No. 2 2 型糖尿病では 病態の一つであるインスリンが作用する臓器の慢性炎症が問題となっており これには腸内フローラの乱れや腸内から血液中に移行した腸内細菌がリスクとなります そのため 腸内フローラを適切に維持し 血液中への細菌の移行を抑えることが慢性炎症の予防には必要です プロバイオティクス飲

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(1) ビフィズス菌および乳酸桿菌の菌数とうつ病リスク被験者の便を採取して ビフィズス菌と乳酸桿菌 ( ラクトバチルス ) の菌量を 16S rrna 遺伝子の逆転写定量的 PCR 法によって測定し比較しました 菌数の測定はそれぞれの検体が患者のものか健常者のものかについて測定者に知らされない状態で

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

ごく少量のアレルゲンによるアレルギー性気道炎症の発症機序を解明

スライド 1

発表内容 1. 背景感染症や自己免疫疾患は免疫系が強く関与している病気であり その進行にはT 細胞が重要な役割を担っています リンパ球の一種であるT 細胞には 様々な種類の分化したT 細胞が存在しています その中で インターロイキン (IL)-17 産生性 T 細胞 (Th17 細胞 ) は免疫反応

乾癬などの炎症性皮膚疾患が悪化するメカニズムを解明

スライド 1

卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

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スライド 1

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Microsoft Word - 最終:【広報課】Dectin-2発表資料0519.doc

接歯や粘膜上皮に付着できない菌も組織定着が可能です ( 図 2) 口腔ケアが低下し異菌種間の凝集を仲介する細菌種の Fusobacterium や Actinomyces などが増えると プラーク量は一気に増加します ( 図 2) 徐々にプラーク内の嫌気度が増し 歯周病原菌 Porphyromona

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既定の事実です 急性高血糖が感染防御機能に及ぼす影響を表 1 に総括しました 好中球の貧食能障害に関しては ほぼ一致した結果が得られています しかしながら その他の事項に関しては 未だ相反する研究結果が存在し 完全な統一見解が得られていない部分があります 好中球は生体内に侵入してきた細菌 真菌類を貧

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

( 様式甲 5) 氏 名 忌部 尚 ( ふりがな ) ( いんべひさし ) 学 位 の 種 類 博士 ( 医学 ) 学位授与番号 甲第 号 学位審査年月日 平成 29 年 1 月 11 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 1 項該当 Benifuuki green tea, containin

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関


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るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

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血管のオートファジー機能低下が動脈硬化進展や大動脈瘤形成を促進する

抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

ストレスが高尿酸血症の発症に関与するメカニズムを解明 ポイント これまで マウス拘束ストレスモデルの解析で ストレスは内臓脂肪に慢性炎症を引き起こし インスリン抵抗性 血栓症の原因となることを示してきました マウス拘束ストレスモデルの解析を行ったところ ストレスは xanthine oxidored

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

< 背景 > HMGB1 は 真核生物に存在する分子量 30 kda の非ヒストン DNA 結合タンパク質であり クロマチン構造変換因子として機能し 転写制御および DNA の修復に関与します 一方 HMGB1 は 組織の損傷や壊死によって細胞外へ分泌された場合 炎症性サイトカイン遺伝子の発現を増強

< 研究の背景と経緯 > 私たちの消化管は 食物や腸内細菌などの外来抗原に常にさらされています 消化管粘膜の免疫系は 有害な病原体の侵入を防ぐと同時に 生体に有益な抗原に対しては過剰に反応しないよう巧妙に調節されています 消化管に常在するマクロファージはCX3CR1を発現し インターロイキン-10(

ロペラミド塩酸塩カプセル 1mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにロペラミド塩酸塩は 腸管に選択的に作用して 腸管蠕動運動を抑制し また腸管内の水分 電解質の分泌を抑制して吸収を促進することにより下痢症に効果を示す止瀉剤である ロペミン カプセル

