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4 乙 は 天 災 地 変 戦 争 暴 動 内 乱 法 令 の 制 定 改 廃 輸 送 機 関 の 事 故 その 他 の 不 可 抗 力 により 第 1 項 及 び 第 2 項 に 定 める 業 務 期 日 までに 第 1 条 第 3 項 の 適 合 書 を 交 付 することができない 場 合 は

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ていることから それに 先 行 する 形 で 下 請 業 者 についても 対 策 を 講 じることとしまし た 本 県 としましては それまでの 間 に 未 加 入 の 建 設 業 者 に 加 入 していただきますよう 28 年 4 月 から 実 施 することとしました 問 6 公 共 工 事 の

( 別 紙 ) 以 下 法 とあるのは 改 正 法 第 5 条 の 規 定 による 改 正 後 の 健 康 保 険 法 を 指 す ( 施 行 期 日 は 平 成 28 年 4 月 1 日 ) 1. 標 準 報 酬 月 額 の 等 級 区 分 の 追 加 について 問 1 法 改 正 により 追 加

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平 成 27 年 11 月 ~ 平 成 28 年 4 月 に 公 開 の 対 象 となった 専 門 協 議 等 における 各 専 門 委 員 等 の 寄 附 金 契 約 金 等 の 受 取 状 況 審 査 ( 別 紙 ) 専 門 協 議 等 の 件 数 専 門 委 員 数 500 万 円 超 の 受

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( 運 用 制 限 ) 第 5 条 労 働 基 準 局 は 本 システムの 維 持 補 修 の 必 要 があるとき 天 災 地 変 その 他 の 事 由 によりシステムに 障 害 又 は 遅 延 の 生 じたとき その 他 理 由 の 如 何 を 問 わず その 裁 量 により システム 利 用 者

続 に 基 づく 一 般 競 争 ( 指 名 競 争 ) 参 加 資 格 の 再 認 定 を 受 けていること ) c) 会 社 更 生 法 に 基 づき 更 生 手 続 開 始 の 申 立 てがなされている 者 又 は 民 事 再 生 法 に 基 づき 再 生 手 続 開 始 の 申 立 てがなさ

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損 益 計 算 書 ( 自 平 成 25 年 4 月 1 日 至 平 成 26 年 3 月 31 日 ) ( 単 位 : 百 万 円 ) 科 目 金 額 営 業 収 益 75,917 取 引 参 加 料 金 39,032 上 場 関 係 収 入 11,772 情 報 関 係 収 入 13,352 そ

(4) 運 転 する 学 校 職 員 が 交 通 事 故 を 起 こし 若 しくは 交 通 法 規 に 違 反 したことにより 刑 法 ( 明 治 40 年 法 律 第 45 号 ) 若 しくは 道 路 交 通 法 に 基 づく 刑 罰 を 科 せられてから1 年 を 経 過 していない 場 合 同

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2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 平 成 27 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 役 名 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 2,142 ( 地 域 手 当 ) 17,205 11,580 3,311 4 月 1

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ができます 4. 対 象 取 引 の 範 囲 第 1 項 のポイント 付 与 の 具 体 的 な 条 件 対 象 取 引 自 体 の 条 件 は 各 加 盟 店 が 定 めます 5.ポイントサービスの 利 用 終 了 その 他 いかなる 理 由 によっても 付 与 されたポイントを 換 金 すること

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3. 選 任 固 定 資 産 評 価 員 は 固 定 資 産 の 評 価 に 関 する 知 識 及 び 経 験 を 有 する 者 のうちから 市 町 村 長 が 当 該 市 町 村 の 議 会 の 同 意 を 得 て 選 任 する 二 以 上 の 市 町 村 の 長 は 当 該 市 町 村 の 議

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2 前 項 に 定 める 日 に 支 給 する 給 与 は 総 額 給 与 を12 分 割 した 額 ( 以 下 給 与 月 額 という ) 扶 養 手 当 住 居 手 当 通 勤 手 当 単 身 赴 任 手 当 寒 冷 地 手 当 及 び 業 績 手 当 並 びに 前 月 分 の 超 過 勤 務

はファクシミリ 装 置 を 用 いて 送 信 し 又 は 訪 問 する 方 法 により 当 該 債 務 を 弁 済 す ることを 要 求 し これに 対 し 債 務 者 等 から 直 接 要 求 しないよう 求 められたにもかか わらず 更 にこれらの 方 法 で 当 該 債 務 を 弁 済 するこ

