mrna の二次構造により制御される熱ショックシグマ因子 (σ32) の翻訳誘導メカニズム 森田美代 1, 田中好幸 2, 児玉高志 3, 京極好正 3, 柳秀樹 4, 由良隆 4 (1 奈良先端大, 2 工技院, 3 阪大蛋白研, 4HSP 研 ) 大腸菌を 30 定常状態から 42 へ温度シフトしたときに見られる熱ショック応答は RNA ポリメラーゼの σ サブユニットの一種である σ32(rpoh 遺伝子産物 ) の細胞内量によって調節されている 熱ショック直後に σ32 の合成速度が上昇することと 定常状態では不安定な σ32 自身が安定化することにより 急激かつ一時的に σ32 量が増加する σ32 合成の熱ショック誘導は主に rpoh mrna の翻訳段階で調節されており rpoh mrna の翻訳開始点近傍を含むコーディング領域内部に 2 箇所の翻訳調節領域 (A 及び B) が存在する 領域 A は開始コドン直後の +6~+20 塩基目に位置し 高い翻訳効率を付与し 領域 B は +110~+210 塩基に位置しており 翻訳を抑制する 二次構造予測 変異導入による解析 近縁種での保存 structure probing による mrna 二次構造の解析等から これらの領域が互いに塩基対を形成することが示され この構造が翻訳調節に深く関わっていることが示唆されていた 本研究では 熱による σ32 の合成誘導の分子メカニズムの解明を試みた 翻訳調節領域に導入した欠失 塩基置換変異が in vivo での rpoh-lacz 融合遺伝子の翻訳誘導に及ぼす影響を調べたところ mrna の翻訳開始領域の二次構造の安定性が増すと予想されたものについては 融合蛋白質の合成速度及び熱ショック誘導の割合が低下した これとは逆に 安定性が減少すると予想されたものは合成速度及び誘導の割合が増加するという相関が認められた 実際に 融合遺伝子産物の合成速度の異なる変異 RNA と野生型 RNA を用いて 温度による構造変化を紫外領域円二色性 (CD) により調べた結果 合成速度の高いものほどより低い温度で変性し始めることが示された 更に in vitro で精製した mrna と 30S リボソームとの結合実験を行い 他の細胞性因子を含まないことが期待される条件で 30S リボソームとの結合が温度により制御され得ることを示した これらの結果は 高温シフトにより二次構造が融解することが翻訳誘導の引金になるという rpoh mrna が温度センサーとして機能する可能性が極めて高いことを示唆している 主要転写開始因子 σ は分子温度計か? 佐藤由美子 永井宏樹 Taciana Kauscikovic* Richard S. Hayward* 嶋本伸雄 ( 遺伝研 構造遺伝学センター *Edinburgh Univ.) 分子温度計は RNA か蛋白質かについての議論されてきたが 熱ショックに関しては 酵母と大腸菌の超高温耐性に対しては 具体的な蛋白質モデルが提案されている 今回我々は 大腸菌主要転写開始因子 σ70 が分子温度計になっている可能性について報告する σ70 は表面吸着を起こしやすい異常な蛋白質であるが 生理的温度 43.5 C で 数十以上の巨大な集合体を in vitro でも in vivo でも形成することが明らかになった また 細胞内の σ70 のコピー数を増加させると細胞の耐熱性は上がり 減少させると低下した プロテオバクテリアのみに存在する領域を欠失させた del245 変異 σ70 は 4 C でもすでに大部分は集合体を形成している σ70 の遺伝子 rpod の破壊株は del245 では通常相補されないが del245 を大量発現した状態では 30 C 以下では相補する このことから 欠失させた領域は 増殖には必須ではないが 高温耐性に必要であることが証明できた また 高温でも集合体を作りにくい枯草菌 SigA は rpod の破壊を 35 C では相補しないが 43.5 C では相補することが明らかになった つまり 集合体形成と細胞の耐熱性に相関がみられ 大腸菌の分子温度計が σ70 である可能性が示された また σ32 と σ38 への切り替え期にも 細胞内で集合体形成が起こっていたので この集合体形成は ほとんどの RNA ポリメラーゼからを奪うことによって 別の σ 因子へのスイッチング機構となっていることが示された
