食 品 中 の 健 康 機 能 性 成 分 の 分 析 法 マニュアル 平 成 22 年 3 月 作 成 四 国 地 域 イノベーション 創 出 協 議 会 地 域 食 品 健 康 分 科 会 編 s-food@m.aist.go.jp 裸 麦 のβ-グルカン 作 成 者 : 愛 媛 県 産 業 技 術 研 究 所 食 品 産 業 技 術 センター 主 任 研 究 員 森 本 聡 主 任 研 究 員 大 野 一 仁 1. 裸 麦 について 1.1 概 要 愛 媛 県 では 裸 麦 の 生 産 が 盛 んに 行 われておりその 生 産 量 は 日 本 一 を 誇 っている 裸 麦 は 大 麦 の 一 種 で 大 麦 はビールやしょうちゅうの 原 料 となる 二 条 大 麦 と 麦 茶 や 押 し 麦 ( 麦 飯 ) 麦 みその 原 料 となる 六 条 大 麦 があり この 中 でさらに 皮 麦 と 裸 麦 に 分 類 される また 裸 麦 は 比 較 的 耐 寒 性 が 弱 いので 四 国 中 国 九 州 など 瀬 戸 内 地 方 を 中 心 とした 比 較 的 温 暖 で 降 水 量 の 少 ない 地 域 での 栽 培 が 多 く 六 条 大 麦 の 栽 培 は 関 東 以 北 に 多 いのが 特 徴 である 1.2 食 品 あるいは 含 有 成 分 の 機 能 性 β-グルカンは 免 疫 力 や 抵 抗 力 を 高 める 作 用 と 体 内 のがん 細 胞 や 感 染 細 胞 を 攻 撃 したりする 作 用 があるといわれている 健 康 食 品 において β-グルカンといえば β-(1 3)-D-グルカンというタイプのβ-グルカンが 免 疫 賦 活 作 用 やガンに 対 する 予 防 効 果 抑 制 効 果 などの 効 能 が 認 められており 一 般 にβ-グルカンとはこの 種 類 を 指 します 一 般 の 人 が 免 疫 賦 活 作 用 や 抗 がん 作 用 を 示 すキノコ 類 の 有 効 成 分 と 答 える ほど 知 名 度 は 高 い 免 疫 力 の 向 上 により アレルギー 反 応 の 沈 静 化 血 糖 値 を 下 げる 血 圧 を 抑 える 腸 を 刺 激 して 便 通 をよくする 作 用 コレステロール 値 を 低 下 させる 働 きなどがあるとされている また 愛 媛 県 においては 県 産 裸 麦 を 主 原 料 として 用 いた 麦 みそ の 生 産 が 盛 んで あり 麹 歩 合 が 高 い 甘 口 のみそとして 特 徴 あるものとなっている 加 えて 愛 媛 県 では こだわりの 製 法 で 醸 造 された 良 質 な 麦 みそを 愛 あるブランド 産 品 として 認 定 して いる あわせて この 裸 麦 をパンやケーキの 原 材 料 の 一 部 として 用 い 特 色 のある 加 工 食 品 が 各 地 で 販 売 されている 1
裸 麦 栽 培 の 様 子 裸 麦 を 使 った 加 工 食 品 ( 試 作 品 ) ( 食 パン クッキー 餅 菓 子 など) 写 真 1-1 裸 麦 および 加 工 食 品 1.2.1 β-グルカン 類 を 含 む 食 品 キノコ 類 には アガリクス 茸 まいたけ( 舞 茸 ) 干 し 椎 茸 しめじ ハナビラタケ メシマコブ カバノアナタケなどがある 酵 母 類 には パン 酵 母 黒 酵 母 オーツ 麦 大 麦 などがある 海 藻 類 には フコイダンなどがある 2.β-グルカンについての 説 明 グルカンとは D 一 グルコースがグリコシド 結 合 でつながったポリマーである 一 つのグルカンの 中 に 二 つの 結 合 様 式 が 混 在 することはあるが α 型 とβ 型 が 混 在 する ことはなく それぞれα 一 グルカン β 一 グルカンといわれている 天 然 に 最 も 多 く 存 在 する 多 糖 類 である 3. 