東 京 女 子 医 大 エヴァハート 治 験 訴 訟 について 弁 護 士 安 東 宏 三 (2014/6/27J&T 治 験 塾 ) 東 京 地 裁 H26.2.20. 判 決 東 京 地 裁 平 成 23 年 (ワ) 第 21738 号 民 事 30 部 ( 医 療 集 中 部 ) 判 決 判 例 秘 書 ウエストロージャパン 掲 載 済 み (おって 判 例 時 報 判 例 タイムズ 掲 載 予 定 ) 1
植 え 込 み 型 補 助 人 工 心 臓 LVAS-C01 エヴァハート 山 崎 健 二 医 師 考 案 ( 特 許 取 得 ) 定 常 流 型 体 内 植 え 込 み 型 補 助 人 工 心 臓 : 画 期 的 な 国 産 技 術 として 注 目 サンメディカル 技 術 研 究 所 が 開 発 製 造 サンメディカル 社 はエヴァハート 開 発 目 的 のために 山 崎 家 の 出 資 で 設 立 代 表 者 は 山 崎 医 師 の 実 兄 欧 州 での 臨 床 治 験 で 先 行 (2004~)していた 競 合 他 社 機 種 (デュラハート テルモ 社 )の 存 在 ( のち2010.12. 両 機 種 同 時 承 認 ) 治 験 症 例 確 保 の 困 難 性 :ピボタルスタディでは 目 標 症 例 数 を 確 保 できず 試 験 途 中 で 症 例 登 録 を 打 ち 切 り( 審 査 結 果 報 告 書 打 ち 切 りに 妥 当 性 は 見 出 せない 旨 指 摘 ) :18 例 (パイロット+ピボタル) 中 8 例 が 女 子 医 大 病 院 2
本 件 症 例 女 性 昭 和 42 年 生 まれ 虚 血 性 心 筋 症 による 重 症 心 不 全 患 者 H18.5.21. 循 環 器 内 科 入 院 H18.8.4.~H19.3.29.の 間 のBSA( 体 表 面 積 )は 1.28m2~1.39m2の 間 を 推 移 H19.3.29.エヴァハート 植 え 込 み 手 術 直 前 のBSAは3/8が1.39 手 術 前 日 が1.38 H20.7.11.エヴァハートによる 胃 穿 孔 が 判 明 H20.10.10. 死 亡 訴 訟 に 至 る 経 緯 1(2009 年 ) 内 部 告 発 を 受 けご 遺 族 と 面 談 1/22 週 刊 文 春 発 売 ( 本 件 事 故 報 道 ) 女 子 医 大 病 院 宛 て 申 入 書 ( 第 三 者 による 事 故 調 査 委 員 会 設 置 を 要 請 ) 3/10 薬 害 オンブズパースン 会 議 が 厚 労 相 宛 てに 要 望 書 提 出 3/31 女 子 医 大 病 院 に 対 して 再 度 調 査 委 員 会 設 置 を 申 し 入 れ 12 月 別 件 (2 件 )について 週 刊 文 春 報 道 3
訴 訟 に 至 る 経 緯 2(2010 年 ) 1/18 女 子 医 大 側 から 遺 族 に 対 して 東 京 簡 易 裁 判 所 に 調 停 提 起 ( 別 件 2 件 も 同 様 ) 3/16 遺 族 : 調 停 手 続 においても 改 めて 事 故 調 査 委 員 会 設 置 を 要 請 しつつ 以 後 求 説 明 と 資 料 提 出 要 求 ( 有 害 事 象 報 告 書 議 事 録 等 ) : ビデオ 撮 影 不 実 施 についての 逸 脱 報 告 書 のみ 提 出 ( 他 は 拒 絶 ) 7 月 事 故 調 査 委 員 会 設 置 を 重 ねて 拒 絶 訴 訟 に 至 る 経 緯 3(2010 年 ) 10/7 当 方 は 調 停 打 ち 切 りを 求 めるも 女 子 医 大 側 代 理 人 の 強 い 要 請 で 続 行 11/19 エヴァハート 事 実 上 承 認 ( 薬 事 食 品 衛 生 審 議 会 医 療 機 器 部 会 ) 11/24 調 停 不 調 により 終 了 12/8 エヴァハート 正 式 承 認 2011 年 6 月 遺 族 東 京 地 裁 へ 提 訴 4