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は 共 有 名 義 )で 所 有 権 保 存 登 記 又 は 所 有 権 移 転 登 記 を された も の で あ る こと (3) 居 室 便 所 台 所 及 び 風 呂 を 備 え 居 住 の ために 使 用 す る 部 分 の 延 べ 床 面 積 が 5 0 平 方 メ ー ト ル 以 上

2 前 項 前 段 の 規 定 にかかわらず 年 俸 制 教 職 員 から 申 し 出 があった 場 合 においては 労 使 協 定 に 基 づき その 者 に 対 する 給 与 の 全 額 又 は 一 部 を 年 俸 制 教 職 員 が 希 望 する 金 融 機 関 等 の 本 人 名 義 の 口

ー ただお 課 長 を 表 示 するものとする ( 第 三 者 に 対 する 許 諾 ) 第 4 条 甲 は 第 三 者 に 対 して 本 契 約 において 乙 に 与 えた 許 諾 と 同 一 又 は 類 似 の 許 諾 を することができる この 場 合 において 乙 は 甲 に 対 して 当

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根 本 確 根 本 確 民 主 率 運 民 主 率 運 確 施 保 障 確 施 保 障 自 治 本 旨 現 資 自 治 本 旨 現 資 挙 管 挙 管 代 表 監 査 教 育 代 表 監 査 教 育 警 視 総 監 道 府 県 警 察 本 部 市 町 村 警 視 総 監 道 府 県 警 察 本 部

接 支 払 制 度 を 活 用 するか 意 思 を 確 認 する 確 認 に 当 たっては 次 の 各 号 に 掲 げる 事 項 について 書 面 により 世 帯 主 の 合 意 を 得 て 代 理 契 約 を 締 結 するものとする (1) 医 療 機 関 等 が 本 市 に 対 し 世 帯 主

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中 間 利 払 日 とし 預 入 日 または 前 回 の 中 間 利 払 日 からその 中 間 利 払 日 の 前 日 までの 日 数 および 通 帳 または 証 書 記 載 の 中 間 利 払 利 率 によって 計 算 した 中 間 利 払 額 ( 以 下 中 間 払 利 息 といいます )を 利

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者 が 在 学 した 期 間 の 年 数 を 乗 じて 得 た 額 から 当 該 者 が 在 学 した 期 間 に 納 付 すべき 授 業 料 の 総 額 を 控 除 した 額 を 徴 収 するものとする 3 在 学 生 が 長 期 履 修 学 生 として 認 められた 場 合 の 授 業 料 の

(2) 検 体 採 取 に 応 ずること (3) ドーピング 防 止 と 関 連 して 自 己 が 摂 取 し 使 用 するものに 責 任 をもつこと (4) 医 師 に 禁 止 物 質 及 び 禁 止 方 法 を 使 用 してはならないという 自 己 の 義 務 を 伝 え 自 己 に 施 される

疑わしい取引の参考事例

弁護士が精選! 重要労働判例 - 第7回 学校法人専修大学(地位確認等反訴請求控訴)事件 | WEB労政時報(WEB限定記事)

年 金 払 い 退 職 給 付 制 度 における 年 金 財 政 のイメージ 積 立 時 給 付 時 給 付 定 基 (1/2) で 年 金 を 基 準 利 率 で 付 利 給 付 定 基 ( 付 与 利 の ) 有 期 年 金 終 身 年 金 退 職 1 年 2 年 1 月 2 月 ( 終 了 )

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●労働基準法等の一部を改正する法律案

後 にまで 及 んでおり(このような 外 部 研 究 資 金 を 以 下 契 約 理 由 研 究 という ) かつ その 者 が 退 職 後 も 引 き 続 き 研 究 代 表 者 となることを 研 究 所 が 認 める 場 合 とし 理 事 室 の 命 を 受 けて 発 議 書 ( 別 に 定 め

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東 京 女 子 医 大 エヴァハート 治 験 訴 訟 について 弁 護 士 安 東 宏 三 (2014/6/27J&T 治 験 塾 ) 東 京 地 裁 H26.2.20. 判 決 東 京 地 裁 平 成 23 年 (ワ) 第 21738 号 民 事 30 部 ( 医 療 集 中 部 ) 判 決 判 例 秘 書 ウエストロージャパン 掲 載 済 み (おって 判 例 時 報 判 例 タイムズ 掲 載 予 定 ) 1

