みずほインサイト 欧 州 2016 年 3 月 1 日 過 去 最 多 の 難 民 に 苦 慮 するドイツ 難 民 流 入 を 抑 制 すべくトルコ 頼 みの 様 相 が 鮮 明 に 欧 米 調 査 部 主 任 エコノミスト 松 本 惇 03-3591-1199 atsushi.matsumoto@mizuho-ri.co.jp 難 民 を 積 極 的 に 受 け 入 れようとするドイツ 政 府 に 対 して 国 内 から 批 判 が 強 まっている 批 判 を 背 景 に 政 府 は 難 民 申 請 者 の 流 入 を 抑 制 せざるを 得 ない 状 況 となっている 難 民 申 請 者 の 流 入 抑 制 を 優 先 課 題 とするドイツ 政 府 は EUを 主 導 し トルコ 政 府 との 協 力 関 係 を 強 化 している トルコの 取 り 組 みにより EUへの 難 民 流 入 が 抑 制 されることが 期 待 されている トルコ 政 府 がEUに 協 力 するのは アラブの 春 によってそれまでの 外 交 政 策 が 行 き 詰 まってい ることが 理 由 とみられる しかし トルコの 取 り 組 みは 期 待 される 通 りに 進 展 しない 可 能 性 が 高 い 1. はじめに 2015 年 のドイツにおける 難 民 申 請 者 は 約 48 万 人 と 過 去 最 多 の 規 模 となった 1 従 来 から ドイツの 良 好 な 雇 用 環 境 や 手 厚 い 難 民 支 援 制 度 を 背 景 に 内 戦 迫 害 から 逃 れようとするシリア 人 を 中 心 とし て ドイツを 目 指 す 難 民 申 請 者 は 多 かった 2 こうした 中 人 道 的 経 済 的 な 理 由 から 難 民 受 け 入 れに 積 極 的 なドイツ 政 府 が 8 月 に 通 常 の 枠 組 みを 一 時 的 に 停 止 した 上 でドイツで 難 民 認 定 を 申 請 すること を 認 めたことから ドイツへの 難 民 申 請 者 の 流 入 は 加 速 した 3 しかし この 結 果 難 民 受 け 入 れに 積 極 的 な 政 府 に 対 するドイツ 国 民 の 批 判 が 強 まるようになった ( 後 述 2 節 ) ドイツ 政 府 は 一 転 して 難 民 申 請 者 の 流 入 を 抑 制 せざるを 得 ない 立 場 に 陥 っている メ ルケル 首 相 は 与 党 キリスト 教 民 主 同 盟 (CDU)の12 月 党 大 会 において ドイツに 流 入 する 難 民 申 請 者 を 減 らすことを 約 束 したのである 欧 州 連 合 (EU)の 政 策 決 定 で 主 導 的 な 役 割 を 果 たすドイツが 難 民 申 請 者 の 流 入 抑 制 に 転 じつつある 中 EU 全 体 でも 難 民 申 請 者 の 流 入 抑 制 への 流 れが 加 速 しようとしている( 後 述 3 節 ) 難 民 対 応 におい て ドイツとEUが 頼 みの 綱 とするのはトルコである( 後 述 4 節 ) 2. 難 民 に 対 するドイツ 国 民 感 情 の 変 化 難 民 受 け 入 れに 積 極 的 な 政 府 に 対 するドイツ 国 民 の 批 判 が 強 まっており 与 党 CDUへの 支 持 率 低 下 につながっている 国 民 からの 批 判 が 強 まる 背 景 には 2つの 不 安 があるようだ 元 々 ドイツ 国 民 の 大 半 は 内 戦 迫 害 から 逃 れようとする 人 々を 難 民 として 受 け 入 れることに 積 極 姿 勢 を 示 していた そうした 積 極 姿 勢 は ドイツの 歓 迎 する 文 化 (Willkommenskultur) と 称 賛 さ れ メルケル 首 相 は 母 なるアンゲラ(Mutter Angela) と 支 持 された しかし 2つの 不 安 を 背 景 に ドイツ 国 民 の 難 民 歓 迎 ムードは 変 化 している 1
