イン版 (2 月 22 日付け : 日本時間 2 月 23 日 ) に掲載されます 注 )R. Yoshimi, K. Yasuda, A. Tsukazaki, K.S. Takahashi, N. Nagaosa, M. Kawasaki and Y. Tokura, Quantum Hall

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トポロジカル絶縁体ヘテロ接合による量子技術の基盤創成 ( 研究代表者 : 川﨑雅司 ) の事業の一環として行われました 共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関物理部門強相関物性研究グループ研修生安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 東京大学大学院工学系研究科博士課程 2 年 ) 研

共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関量子伝導研究チームチームリーダー十倉好紀 ( とくらよしのり ) 基礎科学特別研究員吉見龍太郎 ( よしみりゅうたろう ) 強相関物性研究グループ客員研究員安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 米国マサチューセッツ工科大学ポストドクトラルアソシ

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共同研究グループ 理化学研究所創発物性科学研究センター 量子情報エレクトロニクス部門 量子ナノ磁性研究チーム 研究員 近藤浩太 ( こんどうこうた ) 客員研究員 福間康裕 ( ふくまやすひろ ) ( 九州工業大学大学院情報工学研究院電子情報工学研究系准教授 ) チームリーダー 大谷義近 ( おおた

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体状態を保持したまま 電気伝導の獲得という電荷が担う性質の劇的な変化が起こる すなわ ち電荷とスピンが分離して振る舞うことを示しています そして このような状況で実現して いる金属が通常とは異なる特異な金属であることが 電気伝導度の温度依存性から明らかにされました もともと電子が持っていた電荷やスピ

特別研究員高木里奈 ( たかぎりな ) ユニットリーダー関真一郎 ( せきしんいちろう ) ( 科学技術振興機構さきがけ研究者 ) 計算物質科学研究チームチームリーダー有田亮太郎 ( ありたりょうたろう ) ( 東京大学大学院工学系研究科教授 ) 強相関物性研究グループグループディレクター十倉好紀

PRESS RELEASE (2015/10/23) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

と呼ばれる普通の電子とは全く異なる仮説的な粒子が出現することが予言されており その特異な統計性を利用した新機能デバイスへの応用も期待されています 今回研究グループは パラジウム (Pd) とビスマス (Bi) で構成される新規超伝導体 PdBi2 がトポロジカルな性質をもつ物質であることを明らかにし

マスコミへの訃報送信における注意事項

令和元年 6 月 1 3 日 科学技術振興機構 (JST) 日本原子力研究開発機構東北大学金属材料研究所東北大学材料科学高等研究所 (AIMR) 理化学研究所東京大学大学院工学系研究科 スピン流が機械的な動力を運ぶことを実証 ミクロな量子力学からマクロな機械運動を生み出す新手法 ポイント スピン流が

1. 背景強相関電子系は 多くの電子が高密度に詰め込まれて強く相互作用している電子集団です 強相関電子系で現れる電荷整列状態では 電荷が大量に存在しているため本来は金属となるはずの物質であっても クーロン相互作用によって電荷同士が反発し合い 格子状に電荷が整列して動かなくなってしまう絶縁体状態を示し

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スピン流を用いて磁気の揺らぎを高感度に検出することに成功 スピン流を用いた高感度磁気センサへ道 1. 発表者 : 新見康洋 ( 大阪大学大学院理学研究科准教授 研究当時 : 東京大学物性研究所助教 ) 木俣基 ( 東京大学物性研究所助教 ) 大森康智 ( 東京大学新領域創成科学研究科物理学専攻博士課

配信先 : 東北大学 宮城県政記者会 東北電力記者クラブ科学技術振興機構 文部科学記者会 科学記者会配付日時 : 平成 30 年 5 月 25 日午後 2 時 ( 日本時間 ) 解禁日時 : 平成 30 年 5 月 29 日午前 0 時 ( 日本時間 ) 報道機関各位 平成 30 年 5 月 25

