資料2-2 触媒化学での放射光利用

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第 2 回量子ビーム利用推進小委員会 2016 年 11 月 29 日 ( 文部科学省 ) 資料 2-2 科学技術 学術審議会先端研究基盤部会量子科学技術委員会量子ビーム利用推進小委員会 ( 第 2 回 ) 平成 28 年 11 月 29 日 触媒化学での放射光利用 慶應義塾大学理工学部 近藤寛

触媒化学での放射光利用 内容 国内外のサイエンスの動向 軟 X 線向け高輝度放射光源の具体的な科学技術的意義 将来の利用環境について考慮すべき事項 1

触媒化学での放射光利用国内外のサイエンスの動向 触媒学理の研究の発展 触媒を調べる物理化学的手法等の発達によって 観測結果に基づく触媒反応機構の研究が活発化 右図は白金フリーカーボン系燃料電池触媒の活性サイトの特定とそれに基づく反応機構の提案 D. Guo, R. Shibuya, C. Akiba, S. Saji, T. Kondo, J. Nakamura Science 351, 361 (2016). 学理に基づく触媒開発 Co 酸素生成触媒とNiMoZn 水素生成触媒でアモルファス Siを挟んだ高効率水分解光触媒の開発 ( 右図 ) S. Y. Reece, D. G. Nocera et al. Science 334, 645 (2011). エレクトライドを用いた高性能アンモニア合成触媒の開発 M. Hara, H. Hosono et al. Nature Chem. 4, 934 (2012). 酸素生成触媒と水素生成触媒間の電子移動促進による高効率水分解光触媒シートの開発 Q. Wang, K. Domen et al. Nature Mat. 15, 611 (2016). 2

触媒化学での放射光利用 国内外のサイエンスの動向 Gerhard Ertl 2007 年ノーベル化学賞 "for his studies of chemical processes on solid surfaces 撮影 :Wolfram Däumel 固体表面の化学過程は不均一触媒を理解するための鍵であり それを精密科学の対象にまで引き上げる新しい方法論を提案した Ertlの方法論には固体表面で化学過程が起こるその場を観測する特徴があり 多くの触媒化学者の研究に影響を与えた その場観察を目指す強い流れ 3

触媒化学での放射光利用国内外のサイエンスの動向 表面反応が進む領域の伝播の観察 表面反応が進む原子 分子の観察 光電子顕微鏡によるその場観察 (μm スケール ) 白金表面上で進む触媒反応が作り出す活性領域の時空間発展 S. Nettesheim, A. von Oertzen, H. H. Rotermund and G. Ertl, J. Chem. Phys. 98, 9977 (1993). 走査型トンネル顕微鏡によるその場観察 (nm スケール ) 白金表面上の特異な場所の原子 分子間で進む触媒反応 J. Wintterlin, S. Völkening, T. V. W. Janssens, T. Zmbelli and G. Ertl, Science 278, 1931 (1997). 4

触媒化学での放射光利用国内外のサイエンスの動向 反応環境下の触媒粒子の観察 反応環境下の生成ガスの空間分布の観察 環境制御型透過電子顕微鏡によるその場観察 CO/air(100 Pa) 中の金触媒粒子の CO 吸着による表面再構成 H. Yoshida, Y. Kuwauchi, J. R. Jinschek, M. Haruta, S. Takeda et al. Science 335, 317 (2012). 平面型レーザー誘起蛍光による生成ガスの空間分布のリアルタイムイメージング Pt-Pd 触媒と Pd 触媒による CO 酸化反応の温度レスポンスの違いの可視化 J. Zetterberg et al. Nature Commun. 6, 7076 (2015). 5

触媒化学での放射光利用国内外のサイエンスの動向 放射光によるその場観察 質量分析計などによる触媒活性のモニタリング 反応進行中の触媒に放射光を照射し 様々なレスポンス ( 弾性 非弾性散乱 X 線 電子 透過 X 線など ) を観測 触媒が活性 不活性なときの構造や化学状態 6

触媒化学での放射光利用国内外のサイエンスの動向 動作環境下の触媒粒子の構造のオペランド観測 動作前 動作中 Operando-GIXRD のセットアップ (ESRF ID15A) In-situ セルでの動作環境下の触媒の斜入射 X 線回折と反射率の測定 反応ガス組成変更 Pt 触媒粒子の動作中の凝集と Rh による凝集抑制の発見 U. Hejral, P. Müller, O. Balmes, D. Pontoni, A. Stierle, Nature Commun. 7, 10964 (2016). 7

