日本の高齢化と寿命 ~ 健康寿命とは ~ 健康寿命は 健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間 と定義されてい る 要約すると 自分の身のまわりのことを自分の力で行うことができる自立能力が備わっている期 間を表している 健康で生きていられる期間 人間誰しもこのような真の健康状態が継続

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ただ太っているだけではメタボリックシンドロームとは呼びません 脂肪細胞はアディポネクチンなどの善玉因子と TNF-αや IL-6 などという悪玉因子を分泌します 内臓肥満になる と 内臓の脂肪細胞から悪玉因子がたくさんでてきてしまい インスリン抵抗性につながり高血糖をもたらします さらに脂質異常症

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標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会

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スライド 1

肥満者の多くが複数の危険因子を持っている 肥満のみ約 20% いずれか 1 疾患有病約 47% 肥満のみ 糖尿病 いずれか 2 疾患有病約 28% 3 疾患すべて有病約 5% 高脂血症 高血圧症 厚生労働省保健指導における学習教材集 (H14 糖尿病実態調査の再集計 ) より

山梨県生活習慣病実態調査の状況 1 調査目的平成 20 年 4 月に施行される医療制度改革において生活習慣病対策が一つの大きな柱となっている このため 糖尿病等生活習慣病の有病者 予備群の減少を図るために健康増進計画を見直し メタボリックシンドロームの概念を導入した 糖尿病等生活習慣病の有病者や予備

1 保健事業実施計画策定の背景 北海道の後期高齢者医療は 被保険者数が増加し 医療費についても増大している 全国的にも少子高齢化の進展 社会保障費の増大が見込まれる このような現状から 一層 被保険者の健康増進に資する保健事業の実施が重要となっており 国においても 保健事業実施計画 ( データヘルス

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目 次 1 平成 29 年愛知県生命表について 1 2 主な年齢の平均余命 2 3 寿命中位数等生命表上の生存状況 5 4 死因分析 5 (1) 死因別死亡確率 5 (2) 特定死因を除去した場合の平均余命の延び 7 平成 29 年愛知県生命表 9

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第1章評価にあたって

「健康寿命」の伸長には若い頃からの健康改善が重要~2012年「健康寿命」の公表について考える

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Microsoft PowerPoint - 2.医療費プロファイル 平成25年度(長野県・・

日本スポーツ栄養研究誌 vol 目次 総説 原著 11 短報 19 実践報告 資料 45 抄録

はじめに第1章基本方針第2章岐阜市の現状第3章第4章第二次ぎふ市民健康基本計画の評価今後の取り組み第5章効果的な推進体制第6章参考資料7 第 3 章岐阜市の現状 1 岐阜市の人口統計 (1) 人口の推移 本市の人口は 昭和 60 年以降 減少傾向にあったものの 平成 18 年柳津町との合併により 一

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調査の概要 本調査は 788 組合を対象に平成 24 年度の特定健診の 問診回答 (22 項目 ) の状況について前年度の比較から調査したものです 対象データの概要 ( 全体 ) 年度 被保険区分 加入者 ( 人 ) 健診対象者数 ( 人 ) 健診受診者数 ( 人 ) 健診受診率 (%) 評価対象者

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PowerPoint プレゼンテーション


脳卒中に関する留意事項 以下は 脳卒中等の脳血管疾患に罹患した労働者に対して治療と職業生活の両立支援を行うにあ たって ガイドラインの内容に加えて 特に留意すべき事項をまとめたものである 1. 脳卒中に関する基礎情報 (1) 脳卒中の発症状況と回復状況脳卒中とは脳の血管に障害がおきることで生じる疾患

栄養表示に関する調査会参考資料①

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また リハビリテーションの種類別では 理学療法はいずれの医療圏でも 60% 以上が実施したが 作業療法 言語療法は実施状況に医療圏による差があった 病型別では 脳梗塞の合計(59.9%) 脳内出血 (51.7%) が3 日以内にリハビリテーションを開始した (6) 発症時の合併症や生活習慣 高血圧を

