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Vol. 68, 5, 2017 ポテンショ ガルバノスタットの動作原理と使用にあたり知っておきたいこと 271 と溶液間の電位差を測定する必要がある 溶液の電位は直接測定できないので, 溶液中で安定した電位を示す参照電極を基準にして間接的に電極 溶液間の電位を測定する ( エレクトロメータ ) 2 電極法で作用電極 参照電極間を制御して電流を流すと, 参照電極に電流が流れ正しい電位を維持できなくなる そのため, 電流を供給する第 3 の電極 ( 対電極 : ) を追加する ポテンショスタットは, 作用電極 対電極の 2 電極間に電圧を印加し, 作用電極 参照電極間の電位が所望の電位になるように制御する ( 図 1,3 電極法 ) ガルバノスタットは, 作用電極 対電極間を任意に定電流制御し, そのときの作用電極 参照電極間の電位を測定する ポテンショ ガルバノスタットは一定電位 電流に制御する装置であるが, 外部入力端子が用意されており, ファンクションジェネレータが出力した信号波形を加算することができる この機能により溶液中の電極を任意の波形で制御できる パルス波形や電位掃引波形などの電圧 電流波形を印加し, その応答を測定することで電極や溶液などの特性を詳細に調べることができる これらの機器で測定された電位, 電流は電圧値に変換されてデータ処理, 記録, 表示される 扱いが容易な電気信号を化学反応に適用できることが大きな特長である 3. ポテンショ ガルバノスタットの動作原理 電気化学測定で使用される機器についてその動作原理を説明する 目的はこれらの機器を有効に使うときの参考になることである デバイスや回路などは理想的な特性を有するものとして説明する 実際の機器とは正確には異なるところがあることをご理解いただきたい 3.1 フィードバック制御ポテンショ ガルバノスタットは電圧 電流の一定制御を行うが, これにはネガティブフィードバック ( 負帰還 ) 制御という手法が使われている まず, この制御がどのような原理で動作しているかを簡単に説明する ( 工学の専門的なフィードバック制御理論を述べるものではない ) 図 2に抵抗 r1 とr2 の直列回路を制御する最も基本的な回路を示した ( 図中 点は対極,r 点を参照極,w 点を作用極 とした たとえば, は 極から測定した 極の電圧を意味する また, 電圧 e1,e2,e3 は回路の e1 OP1 e1 e3 = = 0(V) ポテンショスタットの回路は を基準にして動作する OUT e2 i r2 r1 e3 図 2 ネガティブフィードバックの動作原理 r w e1 37 0 V(= ) からみたそれぞれの電圧を示す ) 間電圧を e1 に制御する場合を考える 設定電圧 e1( 符号に注意 ) を外部から設定する (OP1 の 端子に入力する) OP1 は高利得直流増幅器 (OP アンプと呼ぶ ) である OP1 の出力は OP1 の 入力と 入力の電圧の差を A 倍 ( A は OP アンプの電圧増幅率,10 程度のものが使用される この数値が大きいほど理想的な増幅器となる ) した電圧 e2 を出力する e2=[( 入力の電圧)( 入力の電圧)] A =[( e1 )( e3 )] A このとき, 図の回路を流れる電流 i は i=e2/(r1r2) となる OP1 の ( 入力) にフィードバックされる電圧 e3 ( 間電圧 ) は e3=i r1=e2 r1/(r1r2) となる したがって, e3=e1/[ 1 (( r1r2)/r1)/a] e3 e1 ( A~ ) これは, OP1 は ( 入力) と ( 入力) が等しくなるように出力電圧 e2 を制御する と理解すればよい e3 は, 図中の から見た の電圧である から見た の電圧は e3 だから e3 =e1( 制御したい 間の電位 ) となる 3.2 ポテンショ ガルバノスタットの動作図 3にポテショスタットの最も一般的な回路構成を示す 図中 OP1 は図 2のOP1 と同じ働きをする ( 制御アンプ ) OP2 は 極 ( r 点 ) の電圧 ( 回路の 0 V: から見た r 点の電圧 ) を正しく測定するための電圧検出回路 ( エレクトロメータ ) である OP3 は 間を流れる電流を電圧に変換する電流 電圧変換回路である 加算回路は複数の入力信号を加算し, 加算された電圧が 間の制御値になる 制御応答設定は制御の応答速度を決める 制御アンプの動作は 3.1 で説明した 制御応答設定は 4 章で説明する その他の回路の動作説明を行う 図中の OP アンプの動作は,3.1 で説明したように OP アンプは 入力と 入力が等しくなるように電圧を出力する と考えればよい 3.2.1 エレクトロメータ図 3のOP2 はエレクトロメータと呼ばれ, 参照極 (r 点 ) の電圧 ( 回路の 0 V: からみた電圧 ) を検出する OP2 の出力は 入力の電圧をそのまま出力する( ボルテージフォロア回路 ) エレクトロメータの重要な機能はインピーダンス変換である エレクトロメータに使われる OP アンプと周辺回路は, 入力インピーダンス と暗電流 ( バイアス電流 ) を考慮する必要がある 一般的に電気化学セルは高抵抗であるため, これに接続される計測機器は高入力インピーダンス (10 ~ 10 Ωが一般的 ), 低暗電流 (1 na ~1 pa が一般的 ) である必要がある ( 図 4, 表 1 参照 ) 測定対象が塗膜のように高抵抗 ( たとえば 10 Ω) の場合,OP アンプの入力インピーダンスが 10 Ω 程度だとその測定誤差は 1% 程度になる そのため,10 Ω 程度の OP アンプを使う必要がある ( 誤差は 0.01% 程度になる ) また, 暗電流が 1 na 程度のものを使用すると 10 mv 程度の誤差があるだけでなく, 測定対象のサ