植 え 込 み 型 補 助 人 工 心 臓 LVAS-C01 エヴァハート 山 崎 健 二 医 師 考 案 ( 特 許 取 得 ) 定 常 流 型 体 内 植 え 込 み 型 補 助 人 工 心 臓 : 画 期 的 な 国 産 技 術 として 注 目 サンメディカル 技 術 研 究 所 が 開 発 製 造 サンメディカル 社 はエヴァハート 開 発 目 的 のために 山 崎 家 の 出 資 で 設 立 代 表 者 は 山 崎 医 師 の 実 兄 欧 州 での 臨 床 治 験 で 先 行 (2004~)していた 競 合 他 社 機 種 (デュラハート テルモ 社 )の 存 在 ( のち2010.12. 両 機 種 同 時 承 認 ) 治 験 症 例 確 保 の 困 難 性 :ピボタルスタディでは 目 標 症 例 数 を 確 保 できず 試 験 途 中 で 症 例 登 録 を 打 ち 切 り( 審 査 結 果 報 告 書 打 ち 切 りに 妥 当 性 は 見 出 せない 旨 指 摘 ) :18 例 (パイロット+ピボタル) 中 8 例 が 女 子 医 大 病 院 2

本 件 症 例 女 性 昭 和 42 年 生 まれ 虚 血 性 心 筋 症 による 重 症 心 不 全 患 者 H18.5.21. 循 環 器 内 科 入 院 H18.8.4.~H19.3.29.の 間 のBSA( 体 表 面 積 )は 1.28m2~1.39m2の 間 を 推 移 H19.3.29.エヴァハート 植 え 込 み 手 術 直 前 のBSAは3/8が1.39 手 術 前 日 が1.38 H20.7.11.エヴァハートによる 胃 穿 孔 が 判 明 H20.10.10. 死 亡 訴 訟 に 至 る 経 緯 1(2009 年 ) 内 部 告 発 を 受 けご 遺 族 と 面 談 1/22 週 刊 文 春 発 売 ( 本 件 事 故 報 道 ) 女 子 医 大 病 院 宛 て 申 入 書 ( 第 三 者 による 事 故 調 査 委 員 会 設 置 を 要 請 ) 3/10 薬 害 オンブズパースン 会 議 が 厚 労 相 宛 てに 要 望 書 提 出 3/31 女 子 医 大 病 院 に 対 して 再 度 調 査 委 員 会 設 置 を 申 し 入 れ 12 月 別 件 (2 件 )について 週 刊 文 春 報 道 3

訴 訟 に 至 る 経 緯 2(2010 年 ) 1/18 女 子 医 大 側 から 遺 族 に 対 して 東 京 簡 易 裁 判 所 に 調 停 提 起 ( 別 件 2 件 も 同 様 ) 3/16 遺 族 : 調 停 手 続 においても 改 めて 事 故 調 査 委 員 会 設 置 を 要 請 しつつ 以 後 求 説 明 と 資 料 提 出 要 求 ( 有 害 事 象 報 告 書 議 事 録 等 ) : ビデオ 撮 影 不 実 施 についての 逸 脱 報 告 書 のみ 提 出 ( 他 は 拒 絶 ) 7 月 事 故 調 査 委 員 会 設 置 を 重 ねて 拒 絶 訴 訟 に 至 る 経 緯 3(2010 年 ) 10/7 当 方 は 調 停 打 ち 切 りを 求 めるも 女 子 医 大 側 代 理 人 の 強 い 要 請 で 続 行 11/19 エヴァハート 事 実 上 承 認 ( 薬 事 食 品 衛 生 審 議 会 医 療 機 器 部 会 ) 11/24 調 停 不 調 により 終 了 12/8 エヴァハート 正 式 承 認 2011 年 6 月 遺 族 東 京 地 裁 へ 提 訴 4

