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ただし 対象となることを希望されないご連絡が 2016 年 5 月 31 日以降にな った場合には 研究に使用される可能性があることをご了承ください 研究期間 研究を行う期間は医学部長承認日より 2019 年 3 月 31 日までです 研究に用いる試料 情報の項目群馬大学医学部附属病院産科婦人科で行

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では 実際の産婦人科学会のガイドラインのシューマでございますが 左側の白い四角のところに適応疾患が書いてありますが 適応がありますと患者さんの状態として 全身状態の良好 持続出血がない 体重 45kg以上 採血時 Hb 値 10g/dL 以上を目安としております 先ほどの自己血採血の自己血学会ガイド

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スライド 1

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婦人科63巻6号/FUJ07‐01(報告)       M

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L5214_⑥カリキュラム(産婦人科)

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佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

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3 医療安全管理委員会病院長のもと 国府台病院における医療事故防止対策 発生した医療事故について速やかに適切な対応を図るための審議は 医療安全管理委員会において行うものとする リスクの把握 分析 改善 評価にあたっては 個人ではなく システムの問題としてとらえ 医療安全管理委員会を中心として 国府台

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資料1-1 HTLV-1母子感染対策事業における妊婦健康診査とフォローアップ等の状況について

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5. 乳がん 当該疾患の診療を担当している診療科名と 専門 乳房切除 乳房温存 乳房再建 冷凍凝固摘出術 1 乳腺 内分泌外科 ( 外科 ) 形成外科 2 2 あり あり なし あり なし なし あり なし なし あり なし なし 6. 脳腫瘍 当該疾患の診療を担当している診療科名と 専

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産科危機的出血への対応ガイドライン 2010 の改訂のご案内 産科危機的出血への対応ガイドライン は 2010 年に関連 5 団体により初めて策定され 今日の臨床において広く用いられています しかし 6 年が経過し周産期管理の進歩とエビデンスの集積により 実際と合致しない部分が出てきているため 今回


CCU で扱っている疾患としては 心筋梗塞を含む冠動脈疾患 重症心不全 致死性不整脈 大動脈疾患 肺血栓塞栓症 劇症型心筋炎など あらゆる循環器救急疾患に 24 時間対応できる体制を整えており 内訳としては ( 図 2) に示すように心筋梗塞を含む冠動脈疾患 急性大動脈解離を含む血管疾患 心不全など

甲状腺機能が亢進して体内に甲状腺ホルモンが増えた状態になります TSH レセプター抗体は胎盤を通過して胎児の甲状腺にも影響します 母体の TSH レセプター抗体の量が多いと胎児に甲状腺機能亢進症を引き起こす可能性が高まります その場合 胎児の心拍数が上昇しひどい時には胎児が心不全となったり 胎児の成

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11.【最終版】プレスリリース修正  循環器内科泉家

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方法について教えてください A 妊娠中の接種に関する有効性および安全性が確立されていないため 3 回接種を完了する前に妊娠していることがわかった場合には一旦接種を中断し 出産後に残りの接種を行うようにしてください 接種が中断しても 最初から接種し直す必要はありません 具体的には 1 回目接種後に妊娠

Transcription:

報告書 県立大野病院医療事故について 県立大野病院医療事故調査委員会平成 17 年 3 月 22 日

目 次 第 1 県立大野病院医療事故調査委員会 P1 1 目的 2 構成員 第 2 事故の概要 P1 1 患者及び疾患名 2 スタッフ 3 診療経過 第 3 調査項目と検討内容 P2 1 術前診断 2 手術中 第 4 調査結果 P3 1 事故原因 2 事故の要因 3 総合判断 第 5 今後の対策 P4 ( 参考 ) 用語集 P5 県立大野病院医療事故調査委員会における調査内容 P6

