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Transcription:

徳之島徳洲会病院 浅野目晃 ( 札幌東 ) 岡田恭子 ( 福岡 ) 石根周治 小野隆司 飯田信也

45 歳男性

主訴 : 歩行障害 下肢の痺れ, 感覚障害 左肩痛 社会生活歴母親と 2 人暮らし母親は 2 ヶ月前から入院中 ADL は自立で母親の介護も頑張っていた

現病歴 : 幼少期に器械体操をしていた際に首から転落し それ以後四肢の痺れや違和感, 温痛覚の低下を自覚していた 症状はごく軽度であり生活に支障をきたしていたわけではなく 5 年前までは営業職をしていた 3 年ほど前に自宅で転倒したのを契機に徐々に足が動かなくなり歩行が困難になってきた ここ 2 ヶ月ほどは基本的に家の中を這って生活し 必要な時のみ壁を伝い歩きしていた 病院を受診したい気持ちはあったが 貧困のため実際に受診することができず 家で我慢していた 左肩も徐々に痛くなり 時折腰に電気が走るような感じもするようになり いよいよ我慢できなくなったため救急要請して 平成 19 年 8 月 16 日に当院に救急搬送された

既往歴小学生の時に虫垂炎の手術歴あり 家族歴神経筋疾患の家族歴なし

入院時バイタル 意識クリア血圧 130/70mmHg 脈拍 76/min 体温 37.1 呼吸 16/min SpO2 97% (room air) その他発達や知能レベルは正常であったとのこと膀胱直腸障害は認めない

来院時身体所見 全身 ) 羸痩なし 冷感なし 頭頚部 ) 貧血なし 黄疸なし瞳孔 (2.5mm, 2.5mm) 対光反射 (prompt, prompt) 下顎反射陽性 胸部 ) 心雑音聴取せず 呼吸ラ音聴取せず 腹部 ) 平坦 軟 腸雑音正常 圧痛なし

来院時身体所見 2 四肢 ) 萎縮なし 両側とも尖足深部腱反射全て亢進 Babinski 反射両側陽性 Chaddock 反射両側陽性両側で足関節を底屈させると足クローヌス陽性 MMT: 上肢 (4,4) 下肢 (3,3) ゆっくり立位とれるが 立位の維持は困難 脳神経 ) Ⅱ~Ⅻ において異常所見認めず

外来での検査 採血 : WBC 6,390 RBC 5,040,000 Hb 16.1 Ht 46.4 Plt 177,000 GOT 21 GPT 16 LDH 213 AMY 63 TP 7.1 Alb 4.5 T-Bil 0.5 BUN 9.0 Cre 0.6 Na 138 K 4.0 Cl 100 T-Cho 196 足関節レントゲン : 骨折や脱臼を疑わせる所見認めず 特に異常所見認めず

経過 1 外来で担当した医師が精査目的で入院とした 入院 2 日目よりリハビリ開始している 上肢の力は問題なく 車椅子を自走できている 身体所見からは痙性麻痺を認めており 三角筋の筋力も軽度ながら低下していたため 上位ニューロンの障害 特に C3 以上での神経障害が疑われたため 頭部 ~ 頚部にかけての画像評価などをメインに検査を行った

検査結果 採血 ( 入院 5 日目 ) 血算 ) WBC 5,290(Neut 49.1%, Lymph 36.9%) RBC 4,740,000 Hb 15.1 Ht 44.3 Plt 146,000 生化学 ) CPK 63(BB 1%, Alb 6%, MB 3%, MM 90%) GOT 15 GPT 15 LDH 135 ALP 190 γgtp 26 AMY 68 TP 6.4 Alb 4.1 T-Bil 1.2 D-Bil 0.2 BUN 7.0 Cre 0.7 BS 76 CRP 0.03 Na 141 K 4.3 Cl 103 Ca 8.9 IP 3.6 Mg 2.4

頚椎レントゲン 歯突起がはっきりしない 側面像 開口位

軸椎歯突起 環椎後弓 環椎前弓 軸椎椎体 先天的な歯突起の 形成丌全が疑われる 本来この部分にも歯突起がみえるはずであるがこの画像では見えない C7 と比べて C3~6 の椎体が変形 側面像拡大

前屈位 後屈位

前屈すると歯突起が 頚椎 CT 環椎から離れる 前屈 後屈 歯突起 軸椎

上 中 下 歯突起が 2 つに分離し 癒合していない

頚椎 MRI

後屈位で撮影 普通に撮影

経過 2 問題点 #1 著明な痙性麻痺 #2 上位頚髄の圧迫所見 #3 環軸椎の歯突起の形成丌全による環軸椎脱臼 先天的な軸椎歯突起の形成丌全により環椎が脱臼し その結果脊髄を圧迫して以上のような所見が得られると考えられる このまま放置しておくと突然の呼吸停止などを起こす可能性もあることから手術を行い 圧迫を解除することとした

