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66

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5 単元の評価規準と学習活動における具体の評価規準 単元の評価規準 学習活動における具体の評価規準 ア関心 意欲 態度イ読む能力ウ知識 理解 本文の読解を通じて 科学 について改めて問い直し 新たな視点で考えようとすることができる 学習指導要領 国語総合 3- (6)- ウ -( オ ) 1 科学

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Transcription:

同志社女子大学学術研究年報 2010 年第 61 巻 133 研究ノート 日本語教育実習プログラムの事前指導の再検討 山本由紀子 表象文化学部 日本語日本文学科 1. はじめに 教師の成長 パラダイムの日本語教員養成において 教壇実習を中心とする教育実習は教師としての実践的力量育成が期待できる場として重視されている 日本語教員養成に関する調査協力者会議 (2000) でも 教育実習が極めて重要であることに特に留意しなければならない (p.8) とされ 国立国語研究所 (2002) が行ったアンケート調査結果によれば 回答があった大学学部の74% が教壇実習を実施しており 実施していない機関でも教壇実習の必要性を認める意見が多い 実習生にとって日本語教育実習は 実際の教室 学習者 教師により構成される現場にはじめて触れる場であることが少なくない 実習生が日本語母語話者である場合 日本語教育現場を体験する機会は意識的に作らなければ持てないためである 実習生たちは教壇実習や授業観察 授業外での学習者や現職教師との交流を通して 講義や模擬授業のみでは得られない学びや気づきを得ることができる また 実習での経験をきっかけに本格的に日本語教師を目指すようになったという声もしばしば聞かれることから 現場に触れることで日本語教師の苦労や喜び 面白さを知るという点でも実習の意義は大きいといえよう このように多くを期待される教育実習も 実習生が事前にどのような指導を受け どのような準備態勢で実習に臨むかによって 得られる収穫は質量ともに異なってくると考えられる だが 実習自体についての議論や報告は少なからず見られるものの 実習がはじまる前にどのような指導や課題を与えるべきかについては いまだ十分に検討されていないように思われる そこで本稿では 日本語教育実習プログラムの直前に行う事前指導の再検討を行うため まず 国立国語研究所 (2002) の調査結果の分析を通して ReexaminationofPreparatoryTasksandInstructions forjapanesepracticeteachingprograms 実習の実施状況を見ることでどのような事前指導が必要かを考察する 次に実習用テキストには現在どのようなものがあるかを見 今後補うべき指導項目や検討事項がないかを考察する そのうえで 実習現場の一例として海外実習に焦点を当て その事前指導を行ううえで今後加えるべき内容について試みの提案を示したい 2. 大学の日本語教員養成における教育実習の実施状況国立国語研究所 (2002) は 2000 年に国内の大学 大学院の日本語教員養成課程における実習教育およびその指導者に焦点を当て 実習教育の現状と課題を把握する目的で行われたアンケート調査の結果報告である これは 全国の158 の日本語教員養成機関を対象に質問紙を送付して実施され のべ92 の回答を得たものである すでに調査から 10 年が経過しているが 国内の大学の日本語教員養成課程における教育実習の実施状況を知るうえでは貴重なデータといえよう ここでは 大学の実施する実習の教壇実習場所と対象学習者 実習内容についての調査結果に注目して 事前指導の現状とあり方について考える 2 1. 教壇実習を行う場所および対象本調査で得られた回答のうち最も多いのが 学内 (38 %) での実習で 次いで 海外 (31%) 学外 (28%) の順になっている このうち 海外での実習受け入れ先については 中国や韓国 台湾といった近隣諸国が多く また受け入れ機関の7 割が大学である 学外での実習先は民間日本語教育機関 (35%) 地方自治体(10%) その他 (30%: 教育委員会 独自で学習者を募集 インターナショ ナルスクール 中学校 高校など ) で 対象学習者は就学生 ビジネスマン 配偶者等 年少者 技術研修生 高校生 近隣の住民など多様である 以上から 実習対象者として多いのは国内大学の留学生や海外の大学生であり それ以外にも実に多様な学習者を実習対象者にしていること