第 1 県立大野病院医療事故調査委員会 1 目的平成 16 年 12 月 17 日に帝王切開術を受けた妊婦が 同日 19 時 1 分に手術室にて死亡するといった医療事故が発生した この事例を検証し 今後の前置胎盤 癒着胎盤症例の帝王切開手術における事故防止対策を検討することを目的として設置した 2 構成員委員長 : 宗像正寛 ( 県立三春病院診療部長 ) 委員 : 田中幹夫 ( 財団法人太田綜合病院附属太田西ノ内病院産婦人科部長 ) 委員 : 藤森敬也 ( 県立医科大学医学部附属病院総合周産期母子医療センター講師 ) 第 2 事故の概要 1 患者及び疾患名 20 歳代の女性 (1 回経産 ) 術前診断 : 前回帝王切開 部分前置胎盤 2 スタッフ執刀医 : 産婦人科専門医助手 : 外科医麻酔医 : 麻酔科専門医看護師 :4 名 ( のち5 名 ) 3 診療経過 11 月 22 日 妊娠 32 週 2 日切迫早産 部分前置胎盤の診断で入院 12 月 17 日 妊娠 36 週 6 日帝王切開術となる 濃厚赤血球 5 単位を準備 14:02 麻酔開始 ( 硬膜外麻酔 + 脊椎麻酔 ) 14:26 手術開始 14:37 児娩出 14:50 胎盤娩出 総出血量約 5,000ml 輸血 濃厚赤血球 5 単位 15:15 輸血製剤 ( 濃厚赤血球 )10 単位発注 術中 1 回目 15:35 全身麻酔に移行 16:05 輸血製剤 ( 濃厚赤血球 )10 単位発注 術中 2 回目 16:30 輸血製剤到着 術中 1 回目 輸血 濃厚赤血球 10 単位 総出血量約 12,000ml - 1 -

子宮摘出術開始 17:30 輸血製剤到着 術中 2 回目 輸血 濃厚赤血球 10 単位 17:30 頃 子宮摘出 18:00 頃 心室細動 蘇生開始 19:01 死亡確認 総出血量約 20,000 ml( 羊水を含む ) 総補液量約 15,000 ml ( 濃厚赤血球 25 単位 新鮮凍結血漿 15 単位を含む) 第 3 調査項目と検討内容 1 術前診断妊娠初期より超音波検査で胎盤付着部が後壁であり低置胎盤と診断しており 平成 16 年 8 月 3 日妊娠 17 週から前置胎盤と認識している また同年 11 月 19 日妊娠 32 週には妊婦 夫に前置胎盤のため早期の入院の必要性を説明している 平成 16 年 11 月 22 日に切迫早産の診断で入院 平成 16 年 12 月 3 日の超音波検査 カラードプラ法にて後壁付着の部分前置胎盤と診断しているが この時の経膣超音波写真を検証すると全前置胎盤であったと思われる ただし 部分前置胎盤であっても全前置胎盤であっても 帝王切開術を選択したことは妥当であった 前 1 回帝王切開の既往 後壁付着の前置胎盤であれば 一般に癒着胎盤の頻度は高くはないため癒着胎盤を強く疑ってはいなかった 12 月 6 日に妊婦 14 日に妊婦 夫に対し帝王切開時の輸血の可能性 子宮摘出の可能性について説明をしている 帝王切開の時期は妊娠 36 週 6 日であるが前置胎盤例であり手術前の出血予防の点から妥当であると考える また上記の術前診断 かつ妊婦の希望もあったため 大野病院で手術を行うとしたことはやむを得ないと思われる 癒着胎盤という認識が少ないため輸血の準備として濃厚赤血球 5 単位を用意したものであり 癒着胎盤の疑いを強く持っていれば少なくとも 10 単位以上の準備は必要であった 結果として準備血液は不足していた 2 手術中胎児への影響を考え硬膜外麻酔及び脊椎麻酔で手術開始 胎児娩出までは問題なし 胎盤剥離は子宮上部から用手的に剥離し子宮下部は剥離困難のためクーパー ( 手術用ハサミ ) を用いて剥離した 用手的に剥離困難の時点で癒着胎盤と考えねばならない クーパーを使用する前に剥離を止め子宮摘出に直ちに進むべきであったと考える しかし妊婦は20 歳代と年齢も若く 子宮温存の希望があったため 子宮摘出の判断の遅れが生じたと考える 胎盤剥離後までには約 5,000mlの出血があり血圧の低下 その後に脈拍数の著しい増加が持続している 濃厚赤血球 5 単位の輸血後に血圧の上昇が認められるが頻脈のままであり 循環動態が安 - 2 -