原因として 小児期に首から転落というエピソードもあることから この外傷によって 1 元来あった形成丌全が外傷を契機に悪化に向かった 2 歯突起骨折と頚椎の圧迫骨折が外傷により発生し悪化に向かった 2 つの可能性が考えられるが 治療方針に大差あるわけではなく 術者は 1 の可能性を最も疑ったため この疾患を疑い 手術の方針となった 診断 : 歯突起形成丌全 Os odontoideum 疑い

手術 平成 19 年 9 月 16 日手術施行 術式 : 環椎軸椎後方固定術ならびに骨移植術

手術の簡単な模式図

前方に落ち 込んだ環椎 軸椎

両椎弓根にスクリューを打ち込んだところ

ピンボケしてすみません 間にロッドを通して固定完了 次に軸椎の棘突起を切除 さらに環椎と軸椎の間に骨移植 ( 腸骨より採取 ) を行い終了

なぜ固定術と骨移植を行うのか術者の先生に伺ったら とのことであった

環軸椎の解剖 発生頚椎の先天異常頚髄の障害歯突起形成丌全 Os odontoideum について

解剖 発生 発生の段階では環椎にも椎体はある その後の過程の中で 環軸椎の椎体が癒合する その後分離して 環椎 椎弓 軸椎 歯突起となる

頚髄障害 脊髄障害の基本は 障害レベルの神経根による症状と 障害以下の脊髄 錐体路 脊髄視床路 表在感覚 楔 状束 薄束 深部感覚 の障害による症状 とすると頚髄の場合は 上肢の筋力低下 筋萎縮 筋線維束性収縮 上下肢の感覚障害 下肢の錐体路症状 腱反射亢進 病的反射 障害部位が高位であれば上肢にも出現 膀胱直腸障害

Crandall による脊髄障害の分類 1central cord syndrome 主に脊髄中心部に障害 麻痺は下肢に比較して上肢に明らかに強い 2transverse lesion syndrome 上下肢の運動 感覚障害が両側性にほぼ同程度 脊髄の灰白質および白質が前 / 後 左 / 右ともに横断性に障害される 3Brown-Sequard syndrome 脊髄の片側障害による 障害側の運動麻痺と 対側の温痛覚麻痺

4motor system syndrome 運動麻痺が主体で 感覚障害がほとんどみられない 前根あるいは前角の障害 5brachialgia and cord syndrome 上肢の放散性疼痛と ごく軽度の下肢痙性麻痺

頚椎の先天異常 頭頚移行部は脊椎の先天異常が発生しやすい 頭蓋底陥入症 環椎頭蓋癒合 環椎後弓無形成 形成丌全 軸椎披裂 歯突起骨 先天性頚椎癒合などがあり これらが複合してみられることが多い しばしば 小脳扁桃や下葉あるいは脳幹が脊柱管内に下垂した Chiari 奇形が合併する 後頭部痛 頚部の運動制限 短頚などの頚椎症状に加え 合併の脳幹部や小脳や上位頚髄障害の症状も 骨性異常の診断には単純 X 線 CT を 神経系異常の診断には MRI を

歯突起形成不全 Os odontoideum Down 症候群に多くみられる ( 頻度について具体的な数字は見つけられず ) 症状 : 環軸椎に丌安定性を生じなければ無症候性が多い 肩凝り 後頭 ~ 頚部痛 眩暈 嘔吐 脊髄症など多彩特に環椎の前方脱臼により脊髄症状が生じる 診断 : 頚椎単純 X 線写真 ( できれば開口位も ) 頚椎 CT( できれば 3D) で歯突起の形態を MRI で脊髄圧迫の評価 前後屈で環軸関節の亜脱臼と丌安定性をとらえる

治療整復位での環軸椎後方固定術が一般的外傷後の後頭 ~ 頚部痛のみで環軸椎関の丌安定が軽微であれば 短期間の外固定 ( フィラデルフィア型カラー ) のみでも可椎骨動脈丌全 下位脳神経症状 脊髄症発症例 重篤な環軸椎丌安定性がある場合は原則として環軸椎固定術を行う後頭 - 環椎関節にも合併奇形 異常が存在すれば 後頭骨頚椎固定術を行う

術中の一コマ これをみて ガガッッハハッッハハ ( 笑 ( 笑 ) ) モニターに 5 が並んだぞ 麻酔担当 飯田信也 総長

結語 歯突起の異常による環軸椎亜脱臼が起こって神経障害を起こしたという今までに自分たちが経験したことのないような一例を経験した 普段画像をとってもあまり注意してみていなかった部分であり 今後はこの部位にも注意して観察していきたいと思う 年齢も若く この手術により本患者様の症状が改善して 早期に日常生活に復帰できることを切に願う

参考文献 スネル臨床発生学第 3 版 MEDSi 分担解剖学 1 金原出版 標準整形外科第 7 版医学書院 整形外科診療実践ガイド文光堂 頚椎 頚髄損傷に対する急性期治療のガイドライン MEDICAL VIEW Year note MEDIC MEDIA

ご清聴ありがとうございました 札幌東 福岡 徳之島 院長 小野隆司 徳之島