訴 訟 化 の 要 因 遺 族 の 第 三 者 専 門 家 による 事 故 調 査 委 員 会 設 置 要 求 を 女 子 医 大 側 は 頑 なに 拒 絶 内 部 調 査 の 経 過 も 開 示 しない 女 子 医 大 側 から 遺 族 に 対 する 民 事 調 停 提 起 (マスコミ 対 策?) 資 料 提 出 要 求 にも 極 めて 消 極 的 な 対 応 承 認 手 続 までの 時 間 稼 ぎ 遺 族 はエヴァハートが 憎 かったわけでは 決 してない(むし ろ 逆 ) 治 験 が 適 正 に 行 われたのかどうかが 知 りたい : 治 験 に 消 極 的 だった 患 者 本 人 を 説 得 して 治 験 を 受 けさせ たことについての 家 族 としての 自 責 の 念 ところが 女 子 医 大 側 の 一 連 の 対 応 は 決 して 誠 実 とは 言 えず 遺 族 感 情 を 逆 撫 で :(マスコミ 対 策 と 承 認 までの 時 間 稼 ぎに 民 事 調 停 を 利 用 された 挙 げ 句 にゼロ 回 答 ) 訴 訟 提 起 を 決 意 : フェアネスを 欠 く 対 応 典 型 的 な 紛 争 化 要 因 5
東 間 院 長 時 代 の 約 束 は? 平 成 13 年 人 工 心 肺 事 故 契 機 に 検 討 平 成 16 年 3 月 3 日 付 東 京 女 子 医 大 病 院 被 害 者 連 絡 会 宛 て 文 書 東 京 女 子 医 大 病 院 医 療 事 故 調 査 検 討 委 員 会 の 流 れ ( 図 1): 内 部 調 査 委 員 会 への 患 者 側 の 参 加 患 者 側 による 調 査 委 員 選 定 外 部 評 価 委 員 会 設 置 に 向 けた 協 議 等 を 約 束 :それはどこに 行 ったのか? 6
訴 訟 の 経 緯 H23.6.30. 提 訴 H25.10.24. 集 中 証 拠 調 H26.2.20. 第 一 審 判 決 言 い 渡 し : 859 万 1027 円 + 遅 延 損 害 金 を 支 払 え ( 一 部 認 容 ) 女 子 医 大 側 東 京 高 裁 に 控 訴 ( 控 訴 審 係 属 中 ) 訴 訟 上 の 争 点 1 : 除 外 基 準 に 関 するプロトコル 違 反 除 外 基 準 : 体 表 面 積 (BSA)<1.4m2 その 趣 旨 : 本 件 患 者 のBSA 除 外 基 準 に 該 当 7
被 告 の 反 論 循 環 器 内 科 入 院 時 の 体 重 ( 自 己 申 告 値 )ではBSA1.48 直 近 または 入 院 時 のデータで 可 とする 10ヶ 月 前 の 循 環 器 内 科 入 院 時 の 数 値 でも 許 容 される 自 己 申 告 値 でも 許 容 される 1.4は 有 効 数 字 2 桁 ゆえ1.38~1.39でも 許 容 される そもそも1.4という 基 準 値 に 医 学 的 に 絶 対 的 な 意 味 があ るわけではなく 医 師 の 裁 量 による 判 断 が 許 容 され 得 る 現 に 体 表 面 積 基 準 は 後 日 の 承 認 の 際 には 不 要 とされた 本 件 プロトコル 作 成 に 関 与 した 専 門 医 も 同 様 の 解 釈 を 支 持 しており それが 作 成 者 意 思 である 訴 訟 上 の 争 点 2 : 除 外 基 準 違 反 の 法 的 効 果 プロトコル 中 被 験 者 保 護 の 見 地 から 定 め られた 規 定 についての 違 反 は 社 会 的 相 当 性 を 逸 脱 し 民 事 法 上 違 法 の 評 価 を 受 ける 除 外 基 準 違 反 に 該 当 している 場 合 は たと え0.01m2の 違 反 であっても 許 されない 8
被 告 の 反 論 ( 除 外 基 準 違 反 を 否 定 しつつ ) 仮 に 違 反 があったとして も プロトコルに 法 規 範 性 は 認 められない プロトコルは むしろ 医 学 的 見 地 から 定 められた 手 順 書 である プロトコルの 解 釈 運 用 も 医 学 的 見 地 から 行 われ 医 師 の 裁 量 が 認 められるべき 仮 に 逸 脱 があったとしても 直 ちに 治 験 の 適 法 性 に 影 響 を 及 ぼすものではなく 民 事 上 の 責 任 については プロト コルの 目 的 趣 旨 逸 脱 の 態 様 程 度 等 も 考 慮 して 判 断 す べき 本 件 では 内 科 的 治 療 では 救 命 困 難 で 補 助 人 工 心 臓 植 え 込 みの 必 要 性 が 高 い 患 者 に 救 命 目 的 で 行 われたもの であることを 考 慮 すべき 訴 訟 上 の 争 点 3 :その 他 のプロトコル 違 反 (1) プロトコル 上 植 え 込 み 手 術 時 のビデオ 撮 影 をすべきこととされているのに 撮 影 不 実 施 9