訴 訟 化 の 要 因 遺 族 の 第 三 者 専 門 家 による 事 故 調 査 委 員 会 設 置 要 求 を 女 子 医 大 側 は 頑 なに 拒 絶 内 部 調 査 の 経 過 も 開 示 しない 女 子 医 大 側 から 遺 族 に 対 する 民 事 調 停 提 起 (マスコミ 対 策?) 資 料 提 出 要 求 にも 極 めて 消 極 的 な 対 応 承 認 手 続 までの 時 間 稼 ぎ 遺 族 はエヴァハートが 憎 かったわけでは 決 してない(むし ろ 逆 ) 治 験 が 適 正 に 行 われたのかどうかが 知 りたい : 治 験 に 消 極 的 だった 患 者 本 人 を 説 得 して 治 験 を 受 けさせ たことについての 家 族 としての 自 責 の 念 ところが 女 子 医 大 側 の 一 連 の 対 応 は 決 して 誠 実 とは 言 えず 遺 族 感 情 を 逆 撫 で :(マスコミ 対 策 と 承 認 までの 時 間 稼 ぎに 民 事 調 停 を 利 用 された 挙 げ 句 にゼロ 回 答 ) 訴 訟 提 起 を 決 意 : フェアネスを 欠 く 対 応 典 型 的 な 紛 争 化 要 因 5

東 間 院 長 時 代 の 約 束 は? 平 成 13 年 人 工 心 肺 事 故 契 機 に 検 討 平 成 16 年 3 月 3 日 付 東 京 女 子 医 大 病 院 被 害 者 連 絡 会 宛 て 文 書 東 京 女 子 医 大 病 院 医 療 事 故 調 査 検 討 委 員 会 の 流 れ ( 図 1): 内 部 調 査 委 員 会 への 患 者 側 の 参 加 患 者 側 による 調 査 委 員 選 定 外 部 評 価 委 員 会 設 置 に 向 けた 協 議 等 を 約 束 :それはどこに 行 ったのか? 6

訴 訟 の 経 緯 H23.6.30. 提 訴 H25.10.24. 集 中 証 拠 調 H26.2.20. 第 一 審 判 決 言 い 渡 し : 859 万 1027 円 + 遅 延 損 害 金 を 支 払 え ( 一 部 認 容 ) 女 子 医 大 側 東 京 高 裁 に 控 訴 ( 控 訴 審 係 属 中 ) 訴 訟 上 の 争 点 1 : 除 外 基 準 に 関 するプロトコル 違 反 除 外 基 準 : 体 表 面 積 (BSA)<1.4m2 その 趣 旨 : 本 件 患 者 のBSA 除 外 基 準 に 該 当 7

被 告 の 反 論 循 環 器 内 科 入 院 時 の 体 重 ( 自 己 申 告 値 )ではBSA1.48 直 近 または 入 院 時 のデータで 可 とする 10ヶ 月 前 の 循 環 器 内 科 入 院 時 の 数 値 でも 許 容 される 自 己 申 告 値 でも 許 容 される 1.4は 有 効 数 字 2 桁 ゆえ1.38~1.39でも 許 容 される そもそも1.4という 基 準 値 に 医 学 的 に 絶 対 的 な 意 味 があ るわけではなく 医 師 の 裁 量 による 判 断 が 許 容 され 得 る 現 に 体 表 面 積 基 準 は 後 日 の 承 認 の 際 には 不 要 とされた 本 件 プロトコル 作 成 に 関 与 した 専 門 医 も 同 様 の 解 釈 を 支 持 しており それが 作 成 者 意 思 である 訴 訟 上 の 争 点 2 : 除 外 基 準 違 反 の 法 的 効 果 プロトコル 中 被 験 者 保 護 の 見 地 から 定 め られた 規 定 についての 違 反 は 社 会 的 相 当 性 を 逸 脱 し 民 事 法 上 違 法 の 評 価 を 受 ける 除 外 基 準 違 反 に 該 当 している 場 合 は たと え0.01m2の 違 反 であっても 許 されない 8

被 告 の 反 論 ( 除 外 基 準 違 反 を 否 定 しつつ ) 仮 に 違 反 があったとして も プロトコルに 法 規 範 性 は 認 められない プロトコルは むしろ 医 学 的 見 地 から 定 められた 手 順 書 である プロトコルの 解 釈 運 用 も 医 学 的 見 地 から 行 われ 医 師 の 裁 量 が 認 められるべき 仮 に 逸 脱 があったとしても 直 ちに 治 験 の 適 法 性 に 影 響 を 及 ぼすものではなく 民 事 上 の 責 任 については プロト コルの 目 的 趣 旨 逸 脱 の 態 様 程 度 等 も 考 慮 して 判 断 す べき 本 件 では 内 科 的 治 療 では 救 命 困 難 で 補 助 人 工 心 臓 植 え 込 みの 必 要 性 が 高 い 患 者 に 救 命 目 的 で 行 われたもの であることを 考 慮 すべき 訴 訟 上 の 争 点 3 :その 他 のプロトコル 違 反 (1) プロトコル 上 植 え 込 み 手 術 時 のビデオ 撮 影 をすべきこととされているのに 撮 影 不 実 施 9