134 同志社女子大学学術研究年報 2010 年第 61 巻 がわかる 養成機関が提供する実習の現場が多種多様であれば 当然ながら学習者のニーズ レディネスも違い 日本語教師として必要とされる知識や技能も一律ではない したがって 実習の事前指導では実習先の違いに応じた指導を行うことが必要となる 日本語教員養成に関する調査協力者会議 ( 前掲 ) では 日本語学習者の学習需要の多様化や日本語教員養成課程修了者の活躍の場の拡大が見られる現在 大学等の創意工夫による多様なコース設定を図 (p.6) ることが求められるようになっていると指摘されているが これは教育実習やその指導のあり方についても言えることだろう 2 2. 実習の内容実習内容については 実習前 実習中 実習後に分けて問うている 行われることの多い活動 ( ここでは回答が30 % 以上のものに注目する ) を実習前 実習中 実習後に分けて整理すると 以下のようになる 実習前 教案や教材の作成 および関連する諸活動( 模擬実習 学習項目の予習 教案についての討論 教材選択 教授項目の分析 ) 日本語教育機関や授業の見学 VTR の視聴 実習プログラムの企画 運営やコースデザイン 学習者の母語 文化の学習 実習中 授業観察 教壇実習( 単独での教授 担当教師の指導補助 ティーム ティーチング ティーチング アシスタント グ ループ ティーチング 日本事情教育 ) 学習者とのレクレーション活動 実習後 指導教官からの講評 助言 授業についての自己リフレクション( 自己評価 分析 レポート提出 ) 授業についての共同リフレクション( 反省会 ビデオによる授業研究など ) 学習者からの評価や意見交換日本語教員養成機関により 以上の各活動がさまざまに組み合わされて実習前後の活動を含めたプログラムが構成されている 2 3. 事前指導の現状と 実習に必要な知識 技能ここでいう 事前指導 とは 実習の充実のため実習の直前に行われる指導や 実習生に与えられる課題のことである 調査で 実習前の内容 として回答があったものの多くが事前指導に相当するものと言える 結果を見ると 指導 課題内容の中心は教案や教材の作成など 教えることに直接関わる準備活動であることがわかる 教壇実習を実習の中核的活動ととらえ 直接必要となるものを入念に準備させることを重要視しているのである また 実際の日本語教育機関や授業の見学 VTR の視聴といった現場を直接 間接に 見る 活動も積極的に取り入れられている 見る内容や目的はさまざまなようだが 実践の前に現場を見る活動に意義を認めていることが窺える そのほか 学習者の母語 文化の学習を取り入れているところも少なくない どのような方法で 何をどこまで学習しているのかについては調査がなされていないが 実習を行ううえで学習者の背景を理解することも重要とされていることがわかる 次に 実習中 および 実習後 の内容から それらの活動の充実のために必要となる事前指導にはどのようなものがあるかを考えてみたい まず 実習中の内容の中核は授業観察と教壇実習である 授業観察は98% とほぼすべての機関の実習に組み込まれており 実習には不可欠の活動と捉えられていることがわかる 教師の成長 パラダイムにおける授業観察の目的は 教師トレーニングのそれのように 先輩教師の授業の進め方をいかに丁寧に細大もらさず学びとるか ( 岡崎 岡崎 1997 p.38) にあるのではない また 教育実習における授業の観察は どんな授業者の授業を観察するかによって観察の目的が異なる (Wajnryb,1992) ほか 観察方法にも目的によってさま ざまなタイプがある したがって 事前指導に授業観察を取り入れるかどうかに関わらず 観察のしかたについては事前に十分な指導が必要となる 教壇実習は 2 2 の の 教壇実習 の項目に挙げたように 実習生が単独で授業を行う方法のほかにも 担当教師の指導補助やティーム ティーチングなど さまざまな形態で行われている これは受け入れ先が実習のために提供する授業時間数と実習生の人数との兼ね合いなど おそらく現実の条件に合わせてのことと思われる 教壇実習 と言っても 受け入れ先の事情次第では ティーチング アシスタントとしてしか教壇に上がれない場合もあるのである 事前指導では この教壇実習の形態に配慮した指導が必要になってくると思われるが 今回の調査への回答の

