ビジネス・タックス・ロー・ニューズレター

Similar documents
用語の意義 この FAQ において使用している用語の意義は 次のとおりです 用語 意義 所得税法 ( 所法 ) 所得税法 ( 昭和 40 年法律第 33 号 ) をいいます 所得税法施行令 ( 所令 ) 所得税法施行令 ( 昭和 40 年政令第 96 号 ) をいいます 改正所令 所得税法施行令の一

国外転出時課税制度(出国税)の導入

き一 修正申告 1 から同 ( 四 ) まで又は同 2 から同 ( 四 ) までの事由が生じた場合には 当該居住者 ( その相続人を含む ) は それぞれ次の 及び に定める日から4 月以内に 当該譲渡の日の属する年分の所得税についての修正申告書を提出し かつ 当該期限内に当該申告書の提出により納付

税法実務コース 海外勤務者と外国人の出国 入国 滞在時の国際税務 学習スケジュール 回数学習テーマ内容 第 1 回 第 2 回 第 3 回 第 1 章 第 2 章 第 3 章 第 4 章 第 5 章 第 6 章 第 7 章 第 8 章 テーマ 1 居住者 非居住者判定テーマ 2 課税範囲についてテー

2. 制度の概要 この制度は 非上場株式等の相続税 贈与税の納税猶予制度 とは異なり 自社株式に相当する出資持分の承継の取り扱いではなく 医療法人の出資者等が出資持分を放棄した場合に係る税負担を最終的に免除することにより 持分なし医療法人 に移行を促進する制度です 具体的には 持分なし医療法人 への

平成19年12月○日

(1) 相続税の納税猶予制度の概要 項目 納税猶予対象資産 ( 特定事業用資産 ) 納税猶予額 被相続人の要件 内容 被相続人の事業 ( 不動産貸付事業等を除く ) の用に供されていた次の資産 1 土地 ( 面積 400 m2までの部分に限る ) 2 建物 ( 床面積 800 m2までの部分に限る

~ 改正の変遷 ~ (1) 平成 12 年度改正前相続人 受贈者がの場合には 国内財産のみ課税 (2) 平成 12 年度改正後 平成 25 年度改正前平成 12 年度改正 : 相続人 受贈者について国籍主義を導入 H12 年度改正 : 国内財産 国外財産ともに課税 相続人 受贈者 相続人 受贈者 被

用語の意義 この FAQ において使用している用語の意義は 次のとおりです 用語 所得税法 ( 所法 ) 所得税法施行令 ( 所令 ) 所得税法施行規則 ( 所規 ) 租税特別措置法 ( 措法 ) 国税通則法 ( 通法 ) 国税通則法施行令 ( 通令 ) 国税通則法施行規則 ( 通規 ) 金融商品取

問題 1 1 問題 1 1 納税義務者 相続税の納税義務者及び課税財産の範囲 課税価格 1 納税義務者 ⑴ 次に掲げる者は 相続税を納める義務がある 1 居住無制限納税義務者 ( 法 1 の 3 1 一 ) 相続又は遺贈により財産を取得した個人でその財産を取得した時において法施行地に住所を有するもの

2018年度改正 相続税・贈与税外国人納税義務の見直し

2017年度税制改正 相続税・贈与税国外財産に対する納税義務の範囲の見直し

2. 改正の趣旨 背景 国内に住所を有しないことにより相続税 贈与税の課税を免れる租税回避行為を抑制するため 平成 12 年度改正 ( 相続人 受贈者の国籍による納税義務判定の導入 ) 平成 25 年度改正 ( 相続人 受贈者が日本国籍なしの場合の課税強化 ) が行われてきた 平成 29 年度改正で

[2] 株式の場合 (1) 発行会社以外に譲渡した場合株式の譲渡による譲渡所得は 上記の 不動産の場合 と同様に 譲渡収入から取得費および譲渡費用を控除した金額とされます (2) 発行会社に譲渡した場合株式を発行会社に譲渡した場合は 一定の場合を除いて 売却価格を 資本金等の払戻し と 留保利益の分

国外転出時課税制度に関する改正「所得税基本通達」の解説

給与所得控除額の改正前後の比較 改正前 改正後 給与等の収入金額給与所得控除額給与等の収入金額給与所得控除額 180 万円以下 収入金額 40% 65 万円に満たない場合は 65 万円 180 万円以下 収入金額 40%-10 万円 55 万円に満たない場合は 55 万円 180 万円超 360 万

事業承継税制の概要 事業承継税制は である受贈者 相続人等が 円滑化法の認定を受けている非上場会社の株式等を贈与又は相続等により取得した場合において その非上場株式等に係る贈与税 相続税について 一定の要件のもと その納税を猶予し の死亡等により 納税が猶予されている贈与税 相続税の納付が免除される

土地の譲渡に対する課税 農地に限らず 土地を売却し 譲渡益が発生すると その譲渡益に対して所得税又は法人税などが課税される 個人 ( 所得税 ) 税額 = 譲渡所得金額 15%( ) 譲渡所得金額 = 譲渡収入金額 - ( 取得費 + 譲渡費用 ) 取得後 5 年以内に土地を売却した場合の税率は30

p _CS6_五_本文_08.indd

時価で譲渡したものとみなされ所得税が課税され かつ その所得税は相続税の課税価格の計算上被相続人の債務として控除されていることにより 所得税と相続税の負担の調整は済んでいますので この特例の適用は受けられません 2 取得費に加算される金額平成 26 年度の改正前は 相続財産である土地等の一部を譲渡し

Microsoft Word - 文書 1

1 検査の背景 (1) 租税特別措置の趣旨及び租税特別措置を取り巻く状況租税特別措置 ( 以下 特別措置 という ) は 租税特別措置法 ( 昭和 32 年法律第 26 号 ) に基づき 特定の個人や企業の税負担を軽減することなどにより 国による特定の政策目的を実現するための特別な政策手段であるとさ

( 相続時精算課税適用者の死亡後に特定贈与者が死亡した場合 ) (6) 相続時精算課税適用者 ( 相続税法第 21 条の9 第 5 項に規定する 相続時精算課税適用者 をいう 以下 (6) において同じ ) の死亡後に当該相続時精算課税適用者に係る特定贈与者 ( 同条第 5 項に規定する 特定贈与者

土地建物等の譲渡損失は 同じ年の他の土地建物等の譲渡益から差し引くことができます 差し引き後に残った譲渡益については 下記の < 計算式 2> の計算を行います なお 譲渡益から引ききれずに残ってしまった譲渡損失は 原則として 土地建物等の譲渡所得以外のその年の所得から差し引くこと ( 損益通算 )