被 告 の 反 論 逸 脱 報 告 を 適 正 に 行 っている そもそも 本 件 死 亡 とは 無 関 係 訴 訟 上 の 争 点 4 :その 他 のプロトコル 違 反 (2) エヴァハートの 考 案 者 であり 重 大 な 利 害 関 係 を 有 する 山 崎 医 師 が 本 件 植 え 込 み 手 術 の 同 意 取 得 に 関 与 している これは 利 害 関 係 に 鑑 み 山 崎 医 師 の 治 験 への 関 与 を 限 定 している 本 件 プロトコルへ の 違 反 と 解 される 10

被 告 の 反 論 山 崎 医 師 は 情 報 提 供 を 行 ったに 過 ぎず 同 意 取 得 は 手 続 上 別 の 医 師 が 行 っている そもそも 本 件 プロトコル 上 山 崎 医 師 に 同 意 取 得 や 説 明 についての 関 与 を 禁 止 し ている 規 定 はないから プロトコル 違 反 は あり 得 ない 訴 訟 上 の 争 点 5 : 説 明 義 務 違 反 (1) 人 体 実 験 という 治 験 の 本 質 に 鑑 みれば 被 験 者 の 自 己 決 定 権 は 最 大 限 保 障 されな ければならず したがって 通 常 の 医 療 行 為 の 場 合 よりも 加 重 された 説 明 義 務 を 負 う 他 の 治 療 方 法 についての 適 切 な 説 明 の 欠 如 利 益 相 反 についての 説 明 の 欠 如 不 適 切 な 説 明 方 法 心 理 的 強 制 11

被 告 の 反 論 説 明 義 務 は 尽 くされており 説 明 義 務 違 反 はない 他 の 治 療 方 法 については 説 明 している 利 益 相 反 については 説 明 をしている( 原 告 は 否 定 ) また 医 療 機 器 GCP 省 令 上 も 説 明 を 要 求 されていない 不 適 切 な 説 明 方 法 心 理 的 強 制 もない 訴 訟 上 の 争 点 6 : 説 明 義 務 違 反 (2) (そもそも 本 件 は 除 外 基 準 違 反 で 治 験 の 適 法 性 を 欠 いており その 瑕 疵 は 本 来 説 明 義 務 の 履 行 によっても 治 癒 されないが ) 仮 に 何 らかの 理 由 により 本 件 で 例 外 的 に 治 験 の 実 施 が 許 容 され るとしても その 場 合 は 更 に 加 重 された 説 明 義 務 を 負 う 除 外 基 準 の 存 在 当 該 除 外 基 準 の 想 定 する 危 険 性 本 件 症 例 が 除 外 基 準 に 該 当 していること にもかかわらずなぜ 除 外 しないのかの 理 由 等 を 説 明 し 患 者 に 熟 慮 し 選 択 する 機 会 を 与 えるべ き 義 務 がある 12

被 告 の 反 論 医 療 機 器 GCPは 個 々の 除 外 基 準 につい ての 説 明 を 要 求 していない そもそもBSA1.38~1.39であったとしても 何 らの 具 体 的 危 険 性 も 想 定 されず 植 え 込 みの 危 険 性 が 増 大 するわけでもなく そ の 差 を 議 論 する 医 学 的 意 味 もないから 説 明 すべき 義 務 はない 訴 訟 上 の 争 点 7 : 医 学 的 機 序 因 果 関 係 本 件 患 者 は 本 件 植 え 込 み 手 術 の 合 併 症 により 死 亡 したものである 本 件 植 え 込 み 手 術 は 民 事 上 違 法 の 評 価 を 受 け るものであるので 違 法 行 為 による 死 亡 と 位 置 付 けられる 本 件 において 検 討 されるべきは 本 件 植 え 込 み 手 術 の 実 施 と 死 亡 との 関 連 性 であり 体 表 面 積 が1.4を 下 回 っていたこと と 死 亡 との 関 連 性 では ない 13