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

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PowerPoint プレゼンテーション

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

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界では年間約 2700 万人が敗血症を発症し その多くを発展途上国の乳幼児が占めています 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの 先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の 間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています 発症早期には 全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になり

日本の糖尿病患者数は増え続けています (%) 糖 尿 25 病 倍 890 万人 患者数増加率 万人 690 万人 1620 万人 880 万人 2050 万人 1100 万人 糖尿病の 可能性が 否定できない人 680 万人 740 万人

() () () 図 () クレゾール ) の濃度が減少し 便性 ( 色 におい ) にも改善が認められました 以上 文献 1 より 2. 内臓脂肪の低減効果 1 腸からのガセリ菌 SP 株の検出状況 *1: ブドウ球菌属とも呼ばれます 毒素型食中毒の原因菌の一つであ

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

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の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

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報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

グルコースは膵 β 細胞内に糖輸送担体を介して取り込まれて代謝され A T P が産生される その結果 A T P 感受性 K チャンネルの閉鎖 細胞膜の脱分極 電位依存性 Caチャンネルの開口 細胞内 Ca 2+ 濃度の上昇が起こり インスリンが分泌される これをインスリン分泌の惹起経路と呼ぶ イ

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

学位論文要旨 牛白血病ウイルス感染牛における臨床免疫学的研究 - 細胞性免疫低下が及ぼす他の疾病発生について - C linical immunological studies on cows infected with bovine leukemia virus: Occurrence of ot

制御性 T 細胞が大腸がんの進行に関与していた! 腸内細菌のコントロールによる大腸がん治療に期待 研究成果のポイント 免疫細胞の一種である制御性 T 細胞 1 が大腸がんに対する免疫を弱めることを解明 逆に 大腸がんの周辺に存在する FOXP3 2 を弱発現 3 する細胞群は がん免疫を促進すること

関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

説明書

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学位論文審査結果報告書

平成14年度研究報告

NEWS RELEASE 東京都港区芝 年 3 月 24 日 ハイカカオチョコレート共存下におけるビフィズス菌 BB536 の増殖促進作用が示されました ~ 日本農芸化学会 2017 年度大会 (3/17~

2 (1) (2) SCI 2 SCI

平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

ピルシカイニド塩酸塩カプセル 50mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにピルジカイニド塩酸塩水和物は Vaughan Williams らの分類のクラスⅠCに属し 心筋の Na チャンネル抑制作用により抗不整脈作用を示す また 消化管から速やかに

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犬の糖尿病は治療に一生涯のインスリン投与を必要とする ヒトでは 1 型に分類されている糖尿病である しかし ヒトでは肥満が原因となり 相対的にインスリン作用が不足する 2 型糖尿病が主体であり 犬とヒトとでは糖尿病発症メカニズムが大きく異なっていると考えられている そこで 本研究ではインスリン抵抗性

Microsoft Word - プレスリリース最終版

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本研究成果は 2015 年 7 月 21 日正午 ( 米国東部時間 ) 米国科学雑誌 Immunity で 公開されます 4. 発表内容 : < 研究の背景 > 現在世界で 3 億人以上いるとされる気管支喘息患者は年々増加の一途を辿っています ステロイドやβ-アドレナリン受容体選択的刺激薬の吸入によ

< 研究の背景と経緯 > ヒトの腸管内には 500 種類以上 総計 100 兆個以上の腸内細菌が共生しており 腸管からの栄養吸収 腸の免疫 病原体の感染の予防などに働いています 一方 遺伝的要因 食餌などを含むライフスタイル 病原体の侵入などや種々の医療的処置などによって腸内細菌のバランスが乱れると

シプロフロキサシン錠 100mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにシプロフロキサシン塩酸塩は グラム陽性菌 ( ブドウ球菌 レンサ球菌など ) や緑膿菌を含むグラム陰性菌 ( 大腸菌 肺炎球菌など ) に強い抗菌力を示すように広い抗菌スペクトルを

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統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