(2) 源泉分離課税制度源泉分離課税制度とは 他の所得と全く分離して 所得を支払う者 ( 銀行 証券会社等 ) がその所得の支払の際に 一定の税率で所得税を源泉徴収し それだけで所得税の納税が完結するものです 1 対象となる所得代表的なものとして 預金等の利子所得 定期積金の給付補てん金等があります

新規文書1

法人会の税制改正に関する提言の主な実現事項 ( 速報版 ) 本年 1 月 29 日に 平成 25 年度税制改正大綱 が閣議決定されました 平成 25 年度税制改正では 成長と富の創出 の実現に向けた税制上の措置が講じられるともに 社会保障と税の一体改革 を着実に実施するため 所得税 資産税についても

2 2 上場株式等 の範囲の拡大 上場株式等には 上場株式 上場投資信託の受益権 (ETF) 上場不動産投資法人の投資口 (REIT) 公募株式等証券投資信託の受益権が含まれていた 今回の租税特別措置法の改正により 発行者の情報が一般に公開され その商品内容を入手することが容易に可能な公社債を 上場

医療法人への移行の案内.indd

金庫株を活用した事業承継対策 1. 概要 非上場株式を相続して相続税が発生する場合は 相続で取得した自社株を相続税の申告期限後 3 年以内に金 庫株すればみなし配当課税しない (= 譲渡所得とする ) 特例があります ( 措置法 9 条の 7) 所得税の特例の内容 ( 自己株式をみなし配当課税しない

第 5 章 N

Ⅲ 納付 [Q6] 申告 納付等の期限の延長が認められた場合 延滞税 利子税はどのようになりますか また 加算税は賦課されますか 7 [Q7] 今般の熊本地震災害により被害を受けましたが 納税の猶予はどのような場合に受けることができますか 8 [Q8] 納税の猶予の 相当の損失 とはどの程度の損失を

て 次に掲げる要件が定められているものに限る 以下この条において 特定新株予約権等 という ) を当該契約に従つて行使することにより当該特定新株予約権等に係る株式の取得をした場合には 当該株式の取得に係る経済的利益については 所得税を課さない ただし 当該取締役等又は権利承継相続人 ( 以下この項及

理サブ_改正修正表.indd

2. 改正の趣旨 背景 (1) 問題となっていたケース < 親族図 > 前提条件 1. 父 母 ( 死亡 ) 父の財産 :50 億円 ( すべて現金 ) 財産は 父 子 孫の順に相続する ( 各相続時の法定相続人は 1 名 ) 2. 子 子の妻 ( 死亡 ) 父及び子の相続における相次相続控除は考慮

Microsoft Word - News_Letter_Tax-Vol.43.docx

税金読本(16-2)税務署への財産債務の申告と国外転出時みなし譲渡益課税

平成 30 年 7 月豪雨により被害を受けられた方の税務上の措置 ( 手続 )FAQ 平成 30 年 7 月広島国税局 平成 30 年 7 月豪雨により被害を受けられた方の税制上の措置 ( 手続 ) 等につきまして 照会の 多い事例を取りまとめましたので 参考としてください 目次 Ⅰ 災害にあった場

Microsoft Word 役立つ情報_税知識_.doc

投資法人の資本の払戻 し直前の税務上の資本 金等の額 投資法人の資本の払戻し 直前の発行済投資口総数 投資法人の資本の払戻し総額 * 一定割合 = 投資法人の税務上の前期末純資産価額 ( 注 3) ( 小数第 3 位未満を切上げ ) ( 注 2) 譲渡収入の金額 = 資本の払戻し額 -みなし配当金額

6 課税上の取扱い日本の居住者又は日本法人である投資主及び投資法人に関する課税上の一般的な取扱いは 下記のとおりです なお 税法等の改正 税務当局等による解釈 運用の変更により 以下の内容は変更されることがあります また 個々の投資主の固有の事情によっては異なる取扱いが行われることがあります (1)

( 外国 ) 同上 ケース ( ) 相続人が取得した全 2 財産に対して課税 ( 外国 ) 国内財産に対しての み課税 ケース ( ) 相続人が取得した全 3 財産に対して課税 ( 外国 ) 同上 ( 平成 25 年度税制改正より ) ケース ( ) 被相続人 相続人いず 4 れも 5 年超居住の場

【表紙】

の範囲は 築 20 年以内の非耐火建築物及び築 25 年以内の耐火建築物 ((2) については築 25 年以内の既存住宅 ) のほか 建築基準法施行令 ( 昭和二十五年政令第三百三十八号 ) 第三章及び第五章の四の規定又は地震に対する安全上耐震関係規定に準ずるものとして定める基準に適合する一定の既存

改正された事項 ( 平成 23 年 12 月 2 日公布 施行 ) 増税 減税 1. 復興増税 企業関係 法人税額の 10% を 3 年間上乗せ 法人税の臨時増税 復興特別法人税の創設 1 復興特別法人税の内容 a. 納税義務者は? 法人 ( 収益事業を行うなどの人格のない社団等及び法人課税信託の引

目 次 最近における相続税の課税割合 負担割合及び税収の推移 1 地価公示価格指数と基礎控除(58 年 =100) の推移 2 最近における相続税の税率構造の推移 3 小規模宅地等の課税の特例の推移 4 相続税負担の推移( 東京都区部のケース ) 5 ( 補足資料 ) 相続税の概要 6 相続税の仕組

1 Ⅲ. 自由職業者の居住形態 1 居住形態 A 序 所得税法では 個人の納税者を 居住者 と 非居住者 に区分し 居住者について さらに 非永住者 と 非永住者以外の居住者 ( 以下 永住者 という ) に区分し ている そして 居住形態の区分に応じて課税所得の範囲や課税所得の計算方法が異なっ て

公共債の税金について Q 公共債の利子に対する税金はどのようになっていますか? 平成 28 年 1 月 1 日以後に個人のお客様が支払いを受ける国債や地方債などの特定公社債 ( 注 1) の利子については 申告分離課税の対象となります なお 利子の支払いを受ける際に源泉徴収 ( 注 2) された税金

所令要綱

Ⅲ 納付 [Q10] 申告 納付等の期限の延長が認められた場合 延滞税 利子税はどのようになりますか また 加算税は賦課されますか 7 [Q11] 今般の北海道胆振東部地震により被害を受けましたが 納税の猶予はどのような場合に受けることができますか 8 [Q12] 納税の猶予の 相当の損失 とはどの

