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(3) 消費支出は実質 5.3% の増加消費支出は1か月平均 3 万 1,276 円で前年に比べ名目 6.7% の増加 実質 5.3% の増加となった ( 統計表第 1 表 ) 最近の動きを実質でみると 平成 2 年は 16.2% の増加となった 25 年は 7.% の減少 26 年は 3.7% の

29 歳以下 3~39 歳 4~49 歳 5~59 歳 6~69 歳 7 歳以上 2 万円未満 2 万円以 22 年度 23 年度 24 年度 25 年度 26 年度 27 年度 28 年度 29 年度 21 年度 211 年度 212 年度 213 年度 214 年度 215 年度 216 年度

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マクロ経済学 [2.1] 第 2 章消費と貯蓄はどのように決まるか 中村学園大学吉川卓也 1 目次 1. ケインズ型の消費関数 1. 可処分所得と消費 2. ケインズ型の消費関数の図解 3. 貯蓄関数 2. ケインズ型の消費関数の説明力 1. 2 つのタイプのデータ 2. クロスセクション データの結果 3. 長期の時系列データの結果 4. 短期の時系列データの結果 5. 矛盾する推計結果 2 目次 目次 6. 日本の貯蓄率と国際比較 3. ライフサイクル仮説 1. 生涯所得と消費 2. ライフサイクル仮説の図解 3. 統計的事実の説明 4. 恒常所得仮説 1. 恒常所得と変動所得 2. 統計的事実の説明 5. 流動性制約と消費 1. 借入の制約 2. 制約の消費への影響 3 1. 貯蓄率の推移 2. 国民貯蓄率の国際比較 3. 家計貯蓄率の国際比較 4. ミクロとマクロの統計調査 7. 日本の貯蓄率はなぜ高かったか? 1. 高かった家計貯蓄率 2. 高成長と貯蓄率 3. 高い高齢者の貯蓄率 4. 予備的貯蓄動機と意図しない遺産 5. 遺産動機と意図された遺産 8. 日本の家計貯蓄率はなぜ下落しているのか? 1. 人口高齢化 2. 社会保障制度の整備 3. 制度的要因 4. 景気要因 4 1. ケインズ型の消費関数 1.1 可処分所得と消費 伝統的な消費関数の理論 1. 消費関数とは マクロ経済全体の消費量がどのように決定されるかを数式で示したものである 2. 消費関数の中で代表的なものはケインズ型消費関数で 消費は現在の所得水準に依存して決まる ということを次のような数式で表したものである 消費 = 基礎消費 + 限界消費性向 可処分所得 3. 基礎消費とは所得ゼロでも支出される消費 限界消費性向とは所得の増加分のうち消費に支出される部分 可処分所得とは現在の所得から所得税を差し引いた税引後所得である 5 6