( 原 告 主 張 の 続 き) 本 件 のような 作 為 型 の 医 療 事 故 において 問 題 とされるべきは 原 因 と 目 される 行 為 (プロトコル に 違 反 する 違 法 な 植 え 込 み 手 術 )と 現 に 生 じた 具 体 的 な 死 亡 との 事 実 的 因 果 関 係 ( あれなけ ればこれなし の 関 係 )の 有 無 である 原 因 行 為 がなかったと 仮 定 した 場 合 の 生 命 予 後 は 損 害 額 の 算 定 にあたって 考 慮 されるべき 事 情 であって 死 亡 との 因 果 関 係 の 存 否 に 関 する 判 断 を 直 ちに 左 右 するものではない 最 判 H11.2.25.( 判 タ997-159) 肝 癌 見 落 とし 事 件 不 作 為 型 医 療 事 故 ( 治 療 不 実 施 型 )について 因 果 関 係 の 存 否 の 判 断 基 準 を 提 示 した 著 名 判 例 この 判 決 で 最 高 裁 は 人 の 死 を 歴 史 的 1 回 的 事 実 としての 具 体 的 な 死 という 概 念 操 作 を 介 し て 当 該 時 点 における 死 亡 を 回 避 できたか 否 かを 問 うことで 延 命 可 能 性 を 論 じることなく 因 果 関 係 を 認 定 することを 可 能 にした( 生 命 予 後 について は 損 害 評 価 の 問 題 であるとして 峻 別 ) 本 件 判 決 にも 影 響 14

被 告 の 反 論 補 助 人 工 心 臓 のサイズが 胃 穿 孔 の 原 因 となった かどうかは 医 学 的 に 不 明 脳 出 血 脳 梗 塞 は 補 助 人 工 心 臓 による 治 療 に 伴 う 合 併 症 として 最 も 多 く 認 められるもののひとつ 本 件 植 え 込 み 手 術 と 本 件 死 亡 との 医 学 的 機 序 は 不 明 病 理 解 剖 で 判 明 した 線 維 筋 性 異 形 成 症 による 血 管 病 変 の 影 響 もありうる 原 疾 患 による 予 後 不 良 性 も 考 慮 すべき 訴 訟 上 の 争 点 8 : 損 害 論 ( 判 決 文 参 照 ) 15

裁 判 所 の 判 断 1 : 除 外 基 準 違 反 の 有 無 プロトコルの 作 成 遵 守 を 求 める 主 たる 目 的 は 科 学 的 なデータの 正 確 性 を 担 保 することにあると 解 されるが 他 方 治 験 が 未 だ 人 体 に 対 する 安 全 性 が 確 認 されておらず 医 療 行 為 として 認 可 を 受 けていない 段 階 において 人 体 に 対 する 侵 襲 を 伴 う 行 為 を 実 施 する 性 格 を 有 するものであるこ とを 勘 案 すれば プロトコルは その 治 験 の 内 容 方 法 を 画 するものとして 治 験 実 施 の 正 当 性 を 基 礎 づける 意 味 合 いをもつものというべきであ る そうすると 少 なくとも 人 体 に 対 する 安 全 性 に 関 わる 事 項 については データの 正 確 性 の 担 保 のためにとどまらず 被 験 者 保 護 の 観 点 からも 医 療 行 為 の 場 合 と 比 べてより 慎 重 な 対 応 が 図 られ 厳 格 な 解 釈 がされるべきであり 安 易 に 治 験 実 施 者 の 裁 量 を 認 めることは 相 当 といえない 解 釈 にあたっての 厳 格 性 を 要 求 16

本 件 除 外 基 準 が 定 められた 趣 旨 は エヴ ァハートを 植 え 込 む 胸 腔 腹 腔 スペースが 十 分 でない 体 格 の 小 さな 患 者 を 除 外 し エ ヴァハートによる 周 辺 臓 器 等 への 圧 迫 によ って 合 併 症 が 生 ずる 危 険 性 を 避 けることに あるのであるから 本 件 除 外 基 準 が 人 体 に 対 する 安 全 性 にかかわる 事 項 を 定 める ものであることは 明 らか 直 近 または 入 院 時 のデータで 可 とする 厳 格 解 釈 の 観 点 から ここにいう 入 院 とは 原 則 として エヴァハート 植 え 込 み 手 術 を 目 的 とする 入 院 を 想 定 した ものと 解 し H18.5.21.の 循 環 器 内 科 入 院 時 の 自 己 申 告 値 ( 被 告 主 張 )によることを 認 めず 本 件 患 者 が 入 院 3ヶ 月 後 から 本 件 植 え 込 み 手 術 までの 間 一 度 も1.4を 超 えていなかったにもかかわらず 敢 えて 入 院 時 のデータを 用 いることの 不 合 理 性 をも 指 摘 し 形 式 面 実 質 面 どちらの 側 面 から 見 ても 本 件 除 外 基 準 に 該 当 していたといわざるを 得 ない とも 判 示 有 効 数 字 の 議 論 も 斥 ける 17

