九保大_研究紀要2016_校了.indd

Similar documents
がん登録実務について

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

H27_大和証券_研究業績_C本文_p indd

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

モノクローナル抗体とポリクローナル抗体の特性と

Untitled

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

スライド 1

表紙69-5,6_v10.eps

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

<4D F736F F F696E74202D2097D58FB08E8E8CB1838F815B834E F197D58FB E96D8816A66696E616C CF68A4A2E >

かし この技術に必要となる遺伝子改変技術は ヒトの組織細胞ではこれまで実現できず ヒトがん組織の細胞系譜解析は困難でした 正常の大腸上皮の組織には幹細胞が存在し 自分自身と同じ幹細胞を永続的に産み出す ( 自己複製 ) とともに 寿命が短く自己複製できない分化した細胞を次々と産み出すことで組織構造を

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

血漿エクソソーム由来microRNAを用いたグリオブラストーマ診断バイオマーカーの探索 [全文の要約]

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 P EDTA-2Na( 薄紫 ) 血液 7 ml RNA 検体ラベル ( 単項目オーダー時 ) ホンハ ンテスト 注 外 N60 氷 MINテイリョウ. 採取容器について 0

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

PowerPoint プレゼンテーション

イルスが存在しており このウイルスの存在を確認することが診断につながります ウ イルス性発疹症 についての詳細は他稿を参照していただき 今回は 局所感染疾患 と 腫瘍性疾患 のウイルス感染検査と読み方について解説します 皮膚病変におけるウイルス感染検査 ( 図 2, 表 ) 表 皮膚病変におけるウイ

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

Microsoft PowerPoint - 4_河邊先生_改.ppt

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク ) 血液 6 ml 血清 I 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 茶色 )

革新的がん治療薬の実用化を目指した非臨床研究 ( 厚生労働科学研究 ) に採択 大学院医歯学総合研究科遺伝子治療 再生医学分野の小戝健一郎教授の 難治癌を標的治療できる完全オリジナルのウイルス遺伝子医薬の実用化のための前臨床研究 が 平成 24 年度の厚生労働科学研究費補助金 ( 難病 がん等の疾患

検査項目情報 トータルHCG-β ( インタクトHCG+ フリー HCG-βサブユニット ) ( 緊急検査室 ) chorionic gonadotropin 連絡先 : 基本情報 ( 標準コード (JLAC10) ) 基本情報 ( 診療報酬 ) 標準コード (JLAC10)

検査項目情報 1174 一次サンプル採取マニュアル 4. 内分泌学的検査 >> 4F. 性腺 胎盤ホルモンおよび結合蛋白 >> 4F090.HCGβ サブユニット (β-hcg) ( 遊離 ) HCGβ サブユニット (β-hcg) ( 遊離 ) Department of Clinical Lab

原発不明がん はじめに がんが最初に発生した場所を 原発部位 その病巣を 原発巣 と呼びます また 原発巣のがん細胞が リンパの流れや血液の流れを介して別の場所に生着した結果つくられる病巣を 転移巣 と呼びます 通常は がんがどこから発生しているのかがはっきりしている場合が多いので その原発部位によ

<4D F736F F D20322E CA48B8690AC89CA5B90B688E38CA E525D>


今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

審査結果 平成 23 年 4 月 11 日 [ 販 売 名 ] ミオ MIBG-I123 注射液 [ 一 般 名 ] 3-ヨードベンジルグアニジン ( 123 I) 注射液 [ 申請者名 ] 富士フイルム RI ファーマ株式会社 [ 申請年月日 ] 平成 22 年 11 月 11 日 [ 審査結果

H24_大和証券_研究業績_p indd

情報提供の例


がん免疫療法モデルの概要 1. TGN1412 第 Ⅰ 相試験事件 2. がん免疫療法での動物モデルの有用性がんワクチン抗 CTLA-4 抗体抗 PD-1 抗体 2

EBウイルス関連胃癌の分子生物学的・病理学的検討

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

本日の内容 HbA1c 測定方法別原理と特徴 HPLC 法 免疫法 酵素法 原理差による測定値の乖離要因

平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

健康だより Vol.71(夏号)

博士の学位論文審査結果の要旨

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

計画研究 年度 定量的一塩基多型解析技術の開発と医療への応用 田平 知子 1) 久木田 洋児 2) 堀内 孝彦 3) 1) 九州大学生体防御医学研究所 林 健志 1) 2) 大阪府立成人病センター研究所 研究の目的と進め方 3) 九州大学病院 研究期間の成果 ポストシークエンシン

