 由 とする 不 利 益 取 扱 い) 3,663 件 第 12 条 13 条 関 係 ( 母 性 健 康 管 理 ) で 3,416 件 となっている 妊 娠 出 産 や 母 性 保 護 などに 起 因 する 問 題 が 職 場 の 中 で 多 く 発 生 していること がわかるデータである 近 年 妊 娠 出 産 後 も 就 業 を 継 続 する 女 性 が 増 えており 妊 娠 出 産 それに 続 く 育 児 期 を 通 じて 長 期 的 にキャリア 形 成 を 図 ることが 重 要 になって いるが 一 方 で 上 述 のような 状 況 が 是 正 されない のは 看 過 できない 問 題 である 安 倍 政 権 下 におい ては 女 性 活 躍 推 進 が 重 要 な 政 策 に 位 置 付 けられて おり 妊 娠 出 産 に 伴 う 離 職 を 減 らすことが 数 値 目 標 として 掲 げられている 具 体 的 には 25~ 44 歳 の 女 性 の 就 業 率 を 2012 年 の 68%から 2020 年 には 73%まで 引 き 上 げることが 目 標 値 として 掲 げられている 3) 妊 娠 出 産 は 女 性 にしか 起 こらないライフイベ ントであり 男 性 中 心 の 従 業 員 構 成 の 職 場 では 大 きな 問 題 にはならなかったが 妊 娠 出 産 後 も 働 き 続 ける 女 性 が 増 え この 時 期 にどのような 働 き 方 を 認 めてどのような 仕 事 経 験 を 積 ませるのか が 職 場 管 理 において 重 要 な 課 題 になっている そうした 女 性 の 就 業 実 態 がある 中 で 今 般 の 最 高 裁 判 決 が 出 されたことは 企 業 の 雇 用 管 理 職 場 管 理 のあり 方 に 少 なからず 影 響 を 及 ぼすものと 考 えられる 以 上 の 問 題 意 識 に 立 ち 本 稿 では 2014 年 10 月 の 最 高 裁 判 決 が 企 業 や 職 場 における 女 性 の キャリア 形 成 のあり 方 にどのような 影 響 を 及 ぼす 13
可 能 性 があるのかについて 検 討 する 判 決 を 法 学 的 な 観 点 ではなく 人 事 管 理 職 場 管 理 の 観 点 か ら 検 討 を 行 うのが 本 稿 の 目 的 である 具 体 的 には 妊 娠 出 産 育 児 期 の 女 性 に 対 する 仕 事 配 分 やそ れに 伴 うキャリア 形 成 のあり 方 について 現 状 に おける 課 題 を 踏 まえつつ 検 討 を 行 うこととする 以 下 2 節 において 今 回 の 最 高 裁 判 決 の 概 要 につ いてみた 上 で 特 に 妊 娠 出 産 育 児 期 における 女 性 に 対 する 仕 事 配 分 の 現 状 及 び 課 題 を 3 節 にお いて 整 理 する その 上 で 4 節 では 最 高 裁 判 決 を 踏 まえて 企 業 職 場 における 女 性 のキャリア 形 成 にどのような 対 応 が 求 められるのかについて ド イツ イギリスの 対 応 を 参 照 しながら 検 討 を 加 え 5 節 で 結 論 をまとめる 2. 最 高 裁 判 決 の 概 要 まず 2014 年 10 月 の 最 高 裁 判 決 について そ の 概 要 をまとめておきたい 4) 本 件 は 病 院 に 勤 務 していた 理 学 療 法 士 の 女 性 が 妊 娠 中 に 軽 易 業 務 への 転 換 を 請 求 して 異 動 し たことに 伴 い それまでの 副 主 任 ( 管 理 職 ポスト) から 外 され 産 前 産 後 休 暇 育 児 休 業 を 経 て 復 職 した 後 も 副 主 任 の 職 には 戻 れないことから 副 主 任 を 外 されて 降 格 となったのは 男 女 雇 用 機 会 均 等 法 第 9 条 3 項 において 禁 止 されている 妊 娠 出 産 等 を 理 由 とする 不 利 益 取 扱 いに 当 たり 法 に 反 しているとして 損 害 賠 償 を 求 めて 訴 訟 を 提 起 し たものである 2012 年 2 月 の 一 審 広 島 地 裁 判 決 同 年 7 月 の 二 審 広 島 高 裁 判 決 においては 本 人 の 同 意 を 得 た 上 で 病 院 側 の 人 事 配 置 上 の 必 要 性 に 基 づいてその 裁 量 権 の 範 囲 内 で 行 われたものと 判 断 し 原 告 の 請 求 を 棄 却 した この 原 審 に 対 して 上 告 を 受 けた 最 高 裁 は 原 判 決 破 棄 広 島 高 裁 に 本 件 差 し 戻 し の 判 決 を 出 した 最 高 裁 判 決 の 判 断 の 枠 組 みは 以 下 のとおり である 本 件 は 妊 娠 に 伴 う 軽 易 業 務 への 転 換 を 理 由 に 降 格 された 事 案 であるが 最 高 裁 判 決 においては 妊 娠 中 の 軽 易 業 務 への 転 換 を 契 機 として 降 格 さ せる 事 業 主 の 措 置 は 原 則 として 男 女 雇 用 機 会 均 等 法 第 9 条 3 項 の 禁 止 する 取 扱 いに 当 たるものと 解 される との 原 則 を 示 した その 上 で 不 利 益 取 扱 い に 当 たらない 場 合 を 2つの 点 から 示 し ている 1つが 当 該 労 働 者 につき 自 由 な 意 思 に 基 づい て 降 格 を 承 諾 したと 認 めるに 足 る 合 理 的 な 理 由 が 存 在 するとき である これに 関 しては 次 のよ うに 述 べられている 承 諾 に 係 る 合 理 的 な 理 由 に 関 しては 上 記 の 有 利 又 は 不 利 な 影 響 の 内 容 や 程 度 の 評 価 に 当 たって 上 記 措 置 の 前 後 における 職 務 内 容 の 実 質 業 務 上 の 負 担 の 内 容 や 程 度 労 働 条 件 の 内 容 等 を 勘 案 し 当 該 労 働 者 が 上 記 措 置 による 影 響 につき 事 業 主 から 適 切 な 説 明 を 受 けて 十 分 に 理 解 した 上 でその 諾 否 を 決 定 し 得 たか 否 か という 観 点 から その 存 否 を 判 断 すべきものと 解 される つまり 1 軽 易 業 務 への 転 換 という 労 働 者 にとって 有 利 な 状 況 と 降 格 という 不 利 な 状 況 の 内 容 や 程 度 を 合 理 的 に 判 断 すること 2それ に 関 して 事 業 主 が 本 人 に 説 明 をして 本 人 が 承 諾 す ること の 2つが 