第 14 回 読 解 力 の 測 定 :プロセスとスキル 第 14 回 研 究 会 読 解 力 の 測 定 :プロセスとスキル 犬 塚 美 輪 ( 日 本 学 術 振 興 会 埼 玉 工 業 大 学 ) 2006 年 2 月 16 日 於 : 東 京 大 学 赤 門 総 合 研 究 棟 A208 講 義 室 講 演 ではまず, 教 育 心 理 学 的 背 景 に 裏 づけされた 読 解 力 の 捉 え 方 として, 読 解 プロセスに 注 目 する 観 点 とプロセ ス 内 で 発 揮 するスキルや 能 力 に 注 目 する 観 点 が 紹 介 された 次 に,この 観 点 を 生 かして 既 存 の 読 解 力 テストを 検 討 してみると,SAT には 要 求 される 能 力 (ジャンル, 領 域 )によってテストを 分 離 する 工 夫 があること,また PISA では 読 解 のプロセスやテキストの 形 式 を 従 来 の 読 解 力 テストの 発 想 よりずいぶん 広 げた 定 義 を 行 っていること, 具 体 的 には 文 章 理 解 を 踏 まえた 文 章 の 適 否 の 判 断 まで 行 わせたり, 図 表,グラフなど 非 連 続 型 テキストの 読 解 まで 問 われていることなどが 確 認 できた 最 後 に, 日 本 で 新 しく 読 解 力 テスト 作 成 を 検 討 する 視 点 として,1 文 章 のジャ ンル 領 域 別 の 読 解 能 力 や 測 定 モデルの 検 討,2テキスト 外 の 知 識 を 活 用 した 解 釈 など 発 展 的 思 考 の 評 価,3 読 解 スキルの 測 定,4 非 連 続 テキストや 新 しいメディアに 対 応 する 読 解 力 などが 提 起 されたが,その 前 提 として, 測 定 の 対 象 となる 読 解 力 の 定 義 やモデルの 明 確 化 が 重 要 であることが 強 調 された 1 はじめに 犬 塚 : 今 日 は, 読 解 力 をどのように 捉 え, 測 定 できる か,をテーマに 発 表 いたします まず, 本 発 表 では, 教 育 心 理 学 の 知 見 を 背 景 に, 読 解 力 を 2 つの 観 点 から 捉 えたいと 思 います すなわち, 読 解 プロセスとその 結 果 としての 理 解 表 象 という 観 点,そしてこの 読 解 プロセス に 影 響 する 読 み 手 のスキルや 能 力 要 因 という 観 点 です 本 発 表 では,まずこの 2 つの 観 点 から 読 解 力 を 考 え, 実 際 に 行 なわれている 読 解 力 テストとの 関 連 から, 読 解 力 をどのように 測 定 できるか, 新 たなテスト 作 りのための 示 唆 を 得 たいと 思 います された 刺 激 を 記 号 として 認 識 し, 単 語 の 単 位 を 認 識 理 解 し, 認 識 した 語 の 統 語 的 ( 文 法 的 )なつながりを 理 解 しま す 語 の 統 語 的 なつながりを 積 み 重 ねて, 文 章 全 体 の 理 解 表 象 を 構 築 していきます イメージとしては, 小 さなブロ ックを 徐 々に 積 み 上 げて, 大 きな 構 造 物 を 作 り 上 げていく 過 程 です それに 対 して,トップダウンのプロセスという のもあります これは,ブロックを 積 み 上 げる 際 の 大 まか な 枠 組 みがあって,それを 利 用 してブロックの 積 み 方 を 決 める 過 程 だと 言 えます 読 解 プロセスの 枠 組 みとなるもの としては, 書 かれている 内 容 に 関 する 知 識, 文 章 に 関 する 知 識,スキーマと 呼 ばれる 一 般 的 な 知 識, 読 解 の 目 標 など スライド1 読 解 プロセスの 理 論 読 解 プロセスの 理 論 ボトムアップ 処 理 とトップダウン 処 理 2 読 解 力 とは: 読 解 プロセスの 観 点 から これまで, 読 解 に 関 する 多 くの 認 知 心 理 学 的 研 究 がなさ れてきました 読 み 手 の 読 解 は, 大 きく 2 つの 方 向 性 から 捉 えられます(スライド1) 1 つは,ボトムアップのプ ロセスです ボトムアップのプロセスでは, 知 覚 的 に 入 力 ボトムアップ ブロックを 積 み 上 げていく 形 態 記 号 語 彙 認 識 統 語 全 体 像 理 解 トップダウン ブロックを 積 み 上 げる 枠 組 みとなる 知 識,スキーマ, 動 機 づけ, 目 標 理 解 表 象 * 物 語 と 説 明 的 文 章 の 差 異 103