1.2 ケインズ型の消費関数の図解 図 2-1 ケインズ型の消費関数 1. ケインズ型の消費関数 Cは y 切片が基礎消費 A 傾きが限界消費性向 cの直線になる 2. A>0 0<c<1と考えられるので ケインズ型の消費関数は y 切片が正で 傾きが45 度より緩やかな ( 水平な ) 右上がりの直線である ( 図 2-1) 消費 C C 1 45 度線 C 2 B C = A + c Y d 3. 平均消費性向とは 可処分所得のうち消費に支出する割合のことである 4. ケインズ型の消費関数では 平均消費性向は可処分所得の増加するにつれて減少する 7 A O c C 2 点での平均消費性向 C 1 点での平均消費性向 可処分所得 Y d 8 練習問題 2.1 次の一次関数のグラフを書きなさい (1)y=x x 0 1 2 3 4 y y/x (2)y=0.5x+1 練習問題 2.2 消費関数 (1) 家賃 食費等が月 8 万円 限界消費性向が0.8 の学生の消費関数を求めなさい 所得税率は 10% とする (2) アルバイト所得が月 10 万円から10 万円ずつ増えたとき 消費はそれぞれいくらになるか また 平均消費性向はどのように変化するか x 0 1 2 3 4 y y/x 9 12 確認問題 ( ケインズ型消費関数 ) ケインズ型消費関数について 適切でない説明はどれか 1. 現在の所得がまったくない家計は 生活保護を受けていない場合でも 現在の消費水準はプラスとなる 2. 現在の可処分所得が 2 倍 3 倍と増加するにつれて 現在の消費も元の水準の 2 倍 3 倍と同じ比率で増加していく 3. 将来予想されている所得税の引き上げは 将来の可処分所得は減少させるが 現在の可処分所得には関係がないため 現在の消費に影響しない 4. 所得が 1 単位増加したときに消費がどれだけ増加するかを示す限界消費性向は 現在の消費水準や可処分所得に関わりなく一定である 1.3 貯蓄関数 1. 貯蓄とは 可処分所得のうち消費に支出されずに残った部分のことである 2. 消費は可処分所得に応じて変化するので 残った部分の貯蓄も可処分所得に応じて変化することになる 3. 限界貯蓄性向とは 所得の増加分のうち貯蓄にまわる割合のことをいう 16

2. ケインズ型の消費関数の説明力 消費関数をどのように考えるか? 2.1 2 つのタイプのデータ 1. ケインズ型の消費関数がもつ 可処分所得が増加すると平均消費性向が減少する という特徴は 実際のデータから統計的に確かめられるだろうか 2. クロスセクション データとは ある特定の時点での異なる人々 場所 地域をみたデータのこと 3. 時系列データとは 異なる時点のデータを時間の順にみたデータのこと 17 18 2.2 クロスセクション データの結果 1. 総務省 家計調査 による年間収入階級別データから得られる可処分所得と消費支出のクロスセクション データによれば 収入が高い ( 可処分所得が多い ) 階級ほど平均消費性向が低くなっている ( 図 2-2) 2. したがって 日本のクロスセクション データでは ケインズ型の消費関数の性質が良くあてはまっている 2.3 長期の時系列データの結果 1. 内閣府 国民経済計算 による時系列データから得られる約 40 年間にわたる長期の消費関数は 原点を通る直線となる ( 図 2-3) 2. したがって 平均貯蓄性向は可処分所得が増加しても変わらず ケインズ型の消費関数はあてはまらない 19 20 2.4 短期の時系列データの結果 1. 同じ国民経済計算から得られる短期の消費関数は 正のy 切片をもつ右上がりの直線となる ( 図 2-3) 2. したがって 可処分所得が増加するにしたがって平均消費性向は減少し ケインズ型の消費関数があてはまる 3. 短期の消費関数の傾きは 長期の消費関数の傾きよりも小さくなっている 2.5 矛盾する推計結果 1. ケインズ型の消費関数に関して 短期と長期では矛盾した結果が得られる 2. クズネッツは米国の消費関数について 同様の結果を明らかにした 3. この矛盾を合理的に説明する必要がある 21 22

