文部科学大臣馳浩様 2016 年 7 月 1 日愛知県教職員労働組合協議会議長岩澤弘之 全国学力 学習状況調査 についての公開質問状 日ごろは 文部科学行政にご尽力いただきありがとうございます さる 4 月 19 日 熊本県などでの中止があったものの 小学 6 年生と中学 3 年生に対する 全国学力 学習状況調査 ( 以下 全国学力テスト とします ) が行われました 私たち愛知県教職員労働組合協議会は 毎年 全国学力テスト実施当日の子どもたちの様子や担任の感想をつかんだり 結果公表や事前対策の是非について校長を含めた教職員との対話を進めたりしてきました 今回 現場の子どもたちと教職員の願いをもとにして 以下のような公開質問状を出させていただきます なお 小学校調査を中心に取り上げて質問をします ご多用中かと思いますが 1か月以内に 下記までご回答をよろしくお願いします FAX E-mail 質問 1 熊本地震にともなう中止の報道発表 (H28.4.18) についてア 問題冊子等を配送することが困難 という理由で熊本県全域と 大分県 宮崎県 福岡県の一部で中止するとされました また 九州地方のその他については 児童生徒 住民等の安全を最優先とするという前提の下 予定通り調査を実施する とされました 熊本地震の真っ只中で どこまで被害が広がるか予測のつかない中でしたので 九州地方だけでなく全国の調査を延期すべきであったと考えますが いかがですか イ最大震度 7 をはじめとした激しい地震が続き 被害が甚大であることが予測できました 全国の調査を中止して 数十億円という調査費用を復興支援に回すべきであったと考えますが いかがですか 質問 2 適切な実施を求める通知 (H28.3.17) についてア山口県の小学校で 調査前に問題を解く順番を示したことは不適切だとされました しかし 学力調査については調査時間が足りないという根本的な問題があります とくに 小学校国語 Bは 時間が足りない上に 1 番の問題が難しくなっています 1 番で手こずっていると 後の方の解ける問題まで行き着きません 実際 後の方の問題の未解答率が高くなっていて できるのかできないのか評価できていません 問題自体が 学力把握を妨げる仕組みとなっているのです 山口県の小学校に責任を押しつけるのではなく 文科省自身が 時間内にできないような問題 しかも1 番はじめに難しい問題を出すということについて改めるべきではありませんか
イ全国の学校に対して 文科省が問題作成についての不手際をお詫びする文書を出すべ きだと考えますが いかがですか 質問 3 適切な取組の推進を求める通知 (H28.4.28) についてア 調査実施前に授業時間を使って集中的に過去の調査問題を練習させ 本来実施すべき学習が十分に実施できない 数値データの上昇のみを目的にしているととられかねないような行き過ぎた取扱いがあれば それは本調査の趣旨 目的を損なうものであると考えております とされました もちろん このようなことで 本来の授業に支障を来すようなことはあってはならないことです では 数値データの上昇のみを目的 とせず また 集中的に過去の調査問題を練習 するのではなく 授業で練習問題として使うのならば良いのでしようか 実は この場合も 次のように 結果として数値が上昇してしまうのです 調査問題は 過去と同一の問題や過去と同じ形式の問題をいくつか含んでいます たとえば 小学校国語 Aでは 漢字の読み書きが毎年 6 問出されており そのうちの 2 問が過去と同一問題です A 問題の中で漢字が占める割合が高いのですから 過去問題を練習すると有利になります 国語 Bでは 字数制限などいくつかの条件に合わせて文章で解答する問題が多く取り入れられています たとえ内容的には正しくても字数で引っかかれば誤答とされます 授業ではこのような学習はしませんので 事前練習をしておけば 調査当日はとても有利となります 上位県と下位県との差はわずかですので たとえ 1 回であっても授業で過去問題を練習しておく学校が多ければ多いほど それが合わさって県全体の点数が上がってしまうのです つまり 問題そのものが過去問練習を奨励するものとなっているのです 文科省自身が問題作成について改めるべきであると考えますが いかがですか イ過去問練習の過熱化により 公表される数値 全国および都道府県別の平均正答数 平均正答率が不正確な数値となっています その結果 