第三期特定健康診査等実施計画 ニチアス健康保険組合 最終更新日 : 平成 30 年 02 月 20 日

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平成 2 9 年名古屋市民の平均余命 平成 30 年 12 月 25 日 名古屋市健康福祉局

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第3章「疾病の発症予防及び重症化予防 1がん」

生活福祉研レポートの雛形

TOHOKU UNIVERSITY HOSPITAL 今回はすこし長文です このミニコラムを読んでいただいているみなさんにとって 救命救急センターは 文字どおり 命 を救うところ という印象が強いことと思います もちろん われわれ救急医と看護師は 患者さんの救命を第一に考え どんな絶望の状況でも 他

(6/5 19:00修正)資料3 標準的な健診・保健指導プログラム改定のポイント (2) (2)

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I 健康を保持または増進するためには 自分自身が食生活に気を配ったり 定期的に運動したり 時にはリフレッシュし心を休めることが必要です 働く人にとって 労働時間は一日の中で大きなウエイトを占めており まさに職場は健康づくりに取り組むための絶好のフィールドと言えます そのため 企業が社員の健康づくりを

第 3 節心筋梗塞等の心血管疾患 , % % % %

4 年齢階級別の死因山形県の平成 28 年の死因順位は 20 歳から 34 歳までの各階級において自殺が1 位となっているほか 64 歳までの各階級においても死因順位の上位にあり おおむね全国と同様の傾向が見られます < 表 7> 年齢階級別の死因順位 死亡者数 ( 山形県 ) 年齢階級 総死亡者数

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家族の介護負担感や死別後の抑うつ症状 介護について全般的に負担感が大きかった 割合が4 割 患者の死亡後に抑うつ等の高い精神的な負担を抱えるものの割合が2 割弱と 家族の介護負担やその後の精神的な負担が高いことなどが示されました 予備調査の結果から 人生の最終段階における患者や家族の苦痛の緩和が難し

平成28年版高齢社会白書(概要版)

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カテゴリー別人数 ( リスク : 体格 肥満 に該当 血圧 血糖において特定保健指導及びハイリスク追跡非該当 ) 健康課題保有者 ( 軽度リスク者 :H6 国保受診者中特定保健指導外 ) 結果 8190 リスク重なりなし BMI5 以上 ( 肥満 ) 腹囲判定値以上者( 血圧 (130 ) HbA1

質問 1 敬老の日 のプレゼントについて (1) 贈る側への質問 敬老の日 にプレゼントを贈りますか? ( 回答数 :11,202 名 ) 敬老の日にプレゼント贈る予定の方は 83.7% となり 今年度実施した父の日に関するアンケート結果を約 25% 上回る結果となった 敬老の日 父の日 贈らない

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評価項目 A Bともすべての項目に を入れてください 評価項目 A 宣言内容 ( 共通項目 ) チェック項目 取り組み結果 出来た概ね出来た出来なかった 1 経営者が率先し 健康づくりに取り組みます 健康宣言証の社内掲示など 健康づくりに関する企業方針について 従業員へ周知していますか? 経営者自身

特定保健用食品等の在り方に関する専門調査会 報告書46~63ページ

高齢者におけるサルコペニアの実態について みやぐち医院 宮口信吾 我が国では 高齢化社会が進行し 脳血管疾患 悪性腫瘍の増加ばかりでなく 骨 筋肉を中心とした運動器疾患と加齢との関係が注目されている 要介護になる疾患の原因として 第 1 位は脳卒中 第 2 位は認知症 第 3 位が老衰 第 4 位に

Ⅰ 障害福祉計画の策定にあたって

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愛知県アルコール健康障害対策推進計画 の概要 Ⅰ はじめに 1 計画策定の趣旨酒類は私たちの生活に豊かさと潤いを与える一方で 多量の飲酒 未成年者や妊婦の飲酒等の不適切な飲酒は アルコール健康障害の原因となる アルコール健康障害は 本人の健康問題だけでなく 家族への深刻な影響や飲酒運転 自殺等の重大