自 由 な 意 思 による 承 諾 と 判 断 する 上 で 重 要 であるとしている 不 利 益 取 扱 い に 当 たらないもう 1つの 観 点 が 業 務 上 の 必 要 性 という 特 段 の 事 情 がある 場 合 である これについて 判 決 では 当 該 労 働 者 につき 降 格 の 措 置 を 執 ることなく 軽 易 業 務 への 転 換 をさせることに 円 滑 な 業 務 運 営 や 人 員 の 適 正 配 置 の 確 保 などの 業 務 上 の 必 要 性 から 支 障 があ る 場 合 で 業 務 上 の 必 要 性 の 内 容 や 程 度 及 び 上 記 の 有 利 又 は 不 利 な 影 響 の 内 容 や 程 度 に 照 らし て 上 記 措 置 につき 同 項 の 趣 旨 及 び 目 的 に 実 質 的 に 反 しないものと 認 められる 特 段 の 事 情 が 存 在 す るとき とされている 特 段 の 事 情 については 業 務 上 の 必 要 性 の 有 無 及 びその 内 容 や 程 度 の 評 価 に 当 たって 当 該 労 働 者 の 転 換 後 の 業 務 の 性 質 や 内 容 転 換 後 の 職 場 の 組 織 や 業 務 態 勢 及 び 人 員 配 置 の 状 況 当 該 労 働 者 の 知 識 や 経 験 等 を 勘 案 す るとともに 上 記 の 有 利 又 は 不 利 な 影 響 の 内 容 や 程 度 の 評 価 に 当 たって 上 記 措 置 に 係 る 経 緯 や 当 14
妊 娠 出 産 育 児 期 における 女 性 のキャリア 形 成 の 課 題 該 労 働 者 の 意 向 等 をも 勘 案 して その 存 否 を 判 断 すべきものと 解 される としている この 枠 組 みに 照 らして 本 件 内 容 を 検 討 した 最 高 裁 の 判 断 は 以 下 のとおりである 第 1の 点 について 本 件 措 置 による 影 響 につ き 事 業 主 から 適 切 な 説 明 を 受 けて 十 分 に 理 解 した 上 でその 諾 否 を 決 定 し 得 たものとはいえず 自 由 な 意 思 に 基 づいて 降 格 を 承 諾 したものと 認 める に 足 りる 合 理 的 な 理 由 が 客 観 的 に 存 在 するという ことはできない と 指 摘 している 軽 易 業 務 へ の 転 換 及 び 本 件 措 置 により 受 けた 有 利 な 影 響 の 内 容 や 程 度 は 明 らかではない 一 方 で 上 告 人 が 本 件 措 置 により 受 けた 不 利 な 影 響 の 内 容 や 程 度 は 管 理 職 の 地 位 と 手 当 等 の 喪 失 という 重 大 なものであ る として 措 置 の 有 利 な 面 が 明 らかにされてい ない 点 も 問 題 視 している 第 2の 点 については 降 格 の 措 置 を 執 ること なく 軽 易 業 務 への 転 換 をさせることに 業 務 上 の 必 要 性 から 支 障 があったか 否 か 等 は 明 らかではな く 均 等 法 9 条 3 項 の 趣 旨 及 び 目 的 に 実 質 的 に 反 しないものと 認 められる 特 段 の 事 情 の 存 在 を 認 めることはできない として 特 段 の 事 情 の 存 否 について 判 断 せずに 均 等 法 が 禁 止 する 不 利 益 取 扱 いに 当 たらないとした 原 審 の 判 断 に 疑 問 を 投 げか けている 3. 妊 娠 出 産 育 児 期 の 女 性 のキャ リア 形 成 の 現 状 (1) 最 高 裁 判 決 のポイント それでは 以 上 の 最 高 裁 の 判 断 は 職 場 におけ る 妊 娠 出 産 育 児 期 の 女 性 への 仕 事 配 分 等 の 対 応 及 びその 結 果 としての 女 性 のキャリア 形 成 に どのような 影 響 を 及 ぼすことになるのだろうか 最 高 裁 判 決 において 筆 者 が 注 目 する 点 は 妊 娠 出 産 等 を 理 由 に 女 性 の 異 動 や 業 務 を 変 更 する 場 合 に 本 人 の 承 諾 があることを 重 視 している 点 そ の 前 提 として 業 務 内 容 が 変 わることによるメリッ ト デメリットを 職 場 として 検 討 することの 重 要 性 を 指 摘 している 点 である 判 決 は 本 件 におい ては 事 業 主 が 女 性 労 働 者 に 対 し 当 該 措 置 に 伴 う 女 性 のキャリアに 与 える 影 響 等 について 十 分 な 検 討 説 明 がなされていないことに 関 し 問 題 指 摘 がなされたといえる 近 年 仕 事 と 育 児 の 両 立 支 援 制 度 の 充 実 により 正 社 員 を 中 心 に 女 性 の 就 業 継 続 が 増 えている 国 立 社 会 保 障 人 口 問 題 研 究 所 第 14 回 出 生 動 向 基 本 調 査 ( 夫 婦 調 査 ) によれば 1985~ 89 年 には 出 産 前 後 で 就 業 を 継 続 している 正 規 職 員 の 女 性 は 40.4%であったが 2005~ 09には 52.9%へ と 上 昇 している このように 妊 娠 出 産 育 児 期 を 通 じて 女 性 の 企 業 定 着 が 進 んでいるが この 時 期 は 妊 娠 中 の 体 調 の 変 化 産 前 産 後 休 暇 や 育 児 休 業 など 長 期 的 な 休 業 取 得 さらに 休 業 復 帰 後 も 家 族 的 責 任 の 増 加 に 伴 う 働 き 方 の 変 更 など 身 体 面 業 務 遂 行 面 で 出 産 前 とは 明 らかに 異 なる 状 況 に 置 かれる 女 性 の 就 業 継 続 が 進 んできた 現 在 こうした 状 況 に 職 場 においてどのように 対 応 するのかについて は 試 行 錯 誤 の 段 階 にあるといえる 女 性 が 妊 娠 出 産 育 児 期 を 経 て 長 期 的 にキャリアを 形 成 する という 観 点 からみて 現 状 はどのような 課 題 があ るのか 今 般 の 最 高 裁 判 決 を 受 けて まずこの 点 について 検 討 をしていきたい (2) 妊 娠 出 産 育 児 期 の 対 応 の 4 類 型 妊 娠 出 産 育 児 期 の 女 性 に 関 する 企 業 職 場 の 対 応 については 以 下 の 4つの 類 型 化 が 考 えら れる まず 第 1に 排 除 する というものである 退 職 勧 奨 や 正 規 から 非 正 規 への 雇 用 形 態 の 変 更 な ど 明 確 な 不 利 益 取 扱 いである マタニティ ハラスメント の 典 型 的 ケースといえるだろう この 根 底 には 妊 娠 出 産 等 に 配 慮 することは 職 場 のパフォーマンスを 低 下 させデメリットが 大 き いという 考 え 方 があり 排 除 の 力 が 働 くと 考 えら れる 第 2が 一 律 的 機 械 的 な 対 応 である 退 職 勧 奨 などの 排 除 はしないものの 例 えば 妊 娠 した ら 営 業 の 第 一 線 から 間 接 部 門 に 異 動 させるなど 15