また 国外財産調書制度は 2013 年 12 月末の国外財産から調書の提出義務が始まりましたので 5,000 万円超の国外財産を保有の方はご留意ください これに関連して 国税庁より 2013 年 11 月 15 日に FAQ が発表されており FAQ は国税庁のホームページで閲覧等できます 資産税ニ

[2] 税率構造の見直し 相続税の税率構造が現行の6 段階から8 段階に変更されるとともに 最高税率が 50% から 55% に引き上げられることとなりました ただし 各法定相続人の取得金額が2 億円以下の場合の税率は と変わりありません この改正は 平成 27 年 1 月 1 日以後に相続または遺

経 ViewPoint 営相談 相続時における小規模宅地等の特例の改正 谷口敬三相談部東京相談室 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例 ( 以下 小規模宅地等の特例 ) は 一定の要件を満たす宅地等 ( 特定事業用等宅地等 特定居住用宅地等 貸付事業用宅地等 ) につ

海外財産の相続 : 事例研究 ~ 米国の財産の相続手続き ( 第 4 回 ) 三輪壮一氏三菱 UFJ 信託銀行株式会社リテール受託業務部海外相続相談グループ米国税理士 これまで 海外に財産を保有する場合の 海外相続リスク の存在 特にプロベイト手続き等の相続手続きの煩雑さについて 米国の例を基に説明

配偶者の税額軽減特例の有利な受け方 配偶者がいる場合の 相続税の具体的な計算例は以下の通りです 1. 設例 自宅 預貯金等の相続財産の遺産額 =2 億円 法定相続人 = 配偶者 + 子 2 人の合計 3 人 実際の遺産分割は 法定相続分の通りとする 未成年者控除 外国税額控除 生命保険金の非課税枠金

第11 源泉徴収票及び支払調書の提出

法関係法人税法関係 zeimu QA テーマ分類別索引 法人税

上場株式等の配当等に対する課税

非課税上場株式等管理に関する約款 第 1 条 ( 約款の趣旨 ) この約款は お客さまが租税特別措置法第 9 条の8に規定する非課税口座内の少額上場株式等に係る配当所得の非課税および租税特別措置法第 37 条の14に規定する非課税口座内の少額上場株式等に係る譲渡所得等の非課税の特例 ( 以下 非課税

相続税・贈与税の基礎と近年の改正点

プルータスセミナー 新株予約権の税務について 株式会社プルータス コンサルティング 平成 18 年 12 月 7 日

新しい非居住者債券所得非課税制度の概要 < 平成 22 年度税制改正前の制度の概要 > 非居住者等が受ける振替国債及び振替地方債のについては 一定の手続要件を満たせば非課税とされていました しかし 非居住者等が受ける振替社債等のについては 原則 15% の税率により源泉徴収課税がなされていました 非

13. 平成 29 年 4 月に中古住宅とその敷地を取得した場合 当該敷地の取得に係る不動産取得税の税額から 1/2 に相当する額が減額される 14. 家屋の改築により家屋の取得とみなされた場合 当該改築により増加した価格を課税標準として不動産 取得税が課税される 15. 不動産取得税は 相続 贈与

1 繰越控除適用事業年度の申告書提出の時点で判定して 連続して 提出していることが要件である その時点で提出されていない事業年度があれば事後的に提出しても要件は満たさない 2 確定申告書を提出 とは白色申告でも可 4. 欠損金の繰越控除期間に誤りはないか青色欠損金の繰越期間は 最近でも図表 1 のよ

公共債の税金について Q 公共債の利子に対する税金はどのようになっていますか? 平成 28 年 1 月 1 日以後に個人のお客様が支払いを受ける国債や地方債などの特定公社債 ( 注 1) の利子については 申告分離課税の対象となります なお 利子の支払いを受ける際に源泉徴収 ( 注 2) された税金

Microsoft Word - 第67号 来年からの贈与税改正と相続時精算課税を選択する際の注意点

2017年度税制改正大綱 資産税関連の主な改正点

住宅取得等資金の贈与に係る贈与税の非課税制度の改正

[Q1] 復興特別所得税の源泉徴収はいつから行う必要があるのですか 平成 25 年 1 月 1 日から平成 49 年 12 月 31 日までの間に生ずる所得について源泉所得税を徴収する際 復興特別所得税を併せて源泉徴収しなければなりません ( 復興財源確保法第 28 条 ) [Q2] 誰が復興特別所

〇本事例集は 平成 31 年 3 月を期限とした個人の確定申告について 国税通則法関連 ( 所得税 の納税地を含む ) の 誤りやすい事例 について取りまとめています 〇本事例集は 誤りやすい事例 を載せた後に 正しい解釈 処理方法を提示しています なお 無用 な文字数 ページ数の増加を避けるため

事業承継税制の全体像は ( 図表 1) の通りである ( 図表 1) 事業承継税制の全体像 経営者 1 代目 経営者 2 代目 一括贈与 大臣認定 贈与税の課税 贈与税の納税猶予の適用 相続税の納税猶予制度と同様 雇用確保を含む 5 年間の事業継続を行い その後も株式を継続保有 生前贈与により株式の

1: とは 居住者の配偶者でその居住者と生計を一にするもの ( 青色事業専従者等に該当する者を除く ) のうち 合計所得金額 ( 2) が 38 万円以下である者 2: 合計所得金額とは 総所得金額 ( 3) と分離短期譲渡所得 分離長期譲渡所得 申告分離課税の上場株式等に係る配当所得の金額 申告分

2011年度税制改正大綱(相続・贈与税)

<4D F736F F D208C6F89638FEE95F182A082EA82B182EA E34816A>

平成 29 年度税制改正解説資産課税 納税義務の見直し 1 国外財産に関する相続税 贈与税の納税義務の範囲が見直されます 被相続人が日本国籍を有しない者であって 一時的滞在 ( 2) をしていたものを除く 2

(1) 改正の内容 内容 現行制度 特例制度 納税猶予対象株式 納税猶予税額 発行済議決権株式総数の 3 分の 2 に達するまでの株式 贈与の場合 : 納税猶予対象株式に係る贈与税の全額 相続の場合 : 納税猶予対象株式に係る相続税の 80% 取得した全ての株式 贈与の場合 : 納税猶予対象株式に係

