2009 年 11 月 6 日 vol. 12 第 6 部金融商品 (1) IFRS における金融商品会計に関する論点について 全 9 回にわたり 以下の内容を解説します (1) 金融商品の定義 金融商品会計の適用範囲 (2) 金融商品の分類 測定 (3) 金融商品の当初認識時の処理 当初認識後の測定 (4) 金融商品の公正価値測定 (5) 金融資産の減損 (6) デリバティブ (7) 金融商品の認識の中止及び相殺 (8) 金融負債と資本の区分 (9) 金融商品の開示 個別論点の解説の前に ここで金融商品会計を鳥瞰していきます IFRS における金融商品会計に関連する主な基準書 IFRS の体系の中で金融商品を取り扱う主な基準書ならびにその主な内容は次のとおりです IAS 第 32 号 金融商品 : 表示 IAS 第 32 号の目的は 主に金融商品の定義 金融負債と資本の区分と 金融資産と金融負債の相殺に関する原則を設けることにあります 詳細は 第 1 回の後半 第 7 回 ~8 回で解説します IAS 第 39 号 金融商品 : 認識及び測定 IAS 第 39 号の目的は 主に金融資産 金融負債及び非金融項目の売買契約に関する認識と測定に関する原則を定めることにあります 詳細は 第 2 回 ~ 第 7 回で解説します IFRS 第 7 号 金融商品 : 開示 IFRS 第 7 号の目的は 財務諸表利用者が企業について以下を評価できるように開示を行うことを求めることにあります 詳細は第 9 回で解説します 企業の財政状態 経営成績に対する金融商品の重要性 会計期間中及び報告時点で企業がさらされている金融商品から生じるリスクの性質及び範囲ならびにこれらのリスクを企業がどのように管理しているか
その他 関連する主な解釈指針書として以下のものが公表されています IFRIC 第 9 号 組込デリバティブの再査定 組込デリバティブの区分処理の要否の評価結果をいつ再評価すべきかについての指針を提供しています IFRIC 第 10 号 中間財務報告と減損 期中財務報告で認識された減損損失がその後に回復した場合の戻入れに関する指針を提供しています IFRS の金融商品会計基準の特徴 IFRS の金融商品に係る基準書 とりわけ金融商品の認識及び測定を取り扱う IAS 第 39 号は 原則主義を標榜する IFRS の体系の中において 適用指針 例示 適用ガイダンスを含め 特定の会計処理に関する具体的な規定が異例とも思えるほど多数かつ詳細に定められている点で異彩を放っています 金融商品会計は それ自体又は関連取引がしばしば複雑な形態をとるため 一般に詳細になりがちで この点は日本基準と共通しています しかし 一方 日本基準では しばしば簡便法が認められるのに対し IFRS ではその適用を認めていない点に相違が生じています ( たとえば 償却原価法において実効金利法のみが認められる点など ) また 日本基準のように業種別の会計基準は存在せず ( たとえば 銀行業における金融商品会計基準適用に関する会計上及び監査上の取扱い ( 業種別監査委員会報告第 24 号 ) など ) すべての業種におしなべて適用されるものとなっているのも特徴です IAS39 の改訂プロジェクト 国際会計基準委員会 (IASB) は 金融商品の会計処理を簡素化する議論の流れの中で 2009 年 5 月の会議において IAS 第 39 号の改訂を (1) 分類及び測定 (2) 金融資産の減損 (3) ヘッジ会計の 3 段階 ( 以下 IAS 第 39 号改訂スケジュール 参照 ) で実施することを決定しました (1) 分類及び測定について 2009 年 7 月に公表された公開草案では 分類及び測定のモデルを償却原価と公正価値の 2 つまで削減することが盛り込まれております 公正価値に分類された場合には 公正価値の変動は損益かその他の包括利益のいずれかに計上されますが その他包括利益に計上された場合には損益へのリサイクルが禁止されることが提案されております したがって 公正価値に分類された場合には減損に関する議論が不要になる見込みです (2) 金融資産の減損については 2009 年 11 月に公開草案が公表されました (IAS 第 39 号改訂スケジュール ) プロジェクトフェーズ公開草案最終決定 (1) 分類及び測定 2009 年 7 月 (2) 減損 2009 年 11 月 (3) ヘッジ会計 2009 年 12 月 2009 年度財務諸表から適用可能とするように提案 ( 任意早期適用 ) 2010 年中に IAS 第 39 号の刷新とともに導入
以下 金融商品の定義と金融商品会計の適用範囲に関して解説します 金融商品会計における 金融商品 の定義 金融商品は IAS 第 32 号で定義されており そこでは 金融商品とは 一方の企業に金融資産を またもう一方の企業に金融負債又は持分金融商品を生じさせることになる契約をいう とされています また 金融資産 金融負債 持分金融商品の定義は以下のとおりとされています 金融資産 a. 現金 b. 他の企業の持分金融商品 c. 以下のいずれかの契約上の権利 1 他の企業から現金その他の金融資産を受領する 2 企業にとって潜在的に有利になる条件で他の企業と金融資産又は金融負債を交換する d. 企業の自己の持分金融商品で決済される 又は決済される可能性のある契約で 以下のいずれかに該当するもの 1 デリバティブ以外企業が可変数の自己の持分金融商品の受領を義務付けられるか その可能性があるもの 2 デリバティブ固定額の現金又は他の金融資産と固定数の自己の持分金融商品を交換する以外の方法で決済されるか その可能性があるもの この場合 企業の自己の持分金融商品には 以下のものは含まれない それ自体が将来 企業の自己の持分金融商品を将来 受領する又は引き渡す契約となる金融商品 清算時にのみ企業が第三者に対して純資産の比例的持ち分を引き渡す義務を負う金融商品 一定のプット可能な金融商品 金融負債 a. 以下のいずれかの契約上の義務 1 現金その他の金融資産を他の企業に引き渡す 2 企業にとって潜在的に不利になる条件で他の企業と金融資産又は金融負債を交換する b. 企業の自己の持分金融商品で決済される 又は決済される可能性のある契約で 以下のいずれかに該当するもの 1 デリバティブ以外企業が可変数の自己の持分金融商品を引き渡すことが求められる義務があるか その可能性があるもの 2 デリバティブ固定額の現金又は他の金融資産と 固定量の自己の持分金融商品との交換以外の方法で決済されるか その可能性があるもの この場合 企業の自己の持分金融商品には 以下のものは含まれない それ自体が将来 企業の自己の持分金融商品を将来 受領する又は引き渡す契約となる金融商品 清算時にのみ企業が第三者に対して純資産の比例的持ち分を引き渡す義務を負う金融商品 一定のプット可能な金融商品 持分金融商品企業のすべての負債を控除した後の企業の資産に対する残余持分を証する契約
金融商品会計の適用範囲 最初に述べた金融商品に関する各基準書には それぞれ適用範囲が定められています このため 金融商品の定義に該当するものであっても これらの基準書の全部又は一部 ( あるいは一部の規定 ) が適用されないものがあり また一方で 直接には金融商品の定義に該当しないものでも あたかも金融商品であるかのように 各基準書の全部又は一部が適用されるものがあります 例えば 子会社 関連会社やジョイント ベンチャーに対する投資 リース 保険契約などは 原則として他の IFRS の規定が適用されることなどから 金融商品会計基準の全部又は一部の適用がありません 一方 ローン コミットメントなどは 金融商品の定義に該当しないものでも金融商品会計の全部又は一部が適用されます 次回は 金融商品の分類と測定について解説します Ernst & Young ShinNihon LLC アーンスト アンド ヤングについてアーンスト アンド ヤングは アシュアランス 税務 トランザクション アドバイザリー サービスなどの分野における世界的なリーダーです 全世界の 14 万 4 千人の構成員は 共通のバリュー ( 価値観 ) に基づいて 品質において徹底した責任を果します 私どもは クライアント 構成員 そして社会の可能性の実現に向けて プラスの変化をもたらすよう支援します 詳しくは www.ey.com にて紹介しています アーンスト アンド ヤング とは アーンスト アンド ヤング グローバル リミテッドのメンバーファームで構成されるグローバル ネットワークを指し 各メンバーファームは法的に独立した組織です アーンスト アンド ヤング グローバル リミテッドは 英国の保証有限責任会社であり 顧客サービスは提供していません 新日本有限責任監査法人について新日本有限責任監査法人は アーンスト アンド ヤングのメンバーファームです 全国に拠点を持ち 日本最大規模の人員を擁する監査法人業界のリーダーです 品質を最優先に 監査および保証業務をはじめ 各種財務関連アドバイザリーサービスなどを提供しています アーンスト アンド ヤングのグローバル ネットワークを通じて 日本を取り巻く世界経済 社会における資本市場への信任を確保し その機能を向上するため 可能性の実現を追求します 詳しくは www.shinnihon.or.jp にて紹介しています お問い合わせ先新日本有限責任監査法人 IFRS 推進本部 100-0011 東京都千代田区内幸町二丁目 2-3 日比谷国際ビル Email: ifrs@shinnihon.or.jp 2009 Ernst & Young ShinNihon LLC All Rights Reserved. 本書又は本書に含まれる資料は 一定の編集を経た要約形式の情報を掲載するものです したがって 本書又は本書に含まれる資料のご利用は一般的な参考目的の利用に限られるものとし 特定の目的を前提とした利用 詳細な調査への代用 専門的な判断の材料としてのご利用等はしないでください 本書又は本書に含まれる資料について 新日本有限責任監査法人を含むアーンスト アンド ヤングの他のいかなるグローバル ネットワークのメンバーも その内容の正確性 完全性 目的適合性その他いかなる点についてもこれを保証するものではなく 本書又は本書に含まれる資料に基づいた行動又は行動をしないことにより発生したいかなる損害についても一切の責任を負いません