被 告 の 反 論 逸 脱 報 告 を 適 正 に 行 っている そもそも 本 件 死 亡 とは 無 関 係 訴 訟 上 の 争 点 4 :その 他 のプロトコル 違 反 (2) エヴァハートの 考 案 者 であり 重 大 な 利 害 関 係 を 有 する 山 崎 医 師 が 本 件 植 え 込 み 手 術 の 同 意 取 得 に 関 与 している これは 利 害 関 係 に 鑑 み 山 崎 医 師 の 治 験 への 関 与 を 限 定 している 本 件 プロトコルへ の 違 反 と 解 される 10
被 告 の 反 論 山 崎 医 師 は 情 報 提 供 を 行 ったに 過 ぎず 同 意 取 得 は 手 続 上 別 の 医 師 が 行 っている そもそも 本 件 プロトコル 上 山 崎 医 師 に 同 意 取 得 や 説 明 についての 関 与 を 禁 止 し ている 規 定 はないから プロトコル 違 反 は あり 得 ない 訴 訟 上 の 争 点 5 : 説 明 義 務 違 反 (1) 人 体 実 験 という 治 験 の 本 質 に 鑑 みれば 被 験 者 の 自 己 決 定 権 は 最 大 限 保 障 されな ければならず したがって 通 常 の 医 療 行 為 の 場 合 よりも 加 重 された 説 明 義 務 を 負 う 他 の 治 療 方 法 についての 適 切 な 説 明 の 欠 如 利 益 相 反 についての 説 明 の 欠 如 不 適 切 な 説 明 方 法 心 理 的 強 制 11
被 告 の 反 論 説 明 義 務 は 尽 くされており 説 明 義 務 違 反 はない 他 の 治 療 方 法 については 説 明 している 利 益 相 反 については 説 明 をしている( 原 告 は 否 定 ) また 医 療 機 器 GCP 省 令 上 も 説 明 を 要 求 されていない 不 適 切 な 説 明 方 法 心 理 的 強 制 もない 訴 訟 上 の 争 点 6 : 説 明 義 務 違 反 (2) (そもそも 本 件 は 除 外 基 準 違 反 で 治 験 の 適 法 性 を 欠 いており その 瑕 疵 は 本 来 説 明 義 務 の 履 行 によっても 治 癒 されないが ) 仮 に 何 らかの 理 由 により 本 件 で 例 外 的 に 治 験 の 実 施 が 許 容 され るとしても その 場 合 は 更 に 加 重 された 説 明 義 務 を 負 う 除 外 基 準 の 存 在 当 該 除 外 基 準 の 想 定 する 危 険 性 本 件 症 例 が 除 外 基 準 に 該 当 していること にもかかわらずなぜ 除 外 しないのかの 理 由 等 を 説 明 し 患 者 に 熟 慮 し 選 択 する 機 会 を 与 えるべ き 義 務 がある 12
被 告 の 反 論 医 療 機 器 GCPは 個 々の 除 外 基 準 につい ての 説 明 を 要 求 していない そもそもBSA1.38~1.39であったとしても 何 らの 具 体 的 危 険 性 も 想 定 されず 植 え 込 みの 危 険 性 が 増 大 するわけでもなく そ の 差 を 議 論 する 医 学 的 意 味 もないから 説 明 すべき 義 務 はない 訴 訟 上 の 争 点 7 : 医 学 的 機 序 因 果 関 係 本 件 患 者 は 本 件 植 え 込 み 手 術 の 合 併 症 により 死 亡 したものである 本 件 植 え 込 み 手 術 は 民 事 上 違 法 の 評 価 を 受 け るものであるので 違 法 行 為 による 死 亡 と 位 置 付 けられる 本 件 において 検 討 されるべきは 本 件 植 え 込 み 手 術 の 実 施 と 死 亡 との 関 連 性 であり 体 表 面 積 が1.4を 下 回 っていたこと と 死 亡 との 関 連 性 では ない 13
