平間崇 PCR,RT-PCR,real-time PCR 1047 講 座 研究手法入門 : 生化学的 免疫学的実験法 PCR,RT-PCR,real-time PCR 平間 崇 要 旨 PCR は, 基礎研究や臨床検査などの幅広い分野において欠かせない手法として確立している PCR,RT-PCR,

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1 平間崇 PCR,RT-PCR,real-time PCR 1047 講 座 研究手法入門 : 生化学的 免疫学的実験法 PCR,RT-PCR,real-time PCR 平間 崇 要 旨 PCR は, 基礎研究や臨床検査などの幅広い分野において欠かせない手法として確立している PCR,RT-PCR,real-time PCR の基本的原理は共通であり, いずれも DNA 複製を人工的に繰り返すことで, 目的とする塩基配列のみを効率的に増やすことができる PCR は,2 本鎖 DNA を1 本鎖にする Denaturation step と 1 本鎖 DNA に対して相補的なプライマー DNA が結合する Annealing step を交互に繰り返すことで DNA を増幅させる RT-PCR は, 逆転写酵素によって RNA から DNA を合成し, それを鋳型に PCR を行う Real-time PCR は,PCR 反応 1 サイクルごとに増幅された DNA を蛍光色素で測定することにより DNA または RNA を検出かつ定量できる 遺伝子検査は年々新しい技術が開発され, 処理能力も格段に進歩しているが, これらの基本は PCR を用いている 臨床医も PCR の原理を理解し, 遺伝子検査の適応, 利点, 限界を理解することが重要である 平間崇 :PCR,RT-PCR,real-time PCR, 呼吸 32(11): ,2013 キーワード :PCR RT-PCR real-time PCR リアルタイム PCR プライマー Ⅰ. はじめに Ⅱ.PCR 呼吸器学に限らず, 基礎研究や臨床検査などの幅広い分 野において,PCR(polymerase chain reaction:dna ポ リメラーゼ連鎖反応 ) は必要不可欠な手法として確立して いる そのため基礎研究者だけでなく, 臨床医も PCR に 代表される遺伝子検査の原理を把握する必要がある 本シリーズ第 3 回にあたる本稿では, 臨床で広く用いられる, PCR,RT-PCR (reverse transcription PCR: 逆転写 PCR),real-time PCR( リアルタイム PCR) について解説する 埼玉医科大学呼吸器内科 Takashi Hirama Department of Respiratory Medicine, Saitama Medical University, Saitama , Japan. 概要生命の最小単位である細胞では, 細胞分裂の際に DNA 複製が行われる DNA の二重らせん構造は解かれ, その 1 本鎖 DNA が鋳型となり,DNA ポリメラーゼ ( 合成酵素 ) によって新たな DNA が完成する PCR は, この DNA 複製を人工的に繰り返すことで, 目的とする塩基配列のみを効率的に増やすことができる技術である. 原理 PCR,RT-PCR,real-time PCR, これら 3 つの検査法は同じ原理である 2 本鎖 DNA は, 高温環境下で変性し, 1 本鎖 DNA に分かれる (denaturation) 逆に,1 本鎖 DNA は冷却すると, 相補的配列を有する 1 本鎖 DNA と再結合し,2 本鎖 DNA が再生される (renaturation) 相補的配列を有する短い人工合成 DNA( プライマー :primer) を大量に加えておくと,1 本鎖 DNA を冷却したときに, 人工合成 DNA と結合する (annealing) PCR は,