定 量 分 析 の 方 法 について 大 麦 小 麦 等 穀 物 中 に 含 まれる(1,3)(1,4)β-グルカンの 測 定 に 多 用 されている 分 析 法 は 酵 素 を 用 いた McCleary 法 と 呼 ばれ 比 較 的 簡 単 に 測 定 が 可 能 である この 分 析 法 は AACC(American Association of Clinical Chemists) EBC(European Brewing Convention) AOAC(Association of Official Chemists) RACI(Royal Australian Chemical Institute) 標 準 法 等 で 認 められている β-グルカン 量 は 試 料 を 粉 砕 したのち 緩 衝 液 で 懸 濁 リケナーゼを 反 応 させてβ -グルコオリゴ 糖 に 分 解 さらにβ-グルコシダーゼを 作 用 させ 生 成 したグルコー ス 量 を 測 定 し 計 算 により 算 出 される 酵 素 法 を 用 いるβ-グルカン 量 の 測 定 方 法 に ついて 述 べる 2
3.1 準 備 する 器 具 など 1. 電 子 天 秤 (0.1mg が 精 秤 できるもの) 2. 電 子 天 秤 (200g 以 上 が 精 秤 できるもの) 3. 薬 さじ 4.ビーカー 5.メスシリンダー 6.メスフラスコ 7.ふるい(0.5mm) 8.pH 計 9.マイクロピペット(5ml 1ml 0.2ml 容 量 可 変 のもの)およびピペットチップ 10.コニカルチューブ(15ml 容 耐 熱 性 のあるもの) 11. 恒 温 水 槽 (40 で 保 持 可 能 振 とう 機 能 があるとベター) 12. 恒 温 水 槽 もしくはガスコンロ(100 沸 騰 したまま 保 持 可 能 ) 13.ボルテックスミキサー 14. 遠 心 分 離 機 (1,000g) 15.ストップウォッチ 16.マグネチックスターラー 17.クラッシュアイス 18. 分 光 光 度 計 (510nm での 測 定 が 可 能 なもの) 19.キュベット( 光 路 長 10mm) 20. 穀 物 粉 砕 用 ミル [ 試 薬 ] 1.99.5%エタノール( 試 薬 特 級 ) 2.リン 酸 二 水 素 ナトリウム( 二 水 和 物 M.W 156.01)( 試 薬 特 級 ) 3.リン 酸 水 素 二 ナトリウム(12 水 和 物 M.W 358.14)( 試 薬 特 級 ) 4. 酢 酸 ( 試 薬 特 級 ) 5. 水 酸 化 ナトリウム( 無 水 )( 試 薬 特 級 ) 6. 蒸 留 水 7.β-グルカン 測 定 キット(MIXED LINKAGE BETA-GLUCAN ASSY KIT)( 日 本 バイ オコン 株 式 会 社 製 ) (リケナーゼ 溶 液 β-グルコシダーゼ 溶 液 グルコース 測 定 試 薬 グルコー ス 試 薬 緩 衝 液 標 準 グルコース 溶 液 標 準 大 麦 粉 繊 維 標 準 オーツ 麦 繊 維 ) 3.2 試 薬 の 調 製 1.エタノール 水 溶 液 (50% V/V) 99.5%エタノール 50ml と 蒸 留 水 50ml を 混 合 する 2.20mM リン 酸 緩 衝 液 (ph6.5) 20mM リン 酸 二 水 素 ナトリウム 溶 液 (3.12g/l)と 20mM リン 酸 水 素 二 ナトリウ 3
