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内 容 目 次

Transcription:

レーザーカメラによる昼夜連続斜面監視システム ( 独 ) 土木研究所寒地土木研究所 高橋幸継 同 上 伊東佳彦 同 上 日下部祐基 北海道開発局帯広開発建設部帯広道路事務所 坂本多朗 1. はじめに北海道では急崖斜面を背後に擁する道路が多数分布しており 崩落事故も多数発生している 斜面災害が発生した場合やその可能性がある場合には 状況に応じて通行止めや片側通行 あるいは斜面の監視を行いながらの通行などの措置がとられる 斜面監視については 目視による観察が重要な要素であるが 夜間は観察が困難となるために通行止めとなり 地域社会の交通に不便を強いる場合がある 1)2) 本研究では 昼夜連続した岩盤斜面監視技術の構築として レーザーカメラによる監視システムを検討している レーザーカメラを用いた24 時間の斜面監視は この夜間の観察を可能にするものであり 同時に従来の計測 解析技術による定性的な把握に加え 通信画像によるリアルタイムな変動状況の把握 遠隔地点からの広域的な状況を把握できる可能性がある 本報告では レーザーカメラによる対象斜面の広域的な監視手法を検討するために現地観測実験を行ったので その結果について報告する 2. レーザーカメラの概要レーザーカメラとは サーチライトの代わりに近赤外域のレーザーを対象物に照射して 反射されたレーザー光をCCDカメラで撮影するものである 赤外線は 可視光線の赤色の外側にある目に見えない光線で 0.75~1000(μm) の波長領域を指すが そのうち近赤外線とは0.75~3.0(μm) の波長領域のものである 波長域分布図を図 -1に示す レーザーカメラ 図 -1 波長域分布図 Yukitsugu TAKAHASHI, Yoshihiko ITO, Yuki KUSAKABE 062-8602 北海道札幌市豊平区平岸 1 条 3 丁目 1 番 34 号 Tel. 011-841-1775 Fax. 011-842-9173 Taro SAKAMOTO 089-0536 北海道中川郡幕別町札内西町 73 番地 6 Tel. 0155-25-1250 Fax. 0155-25-1094

従来の夜間撮影可能な監視カメラ装置は 超高感度 CCDカメラ 赤外線カメラ 探照灯付カメラなどに大別されるが 次の問題が挙げられる 超高感度 CCDカメラは 海上や山間部などの光源の全く無い状況では明瞭な映像が得られず 赤外線カメラでは被写体の形は判別できるが 特徴認識 ( 文字の読取 細部の識別 ) ができない また 探照灯付カメラは 光源の出力が1,000W~6,000Wにも及び消費電力が大きくランニングコストが高いため常時監視には向かず 光源の到達距離も短いなどの問題点がある これに対してレーザーカメラは 日中は高精細のカラー CCDカメラとして働き 夜間は低電力 ( レーザー照射出力 1~3W 程度 ) の高指向性レーザー光を対象物に照射することで 全く光源のない夜間でも約 2km 先の 30cm 角文字を認識でき 水粒子にぶつかっても直進する特性から雨や霧の影響も最小限に抑える等の能力を持つ レーザーカメラによる撮影の特徴を以下に示す 1 夜間に光源がなくても 昼間と同じ映像が得られる ( 白黒映像 ) 2 レーザー照射が省電力であるため 低ランニングコストで撮影できる 3 赤外線カメラに比較して 天候に左右されない また 赤外線領域を用いたレーザーカメラでは レーザー光が目に見えないため 周囲への影響が少ない 実験に用いたレーザーカメラの計測機器の写真を写真 -1 仕様を表-1に示す 二連型カメラハウジング レーザー照射器 (1W) 高感度 CCD カメラ ( ズームレンズ付き ) プリセット電動旋回台 カメラ用脚台 写真 -1 計測機器設置状況写真