定したとは言えず いわゆる出血性ショックの状態と考えてよいのではないか 何とか止血しようと胎盤剥離部の縫合 子宮内へのガーゼ充鎮圧迫 双手圧迫止血 また両側子宮動脈付近をペアンで挟み血流遮断し止血のための操作は行っている この時には産婦人科を含めた院内外の医師の手術応援が必要と思われる 出血当初より輸液量は少なく循環血液量の不足が持続している 頻脈 無尿はそのためであろう 人手があれば輸液ルートをもっと確保し輸液量を十分に投与できたと思われる マンパワーの不足が痛感される 子宮摘出を考えた時期には全身状態は悪く圧迫止血を図りながら血液到着を待たねば手術が進められない状態となっていた 準備血液の不足 さらに血液発注の遅れがあった 子宮摘出術式に問題はなかった なお 手術中に大量出血した時点 子宮摘出を判断した時点において家族に対する説明がなされていなかった 18 時頃には心室細動となり 蘇生術を行ったが 19 時 1 分に死亡した これらの経過から出血性ショック 循環血液量の不足が持続し心筋への酸素供給不足が持続して心筋の虚血性変化が現れ心室性不整脈をおこし死亡したと考えられる 第 4 調査結果 1 事故原因癒着胎盤の剥離による出血性ショック 出血性ショックに陥り輸液が不足し循環血液量が減少し 心筋の虚血性変化がおこり心室性不整脈をおこし死亡に至ったと考えられる 2 事故の要因 (1) 癒着胎盤の無理な剥離 (2) 対応する医師の不足 (3) 輸血対応の遅れ 3 総合判断今回の事例は 前 1 回帝王切開 後壁付着の前置胎盤であった妊婦が帝王切開手術を受け出血多量 出血性ショック 循環血液量減少その結果心筋の虚血性変化をおこし死亡に至ったと思われる 出血は子宮摘出に進むべきところを 癒着胎盤を剥離し止血に進んだためである 胎盤剥離操作は十分な血液の到着を待ってから行うべきであった 循環血液量の減少は輸液 ( 輸血も含め ) の少なさがある 他科の医師の応援を要請し輸液ルートを確保して輸液量を増やす必要があった 手術途中で 待機している家族に対し説明をすべきであり 家族に対する配慮が欠けていたと言わざるを得ない - 3 -

第 5 今後の対策今回の事例の調査 検討の結果を踏まえて 以下のことが求められる 1 既往帝王切開が1 回であっても前置胎盤の場合には付着部位にかかわらず癒着胎盤を常に念頭に置き十分な術前診断が求められる 2 前置胎盤を含めリスクの高い症例の手術に対しては複数の産婦人科医師による対応及び十分な準備が必要である 3 医師間及び医師 看護師間の意思疎通や緊急時の助言といった相互協力を十分に行ってチーム医療を活用すべきである - 4 -

( 参考 ) 用語集 1 前置胎盤 子宮の児の出る出口 ( 内子宮口 ) を胎盤が覆う状態子宮口を覆う程度により 全前置胎盤 胎盤が内子宮口を完全に覆うもの 部分前置胎盤 胎盤が内子宮口の一部を覆うもの 正常胎盤位置は胎盤下縁が内子宮口より4~5cm 上方 2 癒着胎盤 妊娠子宮は外側から漿膜 筋肉 ( 筋層 ) 脱落膜となっている 通常 胎盤は脱落膜と接しているが 癒着胎盤は胎盤組織の一 部が筋層に付着 または陥入している状態 3 濃厚赤血球人間の血液から血漿及び白血球の大部分を除去した赤血球のみの製剤 1 単位は人間の血液 200mlに相当 4 新鮮凍結血漿 人間の血液から血漿及び各種凝固因子をできるだけ損なわない状態で凍結したもの血漿は赤血球 白血球 血小板を除いた血液の液体成分で蛋白 や止血成分が含まれている 1 単位は200mlの血液から生成 される 5 子宮前壁 後壁 骨盤内の妊娠子宮の腹側 膀胱側を子宮前壁といい 背中側を 後壁という 6 カラードプラ法超音波検査 ( エコー ) の画像内で どこにどのような血流があるかを表示する赤色 青色の2つの色で表示される 7 出血性ショック 大出血により 身体各部への血液及び酸素供給が障害され 放 置すれば進行性に全身の細胞機能不全状態となり 死に至る重 篤な病態 8 双手圧迫 子宮の中に入れた手と子宮の外側上部をもう一方の手で圧迫し て子宮の収縮を促し止血する方法 9 ペアン組織や血管を損傷させることなく強く挟む手術器具 10 心筋虚血 心筋への血流が減少して心筋への酸素供給が需要を下回り心筋 の働きが阻害された状態 11 心室性不整脈最も重症の不整脈 - 5 -

県立大野病院医療事故調査委員会における調査内容 第 1 回委員会 ( 平成 17 年 1 月 13 日 ( 木 ) 開催 ) 1 関係資料の確認 2 関係者への聞き取り調査 県立大野病院の医師 第 2 回委員会 ( 平成 17 年 1 月 31 日 ( 月 ) 開催 ) 1 関係資料の確認 2 関係者への聞き取り調査 県立大野病院の医師及び看護スタッフ 3 現地等の調査 第 3 回委員会 ( 平成 17 年 2 月 23 日 ( 水 ) 開催 ) 1 関係資料の確認 - 6 -