3. ライフサイクル仮説 ライフサイクルとは 個人の一生涯にわたる変化の過程のことである 23 3.1 生涯所得と消費 1. 限界効用とは 追加的な消費から得られる満足度のことである 2. 限界効用は 消費量が小さいときは大きいが 消費量が大きいときは小さい 3. したがって 消費量は一定の水準に保った方がよい 4. 可処分所得が多い時期は ( 消費量を増やさずに ) 貯蓄をし 所得が少ないときにその貯蓄を取り崩して消費にまわすことで 消費量を一定に保つことが望ましい 24 3.1 生涯所得と消費 4. ライフサイクル仮説とは 消費は 一生の間に稼ぐことのできる可処分所得総額 ( 生涯所得 ) によって決定される というものである 5. 各年齢での消費量は 生涯所得を寿命で割った平均生涯所得に等しくなると考える 6. ライフサイクル仮説は モディリアーニ ブランバーグ 安藤によって提案された 3.1 ライフサイクル仮説の図解 1. A 歳で就職し B 歳で退職 D 歳まで生きる個人のライフサイクルを考える 2. 若年期 (0 歳からA 歳まで ) と退職後 (B 歳からD 歳まで ) は所得ゼロ 壮年期 (A 歳からB 歳まで ) にEF 線で表される所得を得る 3. 生涯所得は 台形 AEFBで表される 4. 消費は 生涯 (0 歳からD 歳まで ) を通じて 毎年常にOCだけおこなう 25 26 3.1 ライフサイクル仮説の図解 5. 1 年間の消費額 OCは その年の所得額ではなく生涯所得で決まり 生涯所得をD 年で割った金額である 6. 若年期は 長方形 OAGCに相当する額を借金し 全額消費する 7. 壮年期は 台形 AEFBに相当する額の所得があり 長方形 ABHGに相当する額を消費し 残った台形 EFHGに相当する額を若年期の借金の返済と老後に備えて貯蓄にまわす 8. 退職後は 貯蓄を取り崩し長方形 BDC Hに相当する額の消費をおこなう 27 図 2-4 ライフサイクル仮説に基づく消費パターン 所得 消費量 C O 借金 E G 借金の返済と貯蓄 A B D 若年期壮年期退職後 F H C 貯蓄の食いつぶし 年齢 ( 歳 ) 28

3.4 統計的事実の説明 1. ライフサイクル仮説が成立するなら 経済全体の平均的な消費額は 平均的な個人の生涯所得に等しい 2. 生涯所得は 短期的に所得が変動してもほとんど変化しないと考えられる 3. したがって 平均的な消費額は変わらない 4. 分子の消費額は変わらないので 短期的に分母の所得が増えれば 平均消費性向は減少する 5. したがって ライフサイクル仮説に基づく消費は 短期的にはケインズ型の消費関数になる 29 3.4 統計的事実の説明 6. 一方 長期的にみれば 長期間にわたる所得の変化により 生涯所得も変化する 7. したがって 平均的な消費額は 所得の変化と同じように変化すると考えられる 8. その場合 分子分母が同じように変化すれば 平均消費性向は変わらない 9. つまり 長期的な消費関数は 原点を通る直線となる 10. 以上のように ライフサイクル仮説は 短期の消費関数も 長期の消費関数も説明できる 30 1. 恒常所得と変動所得 4 恒常所得仮説 1. 恒常所得とは 現在から将来までに稼ぐことのできる可処分所得の平均額である ( 所得の平準化 ) 2. フリードマンによって提唱された恒常所得仮説とは 消費支出は恒常所得に依存して決まるという仮説である 3. 恒常所得は 所得を平均したものだから短期的には同じ額で変わらない 4. 変動所得とは 一時的要因によって得られる所得である 31 4 恒常所得仮説 1. 恒常所得と変動所得 ( 続き ) 5. 毎期得られる可処分所得を Y d 恒常所得を Y P 変動所得を Y T とすると (1) 式の関係が成り立つ 6. 恒常所得仮説では 消費は恒常所得のみに依存すると考えるので 消費関数は (2) 式のようになる 7. すなわち 消費は恒常所得に応じて支出され 変動所得は貯蓄にまわされると考えることになる (1) Y d = Y P (2) C = ky + Y P T 32 2. 統計的事実の説明 4 恒常所得仮説 1. 長期的には 変動所得はプラスマイナスゼロと考えられるので 長期的には可処分所得 Y d は恒常所得 Y P に等しい 2. したがって 長期の消費関数はC=k Y P であり これは原点を通る直線である 3. 短期的には 恒常所得は変化せず 変動所得は大きく変化すると考えられる 4. したがって 短期の消費関数は C=k Y d =k( Y P + Y T )= k Y P +ky T となり これはy 切片をもつ傾きkの直線となる 33 5 流動性制約と消費 1. 借入の制約 借入制約とは 必要なお金をいつでも自由に借り入れることができるわけではないということである ライフサイクル仮説や恒常所得仮説は 現在の消費は現在の可処分所得によって決まる と考えるケインズ型消費関数が正しくない場合があることを示すものである しかし 現実の消費の動きをみると 現実の消費は現在の可処分所得と独立に決定されるとは限 34 らない

