季刊 家計経済研究113号_本文p01−100.indd

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第 3 節食料消費の動向と食育の推進 表 食料消費支出の対前年実質増減率の推移 平成 17 (2005) 年 18 (2006) 19 (2007) 20 (2008) 21 (2009) 22 (2010) 23 (2011) 24 (2012) 食料

(3) 消費支出は実質 5.3% の増加消費支出は1か月平均 3 万 1,276 円で前年に比べ名目 6.7% の増加 実質 5.3% の増加となった ( 統計表第 1 表 ) 最近の動きを実質でみると 平成 2 年は 16.2% の増加となった 25 年は 7.% の減少 26 年は 3.7% の

2016 年家計調査年報 家計収支編 家計消費傾向と品目別支出金額調査報告書 2017 年 9 月 東松島市商工会

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2015 年家計調査年報 家計収支編 家計消費傾向と品目別支出金額調査報告書 2016 年 11 月 東松島市商工会

Ⅰ平成15年平均高知市消費者物価指数の概況

平成28年平均 山形市消費者物価指数

統計から見た三重県のスポーツ施設と県民のスポーツ行動


(2) 全国との比較消費支出は全国の 1.14 倍東京都の1 世帯当たりの消費支出 331,74 円は 全国の1 世帯当たり消費支出 29,788 円に対し 1.14 倍となっており 前年と同じであった ( 図 Ⅱ-1-3 統計表 第 1 表 参考表 1 ) 1 大費目別の消費支出を全国で調べると

エンゲル係数の上昇を考える

Economic Trends    マクロ経済分析レポート

2 10 大費目指数の動き 平成 29 年の10 大費目指数の動きを寄与度でみると, 光熱 水道 は他の光熱( 灯油 ) や電気代の値上がりなどにより 0.26, 食料 は生鮮魚介, 酒類の値上がりなどにより0.23となり, この2 費目合計で0.49と, 総合指数ののび率 (0.6%) のうち約

家計調査報告 ( 貯蓄 負債編 ) 平成 23 年平均結果速報 ( 二人以上の世帯 ) 目 次 Ⅰ 貯蓄の状況 1 概要 貯蓄の種類別内訳 貯蓄現在高階級別貯蓄の分布状況... 9 Ⅱ 負債の状況 Ⅲ 世帯属性別にみた貯蓄 負債の状況 1 世帯主の職業別の状況

結果の概要 (1) 二人以上の世帯の家計消費二人以上の世帯の消費支出は 309,205 円で全国第 9 位 実質 1.5% の減少平成 28 年の二人以上の世帯の消費支出は 1 世帯当たり 1か月平均 309,205 円で全国第 9 位となり 前年 ( 平成 27 年 ) と比較すると 名目 実質共

(HP用)H29.7月月報

(HP用)H29.10月月報

(HP用)H30.9月月報

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図表目次 ([ ] 内は詳細結果表の番号 ) 表 1 貯蓄現在高の推移... 4 [8-4 表,8-3 表 ] 図 1 貯蓄現在高階級別世帯分布... 5 [8-1 表,8-3 表 ] 表 2 貯蓄の種類別貯蓄現在高の推移... 6 [8-4 表 ] 図 2 貯蓄の種類別貯蓄現在高及び構成比...

(HP用)H29.3月月報

(HP用)H30.2月月報

(HP用)H29.5月月報

(HP用)H30.3月月報

(HP用)H29年報

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結果の概要 (1) 二人以上の世帯の家計消費二人以上の世帯の消費支出は 315,868 円で全国第 5 位 実質 1.1% の増加平成 29 年の二人以上の世帯の消費支出は 1 世帯当たり 1か月平均 315,868 円で全国第 5 位となり 前年 ( 平成 28 年 ) と比較すると 名目 2.2

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計 物価 12 家家計 物価 消費者物価指数 10 大費目別対前年上昇率 県平均 ( 平成 20 年 ) 神奈川県消費者物価統計調査結果 ( 統計課調 )

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統計トピックスNo.92急増するネットショッピングの実態を探る

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家計調査からみた新潟の家計の収入・支出面の特徴

実質増加率は全国を 0.2 ポイント下回る東京都と全国 ( 農林漁家世帯を除く 平均世帯人員 2.99 人 世帯主平均年齢 59.1 歳 ) の消費支出の対前年実質増加率をみると 東京都は 1.8% の減少となり 全国 (-1.6%) を 0.2 ポイント下回った 対前年実質増加率の推移を東京都と全

平成11年福井市全世帯勤労世帯

平成11年福井市全世帯勤労世帯

各商品の動きについて 新規出店を含めた全店ベースの前年比でみると 衣料品の減少と飲食料品の増加がここ数年のトレンドとして定着しており 7 年も衣料品は減少し 飲食料品は増加した 衣料品が減少傾向にあるのは 販売形態の多様化により 購入先として衣料品専門店や通販 インターネットショッピングなどの選択肢