電圧データ記録フィルター電流データ記録272 解 説 表面技術 重畳電圧内部電( エレクトロメータ ) 制御応答設定 1V e OUT 圧e1 S=0V = e2 e 電1V 圧記OP2 録 出e3 力電圧検出回路 電流記録出力フィルター加算回路 R OP3 out = 電流 電圧変換回路 Cres OP1 電流増幅回路 疑似接地 0(V) リレー リレー リレー 1.2V 1kΩ r r2 1V i 5kΩ r1 0.2mA w 等価回路電気化学セル 高入力インピーダンス 低バイアス電流 ( 低暗電流 ) 内部抵抗 R(Ω) E(V) 測定対象 Eout= Rin RRin e=e=eout e Rin(Ω) e E eout エレクトロメータ R (1 )E Rin 誤差 Eout(V) 図 3 一般的なポテンショスタットの回路構成 図 4 エレクトロメータの特長 ンプルに 1 na の電流を印加することになる 特殊なものを 除いて経験的に 10 pa 以下のものが望ましい 3.2.2 電流 電圧変換回路 ( 二つの電流検出方法 ) 図 3のOP3 は作用電極を流れる電流を検出して電圧に変換するカレントフォロア回路 である ( 図 5()) この回路の 入力は 0 V に接続されている そのため, 入力が 0 V になるように出力が制御される ( 疑似接地 ) 帰還抵抗 ( 図 5() の抵抗 R) が 1 kω の時, 間 ( から へ ) に0.2 ma の電流が流れるとOP アンプの出力は 0.2 V を出力する 帰還抵抗 R には 0.2 V の電圧がかかり OP3 は0.2 ma の電流を出力する すなわち, 0.2 ma のアノード電流を 0.2 V に変換したことになる 電流を電圧に変換するもう一つの方法を図 5() に示す セルに流れる電流経路に高安定高精度な抵抗を挿入し, これに電流が流れたことにより発生する電圧を検出する方法である ( 抵抗シャント方式 ) 図 5() では作用極が回路の 0 V( 疑似接地 ) になっていたが, この方式では, 作用極の電圧が検 出した電圧だけ 0 V からシフトしている このシフトした電圧を補正するための回路が必要になる ( 差動式エレクトロメータ による 4 端子法, 図 6) カレントフォロア方式は比較的小電流 ( 数 ma 以下 ) に向いた回路で, 高精度, 高安定, 高速制御応答, 低ノイズが求められる電気化学分析, 電極反応解析, 微小電極を使ったボルタンメトリなどに適用される 抵抗シャント方式は比較的大電流 (100 ma ~ 100 A) が必要な用途に適用され, 大きな電流増幅回路が必要になる 高速応答が不要でノイズなどの環 表 1 オペアンプの入力インピーダンス, 暗電流と測定対象の抵抗の関係 R(Ω) 0 ~ 100 kω Rin 10 Ω 10 Ω 10 Ω 誤差 1% 0.01% 0.0001% 10 MΩ Rin 10 Ω 10 Ω 10 Ω 誤差 1% 0.01% 0.001% 1 GΩ Rin 10 Ω 10 Ω 10 Ω 誤差 1% 0.01% 0.001%. 入力インピーダンス 暗電流 R(Ω) 1 pa 10 pa 1 na 100 kω 10 mv 10 mv 0.1 mv 10 MΩ 0.01 mv 0.1 mv 10 mv 1 GΩ 1 mv 10 mv 1 V. バイアス電流 ( 暗電流 ) 38 () カレントフォロア回路方式 ( 無抵抗電流計 ) () 抵抗シャント方式 図 5 電流 電圧変換回路

Vol. 68, 5, 2017 ポテンショ ガルバノスタットの動作原理と使用にあたり知っておきたいこと 273 境による障害があっても安定な制御が必要な用途に向いている 電解, 電解合成, めっき, 表面処理, 電池やキャパシタの試験などに適している この回路では上記のように流れた電流による電圧ドロップが制御ループに入るため,OP1 が制御する負荷は 間ではなく,( 装置の回路の 0 V) 間となる そのため, この電圧ドロップ分だけ制御のための電圧範囲が減少する (4.2.3 参照 ) 3.2.3 加算回路ポテンショ ガルバノスタットには, 外部から信号を入力して装置自身の制御値 設定電圧 に重畳する機能を持つものがある この機能のために図 3の加算回路が使われる 設定電圧 e1 に外部入力端子から入力された信号 重畳電圧 が加算される たとえば, 重畳電圧 がサイン波 Asin(ωt) とすると, 間は [e1asin(ωt)] に制御される ポテンショスタットの場合, 外部入力の電圧信号がそのまま重畳されることが多い ガルバノスタットの場合,1 V がその時の電流レンジの最大電流値に換算され, 装置内で設定した電流に重畳されるのが一般的である たとえば,1 ma レンジのとき装置内の設定が 0 ma なら, 外部入力端子から 1 V を入力すると制御電流は 1 ma となる 3.2.4 その他の回路 (1) 電流増幅回路図 3の 極は OP1 の出力で制御されるが, 一般的に OP アンプの最大出力電流は数 ma 程度である そのため, 大電流出力が必要な場合は電流の増幅回路が必要になる 電流が大きくなると増幅回路も大きくなる 小型化のためにスイッチング電源などが有効であるが, これらが発生するノイズも大きくなる傾向にあるので測定の際は考慮が必要である (4.2.3 参照 ) (2)4 端子法電流 電圧変換に抵抗シャント方式を使った回路を図 6に示す ( 簡単のため電流増幅回路と, リレーは省略した ) この 回路では w 点の電圧は 0 V でなく, 電流 i とシャント抵抗による電圧ドロップ分だけオフセットのある電圧になる このため,r 点の電圧は正しく作用電極の電位 ( 図では r1 の両端の電圧 ) を示さない そのため,rw 間電圧を測定する必要がある このような用途に差動式エレクトロメータ が使われる w 点の電圧を検出する端子が追加され (2), 参照極 (r 点 ) の電圧と作用極 (w 点 ) の電圧を検出して, その差を出力する ( 差動回路 ) この回路で作用電極の電位を正しく検出することができる また, このように差をとる回路は耐ノイズ性の向上も期待できるので 4 端子のポテンショ ガルバノスタットはその精密さから高精度タイプに適用される また, セルコードなどを大電流が流れることで生じる電圧ドロップは大きな誤差になる 4 端子法によれば正しい電位測定が可能になるので大電流タイプにも採用されている 近年, 極の電位検出を備えた 5 端子のものも販売されている ここでセルコードの呼び方と機能についてまとめておく は作用極に接続される端子である 4 端子の場合,1 と 2 にわけて,1 は作用極に電流を流して電流の検出を行う,2 は作用極の電圧を検出する は参照極の電圧を検出し,2 間の電位を測定する は 1 間に電圧をかけて電流を供給する電力線である 5 端子法の場合, も 1,2 に分けられ 1 は電流を流し,2 は 極の電圧を検出する 1,1 には電流が流れるため, セルコードの持つ抵抗成分の電圧ロスによる誤差が発生する 2,2 を各電極に直に接続することでこれらの誤差を補正できる (3) リレー ( セルオープン, セルクローズ ) 図 3の リレー は, 各セルコードに接続されたメカニカルリレーである 装置が測定をしているとき接続 ( セルクローズ ) され, 測定していないときは開放 ( セルオープン ) される 測定していない状態の時, 装置の回路をセル ( 電極 ) と接続させないためでる 測定していない時でも電子回路は外部に微 Amp 10kΩ S=0V 1V e OUT 0.2mA 0.1mA = e3 10kΩ e 1.4V 1kΩ 0.1mA 1.2V r 1V 5kΩ 0.2V 2 ( 差動式エレクトロメータ ) 0.2V out 1 e1 = e2 r1 0.2mA w 電気化学セル 1kΩ 0.2mA 0V 図 6 抵抗シャント方式を使ったポテンショスタット 39