ン投与を組み合わせた膵島移植手術法を新たに樹立しました 移植後の膵島に十分な栄養血管が構築されるまでの間 移植膵島をしっかりと休めることで 生着率が改善することが明らかとなりました ( 図 1) この新規の膵島移植手術法は 極めてシンプルかつ現実的な治療法であり 臨床現場での今後の普及が期待されます

したことによると考えられています 4. ピロリ菌の検査法ピロリ菌の検査法にはいくつかの種類があり 内視鏡を使うものとそうでないものに大きく分けられます 前者は 内視鏡を使って胃の組織を採取し それを材料にしてピロリ菌の有無を調べます 胃粘膜組織を顕微鏡で見てピロリ菌を探す方法 ( 鏡検法 ) 先に述

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

イヌリンと消化器疾患

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11 月 16 日午前 9 時 ( 米国東部時間 ) にオンライン版で発表されます なお 本研究開発領域は 平成 27 年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い 国立研究開発法人科学 技術振興機構 (JST) より移管されたものです 研究の背景 近年 わが国においても NASH が急増しています

血糖値 (mg/dl) 血中インスリン濃度 (μu/ml) パラチノースガイドブック Ver.4. また 2 型糖尿病のボランティア 1 名を対象として 健康なボランティアの場合と同様の試験が行われています その結果 図 5 に示すように 摂取後 6 分までの血糖値および摂取後 9 分までのインスリ


わが国における糖尿病と合併症発症の病態と実態糖尿病では 高血糖状態が慢性的に継続するため 細小血管が障害され 腎臓 網膜 神経などの臓器に障害が起こります 糖尿病性の腎症 網膜症 神経障害の3つを 糖尿病の三大合併症といいます 糖尿病腎症は進行すると腎不全に至り 透析を余儀なくされますが 糖尿病腎症

ただ太っているだけではメタボリックシンドロームとは呼びません 脂肪細胞はアディポネクチンなどの善玉因子と TNF-αや IL-6 などという悪玉因子を分泌します 内臓肥満になる と 内臓の脂肪細胞から悪玉因子がたくさんでてきてしまい インスリン抵抗性につながり高血糖をもたらします さらに脂質異常症


汎発性膿庖性乾癬の解明

PRESS RELEASE 岡山大学記者クラブ 文部科学記者会科学記者会 厚生労働記者会厚生日比谷クラブ御中 平成 30 年 6 月 21 日 岡山大学 日本医療研究開発機構 報道解禁 : 平成 30 年 6 月 22 日 ( 金 ) 午前 4 時 ( 新聞は 22 日朝刊より ) 尿 1 滴で分か

平成 2 3 年 2 月 9 日 科学技術振興機構 (JST) Tel: ( 広報ポータル部 ) 慶應義塾大学 Tel: ( 医学部庶務課 ) 腸における炎症を抑える新しいメカニズムを発見 - 炎症性腸疾患の新たな治療法開発に期待 - JST 課題解決型基

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平成24年7月x日

記者会見6-9・加藤新.pptx

上原記念生命科学財団研究報告集, 28 (2014)

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

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Transcription:

順天堂大学 No. 1 医療 健康 プロバイオティクス飲料の継続摂取が日本人 2 型糖尿病患者にもたらす効果 ~ 腸管バリア機能強化による慢性炎症の抑制の可能性 ~ 概要順天堂大学大学院医学研究科 代謝内分泌内科学の金澤昭雄准教授 佐藤淳子准教授 綿田裕孝教授 プロバイオティクス研究講座の山城雄一郎特任教授らの研究グループは 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) との共同研究の成果として プロバイオティクス *1 飲料の継続摂取が日本人 2 型糖尿病患者の腸内フローラを変化させ 慢性炎症の原因となる腸内細菌の血液中への移行を抑制することを明らかにしました これらの結果は 糖尿病の発症メカニズムや病態の理解 新薬の開発に道を開く可能性を示しました 本研究は英科学雑誌 Scientific Report の電子版(9 月 21 日付 ) に公開されました 本研究成果のポイント 日本人 2 型糖尿病患者におけるプロバイオティクス飲料の継続摂取により 摂取群では便中の総ラクトバチルス属菌が増加し 腸内の善玉菌も増加した 摂取群では血中の細菌数が減り 血中への腸内細菌の移行を抑制することができた 腸管バリア機能を強化することで慢性炎症を抑制する可能性を提示した 背景 ヒトの腸内には 100 兆個を超える腸内細菌が棲みついており 複雑な生態系を形成し腸内フロー ラと呼ばれています 腸内フローラは私たちの健康な体づくりや病気の予防などに大きく関与して おり 腸内フローラの乱れは健康に悪影響を及ぼすことが示されています なかでも 日本人 2 型 糖尿病患者では 腸内フローラのバランスが乱れていること さらに腸内フローラの乱れから腸管 バリア機能 *2 が低下することにより腸内細菌が血流中へ移行しやすいバクテリアルトランスロケー ション (BT: Bacterial Translocation) *3 が起こっていることを研究グループは明らかにしてきました ( 注 1) ( 注 1): 順天堂大学ニュースリリース ( 平成 26 年 6 月 4 日 ) 日本人 2 型糖尿病患者における 腸内フローラの乱れ を発見 ~ 腸内細菌が血流中へ 移行する ことが明らかに ~ http://www.juntendo.ac.jp/graduate/pdf/news09.pdf

No. 2 2 型糖尿病では 病態の一つであるインスリンが作用する臓器の慢性炎症が問題となっており これには腸内フローラの乱れや腸内から血液中に移行した腸内細菌がリスクとなります そのため 腸内フローラを適切に維持し 血液中への細菌の移行を抑えることが慢性炎症の予防には必要です プロバイオティクス飲料は腸内フローラのバランスを整えることがわかっているため 本研究では プロバイオティクス飲料の継続摂取が日本人 2 型糖尿病患者の腸内フローラならびに腸内細菌の血流中への移行に及ぼす効果とその影響について解析を行いました 内容食事 運動療法もしくは 薬物療法で加療中の2 型糖尿病患者 70 名を対象とし ( 年齢 30~79 歳 HbA1c 6% 以上 8% 未満 ) プロバイオティクス飲料(400 億個のラクトバチルスカゼイシロタ株含有 低カロリータイプ ) を継続摂取する群と非摂取群とに無作為に分け 16 週間の経過観察を行いました ( 図 1) 両群とも摂取前 摂取 8 週間後 16 週間後に糞便中と血中の腸内フローラ解析を行いました フローラ解析にはヤクルトが開発した腸内フローラ自動解析システム (Yakult Intestinal Flora- Scan: YIF-SCAN ) を用いました さらに 炎症性サイトカインである腫瘍壊死因子 -α(tnf-α) インターロイキン-6(IL-6) および炎症の指標である高感度 C 反応性タンパク等も解析し 70 名中 各群 34 名が試験を終了しました 試験終了時の16 週後において 摂取群では便中総ラクトバチルス属菌 特にラクトバチルスカゼイとクロストリジウムコッコイデスグループの菌数は非摂取群と比較して有意に増加していました また ラクトバチルスカゼイ以外の善玉菌であるラクトバチルスガセリとラクトバチルスロイテリも摂取前と摂取 16 週後の比較で有意に増加しました そして 腸内から血液中へ移行した菌数は投与 8 週後において摂取群と非摂取群で差は認めませんでしたが 16 週後において血液中の総菌数は摂取群で有意に低下していました 具体的には 非摂取群では血液 1mLあたり6 個の細菌が検出されたのに対し 投与群では1.8 個と減少していました ( 図 2) 今回の研究で ラクトバチルスカゼイシロタ株を含有するプロバイオティクス飲料の摂取後に増加したラクトバチルスカゼイ ラクトバチルスガセリ ラクトバチルスロイテリはいずれも腸管の上皮細胞間の接着を強化させる作用があることがわかっています このことから プロバイオティクス飲料の継続摂取は 腸内フローラの変化を介して腸管バリア機能を強化することで血中への腸内細菌の移行を抑制する効果があることが考えられます