裁 判 所 の 判 断 2 :プロトコル 違 反 と 民 事 上 の 責 任 本 来 治 験 は 未 だ 人 体 に 対 する 安 全 性 が 確 認 されておらず 医 療 行 為 として 認 可 を 受 けてい ない 段 階 において 人 体 に 対 する 侵 襲 を 伴 う 行 為 を 実 施 する 性 格 を 有 するものであるからこそ プロトコルを 定 め これを 遵 守 することにより 治 験 実 施 の 正 当 性 が 基 礎 づけられることに 思 いを 致 せば 治 験 実 施 者 に 危 険 性 安 全 性 の 存 否 や 程 度 の 実 質 的 判 断 を 委 ねるなどということは 想 定 しがたいというほかない そもそも 治 験 においては 危 険 性 安 全 性 の 存 否 や 程 度 を 判 断 するための 適 確 なデータが 存 在 しておらず そのデータ 収 集 のためにも プロトコ ルの 遵 守 が 期 待 されているわけであるから 治 験 実 施 者 の 判 断 の 的 確 性 自 体 検 証 のしようが ないものである したがって 治 験 実 施 者 の 裁 量 で 危 険 性 安 全 性 の 存 否 や 程 度 を 判 断 し 治 験 を 実 施 するなどということは 厳 に 慎 むべきと 言 わざるを 得 ない 18

また 民 事 上 の 違 法 性 という 観 点 に 立 てば 被 験 者 の 権 利 保 護 に 十 分 な 配 慮 がなされる 必 要 があることは 当 然 であるが プロトコルの 内 容 は 現 実 には 被 験 者 におい て 治 験 に 参 加 するか 否 かを 判 断 するに 際 して 唯 一 の 客 観 的 な 資 料 になるものと 考 えられ 被 験 者 は 治 験 に 参 加 するにあたって 当 然 にプロトコルの 内 容 が 遵 守 され ることを 前 提 としているものと 考 えられる したがって 両 当 事 者 の 合 意 内 容 という 意 味 合 いにおい ても プロトコルの 内 容 は 合 意 の 一 部 を 形 成 するものと いうべきであるから その 違 反 は 民 事 法 上 の 違 法 性 を 有 するものと 認 められるべきである 以 上 によれば 民 事 法 上 も 違 法 と 評 価 せざるを 得 ない 裁 判 所 の 判 断 3 : 因 果 関 係 エヴァハートの 植 え 込 みによる 何 らかの 悪 影 響 が 引 き 金 となって 死 亡 したと 考 える ことは 十 分 な 合 理 性 を 有 するものというべ き エヴァハートの 植 え 込 みの 影 響 と 死 亡 と の 因 果 関 係 の 存 在 を 認 めることが 相 当 で ある 19

なお 被 告 は 体 表 面 積 が1.4m2を 下 回 っていたことと 死 亡 との 因 果 関 係 の 必 要 性 を 強 調 するが 本 件 除 外 義 務 違 反 により 本 件 植 え 込 み 手 術 の 実 施 自 体 が 違 法 のそ しりを 免 れえないものとなる 以 上 は 本 件 植 え 込 み 手 術 の 実 施 と 生 じた 結 果 との 間 の 因 果 関 係 を 論 ずれば 足 るものであるか ら 被 告 の 主 張 は 採 用 できない また 被 告 は 原 疾 患 による 予 後 不 良 や 体 外 設 置 型 補 助 人 工 心 臓 を 選 択 した 場 合 の 予 後 不 良 を 指 摘 し 本 件 植 え 込 み 手 術 を 実 施 しなかった 場 合 においても 現 実 の 死 亡 の 時 点 で 生 存 していた 高 度 の 蓋 然 性 は 存 在 せず 義 務 違 反 と 死 亡 との 間 に 因 果 関 係 はない 旨 を 主 張 する しかし 原 告 が 反 論 するとおり 因 果 関 係 について 本 件 において 問 題 とされるべきは 原 因 と 目 される 行 為 ( 本 件 プロトコルに 違 反 する 違 法 な 本 件 植 え 込 み 手 術 )と 現 に 生 じた 死 亡 ( 脳 出 血 を 原 因 とする 平 成 20 年 10 月 10 日 の 死 亡 )との 間 の 因 果 関 係 の 有 無 であり そうである 以 上 原 因 行 為 がなかったと 仮 定 した 場 合 の 生 命 予 後 を 考 慮 する 余 地 はないというべきである 20

