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Transcription:

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る可能性がある. 互いに交差する道路の幅員に対応するだけの広がりを持った空間であるため視認性の変化が大きいのが特徴である.2のタイプでは, 進行方向正面に常に見ることができるためアイストップ型のビスタ景を形成し, 見え隠れがないためにその街路を印象づけるイメージを安定して形成する. 表 -1にこの2つの角地型と正対型のタイプの交差点パターンを示す. 表 -1 角地型と正対型の分類 角地型 十字路 直角角地 通常 X 字路 鋭角角地 鈍角角地 角度 (1) 街路横断構成モデル空間の街路は, 第 4 種第 2 級の都市部の補助幹線道路とした. また車道部は路肩を含めて7m, 歩道部は3 mずつ計 13mとしたものを標準とした. 縁石の高さは 25cmで歩道の高さは2cmのセミフラット形式とした. (2) 建物構成対象とした地域は都市計画法の用途地域で定められる商業地域とし,9m 区画の敷地に一辺 8mの建物を配置し建蔽率 8% 以内とした. 間口幅および間隔はすべて一定となっている. また建物高さは心地よい囲まれ感を示すD/H=1~1.5を考慮し,9mを標準高さとした. 図 -1 十字路モデル (5m) 図 -2 T 字路モデル (5m) T 字路 分岐路 正対型 4. 角地建築物の形態要因分析 Y 字路五叉路さらに街路パターンに加えて, 進行方向道路の幅員と交差道路の幅員の関係から広 - 狭道路や狭 - 広道路がある. 実際の街路はこれだけでなく, より複雑に交差しているのが現状であるが, 本研究ではここにあげたパターンを用いて評価する. 3. 評価モデルの設定交差点角地というその場が本来持つ視認性を把握するため, 対象となる角地建築物の付属物や表面形態および電線電柱や屋外広告物など他の街路景観構成要素を排除したモデル街路を3 次元コンピューターグラフィックス ( 以下 3DCG) により作成した. 実際の街路映像では, 同じような環境条件で異なる建物のランドマーク性を比較することは困難である. しかし3DCG では街路幅員や道路の交差角度そして建物の形態などを変化させた様々な空間モデルを作成することが可能となり, 移動を考慮した歩行者視線の一定高さでの評価も可能となる. 交差点空間の角地やつきあたりに存在する建築物の幾何学的要因による影響を歩行者が視覚的に把握することを明らかにするため, 作成したモデル街路において, 透視面積率という指標を透視形態での見えの大きさとして用いる. ここでいう透視面積率とは画面内に占める対象建築物のピクセル数の割合で測定する. まず, 視点の移動を考慮した透視面積率の面的な分布を示すポテンシャル等高線を作成し, その透視面積率の積分値を求め, 角地型の代表となる十字路直角角地と正対型の代表であるT 字路の比較を行う. 次に道路要因である交差点パターンごとの比較と幅員変化による比較を行い, 最後に建物要因である対象建物の建物高さ ( 突出率 ) を変化させた場合の角地型と正対型の比較を行い, さらに建物の隅切りを行った場合の変化を透視面積率曲線の変化により分析する. (1) ポテンシャル等高線による比較 (a) 方法標準横断構成における評価モデルを用いて, 一辺.5 mのグリッドで近似曲線を作成し, 視距離に応じた透視面積率を測定して, 視覚的に有効な範囲内 ( 熟視角 1 度の透視面積率 5 1-4 ) での累積値をポテンシャル等高線の積分値として角地型と正対型を比較する.