ム 溶 液 (7.16g/L)を 約 7:3 の 割 合 で 混 合 ph が 6.5 となるよう 調 整 する 3.0.2M 酢 酸 ナトリウム 緩 衝 液 (ph4.0) 蒸 留 水 約 900ml に 11.6ml の 酢 酸 を 加 え 混 合 2M 水 酸 化 ナトリウム 溶 液 (8.0g/l)で ph4.0 に 調 整 したのち 1L にメスアップする 4.50mM 酢 酸 ナトリウム 緩 衝 液 (ph4.0) 蒸 留 水 約 900ml に 2.9ml の 酢 酸 を 加 え 混 合 1M 水 酸 化 ナトリウム 溶 液 (4.0g/l) で ph4.0 に 調 整 したのち 1l にメスアップする 5.β グルカン 測 定 キット (ボトル1)リケナーゼ 試 薬 2を 加 えて 20ml とする 100 検 体 分 となるため 当 日 必 要 でないものは 小 分 けにし -20 で 凍 結 保 存 し 要 時 解 凍 して 使 用 (-20 で 2 年 以 上 安 定 ) 溶 液 1 (ボトル2)β-グルコシダーゼ 試 薬 4を 加 えて 20ml とする 100 検 体 分 となるため 当 日 必 要 でないものは 小 分 けにし -20 で 凍 結 保 存 し 要 時 解 凍 して 使 用 (-20 で 2 年 以 上 安 定 ) 溶 液 2 (ボトル3)グルコースオキシダーゼ ペルオキシダーゼ 緩 衝 液 蒸 留 水 を 加 えて 1L とする ボトル4の 酵 素 溶 解 に 使 用 溶 液 3 (ボトル4)グルコースオキシダーゼ ペルオキシダーゼ 溶 液 3を 加 え 凍 結 乾 燥 物 を 溶 解 させ 1L の 酵 素 溶 液 とする ( 遮 光 ガラス 瓶 も しくは アルミニウム 箔 で 遮 光 して 冷 蔵 保 存 2~5 で 3 ヶ 月 間 安 定 ) 溶 液 4 (ボトル5)グルコース 標 準 液 (1.0mg/ml) (ボトル6) 標 準 大 麦 粉 (ボトル7) 標 準 オーツ 麦 3.3 分 析 用 試 料 の 前 処 理 調 整 方 法 および 分 析 方 法 (1) 試 料 を 粉 砕 用 ミル 等 を 用 い 粉 砕 し 0.5mm 以 下 にする (2) コニカルチューブに 約 100mg を 精 秤 する (3) 0.2ml のエタノール 水 溶 液 (50% V/V)を 加 え 試 料 を 分 散 させ さらに 20mM リ ン 酸 緩 衝 液 (ph6.5)を 4.0ml 加 えしっかりと 栓 をして ボルテックスミキサー を 用 いてよく 攪 拌 する (4) 直 ちにチューブを 沸 騰 水 浴 中 に 入 れ 60 秒 間 保 持 した 後 ボルテックスで 攪 拌 再 度 沸 騰 水 浴 中 で 2 分 間 保 持 する (5) チューブを 40 恒 温 水 槽 に 入 れ 保 温 した 後 酵 素 溶 液 溶 液 1 を 0.2ml 加 えボルテックスで 混 合 40 恒 温 水 槽 にて 1 時 間 保 持 する ( 適 宜 攪 拌 する) (6) 0.2M 酢 酸 緩 衝 液 (ph4.0)を 5.0ml 加 え 混 合 し 室 温 まで 冷 却 する (7) 遠 心 分 離 (1,000g 10min)し 上 清 を 0.1ml ずつ 3 本 のコニカルチューブに 4