( 原 告 主 張 の 続 き) 本 件 のような 作 為 型 の 医 療 事 故 において 問 題 とされるべきは 原 因 と 目 される 行 為 (プロトコル に 違 反 する 違 法 な 植 え 込 み 手 術 )と 現 に 生 じた 具 体 的 な 死 亡 との 事 実 的 因 果 関 係 ( あれなけ ればこれなし の 関 係 )の 有 無 である 原 因 行 為 がなかったと 仮 定 した 場 合 の 生 命 予 後 は 損 害 額 の 算 定 にあたって 考 慮 されるべき 事 情 であって 死 亡 との 因 果 関 係 の 存 否 に 関 する 判 断 を 直 ちに 左 右 するものではない 最 判 H11.2.25.( 判 タ997-159) 肝 癌 見 落 とし 事 件 不 作 為 型 医 療 事 故 ( 治 療 不 実 施 型 )について 因 果 関 係 の 存 否 の 判 断 基 準 を 提 示 した 著 名 判 例 この 判 決 で 最 高 裁 は 人 の 死 を 歴 史 的 1 回 的 事 実 としての 具 体 的 な 死 という 概 念 操 作 を 介 し て 当 該 時 点 における 死 亡 を 回 避 できたか 否 かを 問 うことで 延 命 可 能 性 を 論 じることなく 因 果 関 係 を 認 定 することを 可 能 にした( 生 命 予 後 について は 損 害 評 価 の 問 題 であるとして 峻 別 ) 本 件 判 決 にも 影 響 14
被 告 の 反 論 補 助 人 工 心 臓 のサイズが 胃 穿 孔 の 原 因 となった かどうかは 医 学 的 に 不 明 脳 出 血 脳 梗 塞 は 補 助 人 工 心 臓 による 治 療 に 伴 う 合 併 症 として 最 も 多 く 認 められるもののひとつ 本 件 植 え 込 み 手 術 と 本 件 死 亡 との 医 学 的 機 序 は 不 明 病 理 解 剖 で 判 明 した 線 維 筋 性 異 形 成 症 による 血 管 病 変 の 影 響 もありうる 原 疾 患 による 予 後 不 良 性 も 考 慮 すべき 訴 訟 上 の 争 点 8 : 損 害 論 ( 判 決 文 参 照 ) 15
裁 判 所 の 判 断 1 : 除 外 基 準 違 反 の 有 無 プロトコルの 作 成 遵 守 を 求 める 主 たる 目 的 は 科 学 的 なデータの 正 確 性 を 担 保 することにあると 解 されるが 他 方 治 験 が 未 だ 人 体 に 対 する 安 全 性 が 確 認 されておらず 医 療 行 為 として 認 可 を 受 けていない 段 階 において 人 体 に 対 する 侵 襲 を 伴 う 行 為 を 実 施 する 性 格 を 有 するものであるこ とを 勘 案 すれば プロトコルは その 治 験 の 内 容 方 法 を 画 するものとして 治 験 実 施 の 正 当 性 を 基 礎 づける 意 味 合 いをもつものというべきであ る そうすると 少 なくとも 人 体 に 対 する 安 全 性 に 関 わる 事 項 については データの 正 確 性 の 担 保 のためにとどまらず 被 験 者 保 護 の 観 点 からも 医 療 行 為 の 場 合 と 比 べてより 慎 重 な 対 応 が 図 られ 厳 格 な 解 釈 がされるべきであり 安 易 に 治 験 実 施 者 の 裁 量 を 認 めることは 相 当 といえない 解 釈 にあたっての 厳 格 性 を 要 求 16
本 件 除 外 基 準 が 定 められた 趣 旨 は エヴ ァハートを 植 え 込 む 胸 腔 腹 腔 スペースが 十 分 でない 体 格 の 小 さな 患 者 を 除 外 し エ ヴァハートによる 周 辺 臓 器 等 への 圧 迫 によ って 合 併 症 が 生 ずる 危 険 性 を 避 けることに あるのであるから 本 件 除 外 基 準 が 人 体 に 対 する 安 全 性 にかかわる 事 項 を 定 める ものであることは 明 らか 直 近 または 入 院 時 のデータで 可 とする 厳 格 解 釈 の 観 点 から ここにいう 入 院 とは 原 則 として エヴァハート 植 え 込 み 手 術 を 目 的 とする 入 院 を 想 定 した ものと 解 し H18.5.21.の 循 環 器 内 科 入 院 時 の 自 己 申 告 値 ( 被 告 主 張 )によることを 認 めず 本 件 患 者 が 入 院 3ヶ 月 後 から 本 件 植 え 込 み 手 術 までの 間 一 度 も1.4を 超 えていなかったにもかかわらず 敢 えて 入 院 時 のデータを 用 いることの 不 合 理 性 をも 指 摘 し 形 式 面 実 質 面 どちらの 側 面 から 見 ても 本 件 除 外 基 準 に 該 当 していたといわざるを 得 ない とも 判 示 有 効 数 字 の 議 論 も 斥 ける 17
