税金について詳しくない方でも 相続税と言えば お金持ちが払うもの というイメージを持っています なぜこんなイメージが定着しているのでしょうか? それは 相続税の基礎控除額が影響しています 財産の合計が基礎控除額以内なら相続税はかかりませんし 申告も必要ありません 今まで 基礎控除額は 5,000 万円 +1,000 万円 法定相続人の数 で計算していました 妻と子ども 2 人の家族なら 基礎控除額は 5,000 万円 +1,000 万円 3=8,000 万 円となります かなりの金額ですよね? このため相続税がかかる割合は相続発生件数の 4~5% 程度 に過ぎず 大半の家庭は相続税とは無縁で済んだのです しかし 平成 27 年以降の相続からこの基礎控除額が大幅に縮小されることとなりました 3,000 万円 +600 万円 法定相続人の数 先ほどと同じ条件ならば 3,000 万円 +600 万円 3=4,800 万円となり 今までの6 割しかありません この金額 特別な財産がなくてもそれなりの自宅を持ち 退職金をもらい コツコツと老後の蓄えをしていた家庭なら 全く関係ない と言い切れる額ではないでしょう 相続税の基礎控除は相続人ひとりひとりにあるものではなく 亡くなった人の財産全体に対するものなので この場合亡くなった人の財産の合計が 4,800 万円を超えると相続税の申告が必要となります 1
みなさんからは 私が預金を 円もらったら相続税はかかるの? だいたいいくらになるの? という聞かれ方をします 実はこの情報だけでは相続税の計算はできません 相続税はちょっと変わったやり方で計算します かなり難解なので流れだけつかみましょう 亡くなった人の財産に値段をつけ その合計額から債務や葬式費用を引いて正味の財産価格を出す ここで注意してほしいのは相続税の計算は亡くなった人の財産の 合計 を基礎に行うということです 全体で考えてから個々に割り振るといったイメージを持って下さい STEP1で出した価格から基礎控除額を引き 残りの部分を法定相続分で配分したものとみなしてその配分額に応じた税率をかけて税額を出し その税額を合計してトータルの相続税額を出す 非常に分かりにくいところです 実際の取得分ではなく 法定相続分に税率をかけるところがポイントです STEP2で出したトータルの税額を実際の取得割合に応じて配分して各人の税額を出し 各種税額控除を加味して最終的な納付税額を出す このように相続税は ひとりひとりが単独で ( 各人のもらった財産の金額 - 基礎控除額 ) 税率といった計算をして出すものではありません ちょっと前に相続のあった隣の家のAさんは 2,000 万円の預金をもらって税額ゼロ 同じ金額もらった私はなぜか税額 500 万円!? なんてことが普通に起こるのが相続税の不思議なところです 2
意外と大変な作業です亡くなった人にどんな財産があるのか 残された人は意外と知らないものです 遺産分割 相続税の計算はこれを基礎に行われますので 漏れがあると色んなトラブルが生じます 普段からコミュニケーションを取っておくことを意識しましょう 借金も財産? 原則として相続します相続する財産は預貯金等のプラスの財産ばかりではありません 亡くなった人に借金などのマイナスの財産があればそれも相続しなければなりません プラスのものだけもらう というわけにはいかないのです 場合によっては相続放棄の選択をでは マイナスの財産がプラスの財産より多いときはどうしましょう? こんな場合には 相続しない という選択も出来ます もちろんこの選択をすればプラスの財産も一切受け取れません これを 相続放棄 といい相続開始後 3か月以内に家庭裁判所へ一定の手続きを行う必要があります そのため亡くなった人の財産の把握は遅くとも3か月以内に済ませておく必要があります memo 連帯保証にご注意亡くなった人が連帯保証人になっていた場合 その連帯保証人としての地位も相続されます つまり相続人が連帯保証人となってしまうのです また 連帯保証は遺言や合意と関係なく法定相続分で相続されます そのため財産を一切もらわなかった人でも請求があれば返済しなければなりません さらに 相続時点では返済義務が実際に生じているわけではないので 相続税の計算をするときマイナスできません このように連帯保証は残された人の生活をめちゃくちゃにしかねません しかも亡くなった人が連帯保証人になっているかどうかは非常に把握しづらいので 気付いた時には相続放棄が不可能な状況だったという場合が多々あります 連帯保証の有無は生前にはっきりと話し合っておくべきです memo 相続放棄の場合の生命保険金相続放棄をしてしまうと生命保険金も受け取れなくなるような気がします でも これは大きな誤解です 受取人 に特定の人が指定されている場合または単に 相続人 となっている場合 生命保険金は受取人固有の財産となり 相続放棄しても受け取れるのです ただし 受取人が 亡くなった人自身 になっているときは注意! 相続財産となってしまうので放棄した場合は受け取れません 事前に契約内容を確認してみましょう なお どの場合も 税法上は みなし相続財産 として相続税の対象になります 3