2009 年 11 月 20 日 vol. 13 第 6 部金融商品 (2) 今回は IFRS における金融商品の分類と測定について解説します 金融商品の分類と測定 - はじめに 金融商品は それらがどの区分に分類されるかによって会計処理が左右されます たとえば 金融商品の区分により 取得原価又は公正価値で計上されるのか あるいは再評価損益が即時に損益認識されるのか それとも一旦 資本に計上されるのかなどが異なることになります つまり 金融商品の分類と測定は不可分の関係にあるといえます ただし ヘッジ会計などの特定の規定が適用される場合には異なる取扱いが求められます なお 第 1 回で解説したとおり 現在 IASB は IAS 第 39 号を全面的に改訂するプロジェクトを進めており 金融商品の分類と測定に関しては すでに公開草案が 2009 年 7 月に公表されていますが 本稿では現行の IAS 第 39 号を中心に解説します 公開草案については 弊法人発行の IFRS Outlook2009 年 7 月増刊号で詳細に解説されておりますので ご参照ください 現行の IAS 第 39 号では 金融商品全体を (1) 損益を通じて公正価値で測定される金融商品 (Fair Value Through Profit or Loss:FVTPL) (2) 満期保有投資 (Held to Maturity:HTM) (3) 貸付金及び債権 (Loans and Receivables:L&R) (4) 売却可能金融資産 (Available for Sale:AFS) の 4 つに分類しています
表 : 現行の IAS 第 39 号に基づく分類と測定 分類測定 ( 評価 ) 負債性金融商品例 ) 国債 社債 貸付金 持分金融商品例 ) 株式 満期保有 (HTM) 貸付金及び債権 (L&R) 損益を通じて公正価値 (FVTPL) 売却可能 (AFS) 損益を通じて公正価値 (FVTPL) 売却可能 (AFS) 償却原価 償却原価 損益を通じて公正価値 (FVTPL) その他包括利益 (OCI) を通じて公正価値 (FVTOCI) 損益を通じて公正価値 (FVTPL) その他包括利益 (OCI) を通じて公正価値 (FVTOCI) 公正価値が信頼性をもって測定できない場合のみ原価で測定 デリバティブ例 ) スワップ 為替予約 ヘッジ会計適用公正価値ヘッジ : ヘッジ対象と共に FVTPL キャッシュ フロー ヘッジ : FVTOCI ヘッジ会計非適用 FVTPL 以下 分類ごとに解説します 損益を通じて公正価値で測定される金融商品 以下のいずれかに該当する金融商品をいいます (1) 売買目的保有 ( トレーディング目的 ) に分類されるもの 近い将来に売却あるいは買い戻す目的で取得 発生したもの 直近に短期的な利ざや狙いの取引事例が見られる特定のポートフォリオの一部 すべてのデリバティブ ( 有効なヘッジ手段として指定されたものを除く ) (2) 当初認識時において 当該区分に指定されたもの ( いわゆる公正価値オプション ) 日本基準と異なり IFRSでは公正価値オプションが認められています 公正価値オプションとは 当初認識時に企業が任意に指定することで トレーディング目的の金融商品以外でも 損益を通じて公正価値で測定することを可能にするものです なお IFRSへの移行時に保有している金融商品に公正価値オプションを適用する場合には IFRSへの移行日における指定が必要となる点には留意が必要です 満期保有投資 満期保有投資とは デリバティブでない 支払額が固定されているか又は決定可能であり かつ満期日が確定している金融資産で 貸付金及び債権以外のものをいい 保有企業に満期日まで保有する明確な意図と能力が認められ 損益を通じて公正価値で測定される金融資産 又は 売却可能金融資産 に指定されていない金融資産です 日本基準と異なり 満期保有 の適格要件にデフォルト リスクがないことが求められておらず したがって 低格付債券も この区分に分類できる点には留意が必要です たとえば 以下の場合は 満期保有投資に区分することはできません 金融資産を保有する期間が定められていない場合 市場条件や資金需要に応じて 企業がいつでも金融資産を売却する用意がある場合 発行体が 金融資産をその償却原価よりも著しく低い金額で決済する場合 ポートフォリオが 損なわれた 場合 ( 過去 2 会計期間において企業が満期保有投資のうち僅少とは言えない部分を満期前に売却し いわゆるペナルティ条項に抵触した場合 )
満期保有投資は 実効金利法に基づく償却原価で測定されます なお 日本基準と異なり 定額法は認められておりません また IFRS 移行時における遡及適用の免除もないため 実効金利法への調整にあたり実務上の負担が生じる可能性があります なお 満期より前に重要でない金額の満期保有投資を売却又は再分類した場合 原則としてすべての満期保有投資を売却可能金融資産に再分類する必要があります ( テインティング ルール ) この場合には その時点の公正価値で売却可能金融資産に再分類される点で 償却原価をもって振り替えるとする日本基準と異なる点に留意が必要です 貸付金及び債権 貸付金及び債権とは デリバティブでない 支払額が固定されているか又は決定可能な金融資産のうち 活発な市場での公表価格がなく トレーディング 資産の要件を満たしておらず 損益を通じて公正価値で測定される金融資産 又は 売却可能金融資産 に指定されていない金融資産です この区分の特徴としては 次の 2 点が挙げられます まず第一に IAS 第 39 号は 特に有価証券とそれ以外の金銭債権等を区分せず 金融商品全体として分類していますので たとえば有価証券であっても 定義を満たす限り 貸付金及び債権に分類することができます ただし 活発な市場での公表価格があるものは分類が認められない点は留意が必要です 第二に 満期保有投資と異なり 貸付金及び債権にはペナルティ条項は設けられていない点で一定の柔軟性があるといえます なお 貸付金及び債権は 満期保有投資と同様に 実効金利法に基づく償却原価で測定され ここでも定額法は認められていません 売却可能金融資産 売却可能金融資産とは 当初認識時に企業自身により 売却可能 に指定された 又は 貸付金及び債権 満期保有投資 又は 損益を通じて公正価値で測定される金融資産 のいずれにも分類されない金融資産です 売却可能金融資産は それが信頼性をもって測定できない場合を除いて 公正価値で測定されます なお 公正価値の変動額は資本 ( その他包括利益 ) として認識され 減損又は処分された時点で損益へ振り替え ( リサイクル ) されます 次回は 金融商品の当初認識時の処理 及び当初認識後の測定について解説します Ernst & Young ShinNihon LLC アーンスト アンド ヤングについてアーンスト アンド ヤングは アシュアランス 税務 トランザクション アドバイザリー サービスなどの分野における世界的なリーダーです 全世界の 14 万 4 千人の構成員は 共通のバリュー ( 価値観 ) に基づいて 品質において徹底した責任を果します 私どもは クライアント 構成員 そして社会の可能性の実現に向けて プラスの変化をもたらすよう支援します 詳しくは www.ey.com にて紹介しています アーンスト アンド ヤング とは アーンスト アンド ヤング グローバル リミテッドのメンバーファームで構成されるグローバル ネットワークを指し 各メンバーファームは法的に独立した組織です アーンスト アンド ヤング グローバル リミテッドは 英国の保証有限責任会社であり 顧客サービスは提供していません 新日本有限責任監査法人について新日本有限責任監査法人は アーンスト アンド ヤングのメンバーファームです 全国に拠点を持ち 日本最大規模の人員を擁する監査法人業界のリーダーです 品質を最優先に 監査および保証業務をはじめ 各種財務関連アドバイザリーサービスなどを提供しています アーンスト アンド ヤングのグローバル ネットワークを通じて 日本を取り巻く世界経済 社会における資本市場への信任を確保し その機能を向上するため 可能性の実現を追求します 詳しくは www.shinnihon.or.jp にて紹介しています お問い合わせ先新日本有限責任監査法人 IFRS 推進本部 100-0011 東京都千代田区内幸町二丁目 2-3 日比谷国際ビル Email: ifrs@shinnihon.or.jp 2009 Ernst & Young ShinNihon LLC All Rights Reserved. 本書又は本書に含まれる資料は 一定の編集を経た要約形式の情報を掲載するものです したがって 本書又は本書に含まれる資料のご利用は一般的な参考目的の利用に限られるものとし 特定の目的を前提とした利用 詳細な調査への代用 専門的な判断の材料としてのご利用等はしないでください 本書又は本書に含まれる資料について 新日本有限責任監査法人を含むアーンスト アンド ヤングの他のいかなるグローバル ネットワークのメンバーも その内容の正確性 完全性 目的適合性その他いかなる点についてもこれを保証するものではなく 本書又は本書に含まれる資料に基づいた行動又は行動をしないことにより発生したいかなる損害についても一切の責任を負いません
