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基質溶液 ( 脂質成分を含む製品では 本手順はデータの精度に大きく影響します 本手順の記載は特に厳守ください ) 添付の基質溶液は希釈不要です 融解し室温に戻した後 使用直前に十分に懸濁してください (5 分間の超音波処理を推奨いたします ) 解凍後の基質溶液の残りは 繰り返しの凍結融解を避けるため

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( 別添 ) ヒラメからの Kudoa septempunctata 検査法 ( 暫定 ) 1. 検体採取方法食後数時間程度で一過性の嘔吐や下痢を呈し, 軽症で終わる有症事例で, 既知の病因物質が不検出, あるいは検出した病因物質と症状が合致せず, 原因不明として処理された事例のヒラメを対象とする

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DNA シークエンス解析受託サービスを効率よく利用して頂くために シークエンス解析は お持ち頂くサンプルの DNA テンプレートの精製度 量 性質によ って得られる結果が大きく左右されます サンプルを提出しても望み通りの結果が返っ てこない場合は 以下の点についてご検討下さい ( 基本編 ) 1.

目 次 Ⅰ. キットの構成 3 Ⅱ. その他必要な器具 装置 3 Ⅲ. 試薬の調製法 4 Ⅳ. 操作手順 ( ローレンジ法 ) 5 小麦タンパク質濃度の算出法 6 標準曲線の例 6 グルテン含量の算出法 7 Ⅴ. 操作手順 ( ハイレンジ法 ) 7 グルテン含量の算出法 8 Ⅵ. キットの保存条件と

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2 Eppendorf PCR system Eppendorf PCR Eppendorf Advantage PCR P.7 P.3-4 P.6 Eppendorf PCR system P.6 P.

Transcription:

リアルタイム PCR( インターカレーター法 ) 実験ガイドこの文書では インターカレーター法 (TB Green 検出 ) によるリアルタイム PCR について 蛍光検出の原理や実験操作の流れなどを解説します 実際の実験操作の詳細については 各製品の取扱説明書をご参照ください - 目次 - 1 蛍光検出の原理 2 実験に必要なもの 3 実験操作法 4 結果の解析 1

1 蛍光検出の原理 インターカレーターによる蛍光検出の原理 TB Green は DNA に結合するインターカレーターの一種で PCR によって合成された二本鎖 DNA に結合し 励起光の照射により蛍光を発します この蛍光強度を測定することにより PCR 増幅産物の生成量をモニターできます さらに後述の融解曲線分析を行うことで適切な増幅産物が得られたかどうかを確認できます 融解曲線分析による PCR 増幅産物の確認融解曲線分析では PCR 反応後 反応液の温度を 60 から 95 まで徐々に上昇させ蛍光値をモニタリングします PCR 産物が二本鎖を形成している状態では強い蛍光が検出されますが ある一定の温度 (Tm 値 ) に達すると一本鎖に解離し蛍光値が急激に低下します Tm 値は PCR 産物の長さや GC 含量により異なるので 目的の増幅産物と Primer dimer のような短い増幅産物を区別することができます Raw data 1 st Derivative Primer dimer Raw data が蛍光値をモニタリングした元データで 1 st Derivative は元データを一次微分し てプラスマイナスを反転させたグラフです このピーク位置を Tm 値として算出します 2

2 実験に必要なもの 一般的な実験器具類マイクロピペット (20, 200, 1000μl) およびチップ ( フィルター付き ) 1.5 ml チューブおよびチューブラック攪拌機 (Vortex) 小型遠心機 (1.5 ml チューブ用 8 連 0.2 ml チューブ用 ) など * 詳細は 別冊の 遺伝子検査の準備と注意事項 をご参照ください リアルタイム PCR 装置 Thermal Cycler Dice Real Time System シリーズは 日本語仕様の食品環境検査用ソフトウェアを標準搭載しており 遺伝子検査にお勧めの機種です TB Green の蛍光は FAM フィルターで検出します 器具名称 1 Thermal Cycler Dice Real Time System Lite ( 製品コード TP700) 用途など 48 ウェル対応のコンパ クトタイプです 2 Thermal Cycler Dice Real Time System II ( 製品コード TP900) 96 ウェルタイプのスタン ダードタイプです 3 Thermal Cycler Dice Real Time System III with PC ( 製品コード TP970) 96 ウェルタイプのスタン ダードタイプです リアルタイム PCR 専用消耗品 Thermal Cycler Dice Real Time System シリーズでは専用の反応チューブおよび反応プレートをご用意しております 下記以外のチューブやプレートを使用すると 正常な PCR 反応が行われない他 装置故障の原因となりますので ご注意ください その他 反応液のマスターミックス調製や鋳型の希釈に使用するチューブ類は 通常の PCR/RT-PCR 実験と同様のものをご利用いただけます 3