相続税の計算をするには 財産に値段をつけなくてはなりません この作業を 財産評価 といいます 評価は原則として亡くなった日の時価で行いますが 時価と言われても 預金や上場株式なら簡単に分かりますが不動産などはっきりしないものもありますよね 当然ですが 自分だったらこれくらいで売買するかなぁ では決められません 値段をつける人によって不公平にならないように 統一したルールが決められています そして そのルールに従ってつけた値段を 相続税評価額 と言います ここでは土地の相続税評価額の出し方の基礎の基礎をご紹介しておきます 1. 財産評価の花形! 土地の値段は? 相続税が気になる方なら必ず土地をお持ちですよね 財産評価 = 土地と言えるくらい その値段つけのルールは高度で広範なものです そのルールに従うと 通常の売買価格 > 相続税評価額 > 固定資産税評価額になると言われます カネで持つより不動産 が相続税の節税の王道と言われるのはこのためです 1 億円の現金で土地を買えば一般に7 8 千万円に評価を下げることができます なお 土地の評価と言えば固定資産税評価額と思い 固定資産税の納付書の明細を見て 良かった 基礎控除の範囲内 と安心している方も多いようですが 通常 相続税評価額のほうが高いので その点は要注意です 2. 土地評価の2つの方法土地の評価方法には路線価方式と倍率方式があります 路線価方式路線価が定められている地域はこの方法で評価します 路線価とは国税庁がそれぞれの道路につけた値段です これは国税庁のホームページで調べることができます この値段に面積を掛けてその土地の値段を出します 路線価は毎年変わり 公示価格の8 割程度が目安と言われています 倍率方式路線価が定められていない地域はこの方法で評価します その土地の固定資産税評価額に決められた倍率を掛けて値段を出します 倍率は地域により異なり こちらも国税庁のホームページで調べることができます 3. さまざまな減額のルール上記の方法で出した値段は 土地の形状等が変わっていて使い勝手が悪かったり 人に貸していたりするとさらに安くなります 土地の減額のルールはとにかくたくさんあります それだけ税金を安くできる余地がたくさんあるということなので 土地持ちの方はきちんと税理士に相談することをおススメします 4
相続税の計算上 亡くなった人の財産には 亡くなった人の本来の財産の他に次のものが含まれます 1. みなし相続財産 死亡保険金 死亡退職金 2. 相続開始前 3 年以内にした贈与財産 相続時精算課税を利用して贈与した財産 ( 贈与編参照 ) 相続税の計算にはたくさんのお得な決まりがあります ここでは最も効果が大きい2つの決まりを挙げておきます 1. 配偶者の税額軽減 配偶者が財産を取得する場合は法定相続分か1 億 6 千万円のどちらか大きい金額まで無税になります ただし配偶者へ財産を持って行きすぎると二次相続の時に大変になりますので二次相続まで含めて検討するが重要です 2. 小規模宅地等の特例 自宅の土地等を一定の要件を満たす人が取得した場合 その土地 ( 面積上限あり ) の価格を80%( 土地の種類により50%) 減額できます 3. 申告しないとダメ! 1や2が使える場合 結果として無税となったり税額がうんと安くすんだりしますが 申告をしてこの決まりを使いますよ という意思表示をしなくてはなりません つまり 税額がゼロでも申告は必ずしなければならない のです!! また これらの決まりは遺産分割が完了していないと使えませんので要注意です 相続税といえば節税のことばかりに目が行きますが 実は最も大事なのは納税資金の確保です 財産の大半を不動産など現金化しにくいものが占めてはいませんか? 財産はあるから税金がかかる でも払うだけの現金がない! ということは実際によく起こります 相続税は 申告期限 ( 亡くなった日の翌日から10か月 ) までに現金で一括納付が大原則です 納税に耐えうるだけの現金の準備はできますか? 相続税の対策では 節税と納税資金の確保をバランス良く進めることが大切です 5