これまでの 職 場 の 慣 行 により 一 律 的 に 対 応 する もしくは 本 人 の 申 し 出 に 対 して 機 械 的 に 対 応 す る といったケースである 第 3が 不 合 理 な 配 慮 もしくは 過 度 な 配 慮 と 呼 べるような 対 応 である 妊 娠 や 育 児 期 は 特 別 な 配 慮 が 必 要 だと 考 えて 忙 しい 部 署 から 忙 しくない 部 署 に 異 動 させたり 打 ち 合 わせや 会 議 の 多 い 業 務 から 一 人 で 完 結 できるような 業 務 に 変 えたりするようなケースである 現 実 に 職 場 に おいて 妊 娠 や 育 児 への 配 慮 として こうし た 対 応 がなされることは 多 いが 本 人 の 意 思 を 尊 重 せずに 一 方 的 な 対 応 となっているため 女 性 の 仕 事 への 意 欲 にマイナスの 影 響 を 及 ぼし 長 期 的 なキャリア 形 成 という 点 で 問 題 となる 5) 第 4の 対 応 が 妊 娠 出 産 育 児 期 も 本 人 の 成 長 を 期 待 して 業 務 配 分 を 行 うという 対 応 で 望 ま しい 対 応 である 女 性 の 就 業 継 続 傾 向 が 強 まって いることから 長 期 的 視 点 に 立 った 人 材 活 用 策 と して 妊 娠 出 産 育 児 期 においても 能 力 発 揮 を 積 極 的 に 進 めるケースである 現 状 においては 第 1の 類 型 から 第 4の 類 型 ま でが 混 在 している 明 らかな 不 利 益 取 扱 いである 第 1の 対 応 はただちに 是 正 が 求 められるものの 第 2 第 3の 対 応 の 類 型 は 不 利 益 かどうかの 判 断 が 難 しい 面 もあり 実 際 にこうした 対 応 が 行 われ ているケースは 多 いと 考 えられる 今 回 の 最 高 裁 判 決 は 第 2の 類 型 に 近 いと 考 え られる つまり 妊 娠 中 の 女 性 労 働 者 の 希 望 を 受 けて 軽 易 な 業 務 に 転 換 しているが それが 副 主 任 から 外 れるという 降 格 を 伴 ったものであり 降 格 という 状 況 が 本 人 のキャリアにどのような 影 響 が 及 ぶのかについての 検 討 がないままに 希 望 を 受 け 入 れて 機 械 的 に 対 応 したことが 訴 訟 につながっ たと 見 ることができる 最 高 裁 判 決 では 妊 娠 期 にとる 措 置 について 事 業 主 はその 有 利 な 影 響 不 利 な 影 響 を 勘 案 して 対 応 するとともに 企 業 として 労 働 者 本 人 に 対 す る 説 明 責 任 を 果 たして 本 人 の 同 意 を 得 ることの 重 要 性 を 指 摘 している 本 人 の 希 望 を 表 面 的 に 受 け 入 れ 機 械 的 一 律 的 な 対 応 をすることにより 不 利 益 な 状 況 につながることにノーの 判 断 を 行 ったと いえる この 判 断 は 第 3の 類 型 にも 影 響 する すなわち 本 人 の 意 向 を 確 認 しないままに 良 かれ と 思 ってとった 措 置 は その 及 ぼす 影 響 に よっては 今 回 の 判 断 に 照 らして 不 利 益 取 扱 い と 判 断 される 可 能 性 があるといえよう (3) 妊 娠 期 の 職 場 対 応 の 現 状 それでは 妊 娠 出 産 育 児 期 に 実 際 の 職 場 では どのような 対 応 が 行 われているのだろうか これに 関 して 以 下 では インテージリサー チ 平 成 25 年 度 育 児 休 業 制 度 等 に 関 する 実 態 把 握 のための 調 査 研 究 事 業 において 実 施 した 調 査 ( 以 下 実 態 把 握 調 査 という )の 分 析 結 果 に 基 づいて 検 討 を 進 めたい 6) 以 下 で 使 用 する 実 態 把 握 調 査 のデータは 20~ 40 代 の 子 ども( 小 表 1 末 子 妊 娠 時 の 働 き 方 の 変 化 ( 複 数 回 答 ) 末 子 妊 娠 中 に 働 き 方 で 変 化 が あったもの 変 化 があったもののうち あな たの 希 望 と 異 なっていたもの n 事 や 軽 内 作 易 容 業 な の の 業 変 制 務 更 限 へ な の ど 転 仕 換 ど 所 属 配 部 置 署 の の 変 変 更 更 な 注 : 分 析 対 象 は 妊 娠 時 に 正 社 員 職 員 の 女 性 である を 労 定 勤 含 働 時 務 む 間 時 ) 深 外 間 夜 労 の 業 働 短 の 縮 免 休 ( 除 日 法 そ の 他 か い っ ず た れ の 変 化 も な 882 17.6 9.8 19.4 1.0 64.1 - (%) い あ て は ま る も の は な 882 6.0 4.2 3.6 0.7-88.0 16
妊 娠 出 産 育 児 期 における 女 性 のキャリア 形 成 の 課 題 学 校 就 学 前 )をもつ 女 性 会 社 員 のデータで 妊 娠 時 正 社 員 職 員 のケースに 限 定 して 分 析 する まず 末 子 の 妊 娠 時 の 働 き 方 の 変 化 に 関 してみ ていきたい 実 態 把 握 調 査 では 末 子 妊 娠 時 に 妊 娠 を 理 由 として 仕 事 内 容 や 配 置 勤 務 時 間 の 短 縮 など 働 き 方 が 変 わった 経 験 の 有 無 を 尋 ねる とともに それが 自 分 の 希 望 と 異 なっていたかど うかを 併 せて 尋 ねている その 結 果 を 表 1に 示 し た 仕 事 内 容 働 き 方 が 変 わった 経 験 としては いずれの 変 化 もなかった が 64.1%と 2/3を 占 める 勤 務 時 間 の 短 縮 ( 法 定 時 間 外 労 働 休 日 労 働 深 夜 業 の 免 除 を 含 む) が 19.4%と 2 割 程 度 を 占 め 希 望 と 異 なったケースは 3.6%と 少 な