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17 鉄道 運輸機構だより No.50 2016 Summer 本船のあらましまず フェリーしまんと の概要を解説しておこう 左上の 主要目 をごらんいただきたい 全長190mもあるので いわば40 階建てほどのビルを横倒しにしたくらいの大きさだ 総トン数も1万2600トン余りで 内航業界で最も一般的な貨物船が499総トン(注1)だから 内航船としては相当大きい船だ (注1)総トン数は重さの単位ではなく 船の容積を表す数値で1トン=100立方フィート 運航は共有船主であるオーシャントランス株式会社で 東京 徳島 北九州の間を毎日上下各1便運航している 東京 北九州間は足掛け2日かかるので 全部で4隻のフェリーが必要となるわけだが これまで使用してきた船の老朽化により代替建造することになったのだ フェリーしまんと は今回建造される同型船4隻の2隻目で 1隻目の フェリーびざん は一足前の平成28 年1月に就航している 4隻のフェリーは尾道造船株式会社が主契約社となって 同社傘下の佐伯重工業株式会社で建造されており 4隻のうち最初の2隻が鉄道 運輸機構との共有建造である なお4隻は母港が徳島であることにちなみ それぞれ四国4県にちなんで命名され あとの2隻は フェリーどうご フェリーりつりん 水槽試験の模様 模型船を曳引して船体抵抗を測る 写真 ( 上 ) は船首部分 写真 ( 下 ) は船尾部分と命名される 基本計画最近の貨物量の増大や貨物寸法の変化に対応して 代替される既存船に比べて載貨重量(積載可能重量)を4000から7000トンと大幅に増やし それに伴って車両搭載能力もアップさせることを目標に計画された 主機関には低速(注2)2サイクルのディーゼル機関を採用したが この形式は燃費率が良い反面 大きくて背が高いため 車両甲板との取り合いの関係上フェリーでは採用しづらかった 本船のサイズだからこそ採用できたといえる また フェリーに多い主機関2基/プロペラ2基ではなく 主機関1基/プロペラ1基の船型を採用し 省エネ性能を追及している (注2)1分当たり回転数が100 300の機関を低速と呼ぶ 水槽試験省エネ船型の性能を確認するため 水槽試験が実施された 計画 フェリーしまんと の主要目 全長 :190.97 m 幅 :27 m 高さ : 約 35 m 船底からマスト頂上まで 深さ :20.65 m 主船体の船底からの高さ 喫水 :7.117 m 満載時の水面から船底までの深さ 総トン数 :12,636 トン船の総容積 (1 トン =100 立方フィート ) 載貨重量 :7,187 トン最大積載重量 軽荷重量 :10,221 トン荷物ゼロの時の船の重さ 主機関最大出力 :15,705kW = 21,360 馬力 航海速力 :22.4 ノット = 41.5km /h 試運転最大速力 :25.32 ノット = 46.9km / h 大型フェリーができるまで

鉄道 運輸機構だより No.50 2016 Summer 18 建造契約から詳細設計へ建造契約が締結されるのは基本的な設計を済ませた段階であり その後に各部分の詳細な設計が始まる 本船の場合 基本設計までは尾道造船が 詳細設計は佐伯重工業が担当した 船台建造とドック建造船の建造は大別して 海に向かって傾斜した 船台 上で作業する船台建造と 陸を掘りぬいて作った ドック の中で行うドック建造がある 例えば戦艦大和は呉の海軍工廠でドック建造 戦艦武蔵は三菱重工長崎造船所の船台で建造された 佐伯重工業は船台建造であるが この建造法の特徴はドックよりも設備投資が少なくて済む一方 船台の傾斜を常に考慮しながら建造しなければならないという点である ブロック建造とは昔は 船台上で船底の骨組みから作り始め 骨組みを上に伸ばして外板を張っていくやり方が取られていた 今でも木造ヨットなどはそのやり方で造られるが これではすべての作業が船台で行われるので 船台を占有する時間が長く効率が悪い そこで現代ではブロック建造と呼ばれるやり方が取られている これは 船体を複数のブロックに分け 船台とは別の工場で作っておき 順番に船台に持って行って組み立てる方法である 船台上佐伯重工業の船台で建造中の フェリーしまんと ブロックの継ぎ目がよくわかる工場建屋内で平行して組み立て中のブロック群組み立て中の船首部分のブロック ブロックは作業の都合上 搭載まで上下逆さまに置かれるのが普通だ船台に搭載中のブロック 船体中央部付近の船底近くの部分であるブロック建造

