平成28年度地域包括診療加算・地域包括診療料に係る かかりつけ医研修会

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標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会

肥満者の多くが複数の危険因子を持っている 肥満のみ約 20% いずれか 1 疾患有病約 47% 肥満のみ 糖尿病 いずれか 2 疾患有病約 28% 3 疾患すべて有病約 5% 高脂血症 高血圧症 厚生労働省保健指導における学習教材集 (H14 糖尿病実態調査の再集計 ) より

第 90 回 MSGR トピック : 急性冠症候群 LDL-C Ezetimibe 発表者 : 山田亮太 ( 研修医 ) コメンテーター : 高橋宗一郎 ( 循環器内科 ) 文献 :Ezetimibe Added to Statin Theraphy after Acute Coronary Syn

(検3)5.構成員資料1.寺本班基本資料 特定健診検討会(脂質)寺本班(案)ver2

ただ太っているだけではメタボリックシンドロームとは呼びません 脂肪細胞はアディポネクチンなどの善玉因子と TNF-αや IL-6 などという悪玉因子を分泌します 内臓肥満になる と 内臓の脂肪細胞から悪玉因子がたくさんでてきてしまい インスリン抵抗性につながり高血糖をもたらします さらに脂質異常症

心房細動1章[ ].indd

(2-3)脂質異常症 ポスター H

複製 転載禁止 The Japan Diabetes Society, 2016 糖尿病診療ガイドライン 2016 CQ ステートメント 推奨グレード一覧 1. 糖尿病診断の指針 CQ なし 2. 糖尿病治療の目標と指針 CQ なし 3. 食事療法 CQ3-2 食事療法の実践にあたっての管理栄養士に

(2) レパーサ皮下注 140mgシリンジ及び同 140mgペン 1 本製剤については 最適使用推進ガイドラインに従い 有効性及び安全性に関する情報が十分蓄積するまでの間 本製剤の恩恵を強く受けることが期待される患者に対して使用するとともに 副作用が発現した際に必要な対応をとることが可能な一定の要件

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目次 1. はじめに P2 2. 本剤の特徴 作用機序 P3 3. 臨床成績 P4 4. 施設について P9 5. 投与対象となる患者 P11 6. 投与に際して留意すべき事項 P13 1

山梨県生活習慣病実態調査の状況 1 調査目的平成 20 年 4 月に施行される医療制度改革において生活習慣病対策が一つの大きな柱となっている このため 糖尿病等生活習慣病の有病者 予備群の減少を図るために健康増進計画を見直し メタボリックシンドロームの概念を導入した 糖尿病等生活習慣病の有病者や予備

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脂質異常症 治療の目標値は?

高脂血症

2

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

また リハビリテーションの種類別では 理学療法はいずれの医療圏でも 60% 以上が実施したが 作業療法 言語療法は実施状況に医療圏による差があった 病型別では 脳梗塞の合計(59.9%) 脳内出血 (51.7%) が3 日以内にリハビリテーションを開始した (6) 発症時の合併症や生活習慣 高血圧を

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本書の読み方 使い方 ~ 各項目の基本構成 ~ * 本書は主に外来の日常診療で頻用される治療薬を取り上げています ❶ 特徴 01 HMG-CoA 代表的薬剤ピタバスタチン同種同効薬アトルバスタチン, ロスバスタチン HMG-CoA 還元酵素阻害薬は主に高 LDL コレステロール血症の治療目的で使 用

高血圧ガイドブック-追補版-印刷用.indd

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1 ししつ脂質 いじょうしょう へ 高脂血症から 脂質脂質異常症 医療法人将優会クリニックうしたに 理事長 院長牛谷義秀 脂質異常症とは 血液中に含まれる LDL( 悪玉 ) コレステロールと中性脂肪中性脂肪のどちらか一方 あるいは両方が過剰の状態 または HDL( 善玉 ) コレステロールが少ない

わが国における糖尿病と合併症発症の病態と実態糖尿病では 高血糖状態が慢性的に継続するため 細小血管が障害され 腎臓 網膜 神経などの臓器に障害が起こります 糖尿病性の腎症 網膜症 神経障害の3つを 糖尿病の三大合併症といいます 糖尿病腎症は進行すると腎不全に至り 透析を余儀なくされますが 糖尿病腎症

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Q2 はどのような構造ですか? A2 LDL の主要構造蛋白はアポ B であり LDL1 粒子につき1 分子存在します 一方 (sd LDL) の構造上の特徴はコレステロール含有量の減少です 粒子径を規定する脂質のコレステロールが少ないため小さく また1 分子のアポ B に対してコレステロールが相対

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談会提供 : サノフィ株式会社 これからの日本人の脂質代謝異常症の治療戦略を考える ~ 家族性高コレステロール血症を見逃さないために ~ ROUND TABLE DISCUSSION 座席者東京女子医科大学医学部循環器内科講師出座長 寺本民生先生帝京大学臨床研究センターセンター長 Alberico

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-3- Ⅰ 市町村国保の状況 1 特定健康診査受診者の状況 平成 23 年度は 市町村国保 (41 保険者 )98,439 人の特定健康診査データの集計を行った 市町村国保の診者数は男性 女性ともに 歳の割合が多く 次いで 歳 歳の順となっている 男性 女性 総数

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死亡率 我が国における疾病構造 生活習慣病は死亡割合の約 6 割を占めている 我が国の疾病構造は感染症から生活習慣病へと変化 死因別死亡割合 ( 平成 24 年 ) 生活習

糖尿病経口薬 QOL 研究会研究 1 症例報告書 新規 2 型糖尿病患者に対する経口糖尿病薬クラス別の治療効果と QOL の相関についての臨床試験 施設名医師氏名割付群記入年月日 症例登録番号 / 被験者識別コード / 1/12

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CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の

婦人科63巻6号/FUJ07‐01(報告)       M

1.HMG-CoA 還元酵素阻害薬 : スタチン高 LDL 血症に対する第 1 選択薬はスタチンであり, 心血管イベントの二次予防において, スタチンによる脂質介入の有益性は多くの大規模臨床試験によって確立されたものとなっている.1994 年に発表された 4S 試験では, シンバスタチンにより LD