い 一 方 で 軽 易 な 業 務 への 転 換 や 作 業 の 制 限 など 仕 事 内 容 の 変 更 は 17.6%が 経 験 し 希 望 と 異 なったケースは 6.0% 所 属 部 署 の 変 更 など 配 置 の 変 更 は 9.8%が 経 験 し 希 望 と 異 なった ケースは 4.2%と 該 当 者 の 中 で 希 望 と 異 なるケー スが 比 較 的 高 い 本 人 が 希 望 していないにもかかわらず 妊 娠 中 に 仕 事 が 変 わるという 対 応 は 前 述 した 類 型 でい えば 第 2または 第 3の 類 型 とみることができよ う 本 調 査 事 業 では 企 業 の 人 事 担 当 に 対 する 調 査 も 実 施 しているが その 結 果 によると 育 児 介 護 休 業 法 への 対 応 を 進 めていく 中 での 課 題 とし て 最 も 多 い 回 答 が 部 署 における 業 務 内 容 や 職 種 によって 制 度 の 利 用 のしやすさに 格 差 が 生 じる (40.7%)である 妊 娠 や 出 産 への 対 応 の 難 しい 業 務 や 職 種 に 就 いている 女 性 が 意 に 沿 わない 異 動 や 業 務 変 更 が 行 われている 実 態 があることが 推 測 される (4) 出 産 後 の 職 場 対 応 の 現 状 出 産 前 後 は 産 前 産 後 休 暇 や 育 児 休 業 を 取 得 する など 長 期 に 職 場 を 離 れるケースが 多 く 育 児 休 業 取 得 後 復 帰 した 時 点 の 職 場 対 応 が 問 題 になる この 点 について 実 態 把 握 調 査 を 分 析 した 結 果 が 図 1である これをみると 69.5%が 休 業 前 と 同 じ 仕 事 内 容 で 復 帰 しているが 3 割 程 度 は 休 業 前 とは 異 なる 仕 事 内 容 に 変 更 になって おり そのうち 休 業 前 と 異 なり 休 業 前 の 職 責 や 能 力 に 見 合 わない 簡 単 な 仕 事 内 容 に 変 わって いるケースが 8.0%となっている 実 態 把 握 調 査 では これが 自 分 の 希 望 と 合 致 していたかどうかを 尋 ねているが 全 体 で 自 分 の 希 望 通 りだった は 61.5% 自 分 の 希 望 と は 違 っていた が 17.5% どちらともいえない わからない が 21.0%で 希 望 通 りは 6 割 程 度 で ある 希 望 状 況 と 仕 事 内 容 のクロス 分 析 を 行 うと 自 分 の 希 望 通 りだった 場 合 には 復 帰 後 も 休 図 1 育 児 休 業 取 得 後 の 仕 事 の 希 望 状 況 と 仕 事 内 容 等 の 変 化 の 状 況 注 : 分 析 対 象 は 妊 娠 時 に 正 社 員 職 員 で 育 児 休 業 取 得 後 職 場 復 帰 した 女 性 である 17
業 前 と 同 じ 仕 事 内 容 が 85.4%と 多 数 を 占 めるが 自 分 の 希 望 とは 違 っていた 場 合 には 休 業 前 と 同 じ 仕 事 内 容 が 31.2%と 少 なく 休 業 前 と 異 なり 休 業 前 の 職 責 や 能 力 に 見 合 わない 簡 単 な 仕 事 内 容 に 変 わっている 割 合 が 28.0%と 高 い 育 児 休 業 から 復 帰 後 には 本 人 の 希 望 とは 異 なる 仕 事 しかも 休 業 前 の 職 責 や 能 力 に 見 合 わない 簡 単 な 仕 事 内 容 という 不 本 意 な 仕 事 内 容 に 変 更 されているケースが 一 定 割 合 存 在 していることが わかる 図 2により 育 児 休 業 を 取 得 したことが 人 事 評 価 にどのように 影 響 すると 感 じているのかについて みると 育 児 休 業 を 取 得 したこと 自 体 は 復 職 後 の 評 価 に 影 響 していない は 全 体 で 50.3%にと どまり 復 職 後 の 評 価 にマイナスの 影 響 があっ た が 21.3% どのように 評 価 されたかわから ない 知 らない が 28.3%である 仕 事 の 希 望 状 況 とのクロス 分 析 の 結 果 自 分 の 希 望 通 りだった 場 合 には 復 職 後 の 評 価 に 影 響 していない が 64.0%と 2/3を 占 めるが 自 分 の 希 望 とは 違 っていた 場 合 には 復 職 後 の 評 価 にマイナスの 影 響 があった が 40.8% ど のように 評 価 されたかわからない 知 らない が 30.4%など マイナスの 評 価 になっていると 考 え る 割 合 が 高 くなる さらに 図 3により 現 在 の 仕 事 へのやりがいを 尋 ねた 結 果 をみると やりがいを 非 常 に 感 じて いる は 9.0% ある 程 度 感 じている が 56.9% と 約 2/3がやりがいを 感 じているとしている 仕 事 の 希 望 状 況 と 仕 事 へのやりがいのクロス 分 析 を 行 うと 自 分 の 希 望 通 りだった 場 合 には やりがいを 非 常 に 感 じている が 12.3% あ る 程 度 感 じている が 66.1%であるのに 対 して 自 分 の 希 望 とは 違 っていた 場 合 には 非 常 に 感 じている が 7.2% ある 程 度 感 じている が 38.4%と 低 く 一 方 で まったく 感 じていない 15.2% あまり 感 じていない 36.8%など やり がいを 感 じない 割 合 が 高 くなる これを 仕 事 の 変 化 の 状 況 と 関 連 づけてみたもの が 表 2である サンプル 数 が 少 なくなる 区 分 もあ るが 全 般 に 自 分 の 希 望 通 りだった 場 合 には 仕 事 内 容 が 変 化 してもやりがいを 感 じるが 自 分 の 希 望 とは 違 っていた 場 合 には やりがいを 感 じない 割 合 が 高 くなる 傾 向 にある 以 上 の 結 果 から 育 児 休 業 取 得 後 職 場 復 帰 する 際 に 本 人 の 希 望 を 聞 いて 仕 事 を 配 分 すると 休 業 前 と 同 じ 仕 事 になるケースが 大 部 分 であるが 希 望 とは 異 なる 場 合 には 休 業 前 の 職 責 や 能 力 図 2 育 児 休 業 取 得 後 の 仕 事 の 希 望 状 況 と 人 事 評 価 への 意 見 注 : 分 析 対 象 は 妊 娠 時 に 正 社 員 職 員 で 育 児 休 業 取 得 後 職 場 復 帰 した 女 性 である 18