裁 判 所 の 判 断 4 : 損 害 論 本 人 慰 謝 料 として500 万 円 ( 予 後 の 不 良 性 等 を 考 慮 ) 母 親 の 親 族 固 有 の 慰 謝 料 と して50 万 円 その 他 に 葬 儀 費 用 カルテ 開 示 費 用 弁 護 士 費 用 を 認 め 合 計 859 万 1027 円 を 認 容 した 検 討 1 プロトコル 違 反 の 認 定 について 治 験 の 本 質 に 鑑 み プロトコルのうち 被 験 者 の 安 全 性 に 関 わる 事 項 については 被 験 者 保 護 の 観 点 から 厳 格 に 解 釈 されなけ ればならないことを 明 示 この 点 についての 治 験 実 施 者 による 裁 量 判 断 ( 緩 和 方 向 での)を 厳 しく 排 除 プロトコル 解 釈 の 基 本 姿 勢 を 改 めて 示 すもの 21

プロトコルの 規 定 の 性 質 に 着 目 した 解 釈 論 形 式 解 釈 か 実 質 解 釈 か cf. 入 院 時 : 裁 判 所 による 事 後 的 な 実 質 解 釈 による 不 意 打 ちの 危 険?? ( 本 件 では 論 点 にしなかったが ) 仮 にプロ トコルの 規 定 ぶりそのものに 不 備 があった 場 合 その 責 任 主 体 は? プロトコル 作 成 者 の 責 任 論 は? プロトコルの 問 題 点 を 指 摘 しなかったと すれば IRB 構 成 員 等 の 責 任 論 もあり 得 る か? 22

検 討 2 :プロトコル 違 反 の 民 事 上 の 効 果 プロトコルのうち 被 験 者 保 護 規 定 の 法 規 範 性 を 明 確 に 認 め 社 会 的 相 当 性 を 逸 脱 するものとして 違 法 評 価 (cf. 同 旨 愛 知 県 がんセンター 事 件 名 古 屋 地 裁 H12.3.24. 判 決 ) 合 意 の 一 部 を 形 成 するもの 被 験 者 に 対 する 契 約 責 任 的 構 成 も 念 頭 に Cf. プロトコルは 被 験 者 に 開 示 されていないから 合 意 内 容 にならない? しかしこの 点 については 約 款 の 拘 束 力 とパラレ ルな 議 論 が 可 能 なのではないか 検 討 3 : 因 果 関 係 肝 癌 見 落 とし 事 件 ( 最 判 前 掲 )における 論 理 的 枠 組 み(= 因 果 関 係 論 と 損 害 論 の 峻 別 )を 前 提 に 作 為 型 医 療 事 故 と 不 作 為 型 医 療 事 故 についての 立 証 命 題 の 違 いに 着 目 し 作 為 型 の 場 合 因 果 関 係 については 条 件 関 係 の 存 在 で 足 ると 判 断 23

高 度 の 蓋 然 性 論 と 相 当 程 度 の 可 能 性 論 の 位 置 付 けは? 差 額 説 との 理 論 的 関 係 は?(そこに 損 害 はあるのか) 立 証 責 任 : 法 律 要 件 分 類 説 によれば 原 則 原 告 しかし 治 験 においても 同 様 で 良 いのか?また そのことは 被 験 者 に 説 明 さ れているのか? 検 討 4 : 本 件 判 決 が 触 れなかった 論 点 利 益 相 反 関 係 にある 医 師 が 治 験 に 関 与 すること (たとえば 同 意 取 得 への 関 与 )はプロトコル 違 反 と 解 されるか?(cf. 契 約 責 任 的 構 成 ) 利 益 相 反 の 事 実 は 説 明 しなければならない 事 項 ( 説 明 義 務 の 対 象 )となるか? 除 外 基 準 違 反 であっても 何 らかの 理 由 で 当 該 医 療 機 器 ( 医 薬 品 )を 使 用 した 治 療 が 許 されるとす ればその 許 容 要 件 は? (compassionate use 説 明 義 務 の 範 囲 等 ) 24