その最大の理由は 現実には流動性制約 ( 借入制約 ) があるからである 借入制約があると 将来 大きな収入が得られることが見込まれていても 最適な消費行動をとるために現在の所得が少ない個人が借金をして所得以上の最適消費をできない 将来のことは不確実なので 資金の貸し手にとっては 将来貸したお金が戻ってこないリスクが存在する したがって 資金を貸せない場合がある 2. 制約の消費への影響 流動性制約とは 将来的に所得が見込まれている個人が借入を制約されている状況のことである とくに所得の低い階層において 流動性制約は消費パターンを大きく制限し 消費が現在の可処分所得によって決定されるというケインズ型消費関数のあてはまる状況がしばしば生じている 35 36 林文夫の研究によれば アメリカの約 20% の人が流動性制約に直面し その消費は現在の可処分所得によって決定されている 日本の家計調査のデータからは 老年世代よりも若い世代が流動性制約に直面する傾向にあり その結果 ライフサイクル仮説が考える消費水準より 現実の消費は約 5.5% 少なくなっていることが明らかになっている 練習問題 2.3 消費関数について空欄を埋めなさい 1. 短期の (1) 型消費関数では 限界消費性向は一定であるが 平均消費性向は所得の増加にしたがって (2) する このことを絶対所得仮説という 2. (3) は アメリカの時系列データを用いて 平均消費性向は長期的にほぼ一定 (=0.9) であることを明らかにした 3. 1と2で示したように 平均消費性向は 短期においては所得の増加にしたがって (4) し 長期においてはほぼ (5) である 1940~50 年代にかけて この点を整合的に説明するために消費関数論争が生じた 37 38 4. (6) は 恒常所得仮説を主張し 所得を恒常所得と (7) 所得に分け 消費は (8) 所得によって決まると考えた 5. (9) ブランバーグ 安藤の 3 人の学者は (10) 仮説を主張し 消費は現在の所得ではなく (11) 所得によって決まると考えた 練習問題 2.4 ライフサイクル仮説 現在 20 歳の学生 Aさんが 30 歳までに1000 万円の資産を保有しているとする その後 毎年 400 万円の勤労所得が退職するまであり 60 歳で退職し 80 歳で死亡するものとする Aさんがライフサイクル仮説に従って行動した場合 毎年の消費額 平均消費性向 限界消費性向はいくらになるか 39 41

練習問題 2.5 恒常所得 Y p t=0.5y t +0.3Y t-1 +0.2Y t-2 消費 C t =0.9Y p t によって決まるとする 各期において その期の所得から消費を差し引いた残りをその期の貯蓄に充てることとする ここで Y t はt 期の所得 C t はt 期の消費を表している この個人は t 期までは毎期 300 万円の所得を得てきたが t+1 期は所得が400 万円に上昇した このとき t+1 期の貯蓄額はt 期と比べてどのように変化するか ( 平成 17 年国税専門官 ) 練習問題 2.6 個人の消費と貯蓄に関する次の記述のうち 誤っているものはどれか ( 証券アナリスト第 1 次試験 平成 12 年度 ) (1) 個人消費には慣性効果が働くので 不況期には貯蓄率は低下する (2) 年金制度が充実すると個人貯蓄率が低下するという主張は 流動性制約仮説に基づく (3) 恒常所得仮説の下では 一時的な減税政策は永久的な減税政策よりも個人消費刺激効果は小さい (4) ライフサイクル仮説の下では 高齢化社会になると経済全体の貯蓄率は低下すると予想される 45 48