No. 3 今後の展開腸内細菌の血中への移行は宿主であるヒトにゆるやかな慢性炎症を引き起こす可能性があり 糖尿病の病態を悪化させることが懸念されます 今回の研究結果は プロバイオティクス飲料の継続摂取が2 型糖尿病患者の腸内フローラに変化を与え 腸内細菌の血中への移行を抑制することを初めて明らかにしたもので 2 型糖尿病のさらなる病態解明や 腸管バリア機能の強化による慢性炎症抑制をターゲットにした糖尿病の新薬開発につながる可能性があります ただ 今回検討した炎症に関連する血液中の腫瘍壊死因子 -α インターロイキン-6および高感度 C 反応性タンパクには変動を認めなかったため 今後は慢性炎症の指標 ( 炎症マーカ値など ) を低下させ 実際に糖尿病の病態を改善しうるより効果的な介入方法を検討しようと考えています

No. 4 図 1 本研究の試験方法上記の糖尿病患者をプロバイオティクス摂取群と非摂取群に無作為に割り付けを行い 16 週間経過観察を行いました 摂取前 摂取 8 週後と 16 週後に血液中への腸内細菌の移行 便中腸内フローラの解析を行いました 血液 1ml あたりの細菌数 ( 個 ) 60 55 50 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 有意差なし非摂取摂取 8 週後 非摂取 16 週後 最大値 最小値 摂取 * 第 3 分位中央値 第 1 分位 血中総菌数の低下 *P<0.05 図 2 プロバイオティクス投与後の血液中への細菌の移行プロバイオティクス飲料の摂取 16 週後において 摂取群では血液中の腸内細菌数は減少した

113-8421 東京都文京区本郷 2-1-1 順天堂大学医学部 医学研究科 用語解説 *1 プロバイオティクスプロバイオティクスの定義としては 腸内フローラのバランスを改善することにより人に有益な作用をもたらす生きた微生物 が広く受け入れられています その代表的なものに乳酸菌やビフィズス菌があります *2 腸管バリア機能腸管上皮細胞がもつ腸内細菌の侵入を防ぐバリア機能のことです 腸管上皮細胞はお互い強固に接着することで 細菌に対する物理的なバリアとして機能するのみならず 分厚い粘液層の形成や抗菌タンパクの分泌などを介して 宿主防御の役割を果たしています *3 バクテリアルトランスロケーション (BT:Bacterial Translocation) 腸管粘膜を介して生きた腸内細菌が腸管内から粘膜固有層 さらには腸管リンパ節や他の臓器に移行し感染を引き起こすことをバクテリアルトランスロケーション (BT) と呼んでいます BT を引き起こす主な原因としては 1) 腸管内における細菌の異常増殖 2) 腸管バリア機能の障害 3) 侵襲してくる細菌に対する生体防御機構の破綻と考えられています 原著論文 : 本研究は Nature Publishing Group の電子版雑誌 Scientific Reports (http://www.nature.com/srep/) で 2017 年 9 月 21 日に公開されました 論文タイトル : Probiotic reduces bacterial translocation in type 2 diabetes mellitus: A randomised controlled study 筆者 :Junko Sato, Akio Kanazawa, Kosuke Azuma, Fuki Ikeda, Hiromasa Goto, Koji Komiya, Rei Kanno, Yoshifumi Tamura, Takashi Asahara, Takuya Takahashi, Koji Nomoto, Yuichiro Yamashiro, Hirotaka Watada 掲載誌 :Sci. Rep. 7, Article number: 12115 (2017) doi:10.1038/s41598-017-12535-9 なお 本研究は JSPS 科学研究費基盤研究 C (JP26350871) の助成を受け 株式会社ヤクルト本社との共同研究により実施されました また 本研究に協力頂きました患者さんのご厚意に深謝いたします No. 5