平成 25 年度税制改正解説相続税 ~ 基礎控除の引き下げ 税率構造の見直し等 法定相続人の数と基礎控除法定相続人の数と基礎控除 法定相続人の数 1 人 2 人 3 人 4 人 5 人 60,000 千円 70,000 千円 80,000 千円 90,000 千円 100,000 千円 36,000

<4D F736F F F696E74202D E93788E968BC68FB38C7090C590A789FC90B38A E >

5 配偶者控除等 配偶者控除 配偶者特別控除 扶養控除及び勤労学生控除の合計所得金額の要件 について 一律 10 万円ずつ引き上げられます 6 青色申告特別控除正規の簿記の原則により記帳している者に係る控除額が 55 万円に引き下げられ 正規の簿記の原則により記帳し かつ e5tax 等により確定申

平成23年度税制改正の主要項目

債券税制の見直し(金融所得課税の一体化)に伴う国債振替決済制度の主な変更点について

平成 22 年 4 月 1 日現在の法令等に準拠 UP!Consulting Up Newsletter 無対価での会社分割 バックナンバーは 当事務所のホームページで参照できます 1

第 8 章 税 金 外国人の方であっても, 一定の要件に当てはまる場合には, 税金を納める必要があります 例えば, 日本国内で働いて得た収入があると, 原則として所得税を納めなければなりません また,1 月 1 日現在で日本に住所がある方は, 前年の所得について課税される住民税を納めなければなりませ

注 1 認定住宅とは 認定長期優良住宅及び認定低炭素住宅をいう 注 2 平成 26 年 4 月から平成 29 年 12 月までの欄の金額は 認定住宅の対価の額又は費用の額に含まれる消費税等の税率が 8% 又は 10% である場合の金額であり それ以外の場合における借入限度額は 3,000 万円とする

申告所得税関係 手続名 帳票名平成年分セルフメディケーション税制の明細書 ( 次葉 ) 特定証券投資信託に係る配当控除額の計算書 平成 年分給与所得の源泉徴収票 ( 平成 28 年以降用 ) 平成 年分特定口座年間取引報告書 ( 平成 28 年以降用 ) 平成 年分公的年金等の源泉徴収票 ( 平成

Ⅰ 家計の自助努力による資産形成を支援するための税制措置 1. つみたて NISA の制度期限の延長 NISA 制度の恒久化 根拠法の制定等 1つみたて NISA について 平成 49 年までとされている投資可能期間 ( 制度期限 ) を延長することにより 来年以降に投資を開始しても投資可能期間が少

(2) 滞納残高 イ 税目別の滞納残高 平成 18 年度平成 19 年度平成 2 年度平成 21 年度平成 22 年度平成 23 年度平成 24 年度平成 25 年度平成 26 年度平成 27 年度 申告所得税 2,119 2,72 1,994 1,921 1,871 1,871 1,784 1,7

イ税務署へ確定申告書を提出し 所得税の住宅ローン控除の適用を受けている 退職所得 山林所得がある方 所得税の平均課税の適用を受けている方は 住宅ローン控除申告書を提出することにより控除額が大きくなる場合があります 申告書を提出される方は3 月 15 日 ( 月 ) までに申告してください 申告しなけ

この特例は居住期間が短期間でも その家屋がその人の日常の生活状況などから 生活の本拠として居住しているものであれば適用が受けられます ただし 次のような場合には 適用はありません 1 居住用財産の特例の適用を受けるためのみの目的で入居した場合 2 自己の居住用家屋の新築期間中や改築期間中だけの仮住い

 

49 年 12 月 31 日までの間 源泉徴収される配当等の額に係るの額に対して 2.1% の税率により復興 特別が源泉徴収されます b. 出資等減少分配に係る税務個人投資主が本投資法人から受取る利益を超える金銭の分配 ( 分割型分割及び株式分配並びに組織変更による場合を除く 以下本 1において同じ

A. 受贈者に一定の債務を負担させることを条件に 財産を贈与することを 負担付贈与 といいます 本ケースでは 夫は1 妻の住宅ローン債務を引き受ける代わりに 2 妻の自宅の所有権持分を取得する ( 持分の贈与を受ける 以下持分と記載 ) ことになります したがって 夫は1と2を合わせ 妻から負担付贈

PowerPoint プレゼンテーション

住宅取得等資金贈与の非課税特例 教育資金一括贈与の非課税特例 結婚 子育て資金贈与の非課税特例 相続時精算課税制度 贈与者 贈与年の 1 月 1 日現在で 60 歳以上の父母または祖父母 受贈者 贈与者の直系卑属 ( 子 孫 ひ孫等 ) で贈与の年の 1 月 1 日現在 20 歳以上 受贈年の合計所

#210★祝7500【H30税法対策】「登録免許税ほか」優先暗記30【宅建動画の渋谷会】佐伯竜PDF

Microsoft Word - 最新版租特法.docx

平成29年 住宅リフォーム税制の手引き 本編_概要

504 特定事業等に係る外国人の入国 在留諸申請優先処理事業 1. 特例を設ける趣旨外国人研究者等海外からの頭脳流入の拡大により経済活性化を図る地域において 当該地域における特定事業等に係る外国人の受入れにあたり 当該外国人の入国 在留諸申請を優先的に処理する措置を講じることにより 当該地域における

Microsoft Word - g

<918A91B190C F0939A91AC95F BD90AC E A>

Transcription:

ビジネス タックス ロー ニューズレター 2015 年 4 月号 国外転出時課税制度 ( いわゆる 出国税 (Exit Tax) ) の創設執筆者 : 北村導人 柴田英典 今月のニューズレターでは 平成 27 年度税制改正 ( 以下 本改正 といいます ) において創設された国外転出時課税制度 ( いわゆる 出国税 (Exit Tax) ) について その概要と実務上の留意点を解説します 1. はじめに (1) 制度の概要 国外転出時課税制度とは 下記 2. 以下で説明するとおり 下記 1~3の時において一定の居住者 ( 以下 国外転出時課税制度の適用対象となる者を 対象者 といいます ) が時価合計額 1 億円以上の有価証券等の一定の資産 ( 以下 国外転出時課税制度の適用対象となる資産を 対象資産 といいます ) を所有等している場合に 当該 1~3のそれぞれの時に対象資産の譲渡又は決済があったものとみなし 対象資産の未実現の含み損益を実現したものとみなして課税をするという制度です 1 2 3 対象者が国外転出をする時対象者が非居住者へ対象資産の全部又は一部を贈与する時対象者が死亡し 相続又は遺贈により非居住者である相続人又は受遺者が対象資産の一部又は全部を取得する時 上記 1 2 及び3の時の課税はそれぞれ 国外転出時課税 国外転出 ( 贈与 ) 時課税 国外転出 ( 相続 ) 時課税 と呼ばれ これらは 国外転出時課税制度 と総称されます 本ニューズレターは法的助言を目的するものではなく 個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ 弁護士 税理士の助言を求めて頂く必要があります また 本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり 当事務所又は当事務所のクライアントの見解ではありません 本ニューズレターに関する一般的なお問合せは 下記までご連絡ください 西村あさひ法律事務所広報室 (Tel: 03-5562-8352 E-mail: newsletter@jurists.co.jp) - 1 -