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Ⅰ 目標達成

特定健康診査等実施計画 豊田合成健康保険組合 平成 30 年 3 月

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特定健康診査等実施計画 ( 第 3 期 ) ベルシステム 24 健康保険組合 平成 30 年 3 月 1 日 ( 最終更新日 : 平成 30 年 7 月 27 日 )

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厚生労働省発表

1 基本健康診査基本健康診査は 青年期 壮年期から受診者自身が自分の健康に関心を持ち 健康づくりに取り組むきっかけとなることを目的に実施しています 心臓病や脳卒中等の生活習慣病を予防するために糖尿病 高血圧 高脂血症 高尿酸血症 内臓脂肪症候群などの基礎疾患の早期発見 生活習慣改善指導 受診指導を実

骨粗しょう症調査

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クラウド型健康支援サービス「はらすまダイエット」のラインアップに企業の健康保険組合などが行う特定保健指導を日立が代行する「はらすまダイエット/遠隔保健指導」を追加

第1回 Research report "不調大国 ニッポン " ~ 若年から不調を感じながら生活する日本人 ~ 半年以上の長期的な不調症状あり 74.5% 新社会人 も6割以上が長期的な不調症状ありと認識 長期不調の原因を 医師の診断のもと明確に把握していない 約7割 自分に

(3) 生活習慣を改善するために

心疾患患による死亡亡数等 平成 28 年において 全国国で約 20 万人が心疾疾患を原因として死亡しており 死死亡数全体の 15.2% を占占め 死亡順順位の第 2 位であります このうち本県の死亡死亡数は 1,324 人となっています 本県県の死亡率 ( 人口 10 万対 ) は 概概ね全国より高

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図表 1 人口と高齢化率の推移と見通し ( 億人 ) 歳以上人口 推計 高齢化率 ( 右目盛 ) ~64 歳人口 ~14 歳人口 212 年推計 217 年推計

平29・6・13(火) 平成29年度 神奈川県医師会 産業医部会 総会・研修会

経済学コース論文要約

糖尿病予備群は症状がないから からだはなんともないの 糖尿病予備群と言われた事のある方のなかには まだ糖尿病になったわけじゃないから 今は食生活を改善したり 運動をしたりする必要はない と思っている人がいるかもしれません 糖尿病予備群の段階ではなんの症状もないので そう考えるのも無理はないです しか

質問 1 何歳から 長生き だと思いますか? 男性 女性ともに 80 歳 がトップ ( 合計 :42.3% 男性 :43.2% 女性 41.3%) 平均すると 男性が 81.7 歳 女性が 83.0 歳 と女性の方がより高年齢を 長生き と思うという 傾向があり 女性の 5 人に 1 人 (20.8

7 対 1 10 対 1 入院基本料の対応について 2(ⅲ) 7 対 1 10 対 1 入院基本料の課題 将来の入院医療ニーズは 人口構造の変化に伴う疾病構成の変化等により より高い医療資源の投入が必要となる医療ニーズは横ばいから減少 中程度の医療資源の投入が必要となる医療ニーズは増加から横ばいにな

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健康企業宣言実施結果レポート Step1(Q&A) 質問 実施方法 添付資料 日頃の食生活に乱れがないか声掛けをしていますか? 始業前などに体操やストレッチを取り入れていますか? 朝礼等での声掛けの他 TJK ホームページに掲載されている 野菜は 1 日 350g 食べましょう のパンフ

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脳血管疾患による長期入院者の受診状況~レセプトデータによる入院前から退院後5年間の受診の分析

インスリンが十分に働かない ってどういうこと 糖尿病になると インスリンが十分に働かなくなり 血糖をうまく細胞に取り込めなくなります それには 2つの仕組みがあります ( 図2 インスリンが十分に働かない ) ①インスリン分泌不足 ②インスリン抵抗性 インスリン 鍵 が不足していて 糖が細胞の イン