第 1の 不 安 は 雇 用 に 関 するものだ 欧 州 委 員 会 の 調 査 によると 雇 用 不 安 を 背 景 に ドイツの 消 費 者 マインドが 弱 含 んでいる( 図 表 1) 雇 用 環 境 が 良 好 なドイツでなぜ 雇 用 不 安 が 生 じるのか この 点 に 関 する 調 査 機 関 GfKの 調 査 (2015 年 10 月 実 施 )では 雇 用 不 安 が 増 大 していると 回 答 したドイツ 人 の 約 70%が 難 民 流 入 を 理 由 に 挙 げている 4 過 去 最 大 規 模 で 難 民 申 請 者 が 流 入 する 中 自 分 達 の 雇 用 が 失 わ れるリスクを 懸 念 するドイツ 人 が 増 えていることが 示 唆 される 第 2の 不 安 は 安 全 に 関 するものだ 2015 年 11 月 にフランス パリで 発 生 した 同 時 多 発 テロや 同 年 の 大 晦 日 にドイツ ケルンで 起 きた 暴 行 事 件 では 難 民 (あるいは 難 民 申 請 者 )が 関 わったと 報 道 されて いる そのため 難 民 が 自 分 達 の 安 全 を 脅 かす 存 在 であると 考 えるドイツ 人 が 増 えていると 思 われる こうした2つの 不 安 が 強 まるのに 伴 い 難 民 受 け 入 れに 積 極 的 なメルケル 首 相 や 与 党 への 批 判 が 強 ま っている 2015 年 9 月 に60%を 上 回 っていた 首 相 支 持 率 は 2016 年 2 月 には40% 台 へ 低 下 している ま た CDU 支 持 率 は2016 年 2 月 に33%へ 落 ち 込 んでいる( 図 表 2) ドイツでは 2016 年 3 月 に 一 部 州 の 地 方 議 会 選 が 2017 年 9 月 には 下 院 総 選 挙 が 予 定 されている メルケル 政 権 は 支 持 率 の 低 下 が 選 挙 に 及 ぼす 悪 影 響 を 深 刻 に 捉 えており 難 民 申 請 者 の 流 入 を 抑 制 せざるを 得 なくなっていると 考 えられる 3. 脅 かされる シェンゲン 協 定 EU 全 体 でみると 更 なる 難 民 申 請 者 の 流 入 により EU 統 合 の 象 徴 の1つとされる シェンゲン 協 定 が 崩 壊 するとの 懸 念 が 生 じている 元 々 EUでは2015 年 に イタリアやギリシャにとどまる16 万 人 の 難 民 を 加 盟 国 で 分 担 して 受 け 入 れることなどが 決 まっていた しかし この 取 り 組 みは 殆 ど 進 んでおらず 2016 年 2 月 下 旬 時 点 におい て 分 担 されたのは 約 600 人 に 過 ぎない 5 むしろ 難 民 申 請 者 の 流 入 を 抑 制 すべく 独 自 の 対 応 を 進 め る 国 が 現 れている オーストリアでは 国 境 での 出 入 国 管 理 を 厳 格 化 し 1 日 に 入 国 できる 難 民 申 請 者 の 上 限 を80 人 とすることが 決 定 された デンマークでは 難 民 申 請 者 の 財 産 を1 万 クローネ( 約 17 万 円 ) までとし それを 上 回 る 現 金 所 持 品 は 基 本 的 に 没 収 するとの 法 案 が 可 決 された 各 国 独 自 の 国 境 警 備 などの 導 入 は 域 内 ( EU)での 人 の 移 動 の 自 由 を 定 めたシェンゲン 協 定 の 崩 壊 を 招 くとの 懸 念 を 生 じさせている シェンゲン 協 定 の 崩 壊 は 移 動 を 制 限 することでEUに 経 済 的 な 打 撃 を 与 えるだけでなく EU 統 合 の 象 徴 の1つが 失 われるという 政 治 的 な 打 撃 も 大 きい シェンゲン 協 定 の 崩 壊 が 懸 念 され また ドイツが 難 民 申 請 者 の 流 入 抑 制 を 重 視 せざるを 得 なくな ったことで EU 全 体 でも 難 民 申 請 者 の 流 入 抑 制 への 流 れが 加 速 しようとしている 図 表 1 ドイツなどの 消 費 者 マインド 図 表 2 ドイツの 