(2) 導入の経緯 本改正前は 租税条約上 株式等の譲渡所得については株式等を売却した者の居住地国に課税権があるとされている ( 源泉地国での課税は免税とされることが多い ) ことから 1 これを利用して 多額の含み益を有する株式等を保有したまま 香港等のキャピタルゲイン非課税国に移住し これらの国の居住者 ( 日本から見ると非居住者 ) となった後に当該株式等を売却することにより我が国における譲渡所得課税を逃れるということが行われることがありました 2 2014 年 9 月 16 日に公表されたBEPS 行動計画に関する第一弾の報告書の行動 6 租税条約の濫用防止 において出国時における未実現のキャピタルゲインに対する譲渡所得課 税の特例が租税回避防止措置 ( 二重非課税の防止 ) として位置づけられていること 3 を踏まえ 我が国でも 上記のような課税逃れを防止する措置として当該特例の導入が検討され 4 本改正により国外転出時課税制度が創設されました なお このように国外転出時に未実現のキャピタルゲインに対して特例的に課税する措置は 対象となる資産の範囲等に差異はあるものの ドイツ フランス ニュージーランド オランダ オーストラリア 米国及び英国等で既に導入されています 2. 国外転出時課税 (1) 国外転出時課税の内容 国外転出時課税 とは 国外転出(1) をする時点で時価合計額 5 1 億円以上の有価証券等の対象資産 (2) を所有等 6 している対象者 (3) に対して 国外転出の時に 一定の価額 (4) で対象資産の譲渡又は決済 ( 以下 譲渡等 といいます ) があったものとみなして 事業所得の金額 譲渡所得の金額又は雑所得の金額 ( 以下 譲渡所得等の金額 といいます ) が計算され 対象者に所得税が課税されるという制度です ( 本改正後の所得税法 ( 以下 新所得税法 といいます )60 条の 2) 以下では 国外転出時課税の要件 1 乃至 4について より詳しく説明します 1 国外転出国外転出時課税は 国外転出時における対象資産の価額合計額 7 が 1 億円以上である居住者が国外転出をする時に 当該対象資産を譲渡等したものとみなして課税する制度であるため 同制度の課税対象者及び課税時期を決定する上で 国外転出 の意義を明らかにすることが極めて重要です この点 国外転出 とは 国内に住所及び居所を有しないこととなること と定義されています ( 新所得税法 60 条の 2 第 1 項 ) ここで 住所 とは 民法 22 条に定める 各人の生活の本拠 をいい ( 国内に 生活の本拠 があるかどうかは 例えば 住居 職業 資産の所在 親族の居住状況 国籍等の客観的事実によって判断されることになります ) 8 居所 とは 一時的に居住するだけでは足りず 生活の本拠という程度には至らないものの 個人が相当期間継続して 1 OECD モデル租税条約においては 原則として株式等のキャピタルゲインは 居住地国が排他的に課税権を有しています (13 条 5 項 ) 但し 不動産の譲渡に関する源泉地国 ( 不動産の所在地国 ) における課税 (13 条 1 項 ) の回避を防止するため 資産価値の 50% 超が直接又は間接に源泉地国の不動産である法人の株式等については 源泉地国 ( 不動産の所在地国 ) にも課税権が認められています (13 条 4 項 ) なお 租税条約の中には 日英租税条約 13 条 3 項や日星租税条約 13 条 4 項 (b) のように いわゆる事業譲渡類似株式のキャピタルゲインについても源泉地国に課税権を認めるものもあります 2 また 下記 6.(1) で説明するとおり 相続人又は受贈者と被相続人又は贈与者の双方が 相続開始又は贈与前 5 年以内のどの時点においても日本国内に住所を有していない場合 相続人又は受贈者が日本国籍を有している場合であっても 国外財産の相続及び贈与は相続税及び贈与税の対象とはされていないことから これを利用するために 相続税又は贈与税を逃れるための海外移住が近年増加していたという背景も制度創設に関係していたものと考えられます 3 OECD/G20 Base Erosion and Profit Shifting Project Preventing the Granting of Treaty Benefits in Inappropriate Circumstances ACTION 6: 2014 Deliverable 91 頁. 4 平成 26 年 10 月 21 日税制調査会 ( 第 5 回基礎問題小委員会 ) 議事録 23 頁以下 5 但し 国外転出前に確定申告書の提出をする場合には 原則として国外転出予定日の 3 か月前の日における価額となります 6 所有等している とは 新所得税法 60 条の 2 第 1 項に定める有価証券等については 当該有価証券等を所有していることをいい 同条 2 項に定める未決済信用取引等及び同条 3 項に定める未決済デリバティブ取引については これらの取引等に係る契約を締結していることをいいます 7 但し 国外転出前に確定申告書の提出をする場合には 原則として国外転出予定日の 3 か月前の日における価額となります 8 最判平成 23 年 2 月 18 日集民第 236 号 71 頁 - 2 -