2009 年 12 月 4 日 vol. 14 第 6 部金融商品 (3) 今回は IFRS における金融商品の当初認識時の処理 及び当初認識後の測定について解説します なお 2009 年 11 月 12 日に 分類及び測定に関する IAS 第 39 号の規定を全面的に改訂する IFRS 第 9 号が公表されていますが 本稿では 現行の IAS 第 39 号を中心に解説します IFRS 第 9 号に関しては 当法人発行の IFRS Outlook 2009 年 11 月増刊号で詳細に解説していますので ご参照ください 当初認識 一般原則として IAS 第 39 号では 企業は金融資産または金融負債を 金融商品の契約上の当事者となった時 且つ その時のみに財政状態計算書に認識しなければならないとされます さらに IAS 第 39 号では 金融商品が 通常の方法 (regular way) により取引される場合について 上記の一般原則をどのように適用するかが規定されており 企業は金融商品の区分ごとに取引日基準と決済日基準の二つの基準を選択することとなります 通常の方法による取引とは 関連する市場規制や慣行により一般に定められている期間内での金融商品の受渡しを要求する契約による金融商品の購入または売却取引をいいます 一方 日本基準では有価証券の保有目的区分ごとに約定日基準または修正受渡日基準が選択できます IFRS の取引日基準は日本基準の約定日基準と同様と考えられますが IFRS の決済日基準と日本基準の修正受渡日基準では売り手側の処理に差異が生じる点に留意が必要です (IFRS の決済日基準では約定日において売却損益を認識しないが 日本基準の修正受渡日基準では売却損益のみを認識する ) 当初測定 IAS 第 39 号では 金融商品は当初認識時にその時点の公正価値で測定されます ただし 損益を通じて公正価値で測定される金融商品以外の区分に分類された金融商品については 取得または発行に直接付随して発生する取引費用を調整する必要があります
(1) 当初の公正価値 IAS 第 39 号では 当初の公正価値は通常 取引価格に等しくなると考えられています しかし 取引価格と公正価値の間に明らかに差異があるような場合 ( オフ マーケット ) には 類似の金融商品に適用される市場金利を適用して計算した公正価値で当初測定を行い その結果生じた差額については原因に応じて適切な会計処理 すなわち資産化や一括費用処理などの会計処理を行うこととなります たとえば 無利息の従業員向けの長期貸付金の場合には その差額は IAS 第 19 号 従業員給付 に従って勤務期間もしくは貸出期間の人件費として処理されるかもしれませんし 家主に対する敷金 ( 無利息 ) などの場合には IAS 第 17 号 リース に従って 前払リース料として処理されるかもしれません また オフ マーケットの貸付金が組成される際に 貸出人が 貸出金利を低く抑える見返りに 追加の手数料を受け取るケースがありえます このような場合 当該手数料のうち金利の調整部分と考えられる金額を貸出額から控除した金額が公正価値とされるため 結果として 手数料は一時の収益として計上されず 実効金利に含められ貸出期間にわたって利息収入として認識されることになります さらに 金融機関が金融商品を組成した時点で顧客との取引価格と より有利な市場における取引価格や評価技法を用いて算定された公正価値の間に差が生じ 取引日において Day 1 利益 ( 初日利益 ) が生じるケースがあります IAS 第 39 号ではこういった利益は即時認識されずに繰り延べられ 金融商品の残存期間にわたって適切な方法により認識していくことになります これらの論点については 日本基準においては実務上の取り扱いが必ずしも明確ではないため IFRS に移行する際には留意が必要です (2) 取引費用損益を通じて公正価値で測定される金融商品以外の区分に分類された金融商品については 取引費用を帳簿価額に調整しなければなりません ここでいう取引費用とは 金融商品の取得や発行に直接付随し 且つ それらの行為によって追加的に増加する費用をいいます (3) アップフロント フィー日本基準上 アップフロント フィーを受け取る側の収益処理について明確な規定は存在しません しかし IFRSでは上述のようなオフ マーケットの貸付金に関するアップフロント フィーの繰延処理に関する規定がIAS 第 39 号に設けられており また IAS 第 18 号 収益 においても 金融サービス報酬に係る明確な規定が存在します 事後測定 当初認識後の期間において 金融商品はそれぞれの区分に応じて公正価値 実効金利法による償却原価により測定されます なお 一定の例外的な状況においてのみ 持分金融商品が取得原価で測定されるケースもありえます (1) 公正価値による測定トレーディング目的保有の金融資産又は負債 公正価値オプションが適用された金融資産または負債 ならびにデリバティブはこの方法により測定され 公正価値の変動は損益として認識されます また 売却可能資産に区分された金融商品も公正価値により測定されますが 公正価値の変動はその他包括利益 ( 資本 ) として認識されます 公正価値の測定については 次回 金融商品 (4) で詳しく取り扱います
(2) 実効金利法による償却原価法貸付金及び債権 または満期保有目的投資として分類された金融商品 及び一定の例外を除く金融負債は 当初認識時に算定された実効金利に基づき 実効金利法により算定された償却原価により測定されます 日本基準では 利息法を原則としつつも定額法を一定の場合に認めています しかし IFRSでは実効金利法による償却原価法のみが認められているため IFRSに移行するにあたっては留意が必要です また 実効金利法においては 当初認識時点において契約期間ではなく予想残存期間における見積キャッシュ フローを割り引いて算定された実効金利が使用される点にも留意が必要と思われます この実効金利に基づき 当初認識後の期間において利息収益を計上していくことになりますが 見積将来キャッシュ フローが変動した場合には 帳簿価額を修正後の見積将来キャッシュ フローを当初算定した実効金利によって割り引いた金額に修正しなければなりません これは減損のケースだけでなく 見積キャッシュ フローが増加したケースにも適用されます なお 修正後の見積キャッシュ フローの現在価値と帳簿価額との差額は ただちに損益として認識されるため IFRS を適用するにあたり留意が必要です (3) 取得原価による測定日本基準では 非上場株式はすべて時価が合理的に見積れないとされ 取得原価で測定されます 一方 IFRSでは 非上場株式も原則として公正価値で測定しなければなりません ただし IFRSでも 公正価値が信頼性をもって測定できない場合には取得原価で測定するという例外規定が現行存在しますが そのような状況は制限的に解されています また 前述の IFRS 第 9 号では この例外規定は廃止され すべての持分金融商品を公正価値により評価することとしています ただし 必要な情報が存在しない あるいは不足している場合等には 取得原価が公正価値の最善見積りとみなせる場合もありうることを認めており 逆に取得原価を用いることが適切ではない状況に関するガイダンスが提供されています Ernst & Young ShinNihon LLC アーンスト アンド ヤングについてアーンスト アンド ヤングは アシュアランス 税務 トランザクション アドバイザリー サービスなどの分野における世界的なリーダーです 全世界の 14 万 4 千人の構成員は 共通のバリュー ( 価値観 ) に基づいて 品質において徹底した責任を果します 私どもは クライアント 構成員 そして社会の可能性の実現に向けて プラスの変化をもたらすよう支援します 詳しくは www.ey.com にて紹介しています アーンスト アンド ヤング とは アーンスト アンド ヤング グローバル リミテッドのメンバーファームで構成されるグローバル ネットワークを指し 各メンバーファームは法的に独立した組織です アーンスト アンド ヤング グローバル リミテッドは 英国の保証有限責任会社であり 顧客サービスは提供していません 新日本有限責任監査法人について新日本有限責任監査法人は アーンスト アンド ヤングのメンバーファームです 全国に拠点を持ち 日本最大規模の人員を擁する監査法人業界のリーダーです 品質を最優先に 監査および保証業務をはじめ 各種財務関連アドバイザリーサービスなどを提供しています アーンスト アンド ヤングのグローバル ネットワークを通じて 日本を取り巻く世界経済 社会における資本市場への信任を確保し その機能を向上するため 可能性の実現を追求します 詳しくは www.shinnihon.or.jp にて紹介しています お問い合わせ先新日本有限責任監査法人 IFRS 推進本部 100-0011 東京都千代田区内幸町二丁目 2-3 日比谷国際ビル Email: ifrs@shinnihon.or.jp 次回は 金融商品の公正価値測定について解説します 2009 Ernst & Young ShinNihon LLC All Rights Reserved. 本書又は本書に含まれる資料は 一定の編集を経た要約形式の情報を掲載するものです したがって 本書又は本書に含まれる資料のご利用は一般的な参考目的の利用に限られるものとし 特定の目的を前提とした利用 詳細な調査への代用 専門的な判断の材料としてのご利用等はしないでください 本書又は本書に含まれる資料について 新日本有限責任監査法人を含むアーンスト アンド ヤングの他のいかなるグローバル ネットワークのメンバーも その内容の正確性 完全性 目的適合性その他いかなる点についてもこれを保証するものではなく 本書又は本書に含まれる資料に基づいた行動又は行動をしないことにより発生したいかなる損害についても一切の責任を負いません