19 鉄道 運輸機構だより No.50 2016 Summer 車両甲板ブロックの搭載 ブロックの前後を 2 台のクレーンで吊って慎重に定位置に納めていくでは接続作業だけで済むし ブロックはどこで作ってもよいので一度に複数が作れるため 船台の占有時間が短くなるだけでなく 全体としても建造効率が上がる ブロックの大きさは船台に搭載する時のクレーンの能力で決まり 現代の超大型船建造では数千トンというブロックも当たり前になっている 佐伯重工業の場合 200トン程度のブロックで搭載となる 加工 小組 中組 大組 総組造船所に納入された素材の鋼板や型鋼(注3)は NC加工機で決められた形に切断される 船の場合 船体が三次元曲面なので 同じ形の部材はあまり多くない プレスやガス加熱で必要な形状に曲げるのもこの段階だ (注3)鉄の船とよく言われるが 厳密には鉄ではなく鋼(ハガネ)が使われている 鉄と鋼はどちらも鉄元素を主体とするが 炭素の含有量が違う別の性質の金属である これらの部材を集めて まず小さな部品を作っていくのが小こ組ぐみ作業 この部品を組み立てて 部分的な骨組みや小骨の付いた大きな板などを作っていくのが中ちゅうぐみ組作業だ 中組みされた大物部品を組み立ててブロックの形にする作業を大おおぐみ組と呼ぶ これでブロックとしては完成だが さらに複数のブロックをつないで搭載する場合があり この連結作業を総そうぐみ組と呼ぶ 船台搭載(タンデム搭載)完成したブロックは船台に搭載されるが 後々の艤ぎ装そう(機器の取り付け 配管や配線など)工事に一番時間がかかる機関室部分から始めるのが普通だ 佐伯重工業では船台を有効活用して年間建造隻数を増やす目的で 前の船切断された部材を組み立てて構造部品を作る小組作業中組作業中の車両甲板ブロックの一部 小組みされた部品を集めて大きな部品を作っていく中組みされた大物部品でブロックを組み立てる 大組段階でやっとブロックの形が見えてくる フェリーしまんと の前方に小さく見えるのが タンデム搭載された 3 番船 フェリーどうご の機関室付近のブロック 大型フェリーができるまで

鉄道 運輸機構だより No.50 2016 Summer 20 が進水する前から次の船の機関室ブロックの搭載を始める これを 船台上で2隻の船が前後(タンデム状)に並ぶので タンデム建造(またはタンデム搭載)と呼ぶ フェリーしまんと では 搭載開始から進水まで約6カ月かかった 先行艤装昔は船体ができ上がってから機器の取り付け 配管や配線を行うのが普通だったが ブロック建造ではブロックの段階から艤装や塗装の作業を始める これを先行艤装と呼ぶ 進水とは船体を初めて水に浮かべる作業を 進水 と呼び 船台建造では船台から滑らせて水に浮かべる大掛かりな作業になる 巨大な重量物を一気に海に滑らせる進水は華やかなので ここで進水式が行われる 一方 ドック建造では 進水は単にドックに水を入れるだけなので 派手な式は行わないのが普通だ 進水準備船台建造では 進水日の1カ月前くらいから進水準備作業が始まる 進水準備は要するに進水台という一種の滑り台を設置し 建造中に船体を支えていた盤木から進水台に船体の重量を移す作業だ パイプや電路が先行艤装された船側部分のブロック横揺れを軽減するフィンスタビライザ 水中に出した翼の角度を制御して揚力で横揺れを抑える進水間近の船尾付近 ハイ スキュー プロペラを採用しており プロペラ翼がねじれて見える華やかな進水式 重さ 1 万トン近くある船体が 船台から一気に滑り降りて水に浮かぶ本船のプロペラは直径 5.8 m あり 翼のひねりを変えて推進力を制御する可変ピッチプロペラである進水準備が整った進水台の船首付近 進水中に船体が傾かないよう 船首と船尾には仮支構 ( ポペット ) が設けられる進水

21 鉄道 運輸機構だより No.50 2016 Summer 進水式平成27 年11 月16 日 フェリーしまんと は進水の日を迎えた 地元の小学生なども招待された華やかな式が行われたが 重量1万トンに近い巨大な構造物をトラブルなく水に浮かべるのは実は大変な作業である 実際 動かなかった船 式の前に勝手に進水してしまった船 浮かんだはよいが船底に無理がかかって損傷した船 進水後すぐに転覆した船 勢い余って対岸に衝突した船など 事故の例は多い だからこそ無事に浮かばせることができれば皆でお祝いするわけだ 事故を防ぐために事前の綿密な計算と 華やかな式典の裏側での経験に裏付けされた地道な進水作業が重要となる 進水したばかりの船は船体だけの大きな入れ物に過ぎないので 機器の取り付けや配線 配管を施す 艤装 という工程を終えて初めて船として完全に機能するようになる 最近は先に書いたように先行艤装を施すので 艤装中 ( 内装 ) の客室部分 床や壁を張るための根太を取り付けているところ推進軸付近 狭い箇所の艤装作業中は このように足の踏み場のない状況になる竣工した船内 ( フォワードロビー ) 竣工した船内 ( オーシャンプラザ ) かつてよりは艤装工事の量は減ったが それでも重要性は変わらない 艤装専用の岸壁に係留して作業するが 本船クラスでは進水後から試運転まで3 4カ月かかる 艤装が終わると いよいよ船が運航できるようになるので 性能を確認する海上試運転が行われる 試運転は検査官立会いで行う公試運転と それ以外の社内試運転とがあり 後者は造船所のリハーサルや船主の使い勝手を確認するために行われる また 上架して船底の最終仕上げ塗装を行うファイナルドックや 完成状態の船の重量重心の計測(重査)も 公試運転の前に行われるのが普通だ 試運転が終わると 国籍証書や検査証書などの書類の発行 船舶登記など各種の手続きを行って いよいよ竣工 引き渡しとなる 船主に引き渡された船は 造船所から出帆した後 船員の慣熟訓練や港でのテストを経て 実際の営業運航開始となる フェリーしまんと は5月16 日に造船所から引き渡され 5月21 日の北九州発便から営業航海を始めた 艤装海上試運転引き渡し海上試運転で 錨の上げ下げを確認する投揚錨試験営業航海開始に先立って 北九州港への初入港セレモニーが操舵室で行われた 大型フェリーができるまで