過去問練習をしない県の数値の方が正確であるにもかかわらず 順位が低いと非難を受けてしまい 結局は過去問練習へと進まざるを得なくなっているのです 果てしない事前対策の広がりとなります 文科省は 全国と都道府県別の平均正答率を公表することをやめて 過去問練習の過熱化を防ぐべきだと考えますが いかがですか ウ正確な数値を得られないだけでなく 序列化や過度な競争が生じないようにする ( 実施要領 ) に反する事態となっているのですから 全国学力テストは中止とすべきだと考えますが いかがですか 質問 4 実施要領 ( 調査の目的 ) についてア 義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から 調査が行われています ところが 特別支援学級と特別支援学校の子どもについては ほとんどが対象外となっています また 学校質問紙では 特別支援学級が対象外となっています さらに 一部参加した特別支援学級と特別支援学校に対しては 通常学校の通常学級用の調査が行われます このようなことで どのようにして 義務教育の機会均等とその水準の維持向上 ができるのですか
イ 教育施策の成果と課題を検証し その改善を図る となっていますが 未だかって国の 教育施策の成果と課題を検証 した報告書は出されていません わずかに 教育振興基本計画 ( 平成 25 年 6 月 14 日閣議決定 ) の P.31 で 家庭の世帯年収と 全国学力 学習状況調査における児童の正答率の関係 が枠外に掲載されているだけです 昨年度までで 8 回もの調査をしてきたのですから 文科省として 国の 教育施策の成果と課題を検証 した結果を公表する責任があると考えますが いかがですか ウイに続いて その改善を図る ことが求められています 児童質問紙調査で 子どもたちは国語 算数の勉強は大切で 将来役に立つと考えています ところが 授業が分からなくて 国語 算数が好きになれないのです 子どもたちの勉強できるようになりたいという思いに応えて 分かりやすくて楽しい授業を行うことが求められています そのためには すべての学年での 35 人以下学級の実現と教職員の大幅増員などの教育条件を整備することが求められています また 難しすぎる学習内容と授業時間を増やした現行学習指導要領の抜本的見直しをすべきです 文科省は 教育条件を整備し 学習指導要領の抜本的な改善をする責務があると考えますが いかがですか エ 学校における児童生徒への教育指導の充実や学習状況の改善等に役立てる さらに そのような取組を通じて 教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立する とされています 各学校段階における継続的な検証改善サイクルの確立 については 全国的な状況との比較による課題把握 指導改善等を行う ( 教育振興基本計画 平成 25 年 6 月 14 日閣議決定 ) となっています 全国的な状況との比較 を具体的に言うと 全国の平均正答数あるいは平均正答率との比較となります 全国の平均正答数 平均正答率は 相対的な数値であり しかも変化する数値です 過去問練習が過熱化している現状においては この数値はますます不正確な数値となっています 全国的な状況との比較 では 果てしない競争に駆り立て 過去問練習の過熱化につながるだけです 全国的な状況との比較 からは 課題把握 や 教育指導の充実や学習状況の改善 を行うことはできないと考えますが いかがですか 質問 5 実施要領 ( 教科に関する調査 ) についてア学習指導要領では 知識 技能の習得と思考力 判断力 表現力等の育成のバランスを重視すること ( 小学校学習指導要領解説総則編 ) として 知識 技能 と 活用 のバランスが重視されています ところが 実施要領では 出題内容については 実生活において不可欠であり常に活用できるようになっていることが望ましい知識 技能 様々な課題解決のための構想を立て実践評価 改善する力 というように A 問題にまで 活用 を入れるとともに B 問題では大人でもできないような 活用 を問うというきわめて難しい問題となっています 学習指導要領から外れた問題 言い換えると子どもたちが学習したこともない問題を使うことで どうして学力の把握ができるのですか イアの例をはじめとして 問題内容が不適切であること 選択式の設問が多いこと 条件をつけての記述式の設問が多いこと 配点が不公平であること テスト時間が足りないことなどから 正確な学力把握ができないと考えますが いかがですか