第 Ⅲ 部 研 究 会 ( 下 半 期 ) が 挙 げられます 枠 組 みとなるものが 異 なると, 文 章 の 最 終 的 な 理 解 表 象 にも 違 いが 出 てきます また, 本 発 表 では 詳 しく 触 れませんが,この 2 つのプロセスは, 文 章 のジャ ンルによっても 差 異 があることが 知 られています 本 発 表 では, 主 に,ボトムアップのプロセスに 注 目 して 読 解 力 を 考 えたいと 思 います 読 解 プロセスのモデルとして,Kintsch ら(van Dijk & Kintsch,1978; Kintsch,1998)の 提 案 した 統 合 - 構 築 モデル(Integration- Construction model: I-C モデル) をご 紹 介 します このモデルは, 読 解 のボトムアッププロ セスとそれにより 構 築 される 理 解 表 象 をよく 説 明 するも のとして, 読 解 に 関 する 多 くの 研 究 が 依 拠 しているもので す I-C モデルでは, 読 解 プロセスに 2 つの 軸 を 想 定 します (スライド2) まず,テキストの 局 所 的 な 内 容 に 関 する ミクロ 構 造 と,テキスト 全 体 を 捉 えるマクロ 構 造 の 軸 があ ります この 軸 に 直 交 するのが,テキストベースと 状 況 モ スライド2 読 解 プロセスの 理 論 統 合 - 構 築 モデル 理 解 表 象 と 読 解 プロセス 2 軸 の 理 論 的 関 係 ミクロ 構 造 スライド3 読 解 プロセスモデルに 沿 った 測 定 測 定 テキストの 局 所 的 内 容 に 関 する 推 論 テキストの 局 所 的 なつながり 状 況 モデル テキストベース テキスト 全 体 と 知 識 を 統 合 した 理 解 テキスト 全 体 の 構 造 の 理 解 統 合 - 構 築 モデル テキスト 言 い 換 え ベース 代 名 詞 理 解 状 況 モデル 精 緻 化 推 論 部 分 的 な 推 論 各 文 の 理 解 ミクロ 構 造 マクロ 構 造 記 述 されている 全 体 構 造 の 把 握 マクロ 構 造 要 約 ( 重 要 情 報 の 把 握 ) 再 生 推 論 問 題 の 解 決 再 生 キーワードの 関 連 づけ 書 かれていない 内 容 の 推 論 を 含 む 全 体 像 把 握 デルの 軸 です テキストベースがテキストに 書 いてある 内 容 そのものを 指 すのに 対 して, 状 況 モデルは, 読 み 手 が 自 分 の 知 識 を 使 って 推 論 した 内 容 や, 知 識 と 統 合 した 理 解 表 象 を 指 します ここでは 便 宜 的 に 4 つの 象 限 を 考 えてみま す まず,テキストベースのミクロ 構 造 は,テキストの 局 所 的 なつながり, 単 語 同 士 が 統 語 的 な 関 係 に 基 づいて 結 び ついた 状 態 です 状 況 モデルのミクロ 構 造 では,テキスト 中 の 単 語 のような 局 所 的 な 内 容 に 関 する 推 論 や 連 想 が 含 まれた 理 解 表 象 を 示 しています それに 対 してテキストベ ースのマクロ 構 造 は, 直 感 的 には 要 約 のようなものになり ます テキストが 全 体 としてどのような 構 造 を 持 っている か, 全 体 的 な 内 容 要 旨 となるものを 指 します 状 況 モデ ルのマクロ 構 造 は, 単 に 書 いてある 内 容 の 要 約 にとどまら ない, 読 み 手 の 知 識 と 統 合 された 文 章 の 全 体 的 な 内 容 理 解 を 指 します このモデルに 従 って, 読 解 力 の 測 定 を 考 えてみますと, スライド3のようになります それぞれ 4 つの 象 限 ごとに 見 てみましょう まず,テキストベースのミクロ 構 造 では, 各 文 を 正 確 に 理 解 できているかが 測 られるので, 代 名 詞 の 理 解 や 言 い 換 えが 出 題 されます 状 況 モデルのミクロ 構 造 では, 部 分 的 にどのような 推 論 がなされたかを 測 定 するた めに, 各 部 分 での 精 緻 化 推 論 の 様 子 を 測 定 することになり ます テキストベースのマクロ 構 造 では, 記 述 されている 文 章 内 容 の 全 体 像 の 正 しい 理 解 が 問 題 となりますので, 読 み 手 に 要 約 を 求 めたり, 内 容 の 再 生 を 求 めたりして 測 定 を 行 ないます 最 後 に, 状 況 モデルのマクロ 構 造 として, 文 章 には 書 かれていない 