ご家族に財産をあげるには 相続を待つだけでなく 贈与 という方法もあります この贈与 上手く使えば相続税対策にも抜群に効果を発揮します 子どもや孫などに生前に移転することで相続時の財産が減っていれば 必然的に相続税も減るからです とはいえ 気になるのが 贈与税 贈与税は日本で一番高い税金と言われるくらい負担が大きいものです では 贈与をどのように利用すれば良いのでしょうか? 贈与税の基礎控除額は 110 万円 です 相続税の基礎控除額に比べればいかに小さいかお分かりです ね 最高税率は同じなのに贈与税のほうが相続税より負担が重いと言われる理由がここにあります た だし 贈与と相続のしくみの違いを利用すれば そんな贈与で立派に節税できちゃうのです 基礎控除は 毎年 利用できる 孫や嫁など法定相続人以外の誰にでも利用できる この 2 点が相続とは異なる贈与の特徴 少しずつ 長い年月をかけて たくさんの人に渡す! これ が贈与による節税対策の基本になります 6
贈与税の計算にもお得な決まりがあります これらが使える場合 さらに大きな節税効果が期待できます 1. 贈与税の配偶者控除 婚姻期間が 20 年以上の配偶者への居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭の贈与は 2,000 万円まで贈与税がかかりません 2. 住宅取得資金贈与の非課税特例 予定 平成 27 年 3 月に国会の審議を経て正式決定一定の要件を満たす人が父母や祖父母などの直系尊属から住宅を取得するための資金の贈与を受けた場合 平成 27 年中の贈与なら 1,000 万円まで非課税となります ( 良質な住宅に該当する場合は 1,500 万円まで非課税 ) また非課税枠は変わるもののこの制度は平成 31 年 6 月 30 日まで適用が可能です 3. 注意事項これらを使う場合 税額がゼロでも申告が必要 です また 実際の要件はもっと複雑なので 必ず事前に専門家に相談してください 本来 贈与は基礎控除が小さく税率も高いため 適用ミスは取り返しのつかないことになりかねません なお不動産の贈与は不動産取得税や登録免許税も高額になりますので総合的な判断が重要です 贈与税の非課税制度には 教育資金贈与の非課税特例 結婚 子育て資金贈与の非課税特例 ( 新設予定 ) がありますが 個人的にお勧めしない制度ですので ここでは紹介いたしません 7
1. 生前贈与加算相続開始前 3 年以内にした贈与をなかったものとするルールです その間の贈与は相続財産に加算され その贈与で払った税額がある場合は相続税の額から引きます 基礎控除額の範囲内で贈与税がかからなかったものも加算の対象となりますので注意です ただし 先に挙げた2つの特例に相当する金額は生前贈与加算の対象とはなりません なお 孫や嫁など相続人以外の人への贈与には生前贈与加算のルールは適用されません 2. 贈与と認めてもらえない?? 色々と注意点はあるものの やはり節税に効果アリの贈与 そのため税務署側は贈与の事実そのものを認めない場合があります 1 あげる もらう の合意が必要 2 客観的証拠 ( お互いの口座を通す 契約書をつくる 申告をする ) を残す 3 管理 運用はもらった人がする贈与の際 この3つは押さえておきたいところ 物事をまだ良く理解できない年頃の子どもに 現金で 110 万円贈与して 基礎控除の範囲内だから申告せず その後この現金を入金した通帳を親が預かる こんな場合は贈与があったと認められない可能性が高いので注意です 生前贈与は税務調査でのポイントとなりやすいため 慎重に進めていきたいですね memo 相続時精算課税制度贈与には年間 110 万円の基礎控除がある 暦年贈与 の他に 相続時精算課税 という方法もあります 簡単にいえば 2,500 万円までの贈与はいったん無税としますよ ただし相続税の計算の際 全て加算して精算してくださいね というもの 2,500 万円まで無税 が独り歩きして 制度の中身を良く知らないまま利用しているケースが見受けられますが メリットもあればデメリットもあり 最終的に吉と出るか凶と出るか 判断は極めて難しい制度です また要件も複雑であるため 自己判断や専門家以外のアドバイスによる安易な利用は絶対に避けてください 無断複製 転載禁止村田鮎子税理士事務所村田鮎子 8