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背景と経緯 現代の電子機器は電流により動作しています しかし電子の電気的性質 ( 電荷 ) の流れである電流を利用した場合 ジュール熱 ( 注 3) による巨大なエネルギー損失を避けることが原理的に不可能です このため近年は素子の発熱 高電力化が深刻な問題となり この状況を打開する新しい電子技術の開

互作用によって強磁性が誘起されるとともに 半導体中の上向きスピンをもつ電子と下向きスピンをもつ電子のエネルギー帯が大きく分裂することが期待されます しかし 実際にはこれまで電子のエネルギー帯のスピン分裂が実測された強磁性半導体は非常に稀で II-VI 族である (Cd,Mn)Te において極低温 (

氏 名 田 尻 恭 之 学 位 の 種 類 博 学 位 記 番 号 工博甲第240号 学位与の日付 平成18年3月23日 学位与の要件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 La1-x Sr x MnO 3 ナノスケール結晶における新奇な磁気サイズ 士 工学 効果の研究 論 文 審 査

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平成**年*月**日

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図は ( 上 ) ローレンツ像の模式図と ( 下 ) パーマロイ磁性細線の実際のローレンツ像

平成18年2月24日

研究成果東京工業大学理学院の那須譲治助教と東京大学大学院工学系研究科の求幸年教授は 英国ケンブリッジ大学の Johannes Knolle 研究員 Dmitry Kovrizhin 研究員 ドイツマックスプランク研究所の Roderich Moessner 教授と共同で 絶対零度で量子スピン液体を示

コバルトとパラジウムから成る薄膜界面にて磁化を膜垂直方向に揃える界面電子軌道の形が明らかに -スピン軌道工学に道 1. 発表者 : 岡林潤 ( 東京大学大学院理学系研究科附属スペクトル化学研究センター准教授 ) 三浦良雄 ( 物質材料研究機構磁性 スピントロニクス材料研究拠点独立研究者 ) 宗片比呂

う特性に起因する固有の量子論的効果が多数現れるため 基礎学理の観点からも大きく注目されています しかし 特にゼロ質量電子系における電子相関効果については未だ十分な検証がなされておらず 実験的な解明が待たれていました 東北大学金属材料研究所の平田倫啓助教 東京大学大学院工学系研究科の石川恭平大学院生

報道発表資料 2007 年 4 月 12 日 独立行政法人理化学研究所 電流の中の電子スピンの方向を選り分けるスピンホール効果の電気的検出に成功 - 次世代を担うスピントロニクス素子の物質探索が前進 - ポイント 室温でスピン流と電流の間の可逆的な相互変換( スピンホール効果 ) の実現に成功 電流

高集積化が可能な低電流スピントロニクス素子の開発に成功 ~ 固体電解質を用いたイオン移動で実現低電流 大容量メモリの実現へ前進 ~ 配布日時 : 平成 28 年 1 月 12 日 14 時国立研究開発法人物質 材料研究機構東京理科大学概要 1. 国立研究開発法人物質 材料研究機構国際ナノアーキテクト

PRESS RELEASE (2017/6/2) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

予定 (川口担当分)

論文の内容の要旨

マスコミへの訃報送信における注意事項

第1章 様々な運動

スピントロニクスにおける新原理「磁気スピンホール効果」の発見

PowerPoint プレゼンテーション

マスコミへの訃報送信における注意事項

機械学習により熱電変換性能を最大にするナノ構造の設計を実現

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4. 発表内容 : 1 研究の背景グラフェン ( 注 6) やトポロジカル物質と呼ばれる新規なマテリアルでは 質量がゼロの特殊な電子によってその物性が記述されることが知られています 質量がゼロの電子 ( ゼロ質量電子 ) とは 光速の千分の一程度の速度で動く固体中の電子が 一定の条件下で 有効的に

マスコミへの訃報送信における注意事項

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平成 27 年 12 月 11 日 報道機関各位 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (AIMR) 東北大学大学院理学研究科東北大学学際科学フロンティア研究所 電子 正孔対が作る原子層半導体の作製に成功 - グラフェンを超える電子デバイス応用へ道 - 概要 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (

2 図微小要素の流体の流入出 方向の断面の流体の流入出の収支断面 Ⅰ から微小要素に流入出する流体の流量 Q 断面 Ⅰ は 以下のように定式化できる Q 断面 Ⅰ 流量 密度 流速 断面 Ⅰ の面積 微小要素の断面 Ⅰ から だけ移動した断面 Ⅱ を流入出する流体の流量 Q 断面 Ⅱ は以下のように

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B. モル濃度 速度定数と化学反応の速さ 1.1 段階反応 ( 単純反応 ): + I HI を例に H ヨウ化水素 HI が生成する速さ は,H と I のモル濃度をそれぞれ [ ], [ I ] [ H ] [ I ] に比例することが, 実験により, わかっている したがって, 比例定数を k

物性物理学 I( 平山 ) 補足資料 No.6 ( 量子ポイントコンタクト ) 右図のように 2つ物質が非常に小さな接点を介して接触している状況を考えましょう 物質中の電子の平均自由行程に比べて 接点のサイズが非常に小さな場合 この接点を量子ポイントコンタクトと呼ぶことがあります この系で左右の2つ

相対性理論入門 1 Lorentz 変換 光がどのような座標系に対しても同一の速さ c で進むことから導かれる座標の一次変換である. (x, y, z, t ) の座標系が (x, y, z, t) の座標系に対して x 軸方向に w の速度で進んでいる場合, 座標系が一次変換で関係づけられるとする

2 成果の内容本研究では 相関電子系において 非平衡性を利用した新たな超伝導増強の可能性を提示することを目指しました 本研究グループは 銅酸化物群に対する最も単純な理論模型での電子ダイナミクスについて 電子間相互作用の効果を精度よく取り込める数値計算手法を開発し それを用いた数値シミュレーションを実

ます この零エネルギーの輻射が量子もつれを共有できることから ブラックホールが極めて高温な防火壁で覆われているという仮説が論理的必然でないことを明らかにしました 本研究の成果は 米国物理学会誌 Physical Review Letters に 2018 年 5 月 4 日 ( 米国東部時間 ) オ

報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

2 磁性薄膜を用いたデバイスを動作させるには ( 磁気記録装置 (HDD) を例に ) コイルに電流を流すことで発生する磁界を用いて 薄膜の磁化方向を制御している

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研究の背景有機薄膜太陽電池は フレキシブル 低コストで環境に優しいことから 次世代太陽電池として着目されています 最近では エネルギー変換効率が % を超える報告もあり 実用化が期待されています 有機薄膜太陽電池デバイスの内部では 図 に示すように (I) 励起子の生成 (II) 分子界面での電荷生

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報道機関各位 令和元年 7 月 9 日 東北大学 流動中の磁気スキルミオン格子の変形挙動観測に成功 発表のポイント カイラル磁性体 MnSi で形成される磁気スキルミオンが 電流下の流動状態においても格子構造を保つことを確認した 流動状態においては磁気スキルミオン格子が塑性変形することを観測した 塑

             論文の内容の要旨

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

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背景 現代社会を支えるコンピューティングや光通信では, 情報の担い手として, 電子の電荷と, その電荷を変換して生成した光 ( 光電変換 ) を利用しています このような通常の情報処理に用いる電荷以外に, 電子にはスピンという状態があります このスピンの集団は磁石の性質を持ち, 情報の保持に電力が不

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平成 28 年 12 月 1 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院工学研究科 マンガンケイ化物系熱電変換材料で従来比約 2 倍の出力因子を実現 300~700 の未利用熱エネルギー有効利用に期待 概要 東北大学大学院工学研究科の宮﨑讓 ( 応用物理学専攻教授 ) 濱田陽紀 ( 同専攻博士前期

概要 東北大学金属材料研究所の周偉男博士研究員 関剛斎准教授および高梨弘毅教授のグループは 産業技術総合研究所スピントロニクス研究センターの荒井礼子博士研究員および今村裕志研究チーム長との共同研究により 外部磁場により容易に磁化スイッチングするソフト磁性材料の Ni-Fe( パーマロイ ) 合金と