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 10 年相対生存率に明らかな男女差は見られない わずかではあ



06 49〜53江藤・永井.ec9


公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研究事業 ( 平成 28 年度 ) 公募について 平成 27 年 12 月 1 日 信濃町地区研究者各位 信濃町キャンパス学術研究支援課 公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研

研究成果報告書

50-3ガイド10ポ.indd

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

ASC は 8 週齢 ICR メスマウスの皮下脂肪組織をコラゲナーゼ処理後 遠心分離で得たペレットとして単離し BMSC は同じマウスの大腿骨からフラッシュアウトにより獲得した 10%FBS 1% 抗生剤を含む DMEM にて それぞれ培養を行った FACS Passage 2 (P2) の ASC

検査項目情報 P-ANCA Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital 一次サンプル採取マニュアル 免疫学的検査 >> 5G. 自己免疫関連検査 >> 5G552.P-ANCA Ver.7 perinucl

PowerPoint プレゼンテーション

医薬品タンパク質は 安全性の面からヒト型が常識です ではなぜ 肌につける化粧品用コラーゲンは ヒト型でなくても良いのでしょうか? アレルギーは皮膚から 最近の学説では 皮膚から侵入したアレルゲンが 食物アレルギー アトピー性皮膚炎 喘息 アレルギー性鼻炎などのアレルギー症状を引き起こすきっかけになる

STAP現象の検証の実施について

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

PRESS RELEASE (2012/9/27) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

検査項目情報 1171 一次サンプル採取マニュアル 4. 内分泌学的検査 >> 4F. 性腺 胎盤ホルモンおよび結合蛋白 >> 4F090. トータル HCG-β ( インタクト HCG+ フリー HCG-β サブユニット ) トータル HCG-β ( インタクト HCG+ フリー HCG-β サブ

Amino Acid Analysys_v2.pptx

15K14554 研究成果報告書

-119-

ヒト慢性根尖性歯周炎のbasic fibroblast growth factor とそのreceptor

1-4. 免疫抗体染色 抗体とは何かリンパ球 (B 細胞 ) が作る物質 特定の ( タンパク質 ) 分子に結合する 体の中に侵入してきた病原菌や毒素に結合して 破壊したり 無毒化したりする作用を持っている 例 : 抗血清馬などに蛇毒を注射し 蛇毒に対する抗体を作らせたもの マムシなどの毒蛇にかまれ

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

負荷試験 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク ) 血液 6 ml 血清 検体ラベル ( 単項目オーダー時 )

「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査の手続」の一部改正について

Xcell Biosciences WHIITEPAPER EX VIVO と IN VIVO の結果が相反する時 : 何故 従来からの細胞培養法が不正確な 物学的結果を導くのか バイオ関連ラボでの検体数が増えているのもかかわらず 従来からのインキュベーターでは 細胞が増殖する本来の微小環境を正確に

検査項目情報 1223 一次サンプル採取マニュアル 4. 内分泌学的検査 >> 4E. 副腎髄質ホルモン >> 4E040. メタネフリン分画 メタネフリン分画 [ 随時尿 ] metanephrine fractionation 連絡先 : 3495 基本情報 4E040 メタネフリン分画分析物

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査の手続」の一部改正について

報道発表資料 2001 年 12 月 29 日 独立行政法人理化学研究所 生きた細胞を詳細に観察できる新しい蛍光タンパク質を開発 - とらえられなかった細胞内現象を可視化 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 生きた細胞内における現象を詳細に観察することができる新しい蛍光タンパク質の開発に成

14栄養・食事アセスメント(2)

H27_大和証券_研究業績_C本文_p indd

核医学分科会誌

臨床No208-cs4作成_.indd

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

1. ストーマ外来 の問い合わせ窓口 1 ストーマ外来が設定されている ( はい / ) 上記外来の名称 対象となるストーマの種類 7 ストーマ外来の説明が掲載されているページのと は 手入力せずにホームページからコピーしてください 他施設でがんの診療を受けている または 診療を受けていた患者さんを

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

<4D F736F F D DC58F49817A81698EC08E7B95FB906A816A816988C482C882B5816A836F B838B2E646F63>

能性を示した < 方法 > M-CSF RANKL VEGF-C Ds-Red それぞれの全長 cdnaを レトロウイルスを用いてHeLa 細胞に遺伝子導入した これによりM-CSFとDs-Redを発現するHeLa 細胞 (HeLa-M) RANKLと Ds-Redを発現するHeLa 細胞 (HeL