内 容 についての 推 論 を 含 む 理 解 を 測 るために, 推 論 問 題 が 出 題 されます また, 内 容 の 再 生 を 求 めた 場 合 に, 読 み 手 の 推 論 が 含 まれることがあります ので,そこから 読 み 手 がどのような 状 況 モデルを 構 築 した か 考 えたりもします また, 読 解 前 後 でキーワードの 関 連 付 けがどのように 変 化 するかを 検 討 する 方 法 なども 提 案 されています これまでの 内 容 をまとめてみましょう 読 解 プロセスの 視 点 から 考 えると, 読 解 力 とは, 読 解 プロセスの 結 果 と しての 理 解 表 象 あるいは 対 象 のテキストをどのように 理 解 したか であると 定 義 できます ここでは, 全 体 的 な 内 容 や 構 造 の 的 確 な 把 握 理 解 の 深 さ が 測 定 されま す こうした 読 解 力 の 測 定 は, 認 知 心 理 学 の 知 見 に 裏 打 ちさ れたもので 説 得 力 がありますが, 基 本 的 に, 研 究 者 がその 研 究 の 問 題 意 識 に 沿 った 問 題 を 作 成 して 用 いており, 標 準 化 されたテストがほとんどないこと,あっても 作 成 年 代 が 104
第 14 回 読 解 力 の 測 定 :プロセスとスキル 古 かったり, 対 象 年 齢 が 限 られていたりするという 限 界 が あります たとえば,T-K 式 読 み 能 力 診 断 検 査 ( 北 尾,1984) は, 読 解 のボトムアッププロセスに 着 目 した 標 準 化 検 査 で すが, 小 学 校 中 学 年 相 当 を 対 象 としており,また, 読 解 に 問 題 を 持 つ 読 み 手 のスクリーニングなどに 適 した 形 態 と なっています たとえば, 中 学 生 の 読 解 力 について 知 りた い,という 場 合 にそのまま 使 えるような 読 解 力 テストでは ないと 言 えます 3 読 解 力 とは: 読 み 手 のスキル 能 力 ここで, 高 橋 (1996)の 読 解 プロセスのモデル(スラ イド4)を 見 てみましょう 高 橋 (1996)は, 読 解 に 3 つの 処 理 レベルを 考 えました それぞれのレベルには, 読 み 手 のさまざまなスキルや 能 力 が 必 要 となります たとえ ば, 文 字 を 符 号 化 し 単 語 として 処 理 するためには, 読 み 手 の 語 彙 (ボキャブラリー)が 影 響 していると 考 えられます また, 談 話 レベルの 処 理, 文 章 の 全 体 的 内 容 を 理 解 するた めの 処 理 レベルでは,その 内 容 についての 知 識 が 問 われま す たとえば, 野 球 に 関 する 文 章 を 読 むときに, 野 球 のル ールをよく 知 っている 人 と, 野 球 について 全 く 知 らない 人 では,それ 以 外 のレベルの 処 理 に 違 いはなくても, 談 話 の 処 理 レベルに 大 きな 違 いが 生 じるために, 文 章 全 体 の 表 象 が 異 なってくることが 知 られています このように, 読 解 のプロセスには,さまざまな 読 み 手 の スキルや 能 力 が 影 響 しています 先 行 研 究 では, 単 語 の 読 みの 流 暢 さ(Ehri & Wilce, 1983; Perfetti ら,Stanovich; Fredericson, 1981)や 語 彙 力 (Davis,1968;Thorndyke, スライド4 処 理 プロセスと 影 響 するスキル 能 力 読 解 プロセスの3つの 処 理 レベル 高 橋 (1996) 1973)の 影 響 が 多 く 指 摘 されています こうした 単 語 レ ベルの 処 理 については, 読 解 の 発 達 初 期 に 関 する 研 究 が 数 多 く 検 討 され,その 影 響 の 大 きさが 指 摘 されています 一 方, 文 の 処 理 レベル, 談 話 の 処 理 レベルにおいては, 様 々 な 読 解 スキル,すなわち, 読 解 方 略 やメタ 認 知 的 スキル, 知 識 の 重 要 性 が 言 われています 読 解 方 略 (スライド5)は, 理 解 を 促 進 するために 読 解 中 に 読 み 手 が 行 なう 様 々な 行 為 思 考 を 指 します 犬 塚 (2002)は 質 問 紙 調 査 をもとに, 読 解 方 略 の 構 造 を 示 し ました(スライド6) 犬 塚 (2002)では, 読 解 方 略 は, 文 章 中 のつまづきを 