日本の糖尿病患者数は増え続けています (%) 糖 尿 25 病 倍 890 万人 患者数増加率 万人 690 万人 1620 万人 880 万人 2050 万人 1100 万人 糖尿病の 可能性が 否定できない人 680 万人 740 万人

日本スポーツ栄養研究誌 vol 目次 総説 原著 11 短報 19 実践報告 資料 45 抄録

第 3 節心筋梗塞等の心血管疾患 , % % % %

( 様式甲 5) 氏 名 忌部 尚 ( ふりがな ) ( いんべひさし ) 学 位 の 種 類 博士 ( 医学 ) 学位授与番号 甲第 号 学位審査年月日 平成 29 年 1 月 11 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 1 項該当 Benifuuki green tea, containin

EBM と臨床 ( その 2)

結果の概要

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保医発 0331 第 9 号 平成 29 年 3 月 31 日 地方厚生 ( 支 ) 局医療課長都道府県民生主管部 ( 局 ) 国民健康保険主管課 ( 部 ) 長都道府県後期高齢者医療主管部 ( 局 ) 後期高齢者医療主管課 ( 部 ) 長 殿 厚生労働省保険局医療課長 ( 公印省略 ) 抗 PCS

(6/5 19:00修正)資料3 標準的な健診・保健指導プログラム改定のポイント (2) (2)

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カテゴリー別人数 ( リスク : 体格 肥満 に該当 血圧 血糖において特定保健指導及びハイリスク追跡非該当 ) 健康課題保有者 ( 軽度リスク者 :H6 国保受診者中特定保健指導外 ) 結果 8190 リスク重なりなし BMI5 以上 ( 肥満 ) 腹囲判定値以上者( 血圧 (130 ) HbA1

平成28年度 地域包括診療加算・地域包括診療料に係るかかりつけ医研修会

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3 病型別 初発再発別登録状況病型別の登録状況では 脳梗塞の診断が最も多く 2,524 件 (65.3%) 次いで脳内出血 868 件 (22.5%) くも膜下出血 275 件 (7.1%) であった 初発再発別の登録状況では 初発の診断が 2,476 件 (64.0%) 再発が 854 件 (22

コレステロールは体内で細胞膜や胆汁酸 ( 消化液 ) 副腎皮質ホルモンや性ホルモン( 男性ホルモン 女性ホルモンなど ) ビタミンDの原料となります 人体を維持するのに無くてはならない構成成分です コレステロールには悪玉の LDL コレステロール (LDL) と善玉の HDL コレステロール (HD

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10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

,995,972 6,992,875 1,158 4,383,372 4,380,511 2,612,600 2,612, ,433,188 3,330, ,880,573 2,779, , ,

現況解析2 [081027].indd

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透析学会2010年

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(別紙様式1)

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脂質異常症はなぜ怖い 脂質異常症から動脈硬化へ 放 放 脂質異常症置動脈硬化置 心筋梗塞 脳梗塞 自覚症状は でないけれども QOL の低下 死亡 メタボリックシンドローム 不健康な生活習慣 遺伝素因 内臓脂肪蓄積 代謝異常 高血糖 高血圧 脂質異常 動脈硬化の進行心筋梗塞 脳卒中の発症 遺伝 体質

ACS患者の最適な脂質低下療法を考える

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症例報告書の記入における注意点 1 必須ではない項目 データ 斜線を引くこと 未取得 / 未測定の項目 2 血圧平均値 小数点以下は切り捨てとする 3 治験薬服薬状況 前回来院 今回来院までの服薬状況を記載する服薬無しの場合は 1 日投与量を 0 錠 とし 0 錠となった日付を特定すること < 演習

高脂血症とは? 高脂血症とは 血液中の脂質 具体的にはコレステロールや中性脂肪 ( 代表的なものはトリグリセリド ) が 多過ぎる病気のことです 血液中にはコレステロール 中性脂肪 リン脂質 遊離脂肪酸の4 種類の脂質がとけこんでいます ところが 血液中の脂肪が異常に増えても 普通自覚症状はないため

心疾患患による死亡亡数等 平成 28 年において 全国国で約 20 万人が心疾疾患を原因として死亡しており 死死亡数全体の 15.2% を占占め 死亡順順位の第 2 位であります このうち本県の死亡死亡数は 1,324 人となっています 本県県の死亡率 ( 人口 10 万対 ) は 概概ね全国より高

1 疾患別医療費札幌市国保の総医療費に占める入院医療費では 悪性新生物が 21.2% 循環器疾患が 18.6% となっており 循環器疾患では 虚血性心疾患が 4.5% 脳梗塞が 2.8% を占めています 外来医療費では 糖尿病が 7.8% 高血圧症が 6.6% 脂質異常症が 4.3% となっています

自動車運送事業者における 心臓疾患大血管疾患 対策ガイドライン 概要版 本ガイドラインのポイント 実践 業者が実施スクリーニング検査事医療機関が実施事業者が実施知識 健康起因事故の原因となる心臓疾患 大血管疾患 疾患の原因と予防 ( 参考 ) 関係法令について 心臓疾患 大血管疾患の早期発見と発症予

別紙様式 (Ⅱ) 商品名 : 伝統にんにく卵黄 (31 粒入り 62 粒入り ) 食経験の評価 1 喫食実績による食経験の評価 安全性評価シート 喫食実績の有無 : あり なし ( あり の場合に実績に基づく安全性の評価を記載) 本製品 伝統にんにく卵黄 と同等の製品は 1993 年 11 月より日

安心ハート手帳 ( 急性心筋梗塞医療連携パス ) の利用の手引き ) はじめに急性心筋梗塞の治療後は 心臓リハビリテーション ( 運動療法のほか 薬物療法 食事療法 禁煙なども含む治療 ) を継続することで健康な生活をめざします 安心ハート手帳 ( 急性心筋梗塞医療連携パス ) は あなた を中心に