60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

Untitled

Untitled

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

Microsoft PowerPoint - DNA1.ppt [互換モード]

Microsoft Word - FHA_13FD0159_Y.doc

関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

Transcription:

J. of Kyushu Univ. of Health and Welfare. 17 : 113 117, 2016 113 早期がん診断法の現状 末梢血中循環腫瘍細胞 (CTC) の解析方法について 年見遥子 永井勝幸 Current Status of Diagnosis in the Early Stage Cancer Detection Systems for Circulating Tumor Cells Haruko TOSHIMI, Katsuyuki NAGAI Abstract Currently available methods for detection of tumors such as X-ray, CT, US, and MRI have been well studied. However, a limiting factor in structural and anatomical imaging is the inability to specifically identify malignant tissues. A method for detecting Circulating Tumor cells (CTCs) simply, quickly, and highly sensitively is expected to be developed because CTCs are promising technologies for early diagnosis, prognosis, and response to therapy for cancer patients. This manuscript summarizes the current thinking on the value and issue of detection systems for CTCs. Key words:cancer Diagnosis, Circulating Tumor Cell, CTC Detection キーワード : がん診断 末梢血中循環腫瘍細胞 CTC 検出 はじめに 現在のがん診断 ( 検出限界 ) 厚生労働省によると がんは昭和 56 年より日本人の死因の第 1 位であり 平成 25 年度におけるがん年間死亡者数は36 万人を超える 1) がんの死亡率を低下させるためには早期発見 早期治療が非常に重要であり 現在 がんやその転移の診断にはCT MRI PETなどが用いられている 2,3) しかし これらの画像診断機器には検出限界があるため 初期にみられる微小がんを検出することが難しいという問題点がある そこで近年注目されているのが 末梢血中のがん細胞数を測定する CTC( 末梢血中循環腫瘍細胞 ) 検査 である CTCは原発巣から他の部位への転移能を有していると考えられており 固形がん患者の末梢血中に微小量存在している 本稿では CTCの検出法の一つである テロメスキャン法 4,5) の早期がん診断法としての有用性について概説する 現在 がんやその転移の診断には画像診断機器が用いられている 画像診断機器の分類としては 形の異常などを画像化する形態学的 解剖学的診断機器と代謝の異常などを画像化する機能的診断機器に大別される 6) 形態学 解剖学的診断機器に分類されるものとしては CT MRI マンモグラフィー 3Dトモセンシスなどがある CTはX 線を用い 1cm 以上のがんを発見できる MRIはラジオ波を用い 1cm 以上のがんを発見できる マンモグラフィーは乳腺 ( 乳がん ) の画像診断機器でX 線を用いる 乳房の大きい人は深部にひそむ小さなしこりの発見が難しいが 通常は1 2cm 程度のがんであれば発見できる また 3Dトモセンシスはマンモグラフィーの最新モデルで 3D 技術で組織の重なりを取り除きくことによって 5mm 以上の乳がんを発見することが可能になったものである 九州保健福祉大学薬学部薬学科 882-8508 宮崎県延岡市吉野町 1714-1 Department of Pharmaceutical Sciences, School of Pharmaceutical Sciences, Kyushu University of Health and Welfare 1714-1 Yoshino-machi, Nobeoka-city, Miyazaki, 882-8508, Japan