政 党 支 持 率 マ イ ン ド 改 善 マ (DI %pt) 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 イ ドイツだけマインド ン 0.5 が 弱 含 み ド ドイツ フランス 悪 1.0 スペイン イタリア 2014/1 14/7 15/1 15/7 16/1 化 ( 年 / 月 ) ( 注 ) DIは 各 国 毎 に 標 準 化 している ( 資 料 ) 欧 州 委 員 会 よりみずほ 総 合 研 究 所 作 成 CDU/CSU (%) 50 グリーン AfD 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 2015/2 15/6 15/10 /2 0 ( 資 料 ) INSA YouGovよりみずほ 総 合 研 究 所 作 成 SPD FDP 16/2 ( 年 / 月 ) 2
4.ドイツ EUが 頼 みの 綱 とするのはトルコ ドイツ EUの 優 先 課 題 が いかにEUへの 難 民 申 請 者 の 流 入 を 抑 制 するか となった 今 ドイツ EUにとって 頼 みの 綱 はトルコである (1) 急 速 に 接 近 するドイツとトルコ 2015 年 秋 以 降 ドイツとトルコは 急 速 に 接 近 している それまでの 両 国 の 関 係 は ドイツ 政 府 がト ルコの 人 権 問 題 を 厳 しく 批 判 し トルコのEU 加 盟 に 反 対 するなど 決 して 良 好 とは 言 えなかった しかし 2015 年 10 月 以 降 そうした 批 判 は 殆 ど 聞 かれず メルケル 首 相 がトルコのエルドアン 大 統 領 やダーヴトオール 首 相 と 度 々 会 談 するようになっている ドイツがトルコに 接 近 する 理 由 として ドイツやその 他 のEU 加 盟 国 にやってくる 難 民 申 請 者 の 多 くがシリア 人 であり シリア 人 の 流 入 を 抑 制 する 上 でトルコが 地 理 的 に 重 要 であるという 点 が 挙 げら れる 現 状 シリア 人 の 多 くはトルコに 入 国 後 密 航 業 者 の 助 けを 借 りてエーゲ 海 を 横 断 してやって 来 る この 現 状 を 踏 まえ ドイツ 政 府 は 難 民 流 入 の 抑 制 にはエーゲ 海 を 渡 るシリア 人 に 歯 止 めを 掛 けることが 重 要 であり それにはエーゲ 海 の 対 岸 にあるトルコの 協 力 が 不 可 欠 と 認 識 しているのだ (2)EUとトルコは 難 民 対 応 を 巡 って 協 力 体 制 を 強 化 ドイツとトルコが 接 近 した 結 果 トルコとEUも 難 民 対 応 を 巡 る 協 力 体 制 をそれまでより 強 化 させ ることになり 2015 年 10 11 月 には 共 同 行 動 計 画 が 発 表 された( 図 表 3) 共 同 行 動 計 画 の 下 トル コ 政 府 は 次 の3 点 に 合 意 した 第 1に 保 護 下 にあるシリア 人 がトルコ 国 内 で 就 労 することを 認 めるな どの 措 置 を 講 じ シリア 人 の 生 活 環 境 の 向 上 に 努 めることである 第 2に エーゲ 海 を 渡 ってEUへ 逃 れる 人 々を 減 らすため 密 航 業 者 の 摘 発 など 国 境 警 備 を 強 化 することである 第 3に 再 入 国 規 定 を 完 全 に 遵 守 することである この 規 定 は トルコ 人 がEUに 不 法 滞 在 した 場 合 または 第 3 国 の 人 がトルコ 入 国 後 にEUに 不 法 滞 在 した 場 合 トルコが 責 任 を 持 って 自 国 へ 受 け 入 れることを 定 める 一 方 共 同 行 動 計 画 の 下 EUはトルコに 対 して30 億 ユーロの 資 金 を 拠 出 し その 資 金 はトルコ 内 の 難 民 に 対 する 人 道 的 支 援 などに 充 てられることになる また EUは トルコのEU 加 盟 に 向 けた 取 り 組 みを 従 来 よりも 活 発 化 する そして 再 入 国 規 定 の 運 用 が 実 効 性 のあるものとなれば トルコ 国 民 がシェンゲン 協 定 加 盟 国 に 入 国 する 際 の 査 証 (ビザ)が2016 年 中 に 撤 廃 される 図 表 3 難 民 に 係 るEU トルコの 共 同 行 動 計 画 3