日本語教育実習プログラムの事前指導の再検討 135 みからは この点に配慮した指導が行われているかどうかは不明である 実習後の活動は 教壇実習のリフレクションが主であり リフレクションには機関によりさまざまな方法がとられているようである リフレクションは 内省力を高めることが実践的力量形成につながることから重視されている活動である 実習以前にリフレクション能力の鍛錬を行っておくのが理想だが それが困難な場合は 実習直前の事前指導において ふりかえりの意義や方法についての一定の指導を行うことが必要になってくるだろう 以上より事前指導においては 現状に見るような教案 教材作成以外に 学習者の母語 文化の学習や 授業観察の方法 教壇実習のタイプ別の指導 リフレクションの方法といった点への配慮も必要であることがわかった 次に 次章では実習用テキストがこうした事前指導上のニーズをどう満たしているかを確認したい 3. 実習用テキスト日本語教育実習に特化した 実習用テキスト といえるものは 管見の限り 日本語教育の実習理論と実践 ( 岡崎 岡崎 1997) と 秘伝日本語教育実習プロの技 ( 中川 2004) の2つのみである 岡崎 岡崎 (1997) は 日本語教育の実習や研修が前提とする理念や理論的枠組みについて述べる 理論編 と 実習のための課題からなる 実践編 の2 部構成である 同書の 本書について には実習現場が多様である状況に鑑み 実習現場の多様性に応じて実習用の課題を選んで組み合わせ 多様な実習のカリキュラムが作れるようにすることを目指す とあり どのような実習現場にも共通して必要と考える 日本語教育の基礎課題 と 現場の条件に応じて選択できる 日本語教育実習のモジュール型課題 を設定している 基礎課題 の内容は 教科書分析にはじまり 授業観察記録の記入の仕方の理解及びその実践 実習ジャーナル 教案作成 そして自己の授業の評価まで幅広く用意されている モジュール型課題 は 教科書体験やニーズ調査のほか タスク教材や絵教材に関わる課題 インターアクションの分析などがある 本書のいずれの課題にも通底する理念は自己研修型教師の養成であり 内省を促すような課題を提供している点が特徴と言えるだろう 一方 中川 (2004) のテキストは 第 1 章で学習者中心の日本語教育が背景とする理論を紹介したうえで 第 2 章 で教育実習の内容や流れに沿うかたちで 身なりや時間厳守といった心構えにはじまり各活動のポイントについて説明し 第 3 章でさまざまなタイプのクラス活動を紹介している 教壇実習に向けて準備を進めるうえで直接必要となる知識や技術を紹介しているという点で より テキスト らしく 実習の手引書になるよう工夫しているという印象を持つ構成である 岡崎 岡崎 (1997) が実習を通していかに内省力を高め教師成長を果たすかに主眼を置いているのに対し こちらは実習活動をよりスムーズに経験するための認識や作法 テクニックの習得に力を注いでいるといえよう 3 1. 学習者の母語 文化の学習についての事前指導この2つの実習用テキストのうち 学習者の母語 文化の学習 に関わるものとしては 中川 (2004 p.36) に レディネス分析 についての若干の記述があるが 学習者の母語や文化を学習することまでは求めておらず レディネスとしての母語 出身地を把握するという程度の扱いにとどまっている 学習者の母語や出身地を把握することが何のために必要であり 教壇実習を行うにあたってどのような形で関わってくるのかには 実習現場によって違いがあるだろう その違いに応じて 学習者の母語や母文化について必要な知識を身につけさせるような事前指導方法の検討が必要になろう 3 2. 