1 CTC の定義 九州保健福祉大学研究紀要 17 : 113 117, 2016 114 機 能 的 診 断 機 器 と し て はPET PEMな ど が あ る 血中に極微量しか存在せず 転移がん患者の末梢血中に PETは放射同位元素である18Fで標識したグルコースで 含まれる108 109個の血球成分のうち1個程度 1869 ある18-FDGを用いる がん細胞は正常細胞と比較する 年Ashworthらによってその存在がはじめて報告された と活発に活動するためエネルギーを多く消費し エネル 7 ギーの元になるグルコースを多く取り込む したがって れないがんの早期発見に有効であること 8 2004年に 18-FDGが高集積した部位にはがんがあることが分かる CTCががんの悪性化評価に基づく予後の予知に有用で PETでは5mm程度の比較的小さいがんも発見できる あること が報告され9 その結果 CTCは がんの早 しかし 機能として糖を多く代謝する脳や心筋 糖を排 期発見 予後の予測 治療効果の判定などを行う代替マー 泄する通り道となる尿路などではFDGの集積が高いた カーとして大きく注目を集めることとなる また 近年 め 周囲にある腫瘍の検出が難しい すなわち がんの ではCTCを回収し解析することで腫瘍細胞の特性解析や 種類によっては擬陰性や擬陽性となるという問題点があ 原発巣の同定にもつながることから CTC検出への期待 る また PEM Positron Emission Mammography は がさらに高まっている 乳腺専用のPETである 乳房に特化した性質のため 2 ここで 少し腫瘍マーカーについても触れておきたい mm以上の乳がんを発見することが可能である 各画像 がんの早期発見 予後の予測 治療効果の判定などを行 診断機器には検出限界が存在し 最小でも2mm以上の う指標として 現在 臨床で使用されているものに腫瘍 大きさにならなければ がんを検出することは難しい マーカーがある がんになると 健康時にはほとんど現 したがって がん超早期発見のためには 現在検出でき れない特殊な物質が異常に増加し その一部が血液や尿 るがんより小さな微小がんの検出ができるようになるこ 中に出てくる そうした物質を腫瘍マーカーと呼び 現 とが望ましい 在では100を超える腫瘍マーカーが実用化されている 表1 がん診断機器と検出限界 腫瘍マーカーの測定は 侵襲性が低く容易に行えるため 診断分類 診断機器 検出限界 (cm) 1 磁場 ラジオ波 1 原理 CT MRI 形態学的 解剖学的診 マンモグラフ 断 物理学的画像 ィー 乳がん ex)形の異常 トモシンセン ス 機能的診断 生物学的 PET 18-FDG 画像 PEM 乳がん ex)代謝の異常 1 2 0.5 0.5 0.2 CTC 及び CTC 検出の臨床的意義 末梢血中循環腫瘍細胞 CTC Circulating Tumor Cells とは 原発腫瘍組織または転移腫瘍組織から遊離 その後 1998年に CTCの検出は 原発巣が認識さ 患者の負担が軽く非常に有用である しかし 優れた腫 瘍マーカーが存在する一方で多くの課題も残っている 例えば 多くの腫瘍マーカーは腫瘍がある程度大きく なってからでないと検出されない また 腫瘍マーカー によっては良性疾患や加齢など 腫瘍以外の要因によっ ても高値を示すことが明らかになっている そのため 現在 腫瘍マーカーは がんの診断の指標というよりも 治療後の効果判定に用いられることが多く CTCの検出 とは異なり あくまで目安としての存在となっているの である 以上のことからがんの早期発見にCTCの検出が非常に 有効であるといえる し 血中へ浸潤したがん細胞のことである CTCは末梢 2 テロメスキャンの遺伝子 従来の CTC 検出法 CTCは末梢血中に極微量しか存在しないことから そ の検出感度が重要である 現在開発されているCTCの検出法を原理別に分類する と 主に 細胞のサイズの違いによって検出するもの 細胞の持つ電荷の違いによって検出するもの 抗原抗体 反応を利用して検出するものの3つに大別される 10 以 下に従来の主なCTC検出法をその原理ごとに簡単に説明 する 図1 CTCの定義 細胞のサイズの違いによって分離する方法としては サイズ選択性フィルター法 がある サイズ選択性フィ