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1 背景 物質を構成する陽子や電子はフェルミ粒子と呼ばれ 通常反粒子が別の粒子として存在します 例えば 電 子の反粒子は陽電子であり 異なる符号の電荷を持つためこれらは別の粒子と見なせます 一方で 粒子と反 粒子が同一という特異な性質をもつ中性のフェルミ粒子が 素粒子の一つとして 1937 年に予言

報道機関各位 平成 30 年 5 月 14 日 東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター 株式会社アドバンテスト アドバンテスト社製メモリテスターを用いて 磁気ランダムアクセスメモリ (STT-MRAM) の歩留まり率の向上と高性能化を実証 300mm ウェハ全面における平均値で歩留まり率の

電磁気学 A 練習問題 ( 改 ) 計 5 ページ ( 以下の問題およびその類題から 3 題程度を定期試験の問題として出題します ) 以下の設問で特に断らない限り真空中であることが仮定されているものとする 1. 以下の量を 3 次元極座標 r,, ベクトル e, e, e r 用いて表せ (1) g

【最終版・HP用】プレスリリース(徳永准教授)

: (a) ( ) A (b) B ( ) A B 11.: (a) x,y (b) r,θ (c) A (x) V A B (x + dx) ( ) ( 11.(a)) dv dt = 0 (11.6) r= θ =

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超高速 超指向性 完全無散逸の 3 拍子がそろった 理想スピン流の創発と制御 ~ 弱い トポロジカル絶縁体の世界初の実証に成功 ~ 1. 発表のポイント : 理論予想以後実証できずにいた 弱い トポロジカル絶縁体 ( 注 1) 状態の直接観察に世界で初めて成功した 従来の 強い トポロジカル絶縁体で

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C-2 NiS A, NSRRC B, SL C, D, E, F A, B, Yen-Fa Liao B, Ku-Ding Tsuei B, C, C, D, D, E, F, A NiS 260 K V 2 O 3 MIT [1] MIT MIT NiS MIT NiS Ni 3 S 2 Ni

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報道機関各位 平成 28 年 8 月 23 日 東京工業大学東京大学 電気分極の回転による圧電特性の向上を確認 圧電メカニズムを実験で解明 非鉛材料の開発に道 概要 東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の北條元助教 東正樹教授 清水啓佑大学院生 東京大学大学院工学系研究科の幾原雄一教

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AlGaN/GaN HFETにおける 仮想ゲート型電流コラプスのSPICE回路モデル

平成 30 年 8 月 6 日 報道機関各位 東京工業大学 東北大学 日本工業大学 高出力な全固体電池で超高速充放電を実現全固体電池の実用化に向けて大きな一歩 要点 5V 程度の高電圧を発生する全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現 14 ma/cm 2 の高い電流密度での超高速充放電が可能に 界面形

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非磁性原子を置換することで磁性・誘電特性の制御に成功


1/30 平成 29 年 3 月 24 日 ( 金 ) 午前 11 時 25 分第三章フェルミ量子場 : スピノール場 ( 次元あり ) 第三章フェルミ量子場 : スピノール場 フェルミ型 ボーズ量子場のエネルギーは 第二章ボーズ量子場 : スカラー場 の (2.18) より ˆ dp 1 1 =

がら この巨大な熱電効果の起源は分かっておらず 熱電性能のさらなる向上に向けた設計指針 は得られていませんでした 今回 本研究グループは FeSb2 の超高純度単結晶を育成し その 結晶サイズを大きくすることで 実際に熱電効果が巨大化すること またその起源が結晶格子の振動 ( フォノン 注 2) と

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平成 30 年 1 月 5 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 低温で利用可能な弾性熱量効果を確認 フロンガスを用いない地球環境にやさしい低温用固体冷却素子 としての応用が期待 発表のポイント 従来材料では 210K が最低温度であった超弾性注 1 に付随する冷却効果 ( 弾性熱量効果注 2

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報道機関各位 平成 29 年 7 月 10 日 東北大学金属材料研究所 鉄と窒素からなる磁性材料熱を加える方向によって熱電変換効率が変化 特殊な結晶構造 型 Fe4N による熱電変換デバイスの高効率化実現へ道筋 発表のポイント 鉄と窒素という身近な元素から作製した磁性材料で 熱を加える方向によって熱