居住する場所 をいいます 9 それ故 海外への短期出張や短期滞在等の場合は 国外転出 には該当しませんが 他方で 所得税法上 居住者 は 国内に住所を有し 又は現在まで引き続いて 1 年以上居所を有する個人 非居住者 は 居住者以外の個人 とそれぞれ定義されている ( 同法 2 条 1 項 3 号及び 5 号 ) ことからすれば 我が国の所得税法上 居住者 から 非居住者 になる場合には その時点で 国外転出 に該当するものと考えられます 2 対象資産国外転出時課税の課税対象となる資産は 有価証券 ( 所得税法 2 条 17 号所定の有価証券 10 であり 国債 地方債 株式 新株予約権 社債等の他 外国債や外国法人発行の株式 社債が含まれます ) 匿名組合契約の出資持分( 以下 有価証券等 といいます ) 未決済の信用取引 発行日取引( 以下 未決済信用取引等 といいます ) 及び未決済のデリバティブ取引 ( 以下 未決済デリバティブ取引 といいます ) とされています ( 新所得税法 60 条の 2 第 1 項 2 項 3 項 ) 3 対象者国外転出をする居住者で 以下のいずれにも該当する者が 対象者となります ( 新所得税法 60 条の 2 第 5 項 ) (a) 国外転出時に所有等をしている対象資産の下記 4の価額 ( 時価 ) の合計額が 1 億円以上であること (b) 国外転出の日前 10 年以内において 国内在住期間 11 が 5 年を超えていること 4 対象資産の価額上記のとおり国外転出時課税は 合計 1 億円以上の対象資産を有する居住者が対象者となりますが 合計 1 億円以上であるか否かを判定するために用いられる対象資産の価額 ( 更には 譲渡所得等の金額の計算においても当該価額で譲渡したものとみなされます ) は以下のとおりです ( 新所得税法 60 条の 2 第 1 項乃至 3 項 ) (a) (b) 国外転出後に確定申告書の提出をする場合 (i) 有価証券等については 国外転出の時の価額に相当する金額 (ii) 未決済信用取引等又は未決済デリバティブ取引については 国外転出の時に決済したものとみなして算出した利益の額又は損失の額に相当する金額 国外転出前に確定申告書の提出をする場合 (i) 有価証券等については 国外転出予定日から起算して 3 か月前の日における価額に相当する金額 (ii) 未決済信用取引等又は未決済デリバティブ取引については 国外転出予定日から起算して 3 か月前の日に決済したものとみなして算出した利益の額又は損失の額に相当する金額 以上のとおり 確定申告書の提出時期が国外転出の前であるか後であるかにより 対象資産の価額合計額を算定する時点が異なるため 実務上は 国外転出予定日から起算して 3 か月前の日における価額が 1 億円以上となっているか否か等を踏まえて 確定申告書の提出時期を検討することも考えられます 9 神戸地判平成 14 年 10 月 7 日税務訴訟資料 252 号順号 9208 なお 同神戸地裁は 居所 も民法 22 条 ( 平成 16 年の民法改正後は 23 条 ) に定める居所と同様に解すべきと判示しています 10 金融商品取引法 2 条 1 項に規定する有価証券その他これに準ずるものとして所得税法施行令 4 条で定めるものとされています 11 国内に住所又は居所を有していた期間 が基本となりますが この期間の算定に当たっては 国内在住期間の判定に当たっては 出入国管理及び難民認定法別表第一の上欄の在留資格 ( 外交 教授 芸術 経営 管理 法律 会計業務 医療 研究 教育 企業内転勤 短期滞在 留学等 ) で在留していた期間は含まないこととされています ( 本改正後の所得税法施行令 ( 以下 新所得税法施行令 といいます )170 条 2 項 ) - 3 -

(2) 国外転出の日から 5 年 (10 年 ) 以内の帰国等 国外転出の日から 5 年を経過する日までに対象者が帰国 12 した場合 帰国した日から 4 か月以内に更正の請求をすれば 帰国の時まで引き続き有していた対象資産について 国外転出時課税の適用がなかったこととすることができます ( 新所得税法 60 条の 2 第 6 項 1 号 153 条の 2 第 1 項 ) また 国外転出の日から 5 年を経過する日までに 対象者が対象資産を居住者に贈与した場合や 対象者が死亡し 相続又は 遺贈により 対象資産の相続人及び受遺者の全てが居住者となった場合にも 同様に これらの事実が生じた日から 4 か月以内に更正の請求をすれば 当該対象資産について国外転出時課税の適用がなかったこととすることができます ( 新所得税法 60 条の 2 第 6 項 2 号 3 号 153 条の 2 第 1 項 ) なお 下記(3) で述べる納税猶予の特例を受け 納税猶予期限を 10 年に延長する旨の届出書を提出している場合には 前記の 5 年 という期間制限は 10 年 に延長されます ( 新所得税法 60 条の 2 第 7 項 ) (3) 納税猶予の特例 1 納税猶予の特例の内容国外転出時課税は 未実現の含み損益を実現したものとみなして課税をするものであり 納税資金がない場合も想定されます そのため 国外転出の時までに国税通則法 117 条 2 項の規定による納税管理人の届出をし 一定の担保 13 を供する等の一定の手続を行った場合 国外転出の日から 5 年を経過する日までの間 納税義務が猶予されます ( 新所得税法 137 条の 2 第 1 項 ) また 長期海外滞在が必要な場合には 国外転出の日から 5 年を経過する日までに納税猶予の期限を延長する旨の届出書を所轄税務署に提出することにより 納税猶予の期間を更に 5 年延長することができます ( 新所得税法 137 条の 2 第 2 項 ) なお 納税猶予の特例を受けた場合であっても 納税猶予が終了した場合には 納税を猶予されていた所得税のみならず 納税猶予期間に応じて利子税 14 を納付することが必要となります ( 新所得税法 137 条の 2 第 12 項 1 号 ) 但し 納税猶予期間の満了日において 対象資産の価額が上記 (1)4の価額よりも下落している場合には 納税猶予期間の満了日から 4 か月以内に更正の請求をすることで 国外転出の時に納税猶予期間の満了日の価額で譲渡したものとみなして 所得税の再計算をすることができます ( 新所得税法 60 条の 2 第 10 項 153 条の 2 第 3 項 ) 2 納税猶予期間中の対象資産の譲渡等納税猶予期間中に対象資産の譲渡等又は贈与をした場合には 当該譲渡等をした部分に対応する所得税及び利子税を当該譲渡等又は贈与があった日から 4 か月以内に納付する必要があります ( 新所得税法 137 条の 2 第 5 項 12 項 2 号 ) 15 なお この場合 当該譲渡等については 原則として上記 (1)4の金額を基準として所得税の計算がされますが 当該譲渡等の価額が 上記 (1)4の価額よりも下落していた場合 当該譲渡等の日から 4 か月以内に更正の請求をすることで その下落した価格で国外転出時課税の申告をした年分の所得税の再計算をすることができます ( 新所得税法 60 条の 2 第 8 項 153 条の 2 第 2 項 ) 3 納税猶予期間中の死亡納税猶予期間中に国外転出をした者が死亡した場合 その相続人は納税が猶予された所得税の納付義務を承継しますが ( 新所得税法 137 条の 2 第 13 項 ) 当該相続人について納税猶予の特例の適用があったものとみなされるため( 新所得税法施行令 266 条の 2 第 7 項 ) 当該納税義務は 引き続き猶予されることとなります 12 帰国 とは 国内に住所を有し 又は引き続いて 1 年以上居所を有することとなることとされています ( 新所得税法 60 条の 2 第 6 項 1 号括弧書 ) 13 担保としては 国債 地方債 不動産 税務署長が確実と認める有価証券及び保証人の保証並びに金銭等があります ( 国税通則法 50 条 ) 14 平成 27 年 1 月 1 日から平成 27 年 12 月 31 日までの利子税の割合は年 1.8% とされています ( 本改正後の租税特別措置法 93 条 1 項 2 項 財 務省告示第 386 号 ) 15 この場合 対象資産の贈与の相手が居住者であれば 上記 (2) のとおり 国外転出時課税の適用がなかったこととすることができます - 4 -