2 1048 呼吸 32 巻 11 号 (2013 図 PCR 反応 PCR は,DNA を加熱と冷却することで,1 2 本鎖 DNA の変性 (denaturation),2 プライマーと template DNA の結合 (annealing),3 伸長反応 (extension) を繰り返す反応である 2 サイクルの PCR で DNA1 本が 4 本に増幅される この denaturation と annealing を利用する PCR 反応液中に, 検出対象となる template DNA,DNA ポリメラーゼ, プライマーを加え, 加熱と冷却を繰り返す PCR で最も重要なものがプライマーである プライマーとは, 増幅させたい塩基配列の両端の相補的配列を有する人工合成 DNA である 一般的に, 各々のプライマーは bp 程度に設計する 増幅させたい塩基配列は目的により長さが異なり, 数十塩基対から数万塩基対程度まで増幅が可能である Real-time PCR では bp とする PCR の場合, このプライマーの配列ができるだけ他の塩基配列と異なり, 目的の塩基配列特異的であることが望ましい プライマーの配列によって annealing の温度が決定される 配列の特異性を確認するには, 既知の DNA 配列を集めたデータベースと比較を行い, 配列がデータベース中で目的配列とのみ一致することをみるのがよい 日本 DNA データバンク (DDBJ) 1) や米国生物工学情報センター (NCBI) 2) の website で,blast と呼ばれるプログラムを用いて比較する. 実際の手順 ) DNA 抽出と精製 1 時間程度で検体から DNA 抽出精製できるキットが多数市販されており, 広く普及している 多くのキットのマニュアルはインターネットからダウンロード可能なので, 参考にしていただきたい 呼吸器領域では, 主に血液, 喀痰, 肺組織から DNA を抽出するが, 材料にあったキットを使用する必要がある ) PCR 反応液の調整 ( 例 ) Template DNA 1.0 ml Reaction mixture(solution) * (2 ) 12.5 ml 1 total 2 * Reaction mixture(solution) として DNA ポリメラーゼ,dNTP(DNA の原料 ),Mg 塩などを適切な濃度に調製したものが販売されている Template DNA と各プライマーを添加すれば PCR を実施できる ) PCR 反応 ( 図 1) 代表的な反応条件は,PCR を行う機械 ( サーマルサイクラー :Thermal cycler) にあらかじめプログラムされている 実際に PCR は, 反応液を調整して, 適切なプログラムを選択し, 機械のスイッチを押すだけである 1 Denaturation step: 反応液を 5 10 秒ほど 94 で加熱し,1 本鎖 DNA にする 2 Annealing step:60 程度まで急速に冷却することで,2 本鎖 DNA になる (1 本鎖 DNA となった template DNA 同士が再結合するより, 高濃度で存在するプライマーのほうが template DNA とより結合しやすい ) 3 Extension/Elongation step:dna ポリメラーゼによって template DNA に相補的な DNA を合成する 耐熱性 DNA ポリメラーゼ (Taq) が最も使用されており,70 で 20 秒ほど加熱する 現在では,Annealing step と Extension step が一緒になるように温度を設定する 2

3 平間崇 PCR RT-PCR real-time PCR 1049 図 PCR 機械とアガロースゲルによる電気泳動 A Applied Biosystems 社の Thermal cycler(geneamp ) DNA に対して加熱 と冷却を均一に実施することができる B 電気泳動による DNA 断片の確認 増幅産物が 300 bp になるようプライマー を設定したため 予測された DNA 断片が確認できる step PCR を使用する場合も多い Denaturation step から Extension step までの過程 その cdna に対して PCR 法を行う 原 理 (① ③)を 1 サイクルと呼び サイクルほど実施し ヒト免疫不全ウイルス HIV に代表されるレトロウイル たところで終了する(理論上は 1 サイクルで DNA を 2 倍 スは RNA ウイルスであり 宿主細胞に感染すると 逆転 に増幅できるため 30 サイクル程度で 1 本の DNA が 8 9 写酵素を利用して DNA を合成する RT-PCR では レ 倍まで増幅可能な計算となる) トロウイルスのもつ逆転写酵素(遺伝子を単離し それを ) PCR 生成産物の確認(図 2) 用いて人工合成したもの)を使用して mrna(メッセン PCR 反応後のサンプルをアガロースゲルで電気泳動し ジャー RNA)や RNA ウイルスから cdna を合成し 増幅された DNA 断片が予測された長さであることを確 PCR を実施する 認する また 増幅された DNA の配列を確認したい場合 実際の手順 その解析を行うこともある(増幅された塩基配列の受託解 ) RNA 抽出と精製 析を多くの企業が取り扱っている) PCR の長所と短所 長所 DNA 抽出から電気泳動まで 様々なキットが市 DNA 同様に 簡易に RNA を抽出精製できるキットが 市販されているため それらを利用することが多い ただ し DNA と異なり RNA は非常に不安定な物質であり 販されており 簡易に短時間で PCR が実施できるように 冷凍保存であっても半減期が短い そのため RNA 精製 なった 後は速やかに使用するか 80 で冷凍保存することが必 短所 定量が難しく 定性での判定となる プライマー の配列によっては非特異的な配列が増幅される場合もあり 増幅産物の塩基配列解析が必要な場合もある 要である ) RT-PCR 反応液の調整(例 one-step の場合) Template RNA Reaction mixture(solution) Ⅲ RT-PCR 概 要 RT-PCR は RNA に対して PCR を実施する手法であ Reverse transcriptase 0.25 ml ml る RNA から逆転写酵素 reverse transcriptase によっ て cdna を合成し(c は相補的 complementary のこと) total 2 通常の PCR 反応に必要な酵素や材料が含まれる