プレスリリース 2017 年 4 月 14 日 報道関係者各位 慶應義塾大学 有機単層結晶薄膜の電子物性の評価に成功 - 太陽電池や電子デバイスへの応用に期待 - 慶應義塾基礎科学 基盤工学インスティテュートの渋田昌弘研究員 ( 慶應義塾大学大学院理工学研究科専任講師 ) および中嶋敦主任研究員 (

放射線照射により生じる水の発光が線量を反映することを確認 ~ 新しい 高精度線量イメージング機器 への応用に期待 ~ 名古屋大学大学院医学系研究科の山本誠一教授 小森雅孝准教授 矢部卓也大学院生は 名古屋陽子線治療センターの歳藤利行博士 量子科学技術研究開発機構 ( 量研 ) 高崎量子応用研究所の山

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PRESS RELEASE 2016 年 2 月 19 日理化学研究所東京大学東北大学金属材料研究所 スキルミオン生成に表れるトポロジーの融合 - 低消費電力エレクトロニクスに新原理 - 要旨理化学研究所 ( 理研 ) 創発物性科学研究センター強相関物性研究グループの安田憲司研修生 ( 東京大学大学院工学系研究科大学院生 ) 十倉好紀グループディレクター ( 同教授 ) 強相関界面研究グループの川﨑雅司グループディレクター ( 同教授 ) 強相関理論研究グループの若月良平研修生 ( 同大学院生 ) 永長直人グループディレクター ( 同教授 ) 東北大学金属材料研究所の塚﨑敦教授らの共同研究グループ は トポロジカル絶縁体 [1] である (Bi 1-y Sb y ) 2 Te 3 (Bi: ビスマス Sb: アンチモン Te: テルル ) 薄膜上に 磁性元素 Cr( クロム ) を添加したトポロジカル絶縁体 Cr x (Bi 1-y Sb y ) 2-x Te 3 を積層させた構造の作製により微小な渦状の磁気構造である磁気スキルミオン [2] を生成することに成功し スキルミオン生成の新たな設計指針を見出しました トポロジー ( 位相幾何学 ) とは 連続変形を行っても変化しない量を扱う学問です 連続変形によって変化しないということは 多少のノイズや不純物が加わっても 扱う物質の性質が変わらないということを意味しています したがって トポロジーの概念は 安定な物性や機能を持つ物質を設計する観点から工学的にも重要です トポロジカル絶縁体や磁気スキルミオンはトポロジーに守られた物質として 盛んに研究されています トポロジカル絶縁体と磁気スキルミオンは電子と磁気という異なる領域のトポロジーを持ちます それらの融合を目指し 共同研究グループは (Bi 1-y Sb y ) 2 Te 3 薄膜上に Cr を添加した磁性トポロジカル絶縁体 Cr x (Bi 1-y Sb y ) 2-x Te 3 を積層させた薄膜を作製しました 共同研究グループは 以前より本薄膜の作製に成功しています注 ) 本研究では 積層構造の試料内部の電子数を電圧を加えることによって連続的に変化させながらホール抵抗 [3] を測定したところ 特定の電子数において トポロジカルホール効果 [4] を観測しました この観測は 作製した積層構造が持つ磁気構造が単純な強磁性ではなく 磁気スキルミオンが形成されていることを意味します また 理論モデルを用いて積層構造における磁気構造の安定性を計算したところ 実験結果をよく再現する結果が得られ ジャロシンスキー 守谷相互作用 [5] を引き出す積層構造がスキルミオン生成に有効な設計指針となることを明らかにしました 今後 スキルミオンを用いた低消費電力デバイスである磁気メモリ [6] への応用が期待できます 本研究は 最先端研究開発支援プログラム (FIRST) 課題名 強相関量子科学 の事業の一環として行われました 成果は 英国の科学雑誌 Nature Physics に掲載されるのに先立ち オンラ 1