妊 娠 出 産 育 児 期 における 女 性 のキャリア 形 成 の 課 題 図 3 育 児 休 業 取 得 後 の 仕 事 の 希 望 状 況 と 現 在 の 仕 事 へのやりがい 注 : 分 析 対 象 は 妊 娠 時 に 正 社 員 職 員 で 育 児 休 業 取 得 後 職 場 復 帰 した 女 性 である 仕 事 のやりがい は 現 在 の 仕 事 にやりがいを 感 じていますか という 質 問 に 対 して 5 段 階 で 回 答 を 求 めたものである 表 2 育 児 休 業 取 得 後 の 仕 事 の 希 望 状 況 仕 事 内 容 の 変 化 の 状 況 と 現 在 の 仕 事 へのやりがい n 非 常 に 感 じ て い る る あ る 程 度 感 じ て い (%) い あ な ま い ど っ ま い ち り た わ ら 感 く か と じ 感 ら も て じ な い い て い え な い な 休 業 前 と 同 じ 仕 事 内 容 375 13.1 64.0 17.1 4.3 1.6 自 分 の 希 望 通 りだった 休 業 前 と 異 なるが 休 業 前 の 職 責 や 能 力 に 応 じた 仕 事 内 容 休 業 前 と 異 なり 休 業 前 の 職 責 や 能 力 に 見 合 わない 簡 単 な 仕 事 内 容 58 8.6 77.6 10.3 1.7 1.7 6 0.0 83.3 0.0 16.7 0.0 休 業 前 と 同 じ 仕 事 内 容 39 7.7 30.8 38.5 23.1 0.0 自 分 の 希 望 とは 違 ってい 休 業 前 と 異 なるが 休 業 前 の 職 責 た や 能 力 に 応 じた 仕 事 内 容 休 業 前 と 異 なり 休 業 前 の 職 責 や 能 力 に 見 合 わない 簡 単 な 仕 事 内 容 46 4.3 50.0 37.0 6.5 2.2 35 11.4 28.6 37.1 20.0 2.9 注 :1) 図 3に 同 じ 2)サンプル 数 が 少 ない 区 分 については 参 考 として 示 したものであることに 注 意 されたい に 見 合 わない 簡 単 な 仕 事 内 容 が 配 分 されるケー スが 増 えることがわかる また 希 望 通 りでない 場 合 には 仕 事 へのやりがいも 感 じられない 割 合 が 顕 著 に 高 いことが 確 認 された (5) 短 時 間 勤 務 制 度 利 用 時 の 職 場 対 応 の 現 状 出 産 後 に 育 児 休 業 を 取 得 した 後 多 くの 女 性 は 短 時 間 勤 務 で 働 いている 2010 年 の 育 児 介 護 休 業 法 改 正 により 事 業 主 は 3 歳 に 満 たない 子 を 養 育 する 労 働 者 について 労 働 者 が 希 望 すれば 利 用 できる 短 時 間 勤 務 制 度 (1 日 の 所 定 労 働 時 間 を 19
原 則 として 6 時 間 とする 措 置 を 含 む )を 設 ける ことが 義 務 付 けられ 制 度 が 普 及 するとともに 取 得 可 能 期 間 も 長 期 化 する 傾 向 がみられ それに 伴 い 育 児 休 業 から 復 帰 後 の 短 時 間 勤 務 制 度 利 用 が 定 着 してきている 7) 実 態 把 握 調 査 により 短 時 間 勤 務 利 用 時 の 仕 事 の 変 化 をみていきたい 業 務 内 容 責 任 等 はそのままで 業 務 量 も 変 わらなかった が 45.1%と 最 も 多 く 業 務 内 容 責 任 等 はそのま まで 業 務 量 が 減 少 した が 30.2%で 短 時 間 勤 務 になじみやすい 業 務 内 容 責 任 等 へ 転 換 した 上 で 業 務 量 も 減 少 した が 18.3% 短 時 間 勤 務 になじみやすい 業 務 内 容 責 任 等 へ 転 換 したが 業 務 量 は 変 わらなかった が 5.2%である( 図 4) これに 関 しても 本 人 の 希 望 との 関 係 をみるこ とができる 自 分 の 希 望 通 りだった 場 合 は 業 務 内 容 責 任 等 はそのままで 業 務 量 が 減 少 し た が 43.2% 業 務 内 容 責 任 等 はそのままで 業 務 量 も 変 わらなかった が 42.7%で 業 務 内 容 責 任 が 変 わらないケースが 9 割 近 くを 占 め る また 自 分 の 希 望 とは 違 っていたが 満 足 だっ た 場 合 には 業 務 内 容 責 任 等 はそのままで 業 務 量 も 変 わらなかった が 42.6%と 自 分 の 希 望 通 りだった 場 合 と 変 わらないが 業 務 内 容 責 任 等 はそのままで 業 務 量 が 減 少 した が 27.8%と 低 くなる ただし 全 体 として 7 割 程 度 が 業 務 内 容 責 任 が 変 わっていない 一 方 で 自 分 の 希 望 とは 違 っており 不 満 だった と いうケースは 全 体 の 14.5%と 多 くはないが 業 務 内 容 責 任 等 はそのままで 業 務 量 が 減 少 した は 6.6%とわずかで 業 務 内 容 責 任 等 はそのま まで 業 務 量 も 変 わらなかった が 49.2% 短 時 間 勤 務 になじみやすい 業 務 内 容 責 任 等 へ 転 換 した 上 で 業 務 量 も 減 少 した が 27.9% 短 時 間 勤 務 になじみやすい 業 務 内 容 責 任 等 へ 転 換 した が 業 務 量 は 変 わらなかった が 13.1%と 業 務 内 容 責 任 と 量 が 変 わらない 場 合 と 短 時 間 勤 務 になじみやすい 業 務 内 容 責 任 等 に 変 わる 場 合 とに 二 分 されるといえる( 図 4) 短 時 間 勤 務 制 度 利 用 時 の 仕 事 配 分 の 状 況 に 関 し ては 武 石 (2013)が 事 例 調 査 をもとに 課 題 を 提 起 している そのポイントは 以 下 のとおりであ る まず 短 時 間 勤 務 制 度 利 用 時 に 管 理 職 が 利 用 者 に 配 分 する 仕 事 には 次 のような 特 徴 がある 1あらかじめスケジュールの 見 通 しがつき 突 図 4 短 時 間 勤 務 制 度 利 用 時 の 仕 事 の 希 望 状 況 と 仕 事 の 変 化 の 状 況 注 : 分 析 対 象 は 妊 娠 時 に 正 社 員 職 員 で 短 時 間 勤 務 を 利 用 したことがある 女 性 である 20