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消費者物価指数における新指数の公表開始及び公表資料の掲載内容の見直しについて

このジニ係数は 所得等の格差を示すときに用いられる指標であり 所得等が完全に平等に分配されている場合に比べて どれだけ分配が偏っているかを数値で示す ジニ係数は 0~1の値をとり 0 に近づくほど格差が小さく 1に近づくほど格差が大きいことを表す したがって 年間収入のジニ係数が上昇しているというこ

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第6章 消費・経済

公 的 年金を補完して ゆとりあるセカンドライフを実 現するために は 計 画 的 な 資金準備 が必要です 老後の生活費って どれくらい 必要なんですか 60歳以上の夫婦で月額24万円 くらいかな? 収入は 公的年金を中心に 平均収入は月額22万円くらいだ 月額2万の マイナスか いやいやいや 税

1 概 況

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勤労者世帯の実収入 消費支出は平成 11 年以降減少神奈川県の勤労者世帯 の1 世帯あたりの1ヶ月平均の実収入 ( 2) は 51 万 3842 円で 全国で4 番目に多くなっています 前回調査 (53 万 9542 円 ) と比較すると 名目で 4.8% 減少 消費者物価の影響を除いた実質で 7.

平成11年福井市全世帯勤労世帯

2015年基準 消費者物価指数 全国 2019年(平成31年)3月分及び2018年度(平成30年度)平均

図表 II-39 都市別 世帯主年齢階級別 固定資産税等額 所得税 社会保険料等額 消 費支出額 居住コスト 年間貯蓄額 ( 住宅ローン無し世帯 ) 単位 :% 東京都特別区 (n=68) 30 代以下 (n=100) 40 代

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ニュースリリース

平成19年6月 

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生活福祉研レポートの雛形

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第1章

2 自動車登録台数 ( 台 ) 2,, 図 2 消費税導入 税率引き上げ時における自動車登録台数 ( 三重県 ) の推移 景気後退期, 6, 物品税の廃止による反動増 駆け込み需要 反動減 4, アジア通貨危機平成 9 年 5 月 ~ リーマンショック 2, 平成 9 年 月金融危機 ( 三洋 拓銀

目 次 利用者のために Ⅰ 金沢市の家計収支の概況 1 二人以上の世帯の家計

表 1 静岡県消費者物価指数の推移及び前年比 総合 平成 16 年 17 年 18 年 19 年 20 年 21 年 22 年 23 年 24 年 25 年 26 年 指数 前年比 (%)

4月CPI~物価は横ばいの推移 耐久財の特殊要因を背景に、市場予想を上回る3 ヶ月連続の上昇

2. 利用上の注意 統計数値 四捨五入の関係上 合計の数字と内訳の計は必ずしも一致しない また 金沢市分については 標本数が少ないことによる標本誤差に注意を要する 調査世帯について 家計調査 ( 平成 21 年平均 ) の二人以上の世帯 ( 農林漁家世帯を含む ) 集計世帯数 世帯人員等は下記のとお

表紙

1章図表 名目と実質の 1 世帯当たり 1 か月間の食料消費支出 万円 / 月 名目 昭和 6 年 (18) 平成元 (18). 8.2 実質 () (17) () () (2) 資料 : 総務省 家計調査 ( 全国 二人以上の世帯 用

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6 調査事項及び調査期日 調査票の種類 家計簿 A 家計簿 B 世帯票 耐久財等調査票 年収 貯蓄等調査票 調査事項 収入 ( 勤労者世帯と無職世帯のみ ) 支出 収入 ( 勤労者世帯と無職世帯のみ ) 支出, 購入地域, 購入先 二人以上の 世 調査期日 帯 9 月,10 月の 2 か月間 単身世

Microsoft PowerPoint - 【資料1】統計的分析手法を用いた消費データ分析について

12月CPI

2 累計 収入階級別 各都市とも 概ね収入額が高いほども高い 特別区は 世帯収入階級別に見ると 他都市に比べてが特に高いとは言えない 階級では 大阪市が最もが高くなっている については 各都市とも世帯収入階級別の傾向は類似しているが 特別区と大阪市が 若干 多摩地域や横浜市よりも高い 東京都特別区

1 食に関する志向 健康志向が調査開始以来最高 特に7 歳代の上昇顕著 消費者の健康志向は46.3% で 食に対する健康意識の高まりを示す結果となった 前回調査で反転上昇した食費を節約する経済性志向は 依然厳しい雇用環境等を背景に 今回調査でも39.3% と前回調査並みの高い水準となった 年代別にみ