274 解 説 表面技術 小ではあるが電流を流しており, 電極の状態を変えてしまう可能性がある また, 装置の電源が OFF のとき, 外部の電極の電圧がかかると装置のデバイスが破壊されてしまう可能性がある これらを防ぐために非測定時はセルオープンの状態にする リレーも半導体の素子を使わないのは同じ理由である 3.2.5 ポテショスタットの動作図 3でポテンショスタットの動作を説明する 図中の電気化学セルを抵抗 r1,r2 の等価回路に置き換える r1 は作用極 ( ) の反応抵抗と作用電極 参照電極 () 間の液抵抗の和,r2 は対極の分極抵抗と対電極 参照電極 () 間の抵抗 ( 溶液抵抗など ) に相当する ここでは, 具体的な数値で説明するために r1 =5 kω,r2 =1 kω とし, 間電位を 1 V に制御する場合を考える 内部設定 に 1 V( 符号に注意, 電圧の検出法による ) を入力すると e3 が1 V(vs. : 回路の 0 V)( s 点が 0 V) になるように OP1 はw 間の電圧 e2 を出力する このとき流れる電流は,r1( = 5 kω) の両端 (rw) が 1 V なので w 点から r 点に向かって 0.2 ma (= 1 V /5 kω) の電流が流れる OP1 の出力電圧 ( 点 ) は 1.2 V(vs. : 回路の 0 V) となっている 電気化学では参照極 ( ) から見た作用極 () の電圧 ( 作用極の電位 ) が重要である この回路の参照極から見た作用極の電位 ( 間電圧 ) は 1 V vs. となり, 電流は作用極 () から溶液側 (r1 からr2 の方向 ) へ流れる電流をと表示するので 0.2 ma( アノード電流 ) となっている この回路は, 装置から見て の電圧をポテンショスタットの 0 V に固定し, の電圧を制御しているので違和感があるかもしれない 電解液中の参照電極の電位は溶液に対して一定値になっている 作用電極は, この参照電極からの電位差で制御されているので, 電解液中では に対する の電位を制御している 3.2.6 ガルバノスタットの動作ガルバノスタットは, 電解系の状態に影響されずに電解電 流を任意に制御する装置であり, 電極に電流が流れた応答としての電極電位を測定する 図 7にガルバノスタットの回路構成例を示す ポテンショスタットでは参照極の電圧検出が OP1 にフィードバックされていたが, ガルバノスタットでは電流 電圧変換回路の出力がフィードバックされる 具体的な数値で動作を説明する セルを 0.2 ma のアノード電流が流れるように制御する場合を考える 内部電圧 に 0.2 V( 符号に注意, 電流の検出法による ) を入力したとき, OP1 の 入力が 0 V(s 点が 0 V) になるように OP1 の出力は w 間の電圧を制御する すなわち,e4 が0.2 V となるように動作する OP3 の帰還抵抗 ( 電流の検出抵抗になる ) R が1 kω の時 ( 1 ma レンジに相当する ),OP3 の 入力が 0 V( 疑似接地 ) であるから R には 0.2 V の電圧がかかり 0.2 ma の電流が矢印の方向に流れている このとき, 間電位は 1 V vs. となる 3.2.7 接地極によるポテンショスタットの分類と使い分けポテンショ ガルバノスタットは, 電気化学セルのどの電極を接地 ( 回路の 0 V に接続 ) するかでその回路構成が変わり, それぞれ適した用途が異なる 3 種類の回路構成例を図 8に示す 仮に1フローティングタイプ,2 作用極接地タイプ, 3 対極接地タイプとする 1は汎用の計測, 精密測定に適している 2は QCM, 回転電極, 工学機器などの機器と組みあわせた測定に適している 3はオートクレーブやマルチポテンショスタット (1 対の対極, 参照極で複数の作用極を制御する ) 等の応用に適している 用途に応じて選ぶとよい 4. ポテンショ ガルバノスタットをより有効に使うために ポテンショ ガルバノスタットの基本的な動作を説明した ここからは装置を有効に使うために必要な知識や装置の限界について説明する 加算回路重畳電圧内部 S=0V 電 0.2V 圧 電流記録出力 0.2V e4 e = e out 電圧記録出力 OP3 = OP1 1kΩ R OUT e2 ( エレクトロメータ ) OP2 電流増幅回路 0(V) リレー リレー リレー 疑似接地 1kΩ 1.2V 1V 5kΩ r2 r w r1 i 0.2mA 電気化学セル等価回路 図 7 ガルバノスタットの回路構成 40

Vol. 68, 5, 2017 ポテンショ ガルバノスタットの動作原理と使用にあたり知っておきたいこと 275, 4.1 ポテンショ ガルバノスタットの周波数応答 ポテンショ ガルバノスタットでセルを任意の波形 ( 電圧 電流ステップ, 高速スイープなど ) に制御するとき, どんな周波数特性で制御されるかを知っておくことは重要である 測定時の周波数特性は, 装置自体の特性とセル ( 電解系 ) の抵抗, 容量, インダクタンスによって決まる 装置とセル ( 電解系 ) の応答のしくみを考慮した測定をする必要がある 装置の使い方やセルのセッティングが適切でないと発振などの不安定な状態になるなど, 測定以前に電極や電解液に障害を与えかねない ここでは, ポテンショ ガルバノスタットとセル ( 電解系 ) の周波数応答のしくみの説明をする 装置の有効な使い方, セル ( 電解セル, 電極, 電解液 ) のセッティング方法, 測定限界を理解する参考にしていただきたい 4.1.1 装置の周波数特性図 9は, 図 2の回路の制御アンプ OP1 