特定健康診査等実施計画

第三期 特定健康診査等実施計画 ウシオ電機健康保険組合 平成 30 年 4 月

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まえがき 平成 24 年福島県簡易生命表 は 平成 24 年の福島県日本人人口 ( 推計 ) と平成 22~25 年の人口動態統計 ( 確定数 ) を基にして 本県の死亡状況が今後変化しないと仮定したとき 各年齢の者が1 年以内に死亡する確率や平均的にみて今後何年生きられるかという期待値などを 死亡

背景及び趣旨我が国は国民皆保険のもと世界最長の平均寿命や高い保健医療水準を達成してきた しかし 急速な少子高齢化や国民の意識変化などにより大きな環境変化に直面しており 医療制度を持続可能なものにするために その構造改革が急務となっている このような状況に対応するため 高齢者の医療の確保に関する法律に

計画改訂の趣旨 社会構造が大きく変化し 少子高齢化が進む中 生活環境の改善や医療の進歩などにより 平均寿命が延びている一方で 肥満や糖尿病などの生活習慣病が増加しており 健康づくりや疾病予防の重要性はますます高まっています 子どもから高齢者まで すべての県民が 健やかな生活をおくるために ヘルスプロ

従業員に占める女性の割合 7 割弱の企業が 40% 未満 と回答 一方 60% 以上 と回答した企業も 1 割以上 ある 66.8% 19.1% 14.1% 40% 未満 40~60% 未満 60% 以上 女性管理職比率 7 割の企業が 5% 未満 と回答 一方 30% 以上 と回答した企業も 1

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1. 職場愛着度 現在働いている勤務先にどの程度愛着を感じているかについて とても愛着がある を 10 点 どちらでもない を 5 点 まったく愛着がない を 0 点とすると 何点くらいになるか尋ねた 回答の分布は 5 点 ( どちらでもない ) と回答した人が 26.9% で最も多かった 次いで

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働き方の現状と今後の課題


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Transcription:

道民カレッジ ほっかいどう学 大学インターネット講座 健康寿命が短い北海道 ~ 働き盛りに見直したい労働衛生 ~ 講師 : 北海道情報大学医療情報学部 佐藤浩樹教授 テーマの背景 私は循環器内科医師として 救急疾患である血管病の治療にたずさわってきた 中高年の労働者の死亡を含む 残念なケースを数多く経験してきた 本人の寿命に影響するのみならず 残された家族の今後のご苦労は はかりしれない 予防策はないのか? という疑問につきあたり これまで研究を続けている 私の研究を一言で言うと 心臓の血管疾患の予防医学である 具体的な取り組みとしては 心臓の血管疾患の予防をする為に体の面と精神面の二方向から原因 がないか研究している 大学の講義では 学生たちに健康科学や医学の基礎知識を伝えている 社会的活動として 上場企業を中心に産業医の立場より啓蒙を行っている 講座の内容 労働と健康の関係 をメインとして 労働者の身体面および精神面の両面から研究の一旦を紹介 する 日本の高齢化と寿命の現状 総務省の調査報告によると 日本人の平成 25 年 (2013 年 ) の 65 才以上の高齢者人口は 3,186 万 人であり 総人口の 25.0% にのぼる さらに 75 才以上の後期高齢者人口は 1,560 万人で総人口の 12.3% であり 世界でも類をみない 高齢化社会を迎えている 平成 37 年 (2025 年 ) には 65 才以上の人口は 3,667 万人と総人口の 30% を超えることも予想 されている 日本人の平均寿命 日本人の平均寿命は 平成 24 年 (2012 年 ) の調査報告によると 女性 86.41 才 男性 79.94 才であり 世界トップクラスの長寿国となっている さらなる医学の進歩と豊かな日常生活により 今後も平均寿命は延長し 平成 72 年 (2060 年 ) には女性 90.93 才 男性 84.19 才となることが予想されている 一方で WHO( 世界保健機関 ) は平成 12 年 (2000 年 ) に 平均寿命を伸ばすだけではなく いかに健康に生活できる期間を伸ばすか について提唱 最近では 平均寿命に加え 健康寿命 の重要さが社会的関心を集めている 1