年見遥子 永井勝幸 : 早期がん診断法の現状 115 ルター法 ではその名の通り サイズ選択性フィルターを用いて血球成分をろ過しCTCを選択的に捕獲する 細胞の電荷の違いによって分離する方法としては DEP-FFF (dielectrophoretic filed low fractionation: 誘電泳動流動場分画 ) 法 がある DEP-FFF 法 では細胞表面の電荷を利用することで標的細胞であるCTCの単離を行う また 抗原抗体反応を利用するものとしては 免疫磁気ビーズ法 微小流路デバイス法 ナノディテクター法 EPISPOT 法 がある まず 免疫磁気ビーズ法 とは 腫瘍細胞表面に発現するEpCAM(Epithelial cell adhesion molecule: 上皮細胞接着分子 ) のモノクローナル抗体を結合させた磁気ビーズによってCTCを捕獲する方法である この方法はCell Search Veridex 社が開発したため セルサーチ法 と呼ばれることが多い ( 以下 セルサーチ法 ) 9) 次に 微小流路デバイス法 とは MEMS(MEMS:micro electro mechanical Systems 電気で駆動する小さな機械の総称 ) 技術などの微細加工技術を利用して微小流路を作成し 微小流路に抗体結合ビーズを配置してCTCを捕獲する方法である ナノディテクター法 とは 抗体を結合させた針を静脈に注射し 生体内のCTCを直接捕獲する方法である 最後に EPISPOT(Epithelial Immunospot: 上皮免疫スポット ) 法 とは 培養プレート上のサイトケラチン抗体で細胞を捕獲する方法である 上記で紹介した検出法にはそれぞれ長所 短所 ( 課題 ) があるが この中で特に有用とされてきた検出法は セルサーチ法 である セルサーチ法 は従来のCTC 検 表 2 各種 CTC 検出方法の特徴 原理 検出方法 長所 問題点 抗原依存的( 死ん 免疫磁気ビーだCTCも検出 抗 臨床データが豊富ズ原非発現 CTC 検出 不可 ) タンパク質マーカ ( セルサーチ法 ) ー 遺伝子の増幅や 低コスト化 変異の解析が可能 抗体 微小流路デバ 検出感度高いイス 低コスト化 ナノディテク 採血量に依存しな 侵襲性高いターい EPISPOT 生きたCTCから放 CTCそのものをみ出されたタンパクていない質の検出 複数の抗体を同時 製品化されていな 検出可能 い 電荷 サイズ DEP-FFF サイズ選択性フィルター ISET 細胞集団から 1 細胞を単離 分離可能 CTC 濃縮工程が必要 低コスト化 CTC の培養が可能 低コスト化 出法の中で唯一アメリカ食品医薬品局 (FDA) の認可を受けており 転移性乳がん 前立腺がん 大腸がんなどの治療効果の判定や予後の予測に実際に使用されている しかし この セルサーチ法 にも多くの課題が残る 先ほど セルサーチ法 とは腫瘍細胞表面に発現するEpCAMのモノクローナル抗体を結合させた磁気ビーズによってCTCを捕獲する方法であると簡単に説明したが このEpCAM 抗原依存的であることがセルサーチ法の最大の問題点である 悪性腫瘍は上皮細胞由来の癌腫と非上皮細胞由来の肉腫に大別されるが その大半は上皮細胞由来の癌腫であるため 上皮細胞表面に発現する糖蛋白の一種であるEpCAMを有する つまり EpCAMを標的抗原とすることで血中の悪性腫瘍細胞であるCTCを検出することができる しかし CTCの多くは侵潤 転移の過程で上皮細胞の特性である細胞極性や周囲細胞との細胞接着機能を失い 遊走 浸潤能を得て より運動性の高い間葉系細胞様の細胞に変化することが知られている (EMT:Epithelial-Mesenchymal Transtion: 上皮間葉転移 ) つまり EMTをおこした CTCにおいては EpCAMの発現が低下するため セルサーチ法 では検出されない可能性が高い また EpCAM 依存的ということは 転移能を既に失っている死んだCTCについても EpCAMが発現されていれば検出されてしまうため CTCの生死を区別することができないという欠点もある そこで次の項では EpCAM 非依存的であり 転移能を持つ生きたCTCのみを可視化することに成功した新たなCTC 検出法である テロメスキャン 法 ついて紹介したい テロメスキャン法 テロメスキャン R 法 11) では 遺伝子組み換え5 型アデノウイルス テロメスキャン R を用いてCTCを検出する この テロメスキャン R は アデノウイルス (Ad) の自己増殖に必須であるE1 遺伝子を腫瘍特異的プロモーターであるヒトテロメラーゼhuman telomerase reverse transcriptase(htert) プロモーターでドライブするとともに green fluorescence protein(gfp) 発現カセットをE3 遺伝子欠損領域に挿入したものである 4,5) ここで テロメラーゼ とは テロメア と呼ばれる染色体の両末端を構成するDNA 部分を修復する酵素のことである 正常細胞ではテロメアは細胞分裂を繰り返すたびに短くなり いずれテロメアがなくなると細胞は分裂をやめ 細胞老化の状態になるか死を迎える しか