4.EUに 協 力 するトルコの 思 惑 既 にトルコには200 万 人 超 のシリア 人 がいるとされる シリアの 内 戦 迫 害 が 続 けば シリア 人 は 今 後 もトルコに 流 入 してくると 予 想 され トルコの 負 担 は 増 すと 思 われる トルコはなぜEUに 協 力 す るのか 背 景 には 与 党 である 公 正 発 展 党 (AKP)の 外 交 政 策 の 行 き 詰 まりがあるとみられる (1) 与 党 AKPの 外 交 政 策 1923 年 に 現 在 のトルコ 共 和 国 が 建 国 された 後 トルコでは 建 国 の 父 とされるムスタファ ケマル の 考 えに 基 づき 西 欧 化 が 進 められた 西 欧 化 路 線 において 最 大 の 課 題 とされたのが EU( 当 時 はEC ( 欧 州 共 同 体 ) EEC( 欧 州 経 済 共 同 体 ))への 加 盟 であった トルコは1959 年 にEECへ 加 盟 申 請 し 1987 年 にはECへ 加 盟 申 請 した そして 1999 年 にようやく 正 式 加 盟 候 補 国 として 認 められた 2002 年 に 誕 生 したAKP 政 権 の 下 2005 年 にはEU 加 盟 交 渉 が 開 始 され EU 加 盟 という 最 大 の 課 題 に 向 けてトルコが 大 きく 進 展 したかのようにみえた しかし その 後 加 盟 交 渉 は 殆 ど 進 まず E U 加 盟 に 対 するAKP 政 権 の 熱 意 はうかがわれなくなった 加 盟 交 渉 が 殆 ど 進 まなかった 第 1の 理 由 は AKP 政 権 にとって EU 加 盟 がそれまでのような 最 大 の 課 題 ではなかったためとされる( 内 藤 (2015)) AKP 政 権 は EU 加 盟 を 軍 部 の 力 を 削 ぐという 自 らの 目 標 を 達 成 する 手 段 の1つとして 位 置 付 けていたとみられる 即 ち AKP 政 権 は EU 加 盟 に 向 けて 国 内 の 民 主 化 を 進 めるとの 名 目 で 政 治 への 影 響 力 の 強 かった 軍 部 に 対 する 文 民 統 制 を 強 化 し ようとしたのである 当 時 国 民 の 多 くがEU 加 盟 に 賛 成 だったため EU 加 盟 を 理 由 とすれば 民 主 化 に 向 けた 改 革 を 進 めやすかったことが AKP 政 権 に 追 い 風 となった だからこそ EU 加 盟 を 旗 印 に 国 内 の 民 主 化 を 進 め 加 盟 交 渉 が 開 始 された 後 は EU 加 盟 に 向 けた 実 質 的 な 進 展 がみられな くなったのである 第 2の 理 由 は 既 にトルコとEUとの 間 で 関 税 同 盟 が 締 結 されていたため EUに 加 盟 せずとも 経 済 的 な 恩 恵 を 相 応 に 享 受 できていたことにあるようだ 外 交 政 策 におけるEUの 重 要 度 が 低 下 する 中 AKP 政 権 は ゼロ プロブレム 外 交 を 進 めた これは 政 府 の 外 交 アドバイザーだったダーヴトオール 氏 (2009 年 より 外 相 現 在 は 首 相 )が 提 唱 した 外 交 方 針 であり 中 東 近 隣 国 と 円 滑 な 関 係 を 築 くことを 目 的 とし( 今 井 (2012)) 同 時 に ロシアとの 良 好 な 関 係 が 模 索 された それまで 緊 張 関 係 にあったシリアやイランとの 関 係 を 修 復 するなど ゼロ プロブレム 外 交 は 一 定 の 成 果 を 生 んだと 評 価 される (2) 転 機 を 迎 えたトルコの 外 