妊 娠 出 産 育 児 期 における 女 性 のキャリア 形 成 の 課 題 発 的 な 対 応 が 求 められないこと 2 短 納 期 で 締 切 に 追 われるようなタイプではな く 一 定 の 期 間 の 中 である 程 度 の 裁 量 をもっ て 処 理 できるような 仕 事 であること 3 職 場 以 外 との 調 整 とりわけ 社 外 との 調 整 や 交 渉 が 少 ないこと 4 一 人 で 責 任 を 担 わないですむようなサブ 的 な 仕 事 であること 管 理 職 が 仕 事 配 分 の 決 定 にあたって 制 度 利 用 者 と 話 し 合 って 決 めていないケースも 少 なくな い 制 度 利 用 者 は 育 児 責 任 を 担 っているために 日 常 的 な 保 育 園 の 送 迎 等 をはじめとする 時 間 の 制 約 が 大 きいことに 加 えて 急 な 子 どもの 病 気 など 家 庭 の 状 況 に 対 応 するためには 社 内 外 との 調 整 や 交 渉 などが 必 要 な 業 務 を 任 せるのは 難 しいと 判 断 されて 仕 事 配 分 が 行 われる また 短 時 間 勤 務 者 には 一 切 時 間 外 労 働 をさせてはいけない 家 で メールをチェックすることも 禁 止 するといった 厳 格 な 運 用 が 行 われていると これによって 与 えら れる 仕 事 に 大 きな 制 約 が 発 生 してしまっている 場 合 もある こうした 仕 事 配 分 により 制 度 利 用 者 の 仕 事 経 験 は 制 約 され 仕 事 への 意 欲 低 下 も 起 こるなど 長 期 的 なキャリア 形 成 に 影 響 が 出 ることが 予 想 さ れる このことについて 管 理 職 は 懸 念 していても その 点 に 関 して 制 度 利 用 者 とのコミュニケーショ ンが 十 分 に 取 れているとはいえない 現 状 にある 仕 事 への 意 欲 が 高 い 制 度 利 用 者 の 中 には もっと 重 要 な 仕 事 をしたいが 自 分 からは 言 い 出 せない と 躊 躇 するケースもある 与 えられている 仕 事 で は 十 分 に 責 任 が 果 たせていないという 納 得 できな い 思 いを 持 ちつつ 制 度 を 利 用 している 間 に 将 来 への 展 望 が 描 きにくくなり 制 度 利 用 が 長 期 化 し それによってさらに 仕 事 経 験 が 積 めなくなるとい う 悪 循 環 に 陥 るケースもみられている 以 上 みてきたように 育 児 期 の 働 き 方 の 面 で 制 約 が 生 じることに 連 動 して 仕 事 配 分 それに 伴 うキャリア 形 成 の 面 でも 制 約 が 生 じてしまって いる 本 人 の 意 思 を 確 認 しながら 仕 事 配 分 を 行 い 将 来 のキャリア 形 成 につなげていくことができ れば 本 人 の 納 得 性 も 得 られ 人 材 活 用 としても メリットになるはずなのだが 現 実 にそうでない ケースは 多 い 担 当 する 業 務 内 容 が 変 更 になるこ とのデメリットを 管 理 職 は 本 人 以 上 に 認 識 してい るが 実 際 にそのことについて 本 人 と 話 し 合 い 同 意 を 得 た 上 で 仕 事 が 配 分 されているわけではな い その 意 味 で 最 高 裁 判 決 の 指 摘 する 本 人 の 承 諾 が 問 題 となるケースは 現 状 では 多 いと 考 え られる 4. 企 業 職 場 に 求 められる 対 応 以 上 の 現 状 分 析 から 妊 娠 出 産 育 児 期 にお ける 女 性 のキャリアの 積 み 方 に 関 して 本 人 の 意 思 を 確 認 するという 丁 寧 な 対 応 が 重 要 であるとい えよう 今 般 の 最 高 裁 判 決 を 踏 まえると 妊 娠 出 産 育 児 期 の 女 性 と 職 場 の 管 理 職 さらに 人 事 部 門 が 女 性 本 人 の 将 来 のキャリアの 展 望 やそれ を 踏 まえた 仕 事 の 配 分 に 関 して 十 分 にコミュニ ケーションをとることがより 求 められてくると 考 えられる では 十 分 なコミュニケーションとはどのよう なものだろうか 武 石 松 原 (2014)において ドイツ イギリスの 事 例 を 紹 介 しており それを 踏 まえて 検 討 したい 武 石 松 原 (2014)では イギリス 及 びドイ ツで 育 児 等 を 理 由 に 短 時 間 勤 務 制 度 を 利 用 する 場 合 に 仕 事 配 分 において 責 任 の 軽 い 仕 事 など 質 の 変 化 を 伴 うケースは 少 数 であるとしている 仕 事 内 容 を 決 める 際 には 制 度 利 用 者 本 人 と 職 場 の 管 理 職 の 間 のコミュニケーションにより 本 人 が 納 得 する 形 で 仕 事 が 割 り 振 られている 点 にポイント があることを 紹 介 している 具 体 的 には 次 のよう な 状 況 である 通 常 の 働 き 方 から 短 時 間 勤 務 になることによ り 当 然 のことではあるが 業 務 遂 行 上 様 々な 制 約 が 生 じる 例 えば 繁 忙 時 における 残 業 や 宿 泊 を 伴 う 出 張 など 通 常 勤 務 者 のように 対 応 する ことは 難 しくなる しかし だからといって 一 律 的 に 残 業 や 出 張 が 必 要 な 業 務 から 外 すということ 21
は 行 わない そうすることにより 能 力 の 高 い 人 材 がそれに 見 合 わない 仕 事 が 配 分 されることの デメリットが 認 識 されているからである 業 務 遂 行 にあたって 残 業 や 出 張 等 が 不 可 欠 な 場 合 もある が そのときには 制 度 利 用 者 本 人 の 対 応 が 求 め られる 状 況 を 予 測 して 対 応 が 可 能 かどうかを 含 め て 制 度 利 用 者 の 意 思 を 確 認 し その 上 で 仕 事 の 配 分 が 行 われるのである 制 度 利 用 者 自 身 も 育 児 などを 理 由 に 仕 事 の 負 荷 の 軽 減 が 図 られれば それが 長 期 的 なキャリア にネガティブな 影 響 を 及 ぼす 場 合 が 多 いことを 理 解 しているため 仕 事 の 質 を 変 えないで 責 任 を 果 たす 方 策 を 工 夫 する 具 体 的 には 忙 しい 時 期 に は 夫 が 仕 事 を 調 整 したりベビーシッターを 手 配 す る 出 張 時 には 別 居 の 親 に 来 てもらうなど どう すれば 仕 事 の 責 任 を 果 たすことができるのかを 検 討 する 