特定健康診査等実施計画(案)

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

「長寿のためのコレステロール ガイドライン2010 年版」に対する声明

動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2012 年版 ( 日本動脈硬化学会 ) ガイドラインの策定経緯 高脂血症診療ガイドライン :1997 年 動脈硬化性疾患診療ガイドライン 2002 年版 :2002 年 動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2007 年版 :2007 年 動脈硬化性疾患予防ガイドライン

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調査の概要 本調査は 788 組合を対象に平成 24 年度の特定健診の 問診回答 (22 項目 ) の状況について前年度の比較から調査したものです 対象データの概要 ( 全体 ) 年度 被保険区分 加入者 ( 人 ) 健診対象者数 ( 人 ) 健診受診者数 ( 人 ) 健診受診率 (%) 評価対象者

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佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

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( 様式甲 5) 氏 名 渡辺綾子 ( ふりがな ) ( わたなべあやこ ) 学 位 の 種 類 博士 ( 医学 ) 学位授与番号 甲 第 号 学位審査年月日 平成 27 年 7 月 8 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 1 項該当 学位論文題名 Fibrates protect again

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大規模臨床データベースにおける プロジェクト設計の評価基準

平成14年度研究報告

座談会 Round Table Discussion 末梢動脈疾患におけるこれからの脂質低下療法を考える PAD に対しては, 脚の病変部分だけでなく, 冠動脈疾患や脳血管障害の予防を見据えた治療対策を常に考慮しておく必要があります 中村正人 ( 座長 ) 東邦大学医療センター大橋病院循環器内科教授

平成 27 年 10 月 6 日第 2 回健康増進 予防サービス プラットフォーム資料 協会けんぽ広島支部の取り組み ~ ヘルスケア通信簿について ~ 平成 27 年 10 月全国健康保険協会広島支部 協会けんぽ 支部長向井一誠

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各位 2016 年 1 月 22 日 会社名アステラス製薬株式会社 代 表 者代表取締役社長畑中好彦 コード番号 4503 (URL 東 証 ( 第 一 部 ) 決 算 期 3 月 問合わせ先広報部長 臼井政明 Tel:(03)

目次 1. 目的 2 2. 人工透析患者の年齢等の分析 3 性別 被保険者 被扶養者 3. 人工透析患者の傷病等の分析 8 腎臓病 併存傷病 平成 23 年度新規導入患者 4. 人工透析 健診結果 医療費の地域分析 13 二次医療圏別 1

ータについては Table 3 に示した 両製剤とも投与後血漿中ロスバスタチン濃度が上昇し 試験製剤で 4.7±.7 時間 標準製剤で 4.6±1. 時間に Tmaxに達した また Cmaxは試験製剤で 6.3±3.13 標準製剤で 6.8±2.49 であった AUCt は試験製剤で 62.24±2

(5) 食事指導食事指導は 高血圧の改善 耐糖能障害の改善 代謝異常の改善について 各自の栄養状況 意欲などに応じて目標をたて これを達成できるよう支援する形で行った 開始時点で 食事分析を行い 3ヶ月ごとに 2 回進捗状況を確認する面接を行った 1 年後に終了時点の食事分析を行った 各項目の値の増

血圧を決める要素 血圧は 心臓から出る血液の量と血管の硬さによって決まります 血圧 心臓から出る = 血液の量 ( 心拍出量 ) 血管の硬さ ( 末梢血管抵抗 )

宗像市国保医療課 御中

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

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平成 28 年度地域包括診療加算 地域包括診療料に係るかかりつけ医研修会 1. 脂質異常症 江草玄士クリニック 院長 江草玄士

はじめに 脂質異常症は高 LDL-コレステロール (C) 血症 高トリグリセライド血症 低 HDL-C 血症など血中脂質の異常をきたす生活習慣病であり 動脈硬化の重要な危険因子である 本講義では 脂質異常症診療の進め方について 最近の話題も交えながら概説する 図表 1

動脈硬化の発症 進展経過 脂肪線条粥状プラーク不安定プラークプラーク破綻 血栓 心筋梗塞脳梗塞図表 2

動脈硬化イベントに関与する多数の危険因子 危険因子 プラーク形成 プラーク破綻 血栓形成 加齢高 LDL-C 血症喫煙高血圧糖尿病 ( 炎症 ) 高血圧 炎症 喫煙糖尿病肥満高 TG 血症 図表 3

危険因子が多いほど冠動脈疾患の発症率は増加する 冠動脈疾患発症の危険率 (10 年間 ) (%) 60 55 50 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 : 男性 (55 歳 ) : 女性 (55 歳 ) 臨床上制圧すべきは : 高 LDL-C 血症 高血圧症 糖尿病 喫煙 * 加えて内臓脂肪型肥満 (Framingham Study) 危険因子の包括的管理 コレステロール 0 + + + + + 血圧 0 0 + + + + 喫煙 0 0 0 + + + 糖尿病 0 0 0 0 + + 左室肥大 (ECG) 0 0 0 0 0 + コレステロール 0: 血清総コレステロール 180mg/dl, HDL-C 男性 ;45mg/dl, 女性 ;55mg/dl, +: 血清総コレステロール 250mg/dl, HDL-C 35mg/dl 血圧 0: 収縮期血圧 120mmHg, +: 収縮期血圧 150mmHg, 喫煙 0: 非喫煙者, +: 喫煙者または過去 1 年以内の喫煙者 糖尿病 0: 耐糖能正常, +: インスリンまたは経口糖尿病薬で治療を受けている患者 または空腹時血糖 140mg/dl 以上 左室肥大 (ECG) 0: 心電図所見で左室肥大なし, +: 心電図所見で左室肥大あり (Anderson KM et al., Am Heart J,121. 1991 より改変 ) 図表 4