授業観察の方法についての事前指導 授業観察の方法 についてはいずれのテキストでも紙幅を割いて記述している 岡崎 岡崎 (1997 pp.37 44 pp.50 57) はその理論編で内省を促すものとしての授業観察の新たな位置づけに触れ 主に Wajnryb(1992) を引用しながら実習生にとっての授業観察の意義について述べたうえで 実践編において内省を促す工夫を施した 授業者との打ち合わせ 教案作成 観察 観察後の考察 という授業観察の一連の流れを課題として提示している 一方中川 (2004) では 授業観察 と 授業見学 とを分けて記述している 授業観察 (pp.29 32) は現場を体験するとともに 大学の講義等で得た理論と照らし合わせて現職教師の授業から指導技術を会得することを目的とするものとして 観察ポイントを具体的に挙げて構成的な観察方法を紹介している 授業見学 (pp.33 34) は実習に備えての授業観察で 本稿でいう事前指導の一部としての授業観察に相当する ここで示されている観察ポイントは 学習者の名前や国籍の把握 日本語レベルや自分

136 同志社女子大学学術研究年報 2010 年第 61 巻 の実習に関連する項目の理解度のチェック 教室の状況など 教壇実習に直接関わる事柄の把握である こうした視点は 教育実習に含まれる授業観察においても必要であるため 実習直前の事前指導において授業観察の方法を指導する場合は 内省的な観察方法の指導に加え この 授業見学 で示されている観点も参考になるだろう しかし より指導内容を充実させるためには 実習生たちが実習プログラムの一部としての授業観察において実際に何に注目し 何を感じ 考えているかを調査することも必要ではないだろうか 山本 (2008 p.12) では1 年間の日本語教育長期実習におけるある実習生の授業観察記録の分析を行い 実習生の視点が教師や教授行為に偏りがちになり 学習者や学習そのものに目が向きにくいことや 授業を時間軸のなかで動的に捉える力が不足していることを指摘している 短期実習の場合 授業観察の機会はさらに限られてくるが 実習生はどのような見方で観察しているのだろうか 調査を通して実習生が見落としがちな部分や不足しやすい視点を把握し それを補うような事前指導を検討していくことが求められる 3 3. 教壇実習のタイプ別の指導教壇実習の形態は 上述のように実習先の受け入れ態勢等の事情によりさまざまであるが 2つの実習用テキストは 明記されてはいないものの 基本的に単独で教壇に立つことを前提に記述されているようである 中川 (2004 p.41) には 教師の役割 についての記述があるが これは一般の授業における教室活動やその前後の教師の仕事について述べたものである だが たとえばティーチング アシスタントとして教壇に立つ場合や実習生のみでティーム ティーチングをする場合には 単独で授業を行う場合とは異なる役割や心構え 困難 注意点があるはずである 教壇実習の形態に応じた事前指導の方法についても 今後調査に基づく検討が必要といえるだろう 3 4. リフレクションの方法についての事前指導中川 (2004 p.23) に示されている 実習の流れ の図では 流れの最後が 反省会の実施 と 内省 でしめくくられ それを 次回に生かす として リフレクションの重要性に触れているが 内省の重要性をとくに強調しているのは岡崎 岡崎 (1997) のほうである 3 2 で述べたように 実習生の内省の場として新しく捉えなおされた授業観察について詳説したうえで種々の課題を提供し また 授業観察の準備の段階から教壇実習を完了しその結果 の評価までの各段階で どのような点に注目し どんなことを考え感じたかをその度に記録していくもの (p.57) としての 実習ジャーナル を書くことも勧めている このように同書では自己リフレクションに焦点を当てているが 中西 (2010) のように 近年はオンラインでの共同リフレクションも試みられている リフレクションについて事前指導を行う場合 リフレクションの形態に応じて その意義や目的 具体的手法 注意点等について念入りな説明が必要となろう 4. 海外における日本語教育実習の事前指導 2 1 で見たように 教育実習を行う相手や場所はさまざまである 岡崎 岡崎 (1997) は実習現場の条件に応じて選ぶとする課題も用意しているが それは 教室活動のさまざまな場面における内省を促すための機会を多面的に提供するもの (pp.68 69) で 実際の授業の観察や教壇実習の機会を持たない実習機関の実習生にも対応可能な課題という位置づけである 教壇実習の場や実習対象となる学習者の多様性への対応を第一に考えられた課題ではないという印象を受けたが 今後は実習先のタイプ別に 必要となる知識 能力を改めて調査 検討することも 事前指導 ひいては実習そのものの充実のために必要なのではないだろうか こうした検討に際しては まずはおもに学習者の背景の理解や 実習現場をより大きな文脈のなかでの把握させることに重点を置くのが自然だろう そこで 最後に実習先別の検討の一例として海外実習の場合を取り上げ 実習用テキストで扱われている内容や 本稿で検討してきた課題以外に 事前指導の内容に盛り込むとよいと思われる事柄を以下に列挙してみた a. 現地 ( 受け入れ先の国 ) についての基礎データを中心とした知識 b. 現地と日本との関係についての基礎知識 c. 現地の言語についての基礎知識 d. 現地の日本語教育の概況 e. 学習者のレディネス : 主に学習スタイルや教授スタイル f. 異文化理解能力 a~c は学習者の背景の理解に当たる 実習機関の教員や学習者と会話するなかでその国の文化や情勢などが話題に上り あなたはそんなことも知らずに来たのですか? と言われ事前学習の不足を後悔したという感想を 海外実習を終えた実習生から聞くことが少なくない 教える能力

日本語教育実習プログラムの事前指導の再検討 137 は優れていたとしても 学習者の出身国には関心を持っていないのではないかという印象を与えては 教壇に立つ者にとって不可欠な学習者からの信頼を得ることは困難である 学習者の背景についての基礎知識が必要なことは海外実習に限ったことではないが 海外実習の場合にはこうした知識について学習者が抱く実習生への期待がより大きいと感じられる また 国立国語研究所 (2000 p.19) の調査結果に見るように 海外実習はその6 割が東アジア諸国で行われている 日本語教育の歴史を含め 当該国と日本との関係について 一定の知識があることが望ましいだろう dは学習者の学習動機や学習環境 卒業後の日本語の生かし方などの理解 eは学習者にとってなじみのある学習 教授スタイルの理解で いずれも受け入れられやすい教室活動を計画するうえで必要な情報といえる fもいかなる状況下で実習を行う実習生にも必要な能力であるが 海外実習の場合 学習者ではなく教師のほうが異文化に入っていくことになり 実習活動以外の部分でも心身にストレスを受けやすく 一層必要性が増すと考えられる 以上は 筆者がこれまでに実習指導を担当するなかで必要性を感じたものや 実習生らから聞かれた意見をもとに挙げたものにすぎない 実際に必要な指導内容を把握するうえでは 受け入れ先の教員や学習者 実習を終えた実習生への調査をもとに検討するのがより適切であろう (C) 研究成果報告書 国立国語研究所日本語教育部門 (2002) 平成 12 年度日本語教育の教師教育の内容と方法に関する調査研究日本語教員養成における実習教育に関する調査研究アンケート調査結果報告 国立国語研究所中川良雄 (2004) 秘伝日本語教育実習プロの技 凡人社中西久実子 (2010) 日本語教育実習における WEB ダイアリの有効性 無差 17 号 京都外国語大学 pp. 77 100 日本語教員の養成に関する調査協力者会議 (2000) 日本語教育のための日本語教員養成について 文化庁国語課山本由紀子 (2008) 教師としての成長を促す授業観察方法をめぐって 同志社女子大学総合文化研究所紀要 第 25 巻 同志社女子大学総合文化研究所 pp.1 13 5. おわりに 最初に述べたように 日本語教員養成において日本語教育実習は教師としての成長を促す場として重視されているが 実習生が実習を通して得る収穫に事前指導の質が影響することは言うまでもない 本稿では 実習をより有効なものとするために実習プログラム直前の事前指導に加えるべき視点や内容について検討してきたが こうした知識や能力をどのような方法で指導したり 学習を促したりするかという具体的方法の再検討も必要である 今後は実習先別の指導内容の吟味とともに 指導方法についても考えていきたい 参考文献 岡崎俊雄 岡崎眸 (1997) 日本語教育の実習理論と実践 アルク岡崎眸他 (2002) 内省モデルに基づく日本語教育実習理論の構築 / 平成 11~13 年度科学研究費補助金基盤研究