努 力 がなされる 時 には 上 司 が 働 き 方 を 変 えてもらえないかと 打 診 をすることもあり 上 司 と 制 度 利 用 者 が 話 し 合 いながら 仕 事 の 状 況 に 対 処 していく 仕 事 側 の 事 情 と 制 度 利 用 者 側 の 事 情 について 職 場 内 でのコミュニケーションを 通 じ て 擦 り 合 わせが 行 われた 上 で 仕 事 の 配 分 が 決 定 されるのである こうしたコミュニケーションが 行 われる 前 提 と して 企 業 や 上 司 が 制 度 利 用 を 阻 害 する 意 図 はな い という 信 頼 関 係 が 構 築 されていることが 重 要 であると 考 えられる 短 時 間 勤 務 を 含 むフレキシ ブルな 働 き 方 を 原 則 として 推 進 するという 立 場 に 立 ち その 制 度 利 用 が 円 滑 になされ 効 果 的 に 運 用 されるためにはどうすればよいのか というこ とを 職 場 で 話 し 合 い 職 場 と 制 度 利 用 者 双 方 がメ リットを 感 じるような 対 応 を 検 討 している 点 が 重 要 である 前 述 した 4つの 類 型 の 中 の 第 4の 対 応 が 一 般 的 になるためには 妊 娠 出 産 育 児 期 をキャリア 形 成 の 重 要 なステージと 位 置 付 けて この 時 期 の 仕 事 配 分 のあり 方 に 関 して 制 度 利 用 が 行 われる 現 場 で 利 用 者 本 人 と 職 場 の 管 理 者 である 上 司 の コミュニケーションが 重 要 となる これが 最 高 裁 判 決 において 重 視 されている 本 人 の 承 諾 を 得 る 手 続 きになると 同 時 に 職 場 のパフォーマンス を 下 げないことにもつながっていくといえよう 5. 結 語 2014 年 10 月 の 妊 娠 降 格 をめぐる 最 高 裁 判 決 を 受 けて 妊 娠 出 産 育 児 期 を 経 て 女 性 がキャリ ア 形 成 を 図 るにはどうすればよいのか という 観 点 から 現 状 分 析 を 行 ってきた 特 に 妊 娠 出 産 育 児 期 における 女 性 の 配 置 や 仕 事 の 配 分 におい て 本 人 の 自 由 な 意 思 に 基 づく 合 意 がある こ とを 重 視 しなくてはならない とする 最 高 裁 の 判 断 に 注 目 した 近 年 妊 娠 出 産 後 も 働 く 女 性 が 増 加 してきて おり 妊 娠 や 育 児 の 期 間 にどのような 仕 事 を 任 せ ればよいのかについて 課 題 意 識 をもつ 事 業 主 や 管 理 職 が 増 えている 本 人 の 意 思 を 確 認 しないまま に 一 方 的 に 仕 事 を 変 えたり 配 置 転 換 をするケー スもみられる しかし それが 本 人 の 仕 事 への 意 欲 の 低 下 を 招 いたり 長 期 的 なキャリア 形 成 を 阻 害 することにつながるといった 問 題 にもつながっ ている 最 高 裁 判 決 は こうした 状 況 に 見 直 しを 迫 るも のと 考 えられる 判 決 を 契 機 に 妊 娠 育 児 期 の 働 き 方 について 長 期 的 なキャリア 展 望 を 踏 まえ た 本 人 の 意 思 を 聞 き 取 りながら 納 得 性 のある 処 遇 が 行 われることがより 重 要 になっていくという 共 通 理 解 が 進 むことに 期 待 したい * 本 稿 は 2014 年 11 月 29 日 に 神 戸 大 学 で 開 催 されたシンポジウム 妊 娠 差 別 を 考 える- 平 成 26 年 10 月 23 日 最 高 裁 判 決 を 素 材 として における 議 論 をもとに 執 筆 している 主 催 者 でシンポジウム 司 会 の 大 内 伸 哉 氏 ( 神 戸 大 学 ) 報 告 者 の 富 永 晃 一 氏 ( 上 智 大 学 ) 及 び 川 口 章 氏 ( 同 志 社 大 学 ) コメントをいただいた 櫻 庭 涼 子 氏 ( 神 戸 大 学 ) 勇 上 和 史 氏 ( 神 戸 大 学 )に 対 し 貴 重 な 機 会 において 意 見 交 換 をさせていただい たことに 感 謝 申 し 上 げたい 22
妊 娠 出 産 育 児 期 における 女 性 のキャリア 形 成 の 課 題 注 1) マタニティ ハラスメントを 取 り 扱 った 研 究 と して 杉 浦 (2009)があり また 具 体 的 な 事 例 を 取 り 上 げたものに 溝 上 (2013)がある 2) 連 合 は 2013 年 5 月 に 初 めて マタニティハラ スメント(マタハラ)に 関 する 意 識 調 査 を 実 施 し 2014 年 に 第 2 回 調 査 を 実 施 している 第 2 回 調 査 の 実 施 期 間 は 2014 年 5 月 27 日 ~ 5 月 29 日 で 対 象 は 全 国 の 現 在 在 職 中 の 20 代 ~ 40 代 の 女 性 634 名 (うち 妊 娠 経 験 なし 315 名 子 どもがいる 場 合 は 12 歳 以 下 の 子 どもありが 対 象 ) 3) 2013 年 6 月 の 日 本 再 興 戦 略 - JAPAN is BACK における 目 標 値 である 4) 判 決 の 概 要 に 関 しては 富 永 (2014)を 参 考 に した 5) 平 野 (2014)は 男 性 上 司 のパターナリズム すなわち 出 産 を 経 て 復 帰 してきた 女 性 部 下 は 大 変 そうだから 責 任 ある 仕 事 をさせない と いう 優 しさの 勘 違 い が 女 性 の 就 業 継 続 や 昇 進 等 への 意 欲 にマイナスの 影 響 を 及 ぼして いることを 実 証 的 に 明 らかにしている 6) 本 事 業 は 厚 生 労 働 省 の 委 託 を 受 けて イン テージリサーチにおいて 実 施 したもので 筆 者 は 本 事 業 に 有 識 者 ヒアリング 対 象 として 参 画 し た 厚 生 労 働 省 の 承 諾 を 得 て 個 票 データを 使 用 し 本 稿 では 個 票 データの 分 析 結 果 を 紹 介 する 7) 厚 生 労 働 省 平 成 25 年 度 雇 用 均 等 基 本 調 査 によれば 育 児 のための 所 定 労 働 時 間 の 短 縮 措 置 等 の 制 度 がある 事 業 所 の 割 合 は 62.1% 制 度 がある 事 業 所 において 最 長 で 子 が 何 歳 になる まで 利 用 できるかについてみると 3 歳 に 達 するまで が 39.3%( 平 成 24 年 度 47.4%) 小 学 校 就 学 の 始 期 に 達 するまで 以 上 としている 事 業 所 割 合 は 54.7%( 同 48.9%)で 利 用 可 能 な 期 間 が 長 期 化 する 傾 向 がみられている 参 考 文 献 杉 浦 浩 美 (2009) 働 く 女 性 とマタニティ ハラス メント- 労 働 する 身 体 と 産 む 身 体 を 生 きる 大 月 書 店. 