(b) 結果 ポテンシャル等高線の積分値は, 図 -3, 図 -4 から累積した 透視面積率を求めると以下の図 -2 のようになった. 角地型 :25.5 2 方向 =51.( 1-4 ) 正対型 :76.86 1 方向 =76.86( 1-4 ) よって, 面的に正対型の方が 1.7 倍となり, 影響が広範囲に及んでいることが判明した. また, 角地型では建物をランドマークとして認識できる距離は 8m 程度, 正対型では 13m 程度となった. 総透視面積率 ( 1^-4) 1 8 6 4 2 角地型 ( 十字路 ) 正対型 (T 字路 ) 図 -2 ポテンシャル等高線の積分値 (2) 街路要因による比較面的に正対型のポテンシャルが高いことが明らかとなったことから, 角地型の透視面積率の変動が最も大きいところ, すなわち対岸の歩道空間上において透視面積率を測定し, 透視面積率曲線で扱っていくことにする. (a) 街路パターンによる比較交差点のパターン分類をした7パターンについて透視面積率曲線を求め, その特徴を分析する. 7 6 透視面積率 ( 1^-4) 5 4 3 2 1 5 1 15 2 視距離 (m) A: 十字路 B: 鋭角角地 C: 鈍角角地 D:T 字路 E:Y 字路 F: 五叉路 G: 分岐路 図 -5 街路パターン別の視距離と透視面積率の関係 図 -3 角地型 ( 十字路 ) のポテンシャル等高線 図 -4 正対型 (T 字路 ) のポテンシャル等高線 正対型の中でも, 図 -5から EとFが透視形態上では最も見えている面積が常に大きいため, ほぼ同等となった. しかし面的に見れば, 五叉路の方が, 見られる方向が多いため実際には最も高い評価となる. また, 角地型は 6m 付近でGとの逆転現象が生じている. ここから正対型の正面性よりも交差点空間の開放性が影響し, 角地の2 面性が利いてくると考えられる. これが45m 地点でも同様な傾向がみられ, 角地型のAおよびCは5m 地点で正対型のD に逆転現象を起こし, さらに45m 地点では正対型の Y 字路タイプのEとF を超えた値となっている. これはT 字路は一面のため早い段階で起こり, またC は視点場方向に面を向けているため, そしてEおよびF は反対側の面の視線入射角が小さくなることで透視面積が小さくなることが影響したからである. つまりこれらのことから, 角地型の見え方は6m 程度から変動が大きくなるといえる. (b) 街路幅員による比較評価モデルで街路幅員の変化が可能な範囲で, 車道幅 3 パターン 歩道幅 2 パターンの組み合わせで計 6 パターンのモデルを作成し, 街路幅員による影響をみる. 車道幅 :3.m 4.m 5.mの3 段階

歩道幅 :3.m 3.5mの2 段階街路幅員 :13.mから 18.mまでの6 段階 透視面積率 ( 1^-4) 7 6 5 4 3 2 1 12 14 16 18 2 街路幅員 (m) y = -48.3x + 1278.5 R 2 =.961 視距離 12m 視距離 1m 視距離 8m 視距離 6m 視距離 4m 図 -6 視距離による街路幅の影響 y = 27.5x - 189.4 R 2 =.994 y = 11.7x - 86.1 R 2 =.993 y = 4.16x - 18.2 R 2 =.916 y = 2.68x - 15.9 R 2 =.94 視距離 12m から1m にかけてはほとんど変化はないが,8mから6mにかけて変動が大きくなり, 幅員の影響が現れ始める. 透視面積率を目的変数として, 街路幅を説明変数 x1, 視距離を説明変数 x2として重回帰分析を行った結果, 重決定係数.779となり, 角地型における透視面積率は街路幅員と視距離によって概ね決定され, 視認性には広幅員街路が有効であることが言える. (3) 建物要因による比較 (a) 建物の突出率 ( 周囲の高さに対する比 ) による影響角地型および正対型の建物高さの突出率を 1.5,2.と変化させ, 変動および増分を比較する. 透視面積率 ( 1^-4) 18 16 14 12 1 8 6 4 2 5 1 15 2 25 視距離 (m) 突出率 1.( 十 ) 突出率 1.5( 十 ) 突出率 2.( 十 ) 突出率 1.(T) 突出率 1.5(T) 突出率 2.(T) 図 -7 突出率による透視面積率の変化 表 -2 突出率増加による影響 視距離 (m) 1.5(+) 2.(T) 1.5(+) 2.(T) 1 1.9 3.35 1.51 2.2 9 1.87 3.26 1.56 2.1 8 1.79 3.1 1.52 2.4 7 1.73 2.84 1.56 2.1 6 1.64 2.63 1.51 2.2 5 1.57 2.37 1.51 2.3 4 1.31 1.75 1.51 1.88 表 -2から十字路において1m~8m にかけては, 突出率 1.5 で1.8 倍から1.9 倍の影響があり, 突出率 2. においては3 倍以上の影響がある. このことからT 字路での突出効果よりも, 建物の見え隠れによる影響により角地型の突出効果の方が大きい. (b) 建物の隅切りによる影響角地型においてはデザインの幅を持たせるためにも建物の隅切りが有効である. そのため隅切りを行っても遠方からの視認性が十分保たれるかどうか, 評価モデルにおける透視面積率の変化を測定する. 表 -3 建物の隅切りによる影響視距離 (m) 周囲のみ 全て 対象のみ 1 1.1 1.9.94 9 1.17 1.16.99 8 1.21 1.19.99 7 1.21 1.19.99 6 1.23 1.2.99 5 1.24 1.22.99 4 1.8 1.6.99 表 -3から隅切りも効果は9m~8m 付近から徐々に現 れ, 最終的に隅切りされている交差点での対象への隅切 りの効果は1.2 倍程度上がる. 対象となる場のみ交差点 空間の歩行者滞留スペースとして隅切りを行っても視認 性は1% 程度低減するだけでほぼ保たれる. 5. 心理評価実験の画像の設定 街路空間における建物のランドマークポテンシャルの評価には, 幾何学的な形態要因分析の他に, 街路を実際に歩行者の視点から見た視覚評価が不可欠である. そこで本研究では作成した評価モデルの中を通過する画像を作成し, これを被験者に提示する方法で視覚心理評価実験を行う. これにより様々な街路パターンにおける場のポテンシャルを心理的側面より測定できる. カメラ位置は歩道中央に置き, 歩行者の視線高さとなるよう歩道路面から1.5m と設定し, その高さを保ってカメラを街路空間内で移動させ被験者に3DCGの中を通行する疑似体験を行ってもらう. 一般な人間の視野角に冠する6 度コーン説を考慮し,CG 内のカメラ画角も同じ6 度にし, 画角の近似を行う. 本来ならばスライドを歩行速度と同等の速度にした動画がより望ましいが, 各視点での評価を計測すること及び被験者の負担を考慮して視距離 2mからの静止画の断続提示を行った.