2009 年 12 月 18 日 vol. 15 第 6 部金融商品 (4) 今回は IFRS における金融商品の公正価値測定について解説します 公正価値 公正価値とは 取引の知識のある自発的な当事者間で独立した第三者間取引条件により資産が交換される または負債が決済される場合の価額 と定義されています この公正価値を算定する上で IAS 第 39 号は 金融商品を活発な市場で価格が公表されているものとそれ以外のものとの 2 種類に分類しています なお 平成 21 年 8 月に企業会計基準委員会から 公正価値測定及びその開示に関する論点の整理 が公表されており そこでは IFRS における 公正価値 と日本における 時価 の定義の考え方に大きな差異はないと考えられるとされています しかしながら日本基準上 明確な規定が存在しないことなどにより 実務適用上の差異が存在している可能性もある点には留意する必要があります ( たとえば 大量保有要因の取扱いなど ) 活発な市場で公表されている価格 IAS 第 39 号では 活発な市場で公表されている価格こそが公正価値の最良の証拠になるとされています この公表されている価格とは 取引所 ディーラー ブローカー 業界団体 価格サービス業者または規制機関から容易にかつ定期的に入手可能でなければならず 実際に また定期的に発生する独立第三者間取引条件で行われる市場取引を反映したものでなければなりません 活発な市場で公表されている価格を使用する場合は 他にもたとえば以下の点に留意する必要があります 企業が即座に活用できる最も有利な活発な市場での価格を用いる 大量保有に基づく補正は行わない 資産は買呼値 負債は売呼値で測定する
価格を入手できるものの 独立第三者間取引条件による取引が定期的に発生していない場合 または強制された取引あるいは投売りによる取引のみが行われている場合には 市場はもはや活発ではないと考えられます なお 以下のような状況は市場が活発でないことを示す指標の一つになりえます しかし そのことをもって直ちに市場が活発ではないという証拠にはならないことに留意が必要です 取引件数が通常より大幅に少ない 前期と比較して市場での取引件数が少ない 又は流動性が欠けている 短期的に取引が成立していない 活発な市場が存在しない場合の評価技法 活発な市場で価格が公表されていないすべての金融商品の公正価値については 割引キャッシュ フロー分析 オプション プライシング モデルなどの評価技法を用いて算定されます もし市場参加者の間で一般的に用いられており 実際の市場取引価格について信頼性のある見積りを提供することが立証されている評価技法が存在するのであれば その手法が使用されるべきです 公正価値が信頼性をもって測定できない持分金融商品 及びこれと連動するデリバティブ IFRS では 公正価値測定の例外として 公正価値が信頼性をもって測定できない持分金融商品への投資 及びそのような持分金融商品に連動しており その引渡しにより決済しなければならないデリバティブは 減損を控除した後の取得原価で測定されます 次のいずれかに該当する場合には 公正価値は信頼性をもって測定可能とみなされ また 通常は第三者から取得した金融資産については公正価値を見積ることが可能であると解説されています 合理的な見積り公正価値の範囲での変動性が当該金融商品にとって重要でない その範囲内のさまざまな見積りの確率を合理的に評価することができ それらを公正価値の見積りに使用することができる なお 2009 年 11 月に公表された IFRS 第 9 号では 当該例外規定は廃止されています
公開草案 IFRS における公正価値測定に関しては ガイダンスが多数の基準書に分散しており それらは必ずしも一貫していないといった問題点もあります そこで 2009 年 5 月 IASB から以下を目的とした新しい基準書の公開草案 公正価値測定 が公表されており 今後の動向に注意が必要です 公正価値測定に関する単一の指針の作成 公正価値の定義の明確化 開示の強化 IFRS と米国会計基準のコンバージェンス 自己の信用リスク IFRS では 公正価値オプションを適用することにより 一定の金融負債について公正価値評価を行うことが可能です 金融負債の公正価値を算定する場合には 当該金融商品に関連する信用リスクを考慮しなければなりません このことは一般的に 財務的に困難な状態にある企業が 信用度の悪化により大きな利益を計上 ( その逆も同様 ) しうるという結果を生じさせます 金融負債の公正価値測定において自己の信用リスクを考慮することについては議論のあるところであり 2009 年 6 月に IASB からディスカッション ペーパー (DP) 負債測定時の信用リスク が公表されました 当 DP においては金融負債のみならず すべての負債の測定が議論の対象とされています 次回は 金融資産の減損について解説します Ernst & Young ShinNihon LLC アーンスト アンド ヤングについてアーンスト アンド ヤングは アシュアランス 税務 トランザクション アドバイザリー サービスなどの分野における世界的なリーダーです 全世界の 14 万 4 千人の構成員は 共通のバリュー ( 価値観 ) に基づいて 品質において徹底した責任を果します 私どもは クライアント 構成員 そして社会の可能性の実現に向けて プラスの変化をもたらすよう支援します 詳しくは www.ey.com にて紹介しています アーンスト アンド ヤング とは アーンスト アンド ヤング グローバル リミテッドのメンバーファームで構成されるグローバル ネットワークを指し 各メンバーファームは法的に独立した組織です アーンスト アンド ヤング グローバル リミテッドは 英国の保証有限責任会社であり 顧客サービスは提供していません 新日本有限責任監査法人について新日本有限責任監査法人は アーンスト アンド ヤングのメンバーファームです 全国に拠点を持ち 日本最大規模の人員を擁する監査法人業界のリーダーです 品質を最優先に 監査および保証業務をはじめ 各種財務関連アドバイザリーサービスなどを提供しています アーンスト アンド ヤングのグローバル ネットワークを通じて 日本を取り巻く世界経済 社会における資本市場への信任を確保し その機能を向上するため 可能性の実現を追求します 詳しくは www.shinnihon.or.jp にて紹介しています お問い合わせ先新日本有限責任監査法人 IFRS 推進本部 100-0011 東京都千代田区内幸町二丁目 2-3 日比谷国際ビル Email: ifrs@shinnihon.or.jp 2009 Ernst & Young ShinNihon LLC All Rights Reserved. 本書又は本書に含まれる資料は 一定の編集を経た要約形式の情報を掲載するものです したがって 本書又は本書に含まれる資料のご利用は一般的な参考目的の利用に限られるものとし 特定の目的を前提とした利用 詳細な調査への代用 専門的な判断の材料としてのご利用等はしないでください 本書又は本書に含まれる資料について 新日本有限責任監査法人を含むアーンスト アンド ヤングの他のいかなるグローバル ネットワークのメンバーも その内容の正確性 完全性 目的適合性その他いかなる点についてもこれを保証するものではなく 本書又は本書に含まれる資料に基づいた行動又は行動をしないことにより発生したいかなる損害についても一切の責任を負いません
2009 年 1 月 8 日 vol. 16 第 6 部金融商品 (5) 今回は 金融資産の減損について想定される論点を解説していきます 金融資産の減損の概要 IAS 第 39 号 金融商品 : 認識及び測定 は 企業に損益を通じて公正価値で測定される金融資産を除くすべての金融資産について 報告日ごとに減損の検討を行い 減損している客観的な証拠がある場合には減損損失を認識することを求めています 減損が発生している客観的証拠として 以下の例が挙げられています なお 持分金融商品については追加的な例が示されていますが これについては後述します 発行体又は債務者の重大な財政的困難 利息又は元本の支払不履行又は遅滞などの契約違反 貸手による返済猶予などの条件緩和 発行者が破産又は他の財務的再編成に陥る可能性が高くなった 当該金融資産についての活発な市場が財政的困難により消滅 ある金融資産グループの見積将来キャッシュ フローの減少を示す観察可能なデータ 持分金融商品の場合 公正価値の著しい下落又は長期にわたる下落 発生損失モデルの適用 減損の判定において IFRS が日本基準と大きく異なるのは IFRS が厳密な発生損失モデルを採用しているという点です 発生損失モデルにおいては当初認識後 評価日までに実際に 発生した 事象 ( 損失事象 ) についてのみ減損損失が認識されます たとえば 将来損失が発生する可能性が極めて高いと予想される状況においては 日本基準では過去実績などに基づく将来の予想損失を減損 ( 引当て ) 計上するような状況においても その損失が将来発生する事象の結果として生じるものであれば IFRS では減損損失は認識されません ただし 上記の損失事象には 評価日時点において単一の明瞭な事象として識別される場合の他 複数の事象の複合として識別される場合や 発生はしているものの個別の事象としてはいまだ識別できない場合も含まれることに留意が必要です 持分金融商品の減損判定 日本基準では 時価の著しい下落が存在する場合に回復可能性を考慮した上で減損の要否を判定します これに対し IFRS では 公正価値の著しい下落または長期にわたる下落 が減損の 兆候 ではなく 客観的な証拠 と位置付けられ ( このため