触媒化学での放射光利用国内外のサイエンスの動向 動作環境下の触媒粒子の構造と化学状態のオペランド観測 In-situ セルを用いた触媒動作環境下の高速 XAFS 測定 (SPring-8 BL36XU) Quick-XAFS ( 時間分解能 :0.8~10 ms) Dispersive-XAFS ( 時間分解能 :100 ms) O. Sekizawa et al. J. Phys. Conf. Ser. 430, 012020 (2013). 触媒粒子の構造と化学状態の電位応答の詳細解明 N. Ishiguro, M. Tada et al. J. Phys. Chem. C 118, 15874 (2014). 8

触媒化学での放射光利用 国内外のサイエンスの動向 動作環境下の触媒および反応 生成種のオペランド観測 X-ray エンドステーション MASS M3 X-ray TMP3 不等間隔回折格子 Slit M2 軟 X 線アンジュレータービームライン 準大気圧 X 線光電子分光装置 (NAP-XPS) NAP-XPS Main chamber M1 挿入光源 シンクロトロン 線型加速器 e - Temperature ( ) 400 300 200 不活性 (b) 活性相 B 活性 D C sample 100 A 不活性相 TMP0 TMP1 TMP2 TMP4 0 3 0 2 4 6 MS Intensity (a.u.) NAP-XPSのセットアップとオペランド観測 (PF BL-13B) XPSによるPd 触媒の活性自動車触媒等の基礎研究や企業との共同研究に利用相 不活性相の同定 H. Kondoh et al. Catal. Today 260, 14 (2016). 9

触媒化学での放射光利用 国内外のサイエンスの動向 触媒化学の動向 触媒学理の研究の発展 学理に基づく新触媒の開発 その場観察 が触媒学理の研究の key approach 放射光を用いた研究 放射光は その場観察 に優れた光源 放射光を利用したオペランド観測手法の発展 放射光オペランド観測による触媒学理の基礎研究と触媒開発への応用が活発化 10

触媒化学での放射光利用 軟 X 線向け高輝度放射光源の具体的な科学技術的意義 放射光による触媒解析の優位性について 触媒解析に用いられる手法が多くある中で 放射光による触媒解析が優れている点について以下に挙げる 構造解析能 不均一な触媒のナノスケールの局所構造解析が可能 (Nano-beam X 線回折, Nano-beam XAFS) 活性点近傍の原子スケールの局所構造解析が迅速に可能 (Quick-XAFS, Dispersive-XAFS) 化学状態解析能 不均一な触媒のナノスケールの化学状態分布解析ができる (Nano-beam XAFS, CL-XAFS) 注目する活性種や表面活性相の化学状態変化の追跡ができる (RIXS, Quick-XAFS, Dispersive-XAFS, NAP-XPS, 電子収量 XAFS) オペランド解析能 透過力が高く 指向性が高いので 様々な触媒に対して 反応ガスや溶液が共存する作動環境下でのその場観測に応用可能 11

軟 X 線向け高輝度放射光源の具体的な科学技術的意義 軽元素への高感度性を活かした触媒解析 触媒化学での放射光利用 硬 X 線による X 線回折や X 線吸収を用いた解析では 主に重元素を含む触媒側の構造や化学状態に関する詳細な情報が得られる 軟 X 線による解析では 軽元素を含めほとんどの元素に対して感度があることを活かして 触媒側と反応 生成種側の両方の解析が可能 特に軽元素感度が活かせる触媒関連物質 軽元素触媒の解析カーボン系触媒有機分子触媒生体触媒 軽元素反応 生成種の解析自動車触媒 (CO, NO x, HC) 合成触媒 (Polyethylene, Ethylene Oxide, NH 3 ) 電極触媒 (H 2 O, O 2 ) 12

触媒化学での放射光利用軟 X 線向け高輝度放射光源の具体的な科学技術的意義 反応中の構造 電子状態の観測による重要因子の解明 電子状態へのアクセス性を活かして これまで知られている触媒作用への効果の中身を理解 微粒子効果量子サイズ効果エッジ効果 担体効果 SMSI (Strong Metal- Support Interaction) spillover 合金効果配位効果アンサンブル効果 13