(4) 二重課税の調整 1 外国税額控除納税猶予期間中に対象資産を譲渡等した場合においては 我が国においては 上記 (3)2のとおり 所得税の納付義務が発生する一方で 居住地国 ( 国外転出先の国 ) においても譲渡所得に対する課税がなされる場合があります この場合に二重課税が生じないようにするため 当該国外転出先の国において対象資産の税務上の簿価のステップアップ 16 がされる場合がありますが 対象資産の税務上の簿価のステップアップがなされない場合には二重課税が生じることとなります そのため 後者のような場合には 17 外国税額控除制度により 外国所得税を納付することとなる日から 4 か月以内に更正の請求をすることで 二重課税を調整することができます ( 新所得税法 95 条の 2 第 1 項 153 条の 5) 2 外国から日本国内に転入した場合の二重課税調整外国から日本国内に転入した場合 国外転出時課税を定める規定に相当する外国の法令の規定 ( 以下 外国転出時課税の規定 といいます ) の適用により 当該外国において未実現のキャピタルゲインに対する課税がなされることがあります このような場合において二重課税が生じることを防ぐため 居住者が外国転出時課税の規定を受けた対象資産の譲渡等をした場合 税務上の簿価がステップアップされたものとして税額の計算がされます ( 新所得税法 60 条の 4) 3. 国外転出 ( 贈与 ) 時課税 (1) 国外転出 ( 贈与 ) 時課税の内容 国外転出 ( 贈与 ) 時課税とは 贈与をする時点で時価合計額 1 億円以上の対象資産を所有等している居住者で 贈与の日前 10 年以内において国内在住期間が 5 年を超えている者が非居住者に対して対象資産の全部又は一部を贈与した場合 贈与時における価額に相当する金額で対象資産の贈与又は決済があったものとみなされ 贈与者に所得税が課税されるという制度です ( 新所得税法 60 条の 3 第 1 項乃至 3 項 5 項 ) この場合 受贈者には 贈与税が課されますが 受贈者が所有等することとなる対象資産の税務上の簿価は ステップアップがなされます ( 新所得税法 60 条の 3 第 4 項 ) (2) 受贈者の帰国 納税猶予の特例 受贈者が帰国した場合の課税関係や納税猶予の特例については 上記 2.(1) 及び (2) と同様のものとなります 4. 国外転出 ( 相続 ) 時課税 (1) 国外転出 ( 相続 ) 時課税の内容 国外転出 ( 相続 ) 時課税とは 相続又は遺贈 ( 以下 相続等 といいます ) があった時点で時価合計額 1 億円以上の対象資産を 16 一般に ステップアップ とは ある資産の税務上の帳簿価額 ( 簿価 ) を引き上げることをいいます 17 もっとも 国外転出先の国において対象資産の税務上の簿価のステップアップがなされた上で課税がされる場合にも外国税額控除制度の適用自体はありますが 新所得税法 95 条の 2 第 1 項により同法 95 条 1 項を適用するに当たり納付したものとみなされる金額 ( 以下 外国所得税納付額 といいます ) は 原則として 外国所得税 ( 外国の法令により課される所得税に相当する税で所得税法施行令 221 条に定めるもののうち 住所 居所 国籍等を有することにより住所 居所 国籍等を有する国又は地域において課されるもの ) の額から 対象資産の譲渡等がないものとした場合における外国所得税の額を控除した金額とされています ( 新所得税法施行令 226 条の 2 第 1 項 ) このように 外国所得税納付額は 国外転出先の国において対象資産の税務上の簿価のステップアップがなされた場合には ステップアップ後の簿価を前提に計算がされるため 二重課税の防止に必要な限度で外国税額控除がされることとなっています - 5 -