質問 6 実施要領 ( 質問紙調査 ) についてア 学習意欲 学習方法 学習環境 生活の諸側面等 を調査することになっています ところが 実際の質問紙には 家の人と学校での出来事について話をしますか 自分には よいところがあると思う 人が困っているときは 進んで助けている いじめは どんな理由があってもいけないことだと思う 人の役に立つ人間になりたいと思う など プライバシーや内心に関わる質問事項が多くあります 学習意欲 学習方法 学習環境 生活の諸側面等 に該当しないと考えますが いかがですか イ文科省が 子どもに対してプライバシーや内心に関わることを調査することは 人権侵害にあたると考えますが いかがですか 質問 7 実施要領 ( 学校に対する質問紙調査 ) についてア 学校における人的 物的な教育条件の整備などに関する質問紙調査 となっているのに 人的条件についての調査項目は不十分であり 物的条件については 以前あった 施設 設備 の項目すらなくされてしまいました どうして 人的 物的な教育条件の整備について調査しないのですか イ 学校における指導方法に関する取組 を調査するとなっています 児童は熱意をもって勉強している 児童は授業中の私語が少なく 落ち着いている 児童は礼儀正しい あなた ( 校長 ) は 校内の授業をどの程度見て回っていますか などの調査は 学校における指導方法に関する取組 の範囲を逸脱していると考えられますが いかがですか ウ文科省は学校教育に介入してはならないと考えますが いかがですか 質問 8 実施要領 ( 調査実施日等 ) についてア学校にとっては また子どもたちにとっては 4 月半ばすぎは とても大切な時期です それなのに 授業時間を 4 時間も 5 時間も使って行政調査を行うことは 学校教育に重大な支障を来します やめていただけませんか 質問 9 実施要領 ( 調査結果の取扱いに関する配慮事項 ) についてア教育委員会に対して 平均正答数や平均正答率などの数値について一覧での公表やそれらの数値により順位を付した公表などは行わないこと としています 文科省が 都道府県別の平均正答数や平均正答率を公表するだけで すぐに一覧となって順位がつけられます 文科省は 率先して実施要領を遵守し 平均正答数や平均正答率などの数値について一覧での公表やそれらの数値により順位を付した公表などは行わない ために 都道府県別の平均正答数や平均正答率の公表をしてはならないと考えますが いかがですか 質問 10 実施要領 ( 保護者に対する調査 ) についてア平成 25 年度のときは 児童生徒の家庭における状況 保護者の教育に関する考え方等 を調査するとされていました ところが 実際の調査用紙には 家族構成 世帯収入 父母の年齢 父母の最終学歴 父母の職業 さらには あなたは 規則正しい生活を心が
けでいますか という質問など この目的を逸脱する内容が多くありました プライバシーの侵害もはなはだしいものであり 調査してはならないと考えますが いかがですか イ同じく 家庭状況と児童生徒の学力等の関係について分析するため に調査するとされていました 保護者にとっては我が子の成績と 自分の回答が直接比較されるのですが 調査用紙では 全国学力 学習状況調査のデータと合わせて分析し 国の教育施策に役立てる という抽象的な説明しか載せられていませんでした 説明不足であると考えますが いかがですか ウなお 平成 20 年度調査で 世帯収入の高い家庭ほど子どもは高学力である 学校外教育支出の多い家庭ほど子どもの学力は高い 保護者の子どもへの接し方や教育意識は子どもの学力と関係している 保護者の普段の行動もまた子どもの学力と関係している という結果が出ていました 保護者調査用紙にきちんと前回の結果を記述して 理解を求めるべきであったと考えますが いかがですか エ保護者の調査への協力は任意であるとされていますが 調査主体は 文部科学省 となっていて 学校を通じて保護者に届けられ 学校を通して回収されます 保護者は 行政調査であるとはとらえません 学校教育への協力を求められていると思いこんで 調査に半ば強制的に協力させられてしまいます プライバシーの侵害にあたる調査を 学校を通して行ってはならないと考えますが いかがですか 以上