動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2012 血清脂質と冠動脈疾患の発症リスク a) 総コレステロール値と冠動脈疾患死亡の相対危険度 ( 男女 )NIPPON DATA80 相対危険4 3 度2 1 0 159 200<:1.0 200-219 :1.4 220-239: 1.6 240-259: 2.0 160 ~180 ~200 ~220 ~240 ~260 (%) 5 CAD リスク 4 冠動脈疾3 患合併2 率1 0 ~179 199 219 239 259(mg/dL) b)hdl コレステロール値と冠動脈疾患合併率 4 相対3 危険度2 35~40 ~45~50~55~60~65~70 ~75~80~34 39 44 49 54 59 64 69 74 79 (mg/dl) c)tg( 随時 ) と冠動脈疾患発症の相対危険度 ( 男女 ) 1 0 84 ~85~115 116 165 164(mg/dL) (Okamura T et al: Atherosclerosis,190:216-223,2007) (Kitamura A et al :Circulation,89: 2533-2539,1994 のデータをもとに再解析 ) (Iso H et al:am J Epidemiol,153:490-499,2001) 図表 5

LDL-C はアテローム血栓性脳梗塞の発症リスク (LDL-C4 分位レベル別脳梗塞発症リスク : 久山町研究 ) 心原性脳塞栓 P=0.02 ラクナ梗塞 アテローム血栓性脳梗塞 <103 103-125 126-150 >150mg/dl P: 傾向性 p 値 (Imamura T: Stroke 40.2009より改変引用 ) 図表 6

高コレステロール血症の頻度および 受療率の経年変化 都市部住民の高 C 血症の頻度 ( 年齢調整 ) 高脂血症受療率の年次変化 60 40 女性 男性 20 0 64-66 76-79 84-87 92-95 00-03 ( 年 ) (Kitamura A:JACC52.2008 より改変 ) 図表 7

心筋梗塞の年齢調整発生率 120 (Takashima AMI registry, 人口 10 万人当り ) 年齢調整発生率 ( 人口 10 万人当り ) 100 80 60 40 20 0 男性 女性 90~ 92 93~ 95 96~ 98 99~ 01 Year (Rumana N: Am J Epidemiol,167.2008 より改変引用 ) 図表 8

脂質異常症 : スクリーニングのための診断基準 ( 空腹時採血 ) LDL コレステロール 140mg/dL 以上 120-139mg/dL 高 LDL コレステロール血症 境界域高 LDL コレステロール血症 HDL コレステロール 40mg/dL 未満 トリグリセライド 150mg/dL 以上 低 HDL コレステロール血症 高トリグリセライド血症 LDLコレステロールはFriedewald(TC-HDL-C-TG/5) の式で計算する TGが400mg/dL 以上や食後採血の場合にはnon HDL-C(TC-HDL-C) を使用し その基準はLDL-C+30mg/dL(?) とする 図表 9 ( 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012)

non HDL コレステロールとは? non HDL- コレステロール (TC-HDL C) Friedewald 推定式 (TC-HDL-C-TG/5) (VLDL) 1.006 (IDL) 1.009 (LDL) 1.063 (HDL) TG リッチリポ蛋白 Lp(a), sdldl, LDL 食後採血でも評価可能高 TG 血症の時有用およそ LDL-C+30mg/dl 動脈硬化惹起性リポ蛋白を包括 図表 10

心筋梗塞予測能 :JAS 基準を閾値として ( 男性 非空腹 ) ( LDL-C:140mg/dl, NHDL-C:170mg/dl, TC 220mg/dl ) 95% 信頼区間 Hazard ratio and 95% Cl CIRCSsLDL SuitaLDL IwateLDL ND90LDL LDL summary CIRCSsNHDL SuitaNHDL IwateNHDL ND90NHDL NHDL summary CIRCSsTC SuitaTC IwateTC ND90RC TC summary ハザード比 1.55 2.15 2.16 1.98 2.01 1.78 1.78 2.12 1.80 1.87 2.22 1.52 1.68 1.43 1.62 下限 0.60 1.11 1.11 1.06 1.42 0.70 0.91 1.05 0.94 1.31 0.87 0.77 0.81 0.74 1.12 上限 3.98 4.18 4.20 3.71 2.85 4.56 3.50 4.27 3.47 2.68 5.63 3.00 3.48 2.75 2.33 P 値 0.37 0.02 0.02 0.03 0.00 0.23 0.09 0.04 0.08 0.00 0.09 0.23 0.17 0.29 0.01 ( 寺本民生 : 厚生労働省科学研究費補助金循環器疾患 糖尿病等生活習慣病対策研究事業. non-hdl 等血中脂質評価指針及び脂質標準化システムの構築と基盤整備に関する研究. 平成 25 年度 ~27 年度総合研究報告書より改変引用 ) 0.2 0.5 1 2 5 risk low risk high 図表 11

non-hdlc 値と心筋梗塞発症ハザード比 3.00 ( 吹田研究の解析 ) 2.50 ハザード比 2.00 1.50 1.42 1.60 1.77 1.63 1.17 1.25 1.17 1.22 1.00 0.50 Non-HDLC(mg/dl) 160 165 170 175 180 185 190 195 * 解析対象人数 : 男女 n=3822 ( 寺本民生 : 厚生労働省科学研究費補助金循環器疾患 糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業. Non-HDL 等血中脂質評価指針及び脂質標準化システムの構築と基盤整備に関する研究. 平成 25 年度 ~27 年度総合研究報告書より改変引用 ) 図表 12

non HDL-C 1.Non HDLはCAD 発症予測のスクリーニングとしてLDL-Cに勝るとも劣らない ( 特に男性 ) 2.CAD 発症スクリーニング基準 : 185~195mg/dl 3.Non HDLもTG 600mg/dlでは不正確 4. 特定健診 :LDL-Cのかわりにnon HDL-Cの採用が検討されている ( スクリーニング基準 : 190mg/dl) 図表 13

