長岡市における物流関連施設の立地要因に関する基礎的研究 都市交通研究室 指導教員 今井健太郎松本昌二佐野可寸志土屋哲 1 はじめに日本の多くの地方都市においては 経済情勢の変化やモータリゼーションの進展などにより 近年都市中心部での事業所の減少や郊外部への流出が問題となっている 高速道路や幹線道路網の整備の進んだ郊外部においては流通団地等の基幹施設が整備されるなどして逆に事業所の集積が起こっている これに伴い中心市街地では空閑地が多数発生するなどその活力が失われ 中心性が低下している 多くの事業所ではその事業活動の中で何らかの物資の流入出が発生し そのほとんどを貨物車が担うことを考えると 周辺の交通条件が立地選定に際してひとつの大きな要因となると思われる 特に物流量の多い業種の事業所では交通条件がその立地に強く関係しているものと考えられる 以上のことから 本研究では地方都市のひとつであり 昭和 5 年代以降交通施設整備が進み交通の要衝となっている新潟県長岡市を対象として 事業所の立地動向を把握し 市内における事業所増減の傾向を明らかにするとともに 事業所の立地要因について分析を行い 今後の工業団地等の整備の方向性について検討を行うことを目的とする 2 長岡市の物流関連事業所数の立地 2.1 長岡市全体での事業所数の変化 まず 長岡市内における交通施設の整備と物流関連の事業所立地動向を把握する 長岡市内の主要交通施設の整備の進行についてまとめたものを表 1 に示す また 既存の統計資料を用いて市内での卸売 業および運輸 通信業の事業所数の経年変化につい て整理し 図 1 および図 2 にそれぞれ示す 卸売業 と運輸 通信業では別の統計のデータであるため年 次が異なっている 表 1. 長岡市内の主要交通施設整備状況 年 1978(S53) 198(S55) 1981(S56) 1982(S57) 1983(S58) 1984(S59) 1985(S6) 1986(S61) 1987(S62) 1988(S63) 1991(H3) 事業所数 135 13 125 12 115 11 15 1 1119 交通施設整備状況北陸自動車道長岡 IC~ 新潟黒埼 IC 開通北陸自動車道長岡 JCT~ 西山 IC 開通北陸自動車道西山 IC~ 柏崎 IC 開通関越自動車道長岡 IC~ 小出 IC 開通北陸自動車道柏崎 IC~ 米山 IC 開通上越新幹線新潟 - 大宮間開業長岡東バイパス全線開通関越自動車道小出 IC~ 六日町 IC 開通北陸自動車道米山 IC~ 上越 IC 開通関越自動車道六日町 IC~ 湯沢 IC 開通 関越自動車道湯沢 IC~ 前橋 IC 開通 全線開通 大手大橋開通長岡バイパス全線開通北陸自動車道上越 IC~ 名立谷浜 IC 開通 北陸自動車道名立谷浜 IC~ 朝日 IC 開通 全線開通 関越トンネル 4 車線化 199 (.98) 117 (1.5) 1288 (1.15) 1264 (1.13) 114 (1.2) 196 (.98) S57 S6 S63 H3 H6 H9 H14 ( ) 内は昭和 57 年比 図 1. 長岡市の卸売業事業所数の経年変化
卸売業の事業所数は平成 3 年までは増加傾向が見られ 交通施設の整備の進行とともに事業所数は増加している しかし平成 3 年以降は減少に転じ 平成 14 年には昭和 57 年比で 1 を割り込んでいる 卸売業は長岡 IC 付近の深才 日越や国道 8 号 17 号沿線の上川西 川崎などでの増加が大きく 逆に市中心部の阪之上などでの減少が顕著となっている 事業所数 3 25 2 15 1 5 178 24 (1.15) 216 (1.21) 268 (1.51) 27 (1.52) S56 S61 H3 H8 H13 ( ) 内は昭和 56 年比 図 2. 長岡市の運輸 通信業事業所数の経年変化 総数 H13-S56 1 8 6 4 2-2 四郎丸豊田 千手 阪表之町上 中島 神田 川崎 希望十が日富黒上日丘宮町太山栖曽新内田通吉亀山条下川王越組川西福寺関本西戸川原 新大町島 六日市 図 4. 