所有等している居住者で 相続等があった日前 10 年以内において国内在住期間が 5 年を超えている者が死亡し 非居住者が対象資産の全部又は一部を相続等により取得した場合 相続等があった時における価額に相当する金額で対象資産の相続等があったものとみなされ 被相続人又は遺贈者に所得税が課税されるという制度です ( 新所得税法 60 条の 3 第 1 項乃至 3 項 5 項 ) この場合 相続人又は受遺者には 相続税が課されますが 相続人又は受遺者が所有等することとなる対象資産の税務上の簿価は ステップアップがなされます ( 新所得税法 60 条の 3 第 4 項 ) (2) 相続人等の帰国 納税猶予の特例 相続人等が帰国した場合の課税関係や納税猶予の特例については 上記 2.(1) 及び (2) と同様のものとなります 5. 国外転出時課税制度の施行時期 国外転出時課税 国外転出 ( 贈与 ) 課税及び国外転出 ( 相続 ) 課税は それぞれ平成 27 年 7 月 1 日以降に国外転出をする場合 贈与をする場合及び相続又は遺贈があった場合に適用されます ( 改正附則 7 条 8 条 ) 6. 国外転出時課税制度創設による実務的影響と課題 (1) 国外転出時課税制度創設による実務的影響 我が国の租税法上 被相続人又は贈与者 ( 以下 被相続人等 といいます ) と相続人又は受贈者 ( 以下 相続人等 といいます ) の双方が 相続開始前又は贈与前 5 年以内のどの時点においても日本国内に住所を有していない場合には 相続人等が日本 国籍を有している場合であっても 国外財産の相続及び贈与は相続税及び贈与税の対象とはされておりません ( 相続税法 1 条の 18 3 第 1 項 3 号 1 条の 4 第 1 項 3 号 2 条 2 項 2 条の 2 第 2 項 ) また 所得税法上 非居住者が国外財産を譲渡した場合には 原則として我が国の所得税は課されず 国内財産を譲渡した場合は 株式等に関しては 事業譲渡類似株式や不動産関連法人株式の譲渡等の一定の限定された場合のみが譲渡所得課税の対象とされています ( 所得税法 161 条 1 号 所得税法施行令 280 条 2 項各号 291 条 1 項 3 号ロ 4 号等 ) 19 それ故 近年 特に富裕層の相続対策や事業承継対策のため( 我が国の相続税 贈与税及び譲渡所得課税が課されることを回避するため ) 被相続人等となる者と相続人等となる者の双方が相続税や贈与税の課税制度がない国に移住し 当該国において 5 年を超えて住所を有した後に 両者の間で贈与が行われること 又は被相続人等となる者がキャピタルゲイン非課税国に移住し 譲渡が行われることがありました 今般の国外転出時課税制度の導入により 居住者が国外転出する時に対象資産 ( 国内財産及び国外財産の双方を含みます ) の未実現の含み益は実現したものとみなされ 我が国で譲渡所得課税が課されることから その際の税負担を考慮して 上記の動きには一定の歯止めがかけられるものと思われます もっとも 平成 25 年度税制改正により 平成 27 年 1 月 1 日以降 我が国における相続税や贈与税の負担は更に重くなっているため ( 最高税率はいずれも 55%) 国外転出時課税制度により( 譲渡損失が生じるに過ぎない場合 20 は勿論のこと ) 譲渡所得課税が課せられたとしても なお 相続税や贈与税の負担軽減等のため 相続税や贈与税の課税制度がない国やキャピタルゲイン非課税国に移住するというケースは今後も生じるものと思われます 18 平成 27 年度税制改正により 相続税法 1 条の 3 及び 1 条の 4 には 2 項が追加されています 19 なお 我が国の税法上の非居住者の居住地国が我が国との間で租税条約を締結している場合 居住地国課税がされ 我が国の課税権が及ばないことがあります 20 国外転出時課税制度は キャピタルロスも実現されたものとされるため 納税猶予の制度を利用しない方が合理的である場合もあります また 国外転出時課税制度によりキャピタルロスを確定させた後に対象資産の譲渡をした場合 仮にキャピタルロスの確定後に対象資産の価額が上がっていても 国外財産や非居住者について譲渡所得の対象とならない国内財産については 国外転出後のキャピタルゲインに課税をする仕組みは存在していません 国外転出時課税制度の創設前でも 上場株式等の売却が容易な資産であればキャピタルロスの確定が可能でしたが 非上場株式等の売却が容易な資産については 国外転出時課税制度を利用することでキャピタルロスの確定が可能となったことも併せると 結果として日本に納める税額が 国外転出時課税制度の創設前よりも少なくなる場合も生じ得ます - 6 -

なお 国外転出時課税制度において 納税猶予期間を 10 年に延長する納税猶予制度の適用を受ける被相続人等が死亡した場合及び贈与をした場合には 相続税及び贈与税の納税義務者の範囲の確定に当たり 当該被相続人等は当該相続の開始前及び当該贈与前 5 年以内のいずれかの時において日本国内に住所を有していた者とみなされます ( 本改正後の相続税法 1 条の 3 第 2 項 1 号 1 条の 4 第 2 項 1 号 ) そのため 10 年に延長された納税猶予制度の適用を受けつつ 被相続人等及び相続人等の双方が相続税や贈与税の課税制度がない国等に 5 年を超えて住所を有した上で 国外財産について相続又は贈与をしても 当該相続又は贈与については 相続税又は贈与税が課されることとなることには留意が必要です ( 相続税法 1 条の 3 第 2 号イ 1 条の 4 第 2 号イ 2 条 1 項 2 条の 2 第 1 項 ) (2) 国外転出時課税制度の課題 上記のとおり 国外転出時課税制度は 譲渡所得課税回避の防止等を図る上で有効な措置と考えられます しかしながら 他方で 昨今のビジネスのボーダーレス化により 日本の企業経営者にとってもグローバル ビジネスの展開は不可欠となっており 世界のどこの国に拠点を置くかという点は 企業のグローバル競争力の維持 発展に繋がる極めて重要な判断事項であるところ 同制度は 課税回避目的で海外に移住する者のみならず 純粋にビジネス上の理由で海外に移住する者にも同様に適用され得るという点で やや広範に過ぎ 場合によっては企業競争力に影響を及ぼすことも懸念されます 国外転出時課税制度における納税猶予制度の利用が一つの緩和策になるものと思われますが 今後運用を進めていく中で 納税猶予制度を利用する場合の担保提供の負担や手続負担等を含めて国外転出時課税制度に見直すべき点がないか注視していく必要があると考えられます 以上 きたむら 北村 みちと導人 西村あさひ法律事務所パートナー弁護士 公認会計士 m_kitamura@jurists.co.jp 2000 年弁護士登録 組織再編税制等の国内税務及び移転価格税制やタックス ヘイブン対策税制等の国際税務が絡むタックス アドバイス 事前照会対応 税務調査対応並びに多数の税務争訟案件を手掛ける しばた柴田 ひでのり 英典 西村あさひ法律事務所アソシエイト弁護士 hi_shibata@jurists.co.jp 2013 年弁護士登録 一般企業法務及び M&A 案件のほか 国内税務及び国際税務が絡むタックス アドバイス 事前照会対応 税務調査対応並びに税務争訟案件を手掛ける 当事務所は 旧興銀税務訴訟 東京都外形標準課税訴訟をはじめ 税務争訟 訴訟において多数の実績を上げ 現在も複数の移転価格案件 国際金融取引に関する大型税務訴訟等において クライアントに助言しています 本ニューズレターは 当事務所に所属し 国内 国際取引に関わる税務訴訟 争訟 税務アドバイスに携わる弁護士 税理士から構成されるビジネス タックス ロー研究会により定期的に発行される予定です 当事務所のビジネス タックス ロー研究会は 当事務所の弁護士 税理士が クライアントに対しより一層的確なサービスを提供できるよう 税務に関する最新の情報 ノウハウを共有 蓄積するとともに ビジネス ローに関する最新の情報を発信することを目的として活動しています なお 本ニューズレターのバックナンバーは http://www.jurists.co.jp/ja/topics/newsletter.html に掲載しておりますので 併せてご覧下さい ( 当事務所の連絡先 ) 東京都港区赤坂 1-12-32 アーク森ビル 107-6029 Tel: 03-5562-8500( 代 ) Fax: 03-5561-9711 E-mail: info@jurists.co.jp URL: http://www.jurists.co.jp/ja/ - 7 -