動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2012 リスク区分別脂質管理目標値 治療方針の原則 一次予防まず生活習慣の改善を行った後 薬物療法の適用を考慮する 管理区分 カテゴリー Ⅰ (0.5%<) カテゴリー Ⅱ (0.5-2.0%) カテゴリー Ⅲ (2.0% ) 脂質管理目標値 (mg/dl) LDL-C HDL-C TG non HDL-C <160 <190 <140 <170 <120 40 <150 <150 二次予防生活習慣の是正とともに薬物治療を考慮する 冠動脈疾患の既往 <100 <130 ( 糖尿病 CKD PAD 非心原性脳梗塞は CAD のリスクが高いのでカテゴリー Ⅲ) 図表 14

生活習慣の改善が危険因子治療の基本 1. 禁煙 受動喫煙の回避 2. 適正な Cal 摂取 標準体重維持 3. 脂身 乳脂肪 卵黄の摂取を抑え 魚類 大豆製品の摂取増加 4. 野菜 未精製穀類 海藻の摂取増加 5. 減塩 6. アルコール摂取制限 7. 1 日 30 分以上の有酸素運動励行 図表 15

脂質異常症食事療法の混乱 健常者では食事中 CH 摂取量と血中 CH 値の関連 を示す十分な根拠がない :CH 摂取制限の必要 はない ( 厚生労働省 : 日本人の食事摂取基準 2015) 高 LDL-C 血症患者 : 伝統的日本食の推奨 飽和脂肪酸摂取制限 (4.5-7.0%) トランス脂肪酸摂取制限 コレステロール摂取制限 (200mg/dl 以下 ) ( 食事療法の反応性は個人差が大きい ) 図表 16

トランス脂肪酸 ( 天然油脂を水素添加で固形化する時産生される ) 冠動脈疾患リスク増大 LDL 上昇 HDL 低下作用 インスリン抵抗性増大 内臓脂肪蓄積 高感度 CRP 上昇 ( 炎症 ) 認知症リスク増大 不妊症のリスクが高まる 米国 :2018 年以降トランス脂肪酸の発生源となる油の全面禁止日本 : 日本人の摂取量は全カロリー中 0.3% 程度で WHO 基準 1% を超えておらず規制はない 図表 17

イカ タコ エビは食べてよいか? 100gあたりのCH 含有量 : 卵 :420mg, イカ ( 生 ):270mg, いくら :480mg, 焼たらこ :410mg, シュークリーム :250mg, マヨネーズ :375mg, バター :284mg イカ タコ カニ エビなどはタウリンを豊富に含有 タウリン: リパーゼなどの消化酵素の作用を高め 胆汁酸合成を促進してCH 排泄に関与 * 日常の食事でとる程度の甲殻類 頭足類は制限しなくてよい * 高 C 血症で食事療法中の患者では過剰摂取は避ける 図表 18

動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2012 高脂血症治療薬の薬効による分類 分類 LDL-C TG HDL-C non HDL-C 主な一般名 スタチン 陰イオン交換樹脂 - プラバスタチン シンバスタチン フルバスタチン アトルバスタチン ピタバスタチン ロスバスタチン コレスチラミン コレスチミド プロブコール - プロブコール ニコチン酸誘導体 フィブラート系 ニコチン酸トコフェノール ニコモール ニセリトロール クロフィブラート クリノフィブラート ベザフィブラート フェノフィブラート EPA - - - イコサペント酸エチル エゼチミブ エゼチミブ 図表 19

脂質異常症治療薬の主な副作用 スタチン陰イオン交換樹脂エゼチミブフィブラート系プロブコール多価不飽和脂肪酸 横紋筋融解症 ミオパチー症状耐糖能低下胃腸障害胃腸障害 肝障害 CPK 上昇横紋筋融解症 肝障害 腎機能障害 (Cre>2.0,CKDG4: 禁 ) QT 延長 多形性心室頻拍胃腸障害 出血傾向 図表 20

LDL-C 低下によるイベント抑制効果 スタチンによるLDL-C 39mg/dl 低下ごとのリスク低下 (26 研究 170000 人 ) 冠動脈イベント 0.76(0.73-0.79) 脳梗塞 0.80(0.7-0.88) 脳出血 1.10(0.86-1.42) (CTT Collaboration.Lancet 376,2010. より改変 ) 図表 21

スタチンによるLDL-C 低下療法 : 癌との関連 癌発症率 スタチン群コントロール群相対危険度 5221(87087) 5210(87062) 1.00(0.96-1.04) 癌死亡率 スタチン群コントロール群相対危険度 1812(86411) 1839(86387) 0.98(0.92-1.05) 27 研究 17 万 5000 人のメタ解析 (CTT Collaboration. PLoS ONE 7,2012 より改変 ) 図表 22

スタチンによる LDL-C 低下療法の長期予後 (WOSCOPS の 20 年にわたる経過 :5 年間服用の遺産効果 ) 総死亡 (p=0.0007) 心血管疾患死 (p=0.0004) 研究 (5 年間 ) 終了 5 年後のスタチン服用率 : スタチン群 (38.7%) プラセボ群 (35.2%) 冠動脈疾患死 (p=0.0002) 非心血管疾患死 (p=0.12) 脳卒中 (p=0.35), 癌 (p=0.49) (Ford I: Circulation,133.2016 より改変 ) 図表 23

高 TG 血症への対応 * 高 TG 血症に随伴する病態 : 糖尿病 メタボ インスリン抵抗性増強 HDL-C 低下 レムナント増加 sdldl 増加 血栓形成傾向が複雑に関与 * 摂取エネルギー制限 + 運動療法が治療の基本 * 高 TG 血症に対するフィブラートのイベント抑制効果 : 冠動脈疾患の二次予防効果あり ( メタ解析 ) * 治療の進め方 : まず nonhdl-c 管理をスタチンで 行い その後フィブラート n-3 系製剤の併用を考慮 * 治療抵抗性の異常高値例 : 専門医療機関へ紹介 図表 24