大腸菌 Rho-independent terminator の機能解析 : 転写と翻訳の相互作用 大井いずみ 阿保逹彦 安倍裕順 饗場弘二 ( 名大院 理 生命理学 ) 細胞内における転写終結の機構やこれらのシグナルの生理機能については不明の点が多い 最近我々は大腸菌の crp (camp receptor protein) 遺伝子の Rho-independent terminator (crp T) の解析から mrna の翻訳とカップルしたダイナミックな終結機構が存在することを見い出した すなわち crp 遺伝子が正常に翻訳されているとき RNA polymerase は大部分 terminator を通過すること 転写終結は主に下流 300bp の範囲内でランダムに起こり 3' 末端の長さの異なる pre-mrna 生成されること それらの 3' 末端が terminator のステムループ部分までプロセスされて約 700 nt の均一な mature-mrna になることなどを見い出した 今回 terminator を通過した RNA polymerase が下流の遺伝子の転写に及ぼす影響を明らかにするため crp T の下流にプロモーターを欠失した第二の遺伝子 crr (IIAGlc をコード ) を配置した "crp-crr オペロン " を構築し 細胞内における転写産物及びタンパクの発現を解析し以下の結果を得た (1) 転写は crp T の 300bp 以上下流まで進行し 1400 nt の crp-crr polycistronic mrna が crp mrna と同程度検出された (2)SD 配列及び開始コドンに変異を導入して crr の翻訳を低下させると crp-crr polycistronic mrna 量は顕著に減少し crp mrna 量が増加した (3) この変異による CRP の発現量には変化は無かった これらの結果は 上記のランダムな転写終結が下流 ORF の翻訳により解除されることを意味しており 転写と翻訳との新たな機能的相互作用の存在を示唆している ゲノム上では crp 遺伝子の下流には 2000 bp からなる機能不明の ORF(yhfK) が存在しており あたかも crp- yhfk オペロンを形成しているようにみえる 今後 crp T と yhfk の発現との関係をはじめ 細菌ゲノム上に多数存在している Rho-independent terminator とその下流に存在する遺伝子の発現の関係を検討することにより Rho-independent terminator の生理機能を明らかにしていきたい 枯草菌 SRP 様粒子構成成分 scrna の Alu ドメイン結合蛋白質の解析 山崎高生 鈴間聡 中村幸治 山根國男 ( 筑波大 生物科学 ) 哺乳類の SRP( シグナル認識粒子 ) は機能上 4 ドメイン (I~IV) から成る特徴的な二次構造を持つ SRPRNA と 6 種類の結合蛋白質 (SRP9, 14, 19, 54, 68, 72) から構成されている 枯草菌 SRP RNA(scRNA) には 多くの真正細菌に共通するドメイン IV 構造の他にドメイン I, II 構造 (Alu 配列 ) が存在する scrna ドメイン IV 領域には SRP54 の相同因子である Ffh 及び蛋白質伸張因子 EF-G がそれぞれ独立に結合する 枯草菌の scrna の Alu 領域に結合能を有する蛋白質の探索を行ったところ ドメイン I に高い親和性を示す蛋白質の存在が示された P6-DG Bio-Gel DEAE Sepharose CL-6B カラムにより精製を行い 活性画分についてノースウェスタン法を行い 結合蛋白質の分子量を特定したところ約 10KDa の蛋白質が同定された 得られた N 末端 20 残基の配列をもとにデータベース検索を行ったところ 枯草菌ヒストン様タンパクである HBsu の N 末端 20 残基と完全に一致した 哺乳類 Alu 結合蛋白質である SRP9/SRP14 ヘテロダイマーとはアミノ酸レベルでの相同性は見られなかった しかし 報告されている HBsu ホモダイマーのの結晶構造は SRP9/14 と同じく (α-β-β-β-α) 2 構造をもち 6 本の逆平行 β シート構造を 2 本の α ヘリックスが裏打ちする新規の RNA 結合モチーフであることが示唆された 免疫沈降実験の結果より Ffh 及び HBsu は 菌体内で scrna を介して約 8.2S の複合体を形成していた mrna キャッピング酵素システムによるキャップ形成機構