分 注 する (8) β-グルコシダーゼ(50mm 酢 酸 緩 衝 液 ph4.0) 溶 液 溶 液 2 を 0.1ml 加 え る この 時 酵 素 溶 液 を 2 本 のチューブに 入 れ( 反 応 用 ) 残 りの 1 本 (ブラ ンク)には 酢 酸 緩 衝 液 ( 試 薬 4)のみを 加 える (9) 40 で 10 分 間 反 応 させる (10)グルコースオキシダーゼ ペルオキシダーゼ 混 合 試 薬 溶 液 4 を 3.0ml ず つ 3 本 のコニカルチューブにそれぞれ 加 え 40 で 20 分 間 反 応 させる (11) 室 温 に 冷 却 し 1 時 間 以 内 に 分 光 光 度 計 を 用 いて 510nm の 吸 光 度 を 測 定 する (12) 以 下 によりD-グルコースの 検 量 線 の 作 成 を 行 う 1 2 3 D-グルコース 標 準 液 (1.0mg/ml) 0.00ml 0.05ml 0.10ml 酢 酸 緩 衝 液 (ph4.0) 0.10ml 0.05ml 0.00ml 蒸 留 水 0.10ml 0.10ml 0.10ml GOD POD 混 合 試 薬 溶 液 4 3.00ml 3.00ml 3.00ml 4. 分 析 例 と 定 量 分 析 結 果 4.1 分 光 光 度 計 による 分 析 例 β-グルカンの 定 量 には 標 準 溶 液 を 用 いて 作 成 したD-グルコースの 検 量 線 から 濃 度 を 算 出 する 以 下 に 典 型 的 な 検 量 線 を 示 す 1.2 1 吸 光 度 OD510nm 0.8 0.6 0.4 0.2 0 0 20 40 60 80 100 120 グルコース 濃 度 (μg/ml) 図 4.1-1 D-グルコースの 検 量 線 4.2 計 算 式 β-グルカン(g/100g)=δa F 94 (1/1000) (100/W) (162/180) =ΔA 8.46 F/W ΔA:サンプルの 吸 光 度 -ブランクの 吸 光 度 5
F :100/(グルコーススタンダードの 吸 光 度 - 試 薬 ブランクの 吸 光 度 ) 94: 総 液 量 W : 試 料 の 乾 燥 重 量 (mg) 5. 食 品 の 分 析 結 果 例 上 記 手 法 を 用 いて 大 麦 の 一 種 である 裸 麦 と 裸 麦 を 原 料 として 用 いた 食 品 中 の β-グルカンの 定 量 分 析 を 行 った その 結 果 を 下 記 に 示 す 表 5-1 裸 麦 と 裸 麦 利 用 食 品 のβ-グルカン 含 量 試 料 名 β-グルカン 含 量 (g/100g) マンネンボシ( 裸 麦 品 種 ) 4.8 イチバンボシ( 裸 麦 品 種 ) 4.2 パン 1.6 クッキー 2.5 原 料 の 一 部 に 裸 麦 を 使 用 6. 分 析 上 の 留 意 注 意 点 1. 分 析 方 法 (4)において 沸 騰 水 浴 中 で 加 熱 を 行 う 際 混 合 が 不 十 分 であると ダ マ が 生 じることで 均 一 な 溶 液 とならず 分 析 結 果 にばらつきが 生 じるため 溶 液 に 均 一 に 分 散 するように 気 をつけること 2. 麦 を 含 む 食 品 (パンなど)に 含 まれるβ-グルカンを 分 析 する 際 には 油 脂 分 を 前 処 理 によって 除 く 必 要 がある また 麦 の 含 量 が 少 ない 時 など 検 量 線 から 外 れる 際 には 適 宜 液 量 を 変 更 すると 良 い 7.その 他 特 になし 8. 定 量 法 に 関 する 引 用 参 考 文 献 1.McCleary,B.V.and Codd,R(1991). Measurement of (1-3)(1-4)-β-D-glucan in barley and oats:a streamlined enzymic procedure.j.sci.fd.agric.55,303-312. 以 上 トップページに 戻 る 6