4 呼吸 32 巻 11 号 図 real-time PCR 機械と増幅曲線 A Cepheid 社の real-time PCR(SmartCycler ) B real-time PCR では Ct 値(threshold cycle)として PCR 産物の増幅過程を定量化する ここでは肺炎患者の喀 痰を使用し 30 種類の病原体に対して real-time PCR を実施したところ ヒト細胞(陽性コントロール)と 4) Mycoplasma pneumoniae が検出され 他の 29 種類は検出されていない ) RT-PCR 反応 ① Reverse transcription step 使用する酵素によって 多少異なるが 50 で 30 分ほど加熱することで RNA から cdna が合成される ② PCR reaction ①の後は PCR 反応を実施する する励起光源 蛍光を検出する検出器 PCR 装置(Thermal cycler)を組み合わせた物である 現在では 多くの real-time PCR 法が開発されているが その基本となっているのは TaqMan プローブ法と SYBR Green 法である 本項ではこの 2 つについて説 Denaturation step Annealing step Extension step を 明する サイクルほど実施し DNA 断片を確認する ) TaqMan プローブ法(図 3) Reverse transcriptase を選択する際に one-step か PCR で増幅させる DNA の両端にある 2 つのプライ two-step かを選択することが多い one-step は単一の マーに加えて その間に相補的配列を認識するプローブ 反応チューブで①と②を続けて実施する two-step で (probe)を用いる プローブは 増幅される DNA に特異 は①の後に試薬を入れ替えて②を実施する two-step 的な配列を用いるため 目的 DNA が増幅されたことを特 のほうが検出感度は向上するが そのぶん煩雑である 異的に観察できる プローブは 5 末端に蛍光レポーター RT-PCR の長所と短所 と 3 末端に消光クエンチャーを有する PCR で目的の塩 長所 RNA の検出ができる(特にインフルエンザウイル 基配列の増幅に比例してレポーターが蛍光を発するため スを代表とするウイルス性呼吸器感染症の多くが RNA ウ 検出器によって増幅過程を定量的に観察できる Real- イルスであるため RT-PCR は有用な検査法である) time PCR の多くが TaqMan プローブ法 またはこれ 短所 RNA は分解しやすく 同一検体からの再検査が 困難なことがある らに改良を加えた手法で行われている ) SYBR Green 法 SYBR Green は二重らせんを組んでいる DNA と特 Ⅳ real-time PCR 異的に結合する色素である DNA と結合すると青色光を 吸収し 緑色光を発光する SYBR Green を用いる re- 概 要 al-time PCR は 配列特異的なプローブを用意する必要が Real-time PCR は PCR による DNA 複製過程をリア なく コスト的にも安価であるため手軽に行うことができ ルタイムに測定する手法である PCR 産物をサイクルご る しかし SYBR Green は配列非特異的に 2 本鎖 とにモニターするため増幅産物の定量ができ また検出も DNA に結合するので プライマーの設計に特異性が求め 兼ねているためアガロースゲルを使用した DNA 断片の られる そのため SYBR Green 法では PCR 後に増 確認操作を省けるといった利点がある 現在 医療におい 幅産物を加熱して解離解析を必要とすることがある て診断目的で利用される PCR の殆どは real-time PCR 実際の手順 になっているといっても過言ではない ) DNA 抽出と精製 原 理 Real-time PCR は 増幅産物を蛍光測定によって定量 する そのため real-time PCR 装置は 蛍光色素を励起 PCR と同様である