解 消 するための 理 解 補 償 方 略, 内 容 を 理 解 記 憶 するための 内 容 理 解 方 略, 文 章 に 明 示 してあることを 越 えて,さらに 理 解 を 深 めるための 理 解 深 化 方 略 の 3 つの 因 子 から 捉 えられています こうした 読 解 方 略 の 指 導 が, 読 み 手 の 読 解 力 を 高 めることや, 学 年 が 上 の 読 み 手 は,より 多 く 読 解 方 略 を 用 い,また, 場 面 に 応 じた 適 切 な 方 略 を 用 いることができると 考 えられてい ます スライド5 読 解 方 略 の 例 読 解 方 略 読 解 方 略 の 例 ( 犬 塚,2002より 改 訂 ) どんな 意 味 かはっきりさせながら 読 む 簡 単 に 言 うとどういうことか 考 える 分 からないところはゆっくり 読 む 分 からないところや 難 しいところを 繰 り 返 し 読 む コメントや 内 容 をまとめたものを 書 きこむ 大 切 なところを 書 き 抜 く 大 切 なところを 覚 えようとする 分 からないところはとりあえず 丸 暗 記 する 読 み 終 わってから 自 分 がどのくらい 分 かっているかチェッ クするような 質 問 をする 意 味 段 落 に 分 けて 考 える 接 続 詞 に 注 意 する 知 っていることと 比 べながら 読 む 知 っていることと 読 んでいる 内 容 を 結 びつけながら 読 む スライド6 読 解 方 略 の 構 造 読 解 方 略 読 解 方 略 とその 構 造 ( 犬 塚,2002より 改 訂 ) 意 味 明 確 化 方 略 コントロール 方 略 要 点 把 握 方 略 記 憶 方 略 質 問 生 成 方 略 構 造 注 目 方 略 既 有 知 識 活 用 方 略 文 字 単 語 の 処 理 レベル 語 彙 理 解 補 償 方 略 0.83 0.62 意 味 明 確 化 コントロール 文 の 処 理 のレベル 0.70 0.83 要 点 把 握 談 話 の 処 理 のレベル 文 章 全 体 の 表 象 ( 状 況 モデル) 領 域 知 識 方 略 使 用 傾 向 0.70 0.70 内 容 学 習 方 略 理 解 深 化 方 略 0.44 0.58 0.85 0.50 記 憶 質 問 生 成 構 造 注 目 既 有 知 識 活 用 105
第 Ⅲ 部 研 究 会 ( 下 半 期 ) メタ 認 知 的 スキル(スライド7)は, 自 らの 理 解 状 態 を 評 価 吟 味 するメタ 認 知 的 モニタリングと, 読 解 プロセスを 調 整 したり 方 略 使 用 を 調 整 したりするメタ 認 知 的 コント ロールからなります 文 章 中 の 矛 盾 に 気 がつくかどうか, あるいは, 自 分 が 理 解 できているかどうか,といった 観 点 からメタ 認 知 的 モニタリングのスキルを 測 定 します メタ 認 知 的 コントロールは,たとえば 異 なる 状 況 下 で 方 略 をど のように 用 いるかという 観 点 から 測 定 したりします この メタ 認 知 的 スキルは, 自 分 自 身 の 理 解 を 自 分 で 見 直 すとい うことですので,いわば, 高 度 なスキルということができ るでしょう こうしたスキルが 身 についているかどうかが, 読 解 に 影 響 するのです スライド7 メタ 認 知 的 スキル メタ 認 知 的 モニタリング 知 識 については, 先 ほどお 話 した 領 域 知 識 のほか, 文 章 自 体 についての 知 識 が 重 要 になります たとえば, 説 明 文 とはこういうものだ, 物 語 文 とはこういうものだ,という ジャンルについての 知 識 が 挙 げられます こうした 文 談 話 レベルの 処 理 に 関 わる 要 因 については, 読 解 の 初 期 だけでなく, 大 学 生 や 熟 達 した 読 み 手 において も, 読 解 に 大 きな 影 響 を 与 えることが 知 られています 読 解 プロセスに 影 響 する 要 因 という 観 点 から 読 解 力 を 捉 えると, 読 解 力 とは, 読 解 プロセスに 影 響 する 能 力 やス キルをどの 程 度 有 しているかである,と 定 義 することがで きます この 観 点 から 読 解 力 を 捉 えるときには, 読 み 手 の 発 達 段 階 を 考 慮 することも 重 要 だと 言 えそうです 読 みの 発 達 初 期 には 語 彙 などの 単 語 処 理 レベルの 要 因 に 特 に 注 目 する 必 要 がありますし,ある 程 度 