の周波数特性である サイン波形の電圧を OP1 に入力した時の入力と出力の比を表したグラフ ( ボード線図 ) で, 横軸に周波数, 縦軸に利得 G ( 共に対数スケール ) と位相を表示したもので OP アンプの増幅の特性を表している G=20 log( 出力電圧 / 入力電圧 ) を利得またはゲインと呼び,dB で表すと便利なことが多い (G =0 は 1 倍の増幅を表す ) 図 2の回路に設定電圧 e1 を入力すると,r1 にかかる電圧は e1 に制御される この時の OP1 の出力電圧が e2 であるとき,OP1 の増幅率 A NF は 出力電圧 e2 入力電圧 e1 なので図 2の回路の増幅率は A NF =( r1r2)/r1 になる 図 9の( 一点鎖線 ) は利得が 20 db( 増幅率 10 倍のこと, た とえば,r1=1 kω,r2=9 kω とすると 10=(9 kω1 kω)/1 kω) の時の OP1 の周波数特性である 図の 点をポール周波数 fp と呼び, この制御アンプ OP1 が周波数 fp まで利得 G = 20 db で増幅できることを示している 図では 点で折れ曲がり, この周波数を境にして 20 db/de( 周波数が 1 桁増すと増幅率が 1/10 になる ) で利得が減衰する 正確には,fp で 3 db(=0.708 倍 ) に減衰する また, 位相 φ( 出力信号の遅れに相当する ) は,0.1 fp 以下の周波数では 0, ポール周波数 fp でφ=45,10 fp 以上の周波数では90 となる また, ポール周波数 fp は利得 G を大きくすると小さくなる これは図 2のr2 が大きくなることに相当する ( 図 9の,, を参照 ) ここまでが制御アンプ OP1 の特性である 次にフィードバックループに遅延要素 (CR 回路 ) が入った場合を説明する 図 10 の回路は SW1 がON で電圧制御 ( ポテンショスタット ),SW2 がON で電流制御 ( ガルバノスタット ) になる それぞれの電圧検出, 電流検出に CR 回路が含まれている ( 図 10 のエレクトロメータ入力部の CR 回路, 電流 電圧変換回路の CR 回路 ) この CR 回路が制御応答に影響する 以降は SW1 がON しているとして説明する ( 電圧制御 ) まず, 図 11('1) の CR 回路の 間に Vin を入力した時の C の両端電圧 Vout を調べる 図 9の d が CR 回路の周波数特性である (2 点鎖線 ) d の f0 はポール周波数で CR 回路の時定数をτ(=C R) とすると f0=1/2πτ となる この図の見方は OP1 の時と同じで,0.1 f0 から減衰と遅れが始まり, f0 で3 db 減衰 ( 0.708 倍 ), 位相は45,10 f0 まで20 db/ de で減衰し, 位相は 90 となる 1 フローティングタイプ 設定 ポール周波数 fp:100hz 開ループゲイン OP1 の裸の特性 検出電位 :r1=1kω r2=99kω 増幅率 :100 利得 :40dB fp:100khz :r1=1kω r2=9kω 増幅率 :10 利得 :20dB fp:1mhz or シャント抵抗 :r1=1kω r2=1kω 増幅率 :3.16 利得 :10dB fp:10mhz 2 作用極接地タイプ シャント抵抗 設定 利得 G db d f0 GBW:10MHz d:τ=10.14s f0=100hz 検出電位 3 対極接地タイプ 容器 シャント抵抗 設定 位相 d 検出電位 10 1 10 2 10 3 10 4 10 5 10 6 10 7 10 8 図 8 接地で分類した 3 タイプのポテンショスタット 図 9 OP アンプ ( 増幅器 OP1) の周波数特性 41

276 解 説 表面技術 制御アンプと図 10 の CR 回路を合わせた周波数特性が図 9 の太い実線である ( 制御アンプの利得が 20 db( 図 9の) とした ボード線図は対数スケールで表示されているので,2 つの特性を足し算することで合成できる ) 図からフィードバック制御ループに CR 回路が 1 つ入るとポールが 1 つでき, 位相が 90 遅れる ( 折れ曲がり点が一つできる ) 以上が装置の周波数応答になる 電流制御の場合, エレクトロメータの代わりに電流 電圧変換回路 ( 図 10 ではカレントフォロア回路 ) が制御ループに入る この場合 CR 回路だけでなく OP3 の制御応答を含め 内部電圧 ein 電圧制御時に ON 電流制御時に ON SW1 SW2 e e e3 Cres OP2 ( エレクトロメータ ) out C OP1 ( 電流 電圧変換器 ) R OP3 OUT e2 C R 図 10 装置に CR 遅延要素がある回路の例 0(V) r2 r1 た周波数特性を考える必要がある OP3 の利得は r1r2 の抵抗に依存するので複雑であるが, 一般に低い電流レンジほど遅れは大きい 抵抗シャント方式の場合は, 比較的大きい電流検出に適用することが多いので遅れは小さいが, 電流増幅回路の影響が大きい ここまで, 負荷は純抵抗 (r1 r2) としたが,r1 のかわりに CR の要素が入れば, 同様にポールが 1 個追加され, ポール周波数で減衰が始まり位相は 90 遅れる 装置と負荷を含めたフィードバックループが測定系全体の周波数特性を決める 4.1.2 発振フィードバック制御には発振という困った現象がある マイクのハウリングと同じ現象でマイクの音は増幅されスピーカーから出てくるが, この音がマイクに入りそれをさらに増幅することで起こる これもフィードバックであるがポジティブフィードバック ( 正帰還 ) となるケースである ポテンショ ガルバノスタットはネガティブフィードバック制御 ( 負帰還 ) をしているが, フィードバックループの中で位相の遅れが発生して負帰還が正帰還になることで発振がはじまる 発振が起こると制御波形が意図しない正弦波形などとなって出力され正常な制御は行われない 小さな発振では制御波形が振動し, 制御応答が低下するため正しいデータが得られないことがある 振幅が装置の最大出力になるような大きな発振ではサンプルや装置を破壊することもある ここでは発振の原理を理解して発振が起こらないような装置設定やセルの構成を考える ネガティブフィードバック ( 負帰還 ) の場合の発振は位相が 180 遅れたとき, ゲインが 1 以上であるときにスタートする 図 12 はポールが 3 個ある場合のボード線図である 発振とそれぞれの要素の関係を例で説明する 図中 は制御アンプ OP1 の周波数特性, は電圧制御の場合は参照電極の抵抗と Rs Vin Rf Cdl Re Ce () Rre Cre Rs1 Rs Vin Rs Cdl ( ) Vout Re Rs Rf Cdl Z R Rf Cdl Z () Vin C ( 1) Vout (C) 図 11 セルの等価回路 42