地区別運輸 通信業事業所数増減 宮本 大積 深才 運輸 通信業の事業所数は昭和 56 年以降継続的 に増加しているが平成 8 年から 13 年にかけてはほ ぼ横ばいとなっている 以上から長岡市全体としてはこれら物流関連事業 所数は交通施設整備の進んだ時期には増加傾向にあ ったものの 近年は減少または横ばいという状況に あることが分かった 2.2 地区別の事業所数の変化 次に地区別の卸売業および運輸 通信業の事業所 数の増減を図 3 および図 4 に示す 卸売業は昭和 57 年と平成 14 年の事業所数の差 運輸通信業は昭和 56 年と平成 13 年の事業所数の差である H14-S57 1 8 6 4 2-2 -4-6 -8-1 -12 総数千手 四郎丸 豊田 表町阪之上 川崎 神中田新大希宮島町島望内が丘 深才上富川十六曽山新下西日王日日太山栖亀本組川福寺越関町市田通吉西戸川原宮大本積 黒条 図 3. 地区別卸売業事業所数増減 運輸 通信業でも卸売業同様 長岡 IC 周辺地区 で大きく増加している 中心部では減少している地 区が多いが 減少数はそれほど大きくはない 以上から長岡市内においては長岡 IC 周辺等の交 通条件の良い場所でこれら物流関連事業所の増加が 大きく 逆に市中心部では減少が見られ 物流関連 事業所の立地には交通条件の良否が影響しているも のと考えられる 3 長岡市における物流関連事業所立地要因 本章では長岡市の事業所の立地要因について分析をするために 市内の事業所に対してアンケート調 査を実施し 結果の分析および考察を行う 3.1 アンケート調査の概要 長岡市内で事業所の増加 減少が大きい地区にお ける事業所立地の現状の把握と 事業所の立地要因 についての分析を行うため 長岡市内の事業所に対 してアンケート調査を実施した この調査は東京都 市圏物資流動調査を参考に 主に以下の内容で構成 されている
1 事業所の概要に関する項目 各事業所の業種や従業者数 事業所開設年など 基本的な情報を問う項目で構成されている 2 物資の搬入 搬出の状況に関する項目各事業所における物資の搬入 搬出の有無 搬 出入物資の品目 搬出入圏域などについて問う 項目で構成されている 3 事業所の立地に関する項目 事業所の移転の有無や移転前の事業所の概要 移転の理由などを問う項目で構成されている し 回収数 126( 回収率 29.17%) となった 地区別で は 増加地区は 215 事業所に配布し 84 事業所から回収 ( 回収率 39.7%) できたが では 217 事業所への配布に対し回収数 42( 回収率 19.35%) と 回収率が低かった 3.5 アンケート調査結果の集計と分析 地区別の産業構成と主要施設構成を図 5 と図 6 に それぞれ示す また地区別の従業員規模構成比率と 延床面積規模構成比率を図 7 と図 8 にそれぞれ示す 3.2 アンケート調査の対象 本調査は 2 章での事業所立地動向の分析を踏まえ 事業所の増加 減少が著しい地区の中から対象地区 を選定した 関越自動車道長岡インターチェンジに近接する日 越 深才の 2 地区を選定し そのうち特に長岡イン ターチェンジから近く 流通業務団地として整備さ れ事業所の集積が見られる長岡新産業センターおよびその周辺部 ( 新産 1~4 丁目 新産東町 南七日町 の一部 石動東町の一部 ) のみに限定する これに中之島見附 IC に隣接して整備された中之島流通団地 を加え 調査対象とした 以下これらをまとめて増 加地区と呼ぶ 事業所の減少が著しい地区としては市中心部の阪之上 表町 千手の 3 地区と大島地区を選定し 調査対象とした 以下これらをまとめてと呼 ぶ 3.3 アンケート調査の方法 今回のアンケート調査は対象地区内の各事業所を 訪問して配布を行い 回収方法は郵送回収とした アンケート票の配布は 28 年 1 月 22 日から 29 日 の間に行った アンケート配布には研究室の学生数 名が参加した 増加地区 15.7% 16.9% 45.8% 1.2% 6.% 13.3%1.2% 21.4% 19.% 38.1% 4.8% 16.7% 農林水産業 鉱業 建設業 製造業 卸 小売 飲食店 金融 保険業 不動産業 運輸 通信業 電気 ガス 水道 熱供給業 サービス業 公務 図 5. 地区別産業構成比率 増加地区 43.4% 16.9% 2.4% 31.3% 6.% 54.8% 16.7% 2.4% 19.% 2.4% 4.8% 事務所施設 工場 店舗 飲食店 宿泊 娯楽施設 物流施設 その他 図 6. 地区別主要施設構成比率図 5から 産業構成には地区間で大きな差異は見られないが 図 6 を見ると主要施設構成は増加地区での物流施設の比率の高さが目立ち では店舗の割合が高いなど地区間で差異が見られる 3.4 アンケート調査の回収結果アンケート票は対象地区全体で 432 事業所に配布