裁 判 所 の 判 断 2 :プロトコル 違 反 と 民 事 上 の 責 任 本 来 治 験 は 未 だ 人 体 に 対 する 安 全 性 が 確 認 されておらず 医 療 行 為 として 認 可 を 受 けてい ない 段 階 において 人 体 に 対 する 侵 襲 を 伴 う 行 為 を 実 施 する 性 格 を 有 するものであるからこそ プロトコルを 定 め これを 遵 守 することにより 治 験 実 施 の 正 当 性 が 基 礎 づけられることに 思 いを 致 せば 治 験 実 施 者 に 危 険 性 安 全 性 の 存 否 や 程 度 の 実 質 的 判 断 を 委 ねるなどということは 想 定 しがたいというほかない そもそも 治 験 においては 危 険 性 安 全 性 の 存 否 や 程 度 を 判 断 するための 適 確 なデータが 存 在 しておらず そのデータ 収 集 のためにも プロトコ ルの 遵 守 が 期 待 されているわけであるから 治 験 実 施 者 の 判 断 の 的 確 性 自 体 検 証 のしようが ないものである したがって 治 験 実 施 者 の 裁 量 で 危 険 性 安 全 性 の 存 否 や 程 度 を 判 断 し 治 験 を 実 施 するなどということは 厳 に 慎 むべきと 言 わざるを 得 ない 18
また 民 事 上 の 違 法 性 という 観 点 に 立 てば 被 験 者 の 権 利 保 護 に 十 分 な 配 慮 がなされる 必 要 があることは 当 然 であるが プロトコルの 内 容 は 現 実 には 被 験 者 におい て 治 験 に 参 加 するか 否 かを 判 断 するに 際 して 唯 一 の 客 観 的 な 資 料 になるものと 考 えられ 被 験 者 は 治 験 に 参 加 するにあたって 当 然 にプロトコルの 内 容 が 遵 守 され ることを 前 提 としているものと 考 えられる したがって 両 当 事 者 の 合 意 内 容 という 意 味 合 いにおい ても プロトコルの 内 容 は 合 意 の 一 部 を 形 成 するものと いうべきであるから その 違 反 は 民 事 法 上 の 違 法 性 を 有 するものと 認 められるべきである 以 上 によれば 民 事 法 上 も 違 法 と 評 価 せざるを 得 ない 裁 判 所 の 判 断 3 : 因 果 関 係 エヴァハートの 植 え 込 みによる 何 らかの 悪 影 響 が 引 き 金 となって 死 亡 したと 考 える ことは 十 分 な 合 理 性 を 有 するものというべ き エヴァハートの 植 え 込 みの 影 響 と 死 亡 と の 因 果 関 係 の 存 在 を 認 めることが 相 当 で ある 19
なお 被 告 は 体 表 面 積 が1.4m2を 下 回 っていたことと 死 亡 との 因 果 関 係 の 必 要 性 を 強 調 するが 本 件 除 外 義 務 違 反 により 本 件 植 え 込 み 手 術 の 実 施 自 体 が 違 法 のそ しりを 免 れえないものとなる 以 上 は 本 件 植 え 込 み 手 術 の 実 施 と 生 じた 結 果 との 間 の 因 果 関 係 を 論 ずれば 足 るものであるか ら 被 告 の 主 張 は 採 用 できない また 被 告 は 原 疾 患 による 予 後 不 良 や 体 外 設 置 型 補 助 人 工 心 臓 を 選 択 した 場 合 の 予 後 不 良 を 指 摘 し 本 件 植 え 込 み 手 術 を 実 施 しなかった 場 合 においても 現 実 の 死 亡 の 時 点 で 生 存 していた 高 度 の 蓋 然 性 は 存 在 せず 義 務 違 反 と 死 亡 との 間 に 因 果 関 係 はない 旨 を 主 張 する しかし 原 告 が 反 論 するとおり 因 果 関 係 について 本 件 において 問 題 とされるべきは 原 因 と 目 される 行 為 ( 本 件 プロトコルに 違 反 する 違 法 な 本 件 植 え 込 み 手 術 )と 現 に 生 じた 死 亡 ( 脳 出 血 を 原 因 とする 平 成 20 年 10 月 10 日 の 死 亡 )との 間 の 因 果 関 係 の 有 無 であり そうである 以 上 原 因 行 為 がなかったと 仮 定 した 場 合 の 生 命 予 後 を 考 慮 する 余 地 はないというべきである 20