HDL-C の考え方 *CAD 発症率 :HDL-Cが高いほど低く HDL-Cが低いほど高い *HDL-C<40mg/dlでCAD 合併率が高くなる *HDL-C 低値の原因 : 肥満 喫煙 運動不足 糖尿病 高糖質食など ( 高 TG 血症に随伴 ) * 高 HDL-C 血症 : 大部分はCETP 欠損症であり 動脈硬化抑制作用がない機能不全型 HDLが増加 アルコール過剰摂取によるHDL 増加もCETP 抑制が関与 * 低 HDL-C 血症 : 生活習慣改善が治療の主役 *LDL-C 低値でもHDL-C 低値はCADのリスク : LDL/HDL 比が注目 図表 25

3.0 LDL-C/HDL-C 比と 急性心筋梗塞発症リスク 男性 8714 名 63.7 グラフ歳 2.7 タイトル年追跡 LDL/HDL 比 >2.5はAMIのリスク上昇 LDL/HDL 比 <1.5はプラーク退縮顕著 * P:0.03 3.50 2.0 1.0 P=0.98 1.0 0.99 P=0.53 1.51 0 *Nicholls SJ:JAMA,297.2007 <1.6 1.6~2.1 2.1~2.6 2.6 LDL-C100mg/dlでも HDL-C40mg/dl 未満なら リスク増大 (Yokokawa H: J Atheroscler Thromb,18. 2011 より改変 ) 図表 26

一次予防例の薬物療法の進め方 * 生活習慣管理を十分行ったにもかかわらず LDL-C 管理目標が達成できない場合に薬物療法を考慮 * 低リスクのカテゴリー Ⅰにおいても LDL-C 180mg/dl が持続する時は薬物療法考慮 * 高 LDL-C 血症にはスタチンが第一選択 * リスクの高い高 LDL-C 血症では スタチンに加えエゼチミブ あるいはEPA 投与を考慮 * 低 HDL-C 血症を伴う高 TG 血症に対しては リスクの重みに応じフィブラート系やニコチン酸誘導体などの併用を考慮 図表 27

脂質異常症治療ガイド 2013 年版 症例 49 歳男性 [ 受診目的 ] 高コレステロール血症に関する精査加療目的 [ 現病歴 ] これまで定期的な受診や採血検査は受けておらず 10 年前頃に採血された時に高コレステロール血症を指摘されたが 食事に注意するようにいわれたまま放置していた 長男が会社の健診で高コレステロール血症を指摘され 勧められて来院 [ 生活歴 ] 喫煙は20 本 27 年 アルコールは缶ビール350mL/ 日 [ 家族歴 ] 父が53 歳で突然死 弟が高コレステロール血症で治療中 [ 既往歴 ] 特記すべきことなし 図表 28

脂質異常症治療ガイド 2013 年版 検査所見 T-Cho 286mg/dL,TG 132mg/dL,HDL-C 43mg/dL LDL-C 217mg/dL (Friedewald 式 ) FBS 84mg/dL,HbA1c (NGSP) 5.6% Cre 0.74mg/dL,eGFR 88.3mL/min/1.73m 2 尿蛋白 (-) 尿潜血(-) 安静時心電図 胸部 X 線異常なし 図表 29

理学的所見 脂質異常症治療ガイド 2013 年版 身長 164cm, 体重 60kg,BMI 22.3kg/m 2 血圧 104/62mmHg, 脈拍 54/ 分, 整眼瞼黄色腫なし 角膜輪あり アキレス腱肥厚あり 甲状腺腫なし 両側頸動脈雑音聴取なし 図表 30

脂質異常症治療ガイド 2013 年版 角膜輪 アキレス腱肥厚 図表 31

成人 (15 歳以上 )FH ヘテロ接合体診断基準 1. 高 LDL-C 血症 ( 未治療時の LDL-C 180mg/dL 以上 ) 2. 腱黄色腫 ( 手背 肘 膝などの腱黄色腫あるいはアキレス腱肥厚 ) あるいは皮膚結節性黄色腫 3. FH あるいは早発性冠動脈疾患の家族歴 (2 親等以内の血族 ) 2 項目が当てはまる場合 FH と診断する 皮膚結節性黄色腫に眼瞼黄色腫は含まない 早発性冠動脈疾患は男性 55 歳未満 女性 65 歳未満と定義する *500 人 (250 人?) に一人の割合 : 患者数は多いので注意! * 男性では 30 代 女性では 50 代後半より MI が増加 *FH の死因の 60% は冠動脈疾患による ( 馬淵宏 : 医学のあゆみ 245.2013) 図表 32

脂質異常症治療ガイド 2013 年版 治療の基本方針 ( 治療ガイド 2013) FH の治療の基本は LDL-C の厳格な管理による早発性の冠動脈疾患など動脈硬化性疾患の発症予防であり 早期診断と厳格な治療が必要である FH は冠動脈疾患のリスクが高いため 運動療法を始める前に冠動脈疾患のスクリーニングが必須である 生活習慣の改善のみでは LDL-C の治療目標値への低下は極めて困難であり ヘテロ接合体では強力な薬物療法 ホモ接合体では LDL アフェレシスなどを必要とする 成人ヘテロ接合体の LDL-C の管理目標値は 100mg/dL 未満とする この目標値に到達できない場合でも 治療前値の 50% 未満を目指す ヘテロ接合体の薬物療法は スタチンが第一選択となるが エゼチミブ 陰イオン交換樹脂 プロブコール (PCSK9) などの併用も考慮する 家族性高コレステロール血症 (FH) については管理目標設定のためのフローチャートを適用しない 図表 33

日本人 FH はスタチン反応性が良い TC (mg/dl) 300 316 60 歳 女性 :FH ヘテロ ( アキレス腱肥厚 (+)) プラバスタチン (10mg) アトロバスタチン (20mg) 250 200 0 2001 2002 10 12 1 3 5 2003 1 166 2004 8 12 5 9 12 2005 2006 2007 3 7 10 3 7 10 4 FH はスタチンの有効性が低いとの誤解が 診断率低下の一因か? 図表 34

日本の家族性高コレステロール血症の診断率は低い スタチンでコントロールできている患者でも : 1 治療前の C 値の再確認 2 家族歴の再確認 3 アキレス腱の触診など行い FH の発見に努める 日本 (Nordestgaard BG: Eur Heart J, 34.2013) 図表 35