該当すれば減損の認識が求められます ) また この判定上 回復可能性も考慮されません さらに 日本基準と異なり たとえ下落率が小さくとも それが長期間継続するのであれば 減損が認識されることになります なお IFRS では 公正価値の 著しい 又は 長期にわたる 下落についての具体的 ( 数値的な ) 指針が提供されていないため IFRS を適用する企業は自ら適切と判断する基準を設定する必要がありますが その基準は 日本基準における持分金融商品の減損判断基準よりも厳しいものと一般に解釈されている点に留意が必要です 減損損失の測定 - 1 償却原価で測定される金融資産 償却原価で測定される金融資産 ( 貸付金及び債権又は満期保有目的投資 ) に係る減損損失の客観的な証拠が存在する場合には その損失は 資産の帳簿価額と見積将来キャッシュ フローを当初実効金利 ( 当初認識時に計算された実効金利 ) で割り引いた現在価値との差額として認識します なお IFRS では減損の認識後も 当初実効金利での利息認識を継続します IFRS は 償却原価で測定される金融資産の資産グループの減損 ( たとえば多数の債権を保有している企業における貸倒引当金の計上など ) を検討する際の手順 要件について詳細な規定を設けています 主な内容は以下のとおりです 個別に重要な金融資産については個別に検討する 個別には重要でない金融資産については 個別にまたは集合的に検討する 個別に検討した金融資産について減損の客観的な証拠が存在しないと判定した場合には 減損の有無を集合的に検討する 集合的に検討する際の金融資産グルーピングは 債務者の返済能力を示す信用リスクの特性をベースに行う 減損損失の測定 - 2 売却可能に分類された金融資産 売却可能金融資産に係る減損損失の客観的な証拠が存在する場合には 資本 ( その他包括利益 ) に計上されていた累積評価損は 損益にその計上区分を振り替えます 計上区分が変更される損失の額は 資産の取得原価と現在の公正価値の差額から 過年度に損益として認識された減損損失を控除した額として測定します 減損損失の戻入れ 減損損失の認識後 負債性金融商品の公正価値が増加 ( 減損損失の額が減少 ) し それが減損認識後に発生した事象と客観的に関連付けられる場合には 減損損失は戻し入れなければなりません 他方 持分金融商品については 減損損失の認識後に公正価値の増加があっても 減損損失を戻し入れてはなりません 今後の動向 金融資産の減損については 金融商品 (1) で解説したとおり IAS 第 39 号の改訂プロジェクトの第 2 フェーズの中で改訂の検討が進められており 2009 年 11 月 5 日に公開草案 金融商品 : 償却原価及び減損 が公表されました Ernst & Young ShinNihon LLC アーンスト アンド ヤングについてアーンスト アンド ヤングは アシュアランス 税務 トランザクション アドバイザリー サービスなどの分野における世界的なリーダーです 全世界の 14 万 4 千人の構成員は 共通のバリュー ( 価値観 ) に基づいて 品質において徹底した責任を果します 私どもは クライアント 構成員 そして社会の可能性の実現に向けて プラスの変化をもたらすよう支援します 詳しくは www.ey.com にて紹介しています アーンスト アンド ヤング とは アーンスト アンド ヤング グローバル リミテッドのメンバーファームで構成されるグローバル ネットワークを指し 各メンバーファームは法的に独立した組織です アーンスト アンド ヤング グローバル リミテッドは 英国の保証有限責任会社であり 顧客サービスは提供していません 新日本有限責任監査法人について新日本有限責任監査法人は アーンスト アンド ヤングのメンバーファームです 全国に拠点を持ち 日本最大規模の人員を擁する監査法人業界のリーダーです 品質を最優先に 監査および保証業務をはじめ 各種財務関連アドバイザリーサービスなどを提供しています アーンスト アンド ヤングのグローバル ネットワークを通じて 日本を取り巻く世界経済 社会における資本市場への信任を確保し その機能を向上するため 可能性の実現を追求します 詳しくは www.shinnihon.or.jp にて紹介しています お問い合わせ先新日本有限責任監査法人 IFRS 推進本部 100-0011 東京都千代田区内幸町二丁目 2-3 日比谷国際ビル Email: ifrs@shinnihon.or.jp 2009 Ernst & Young ShinNihon LLC All Rights Reserved. 本書又は本書に含まれる資料は 一定の編集を経た要約形式の情報を掲載するものです したがって 本書又は本書に含まれる資料のご利用は一般的な参考目的の利用に限られるものとし 特定の目的を前提とした利用 詳細な調査への代用 専門的な判断の材料としてのご利用等はしないでください 本書又は本書に含まれる資料について 新日本有限責任監査法人を含むアーンスト アンド ヤングの他のいかなるグローバル ネットワークのメンバーも その内容の正確性 完全性 目的適合性その他いかなる点についてもこれを保証するものではなく 本書又は本書に含まれる資料に基づいた行動又は行動をしないことにより発生したいかなる損害についても一切の責任を負いません 公開草案に関しては 当法人発行の IFRS Outlook で詳細に解説予定です 次回は デリバティブ及びヘッジ会計について解説します
2010 年 1 月 22 日 vol. 17 第 6 部金融商品 (6) 今回は デリバティブについて想定される論点を解説していきます デリバティブの定義 デリバティブの定義に関しては IAS 第 39 号では当初純投資額が類似の契約に要する金額より小さければ足り かつ 将来の純額決済も要求されずに 単に決済されればよいという点が日本基準と異なります また 実務上は IAS 第 39 号における定義と照らして 契約に含まれるあらゆる要素がデリバティブとして該当する可能性があります たとえば 通常の販売又は購買取引の契約に含まれる諸条項が IAS 第 39 号のデリバティブの定義に照らして検討した結果 デリバティブに該当すると判断されるケースが生じうる点には 実務上は留意が必要だと思われます ただし これは IAS 第 39 号と日本基準とのデリバティブの定義の違いによるものではなく 定義をどの程度厳格に実務適用するかという両者の実務上の温度差によるものと言えるかもしれません なお デリバティブの評価方法は日本基準と本質的な差異はなく IAS 第 39 号では ヘッジに用いられるものを除き損益を通じて公正価値で測定されます 組込デリバティブの区分処理 一定の要件を満たす場合には 組込デリバティブは主契約から分離して デリバティブとして会計処理しなければなりません 日本基準では 組込デリバティブのリスクが元本に及ぶかが区分処理の判断要件となっているのに対して IFRS では 2009 年 11 月 12 日に公表された IFRS 第 9 号 金融商品 のフェーズ 1 の最終基準で以下のとおりの取扱いとなっています IFRS 第 9 号では その ( 又は IAS 第 39 号の ) 適用範囲に含まれる金融資産である主契約に含まれる組込デリバティブの区分処理に関する規定が廃止されております すわなち 新基準では 混合金融商品は 企業のビジネスモデル及び金融資産のキャッシュ フローの特徴に応じて 全体として償却原価又は公正価値で測定されることとなります 一方 主契約が IAS 第 39 号の適用対象外の場合には 現行の IAS 第 39 号の組込デリバティブの区分処理に関する現行規定は引き続き適用されます ただし これらの規定は IASB が今後のプロジェクトの中で IAS 第 39 号の適用範囲が見直された場合には改訂される見込みです
混合 ( 複合 ) 金融商品の会計処理 ( 保有者側 ) IAS 第 39 号により 混合金融商品に含まれる組込デリバティブに区分処理が要求された場合の保有者側の会計処理は 次のようになります 組込デリバティブを公正価値で測定します 次に 残額を主契約の当初認識時における測定額に振り分けます また 組込デリバティブの公正価値が信頼性をもって測定できない場合は 混合金融商品全体の公正価値から主契約の公正価値を控除した残額を組込デリバティブの当初測定額とします 組込デリバティブの公正価値も 主契約の公正価値も測定できない場合には 契約全体 ( 混合金融商品全体 ) が損益を通じて公正価値で測定されることになります なお 発行者側の区分処理及び会計処理については 別途 IAS 第 32 号の規定にも準拠するため 当該規定を参照する必要があります ヘッジ会計 - 日本基準との違い IFRS と日本基準のヘッジ会計における主要な差異として 公正価値ヘッジの会計処理やキャッシュフロー フロー ヘッジにおける非有効部分の取扱い さらに金利スワップ及び為替予約に関する特例処理などが挙げられますが それ以外の基本コンセプトは似通っています むしろ 注意すべきなのは IFRS の実務レベルにおけるヘッジ関係の適格性や有効性評価 文書化などに関する取扱いの厳格さであると思われます ヘッジ会計の種類 IFRS におけるヘッジには 1 公正価値ヘッジ 2 キャッシュ フロー ヘッジ 3 在外営業活動体に対する純投資のヘッジの 3 種類があります 会計処理はヘッジの種類により異なります また 日本基準における金利スワップの特例処理や為替予約の振当処理に該当する規定は IFRS には存在しません 公正価値ヘッジ 公正価値ヘッジとは 認識されている資産又は負債の特定された一部の公正価値の変動のうち 特定のリスクに起因するヘッジのことを言います この場合 ヘッジ手段を公正価値で再測定することによる損益は 直ちに損益計算書 ( 包括利益計算書 ) に認識しなければなりません 一方 ヘッジされたリスクに起因するヘッジ対象に係る損益は ヘッジ対象の帳簿価額を修正し 直ちに損益計算書 ( 包括利益計算書 ) に認識しなければなりません ヘッジ対象は必ずしも公正価値で測定される金融商品とは限りません キャッシュ フロー ヘッジ キャッシュ フロー ヘッジとはキャッシュ フローの可変性のうち 認識されている資産又は負債に関連する特定のリスク又は予定取引に起因するもの かつ 損益計算書 ( 包括利益計算書 ) に影響を及ぼすものに対するヘッジを言います ヘッジ手段に係る公正価値変動のうち 有効なヘッジとして認められる部分は その他包括利益として資本の部に計上します 一方 ヘッジ手段に係る非有効部分は 直ちに損益計算書 ( 包括利益計算書 ) に計上します この点が日本基準と大きく異なります