水本清久, 塚本俊彦, 柴垣芳夫, 深町伸子, 小林薫 ( 北里大 薬 生化学 ) キャップ構造は,RNA polymerase_ (pol_) による転写反応のごく初期に新生 RNA 鎖 5' 末端に付加され, その後の RNA 代謝において重要な役割を演じている. メチル化キャップ構造の形成は, キャッピング酵素システム中の少なくとも 3 つの一連の酵素活性,RNA 5' トリホスファターゼ (TPase),mRNA グアニル酸転移酵素 (GTase), および mrna( グアニン -7-) メチル基転移酵素 (MTase) によって触媒される. 我々はこれら酵素遺伝子を酵母 (S. cerevisiae) およびヒトから分離し, それぞれの酵素の構造 - 機能相関, およびこれら酵素と pol_ 転写装置との相互作用について解析している. 酵母キャッピング酵素は 2 種類のサブユニット,_ (GTase) および _ (TPase) からなり, それぞれ異なる遺伝子, CEG1 および CET1 によってコードされる. 一方, ヒトでは両活性が単一ポリペプチド鎖上にドメイン (N 末側 TPase, C 末側 GTase) として存在し,hCAP1 遺伝子によってコードされる.GTase のアミノ酸配列は, 酵母, 動物共に活性中心を始めとしていくつかの共通モチーフが認められる. しかし,TPase に関しては, 動物由来 ( ヒト, マウス,C. elegans) のものが相互に高い相同性を示し, しかもプロテインチロシンホスファターゼ (PTP) ファミリーの活性中心を含むモチーフを共通にもつのに対して, 酵母の TPase はこれらと全く異なる配列を有していた. このようなキャッピング酵素の構成や TPase の構造上の相違にも拘わらず, 酵母 CEG1 破壊株および CET1 破壊株は, いずれも hcap1 により相補されることが明らかとなった. この相補系は,in vivo における酵母およびヒトキャッピング酵素の構造 - 機能を解析する上で有用と思われる. 我々はこれまでに,HeLa 細胞より得た in vitro 転写系を用いて, キャッピング酵素系が pol_ の転写開始複合体 (IC) に特異的に組込まれて機能していることを酵素化学的に示してきた. 今回, ヒト GTase/TPase (hcap1p) およびヒト MTase (hcmt1p) に対する抗体を用いた far-western 法等によりこれら酵素と pol_ との相互作用を調べた. その結果,hCAP1p は CTD がリン酸化された pol_ (pol_o) に特異的に結合することが示された. しかし, hcmt1p は pol_o に対して直接強い親和性を示さなかった. 一方, プルダウン実験から,hCAP1p と hcmt1p は直接相互作用することが観察された. キャッピング酵素と pol_o の相互作用は,RNA プロセシングシステムが CTD と相互作用するという最近の発見と考え合せて興味深い. Mycoplasma capricolummcs4 RNA 結合タンパク質の同定 牛田千里 笹木哲治 安藤候平 松田貴意 武藤あきら ( 弘前大 農学生命科学部 ) M. capricolum MCS4 RNA (125nt) は真核生物の U6 snrna と類似した塩基配列をもつ これまで原核生物には真核生物の mrna 前駆体型イントロンやスプライソゾームを形成する核内低分子 RNA に相同な RNA 分子種は発見されていないことから MCS4 RNA が M. capricolum の細胞内で U6 snrna と同じ機能をもつとは考えにくい われわれは MCS4 RNA に結合する二種類のタンパク質を同定したので ここに報告する MCS4 RNA は M. capricolum の細胞内に多量に存在し 複数の因子と複合体を形成することがこれまでの研究から示唆されている 5 末端を放射性同位体で標識した MCS4 RNA と M. capricolum S100 画分を用いてゲルシフトアッセイを行ったところ MCS4 RNA は少なくとも 4 種類の複合体 (MCS4 RNA 複合体 I II III IV) を形成することがわかった ゲルシフトアッセイの反応液に放射性同位体で標識していない MCS4 RNA あるいは酵母 trna を加えると 複合体 III と IV の場合はどちらの RNA を加えても複合体形成が競合されるのに対し 複合体 I と II の場合は MCS4 RNA でのみ競合が見られ 酵母 trna による影響はほとんどなかった この結果は複合体 I と II を形成するそれぞれの MCS4 RNA 結合因子が MCS4 RNA に特異的に結合することを示唆する そこでこれらの複合体を形成する MCS4 RNA 結合因子を数種のカラムクロマトグラフィーを用いて精製し それぞれの N 末端のアミノ酸配列を決定した 得られたアミノ酸配列に対してホモロジーサーチを行ったところ 複合体 I に含まれる MCS4 RNA 結合タンパク質は解糖系酵素の一つであるグリセルアルデヒド -3- リン酸脱水素