LDL 受容体分解促進蛋白 :PCSK9 FHの遺伝子変異 : LDL 受容体 (80%) アポB(10%) に次ぐ第 3の因子 ただし頻度は 6% 程度と低い LDLR PCSK9 が細胞内で LDLR に結合 LDLR を分解してリソゾームに取り込む PCSK9 が細胞外で LDLR に結合 LDL 肝細胞 LDLR PCSK9 リソゾームで消化 細胞外 PCSK9 細胞外に分泌 プロ蛋白質転換酵素ファミリー 9 番目の因子肝臓 小腸 腎で高発現 PCSK9 mrna 核 PCSK9 機能獲得型変異は FH の原因となる 図表 36

PCSK9 遺伝子異常による機能喪失型変異保有数では LDL-C が低く 冠動脈疾患のリスクが低い 30 A No PCSK9 46L Allele (N=9223) 50 th Percentile B : 15 年間の冠動脈疾患発症率 (%) 12 P=0.003 遺伝子異常頻度 (%) 20 10 0 30 20 10 0 50 100 150 200 平均 LDL-C 137mg/dl 250 300 PCSK9 46L Allele 遺伝子異常による (N=301) PCSK9の機能喪失群 LDL-R 分解低下で LDL-R 活性増強 平均 LDL-C 116mg/dl 8 4 0 なし あり PCSK9 機能喪失型遺伝子変異 0 0 50 100 150 200 250 300 機能喪失型変異保有者では LDL-R の分解が低下し LDL-R 活性増強 PCSK を分子標的とした創薬 : 抗体医薬 (Cohen JC : N Engl J Med, 354. 2006 より改変 ) 図表 37

PCSK9 阻害抗体 evolocumab の LDL-C 低下効果 140 (OSLER) LDL コレステロール (mg/dl) 120 100 80 60 40 20 0 LDL-C 60mg/dl, 60% 低下 : 従来治療 : evolocumab No. at Risk Baseline 4 12 24 36 43 (Weeks) Standard therapy 1489 394 1388 1376 402 1219 evolocumab 2976 864 2871 2828 841 2508 Absolute reduction (mg/dl) 60.4 73.4 70.4 72.7 70.5 Percentage reduction (%) 45.3 60.9 58.8 54.0 58.4 P value <0.001 <0.001 <0.001 <0.001 <0.001 (Sabatine MC : N Engl J Med, 2015 より改変 ) 図表 38

心血管イベントに対する evolocumab 追加投与の効果 100 (OSLER) 90 80 3 Hazard ratio: 0.47(95% Cl, 0.28-0.78) P=0.003 累積発症率 (%) 70 60 50 40 30 20 2 1 0 : 従来治療 : Evolocumab 0 30 60 90 120 150 180 210 240 270 300 330 365 10 0 0 30 60 90 120 150 180 210 240 270 300 330 No. at Risk ( 日 ) Standard therapy 1489 1486 1481 1473 1467 1463 1458 1454 1447 1438 1428 1361 407 Evolocumab 2976 2970 2962 2949 2938 2930 2920 2910 2901 2885 2871 2778 843 365 心血管イベント : 死亡 MI 入院不安定狭心症 冠再灌流療法 脳卒中 TIA 心不全入院頻度 :0.95 vs 2.18% (Sabatine MC : N Engl J Med, 2015より改変引用 ) 図表 39

コレステロール西暦 2000 年日本人の血清脂質調査における年齢別 男女別総コレステロール値 (mg/dl) 男性 220 200 180 160 30~ 39 40~ 49 50~ 59 総60~ 69 年齢 70~ 79 80~ 89 ( 歳 ) 女性 (Arai H et al. J Atheroscler Thromb,12.2005. より改変引用 ) 図表 40

急性心筋梗塞および脳梗塞の発症率 ( 年間人口 10 万人当り, 性 年齢別 ) (Takashima Registry/1991~2001 調査 ) ( 人 ) 急性心筋梗塞 1200 1000 : 男性 : 女性 ( 人 ) 脳梗塞 1200 1000 : 男性 : 女性 800 800 600 600 400 400 200 200 0 0 35-44 45-54 55-64 65-74 75-84 85( 歳 ) 35-44 45-54 55-64 65-74 75-84 85( 歳 ) 図表 41 (Rumana N et al. Am J Epidemiol 167, 2008 及びKita Y et al. Int J Stroke 4, 2009より改変引用 )

血管合併症有無別に見たスタチンの LDL-C 低下 (39mg/dl ごと ) による 心血管イベント抑制効果 (27 試験メタ解析 ) 男性 女性 血管合併症 (-) 0.72 (0.66-0.80) 0.85 (0.72-1.00) 血管合併症 (+) 0.79 (0.76-0.82) 0.84 (0.77-0.91) (CTT collaboration: Lancet 385. 2015 より改変 ) 図表 42

冠動脈疾患 60yrs 55yrs 50yrs ALL 女性に対するスタチンの動脈硬化予防効果 (MEGA) 食事 TX 食事 +スタチン No (1000 person-years) 30/1425 (4.68) 16/1380 (2.57) 35/2126 (3.63) 22/2039 (2.40) 36/2602 (3.05) 25/2493 (2.24) 36/2718 (2.91) 26/2638 (2.20) 食事 + スタチン有効 食事有効 HR (95%CI) 0.55 (0.30-1.02) 0.65 (0.38-1.10) 0.72 (0.43-1.20) 0.74 (0.45-1.23) P- value 0.06 0.11 0.20 0.27 冠動脈疾患 + 脳梗塞 60yrs 47/1425 (7.38) 23/1380 (3.70) 0 0.5 1 1.5 HR 0.51 (0.31-0.83) 0.007 55yrs 54/2126 (5.63) 33/2039 (3.60) 0.63 (0.41-0.97) 0.04 50yrs 56/2602 (4.76) 38/2493 (3.41) 0.70 (0.46-1.06) 0.09 ALL 56/2718 (4.55) 40/2638 (3.39) 0.73 (0.49-1.10) 0.15 0 0.5 1 1.5 HR (Mizuno K et al. Circulation,117. 2008 より改変 ) 図表 43