Vol. 68, 5, 2017 ポテンショ ガルバノスタットの動作原理と使用にあたり知っておきたいこと 277 浮遊容量による CR の特性, はセルに含まれる CR 要素の特性である 図 12 の (1) は装置の利得と の時定数が十分に小さい場合に相当する ( 図の等価回路の (r2 Z )/ Z が小さく, 参照電極の抵抗が小さい ) ゲインが 1 の時の位相は 90 で発振は起きない (2) は装置の利得が非常に大きい場合で, 図中の等価回路の r2 が大きい場合に相当する (( Z r2)/ Z >>1 ) 有機溶媒や支持電解質を含まない電解液, 対極と作用極間の高抵抗フィルターなどが考えられる ゲインが 1 の時, 位相が 180 となり発振する (2') は発振を止める対策をおこなった例である 装置の応答速度 ( の特性 ) を落とす ( 左にシフトさせること ) で位相が 180 遅れる前にゲインが 1 以下になるように調整する 図 3の制御応答設定 ( 装置のレスポンスの設定 ) の Cres を大きくすることに相当する (2') では, ゲインが 1 で位相が90 にとどまっている (3) は の時定数が大きい場合に相当する 具体的には, 参照電極自身の抵抗が高い, 塩橋が細い, 塩橋に泡がある, キャピラリの先端が小さすぎる, キャピラリ先端に泡がつくなどの原因で抵抗が高くなった場合に相当する 参照電極は高抵抗入力のエレクトロメータに接続されるので, 抵抗が高いことで検出電位 に誤差が出ることはないが, 参照電極からエレクトロメータ入力端子までの浮遊容量 (~ 数 100 pf) による CR 回路が不都合を起こす この場合はゲインが 1 で位相が180 となり発振に至る 対策は (2) の場合と同じでレスポンスの調整が有効である (3') ではゲインが 1 で位相が112 になり発振が停止する ( 位相が135 から180 以内の時, 発振はしないが制御波形のオーバーシュート, 減衰振動がみられることもある ) 発振に関連して電流 電圧変換にカレントフォロア回路を使用した測定で注意することがある たとえば, 支持電解質の濃度が高い電解液で作用電極 ( 面積 1 m ) を rest 電位で制御した状況を考える rest 電位なので電流が小さいとして 1 na レンジを選択すると, 残余電流や外来ノイズの影響以上に検出回路 OP3 が正常に働かない 1 na レンジの検出抵抗は 1G Ω(10 Ω) が一般的である 一方, 図 5() のセルの 間抵抗が 1 kω 程度とすると OP3 の増幅率は 10 倍となり, 上記の利得が大きすぎて発振するケースに相当する 1 na レンジのような低電流レンジの使用は微小電極や電解液が高抵抗であるような電解系に限定される 装置を使用する際は, 必要以上に感度 ( 制御応答速度や電 開ループゲイン (1) 開ループゲイン (2) 開ループゲイン (3) 利得 G db 利得 G db 利得 G db 位相 φ 位相 φ 位相 φ 101 10 2 10 3 10 4 10 5 10 6 10 7 10 8 (1) 正常な制御の例 101 10 2 10 3 10 4 10 5 10 6 10 7 10 8 (2) 利得が大きすぎて (r2が大きすぎて) 発振した例 101 10 2 10 3 10 4 10 5 10 6 10 7 10 8 (3) 装置の大きな時定数が原因で発振した例 開ループゲイン (2') 開ループゲイン (3') 利得 G 利得 G G = (r2 Z )/ Z db db 位相 φ 位相 φ 101 10 2 10 3 10 4 10 5 10 6 10 7 10 8 (2') レスポンスの調整で発振を止めた例 101 10 2 10 3 10 4 10 5 10 6 10 7 10 8 (3') レスポンスの調整で発振を止めた例 図 12 ポールが 3 つあるボード線図発振と発振止め対策 43

278 解 説 表面技術 流レンジ ) を上げるべきではない 装置仕様に書いてある数値は万能ではなく, 限界があることを理解すべきである 発振の確認は, 電圧制御の時は電圧の記録出力, 電流制御の時は電流の記録出力をオシロスコープで観察し信号が振動していないかを観察するのがベストである ( セルの電極端子を直に触れてはいけない, オシロスコープが制御ループに入り, 系を乱すことになる ) 高速サンプル( サンプル間隔 10 μs ~ 100 μs) が可能で時間に対する電位, 電流波形を表示可能な装置であれば代用可能である 4.1.3 セルの構成による発振対策発振が起こりにくいセルの構成を考える 図 11 の ( ) は作用電極 参照電極間の液抵抗を含めた等価回路である 発振の原因の 1 つに制御アンプの大きな利得があった () の等価回路の場合, 利得 G は次式となり, 必ず 1 よりも大きい G=( ReRs Z )/(Rs Z )=1Re/(Rs Z )> 1 この式の意味は 間の溶液抵抗 Re が, 制御対象である 間のインピーダンス (Rs Z ) に比べて大きいほど利得 G は大きくなるということである さらに高周波数では Z 0( Z に含まれる Cdl のインピーダンスは高周波数で小さくなる ) となり利得 G は Re/Rs に近づく Rs は参照極キャピラリと作用電極の距離に依存するので配置を工夫して Rs を下げると Re/Rs は大きくなる ( 極端な場合 Rs=0 Ω だと利得は無限大になる ) 利得が大きくなると発振しやすくなるので, 発振に関して Rs を小さくすることは不利である 発振対策は Re( 間の溶液抵抗 ) を下げることと液抵抗 Rs を適当に大きくすること ( 参照電極と作用電極間の距離を大きく配置する ) である 一般的に Rs は小さい方が良いとされるが発振に関しては問題がある もう一つの原因に参照電極と塩橋やリード線などによる抵抗があった 詳細は発振の項で説明した 一般的な参照電極の抵抗は~ 数 kω, 塩橋の抵抗と合わせて 10 kω 程度, 参照電極周辺の浮遊容量は 100 pf 