日本の高齢化と寿命 ~ 健康寿命とは ~ 健康寿命は 健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間 と定義されてい る 要約すると 自分の身のまわりのことを自分の力で行うことができる自立能力が備わっている期 間を表している 健康で生きていられる期間 人間誰しもこのような真の健康状態が継続できれば 可能な限り 長生きをしたいと思うのは人の常ではないか 健康寿命をのばすためには 私が最も注目しているのは 人生において多くの人々が費やす時間 労働時間に何に注意す るか です 私たちが一生のうちで働いている年数 つまり生涯の労働期間は およそ 40 年から 45 年間と予 想される 平成 24 年 (2012 年 ) に 65 才の定年を迎えたと仮定した場合 寿命を迎えるまでの平均余命は 男性でおよそ 15 年 女性でおよそ 21 年との報告がある 定年を迎えた後 この期間を可能な限り 健康な状態を継続して 自立して生活を楽しみたいと 思われることだろう そのためには 労働をしている期間 つまり働き盛りの頃から 今後の人生を健康に送るための 準備が必要と考えられる このような背景より まずは 平均寿命 と 健康寿命 とは どういった違いがあるのか考え ていきたいと思う 平均寿命と健康寿命とは 平均寿命は 生きている平均の年数を表している 健康寿命は 健康で生きていられる期間を表している 健康寿命を具体的に言うと 介護を受けたり 病気で寝たきりにならずに 日常生活を自立して 制限なく生活できる期間を表している 平均寿命と健康寿命の年数が同じであれば人生にとって何事にも変えられない喜びとなるが 実態は大きく異なるのが現状である 平均寿命と健康寿命の推移 厚生労働省から発表された平均寿命と健康寿命の年次推移を表したものである 平成 22 年 (2010 年 ) を考えてみると 男性の平均寿命は 79.55 才 健康寿命は 70.42 才で 9.13 年の開きがある つまり その後の人生を考えた場合 元気で活動できない期間は およそ 9 年という結果である 一方 女性の平均寿命は 86.30 才 健康寿命は 73.62 才で 男性よりさらなる開きがあり その差はおよそ 13 年である 平均寿命と健康寿命のひらき 自分で思うように生きられない期間であり 家族に過重な負担をかけることにも繋がる 2

さらに問題は 男性 女性いずれにおいても平均寿命と健康寿命のひらきが縮まらないという現状である 日本は平均寿命では 世界のトップを走っているが 分析してみると身体に障がいをもちながら つまりは不健康な状態で長寿を迎えている方が多く 決して楽観できない老後を迎えているということである 平均寿命と健康寿命の差は 個人の生活の質の低下をもたらすばかりではなく 日本の経済基盤に影響を与える深刻な問題に発展する可能性を秘めていると思う 早急な啓蒙と有効な施策が必須の状況である 都道府県別の健康寿命 北海道は 健康寿命が短い と言える 厚生労働省から発表された平成 22 年 (2010 年 ) の都道府県別の日常生活に制限のない期間の平均 つまりは健康寿命と考えることができる資料である 現在の健康寿命トップは 男性は愛知 女性は静岡である 北海道は 男性は 70.03 才で全国 32 位 女性は 73.19 才で全国 34 位 残念ながら男女とも日本全体の下位に位置する結果である 健康寿命が短い北海道 ~ その原因は?~ 自律的に日常生活が行うことができない身体状況と 第 3 位は 13.1% をしめた高齢による衰弱である は 一般的に介護が必要な状況と思う 平成 22 年 ( 2010 年 ) の国民生活基礎調査による 介 護が必要となる原因 の上位 3 つを見ていく 介護が必要となる原因の第 1 位は 全体の 24.1% をしめた脳血管疾患である 脳血管が詰まる脳梗塞脳血管が破れる脳出血やくも 膜下出血などの疾患である 第 2 位は 20.5% をしめた認知症である 原因はいろいろ報告されているが 大部分は脳血管 疾患が原因と言われている この状況は疾病とは考えられないものであり 寿命と考えるほうが自然かと思う 以上の結果より 血管を健康に保つことが健康寿命を延ばす為に大切な鍵となることが理解でき ると思う このような血管疾患は 発症するまでに長期間を有しますので 働き盛りの中年から何らかの 対策を講じることが重要と考える 3