武 石 恵 美 子 (2013) 短 時 間 勤 務 制 度 の 現 状 と 課 題 法 政 大 学 キャリアデザイン 学 会 紀 要 生 涯 学 習 とキャリアデザイン vol.10 pp.67-84. 武 石 恵 美 子 松 原 光 代 (2014) イギリス ドイツ の 柔 軟 な 働 き 方 の 現 状 - 短 時 間 勤 務 制 度 の 効 果 的 運 用 についての 日 本 への 示 唆 法 政 大 学 キャ リアデザイン 学 会 紀 要 生 涯 学 習 とキャリアデ ザイン vol.11 No.2 pp.15-33. 富 永 晃 一 (2014) 妊 娠 差 別 禁 止 の 法 的 分 析 - 平 成 26 年 10 月 23 日 最 高 裁 判 決 を 素 材 として 神 戸 大 学 シンポジウム 妊 娠 差 別 を 考 える- 平 成 26 年 10 月 23 日 最 高 裁 判 決 を 素 材 として 報 告 資 料. 平 野 光 俊 (2014) 企 業 経 営 と 女 性 活 躍 推 進 の 課 題 -キャリア 自 己 効 力 感 に 着 目 して- 日 本 労 務 学 会 第 44 回 全 国 大 会 研 究 報 告 論 集 pp.20-27. 溝 上 憲 文 (2013) マタニティハラスメント 宝 島 社 新 書. 23
Women s Career Issues During Pregnancy, Childbirth, and Childcare: The Supreme Court s Judgment on Pregnancy Discrimination TAKEISHI Emiko In October 2 0 1 4, Japanʼs Supreme Court decided that being demoted due to pregnancy is a violation of the Equal Employment Opportunity Law. The case garnered attention for addressing so-called maternity harassment, wherein women are given disadvantageous treatment because of pregnancy or childbirth. The judgment concluded that the female workerʼs demotion due to her transfer to lighter duty during her pregnancy was the kind of disadvantageous treatment prohibited in principle by the Equal Employment Opportunity Law. The Supreme Court decided that The Equal Employment Opportunity Law forbids demotions while pregnant except where there is mutual consent based on the employeeʼs own free intention or in special job-related circumstances. This paper considers the effects this judgment has on career development for women during pregnancy, childbirth, and childcare. In particular, I note how the decision attaches great importance to mutual consent based on the employeeʼs free intention with regard to a womanʼs position and work distribution during pregnancy, childbirth, and childcare. The number of women who work after pregnancy and childbirth has been increasing in recent years, and with it the number of employers and managers with an awareness of the issues surrounding the type of work thatʼs best given employees during pregnancy and while caring for children. There are instances where work is unilaterally changed or employees are transferred into new positions without confirming their intentions. However, such behavior threatens to lower the employeeʼs work motivation and can have repercussions on her long-term career development as well. The Supreme Court decision could lead to further review of such situations. With this decision, satisfactory treatment with regard to working styles during pregnancy and childcare will likely become even more crucial: treatment built on an understanding of the employeeʼs intentions for her long-term career outlook. 24