程度であろう このような普通に使用されている参照電極の構成でも, セルの特性によっては発振の可能性は十分にある 発振に至らなくともオーバーシュートや減衰振動がありうる また, 交流インピーダンスでは位相への影響が大きい 参照電極の選択や構成 ( ルギン菅をどうするかなど ), 配置で大きな時定数の CR が発生しないように特に注意を払うべきである 参照電極の特性改善対策の一つに 2 重参照電極法がある ( 図 13 参照 ) 参照電極の近くに白金の微小電極を配置し, ポテンショスタット A V 対電極 0.1~1μF 参照電極 作用電極 ポテンショスタット A V 対電極 参照電極 図 13 2 重参照電極法 作用電極 0.1~1μF 白金電極 44 これと参照電極をコンデンサ (0.1~1 μf の無誘導性のフィルムコンデンサなど ) を介して結ぶ もっと簡単に対電極 ( 白金 ) と参照電極をコンデンサで結ぶという方法もある 直流信号は従来の参照電極で, 交流信号はコンデンサを介した白金電極で参照する この方法は高速のステップ電圧の場合にも有効である 4.1.4 レスポンス ( 制御応答速度 ) とフィルター発振の項で説明したように, レスポンスは装置のフィードバック制御にかかわるパラメータで, 制御応答速度を決める すなわち, 制御波形の立ち上がりや周波数特性を制御する機能である 一方, フィルターは測定により得られたデータのノイズを加工して波形を見やすくする機能である それぞれの機能を理解して使い分ける必要がある ( 図 3) たとえば, 発振が起きて信号に小さな振動波形が乗っているときはレスポンスを調整して発振を止める 発振したままのデータにフィルターをかけると一見良好なデータが得られたように見えるが間違いである このような場合はフィルターをかけずに測定し, 発振がない状況にして適当なフィルターをかけるようにする レスポンスとフィルターを混同してはいけない 発振をフィルターで消しても無意味である また, 最大入力電圧を超えたノイズにフィルターは適用できない ファラデーケージ等によるセル側のノイズ低減が必要になる, 4.2 ステップ応答まず, ステップ ( 電圧 電流 ) に対する装置の応答を考える 図 2の回路で r2=0 Ωとすると 4.1 項で述べたように制御アンプ OP1 の増幅率は 1 となる このときの制御アンプのポール周波数 fp(gbw: ゲイン バンド幅積という ) は 1 MHz ~ 10 MHz が一般的である ( 図 9 参照 ) したがって, 制御アンプのステップ応答は 1 μs 程度と見積もれる 次に装置の応答に関与する回路には図 10 の電圧検出をするエレクトロメータの入力部の C と R, 電流 電圧変換回路の OP アンプの周波数特性 ( 間抵抗による ) と C と R がある 4.2.1 装置のステップ応答に影響を与えるもの図 11 の ( '1) の 間にステップ電圧 Vin をかけたときの Vout/Vin は以下の式になる Vout/Vin=1exp(t/τ),τ=R C ( 式 1) この式はVout/Vin が時間 τ 秒後に63%,10τ 秒後には 99.99% となることを表している たとえば,R は参照電極や塩橋などの抵抗に相当するので 10 kω 程度であり,C はセルコードやエレクトロメータ入力の浮遊容量で 100 pf 程度である (τ=10 s) すなわち CR 回路による遅れは 10 μs(10 10 s) 程度と見積もれる (τ が無視できる程度に小さくなるようにセルを構成すれば 1 μs 程度となる ) 図 10 の OP2 の応答は十分速いのでエレクトロメータの応答時間は CR 回路で決まる 上記の例では 10 μs となる また, 電流 電圧変換回路がカレントフォロア回路の場合の応答は OP3 の利得と C と R の時定数による 低レンジの検出抵抗 R はより大きいので遅れも大きくなる また, 間の抵抗により OP3 の利得が決まるので電流制御の場合は相応の制御応答の設定 ( レスポンス,Cres の調整 ) が必要である

Vol. 68, 5, 2017 ポテンショ ガルバノスタットの動作原理と使用にあたり知っておきたいこと 279 これらの応答がステップ応答に反映される 抵抗シャント方 1 pa~10 na は 極微小電流用 ぐらいを想定して設計され 式は比較的大きな電流のときに使用される 大電流の場合 るのが一般的であろう 以下に電流レンジに関連して注意し (10 A 以上 ) 時定数 C R よりも電流増幅回路による遅れ たいことを述べる があることも理解しておく必要がある 広い電流レンジを持つ装置でもすべてのレンジがいつも使 4.2.2 ステップ応答に関連するセルの特性 えるとは限らない たとえば,10 μa~100 A レンジを持つ 図 11() はセルを電気的に等価な回路で置き換えたもので 装置の場合,10 ma 以下のレンジは装置自身のノイズが大き ある 応答に関与する可能性のある要素として対極の電極反 いのでレスポンスやフィルターの設定に制限があり, 使える 応抵抗 Re, 対極 参照電極間の溶液抵抗 Rs1, 参照電極の 測定法も限られることが多い 低電流レンジ (1 pa~10 μa) 抵抗 Rre と浮遊容量 Cre, 作用電極と参照電極の間の液抵抗 の装置では, ファラデーケージの使用が必須である 測定対 Rs が考えられる セルはこの等価回路で評価できる 象が高抵抗である場合が多いので, ノイズ対策なしでの測定 作用電極にステップ電圧をかけると最初に電気二重層の容 は不可能と思った方がよい 装置のフィルターでノイズを落 量成分 Cdl の充放電電流が流れ, 次に電気化学反応である とせば, 見た目はきれいなデータが得られるが正しい測定が ファラデー電流が流れる ( 反応抵抗を Rf とする ) この時, できているかは確認が必要である 極微小電流レンジの装置 電気二重層容量 Cdl の充放電電流はファラデー電流と分離で を使用するにはファラデーゲージのほかにサンプルが限定さ きず測定上好ましくない まず,Cdl の挙動について説明する れる ( 微小電極に限定 ) たとえば, 面積の大きいサンプルで 図 11 の ( ) は ( ) の等価回路から作用電極のもっとも基本 はその残余電流で電流検出が飽和して測定にならない また, 的な部分を取り出した回路である (Rf: 電極の反応抵抗, 間の抵抗が小さい場合は測定自体できないかもしれ Cdl: 電極の電気二重層容量,Rs: 液抵抗 ) この回路で Cdl ない ( 4.1.2 参照 ) また, 抵抗シャント方式で低レンジを選 の挙動を解析する 択したときの問題について紹介する たとえば, 小電流レン 間にステップ電圧 Vin をかけたときに回路に流れる電 ジ (100 μa レンジ,10 kωのシャント抵抗 ) のときに 1.5 ma 流 i は が流れる制御をしたとする 10 kω のシャント抵抗によるシ i=( Vin/Rs)exp(Kt)[ Vin/(RfRs)] [ 1 exp(kt)] フト電圧は 15 V となる (3.2.2 参照 ) つまり図 6の回路のエ ただし,K =( Rs Rf)/(Cdl Rf Rs), t: 時間 (s) レクトロメータの 極,2 極の入力電圧は測定可能範 この式の 1 項目は Cdl の充放電電流,2 項目は Rf を流れ 囲を超えている ( 計測部の回路に使われるデバイスの電源電 るファラデー電流である 圧は ±15 V が一般的である これを超える信号の計測はで 高速に立ち上がる信号に対する応答は 1 項目の Cdl が関与 きない ) このとき差動式エレクトロメータは 2 電圧 する電流になる 簡単のため () を ( ') の回路で議論するこ を0 V と測定し正しい作用極電位を示さない 定電圧制御の とにする 間に電圧ステップ Vin をかけたときの Vout(Cdl 場合, 電圧検出が設定値に達しないので 間電圧を の電圧 )/Vin は以下の式になる 増加させ オーバー (4.3.2 参照 ) に至る 装置には保護回路 Vout/Vin=1exp(t/τ),τ=Rs Cdl が備えられているが完ぺきではない ( デバイスが理想的では この式は ( 式 1) と同じである したがって, セルのステッ ないことによる ) 以上の例からわかるように, 必要以上に プ電圧に対する遅れは 10τ 秒程度である Rs = 100 Ω,Cdl 低レンジを使わない方がよい 電流レンジは 1 レンジ大きい = 10 μf とすれば,τ= 1 ms となりステップ電圧の充放電電 レンジを選択するほうが良いようである 最近の装置は性能 流の影響は 10 ms 程度となる たとえば, 定電位電解を行う が上がっており, 市販されているものでも高い電流レンジで とき, ステップ電圧印加後 10 ms 以降のデータには Cdl の充 十分な分解能があるものが多い 電流レンジはできるだけ高 放電電流の影響はない ( 装置の遅れは 10 μs 程度であり無視 いレンジを使う方が得策である できる,4.2.1 参照 ) 電流のオートレンジの使い方について注意すべき点がある 次に作用電極 参照電極間の液抵抗 Rs( 図 11 の ( )) につ ( オートレンジは電圧制御時の電流測定に適用される ) 電流 いて考える ポテンショスタットが制御するのは 間の電 オートレンジは測定中に電流値がそのレンジの最大値を超え 位である 本来,Z のみを制御したいが参照電極の配置によ たときに一つ上のレンジに, また, 電流がレンジの 10% 以 り液抵抗 Rs が発生し, 制御で流れる電流 i による電圧ドロッ 下 ( 装置による ) になると一つ下のレンジに自動的に移行する プ i Rs が誤差となる したがって Rs は小さい方がよいが, 機能である レンジを切り替えるには相応に時間がかかる ( 瞬 発振の項で解説したように小さすぎると制御に支障がでる 時に切り替わるわけではない ) 主な理由は,1シャント抵 間をステップ電圧 E に制御する場合, 最大電流は E/ 抗 ( 電流検出の抵抗 : 抵抗値が連続で変わるわけではない, Rs( Z 0), 最大電圧は (ReRs Z ) E/Rs が必要となる 各レンジに高安定, 高精度抵抗が実装されている ) を切り替 Rs=5 Ω,Re=100 Ωとして 間を 500 mv のステップ える作業をメカニカルリレーで行う その際に制御回路が切 電圧制御した時, 最大電流は 100 ma, 最大電圧は約 10.5 V れないように工夫されており, 最大で 10 ms 程度の時間が必 必要になる 要である 2ポテンショスタットの場合, 信号を測定してい 4.2.3 電流レンジについて るだけでなく, 信号元のサンプルを制御しているので, レン 市販されている装置の電流レンジには 1 pa~100 A レンジ ジの切り替えが少なからず制御に影響し, ノイズを発生する がある 用途に応じてユーザが選択するが,1 A~100 A レ ことが考えられる ( 回路を構成するデバイスが理想的でない ンジは 電解用,100 pa~100 ma レンジは 計測用, ことによる ) このノイズがサンプルの状態を変化させた時, 45

280 解 説 表面技術 元の状態に戻るまで待つ必要がある この待ち時間はサンプ り, オーバーとなる ルによるが 100 ms から 1 秒程度必要なものもある 切り替 対策は, 間の溶液抵抗が大きい場合は対極と作用 えに要する時間の間, 装置はデータをサンプルしない これ 極の距離を短く配置する, 隔膜などがある場合はその抵抗を らを踏まえてオートレンジの使い方について注意事項を以下 低減するのが有効である また, 対電極の過電圧を小さくす にまとめた るには, 大きな面積の対極を使用するのが有効である ( 通常, ステップ電圧の過渡応答測定には固定レンジを使用する 作用電極面積の 4~10 倍程度 ) 面積が大きくなることで対 定電位電解で電流オートレンジを使うときは, 高い電流 電極が供給すべき電流を小さな電流密度 ( 小さな過電圧で足 レンジからスタートする りる ) で稼ぐことができる 高速で電位掃引する LSV( リニアスイープボルタンメト (2) 電極の不備にかかわる オーバー リ ) や CV( サイクリックボルタンメトリ ) でオートレン 電圧検出端子の接続, 特に参照電極の接続に不備 ( コード ジは使用しない もっとも急激に電流が変化するときに やコネクタ接続, 塩橋の気泡, 参照電極先端の気泡など ) が オートレンジの切り替えが入るとデータを逃すことにな あるとポテンショスタットのフィードバック制御が正常に働 る ( 事前測定で電流レンジを決めておく ) かず, 間に最大電圧を印加することがある このと 外来ノイズが大きい環境では低レンジを使わない たと き オーバーとなる このケースでは電極を破壊する可能 えば, オートレンジの最小電流レンジを設定して低レン 性もあるので特に注意が必要である 測定前に自然電位を測 