酵素と また複合体 II に含まれる MCS4 RNA 結合タンパク質は翻訳系に働くアスパラギン trna 合成酵素と高い相同性を示した さらにそれらのタンパク質はそれぞれの酵素活性をもつことから同酵素であることを同定した MCS4 RNA がそれぞれの酵素活性にどのような影響を及ぼすか またその生理的意義について検討中である RNA 切断因子 GreA, GreB の作用機構と遺伝子アレイを用いた細胞内での役割の推定 嶋本伸雄 久堀智子 Ranjan Sen 永井宏樹 須佐太樹 ( 遺伝研 構造遺伝学センター ) RNA 切断因子は RNA 伸長時に不活化した複合体を 複合体中の RNA を切断することにより 3' 端の位置を正して再活性化させる RNA 伸長因子とされてきた しかし我々は 大腸菌の RNA 切断因子 GreA, GreB は 転写開始因子としての役割がむしろ主という結果を得たので報告する 大腸菌のプロモーターの中には RNA ポリメラーゼを不可逆的にトラップ ( アレスト ) するものがあり N25antiDSR や _PR プロモーターでは アレストされた複合体は各々前後に数塩基ずれた位置にとどまっている GreAB を前もって添加することによりアレストは無くなる 通常アレストを示さないプロモーターでも低塩濃度ではアレストが観測されること等から トラッピングはどのプロモーターでも起こるが その可逆性が重要で GreAB は可逆性を高めてアレストを解消するアロステリック因子であるとのモデルが提案できる In vitro では GreA はアレスト防止力が強いが RNA 伸長時には効果が小さく GreB はその逆である それらの遺伝子の破壊株を作製して その表現型を調べた greab 二重破壊株は 低温感受性で MnCl2 への耐性が低下していた grea 破壊株は二重破壊株に近く greb 破壊株は野生株と区別できなかったので Gre 因子は転写伸長因子より開始因子としてより重要であることが示された 野生株と二重破壊株から mrna を調製して 大腸菌マクロアレイで全 ORF の発現パターンの差を求めた 発現が確認された 2300 遺伝子のうち二重破壊株では 各種の 207 遺伝子の発現が有意に減少しており 68 遺伝子では増大していた それら各々の 70% は オペロンの第一シストロンか 同一傾向をもつ遺伝子をオペロンの第一シストロンにもつオペロンのメンバーであり 転写開始が Gre 因子の主要機能であることと一致した 発現が減少した遺伝子と増加した遺伝子のプロモーターを比較すると 減少したものの大部分には -35 box と -10 box との間に AT クラスターが多く存在していた このことは プロモーターにアレストされた複合体の位置のズレ機構を示唆するものである 葉緑体の RNA エディティング部位認識を司る RNA 結合タンパク質 廣瀬哲郎 杉浦昌弘 ( 名古屋大 遺伝子 ) 葉緑体には mrna 上の特定のシチジン (C) がウリジン (U) に変換される RNA エディティングが存在する エディティングは種間で保存されたアミノ酸コドンを獲得したり 機能的な開始コドンや終始コドンが形成することから 葉緑体におけるエディティングの役割は RNA レベルの遺伝情報校正機構であると考えられる また我々のこれまでの解析により組織的なエディティングによって特定の葉緑体 mrna の翻訳がコントロールされていることが明らかになっており エディティングは遺伝子発現制御段階として捉えることもできる 一方 葉緑体のエディティ
ングの分子機構はこれまでにほとんど明らかになっていない 特に mrna 上の数ある C 残基の中から特定の C 残基がどのように認識されるのか? あるいは C から U への置換はどのようにおこるのか? といった基本的な機構も全く未知のままである 我々は分子機構の解明のために有用な解析系としてタバコ葉緑体抽出液を用いた in vitro RNA エディティングの開発に始めて成功した この in vitro 系を用いた解析により 2 つのエディティング部位についてそれぞれ全く異なった配列からなるエディティングシス領域を同定した さらに 競争阻害実験によって それぞれのシス領域に相互作用する部位特異的なトランス因子の存在を明らかにし UV クロスリンク法によりシス配列に特異的に結合する RNA 結合タンパク質の検出に成功した さらに免疫学的手法により我々が以前同定した RRM 型葉緑体 RNA 結合タンパク質の一つが RNA エディティングに必要であることが示された 以上の結果から 葉緑体 mrna の特異的なエディティング部位認識は部位特異的な RNA 結合タンパク質と偏在する RNA 結合タンパク質の共同作用により達成されることが推測される