表 -1 レーザーカメラの仕様 構成 : レーザー照射器 高感度 CCD カメラ ズームレンズ レーザー照射器出力 1W 照射器サイズ 縦横 100mm 長さ 300mm 照射器重量 5kg レーザー到達距離 2~3km( 最大レーザー照射角度 θ max =10 ) 映像 昼 : カラー 夜 : 白黒 レーザー波長域 近赤外 照射方式 連続照射方式 ( レーザー照射横縦比 X:Y=3:2) レーザー照射器耐久時間 10,000 時間 夜間の文字認識 約 2km 先の 30cm 角の文字判読可能 録画 蓄積装置なし リアルタイム画像をカメラから提供 3. 現地観測実験レーザーカメラによる対象斜面の広域監視としては カメラシステムに付属するプリセット機能を利用する方法がある プリセット機能とは レーザーカメラの鉛直方向角度とカメラを載せた台座の旋回角度を自動制御して撮影位置を移動させ 最大 12 点の画像を得るものである 写真 -2に監視範囲分割のサンプルを示す 監視可能面積は 1 画像が取得できる斜面の異常を視認できる鮮明画像の面積で決定される レーザーカメラにより適正な明るさの画像を得るには レーザー光量を調整して撮影する必要がある 撮影対象物が受けるレーザー光量 ( 以下 受光パワー ) が多いと明るすぎて鮮明な画像が得られず 少ないと暗すぎてやはり良好な画像が得られない そこで 本実験は 斜面の異常を視認できる画像を得るための適正な受光パワーを求めることを目的とした 実験では 撮影対象とした実斜面より100m 離れた位置にレーザーカメラを設置して 図 -3に示す照射角度を一定にしてレーザー照射器の出力光量 ( 以下 照射パワー ) を任意に変化させ 斜面側で受光パワーを計測した 撮影対象斜面には写真 -3の視力検査で用いられるランドルト環板を置いて 画像状態を判定する目安とした 照射パワーを任意に変化させた時の各画像は DVDレコーダにデジタルデータとして記録した 写真 -2 監視範囲分割のサンプル 写真 -3 ランドルト環板

4. 実験結果と考察実験結果として図 -2に視認性を判定した画像を示す また これらの画像が得られたケースの照射パワーおよび受光パワーを表 -2に示す 以上の結果から適正な明るさで対象物を明瞭に視認するのに必要な対象物側のレーザー受光パワーは 以下のようになる 1.7μW > L j > 75nW ここに L j (W): 視認性が良いレーザー受光パワー ( 適正受光パワー L jopt =200nW) 明るすぎて文字板がハレーションにより 見えにくい状態の画像 ( 明るい ) 文字板が良く見える ( 適正 ) 状態の画像 文字板がギリギリ見える ( やや暗い ) 状態の画像 暗すぎて見えにくい ( 暗い ) 状態の画像 図 -2 視認性判定画像 表 -2 実験結果 距離項目レーザー光量照射パワー対象物受光パワー明るすぎて文字板がハレーションにより見えにくい明るい 0.0471W 1.7μW 文字板が良く見える適正 0.0123W 204nW 100m 文字板がギリギリ見えるやや暗い 0.0024W 75nW 暗すぎて見えにくい暗い 0.00047W 12nW

レーザーカメラを上から見た図 照射範囲 (Z) 水平照射幅 (X) レーザーカメラ 照射角度 (θ) 水平照射幅 (X) 垂直照射幅 (Y) レーザーカメラを横から見た図 (Z) レーザーカメラ 垂直照射幅 (Y) 図 -3 レーザーカメラのと照射範囲 図 -3にレーザーカメラのと照射範囲の図を示す 前述の結果を用いて 適正な条件となる照射パワー L s 水平照射幅 X 照射角 θと Zの関係を求める 照射パワーと受光パワーの関係は以下の式で表せる L s A A s j L j (1) ここに L s : 照射パワー (W) L j : 受光パワー (W) A s : 照射面積 (m 2 ) A j : 受光測定器ヘッド面積 (m 2 ) 上式に実験で用いたレーザーカメラの最大照射パワー L smax =1W 適正受光パワー L jopt =200nW 実験に用いた受光測定器ヘッド面積 A j =3.85 10-5 m 2 ( ヘッド直径 :7mm) を代入すると 適正受光パワーを確保できる最大照射面積 A smax =192m 2 が得られる また 実験で用いた照射角の横縦比は3:2であることから 水平照射幅と垂直照射幅 および照射面積 A s の関係は以下の式となる A s X Y 2 X 3 2 (2) ここに X: 水平照射幅 Y: 垂直照射幅 式に最大照射面積 A smax =192m 2 を用いて逆算すると 最大水平照射幅 X max =17.0mが求められる さらに水平照射幅と および照射角度には以下の関係がある X Z tan (3) ここに Z: θ: 照射角度 ( )