在外事業体に対する純投資のヘッジ IAS 第 39 号では 公正価値ヘッジ及びキャッシュ フロー ヘッジという 2 つの主たるヘッジ関係に加え 従来からデリバティブ又は負債に係る為替差損益と在外事業体の外貨換算を一致させる会計処理を認めています 初度適用について ヘッジの遡及を許すと 利益操作目的で一部のヘッジのみが遡及される可能性があるため IFRS 第 1 号では遡及的なヘッジ指定を行うことは禁止されています また 移行日後は IAS 第 39 号のヘッジ要件を満している場合のみ ヘッジ会計の適用が認められ ヘッジ要件を満たさない場合にはヘッジ会計の中止として処理されます したがって 従前のヘッジ会計を引き続き適用するためには 移行日までにヘッジの文書化や有効性のテストなどを完了しておく必要があります 公正価値オプション 公正価値オプションは契約ごとに適用することが可能なため 実務上は ヘッジ会計の代わりにこれを用いることも想定されます ただし 公正価値オプションを用いれば ヘッジ会計を適用するうえでの文書化や有効性評価といった負担を回避することができますが 一方で 特定のヘッジ対象リスクを指定することができるヘッジ会計と異なり 公正価値オプションは上記のとおり契約レベルでしか適用できないため 指定した金融商品の公正価値変動全体が損益として認識されてしまいます また 公正価値オプションは金融商品の認識時のみに指定可能であり かつ いったん指定した場合 事後的にそれを取り消すことが認められません このように 両者にはそれぞれ長所短所があるため 実務上はこれらを把握したうえ適用することが肝要です なお 第 1 回で解説したとおり 現在 IASB は IAS 第 39 号を全面的に改訂するプロジェクトを進めております この中で ヘッジ会計に関しては 2010 年の第一四半期に公開草案の公表が予定され 2010 年中に最終基準が公表される予定となっております Ernst & Young ShinNihon LLC アーンスト アンド ヤングについてアーンスト アンド ヤングは アシュアランス 税務 トランザクション アドバイザリー サービスなどの分野における世界的なリーダーです 全世界の 14 万 4 千人の構成員は 共通のバリュー ( 価値観 ) に基づいて 品質において徹底した責任を果します 私どもは クライアント 構成員 そして社会の可能性の実現に向けて プラスの変化をもたらすよう支援します 詳しくは www.ey.com にて紹介しています アーンスト アンド ヤング とは アーンスト アンド ヤング グローバル リミテッドのメンバーファームで構成されるグローバル ネットワークを指し 各メンバーファームは法的に独立した組織です アーンスト アンド ヤング グローバル リミテッドは 英国の保証有限責任会社であり 顧客サービスは提供していません 新日本有限責任監査法人について新日本有限責任監査法人は アーンスト アンド ヤングのメンバーファームです 全国に拠点を持ち 日本最大規模の人員を擁する監査法人業界のリーダーです 品質を最優先に 監査および保証業務をはじめ 各種財務関連アドバイザリーサービスなどを提供しています アーンスト アンド ヤングのグローバル ネットワークを通じて 日本を取り巻く世界経済 社会における資本市場への信任を確保し その機能を向上するため 可能性の実現を追求します 詳しくは www.shinnihon.or.jp にて紹介しています お問い合わせ先新日本有限責任監査法人 IFRS 推進本部 100-0011 東京都千代田区内幸町二丁目 2-3 日比谷国際ビル Email: ifrs@shinnihon.or.jp 次回は 金融商品の認識と中止について解説します 2009 Ernst & Young ShinNihon LLC All Rights Reserved. 本書又は本書に含まれる資料は 一定の編集を経た要約形式の情報を掲載するものです したがって 本書又は本書に含まれる資料のご利用は一般的な参考目的の利用に限られるものとし 特定の目的を前提とした利用 詳細な調査への代用 専門的な判断の材料としてのご利用等はしないでください 本書又は本書に含まれる資料について 新日本有限責任監査法人を含むアーンスト アンド ヤングの他のいかなるグローバル ネットワークのメンバーも その内容の正確性 完全性 目的適合性その他いかなる点についてもこれを保証するものではなく 本書又は本書に含まれる資料に基づいた行動又は行動をしないことにより発生したいかなる損害についても一切の責任を負いません
2010 年 2 月 5 日 vol. 18 第 6 部金融商品 (7) 今回は IFRS における金融商品 ( 特に金融資産 ) の認識の中止及び相殺について解説します 金融資産の認識の中止 会計上 金融商品の認識を中止するということは 財務諸表で認識されている項目が計上されなくなるということを意味します 特に証券化やファクタリングなどさまざまな種類のオフバランス ファイナンスにおいて 譲渡した資産が認識の中止の要件を満たすかどうかについては しばしば複雑な検討が必要とされます 日本基準では 財務構成要素アプローチに基づき金融資産の消滅を認識しますが IAS 第 39 号では 金融資産の認識の中止について リスクと経済価値 モデルと 支配 モデルの混合判定モデルを採用しています 実務上は 個々の取引ないしスキームごとに 次頁の判定フローチャートの順序に従い 厳密に判定を行う必要があります
判定フローチャート ( 現行基準 ) すべての子会社 (SPE を含む ) を連結する 以下の認識中止の原則を適用するのが資産 ( 又は類似の資産グループ ) の一部なのか全部なのかを判定する 資産からキャッシュ フローを受け取る権利が消滅しているか? No Yes 資産の認識を中止 Yes 企業は資産からのキャッシュ フローを受け取る権利を譲渡しているか? No 企業は パススルー契約 の要件に該当する資産からのキャッシュ フローの支払義務を負っているか? Yes 企業は実質的にすべてのリスクと経済価値を譲渡しているか? No 企業は引き続き実質的にすべてのリスクと経済価値を保持しているか? No 企業は資産に対する支配を保持しているか? Yes 企業は継続的関与の範囲で資産の認識を継続する No Yes Yes No 資産の認識を継続資産の認識を中止資産の認識を継続資産の認識を中止 日本基準では一定の要件を満たしたものに限り債権の消滅を認識することが認められるローン パーティシペーションについても IFRS では上記に従い債権の認識の中止を判定する必要があります 判定の結果 金融資産の認識を中止する場合 その帳簿価額と以下の合計金額の差額を損益に計上します 一方認識の中止の要件が満たされない場合は 受領した対価を金融負債として計上します 受領対価 ( 取引による新たな資産と負債の公正価値の差額 ) 資本の部に直接認識されていた当該金融資産の累積評価損益 ( 対象資産が売却可能金融資産の場合 )