増加地区 35.% 3.% 1.% 7.5% 17.5% 増加地区 2.9% 14.3% 71.4% 11.4% 7.7% 17.1% 4.9% 2.4% 4.9% 17.9% 21.4% 57.1% 3.6% 1~1 人 11~2 人 21~3 人 31~4 人 4 人以上 図 7. 地区別従業員規模構成比率 長岡市内新潟県内日本国内海外 図 11. 地区別物資の搬入圏域構成比率 増加地区 32.9% 21.9% 16.4% 9.6% 19.2% 増加地区 6.1% 53.% 36.4% 4.5% 75.% 1.% 7.5% 2.5% 5.% 25.9% 4.7% 33.3%.% ~5m2 51~1m2 11~2m2 21~3m2 31m2以上 図 8. 地区別延床面積規模構成比率 長岡市内新潟県内日本国内海外 図 12. 地区別物資の搬出圏域構成比率 図 7と図 8から増加地区ではに比べ比較的規模の大きな事業所の割合が高くなっていることが分かる 図 9と図 1 に地区別の物資の搬出入の有無の割合を示す また物資の搬出入のある事業所の 物資の搬出入圏域構成比率を図 11 と図 12 に示す 1% 1% 9% 1.7% 9% 15.9% 25.6% 28.9% 8% 8% 7% 7% 6% 6% 5% 5% 4% 89.3% 84.1% 74.4% 4% 71.1% 3% 3% 2% 2% 1% 1% % % 増加地区 増加地区 搬入あり 搬入なし 搬出あり 搬出なし 図 9. 物資の搬出の有無図 1. 物資の搬出の有無 図 9~ 図 12 を見ると 増加地区ではに 比べ物資の搬出入のある事業所の割合が高く 搬入 圏域や搬出圏域が広い事業所の割合が高くなってい ることが分かる 次に事業所の移転に関する項目の集計結果を図 13 と図 14 に示す 移転の理由は増加地区のみの質 問項目であり 増加地区の 84 事業所のうち他の場 所から移転をしてきた 63 事業所についての集計で ある また での事業所立地の変化は 減 少地区の事業所に対してその周辺での近年の事業所 立地の変化について聞いたものである 移転理由 高速 ICから遠い周辺の一般道路事情が悪い駐車場の利便性が悪いバス 鉄道の利便性が悪い取引先から遠い顧客から遠い周辺環境が悪い建物の使い勝手が悪い建物の設備が悪い賃料が高い事業拡大に伴い施設が手狭になったその他 1 1 7 15 11 15 2 23 n=149 56 1 2 3 4 5 6 選択数 図 13. 移転の理由 ( 複数選択 )
5% 満足度項目 満足 選択率 52% n=4 5% 38% 高速 ICまでの時間一般道路整備状況バス 鉄道利便性顧客近接性建物使い勝手建物設備 4.7% 6.7% 12.5% 13.3% 25.% 2.% 14.1% 26.7% 4.% 6.9% 96.9% 86.7% 図 14. の事業所立地の変化 移転の理由としては 事業拡大に伴い施設が手狭 になった が最も多く 63 事業所のうち 56 事業所 が選択した 建物の使い勝手や設備の悪さを移転の 理由とする事業所も多い また 高速 IC から遠い や 周辺の一般道路事情が悪い といった交通条件 を移転の理由とする事業所も多く見られる 図 14 から近年のでの事業所立地の変化 としては 変化なし との回答が半数以上を占め 廃業する事業所が多い の選択が 2 番目に多く 38% となった 他の場所へ移転する事業所が多い との回答は 5% しかなく 近年のこの地区での事業 所減少は廃業による部分が大きいものと考えられる 図 15 と図 16 に現在の事業所の満足度を地区別に 示す この質問は各満足度項目に対して 満足 普 通 不満 わからない の 4 つから 1 つを選択す る形となっている ここで満足度とは各満足度項目 に 満足 と回答した事業所の割合を指す またこ こでは物流関連事業所を物資の搬入 搬出ともにあ りの事業所と定義し それ以外を非物流関連事業所 としている 満足度について回答のなかった事業所 は除外した 他の場所へ移転する事業所が多い廃業する事業所が多い他の場所から移転してくる事業所が多い新規立地する事業所が多い変化なし 物流関連事業所 (n=64) 非物流関連事業所 (n=15) 図 15. 