上式に最大水平照射幅 X max =17.0mと装置の最大照射角度 θ max =10 を用いて Zを求めると Z =96.4mとなる このは 最大照射角度を用いた限界を表し これ以下のでは照射パワーを小さくして適正受光パワー L jopt =200nWを保つように調整する必要がある また これ以上のになる場合には 照射角度を小さくして水平照射幅を最大値 X max =17.0mに保つように調整する これらの関係を示すと表 -3および図-4のようになる この図表からが決まると適正な照射角度と照射パワーが設定できる また レーザーカメラによる最大監視面積は プリセット機能により得られる最大画像数 S max =12 画像に1 画像の最大照射面積 A smax =192 m 2 を乗じた面積 A G =2,304m 2 となる 適正水平照射幅 適正照射角度 ( ) 適正照射パワー (W) 表 -3 と各照射設定値表 適正水平照射幅 適正照射角度 ( ) 適正照射パワー (W) 適正水平照射幅 適正照射角度 ( ) 適正照射パワー (W) 0 0.0 10.0 0.00 200 17.0 4.9 1.0 420 17.0 2.3 1.0 20 3.5 10.0 0.04 220 17.0 4.4 1.0 440 17.0 2.2 1.0 40 7.1 10.0 0.17 240 17.0 4.0 1.0 460 17.0 2.1 1.0 60 10.6 10.0 0.39 260 17.0 3.7 1.0 480 17.0 2.0 1.0 80 14.1 10.0 0.69 280 17.0 3.5 1.0 500 17.0 1.9 1.0 96.4 17.0 10.0 1.00 300 17.0 3.2 1.0 520 17.0 1.9 1.0 100 17.0 9.6 1.0 320 17.0 3.0 1.0 540 17.0 1.8 1.0 120 17.0 8.1 1.0 340 17.0 2.9 1.0 560 17.0 1.7 1.0 140 17.0 6.9 1.0 360 17.0 2.7 1.0 580 17.0 1.7 1.0 160 17.0 6.1 1.0 380 17.0 2.6 1.0 600 17.0 1.6 1.0 180 17.0 5.4 1.0 400 17.0 2.4 1.0 620 17.0 1.6 1.0 20.0 4.00 水平照射幅, 照射角度 ( ) 18.0 16.0 14.0 12.0 10.0 8.0 6.0 4.0 2.0 適正水平照射幅適正照射角度適正照射パワー 3.50 3.00 2.50 2.00 1.50 1.00 0.50 照射パワー (W) 0.0 0.00 0 100 200 300 400 500 600 図 -4 と各照射設定値の関係 5. まとめ以上をまとめると 次のとおりである 1) レーザーカメラによる対象斜面の広域監視として カメラシステムに付属するプリセット機能を利用する方法を検討した 2) 視認性が良いレーザー受光パワー L j (W) は 1.7μW > L j > 75nW( 適正受光パワー L jopt =200nW) である結果が得られた

3) レーザーカメラの最大照射パワー L smax =1Wとした場合のから適正な照射角度と照射パワーを設定できる関係図を作成した なお L smax を変更した場合の図表も同様に作成可能である 6. おわりにここでは レーザーカメラによる対象斜面の広域的な監視手法を検討して 監視可能な斜面範囲やに応じた適正なカメラの各種設定値を明らかにした 今後 これらのデータをもとにレーザーカメラによる斜面監視手法をマニュアル化してまとめたいと考えている 謝辞 : 本報告をまとめるに当たり 海洋総合開発 ( 株 ) 宮下雅人氏および ( 株 ) 雪研スノーイーターズ金野慎氏には 資料提供等にご協力いただいた ここに謝意を表します 参考文献 1) 坂本多朗 伊東佳彦 日下部祐基 宮下雅人 : レーザーカメラによる昼夜連続斜面監視に関する基礎的研究 寒地土木研究所月報 NO.665 pp.30~38 2008.10 2) 植松孝彦 宮下雅人 伊東佳彦 日下部祐基 伊藤憲章 : レーザーカメラを用いた斜面の高精度昼夜連続監視システムについて 日本応用地質学会北海道支部研究発表会 pp.33~36 2005.6