相殺 IAS 第 32 号では 企業が以下の 2 つの条件を満たす場合にのみ 金融資産と金融負債を相殺し 純額を貸借対照表に計上しなければなりません 認識された金額を相殺することができる法的に強制力のある権利を有している 純額で決済する あるいは 資産の回収と債務の決済を同時に実行する意図を有している このことは たとえ企業がデリバティブ取引でマスター ネッティング契約を締結していても 相殺が法的強制力を有する契約上の事象 ( デフォルトなど ) が生じることにより 上記の 2 要件が満たされない限り 相殺は認められないことを意味していますので 相殺可能な範囲は IFRS と日本基準との間で異なる結果となります 初度適用 金融商品の認識の中止に関しては 企業が初度適用するにあたり 特別な規定が設けられています 初度適用企業は その後の取引や事象の結果認識の要件を満たすことになる場合などを除き 2004 年 1 月 1 日より前に発生した結果 従前の GAAP に従って認識を中止したデリバティブ以外の金融資産及び金融負債については認識しないこととされています ただし 認識が中止された資産及び負債に対し IAS 第 39 号を適用するために必要となる情報が これらの取引について最初に会計処理する時点で入手されていれば 企業が選択する任意の日まで遡及して適用することができます Ernst & Young ShinNihon LLC アーンスト アンド ヤングについてアーンスト アンド ヤングは アシュアランス 税務 トランザクション アドバイザリー サービスなどの分野における世界的なリーダーです 全世界の 14 万 4 千人の構成員は 共通のバリュー ( 価値観 ) に基づいて 品質において徹底した責任を果します 私どもは クライアント 構成員 そして社会の可能性の実現に向けて プラスの変化をもたらすよう支援します 詳しくは www.ey.com にて紹介しています アーンスト アンド ヤング とは アーンスト アンド ヤング グローバル リミテッドのメンバーファームで構成されるグローバル ネットワークを指し 各メンバーファームは法的に独立した組織です アーンスト アンド ヤング グローバル リミテッドは 英国の保証有限責任会社であり 顧客サービスは提供していません 新日本有限責任監査法人について新日本有限責任監査法人は アーンスト アンド ヤングのメンバーファームです 全国に拠点を持ち 日本最大規模の人員を擁する監査法人業界のリーダーです 品質を最優先に 監査および保証業務をはじめ 各種財務関連アドバイザリーサービスなどを提供しています アーンスト アンド ヤングのグローバル ネットワークを通じて 日本を取り巻く世界経済 社会における資本市場への信任を確保し その機能を向上するため 可能性の実現を追求します 詳しくは www.shinnihon.or.jp にて紹介しています 公開草案 金融資産の認識の中止に関する現行規定は複雑であり 実務において適用することが難しいという問題点があります これに対し 2009 年 3 月 IASB より公開草案 認識の中止 が公表されました 公開草案では 混合判定モデルではなく 支配 という単一の概念に焦点を当てており その結果 現行規定と比較して以下の点が不要となります お問い合わせ先新日本有限責任監査法人 IFRS 推進本部 100-0011 東京都千代田区内幸町二丁目 2-3 日比谷国際ビル Email: ifrs@shinnihon.or.jp 留保されたリスクと経済価値の程度を評価するためのテスト 特定のパススルー規定 ( 認識が中止されない譲渡において ) 譲渡人が継続的関与の程度に応じて資産を認識 測定する規定 公開草案によれば 現行規定では一般に認識の中止の要件を満たさないと考えられるレポ取引につき 認識の中止の要件を満たす可能性が高いと考えられ 今後の動向に注意が必要です 2009 Ernst & Young ShinNihon LLC All Rights Reserved. 本書又は本書に含まれる資料は 一定の編集を経た要約形式の情報を掲載するものです したがって 本書又は本書に含まれる資料のご利用は一般的な参考目的の利用に限られるものとし 特定の目的を前提とした利用 詳細な調査への代用 専門的な判断の材料としてのご利用等はしないでください 本書又は本書に含まれる資料について 新日本有限責任監査法人を含むアーンスト アンド ヤングの他のいかなるグローバル ネットワークのメンバーも その内容の正確性 完全性 目的適合性その他いかなる点についてもこれを保証するものではなく 本書又は本書に含まれる資料に基づいた行動又は行動をしないことにより発生したいかなる損害についても一切の責任を負いません 次回は 金融負債と資本の区分について解説します
2010 年 2 月 19 日 vol. 19 第 6 部金融商品 (8) 今回は IFRS における金融負債と資本の区分について解説します 金融負債と資本 - 定義及び基本的な考え方 IAS 第 32 号 金融商品 : 表示 において 金融商品の発行者が 契約の実質及び金融負債と持分金融商品の定義に基づいて 金融商品又はその構成要素を 金融負債又は資本として区分することが求められています 負債の定義は以下のとおりです (1) 次のいずれかの契約上の義務 他の企業に現金又は他の金融資産を引き渡す契約上の義務 自己にとって潜在的に不利な条件で 金融資産又は負債を他の企業と交換する契約上の義務 (2) 自己の持分金融商品で決済されるか 決済される可能性のある次のいずれかの契約 非デリバティブ契約で 可変数の自己の持分金融商品を引き渡すことが求められる義務があるか その可能性があるもの 自己の持分についてのデリバティブ契約で 固定額の現金又は他の金融資産と固定数の自己の持分金融商品を交換する以外の方法で決済されるか その可能性があるもの ( 注 ) プット可能な金融商品及び清算により生ずる債務についての例外があります 資本 ( 持分金融商品 ) は 資産から負債を控除した残余持分を証するすべての契約と定義されています 上記の定義に基づくと 発行体が報告日に現金その他の金融資産を保有者に引き渡す法的義務を有していないだけではなく 実質的に清算以外のいかなる場合においても引き渡すことを回避できる無条件の権利を有している場合に限り 金融資産は持分金融商品となり 金融負債とならないというのが基本的な考え方です
日本基準との相違点としては 日本基準では法的性質に基づいて資本 負債を定義するので優先株が負債になることや永久債が資本になることはありませんが IFRS では経済的実態に基づいて資本 負債を定義するため たとえば 下記の例のような区分がなされる可能性があります ( 例 ) 発行者に裁量権のない金利支払いが義務付けられている永久債 負債 10 年後に額面で償還することが義務付けられている優先株 負債 10 年後に額面で償還する権利を持つ優先株 資本 複合金融商品の取り扱い 資本と負債の両方の要素を有する金融商品については 資本要素と負債要素を区分して会計処理することとなります 構成要素の分離方法は以下のとおりです まず負債の公正価値が計算され この金額が負債要素の当初帳簿価額となります 負債要素の公正価値が金融商品全体の公正価値から控除され 残余価額が資本要素の価額とされます ( 例 ) 固定金額との交換で 固定数の普通株式に転換できる転換社債は 負債契約としての法的形態を有していますが 実態としては次の2つの金融商品と考えられます 転換がなされないときに定められたクーポン及び元本の支払いを行うことにより現金の引渡しを要する金融負債 保有者に社債を固定数の普通株式に転換する権利を与える売建コール オプション この点に関しては 日本基準上 転換社債 ( 転換社債型新株予約権付社債 ) は区分法と一括法の選択適用が認められておりますので IFRS への移行に伴い差異が生ずる可能性のある部分です 資本 負債の区分に関するその他の論点としては 以下のような論点があります 配当と金利に対する影響 : 財政状態計算書上の分類で配当と金利がどのように分類されるか ( 損益か剰余金の処分か ) が決まる ヘッジ会計への影響 : 負債はヘッジ対象となり得るが 資本に分類されるとヘッジ対象とならない
今後の動向 2008 年 2 月 IASB( 国際会計基準審議会 ) は 2007 年 11 月に FASB( 米国財務会計基準審議会 ) より公表された 資本の特徴を有する金融商品 に関する予備的見解を受けて ディスカッション ペーパー (DP) 資本の特徴を有する金融商品 を公表しました 当該 DP では 負債の特徴を有する金融商品と資本の特徴を有する金融商品とを区別するための 3 通りの方法 ( アプローチ ) が提案されました IASB は現在 FASB と共同で 新たなアプローチを検討しており 2010 年の第 2 四半期に公開草案が公表される予定となっています 次回は 金融商品の開示について解説します Ernst & Young ShinNihon LLC アーンスト アンド ヤングについてアーンスト アンド ヤングは アシュアランス 税務 トランザクション アドバイザリー サービスなどの分野における世界的なリーダーです 全世界の 14 万 4 千人の構成員は 共通のバリュー ( 価値観 ) に基づいて 品質において徹底した責任を果します 私どもは クライアント 構成員 そして社会の可能性の実現に向けて プラスの変化をもたらすよう支援します 詳しくは www.ey.com にて紹介しています アーンスト アンド ヤング とは アーンスト アンド ヤング グローバル リミテッドのメンバーファームで構成されるグローバル ネットワークを指し 各メンバーファームは法的に独立した組織です アーンスト アンド ヤング グローバル リミテッドは 英国の保証有限責任会社であり 顧客サービスは提供していません 新日本有限責任監査法人について新日本有限責任監査法人は アーンスト アンド ヤングのメンバーファームです 全国に拠点を持ち 日本最大規模の人員を擁する監査法人業界のリーダーです 品質を最優先に 監査および保証業務をはじめ 各種財務関連アドバイザリーサービスなどを提供しています アーンスト アンド ヤングのグローバル ネットワークを通じて 日本を取り巻く世界経済 社会における資本市場への信任を確保し その機能を向上するため 可能性の実現を追求します 詳しくは www.shinnihon.or.jp にて紹介しています お問い合わせ先新日本有限責任監査法人 IFRS 推進本部 100-0011 東京都千代田区内幸町二丁目 2-3 日比谷国際ビル Email: ifrs@shinnihon.or.jp 2010 Ernst & Young ShinNihon LLC All Rights Reserved. 本書又は本書に含まれる資料は 一定の編集を経た要約形式の情報を掲載するものです したがって 本書又は本書に含まれる資料のご利用は一般的な参考目的の利用に限られるものとし 特定の目的を前提とした利用 詳細な調査への代用 専門的な判断の材料としてのご利用等はしないでください 本書又は本書に含まれる資料について 新日本有限責任監査法人を含むアーンスト アンド ヤングの他のいかなるグローバル ネットワークのメンバーも その内容の正確性 完全性 目的適合性その他いかなる点についてもこれを保証するものではなく 本書又は本書に含まれる資料に基づいた行動又は行動をしないことにより発生したいかなる損害についても一切の責任を負いません
