4. ドイツにおける地域振興に係る支援 特例の事例 ~ ジョイント スキーム (Gemeinschaftsaufgabe<Joint Responsibilities>)~ 1) 施策の狙い 1 施策制定の背景 ドイツは 歴史的に各州の権限が大きく 1969 年にドイツ連邦共和国基本法 ( 憲法 ) を改正する以前は 所得税 法人税 売上税などは全て州の財源であった また 経済政策 地域政策も各州が握っており国家全体の統一的な政策を打つことができなかった 国家の発展のために各地域のレベルを一定水準に向上させることが必要なため 州の権限を抑え連邦政府による普遍的な経済政策を可能とする制度的基盤が必要とされた 2 施策制定の狙い 制定以前は各州の権限が大きくドイツ全体の生活水準にばらつきがあった このバラツキを解消して国家全体の経済水準を向上させること つまりは都市部 農村部の停滞地域を復興させることが目的 東西ドイツ統合後は 特に旧東ドイツ地域の経済水準向上のために使われている側面がある 3 法的根拠 1969 年 ドイツ連邦共和国基本法 ( 以下 基本法 ) 改正により連邦と州の共同事務 および連邦の州に対する特定補助金制度が導入された 基本法第 8 章 Gemeinschaftsaufgabe(Joint Responsibilities) の 91a 条と 91b 条に基づいている 同時に それまでは州の財源であった所得税 法人税 売上税などの 50% が連邦に移管された これにより連邦政府の権限が強まった 一連の法改正により 本来的には州が行うべき事項であっても 連邦国家全体の発展に重要なものでありそれが生活環境の改善にとって必要なものであれば 連邦はその任務への参加が基本法により認められた 47
基本法第 91a 条 [ 連邦法に基づく連邦の協力 ] 基本法 91b 条 [ 協定に基づく連邦と諸ラントの協力 ] (1) 連邦は 以下の分野において 諸ラントの任務が全体にとって重要な意味をもち かつ 連邦の協力が生活関係の改善のために必要なときは 諸ラントの任務の遂行に協力する ( 共同の任務 ) 1. 大学付属病院を含む大学の拡充および新設 2. 地域的経済構造の改善 3. 農業構造および沿岸保護の改善 (2) 共同の任務の詳細は 連邦法が連邦参議院の同意を得て定める その法律には 任務遂行のための一般原則が規定されなければならない (3) その法律は 共同の大綱計画の手続および組織について規律する 大綱計画にある企画を採用するためには 実施される地域のラントの同意が必要である (4) 連邦は 1 項 1 号および 2 号の場合には 各ラントにおける支出の半額を負担する 1 項 3 号の場合には 連邦は 少なくともその半額を負担するが その際 分担の割合は すべてのラントに対して均一に定めなければならない 詳細は 法律で定める 資金の提供は 連邦およびラントの予算における確定にまつものとする (5) 連邦政府および連邦参議院は 共同の任務の実施について 要求に基づいて 情報を得る権利を有する 連邦および諸ラントは 協定に基づいて 教育計画について ならびに超地域的意義を有する科学研究の施設および企画の促進について協力することができる 費用の分担は 協定で定める 法的根拠 基本法 91a 条 基本法 91b 条 ジョイント スキーム制定の背景 地域計画は各州個別に行っており 経済水準にばらつきがあった 国家全体の経済水準を一定以上に高める必要があった ジョイントスキームの狙い 創設以来 経済水準の低い地域を活性化させようとしてきた 東西ドイツ統一後は 特に旧東ドイツ地域の経済活性化に活用されている 理論的根拠 州や地域に限定されない政策を打つことで 経済効果を高めることができる 4 沿革 1969 年 ドイツ基本法改正に伴いジョイントスキーム制度創設 1991 年 東西ドイツ統一後は旧東ドイツの経済復興に活用される 1995 年 州は 州独自のプログラム ( 職業訓練 企業活動支援 人材のマッチング R&D の支援策 ) を強化するためにジョイントスキームを活用できるようになった 1998 年 ジョイントスキームを 統一 EU の制度に適合するように修正すべきであると EU が発表 2000 年 市町村レベルによる地域計画政策のためにジョイントスキームを適用できる ようになった 48
2) 施策の内容 1 施策の概要 ジョイント スキームの仕組み ジョイントスキーム基金は計画委員会により配分されている 計画委員会は連邦政府と各州代表により構成されており ジョイントスキーム全体を運営している 計画委員会とは別途 小委員会が開催されており主要な産業団体 商工会 省庁の代表者により 地域振興政策に関する産業界からの意見を集めている 小委員会によりまとめられた意見は計画委員会に反映されている 計画委員会により決定された配分により基金は各州に配分される 各州には 支援の受け皿として State Assistance Bank という機関が設置されており ここを通して各事業に資金が供給される 事業は Commercial Investment および地方自治体レベルを対象とした Public Infrastructure Investment という 2 種類に分けて考えることができる 2 施策のプロセス プロセス 1~ 計画委員会による資金配分の決定 地域振興政策の大枠は 連邦と州が合同で組織して毎年開催される計画委員会によって決 定される まず 旧西ドイツ 204 旧東ドイツ 76 に分割した 労働市場地域 (Arbeitsmarktregion)(3 郡程度の大きさ ) において 4 種の指標 ( 地域の失業率 地域所得 地域インフラ整備状況 地域人口の将来予測 ) を算出し それらの重み付け合計値から全労働市場地域の数値リスト を作成して地域を区分し 支援を必要とする対象地域を決定する 細かい変更は毎年 大き な変更は 3~4 年毎に行われる 計画委員会では連邦が 16 票 各州が各 1 票ずつ 合計 32 票があり 意思決定には連邦政 府の合意と各州票のうち 