裁 判 所 の 判 断 4 : 損 害 論 本 人 慰 謝 料 として500 万 円 ( 予 後 の 不 良 性 等 を 考 慮 ) 母 親 の 親 族 固 有 の 慰 謝 料 と して50 万 円 その 他 に 葬 儀 費 用 カルテ 開 示 費 用 弁 護 士 費 用 を 認 め 合 計 859 万 1027 円 を 認 容 した 検 討 1 プロトコル 違 反 の 認 定 について 治 験 の 本 質 に 鑑 み プロトコルのうち 被 験 者 の 安 全 性 に 関 わる 事 項 については 被 験 者 保 護 の 観 点 から 厳 格 に 解 釈 されなけ ればならないことを 明 示 この 点 についての 治 験 実 施 者 による 裁 量 判 断 ( 緩 和 方 向 での)を 厳 しく 排 除 プロトコル 解 釈 の 基 本 姿 勢 を 改 めて 示 すもの 21
プロトコルの 規 定 の 性 質 に 着 目 した 解 釈 論 形 式 解 釈 か 実 質 解 釈 か cf. 入 院 時 : 裁 判 所 による 事 後 的 な 実 質 解 釈 による 不 意 打 ちの 危 険?? ( 本 件 では 論 点 にしなかったが ) 仮 にプロ トコルの 規 定 ぶりそのものに 不 備 があった 場 合 その 責 任 主 体 は? プロトコル 作 成 者 の 責 任 論 は? プロトコルの 問 題 点 を 指 摘 しなかったと すれば IRB 構 成 員 等 の 責 任 論 もあり 得 る か? 22
検 討 2 :プロトコル 違 反 の 民 事 上 の 効 果 プロトコルのうち 被 験 者 保 護 規 定 の 法 規 範 性 を 明 確 に 認 め 社 会 的 相 当 性 を 逸 脱 するものとして 違 法 評 価 (cf. 同 旨 愛 知 県 がんセンター 事 件 名 古 屋 地 裁 H12.3.24. 判 決 ) 合 意 の 一 部 を 形 成 するもの 被 験 者 に 対 する 契 約 責 任 的 構 成 も 念 頭 に Cf. プロトコルは 被 験 者 に 開 示 されていないから 合 意 内 容 にならない? しかしこの 点 については 約 款 の 拘 束 力 とパラレ ルな 議 論 が 可 能 なのではないか 検 討 3 : 因 果 関 係 肝 癌 見 落 とし 事 件 ( 最 判 前 掲 )における 論 理 的 枠 組 み(= 因 果 関 係 論 と 損 害 論 の 峻 別 )を 前 提 に 作 為 型 医 療 事 故 と 不 作 為 型 医 療 事 故 についての 立 証 命 題 の 違 いに 着 目 し 作 為 型 の 場 合 因 果 関 係 については 条 件 関 係 の 存 在 で 足 ると 判 断 23
高 度 の 蓋 然 性 論 と 相 当 程 度 の 可 能 性 論 の 位 置 付 けは? 差 額 説 との 理 論 的 関 係 は?(そこに 損 害 はあるのか) 立 証 責 任 : 法 律 要 件 分 類 説 によれば 原 則 原 告 しかし 治 験 においても 同 様 で 良 いのか?また そのことは 被 験 者 に 説 明 さ れているのか? 検 討 4 : 本 件 判 決 が 触 れなかった 論 点 利 益 相 反 関 係 にある 医 師 が 治 験 に 関 与 すること (たとえば 同 意 取 得 への 関 与 )はプロトコル 違 反 と 解 されるか?(cf. 契 約 責 任 的 構 成 ) 利 益 相 反 の 事 実 は 説 明 しなければならない 事 項 ( 説 明 義 務 の 対 象 )となるか? 除 外 基 準 違 反 であっても 何 らかの 理 由 で 当 該 医 療 機 器 ( 医 薬 品 )を 使 用 した 治 療 が 許 されるとす ればその 許 容 要 件 は? (compassionate use 説 明 義 務 の 範 囲 等 ) 24