九州保健福祉大学研究紀要 17 : 113 117, 2016 116 2 テロメスキャンの遺伝子 1つ目は 感染 培養施設の普及である テロメスキャ ン 法 では 採血後 赤血球の溶血や 白血球画分の 調製を行うなど一連の処理を施した後 テロメスキャン を感染させて培養する必要がある したがって それ らの操作を行うことのできる施設が必要不可欠である 2つ目は 選択性 特異性の向上である テロメスキャ ン 法 はAdの自己増殖に必須であるE1遺伝子を腫瘍特 異的プロモーターであるhTERTプロモーターでドライ ブしているため 原理的には腫瘍細胞内でしか増殖せず 検出レベルまでGFPは産生されない しかし CTCは 図2 テロメスキャンの遺伝子 末梢血中に極微量しか存在しないことから その検出感 し 腫瘍細胞はこのテロメアを修復するテロメアーゼと 度が非常に重要である つまり 正常細胞に感染する確 いう酵素を持つため いくら分裂してもテロメアが短く ならず 無限に分裂 増殖を繰り返す ヒトテロメラー ゼ逆転写酵素 htert の陽性率は がんの種類によっ て若干の違いはあるものの 平均して85 以上である 正常細胞においては生殖細胞などを除いてほとんど 12 発現していない つまり 採取した血液にテロメスキャン を感染させ ると テロメスキャン のゲノムがhTERTを発現する腫 瘍細胞内で特異的に増幅し GFPを発現させ 腫瘍細胞 を可視化する したがって 転移能を持つ血液中の生き 図3 テロメスキャン法の概要 たCTCのみを可視化することができるのである Oncolys Biopharma ホムページより引用 8 率をできるだけ減らす工夫を行うことが検出感度の向上 につながると考える 実際 テロメスキャン 遺伝子組 み換え5型Ad のファイバーノブを正常細胞へ感染し にくいAdのファイバーノブへ置き換えるなどの改良も 現在行われている 13 3つ目は CTC回収後の癌細胞種解析方法の開発であ る 現在 CTC検出後は 検出されたCTCの解析を行 うことで 腫瘍細胞の特性解析や原発巣の同定につなが るとして期待されており 通常 解析方法としては遺伝 子解析が行われる しかし 抗原抗体反応などを利用し たCTC検 出 法 と 異 な り テ ロ メ ス キ ャ ン 法 で は CTC内でAdのゲノムが増幅されているため CTC本来 の遺伝子との分離が難しい したがって 他の癌細胞種 解析方法を開発する必要がある 次に CTC検出の臨床応用に関する課題として CTC 検出後の対応がある CTCの測定を行う段階では原発巣などのがんは画像診 断機器などで確認できないレベルの大きさなので がん の標準療法である手術療法 放射線療法 化学療法はい ずれも適応とならない その他のがん治療方法としては がん細胞の増殖を抑える がん抑制遺伝子 などをがん 細胞に送り込む 遺伝子治療 も中国では承認されてい るが 例 ゲンディシン p53がん抑制遺伝子導入薬 図3 テロメスキャン法の概要 Oncolys Biopharmaホムページより引用 体内に入れるベクターにアデノウイルスなどを使う 14 ので 未病の患者に使用するには抵抗がある そこで 現段階では 免疫療法がCTC検出後の治療法の候補とし て挙がっている しかし 免疫療法の効果は元々患者の 今後の課題 もつ免疫力に左右されることが多く 治療効果の個人差 早期がん診断及び予後の予測に テロメスキャン 法 によるCTC検査が非常に有用であるということが示唆さ れたが多くの課題も残る まず テロメスキャン 法 に関する主な課題として は3つある が大きい また 血液がん患者 自己免疫疾患併発患者 などに関しては病態を悪化させるため免疫療法は行えな い つまり CTC検出後の治療法の確立が今後の大きな 課題だと考える

年見遥子 永井勝幸 : 早期がん診断法の現状 117 引用文献 1 厚生労働省, 平成 27 年我が国の人口動態 ( 平成 25 年までの動向 ),15-20. 2 Tearney G. J., et al., Science 1997, 276, 2037-2039. 3 MacDonald S. L., et al., Eur. J. Radiol. 2003, 45, 18-30. 4 Umeoka T., et al., Cancer Research 2004, 64, 6259-6265. 5 Kishimoto H., et al., Nature Medicine 2006, 12, 1213-1219. 6 佐藤俊彦, がん消滅 見えないがん を見つけて叩く!( 現代書林 )2013, 22-29. 7 Ashworth T. R., Med. J. Australia 1869, 14, 146-147. 8 Racila E., et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1998, 95, 4589-4594. 9 Cristofanill M., et al., N. Eng. J. Med. 2004, 351, 781-791. 10 Circulating Tumor Cells information site (http:// www.ctc-lab.info/ctc2/ctc_detection_tech.html) 11 Oncolys Biopharma HP (http://www.oncolys.com/ jp/pipeline/obp-401.html) 12 Shay J. W., et al., Eur. J. Cance 1997, 33, 787-791. 13 Sakurai F., et al., YAKUGAKU ZASSHI 2013, 133, 291-296. 14 Pearson S., et al., Nature Biotechnology 2004, 22, 3-4.