9 票以上が必要である これは 意思決定のためには 1 連邦政府 内部における協議 2 各州間における協議 3 両者の意見を持ち寄った委員会における協議 が必要だということを意味している さらには 小委員会を通して産業界の意見も考慮して おり 極端に調整重視になっているということである つまり アメリカの連邦制に比べる と 中央政府と地方政府の権限が明確に分離されておらず 逆に 地域振興施策の意思決定 のためには中央政府と地方政府の協議が義務付けられていると言える 支援地域の決定方法 ジョイントスキームは雇用を最重視しており 地理的な地域により区分される よりも 交通インフラによって規定される通勤エリアとして区分されている 4 指標のウエイトは 失業率 40% 地域所得 40% インフラ整備状況 10% 人口予測 10% で重み付けされ 計算される 上記計算方法により労働市場地域は以下に 5 区分され A~D の 4 区分に対して 地域指標段階に応じた資金支援がなされる A: 旧東ドイツ内の人口が多い地域 B: 旧東ドイツ内の人口の少ない地域 C: 旧西ドイツ内の農村 産炭地域 D: 旧西ドイツ内の中小企業 インフラ援助地域 E: その他の地域 49
プロセス 2~State Assistance Bank による資金供給 プロセス 1 における計画委員会の意思決定により決定された各州への配分資金は State Assistance Bank を通して実際の事業に供給される 事業には 商業ベースの側面が強い Commercial Investment 公共投資 インフラ整備の側面強い Public Infrastructure Investment に分けられる また 各州は ジョイントスキームによる支援策を超える独自の支援は行えないことになっている これにより 地域格差是正における連邦の主導性が確保される 一方 地域振興政策への EU の関与が大きく EU がドイツに割り当てた支援可能な対象人口を ジョイントスキームで地域振興政策の対象地域とした合計人口が上回ることができない なお 1991 年から 1998 年までの連邦政府の予算に占めるジョイントスキームの割合は 単独だと 2% EU の補助金も含めると約 4% に達する また 対象事業の約半分は地方農村部で行われている 残りの約半分は都市部である 地方の対象エリアの住民は 1600 万人である ( ドイツの総人口の約 20%) これらの対象エリアのほとんどは EU 地域基金の交付対象になっている 図表ジョイントスキームによる資金供給額 ( 単位 : 百万 DM) 1997 1998 1999 2000 2001( 計画 ) New States Federal 2,850 2,923 2,561 2,276 1,977 State 2,850 2,923 2,561 2,276 1,977 EU 1,636 1,610 1,746 906 514 Original States Federal 350 200 230 237 280 State 350 200 230 237 280 EU 18 19 20 111 116 Total Federal 3,200 3,123 2,791 2,513 2,257 State 3,200 3,123 2,791 2,513 2,257 EU 1,654 1,629 1,766 1,017 630 Together 8,054 7,875 7,348 6,043 5,144 出所 ) ドイツ政府資料より抜粋 資金供給の特徴 (1) 適用の考え方 特に経済的に弱い地域にフォーカスしなければならない 地域の経済発展と雇用創出にフォーカスしなければならない 他の制度とのシナジーが生まれるよう最大限努力すること (2) 旧東ドイツ地域の経済水準向上に活用 旧東ドイツ地域は 全体が最優先の対象地域に指定されており 産業 企業の近代化 再教育等通じた雇用対策 企業立地条件整備等が重点事業として行われている ジョイントスキームに基づく旧東ドイツ地域への資金支援実績 (1997~99 年 ) は 対象プロジェクト 562 億マルクに対して 155 億マルクが支援されており プロジェクト資金の 28% が支援されている 50
一方で 旧西ドイツ地域では 対象プロジェクト 156 億マルクに対して 18 億マルク (12%) が支援されるに留まっており 東西格差の是正が強力に進められていることが窺える 旧東ドイツ地域では 中小規模ビジネスに対する補助金の上限が 50% 大企業に対する補助金の上限が 35% を占める 旧西ドイツ地域では 中小規模に対する補助金の上限は 28% 大規模ビジネスに対する補助金の上限は 16% である 旧東ドイツ地域では小規模事業者に対する支援に多くの補助金を投入していると考えられる プロセス 3~ 事業の評価 ジョイント スキームの対象事業は三つの方法によりモニタリングされている (1) 連邦経済省と州の監査機関によるモニタリング ~ 事業ベース連邦経済省と各州の監査機関は State Assistance Bank を通して各州の資金運用状況を確認している (2) 支援地域の決定プロセスによる評価支援地域の区分は 細かい修正は毎年 大幅な見直しは 3~4 年ごとに行われている このプロセスにより 支援対象であった地域が非支援対象となる あるいは経済水準が向上したという結果になる場合がある こうした地域区分の再定義プロセスによりジョイントスキームによる支援効果が測定されている (3) データによる経済分析三つ目の評価スキームは データによる経済性評価である 一つは マクロ経済分析による包括的な評価 もう一つは 個別事業について 支援した場合と支援しなかった場合についてデータを比較しどのような効果があったのかを測定する評価である 3 具体的な内容 支援メニューは補助金 税制上の優遇措置 公的資金の貸与 債務保証の 4 つである 51
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