血管疾患発症の要因 生まれつき個人が持っている要因として 個人要因 Ⅰ 年齢と性別が考えられるが これらは介入が不可能である この他の身体面からみた個人要因 Ⅱとメンタル面 ストレス負荷要因について 考えなければならない メンタル面 ストレス負荷要因ですが 生活習慣病因子と比較して客観的評価が難しいため 注目を浴びていないが 職場でのストレス負荷要因を自分自身でしっかり分析し対応することが重要な課題になると考える 身体面からみた個人要因 Ⅱは 自主的な努力により 個人が自分で 肥満を予防し 禁煙 適度な飲酒を心掛けることが重要になる その他の生活習慣病因子については 異常を早期に発見し 日常生活の改変および治療を促進するために 職場での定期健康診断を積極的に利用することが重要である 健康寿命のために定期健康診断を! 健康寿命をのばすために重要な動脈硬化促進因子である高血圧 脂質異常 高血糖の 3 つについて 定期健康診断が有効と言える 血管を元気に保つ為には血圧 脂質 血糖に注目する必要がある 定期健康診断を受けなければ 血圧 脂質 血糖が大丈夫かどうか 気付くチャンスを逃してしまう 企業規模別定期健康診断の実施状況 従業員が 100 人以上の規模の企業で定期健康診断を受けている従業員数の割合は 北海道と全国ともに高い水準にある 従業員 100 人未満の中小企業では 明らかに北海道の企業は 全国と比較して定期健康診断を行っていない傾向にある 特に 30 人未満の従業員数の企業では 全国平均 84% に対して北海道は約 72% と大きな乖離がみられる現状である 4

有所見者の割合 健康診断の検査項目のうち 正常値から外れた結果があった場合 有所見という この図は 健康診断を受診した人のうち たくさんの検査項目の中に 一つでも有所見があった人の割合を示している 平成 25 年 (2013 年 ) で 有所見者の割合は北海道 57.8% 全国 53.0% の結果であった 有所見の割合は 全国と北海道においても経年的に増加傾向にある 北海道は全国と比較して有所見者の割合が高い傾向が続いているのがわかる ここ数年の結果では 全国においては有所見者の割合が横ばいの状況である 北海道は 右肩上がりで上昇傾向が続いていることは 特筆すべき問題である 定期健康診断で検査ができる高血圧 脂質異常 高血糖に有所見が多い 重要なのは これら3つはどれも 動脈硬化促進因子である 項目別有所見者の割合 こちらは平成 25 年度の報告であるが 生活習慣病である血圧 脂質 血糖のいずれも北海道の有所見者の割合は全国平均と比較して高い 特に脂質 コレステロールや中性脂肪の有所見者の割合が特に高い傾向にあり 第一に食生活の改善が必要な状況である 健康寿命をのばすために ~ 食生活 ~ 食生活と言えば 真っ先に摂取カロリーと答える方も多いのではないか 摂取カロリーが多すぎる 食べ過ぎ と心配される方が多いが 実は近年 日本人の1 日あたりの摂取カロリーは 年々減少傾向にある ヘルシー志向の高まりで 食事や運動に注意を向けているという良い傾向と言える しかし 次に出てきた課題が 摂取カロリーが減 5