動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2012 女性への対応 1. 閉経前の女性における脂質異常症に対しては 生活習慣改善による非薬物療法が中心となる 2. 閉経前であっても家族性高コレステロ - ル血症や 冠動脈疾患二次予防 ならびに一次予防のリスクの高い患者には 薬物療法も考慮する 3. 閉経後の女性の脂質異常症においては 生活習慣の改善が優先されるが 危険因子を十分勘案して 薬物療法も考慮する 図表 44

スタチンによる LDL コレステロール低下療法の主要心血管イベントに及ぼす影響 ( 年齢別 ): (26 研究 17 万人のメタ解析 ) 年齢層 スタチン群 イベント数 ( 年間発症率 ) コントロール群 イベント数 ( 年間発症率 ) 相対リスク (LDL-C 39mg/dl 低下ごと ) 65 歳未満 6,050 (2.9%) 7,455 (3.6%) 65 歳 ~75 歳未満 4,032 (3.7%) 4,908 (4.6%) 75 歳以上 885 (4.8%) 989 (5.4%) 0.78 (0.75-0.8) 0.78 (0.74-0.83) 0.84 (0.73-0.97) (CTT Collaboration, Lancet 13, 2010 より改変 ) 図表 45

高齢者に対するスタチンの心血管疾患予防効果 (PROSPER:70-82 歳 ) 二次予防 冠動脈疾患死 非致死性心筋梗塞 致死性および非致死性脳卒中 冠動脈疾患死 非致死性心筋梗塞 致死性および非致死性脳卒中 一過性脳虚血 スタチン群 (n=1,306) 227 166 74 47 プラセボ群 (n=1,259) 273 211 69 64 J-STARS アテローム血栓性脳梗塞 65 歳以上で有意なリスク低下 一次予防 冠動脈疾患死 非致死性心筋梗塞 致死性および非致死性脳卒中 冠動脈疾患死 非致死性心筋梗塞 致死性および非致死性脳卒中 一過性脳虚血 (n=1,585) 181 126 61 30 (n=1,654) 200 145 62 38 0 0.25 0.5 0.75 1 1.25 1.5 1.75 2 スタチン群良好 プラセボ群良好 n=2,804 年齢:70~82 歳 血管疾患またはその危険因子を有する高齢者を平均 3.2 年向きに調査図表 46 (Shepherd J et al., Lancet 360, 2002より改変 )

85 歳以上の高齢者における各疾患死亡率とコレステロール値との関係 ( AWE Weverling-Rijnsburger et al. Lancet,350.1997 より改変 ) 1.0 0.8 0.6 心血管疾患 0.5 0.4 0.3 感染症 : 総 C 250mg/dl : 総 C 190-249mg/dl : 総 C<189mg/dl 0.4 0.2 0.2 0.1 推計死亡率 0 1.0 0.8 0 2 4 6 8 10 癌 Plop-rank=0.30 0 1.0 0.8 0 2 4 6 8 10 総死亡 Plop-rank=0.03 0.6 0.6 0.4 0.4 0.2 0.2 0 0 2 Plop-rank=0.002 4 6 8 10 0 0 Plop-rank=0.0001 2 4 6 8 10 図表 47

高齢者の高 LDL-C 血症に対する対応 1. 前期高齢者 : 高 LDL-C 血症に対するスタチン治療で 冠動脈疾患 脳梗塞の一次予防および二次予防効果が期待できる 2. 後期高齢者 : 高 LDL-C 血症に対するスタチン治療で 冠動脈疾患の二次予防効果が期待できるが 一次予防効果の意義は明らかでなく 主治医の判断 で個々の患者に対応する 図表 48

高齢者の脂質異常症 : 治療の留意点 1. 生活習慣改善 : 栄養状態 整形外科的疾患の有無を勘案し 厳しすぎないよう配慮する 2. 薬物療法 : 1 少量から開始 副作用に注意しながら徐々に増量 2 定期的血液検査 : 開始 3か月は毎月行い副作用 効果をチェック 3 飲み忘れがないよう服薬状況確認 一包化など服薬コンプライアンス向上の工夫 図表 49

動脈硬化の評価 検査法 1. 動脈硬化初期病変 : 血管内皮機能障害評価 (FMD) 2. 動脈の機能的変化 :PWV CAVI 3. 動脈の器質的変化 : 超音波検査 ( 頸動脈エコー ) 4. 器質的変化 狭窄病変検出 :CT MRI MRA 図表 50

62 歳 男性 糖尿病歴 15 年 ASO 合併 薬剤選択の指標 : スタチン 抗血小板剤治療方針 : 脳神経外科へ紹介図表 51

スタチン治療によるIMTの改善 60歳女性 FHヘテロ 左総頚動脈 2001年10月 2.0mm 2007年5月 1.7mm (TC: 316mg/dl) (TC: 200mg/dl) 図表52

44 歳男性 糖尿病加療目的で紹介 BMI 29, A1c6.8%, TC 149, TG 107, HDL-C 49, LDL-C 78 喫煙 (-) アルコール (-), MAX-IMT 1.1mm 頸動脈エコー実施時は必ず甲状腺も観察する 図表 53

甲状腺左葉に小石灰化 ( 砂粒小体 ) を伴う低エコー結節 (+) 細胞診 :ClassⅤ 乳頭状腺癌 図表 54

まとめ 1. 動脈硬化性疾患 (ASCVD) 予防には危険因子の包括的管理が重要 2.non-HDL-Cの重要性 3. 治療の基本は生活習慣管理 4. 高 LDL-C 血症の第一選択薬はスタチンであり リスクに応じて他剤を併用 5.FHヘテロは頻度の高い遺伝性高脂血症であり CADリスクが高いので注意が必要 6. 女性 高齢者の脂質異常症治療の留意点 7. 頸動脈エコーの活用を 図表 55