イン版 (2 月 22 日付け : 日本時間 2 月 23 日 ) に掲載されます 注 )R. Yoshimi, K. Yasuda, A. Tsukazaki, K.S. Takahashi, N. Nagaosa, M. Kawasaki and Y. Tokura, Quantum Hall statesstabilizedin semi-magnetic bilayers of topological insulators, Nat. Commun. 6, 8530 (2015). 2015 年 10 月 26 日プレスリリース薄膜積層化で整数量子ホール効果を従来より高温 弱磁場で実現 http://www.riken.jp/pr/press/2015/20151026_1/ 共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関物性研究グループ研修生安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 東京大学大学院工学系研究科修士課程 2 年 ) 研修生吉見龍太郎 ( よしみりゅうたろう ) ( 東京大学大学院工学系研究科博士課程 3 年 ) グループディレクター十倉好紀 ( とくらよしのり ) ( 東京大学大学院工学系研究科教授 ) 強相関界面研究グループグループディレクター川﨑雅司 ( かわさきまさし ) ( 東京大学大学院工学系研究科教授 ) 上級研究員高橋圭 ( たかはしけい ) 強相関理論研究グループ研修生若月良平 ( わかつきりょうへい ) ( 東京大学大学院工学系研究科博士課程 1 年 ) 特別研究員森本高裕 ( もりもとたかひろ ) グループディレクター永長直人 ( ながおさなおと ) ( 東京大学大学院工学系研究科教授 ) 東京大学大学院工学系研究科講師江澤雅彦 ( えざわもとひこ ) 東北大学金属材料研究所教授塚﨑敦 ( つかざきあつし ) ( 理研創発物性科学研究センター客員主管研究員 ) 1. 背景 トポロジー ( 位相幾何学 ) とは 連続変形を行っても変化しない量を扱う学問です 連続変形によって変化しないということは 多少のノイズや不純物が加わっても 扱う物質の性質が変わらないということを意味しています したがって トポロジーの概念は 安定な物性や機能を持つ物質を設計する観点から工学的にも重要です このようなトポロジーに守られた物質の例として 近年 トポロジカル絶縁体が注目されています トポロジカル絶縁体は 固体内部は電流の流れない絶縁体状態で 表面のみで金属状態を示す物質です この表面の金属状態には トポロジーで守られたワイル電子 [7] と呼ばれる特殊な電子が存在し 電子の運動方向に対しスピン [8] ( 電子の自転 ) が特定の方向に固定されています ( 図 1b) 2

一方 トポロジーの概念は磁気構造にも現れます 近年いくつかの物質中で 磁気スキルミオンと呼ばれる磁気構造が発見されました これは磁化 ( 磁気分極 ) が微小な渦状に巻いた構造であり 通常の強磁性状態からは連続的に変形することができないため トポロジーによって守られた安定な粒子として振る舞います このような安定性から スキルミオンは磁気メモリへの応用が期待され 盛んに研究されています しかし 現在ではスキルミオンを生成する物質は特定の結晶構造を持った物質に限られており 結晶構造に依らずにスキルミオンを生成する設計指針が期待されていました 2. 研究手法と成果 共同研究グループは トポロジカル絶縁体のワイル電子状態がスキルミオンの形成に有利であることに着目し 積層構造によるスキルミオンの生成を目指しました ( 図 1c d) 共同研究グループは これまでの研究で (Bi 1-y Sb y ) 2 Te 3 (Bi: ビスマス Sb: アンチモン Te: テルル ) 薄膜上に Cr( クロム ) を添加した磁性トポロジカル絶縁体 Cr x (Bi 1-y Sb y ) 2-x Te 3 を積層させた トポロジカル絶縁体積層薄膜の作製法を確立しています注 ) この物質では 組成制御 (y) や電圧を加えることによって 電子数を自在に変化させることができます そこで 電子数をさまざまに変化させつつ ホール抵抗を測定したところ 正孔 [9] ( 電子が欠落した部分 ) 数を増やした場合にのみ 強磁性状態 ( 図 1a) とは異なる振る舞いを観測しました 図 1 トポロジカル絶縁体積層構造によるスキルミオン形成の概念図 (a) 強磁性トポロジカル絶縁体において 隣り合う磁気スピンはすべて平行に配列する ( 赤の上向き矢印 ) このとき異常ホール効果 ( 黄の太い矢印 ) が生じる (b) トポロジカル絶縁体と表面状態 表面では 電子の運動方向 ( 赤や青の矢印 ) に対し 電子のスピン方向 ( 黄の矢印 ) が固定されている (c) トポロジカル絶縁体積層構造 スキルミオン生成の結果 異常ホール効果に加え トポロジカルホール効果が観測される 黄の太い矢印は両方の効果を足し合わせたもの (d) 単一スキルミオンの模式図 矢印は磁気スピンを表す 強磁性状態ではホール抵抗は 磁場 ( 磁界 ) に比例する正常ホール抵抗と 3