交 政 策 トルコの 外 交 政 策 の 転 機 となったのが 2011 年 以 降 の アラブの 春 と 呼 ばれる 中 東 の 民 主 化 運 動 である これまでトルコが 良 好 な 関 係 を 築 いていた 政 権 が 倒 れた 後 トルコは 新 たな 政 権 と 良 好 な 関 係 を 築 けずにいる シリアのように 良 好 だった 既 存 政 権 との 関 係 が 悪 化 している 場 合 もある 更 に シリアへの 対 応 を 巡 る 意 見 の 対 立 に 加 え トルコ 軍 がロシア 軍 機 を 撃 墜 した 事 件 (2015 年 11 月 )を 受 け ロシアとの 関 係 が 急 激 に 悪 化 している ロシアは トルコからの 一 部 食 品 の 輸 入 を 禁 止 するな どの 制 裁 措 置 を 発 動 している また トルコは 天 然 ガス 調 達 の5 割 をロシアに 依 存 するため 今 後 ロ シアが 天 然 ガスの 輸 出 禁 止 にまで 制 裁 を 拡 大 すれば トルコ 経 済 にとって 大 打 撃 となる こうした 現 状 は トルコの 外 交 政 策 がゼロ プロブレムではなくなっていることを 示 している 孤 立 感 を 深 める 中 近 隣 国 との 関 係 よりもEUとの 関 係 を 再 び 重 視 する 方 針 に 舵 を 切 ったとみられる 6 4
(3)EUとの 関 係 強 化 を 目 指 すトルコ トルコは 難 民 を 自 国 で 引 き 受 ける 代 わりに EUとの 関 係 強 化 につながる 条 件 をEU 側 に 求 めた 7 具 体 的 には EU 加 盟 交 渉 の 活 発 化 と トルコ 人 がシェンゲン 協 定 加 盟 国 に 入 国 する 際 の 査 証 免 除 で ある トルコ 政 府 がより 重 視 しているのは 後 者 と 思 われる 前 者 のEU 加 盟 に 関 して トルコ 政 府 は 早 急 な 結 果 を 期 待 していないだろう EU 側 としては ト ルコがEUに 加 盟 すれば 火 種 の 元 である 中 東 地 域 がEUと 隣 接 することになり 安 全 保 障 の 面 で 重 大 な 不 安 を 抱 えることになる ドイツ 並 みの 人 口 を 誇 るトルコがEUに 加 盟 すれば EUの 意 思 決 定 におけるパワーバランスが 大 きく 変 化 することにもなる 加 盟 交 渉 の 活 発 化 を 約 束 したとは 言 え E U 側 はトルコのEU 加 盟 に 引 き 続 き 慎 重 姿 勢 を 崩 さないだろう トルコ 側 は こうしたEUの 考 えを 十 分 認 識 しているとみられる そのため トルコ 政 府 は EU 加 盟 を 究 極 的 な 目 標 と 位 置 付 けるも それに 向 けた 取 り 組 みには 長 い 時 間 が 必 要 と 考 えているだろう 一 方 後 者 の 査 証 免 除 については 一 定 の 条 件 の 下 で2016 年 中 に 実 行 されることが 決 定 されており トルコ 政 府 の 期 待 は 大 きいと 思 われる 8 現 在 トルコ 人 がシェンゲン 加 盟 国 に 入 国 する 際 には 高 い 費 用 と 共 に 煩 雑 で 時 間 のかかる 手 続 きを 経 て 査 証 を 取 得 する 必 要 がある(Ekim and Kirişci (2015)) 多 くのトルコ 人 は 手 続 きの 費 用 煩 雑 さに 不 満 を 持 っているとされている 査 証 が 免 除 されれば トルコ 人 旅 行 者 や 企 業 関 係 者 がシェンゲン 加 盟 国 に 入 国 しやすくなり トルコ 経 済 にプラスの 影 響 が 及 ぶとトルコ 政 府 は 見 込 んでいるだろう 5.