ジに入らないようにする 腐食測定の測定初期にオート 定し各電極の接続が正しくできているかチェックすることを レンジが短い周期で連続して切り替わり振動波形となる 勧める オーバー発生時に自動的に制御を停止する装置 ことがある これは外来ノイズやサンプルの時定数によ と停止しない装置があるのでチェックしておくと良い また, るオートレンジの発振に相当する 通常, 最小レンジを ガルバノスタットの場合は対電極, 作用電極の電流線に不備 100 μa 程度にしておけば回避できる があると 間電圧を最大電圧に制御することになる レンジ切り替えのショックで測定データにひげや段差が この場合も オーバーが発生する 出る場合は固定レンジを使う (3) 参照電極の抵抗が高いために発生した発振による オートレンジの切り替えがトリガとなり発振するものが オーバー ある 適当なレンジ ( やや高いレンジ ) を使えば発振が止 発振のところで説明したように参照電極の内部抵抗や塩橋 まる場合もある の抵抗が原因による発振で オーバーが発生することがあ 4.3 対極について る 10 kωを超えるとオーバーシュート, 減衰振動, 発振の ポテンショ ガルバノスタットがフィードバック制御をす 危険がある るときに必要な電流を供給するのが対極 () であった し (4) 大きな容量のあるセルに高速のステップ電圧を印加し かし, 装置や電極の能力によりいつでも必要な電流を供給で た時に発生する オーバー きるとは限らない 対極の動作をみてみる 4.2.2 で図 11 の ( ) に高速ステップ電圧を印加した場合の 4.3.1 出力電圧, 出力電流 挙動を説明した オーバーが発生した時の対策は, 最大 装置が制御可能な 間の最大電圧が出力電圧 ( 浴電 出力電圧 ( 浴電圧 ) の大きな装置を使うのが一つの手段である 圧とも呼ぶ ) であり, 流せる最大電流が出力電流である 出 また, 容量 Cdl が大きくなると 4.1.3 でもふれたようにステッ 力電圧は 6 V~100 V 程度のもの, 出力電流は 100 pa~100 A プの瞬間 OP1 の利得が大きくなり発振やオーバーシュート, 程度のものが市販されている 減衰振動が起りやすい これは浴電圧の大きな装置でも解決 4.3.2 オーバー しない 制御応答 ( レスポンス ) を遅く設定し, 立ち上がりス 対極の動作を図 3の回路で説明する 図の r1=100 Ω,r2 ピードを遅くするのが有効である 装置のもっとも遅い設定 =5 kωとして 間を 1V に制御したとき抵抗 (r1 でも問題が解決しない場合は, 高速のステップではなくス r2) に流れる電流は 10 ma(= 1 V 100 Ω) となる この ロープ波形で目的の電位, 電流まで制御し, 以降は一定値で とき,OP1 の出力 e2( 極の電圧 = 間電圧 ) は e2 = 制御する方法がよい ( スロープと一定値制御の組み合わせが 51 V(= 5.1 kω 10 ma) 以上の電圧が必要になる 装置 可能な関数発生器が必要 ) スロープ速度は適宜決める必要 の出力電圧 (V と表記する ) が V < 5 1 V だと制御不能と がある ただし, 過渡応答の測定は難しい なる この状態を オーバー呼ぶ オーバーは上記のように作用極に電流を流すのに必要 5. 装置の点検 な電圧が不足した時に発生する 装置の点検には, ダミー抵抗を図 3のように接続し電圧を (1)r2( 間の抵抗 ) の値が大きいことによる オー 印加して期待される電流が流れていることを確認すればよい バー 抵抗値は目的とする測定で想定される電圧, 電流から決める r2 にかかる電圧は主に 間の溶液抵抗と対極が電流 たとえば,0.5 V で100 μa が期待されるなら,r1 に5 kω, を流すために必要な過電圧の合計である 作用極を所望の電 r2 は 0~10 kω 程度 ( オーバーが出ない程度 ) で適当に選べ 位, 電流に制御するには 間に電流 i を流す必要がある ばよい 測定した電圧と電流からオームの法則で得られた値 このとき 間の電圧 Ve は i r2 になる Ve 作用 を評価する また,LSV や CV 測定をして正しい波形が得ら 極制御電圧 が装置の最大出力電圧を上回ると制御不能とな れたかをチェックすれば関数発生器のチェックにもなる 縦 46

Vol. 68, 5, 2017 ポテンショ ガルバノスタットの動作原理と使用にあたり知っておきたいこと 281 軸を電圧, 横軸を電流で表示したとき傾きが試験した抵抗の値になるので数値を比較すればよい 抵抗は金属皮膜抵抗 (F 級,1 %) がよい 抵抗値で 100 mω 以下,1 MΩ 以上になる場合, 適当な抵抗が入手できないことがある また, 入手できたとしても扱い方に注意が必要である 100 mω 以下の低抵抗では接続した電線の抵抗や接触抵抗が誤差になる 1 MΩ 以上の高抵抗は外来ノイズの影響を受けるので電磁シールド ( ファラデーケージ ) が必要である 低抵抗や高抵抗を使う場合は C や L の浮遊成分を考慮する必要がある また, 精度をチェックする場合は, 目的の精度に見合った高精度のものを選択する必要がある 応答速度や交流インピーダンスに関する試験の抵抗は,1 V ( 使用する電流レンジの最大電流値 ) で算出するとよい たとえば,10 ma レンジなら 1 V 10 ma=100 Ωが最適である 6. おわりにポテンショ ガルバノスタットの動作原理の解説をおこない, その知識をもとに装置を使用するときに知っておきたい 注意事項や装置の限界について記した 工学の理論から見ると不正確な表現が多々あると思うが, この分野に馴染みのない方々にイメージをもっていただけるように工夫したつもりである 項目は細かいことを羅列した感はあるが, 日頃よくユーザからでる質問や疑問から選んだ そのため, 系統だった説明にならなかったが, 実際にポテンショ ガルバノスタットを使用する際に役に立てていただければ幸いである 交流インピーダンス法, 液抵抗補正, ノイズ対策など重要な項目に触れることが出来なかったが, 基礎は同じなのでこれらにも応用していただきたい ( Reeived Ferury 13, 2017) 文献 ₁ ) 高橋勝緒 ; 基礎電気化学測定法, 電気化学協会編, p.45(1981). ₂ ) 仁木克己, 高橋正雄 ; 電気化学測定法, 電気化学協会編, p.71 (1972) ₃ ) 岡村廸夫 ; OPアンプ回路の設計 (CQ 出版社, 1973). 47