Thermal Cycler Dice Real Time System III with PC( 製品コード TP970) 向け 独立型フラットキャップ付き 8 連反応チューブ 0.1 ml 8-strip tube, individual Flat Caps( 製品コード NJ902) コンタミネーション防止のためには 独立型フラットキャップ付き 8 連チューブをお勧めします チューブおよびキャップがそれぞれ連結した 8 連反応チューブ 0.1 ml 8-strip tube & cap Set( 製品コード NJ903) 96 穴反応用プレート & 密着シール HardFrame Dice 0.1ml 96 well qpcr plate( 製品コード NJ904) Sealing Film for Real Time ( 製品コード NJ500) Plate Sealing Pads*( 製品コード 9090) * 96 ウェルプレートに シールをしっかりと貼り付けるために使用する専用パッド リアルタイム PCR 試薬インターカレーター法 (TB Green 検出 ) による微生物遺伝子検査には QuickPrimer (Real Time) シリーズをお使い頂けます 以下のようにプライマーと試薬を組み合わせて使用します なお 反応確認用の陽性コントロールも別売りしています リアルタイム PCR 用プライマー QuickPrimer (Real Time) シリーズ ( 製品コード MR101 等 ) 4

リアルタイム PCR 用試薬 TB Green TM Premix Ex Taq (Tli RNaseH Plus)( 製品コード RR420S/A/B) 陽性コントロール DNA QuickPrimer (Real Time) シリーズ用 Positive Control DNA( 製品コード MR401 等 ) 3 実験操作法 (1) サンプルの調製 ( エリア 2 で実施 ) 検体の種類や実験目的に適した方法でサンプルの調製を行います 簡易的な抽出を行う方法としては 熱抽出法やアルカリ熱抽出法があります 高純度な DNA が必要な場合は DNA 精製キットを使用して調製します * DNA 調製法に関しては 別冊の DNA/RNA 調製法実験ガイド をご参照ください * 実験エリアに関しては 別冊の 遺伝子検査の準備と注意事項 をご参照ください (2) リアルタイム PCR 用装置のセッティング * Thermal Cycler Dice Real Time シリーズを使用する場合は 別冊の Thermal Cycler Dice Real Time Quick Manual をご参照ください (3) 反応液の調製 ( エリア 1 3 で実施 ) * 操作方法の詳細は 各製品の取扱説明書をご参照ください 1 反応液の調製 ( エリア 1 で実施 ) サンプル以外の試薬のマスターミックスを氷上で調製し リアルタイム PCR 専用チューブに分注し キャップを軽く閉めます 12 反応分のマスターミックス調製例試薬 1 反応当り 12 反応分 2 TB Green Premix Ex Taq 10μl 150μl 5 Primer mix 4μl 60μl 滅菌精製水 3μl 30μl 2 陰性コントロールの添加 ( エリア 1 で実施 ) 陰性コントロールのチューブに滅菌精製水を 3μl 添加し チューブのキャップをしっかり閉めます 3 サンプルおよび陽性コントロールの添加 ( エリア 3 で実施 ) エリア 3 に移動し (1) で調製したサンプルおよび陽性コントロールを各 3μl 添加し チューブのキャップをしっかり閉めます 5

リアルタイム PCR 反応液は コンタミネーション防止のため クリーンベンチ内で調製し ます 試薬は 酵素の失活を避けるため アイスボックス内で氷上で取り扱ってください (4) リアルタイム PCR の開始 リアルタイム PCR 反応液が入ったチューブを軽くスピンダウンし リアルタイム PCR 装 置にセットし 反応を開始します 4 結果の解析 増幅曲線と Ct 値 PCR 増幅の有無は 増幅曲線で確認します コントロール反応の結果が適切であることを確認した上で 測定対象サンプルの増幅の有無を判定します 増幅が認められない場合には 陰性と判定されます ただし PCR 阻害物質による偽陰性の可能性がありますので 注意してください 増幅が認められた場合は 次の融解曲線の結果と合わせて判定を行います 増幅曲線が閾値に達した時のサイクル数を Ct 値と呼び Ct 値は初期鋳型量の目安となります Ct 値が小さい場合は鋳型量が多く Ct 値が大きい場合は鋳型量が少なかったと推測されます 融解曲線と Tm 値 PCR 増幅産物の特異性は 融解曲線で確認します 陽性コントロールの Tm 値と測定対象サンプルの Tm 値が一致していれば 目的の PCR 産物が得られていると推測され 陽性と判定されます Tm 値が異なる場合は 非特異的増幅と推測され 陰性と判定されます 6

( 解析例 ) コントロール反応の例陽性コントロールは増幅し 陰性コントロールは増幅しないのが正しい結果です TB Green 検出の場合 反応系によっては 陰性コントロールでわずかに増幅が認められることがありますが 陽性コントロールと同じ Tm 値の産物でなければ 非特異的増幅産物と推測され問題ありません 陽性コントロール 陰性コントロール 7

陰性判定の例増幅曲線で増幅が認められても 融解曲線の Tm 値が陽性コントロールと一致しない場合は 陰性と判定されます このような結果になる原因としては プライマー由来の非特異的増幅が生じたこと等が考えられます 陽性判定の例 増幅曲線で増幅が認められ 融解曲線の Tm 値が陽性コントロールと一致した場合は 陽性 と判定されます 8