触媒化学での放射光利用 軟 X 線向け高輝度放射光源の具体的な科学技術的意義 触媒表面と軽元素吸着種の反応過程の解析 時間分解 NAP-XPS による触媒反応と触媒再生の高速キネティクスの追跡 High-speed detector これまで見ることができなかった吸着過程と活性相再生を含む触媒サイクルの観測を通した触媒反応の理解 14

触媒化学での放射光利用 軟 X 線向け高輝度放射光源の具体的な科学技術的意義 軟 X 線顕微分光による不均一触媒の解析 反応中の触媒の不均一構造とそれに伴う反応種の分布を顕微分光で解析不均一触媒がもつマルチスケールの不均一性と触媒機能の関わりを解明 反応ガス 担体担持微粒子と反応分子分布のメゾスケールの不均一性 微粒子の原子スケールの不均一性 各スケール階層で見られる不均一性 触媒に見られるマクロからミクロまでの不均一性 それらを観測するためのアプローチ KB ミラー集光 ゾーンプレート集光 放射光 STM 光電子結像 コヒーレントイメージング ( 要開発 ) 15

軟 X 線向け高輝度放射光源の具体的な科学技術的意義 触媒に関する産業利用 触媒化学での放射光利用 触媒開発や利用事業を進める企業研究者がオペランド観測による知見をフィードバックしながら現場の研究を加速することが期待される 軟 X 線オペランド観測が可能にすることとして以下のものが挙げられる 現行触媒の解析と高度化活性起源の解明劣化機構の解明活性制御因子 ( 粒径 組成 添加剤等 ) の調査と最適化最適利用条件 ( 前処理 反応条件 劣化修復等 ) の探索 新規触媒の開発新反応機構の調査最高性能を出す条件の調査劣化試験とその機構解明 16

触媒化学での放射光利用 将来の利用環境について考慮すべき事項 必要となる光源性能やエンドステーション側での検出器に係る事項 光源エネルギー :0.15~4 KeV (B K 端 ~Ca K 端をカバー ) 可変偏光性 ( 分子種配向解析のため ) 高コヒーレンス ( 高分解能コヒーレントイメージングのため ) ビームライン光学系斜入射回折格子分光器および二結晶分光器 ( 同一位置集光 ) ( 同一試料で幅広いエネルギーが利用できるため ) エンドステーション光学系数 mm から数十 nm までのビームサイズ可変集光 ( マルチスケール階層構造の解析のため ) エンドステーション分析器 検出器 1 差動排気型電子エネルギー分析器 ( 準大気圧下の触媒プロセスのオペランド電子分光観測のため ) 2 フォトダイオード 蛍光 X 線検出器 ( 固液界面の触媒プロセスのオペランド XAFS 観測のため ) 3 高速 2 次元電子検出器 ( 電子分光による触媒プロセスの時間分解測定のため ) 4 大ダイナミックレンジ 2 次元 X 線検出器 ( コヒーレントイメージングによる触媒の顕微分析のため ) 周辺機器反応ガス供給系 パルスレーザー タイミング計測システム 試料位置走査機構 17

触媒化学での放射光利用 将来の利用環境について考慮すべき事項 工夫が求められる利用形態 これまで軟 X 線ビームラインの産業利用は必ずしも多くはなかったが 近年 軟 X 線分光の企業利用が急速に増えている 特に軟 X 線オペランド分光は触媒関連企業にとってこれまでの硬 X 線 XAFS と同様に触媒開発に必要不可欠なアプローチになる可能性がある この分野で放射光が産業を強く後押しできるようになるためには 利用可能なビームラインを増やすとともに 企業研究者の利用における垣根をできる限り低くし 利用を促進する工夫が必要である 一方 軟 X 線オペランド分光はこの 10 年で大きく進歩し 現在も急速な発展を遂げているところであり 我が国においても大学や公的研究機関を中心に取り組みが為されている しかし 我が国では競争力のある軟 X 線ビームラインの数は限られており 先端的な軟 X 線オペランド分光の開発に関わる研究者の層は諸外国に比べてかなり薄くなっている 世界的なこの分野の発展の波からとり残される可能性もあり 触媒分野での軟 X 線の産業利用を持続的に発展させるのは容易な道ではない 新光源ではコヒーレンスの利用という新たな切り口の学術的課題に取り組む必要性もあり この課題を乗り越える意味でも 諸課題を乗り越えられる人材を育てる意味でも 学術利用を効果的に拡充することは必要不可欠である 学術利用と産業利用は軟 X 線向け放射光を社会に活かす車の両輪になると考えられる 18