発 達 した 読 み 手 にとっ ては, 単 語 処 理 レベルよりも 読 解 スキルが 重 要 だというこ とも 考 えられるからです メタ 認 知 的 スキル 自 らの 理 解 状 態 の 評 価 吟 味 メタ 認 知 的 コントロール 方 略 の 使 用, 読 解 プロセスの 調 整 測 定 矛 盾 検 出 (モニタリング) 理 解 度 評 定 (モニタリング) 方 略 使 用 (コントロール) 理 解 表 象 モニタリング コントロール 文 章 4 実 施 されている 読 解 力 テストから ここまで, 読 解 力 について, 読 解 プロセスの 観 点 と,そ こに 影 響 する 要 因 という 観 点 から 考 えてきました そこか ら, 読 解 力 は 構 築 された 理 解 表 象 として,あるいは, 読 解 に 影 響 する 能 力 やスキル として 定 義 できると 言 え ました では, 実 際 に 実 施 されている 読 解 テストでは, 読 解 力 はどのように 定 義 され, 測 定 されているのでしょうか 4.1 SAT まず,SAT を 取 り 上 げてみましょう SAT は,アメリ カで 実 施 されている 大 学 の 入 学 試 験 のためのテストです センター 試 験 のようなものだと 考 えていただければいい かと 思 います SAT は 大 きく 2 つのセクションに 分 けら れており,Critical reading, Mathematical reasoning, Writing skill からなる Reasoning Test と,English (Literature), Social studies, Math, Science, Language と いった 各 教 科 のテストである Subject Test からなります ここで 注 目 していただきたいのは, 読 解 に 関 するテストが, Critical reading と Literature に 分 けられていることです 前 者 は, 日 本 語 に 直 すと 批 判 的 読 解 ということになり ますが, 語 彙 や 文 法, 短 文 長 文 の 読 解 が 対 象 となってい ます 具 体 的 な 課 題 としては, 文 完 成 や 適 語 補 充, 要 点 把 握, 趣 旨 把 握 が 課 されます それに 対 して,Literature, すなわち 文 学 では, 中 世 以 降 の 文 学 を 理 解 できるかど うかが 対 象 となっており,より 専 門 的 な 知 識 が 必 要 な 問 題 となります このように,SAT の 特 徴 としては, 国 語 のテストとして 一 括 で 実 施 するのではなく, 領 域, 必 要 な 能 力 によって 区 別 してテストを 行 なっているという 点 が 挙 げられるのではないかと 思 います 4.2 PISA 次 に,PISA を 取 り 上 げてみます PISA の 大 きな 特 徴 は, 読 解 力 の 測 定 を 読 解 プロセス と 問 題 フォーマッ ト の 2 つの 軸 から 構 成 している 点 にあります まず,PISA では 読 解 プロセスを 大 きく 2 つに 分 けて 捉 えます(スライド8) 1 つは, 図 の 左 側 になりますが, 文 章 中 の 情 報 を 用 いる 力 です これはさらに, 文 章 中 の 情 報 の 検 索 と 文 章 の 解 釈 に 分 けられます 文 章 の 解 釈 については, 全 体 的 な 理 解 の 構 築 と 解 釈 106
第 14 回 読 解 力 の 測 定 :プロセスとスキル の 構 築 の 2 種 類 を 想 定 しています この 文 章 中 の 情 報 を 用 いる 力 の 考 え 方 は, 初 めにお 話 した Kintsch らのモ デルとの 類 似 を 見 て 取 ることができるかもしれません 一 方,もう 1 つの 大 きな 概 念 としては, 文 章 の 外 にある 知 識 を 用 いる 力 が 考 えられています これは, 文 章 の 内 容 に 関 する 発 展 的 思 考 や 評 価 そして 文 章 の 形 式 に 関 す る 発 展 的 思 考 や 評 価 が 含 まれます つまり,PISA では, 文 章 を 理 解 するプロセスとして, 内 容 を 理 解 し 自 分 の 知 識 と 結 びつける,という 読 解 プロセスだけでなく,それをも とに 考 えたり,その 文 章 のよさを 評 価 したりするプロセス も 含 んでいるのです 次 に, 問 題 フォーマットについて 見 てみましょう(スラ イド9) 