2010 年 3 月 5 日 vol. 20 第 6 部金融商品 (9) 今回は IFRS における金融商品の開示について解説します IFRS 第 7 号 金融商品 : 開示 IFRS 第 7 号が発効される前までは 金融商品に関する開示については IAS 第 32 号 金融商品 : 開示及び表示 で取り扱われており さらに IAS 第 30 号 銀行及び類似の金融機関における開示 において 銀行やその他の金融機関に対する追加的な開示規定が定められていました その後 金融商品をとりまく環境の変化に対応すべく 金融機関に限らず金融商品に関連する開示について総合的な見直しがなされ IFRS 第 7 号が 2005 年に公表されました IFRS 第 7 号は 金融機関に限らずすべての業種に対して適用されます その結果 IAS 第 32 号の開示に関する規定は IFRS 第 7 号に引き継がれ (IAS 第 32 号の基準書名も 金融商品 : 表示 に変更 ) IAS 第 30 号は廃止されています IFRS 第 7 号の目的は 以下について利用者が評価できるよう 企業が財務諸表における開示を提供することを要求することです 企業の財政状態及び経営成績に占める金融商品の重要性 報告期間及び報告日現在に企業がさらされている金融商品のリスクの性質と範囲及び企業がどのようにこれらのリスクを管理しているか IFRS 第 7 号の適用範囲は IAS 第 39 号 金融商品 : 認識及び測定 が適用される範囲よりもやや広く IAS 第 39 号の適用対象とはならないものも含まれている点に留意が必要です たとえばファイナンス リースに基づく権利 義務や一定のローン コミットメントなども IFRS 第 7 号の適用対象とされています また IFRS 第 7 号における開示は基本的に金融商品の種類ごとに行われなければなりません ここでいう金融商品の種類とは IAS 第 39 号に定められる測定区分 ( 金融商品 (2) を参照 ) ではなく 金融商品の特徴を考慮して定められるものです しかし 金融商品の種類を決めるにあたって企業は 最低限 償却原価で測定される金融商品と公正価値で測定される金融商品を区分しなければなりません また こういった種類の決定をあまりに詳細にした結果 不要で見にくい情報を開示することになってもいけませんし 大雑把な区分にした結果 曖昧で不明瞭な情報を開示することになってもいけません バランスのとれた情報を開示するように 個々の企業の判断で金融商品の種類を決定していくこととなります
企業の財政状態及び経営成績に関する金融商品の重要性 IFRS 第 7 号の 1 つ目の目的である企業の財政状態及び経営成績に関する金融商品の重要性を利用者が評価できるような情報を提供するため IFRS 第 7 号は大きく分けて 財政状態計算書 ( 貸借対照表 ) 包括利益計算書 ( 損益計算書 ) その他の開示 という 3 つの開示規定を定めています 財政状態計算書 ( 貸借対照表 ) では 測定分類ごとの帳簿価額 公正価値オプションを指定した貸付金及び債権もしくは金融負債に関する情報 認識の中止 担保情報などの金融商品に関連する残高に関する情報開示を規定しています また 包括利益計算書 ( 損益計算書 ) においては 測定区分ごとの損益 受取利息や支払利息の金額 金融資産の種類ごとの減損の金額などの包括利益計算書 ( 損益計算書 ) 項目に関する規定が定められています さらにその他の規定には 金融商品に係る会計方針やヘッジ会計及び公正価値情報などの開示規定が含まれます なお 2009 年 3 月に公表された IFRS 第 7 号の改訂により 公正価値測定に関する開示が強化されています この改訂後 IFRS 第 7 号では 損益を通じて公正価値で測定 や 売却可能金融資産 といった公正価値で測定される金融商品について ( つまり 償却原価で測定される金融商品は対象外 ) 以下 3 つのレベルのヒエラルキーを用いて 公正価値測定のために使用したインプット ( 入力値 ) の源泉別に公正価値の測定額を開示することが求められます これは 当該改訂に先立ち発効になった米国会計基準の FAS 第 157 号 公正価値の測定 における公正価値ヒエラルキーの開示に相当するものです レベル 1: 同じ金融商品の活発な市場における ( 未調整の ) 公表価格 レベル 2: 金融資産又は負債について 市場において直接 ( 価格 ) あるいは間接的 ( 価格に基づく推計値 ) に観察可能なインプットで レベル 1 に含まれる公表価値以外のもの レベル 3: 金融資産又は負債について 市場で観察可能なデータに基づかないインプット ( 観察不能なインプット ) 金融商品から生じるリスクの性質及び範囲 IFRS 第 7 号の 2 つ目の目的は 企業がさらされている金融商品のリスクの性質と範囲及び企業がどのようにこれらのリスクを管理しているかについて 財務諸表利用者が評価することを可能とするような情報を開示することです 通常金融商品から生ずるリスクは これらに限定されるわけではありませんが 以下のようなリスクが挙げられます 信用リスク : 金融商品の一方の当事者が債務不履行となり もう一方の当事者が財務的損失を被ることとなるリスク 流動性リスク : 企業が金融負債に関連する債務を履行するにあたり困難に直面するリスク 市場リスク : 市場価格の変動により 金融商品の公正価値又は将来キャッシュ フローが変動するリスク ( 為替リスク 金利リスク その他の価格リスク )
企業はそれぞれのリスクごとに定性的開示及び定量的開示を行っていくことになります (1) 定性的開示企業はそれぞれのリスクごとに以下の事項を開示しなければなりません リスクに対するエクスポージャー及びリスクがどのように生じたのか リスクを管理する企業の目的 方針 手続及びリスクの測定に使用される方法 (2) 定量的開示企業はそれぞれのリスクごとに 報告日時点の金融商品から生ずるリスクへのエクスポージャーの数値情報を開示しなければなりません たとえば市場リスクについてのエクスポージャーを開示する際には 企業はIFRS 第 7 号に定められる基本的な方法 ( 合理的な可能性で起こりうるリスク変数の変動に対応したエクスポージャー ) に従って損益や自己資本に対する影響度を感応度分析として開示しなければなりません なお 企業がバリュー アット リスク (VaR) などの方法によって市場リスクの感応度分析を管理に使用している場合には こういった手法で開示することができます 今回で 第 6 部 金融商品 は終了となります 次回は 第 7 部 法人所得税 です Ernst & Young ShinNihon LLC アーンスト アンド ヤングについてアーンスト アンド ヤングは アシュアランス 税務 トランザクション アドバイザリー サービスなどの分野における世界的なリーダーです 全世界の 14 万 4 千人の構成員は 共通のバリュー ( 価値観 ) に基づいて 品質において徹底した責任を果します 私どもは クライアント 構成員 そして社会の可能性の実現に向けて プラスの変化をもたらすよう支援します 詳しくは www.ey.com にて紹介しています アーンスト アンド ヤング とは アーンスト アンド ヤング グローバル リミテッドのメンバーファームで構成されるグローバル ネットワークを指し 各メンバーファームは法的に独立した組織です アーンスト アンド ヤング グローバル リミテッドは 英国の保証有限責任会社であり 顧客サービスは提供していません 新日本有限責任監査法人について新日本有限責任監査法人は アーンスト アンド ヤングのメンバーファームです 全国に拠点を持ち 日本最大規模の人員を擁する監査法人業界のリーダーです 品質を最優先に 監査および保証業務をはじめ 各種財務関連アドバイザリーサービスなどを提供しています アーンスト アンド ヤングのグローバル ネットワークを通じて 日本を取り巻く世界経済 社会における資本市場への信任を確保し その機能を向上するため 可能性の実現を追求します 詳しくは www.shinnihon.or.jp にて紹介しています お問い合わせ先新日本有限責任監査法人 IFRS 推進本部 100-0011 東京都千代田区内幸町二丁目 2-3 日比谷国際ビル Email: ifrs@shinnihon.or.jp 2010 Ernst & Young ShinNihon LLC All Rights Reserved. 本書又は本書に含まれる資料は 一定の編集を経た要約形式の情報を掲載するものです したがって 本書又は本書に含まれる資料のご利用は一般的な参考目的の利用に限られるものとし 特定の目的を前提とした利用 詳細な調査への代用 専門的な判断の材料としてのご利用等はしないでください 本書又は本書に含まれる資料について 新日本有限責任監査法人を含むアーンスト アンド ヤングの他のいかなるグローバル ネットワークのメンバーも その内容の正確性 完全性 目的適合性その他いかなる点についてもこれを保証するものではなく 本書又は本書に含まれる資料に基づいた行動又は行動をしないことにより発生したいかなる損害についても一切の責任を負いません