磁化に比例する異常ホール抵抗の足し合わせで書き表されます 一方 作製した積層構造のホール抵抗には これらの足し合わせのみでは説明できない寄与であるトポロジカルホール抵抗を観測しました ( 図 2a) これは 本質的には図 2b に示す積層構造のホール抵抗から 磁場に対して単調増加する磁化 ( 図 2c) を引き算することで検出できます 特に 図 2c の磁化が負から正に大きく変化する領域に対応する磁化反転過程において 図 2a のトポロジカルホール抵抗が大きな値を示しており このときスキルミオンが形成されていることを意味しています ( 図 2a) 図 2 2 K( 約 -271 ) における積層構造のホール抵抗と磁化の外部磁場依存性 (a) トポロジカルホール抵抗 (c) の磁化が反転する中間の磁場領域で最大値をとる (b) ホール抵抗 磁場に対して非単調な振る舞いを示している (c) 磁化 磁場に対して単調に増加する 赤矢印は磁場上げ過程 青矢印は磁場下げ過程に各々対応する このようなスキルミオンの安定さを調べるため トポロジカルホール抵抗を磁場と温度に対して図示したところ 強磁性の転移温度 (18K 約 -255 ) 以下の広い温度領域において表れていることが分かりました ( 図 3) そこで 積層構造の理論モデルを用い スキルミオンの安定性を計算したところ 実験結果をよく再現する結果が得られました さらに 計算結果からスキルミオン生成の起源が積層構造による空間反転対称性 [10] の破れとトポロジカル絶縁体のワイル表面状態によって生じる ジャロシンスキー 守谷相互作用 であることを明らかにしました 図 3 トポロジカルホール抵抗の外部磁場 温度依存性 強磁性の転移温度 (18K 約 -255 ) 以下の広い温度領域で スキルミオンのトポロジカルホール抵抗が表れている つまり スキルミオンが安定化されていることが分かる 4

3. 今後の期待 今回の成果により 積層構造を用いて空間反転対称性を破ることによって 特定の結晶構造を持たない物質においても スキルミオン生成が可能であることが明らかになりました このような積層構造によるスキルミオン生成という新原理は 他の物質群に対しても適用することができ 適切な組み合わせを選択することでトポロジーに守られたスキルミオンを用いた 低消費電力デバイスである磁気メモリへの応用が期待できます 4. 論文情報 < タイトル > Geometric Hall effects in topological insulator heterostructures < 著者名 > K. Yasuda, R. Wakatsuki, T. Morimoto, R. Yoshimi, A. Tsukazaki, K. S. Takahashi, M. Ezawa, M. Kawasaki, N. Nagaosa and Y. Tokura < 雑誌 > Nature Physics <DOI> 10.1038/nphys3671 5. 補足説明 [1] トポロジカル絶縁体近年見出された概念に添う物質群で 固体内部では電気を流さない絶縁体であるが 物質表面でのみ電気を流す金属として振る舞う 表面状態はトポロジーによって保護されており 不純物が加わっても安定に保たれる [2] 磁気スキルミオン近年 磁性体中で観測されたナノメートル (nm 1nm は 10 億分の 1 メートル ) サイズの渦状の磁気スピンの配列 通常の強磁性状態からは連続的に変形することができないため トポロジーによって守られた安定な粒子として振る舞う [3] ホール抵抗磁場下で電子が運動すると 電子はローレンツ力 ( 荷電粒子が磁場の中で動くときに磁場により受ける力 ) を受けて 本来の運動方向に対して横方向に曲がる したがって 電流を流すと 磁場の大きさに比例した電圧が電流の向きに対して垂直な方向に生じる これは ( 正常 ) ホール効果と呼ばれ 垂直方向に生じる電圧を電流で割ったものをホール抵抗と呼ぶ また 強磁性体中では磁化に比例した異常ホール効果が生じる さらに スキルミオンが形成されているとき これらに加えトポロジカルホール効果 ([4] 参照 ) が現れる [4] トポロジカルホール効果スキルミオンは電子に対し 巨大な仮想磁場の源として働き 電子の運動を横方向に 5