おわりに 難 民 受 け 入 れに 積 極 的 だったドイツの 姿 勢 は 変 化 し トルコ 頼 みの 様 相 が 鮮 明 化 している トルコ 側 の 取 り 組 みにより EUへ 流 入 する 難 民 が 抑 制 されることが 期 待 されている しかし トルコでの 難 民 受 け 入 れは 限 界 に 達 しつつあるようだ 現 在 トルコでは 難 民 キャンプが 不 足 しており トルコにとどまるシリア 難 民 の 多 くはキャンプの 外 で 政 府 支 援 無 しに 生 活 している とされる 支 援 無 しに 生 活 することは 困 難 であり シリア 難 民 は 生 きるためにEUへ 向 かうのである 今 後 のトルコ 政 府 の 取 り 組 みやEUの 資 金 拠 出 により キャンプ 不 足 は 多 少 緩 和 すると 思 われるが 全 てのシリア 難 民 をキャンプに 収 容 することは 困 難 とみられる 今 後 も 多 くのシリア 難 民 がEUに 向 かうだろう 共 同 行 動 計 画 の 下 トルコ 政 府 は エーゲ 海 を 渡 ってEUへ 逃 れるシリア 難 民 を 減 らすべく 密 航 業 者 の 摘 発 を 進 めるなど 国 境 警 備 を 強 化 することになっている しかし エーゲ 海 の 全 範 囲 を 警 備 することは 現 実 的 に 困 難 であるほか 密 航 業 者 は 警 察 などに 賄 賂 を 払 うことで 摘 発 から 逃 れているの が 現 状 との 指 摘 がある(Spiegel(2016)) 以 上 を 踏 まえると EUへの 難 民 流 入 を 抑 制 するためのトルコの 取 り 組 みは 期 待 される 通 りに 進 展 しない 可 能 性 が 高 い 5
参 考 資 料 今 井 宏 平 (2012) ダーヴトオール ドクトリン の 理 論 と 実 践 ~シリアとの 関 係 を 事 例 として~ ( 拓 殖 大 学 海 外 事 情 研 究 所 海 外 事 情 2012 年 9 月 号 pp.16~31) 内 藤 正 典 (2015) 2015 年 トルコの 進 路 を 読 む(トルコ 政 治 ) ( 日 本 貿 易 振 興 機 構 アジア 経 済 研 究 所 中 東 レビュー 2015 年 Vol.2, pp.39~42) 松 本 惇 (2015) 急 増 するドイツでの 難 民 申 請 ~ 期 待 される 難 民 の 就 労 には 課 題 が 残 る~ (みずほ 総 合 研 究 所 みずほインサイト 2015 年 10 月 7 日 ) Elman, Pinar(2016) The EU-Turkey Deal on Refugees: How to Move Forward, The Polish Institute of International Affairs, No.3(144), Jan 2016 Ekim, Sinan and Kemal Kirişci(2015) EU-Turkey Visa Liberalization and Overcoming the Fear of Turks: The Security and Economic Dimensions, The German Marshall Fund of the United States, 13 th Feb 2015 Euro2day(2016), Χοντρό παιχνίδι στην πλάτη της Ελλάδας, 8 Φεβρουαρίου 2016 Kirişci, Kemal(2015) What the New Turkey-EU Cooperation Really Means for Syrian Refugees, Brookings, 19 th Oct 2015 Reuters(2015), Turkey Proposes to EU Completing Visa Liberalization in 2016, 15 th Oct 2015 Seufert, Günter(2016) Turkey as Partner of the EU in the Refugee Crisis, Stiftung Wissenschaft und Politik Comments, Jan 2016 Spiegel(2016), Unintended Consequences: Merkel s Reliance on Turkey Makes Life Worse for Refugees, 31 st Jan 2016 The Wall Street Journal(2015) Turkey s New Old Friends, 30 th Dec 2015 1 ドイツ 連 邦 移 民 難 民 庁 は 2015 年 にドイツで 難 民 申 請 をした 外 国 人 の 数 は 476,649 人 であり その 内 およそ 30%にあたる 162,510 人 がシリア 人 であったと 発 表 している 2 松 本 (2015) 3 ドイツ 政 府 は 別 のEU 加 盟 国 に 入 国 しても その 後 にドイツで 難 民 申 請 することを 認 めたのである 難 民 申 請 の 受 理 国 を 決 定 する 基 準 や 義 務 を 定 めたダブリン 協 定 (1997 年 発 効 )は 難 民 申 請 者 は 最 初 に 入 国 した 国 が いわゆる 安 全 な 国 或 いは 安 全 な 第 3 国 であった 場 合 その 国 へのみ 申 請 をすることができる と 定 めている そのため 通 常 の 枠 組 みの 下 では ド イツの 前 に 別 のEU 加 盟 国 に 入 国 していれば ドイツで 申 請 はできなかった 4 2015 年 秋 から 様 々な 指 標 においてドイツの 消 費 者 マインドは 弱 含 んでおり この 理 由 として 失 業 懸 念 の 増 大 が 挙 げられていた 失 業 懸 念 の 増 大 に 関 するGfK 社 の 調 査 では 全 回 答 者 の 44%が 今 後 失 業 が 増 加 すると 答 え その 内 70%(= 全 回 答 者 の 約 30%) が 難 民 流 入 を 理 由 と 挙 げた 景 気 悪 化 を 理 由 と 挙 げた 回 答 者 は 全 回 答 者 の 約 7%にとどまる 5 欧 州 委 員 会 によると 2016 年 2 月 24 日 時 点 で イタリアから 303 人 ギリシャから 295 人 がドイツやフランスなどに 移 った 6 このように 外 交 政 策 の 失 敗 を 背 景 にトルコ 政 府 がEUとの 関 係 強 化 を 目 指 していると 指 摘 する 見 方 として Elman(2016) Kirişci(2015) Seufert(2016) The Wall Street Journal(2015)などがある 7 Euro2day(2016)は 2015 年 11 月 中 旬 に 行 われたEUトゥスク 大 統 領 欧 州 委 員 会 ユンケル 委 員 長 エルドアン 大 統 領 との 会 談 の 要 旨 をリーク 情 報 として 掲 載 している リークされた 会 談 要 旨 によると エルドアン 大 統 領 は トルコのEU 加 盟 交 渉 が 殆 ど 進 んでいない 状 況 に 対 して 怒 りを 露 わにしたという また Reuters(2015)によると ダーヴトオール 首 相 は 同 誌 とのインタビ ューの 中 で EUに 対 して 2016 年 内 に 査 証 免 除 を 確 約 するよう 求 めたことを 認 めた 8 トルコ 人 の 査 証 を 免 除 するための 取 り 組 みは 以 前 から 行 われていたが トルコ 政 府 は 当 初 査 証 免 除 が 2017 年 以 降 になると 考 えていた 共 同 計 画 における 合 意 の 下 条 件 が 整 えば 査 証 免 除 は 1 年 ほど 前 倒 しされることになる 当 レポートは 情 報 提 供 のみを 目 的 として 作 成 されたものであり 商 品 の 勧 誘 を 目 的 としたものではありません 本 資 料 は 当 社 が 信 頼 できると 判 断 した 各 種 データに 基 づき 作 成 されておりますが その 正 確 性 確 実 性 を 保 証 するものではありません また 本 資 料 に 記 載 された 内 容 は 予 告 なしに 変 更 されることもあります 6