現在の事業所の満足度 ( 増加地区 ) 満足 選択率 満足度項目 高速 ICまでの時間一般道路整備状況 12.% 2.% 41.2% 41.2% バス 鉄道利便性 24.% 41.2% 顧客近接性建物使い勝手 12.% 12.% 29.4% 29.4% 建物設備 12.% 23.5% 物流関連事業所 (n=25) 非物流関連事業所 (n=17) 図 16. 現在の事業所の満足度 ( ) 増加地区においては高速 IC から近いため 高速 IC までの時間 は物流関連事業所 非物流関連事業所ともに満足度が高くなっている 一般道路整備状況 は物流関連事業所では 6 割が満足と答えているのに対し 非物流関連事業所では満足と回答した事業所は 4 割にとどまっている その他の項目については全般に満足度は低くなっている では満足度が特に高くなっている項目は見られない 物流関連事業所での満足度が全般に低く 非物流関連事業所と比較して特に 高速 IC までの時間 の満足度が低く 一般道路整備状況 の満足度も低くなっている の物流関連事業所は非物流関連事業所に比べ交通の便の悪さを強く感じていると考えられる
4 まとめ 4.1 アンケートのまとめアンケート調査によって得られた知見を以下に整理する 1 増加地区では比較的大規模な事業所の集積が見られ 物資の搬入圏域 搬出圏域ともに広い範囲に及ぶ事業所が多い この地区の事業所のうち 75% が他の場所から移転をしてきた事業所であり その移転の理由としては事業拡大により施設が手狭になったことが特に多く 交通条件も移転に影響している 長岡 IC や中之島見附 IC の付近であるため高速 IC への近接性に対する満足度は高く 物流関連事業所のほうが非物流関連事業所に比べ交通条件に満足している事業所の割合がやや高い 2 においては比較的小規模な事業所の割合が高く 物資の搬入元や搬出先が狭い範囲内にある事業所が多い この地区での近年の事業所立地の変化としては 廃業する事業所が多く 郊外部等へ移転をする事業所は少ないと考えられる 現在の事業所の満足度は非物流関連事業所よりも物流関連事業所のほうが全般に低く 特に交通条件への満足度でその傾向が強くなっている 4.2 今後の工業団地等の整備の方向性長岡市全体としては近年事業所数が減少傾向にあり また今後人口減少が予想されることから 新たな工業団地等の整備の必要性は低いと考えられる アンケートの結果から 近年はにおいては廃業する事業所が多く 移転する事業所は多くはないということが明らかとなった しかし増加地区の移転事業所の移転の理由として 事業所の施設自体への不満と交通条件が多かったことや 現在では特に物流関連の事業所において交通条件や 施設への満足度が低くなっていることを考え合わせると 移転への潜在的なニーズはあるものと考えられる 以上から 今後もし工業団地や流通団地等の整備を検討する場合には 交通条件の良い場所へ集約的に整備するべきと考えられる 位置としては特に高速 IC 付近が望ましく 長岡 IC 周辺や今後旧越路町に整備が予定されているスマート IC 付近などが考えられる 4.3 今後の課題長岡市で今後工業団地等の整備を検討するにあたっては どの程度の整備が必要かを定量的に分析する必要がある また事業所が減少している市中心部では個人商店や町工場のような小規模な事業所が多く 少子高齢化等の影響による後継者不足から 今後廃業せざるを得ない事業所が増加することが予想される そのような事業所への対策が中心部衰退を食い止める重要な課題となる < 参考文献 > 1) 金田卓也 樋口秀 森村道美 (2), 長岡市中心地区の事業所の立地行動及びその背景の把握と中心市街地の衰退に関する研究, 日本都市計画学会学術研究論文集, 第 35 巻,pp.199-24. 2) 阿部宏史 谷口守 芝大輔 (24), 岡山市における事業所立地の動向と移転要因に関する分析, 地域経済研究, 第 15 号 3) 長岡市 (24) 長岡市都市計画マスタープラン ~ 市民とともに進めるまちづくり ~ 4) 谷口栄一 (25), 現代の新都市物流 -IT を活用した効率的で環境にやさしい都市物流へのアプローチ - 森北出版 5) 長岡市役所ホームページ http://www.city.nagaoka.niigata.jp