問 題 フォーマットは, 連 続 と 非 連 続 の 2 つが 想 定 されています 連 続 テキストは 文 章 として 書 か れたものを 指 しており, 物 語 文 や 説 明 文, 意 見 文 などが 挙 げられます 一 方,PISA が 特 徴 的 なのは,チャートやグ ラフ, 表, 地 図 といったものも 非 連 続 テキストとして 位 置 づけているところです スライド8 PISAの 理 解 プロセス (1) 理 解 プロセス PISAの 読 解 力 スライド9 PISAの 問 題 フォーマット PISAの 読 解 力 (2)フォーマット: 連 続 非 連 続 ICモデル (Kintsch)との 類 似 性 テキストベース と 状 況 モデル 文 章 以 外 の 読 み も 視 野 に 入 れる PISA の 問 題 は,この 理 解 プロセスと 問 題 フォーマット の 組 み 合 わせによって 構 成 されています(スライド10) 連 続 のフォーマット( 文 章 )の 情 報 検 索 プロセスを 測 定 す るためには, 文 章 中 の 要 点 を 述 べる 文 を 特 定 させ, 非 連 続 (グラフなど)の 解 釈 プロセスを 測 定 するためには,2 つ の 異 なるグラフ 間 の 関 連 を 記 述 させるなどの 課 題 構 成 に なっています スライド10 PISAの 問 題 4.3 日 本 で 標 準 的 な 読 解 テスト ここで,これらのテストとの 比 較 を 含 めつつ, 日 本 の 標 準 的 な 読 解 テストを 考 えて 見 ましょう 一 般 的 な 特 徴 とし て,4 点 挙 げることができます 第 一 に,1 つのテストの 中 に 様 々な 文 章 ジャンルに 関 する 測 定 がなされ,その 合 計 点 を 持 って 読 解 力 とすることが 多 いことが 特 徴 と 言 え るでしょう そのため, 背 後 に 想 定 されているモデルや 読 解 力 の 定 義 が 不 明 確 なものになっていると 指 摘 できそう です 第 二 に, 基 本 的 に 測 定 されるのは 内 容 を 正 しく 理 解 しているか という 部 分 です Kintsch らの 読 解 プロセ スモデルで 言 うと,テキストベースに 特 化 した 問 題 構 成 に なっていると 言 えます 第 三 の 特 徴 は 第 二 の 点 と 重 なる 部 分 がありますが, 正 解 が 必 ず 文 章 中 にあることが 基 本 とな っています そこで, 問 題 に 対 する 答 えは 考 えるもの というより 探 すもの という 特 徴 を 持 つことになります 最 後 に,これは, 日 本 の 読 解 テストに 限 りませんが, 連 続 のフォーマットに 限 定 されていることが 挙 げられるでし ょう PISAの 読 解 力 理 解 プロセス フォーマット による 問 題 構 成 項 目 文 章 中 の 要 点 を 述 べる 文 を 特 定 する 2つの 文 章 に 共 通 する 目 的 を 考 える 物 語 のエンディングがそのテーマや 雰 囲 気 に 沿 ったものであるか 評 価 する 脚 注 を 参 考 に, 樹 形 図 中 の 情 報 を 特 定 する 2つの 異 なるグラフ 間 の 関 係 を 述 べる 親 近 性 の 低 い 事 象 について, 知 識 と 表 の 情 報 を 用 いて 仮 説 を 立 てる プロセス 情 報 検 索 解 釈 判 断 評 価 情 報 検 索 解 釈 判 断 評 価 フォーマット 文 章 文 章 文 章 非 文 章 (グラフ) 非 文 章 (グラフ) 非 文 章 ( 表 ) 107
第 Ⅲ 部 研 究 会 ( 下 半 期 ) 5 新 しい 読 解 力 の 測 定 へ 向 けて これまでに 検 討 してきた 内 容 をまとめてみましょう(ス ライド11) まず, 読 解 力 はそのプロセスから 構 成 され る 理 解 表 象 の 特 徴 から 定 義 されます すなわち, 文 章 の 部 分 的 な 表 象 であるミクロ 構 造 と 全 体 的 構 造 を 示 すマクロ 構 造,および, 文 章 に 書 いてある 内 容 であるテキストベー スと 読 み 手 の 知 識 や 推 論 と 統 合 された 状 況 モデルと 言 う 2 つの 軸 から 構 成 される 理 解 表 象 の 特 徴 が, 読 解 力 と 考 えられるのです また,そこに 影 響 する 読 み 手 の 能 力 や スキルが,もう 一 つの 読 解 力 の 定 義 と 言 うことができ ます さらに,PISA で 取 り 上 げられているように,ここ で 構 成 された 理 解 表 象 をもとにした 解 釈 や 評 価, 判 断 とい った 活 動 も 広 義 の 読 解 力 として 位 置 づけることができ ます しかし,これですべての 読 解 を 捉 えているというわ けではありません さらに 広 い 視 点 から 考 えると,こうし た 読 解 力 は, 連 続 テキストの 批 判 的 読 解 という 領 域 に 限 ら れたものであり, 文 学 の 読 解 や 非 連 続 テキストの 理 解 をも 含 めた 読 解 力 を 考 えることもできます こうした 全 体 像 の 中 で, 現 在 の 日 本 の 一 般 的 なテストで 測 定 されている のは,スライド11にグレーで 示 した,ごく 一 部 分 である ということができそうです スライド11 読 解 力 の 定 義 と 測 定 解 釈 評 価 判 断 読 解 力 の 測 定 批 判 的 読 解 連 続 テキストの 理 解 状 況 モデル ミ ク ロ 構 造 テキストベース 理 解 表 象 マ ク ロ 構 造 処 読 理 解 の ス 流 キ 暢 ル さ 知 識 語 彙 ス キ ル 能 力 力 と, 説 明 文 を 理 解 する 能 力 の 関 係 をどのように 考 えるの か,ということです 同 じテストで 測 定 して 読 解 力 と してまとめてしまってよいのか, 考 える 必 要 があるのでは ないでしょうか 第 二 に, 書 いてあることを 正 しく 理 解 す るだけでよいのか,それとも 書 いていない 内 容 について 推 論 したり, 判 断 したりすることを 含 めるのか,という 点 が 重 要 になると 考 えられます 書 いてある 内 容 から 情 報 を 検 索 するだけにとどまらない, 解 釈 や 発 展 的 思 考 に 関 する 読 解 力 を 対 象 としたテストを 新 たに 考 える 必 要 があります 第 三 に, 読 解 スキルのような, 読 解 に 影 響 する 能 力 やスキ ルを 考 慮 したテストを 考 えることもできるでしょう 現 状 では, 語 彙 や 漢 字 の 知 識 が 測 定 されるくらいですが,たと えば, 小 学 校 の 低 学 年 の 子 どもについては,どのくらいの 流 暢 さで 単 語 を 処 理 することができるか, 読 むスピードな どを 測 定 することが 指 導 に 有 効 なテストとなるかもしれ ません また,どのくらい 読 解 方 略 を 身 につけているかを 測 定 することもできると 思 います 第 四 に,グラフ 表 と いった 非 連 続 テキストの 理 解 を 読 解 力 として 測 定 するこ とを 挙 げられます これは, 紙 ベースのものに 限 らず, 新 しいメディアを 含 んださらに 新 しい 読 解 力 へと 発 展 する 可 能 性 も 含 んだ 読 解 力 として 位 置 づけることもできると 考 えられます こうした,これまでより 広 義 での 読 解 力 は, 文 部 科 学 省 が PISA 型 読 解 力 として 位 置 づけ,そ の 育 成 を 目 指 している 力 と 共 通 している 部 分 が 大 きいと 言 えます これまでの 検 討 から, 読 解 力 と 一 言 で 言 っているも のの 中 身 が 非 常 に 多 様 であり, 多 様 な 測 定 がありうるとい うことが 分 かります しかし,だからといって, 読 解 力 を 測 定 するテストを 考 えるに 当 たって,すべての 点 を 考 慮 し たテストを 作 成 するべきだ,というわけではないと 思 いま す 重 要 なのは,そのテストがどのような 読 解 力 を 測 定 しようとしているのか,その 定 義 や 背 後 のモデルを 明 確 にした 上 で 課 題 を 構 成 していくというところなのではな いでしょうか 新 しい 読 解 力 テストの 開 発 のためには,ま ず, 育 成 すべき 読 解 力 としてどのようなモデルを 想 定 する のかを 明 確 化 し,それに 沿 った 課 題 の 作 成 が 重 要 だという ことを 再 度 強 調 して, 発 表 を 終 わりたいと 思 います これを 念 頭 において, 新 しい 読 解 力 テストを 考 えてみる と, 以 下 の 4 点 を 考 慮 する 必 要 があるのではないかと 思 い ます 第 一 に, 文 章 のジャンルや 領 域 別 のモデルや 測 定 を 考 えることが 挙 げられます 古 典 や 文 学 作 品 を 理 解 する 能 108