5 平間崇 PCR,RT-PCR,real-time PCR 1051 表 鳥インフルエンザ A(H7N9) 検出用のプライマーとプローブ target(gene) name sequence primer/probe H7(HA gene) CNIC-H7F CNIC-H7R CNIC-H7P N9(NA gene) CNIC-N9F CNIC-N9R CNIC-N9P FluA(M1 gene) InfA F InfA R InfA P 5ʼ-AGAAATGAAATGGCTCCTGTCAA-3ʼ 5ʼ-GGTTTTTTCTTGTATTTTTATATGACTTAG-3ʼ 5ʼ-FAM-AGATAATGCTGCATTCCCGCAGATG-BHQ1-3ʼ 5ʼ-TGGCAATGACACACACTAGTCAGT-3ʼ 5ʼ-ATTACCTGGATAAGGGTCGTTACACT-3ʼ 5ʼ-FAM-AGACAATCCCCGACCGAATGACCC-BHQ1-3ʼ 5ʼ-GACCRATCCTGTCACCTCTGAC-3ʼ 5ʼ-AGGGCATTYTGGACAAAKCGTCTA-3ʼ 5ʼ-FAM-TGCAGTCCTCGCTCACTGGGCACG-BHQ1-3ʼ forward primer reverse primer TaqMan probe forward primer reverse primer TaqMan probe forward primer reverse primer TaqMan probe FAM:Fluorescent Reporter,BHQ-1:Quencher 世界保健機関 (WHO) より引用 ( A 型 (M1 gene),h7(ha gene),n9(na gene) を real-time RT-PCR で検出する ) real-time PCR 反応液の調整 ( 例 :TaqMan プロー ブ法の場合 ) Template DNA Reaction mixture(solution)(2 ) TaqMan Probe(10 mm).real-time PCR の長所と短所 total 1.0 ml 12.5 ml 10.0 ml 2 長所 :TaqMan プローブ法の場合, プローブによって 増幅産物を特異的に識別できる SYBR Green 法の場 合, プローブを設計する必要がなく安価である 短所 :TaqMan プローブ法の場合,PCR に加えプロー ブの設計費用を要するため高価になる SYBR Green 法の場合, 非特異的な増幅でも検出されてしまう可能性が ある Ⅴ. 実際に real-time RT-PCR を設計する ここでは実際に real-time PCR と RT-PCR を組み合 わせた real-time RT-PCR を設計してみる 例として 2013 年 4 月より中国を中心に感染拡大を続ける鳥インフ ルエンザ A(H7N9) を検出するシステムを立ち上げてみる. プライマーとプローブの設計 ( 表 1) 自身でプライマーやプローブを設計することも可能であ るが, ここでは世界保健機関 (WHO) 3) の推奨する配列を 使用する 論文やホームページに掲載されている配列の殆 どは, それらが特異的配列であるかどうか確認されている ため, そのまま応用できることが多い 4) WHO の website から配列をダウンロードする 検索サイトで realtime RT-PCR influenza A(H7N9) と入力しても配列を入手できる.real-time RT-PCR 反応液の調整 ( 例 :TaqMan プローブ法の場合 ) Template RNA * TaqMan Probe(10 mm) Reverse transcriptase 0.25 ml Buffer solution(5 ) ml total 2 * template RNA はインフルエンザ陽性の検体が必要なため, 本邦流行前に入手することは不可能である そのため cdna を合成して, 予測される配列が増幅されるか確認をする 現在では, 多くの企業で cdna 合成を受託しており,2 週間ほどで安価に cdna を合成できる. 実際の手順 ) RNA 抽出と精製 RT-PCR と同様である ) real-time RT-PCR 反応 1 Reverse transcription step:50 30 分 2 PCR reaction:40 サイクル Denaturation step:94 10 秒 Annealing step/extension step:62 40 秒 RNA 抽出から real-time RT-PCR まで 2 時間ほどで実施できるようになる 現に, 埼玉医科大学でも, 鳥イン

6 1052 呼吸 32 巻 11 号 (2013 フルエンザ A(H7N9) に備えて同様のシステムを構築してある Ⅵ. さいごに 遺伝子検査は年々新しい技術が開発され, 処理能力が格段に進歩している それに伴い, 新しい検査方法や検査名が次々に登場するため, 遺伝子を操作する機会が少ない者にとっては, それらを理解することに抵抗を感じる しかし, 遺伝子検査の基本は PCR であり, その原理が分ればそれほど困難なものではない 本稿が, 遺伝子検査を理解 する手助けになれば幸いである 文 ) 日本 DNA データバンク (DDBJ)( blastn?lang=ja) ) 米国生物工学情報センター (NCBI)( gov/) ) 世界保健機関 (WHO)( man_animal_interface/influenza_h7 n9/en/) ) Hirama T, et al. Prediction of the pathogens that are the cause of pneumonia by the battlefield hypothesis. PloS one 6:e24474, 2011 献

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