6. 角地建築物の視覚心理評価実験作成したモデルの中を通過する映像を作成し, 被験者に3DCG によって作成された画像群を提示する方法で視覚評価実験を行う. シークエンス的な歩行体験を通して視距離に応じて変化する角地建築物の見え方の視覚評価が重要であり, 様々な交差点パターンを評価してもらい, 被験者がどのようなパターンで角地建築物が印象に残るかを明らかにすることが目的である. 角地建築物の視覚的なランドマーク性の尺度化には一対比較法を用いた.2m 地点から 1m 間隔で 4mまで静止画像をランダムに 2 つずつ提示し, 目立ち度 の優劣を判断してもらった. その後, 角地建築物の視認性の影響圏域を把握するため 目立ち始めの距離 を被験者に回答してもらった. (1) 画像の提示方法スライドショーを用いて, 画面にスライド画像を断続的に提示して被験者に評価をしてもらう. 映像評価をしてもらう際には, 画角の近似を行うためディスプレイと被験者の視点までの距離を 25cm として実験を行う. (2) 実験方法被験者に時間的な負担をかけないために,2m の街路を1 秒程度で提示し, 全体の実験時間を45 分以内に収めることとする. 作成した評価モデル15パターンを2つずつ総当りで提示し, 一対比較を行う. 評価映像ごとに適当な評価がされているかを検討するために同じ映像の組み合わせを混入し, さらに, 前後効果の影響がないことを確かめるため, 前後ランダムに入れ替えた. また, 評価についての誤解のないように事前説明を行う. 実験手順は, 映像を2つ見てもらい, その後で5 秒間の回答時間の間に質問に答えてもらう. 質問は,2つ1 組の映像で, はじめに見た映像が後に見た映像よりも建物が印象的に感じた かという質問をし. 回答は か でしてもらい, 同程度は無しとしている. 最後に,15パターンのすべての映像に対して, 角地建築物がどの距離から目立ち始めたか という質問を1m 単位で回答してもらう. (3) 実験結果被験者実験によって得られた回答結果から, 目立ち度 の尺度値を求める. 評価モデルごとに一対比較を行っているため勝敗表を作成する. その勝敗表から被験者人数の31 人で割り, 確率に変換する. ここからサーストンの方法に基づき尺度値を算出する. この結果を表 -4に示す. さらに目立ち始めの距離を被験者の平均値により 算出したが, これが本当に信頼できる差があるといえるのかを確認するために, 標準偏差を考慮したものを街路パターン別に図 -8に示す. 表 -4 尺度化の結果 目立ち始めの距離 (m) ( 被験者平均値 ) タイプ パターン 尺度値 順位 A( 通常 ) 9.8 11 直角角地 B( 広 狭 ) 15 C( 狭 広 ) 1.2 1 D( 通常 ) 16.4 9 鋭角角地 E( 広 狭 ) 9.7 12 F( 狭 広 ) 17.3 8 G( 通常 ) 5.6 14 鈍角角地 H( 広 狭 ) 8.7 13 I( 狭 広 ) 3.2 7 J( 通常 ) 69.7 4 T 字型 K( 広 ) 59.1 5 L( 斜 ) 56.1 6 M( 通常 ) 1 1 Y 字型 N( 鋭角 ) 71.2 3 O( 五叉路 ) 92.1 2 18 16 14 12 1 8 6 4 2 A B C D E F G H I J K L M N O 街路パターン 図 -8 標準偏差を考慮した目立ち始めの距離 目立ち度の尺度は, 表 -4 から正対型が全て角地型より評価が高く, 中でもY 字路型は一番高い評価となった. 角地型は鋭角角地や狭幅員が印象に残りやすいという結果が得られた. 目立ち始めの距離に関しても常に対象として認識できる正対型の影響圏域は角地型に比べると大幅に広がり, 図 -8 から平均で 13m 付近まで及んだ. それに対し角地型は平均で 7m 程度である. またそれほど優位な差が見られたわけではないが, 角地型の中でも鋭角角地は他の角地型に比べ目立ち始めの距離が大きい結果となった. 7. 考察 正対型はパターン区分の順に全て高い評価が得られた. これは沿道建築物のスカイラインによる視線誘導や空間の断絶による額縁効果によって視軸上のアイストップと