曲げる そのため スキルミオンの構造が形成されているとき 正常ホール効果と異常ホール効果に加えて トポロジカルホール効果が生じる トポロジカルホール効果はスキルミオン密度に比例したホール抵抗を与える効果である [5] ジャロシンスキー 守谷相互作用物質中の磁気スピン同士に働く相互作用の 1 つ 隣接するスピンが平行ではなく 角度を持って配列するように働く これは 隣接スピン間の中点が空間反転対称心でない場合に生じる [6] 磁気メモリ汎用の磁気メモリは 強磁性体の磁化方向を 0 1 に対応させ 記憶素子としている 同様に スキルミオンがあるときを 1 スキルミオンがないときを 0 とすることで スキルミオンをメモリとして使用できる [7] ワイル電子相対論的量子力学の基本方程式であるワイル方程式に従って運動する電子のこと 近年 トポロジカル絶縁体表面の電子もワイル方程式に従って運動することが明らかになった トポロジカル絶縁体表面のワイル電子は 電子の運動方向に対し スピンが特定の方向に固定されている [8] スピン電子の持つ自由度の 1 つで 微小な磁石として働く 電子の自転として理解できる [9] 正孔固体中のバンド構造 ( 結晶内の電子に対するエネルギー準位の構造 ) において電子が抜けたとき その不足によってできた孔 ( 穴 ) のこと この孔に電子が移動する電子集団の運動は 電子と逆符号 ( 正 ) の電荷を持つ正孔の運動として理解できる [10] 空間反転対称性各点の座標 (x, y, z) を (-x, -y, -z) に変換する操作を空間反転操作と呼ぶ 空間反転操作によって構造が一致しない場合 空間反転対称性が破れていると言う 例えば積層構造の場合には 空間反転操作によって積層の順番が逆になるため 空間反転対称性が破れている 6. 発表者 機関窓口 < 発表者 > 研究内容については発表者にお問い合わせ下さい理化学研究所創発物性科学研究センター強相関物性研究グループ研修生安田憲司 ( やすだけんじ ) グループディレクター十倉好紀 ( とくらよしのり ) 強相関界面研究グループグループディレクター川﨑雅司 ( かわさきまさし ) 強相関理論研究グループ研修生若月良平 ( わかつきりょうへい ) 6

グループディレクター永長直人 ( ながおさなおと ) TEL:048-462-1111 (6328), 03-5841-6855( 安田 ) FAX:03-5841-6858( 安田 ) Email:yasuda@cmr.t.u-tokyo.ac.jp( 安田 ) 東北大学金属材料研究所教授塚﨑敦 ( つかざきあつし ) 上段左より安田研修生 十倉グループディレクター 川﨑グループディレクター下段左より若月研修生 永長グループディレクター 塚﨑教授 < 機関窓口 > 理化学研究所広報室報道担当 TEL:048-467-9272 FAX:048-462-4715 E-mail:ex-press@riken.jp 国立大学法人東京大学大学院工学系研究科広報室 TEL:03-5841-1790 Fax:03-5841-0529 E-mail:kouhou@pr.t.u-tokyo.ac.jp 国立大学法人東北大学金属材料研究所情報企画室広報班横山美沙 TEL:022-215-2144 Fax:022-215-2482 E-mail:pro-adm@imr.tohoku.ac.jp 7