第 14 回 読 解 力 の 測 定 :プロセスとスキル 引 用 参 考 文 献 秋 田 喜 代 美 久 野 雅 樹 大 村 彰 道 (2001) 文 章 理 解 の 心 理 学, 北 大 路 書 房 Anderson, J.C. (2000) Assessing Reading: Cambridge Language Assessment. Cambridge Univ Pr. Baker,L. & Brown, A.L. (1985) Metacognitive skills and reading. In P.D. Pearson (ed.) A handbook of reading research. NY, Longman. Cain, K., Oakhill, J., & Bryant, P. (2004). Children s reading comprehension ability: Concurrent prediction by working memory, verbal ability, and component skills. Journal of Educational Psychology, 96, 31-42. Daneman, M. & Carpenter,P.A. (1980) Individual differences in working memory and reading. Journal of Memory and Language, 19, 450-466. Ehri, L. C., & Wilce, L. S. (1983). Development of word identification speed in skilled and less skilled beginning readers. Journal of Educational Psychology, 75, 3-18. Fredericson, J.R. (1981 ) Sources of process interactions in reading. In A.M. Lesgold & C.A. Perfetti (eds.) Interactive process in reading. Hilledale, NJ:Lawrence Erlbaum Assoc. 犬 塚 美 輪 (2002) 説 明 文 における 読 解 方 略 の 構 造, 教 育 心 理 学 研 究,50,152-162. Kintsch, W. (1998) Comprehension: A paradigm for Cognition, Cambridge Univ. Pr. Kintsch,W. & van Dijk, T.A. (1978) Toward a model of text comprehension and production. Psychological Review,85, 363-394. 文 部 科 学 省 読 解 力 向 上 に 関 す る 指 導 資 料 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku/ siryo/05122201.htm 高 橋 登 (1996) 学 童 期 の 子 どもの 読 み 能 力 の 規 定 要 因 に ついてーcomponential approach による 分 析 的 研 究 ー 心 理 学 研 究,67,186-194. Perfetti,C.A. (1985) Reading Ability. NY, Oxford Univ,Pr. Pressley, M., & Afflerbach,P (1995) Verbal Protocols of Reading: The Nature of Constructively Responsive Reading,Lawrence Erlbaum Assoc. Stanovich,K.E. (2000)Progress in Understanding Reading, Guilford Pr. The PISA Assessment Framework, Chap 2. Reading Literacy, pp107-129. The PISA 2003 Results, Chap6. A Profile of Student Performance in Reading and Science,pp272-299. Thorndike, R. L. (1973). Reading comprehension in fifteen countries. New York: Wiley. 以 上 109
第 Ⅲ 部 研 究 会 ( 下 半 期 ) 110