なったためで, 中でもパターン L や N は積分値が角地型と同等にも関わらず高い目立ち度が得られたが, 正面性かつ進行方向への奥行き感を有していたからと考えられる. 一方, 角地型ではそれほど評価に大きな差がなかった. これは常にアイストップとなる正対型とは異なり, 遠方からある程度まで接近しないと壁面と同化してしまいランドマークとして認識されないからである. しかし鈍角角地のパターン I は他の角地型と比較し高い評価が得られた. これは狭幅員かつ空間に対して常にファサードを向けているため, 正対型同等の効果があるためである. また鋭角角地のパターン F と D は積分値が最も小さいが, 角地型の中でも若干高い評価が得られた. これはシークエンス体験の中で交差点角地の端点に視線が集中し, 視線入射角 ( 視線と壁面のなす角 ) が小さいことで, 建物への誘目性が高くなり印象に残りやすかったためであろう. 目立ち始めの距離に関しては角地型で平均して7m 前後であるのに対して, 常に対象として認識できる正対型は影響圏域が広がり平均して13m 付近まで及んだ. 建物の2.~2.5m 程度の出入口や窓枠などを有効な視覚対象として認識できるかを考慮すると, 視覚の限界値熟視角 1 度から115~14m 程度となりほぼ一致した. (2) 透視面積率と目立ち度尺度との相関関係 目立ち度尺度と透視面積率の積分値 ( 視点移動による透視面積率の累積値 ) との相関を図 -9 に示すと強い相関 (R=.795) が得られた. 特に正対型で顕著な傾向を示した. これは人が角地や正面の建物を認識するのは, 交差点にさしかかった箇所で一時的に視認する最終透視面積率 (R=.2) ではなく, 歩行時の一連のシークエンス的な景観体験の中で建物の印象を感じる積分値によるものと決定付けられる ( 表 -5 の積分値のt 値参照 ). 目立ち度尺度 1 9 8 7 6 5 4 3 2 1 y = 681.2x - 78.1 R =.795.1.15.2.25 透視面積率の積分値 図 -9 透視面積率の積分値と目立ち度尺度の相関 表 -5 重回帰分析の結果 目立ち度尺度への影響 説明変数 t 値 透視面積率の積分値 7.36 最終透視面積率 -2.256 最終見込角 (rad).213 最終視線入射角 (rad).3 進行街路幅員 (m) -2.889 交差街路幅員 (m) -1.225 重相関係数 R.953 寄与率 R^2.99 8. まとめと今後の課題 本研究において, 交差点付近の角地建築物のランドマーク性の評価においては, 街路パターンの区分によって評価順位が概ね決定されることから, 街路空間構成の街路パターンが大きく影響することが明らかとなった. このことから, 次のことが言える. 目立ち度尺度 の高いY 字路やT 字路などの正対型は, 透視面積率の積分値も高く, シークエンス的な街路空間を要する建築物の配置に適している. 例をあげれば, 広く多くの人に視認性が求められる駅舎や市役所等の公共施設などである. また, 形態要因の分析および心理評価実験からも角地型の中で高い評価が得られた鋭角角地は, 交差点空間に接近する前に視認性が高いという特性から, 運転者の視線から有効となる施設の配置が効果的である. こういったランドマークとしてのポテンシャルを持つ 場 が, 今後の交差点空間の整備の際に活かされればより人々の印象に残りやすいランドマーク性のある空間となりうるであろう. 今回は街路幅員や街路パターンなどの街路空間構成に注目したが, さらに今後は他の屋外広告物や電線電柱などの景観構成要素によるポテンシャルの低減や建物の規模, ファサードの影響の変化, オープンスペースとの兼ね合いも含めて, 総合的に考えていく必要がある. また今回実験をする上で画像内の視野の限界があったため, 今後はより歩行者の眼球運動や頭部の運動といったより歩行者の歩行時の実態を考慮する必要がある. 正対型のランドマーク性が潜在的に高いということは言えたが, 歩行者の頭部の動きにより視線入射角が有利に働くとむしろ角地型のインパクトが, 正対型に比べ高くなる可能性も残されている. 参考文献 1) 土木学会 : 街路の景観設計,pp.92-97, 技報堂出版, 1985 2) 深堀清隆, 窪田陽一, 白濱美香, ホーウェンユエ : 場の定位を尺度としたランドマーク構図の視覚的影響分析, 土木計画学研究 論文集, Vol.18 no.2, pp.349-358, 21