っているにもかかわらず コレステロールが下がらない人が多いことである 食事の量よりも質 食事の内容に問題があるのではという研究が進み 食べている 油 に問題があることがわかってきた 油 つまり脂肪にはいろいろと種類がある 脂肪の種類 脂肪は 飽和脂肪酸 と 不飽和脂肪酸 に分かれる 不飽和脂肪酸に水素が結び付くと 付き方の違いにより シス型 トランス型 と呼ばれる脂肪酸になる 不飽和脂肪酸は 天然では シス型 で存在しているが 工業的に手を加えると シス型 が トランス型 に変化する トランス脂肪酸は 一般的に過剰に摂りすぎると 内臓に脂肪がつきやすい つまり腹部肥満につながる 悪玉コレステロールを増加させる作用もある 善玉コレステロールを減少させる作用もあるので とりすぎに注意 トランス脂肪酸は 菓子パンやスナック菓子 マーガリン インスタント食品や冷凍食品 揚げ物など これらを全く食べない ということではなくて 食べ方や食べる量に注意が必要 健康寿命をのばすために ~ ストレスについて考える ~ 労働におけるストレス有無の客観的評価は難しいが 時間外労働を含めた総労働時間数と質的面 つまり 労働に対して主観的にやりがいを感じるかなどから評価することが可能である 今回は 労働時間 にしぼって考えてみる 労働者の平均的な時間配分 従業員 312 名が働く食品会社で検討 職場で費やす時間として 労働時間 8 時間 通勤時間 1.6 時間 昼休み1 時間 家庭で費やす時間として 食事 団らん 余暇を合わせて 3.8 時間との結果が得られた これらの合計が 14.4 時間である この職場と家庭での時間の合計を 1 日 つまり 24 時間から引き算すると 24-14.4=9.6 時間となる これより個人が使用している睡眠時間の予想がつくことになる 労働時間が 8 時間以上になるケースも少なくないと推測される 日本人は労働が美徳であると一般的に考えられており 残業による時間外労働もいとわないという職場環境にある 1 日 4 時間の残業を行ったと仮定すると睡眠時間は最大限とれたとして 9.6-4=5,6 時間 残業時間が多くなればなるほど 睡眠時間を削らなければならないことがあらためて認識できる 6

脳 心臓疾患の労災補償状況 こちらは 1 か月の残業時間と 脳疾患と心臓疾患による労災認定との関連を表わしたものである 1 か月あたりの時間外労働が 60 時間を超えると 脳疾患と心臓疾患は明らかな増加が認められる 時間外労働の増加とともに棒グラフのオレンジ色部分に示されている脳や心疾患による労災認定の数が増加していることがわかる つまり 過剰な時間外労働は 取り返しのつかない状況に陥ることがわかる 健康寿命をのばすために ~ 睡眠時間と死亡率 ~ 睡眠時間と死亡率を明らかにした日本人の調査結 睡眠時間の観点からも悪影響があることがわかる 果である 男性では 7 時間台の睡眠を基準にすると 睡眠時 間 6 時間 5 時間 4 時間で死亡率が増加するこ とがわかっている 特に 4 時間以下では明らか 女性では 7 時間 6 時間 5 時間 4 時間と睡 眠時間が減るに従い 死亡率が増加することがわ かっている 過剰な時間外労働は 睡眠時間短縮をもたらし 労働時間以外でも インターネットなどで睡眠時間を削る方々が増えてきている こういった 方々も留意すべき問題と思う まとめ 1 年に 1 回は定期健康診断を受け 身体状況をしっかり把握することが重要である 特に北海道は血圧 脂質 血糖などの生活習慣病の潜在者が多いことを理解し 早期対策を行う ことが重要 特に脂質の項目は要注意 労働において個人レベルで勤務時間をきちんと把握することが重要である 特に 月に 60 時間以上の時間外労働を継続した場合 血管疾患の発症リスクが高くなることを 理解しておく必要がある 労働時間とは別に 睡眠時間をしっかり確保することが大事である 短時間睡眠は 血管疾患発症を増加させるばかりではなく 死亡率上昇にもつながることを理解 しておく必要がある 人生において最も多くの時間を費やす 働き盛り から 身体面とストレス面から しっかりし た意識を個人が留意し実行することが健康寿命の底上げにつながる 実りある人生を招くためにも今後も呼びかけていきたいと思う 7