共働き・子育て世帯の消費実態(2)~食費や通信費など「必需的消費」が増え、娯楽費など「選択的消費」が減少、娯楽費の中ではじわり強まる 旅行ニーズ

要 旨 1. 平成 のボーナスの受取予想金額全体の平均は 1.8% 41 万 2 千円 ( 昨年冬比 7 千円 ) の予想 公務員の平均は 1.6% 56 万 6 千円 民間企業に勤める会社員の平均は 3.6% 37 万 2 千円と予想 2. ボーナスの使いみちボーナスの使いみちは 貯蓄 投資 に

物価の動向 輸入物価は 2 年に入り 為替レートの円安方向への動きがあったものの 原油や石炭 等の国際価格が下落したことなどから横ばいとなった後 2 年 1 月期をピークとし て下落している このような輸入物価の動きもあり 緩やかに上昇していた国内企業物価は 2 年 1 月期より下落した 年平均でみ

別紙2

家計消費状況調査平成29年12月分等結果概要

01 公的年金の受給状況

第 2 章 産業社会の変化と勤労者生活

2017年「全国生計費調査」速報

2016年「全国生計費調査」速報

III 世帯属性別にみた貯蓄・負債の状況

第 2 章高齢者を取り巻く現状 1 人口の推移 ( 文章は更新予定 ) 本市の総人口は 今後 ほぼ横ばいで推移する見込みです 高齢者数は 増加基調で推移し 2025 年には 41,621 人 高齢化率は 22.0% となる見込みです 特に 平成 27 年以降は 後期高齢者数が大幅に増加する見通しです

統計学入門

目 次 利用者のために Ⅰ 金沢市の家計収支の概況 1 二人以上の世帯の家計

ポイント 〇等価尺度法を用いた日本の子育て費用の計測〇 1993 年 年までの期間から 2003 年 年までの期間にかけて,2 歳以下の子育て費用が大幅に上昇していることを発見〇就学前の子供を持つ世帯に対する手当てを優先的に拡充するべきであるという政策的含意 研究背景 日本に

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税・社会保障等を通じた受益と負担について

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全国生計費調査 とは 日本生協連は 1978 年に全国統一版 生協家計簿 にもとづいた調査を開始しました 現在のモニター登録制度による全国生計費調査は 1996 年より開始し 今年で 17 回目になります 全国の生協を通して生協組合員に登録モニターを募り 1 年間 毎月の家計簿の集計結果を各生協経由

(3) 可処分所得の計算 可処分所得とは 家計で自由に使える手取収入のことである 給与所得者 の可処分所得は 次の計算式から求められる 給与所得者の可処分所得は 年収 ( 勤務先の給料 賞与 ) から 社会保険料と所得税 住民税を差し引いた額である なお 生命保険や火災保険などの民間保険の保険料およ

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共働きは 収入源の分散化や世帯所得の増加をもたらすことから 基本的には消費に対する自由度を高めるものと予想される つまり 配偶者収入も含めて 収入が消費に結びつきやすくなる可能性があるということだ しかし 実際には 共働き世帯が増加しているにも拘わらず 家計は消費に対して慎重になっているようだ 世帯

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第2部

Transcription:

コラム 家計調査結果からみた近年のエンゲル係数の上昇要因について 大島敬士 ( 総務省統計局統計調査部消費統計課統計専門職 ) 1. はじめに ドイツの統計学者エルンスト エンゲル (Ernst Engel) が明らかにした 所得の増加とともに 家計の支出に占める食料への支出の割合 ( エンゲ ル係数 ) は低下する というエンゲルの法則は よく知られた経験則の一つである 食料は日常生活をする上で必要不可欠な支出で あることから エンゲル係数が小さい家計ほど生 活にゆとりがあるとされ 経済的な豊かさや生活 水準を示す指標として用いられることがある た だし 近年では 食に対する意識の変化 ( 安全志向 グルメ志向 ) 食の外部化 ( 弁当や総菜などの調 理食品 外食の増加 ) などもあることから エン ゲル係数の低下が必ずしも経済的な豊かさなどを 示すものとはいえない側面もある 家計調査 ( 総務省 ) の結果からエンゲル係数 の長期的な推移をみると 第 2 次世界大戦直後は 60% を超える水準であったが 戦後の経済復興期 の 1950 年代前半には 40% 台まで低下した その 後も低下を続け 60 年代後半には 30% 台後半とな り その後の高度経済成長期を経て 70 年代終わりには 20% 台の水準まで低下した 80 年代以降も引き続き低下傾向にあったが 2005 年の22.9% を底に反転し 06 年以降上昇傾向となった そして 14 年は24.0% 15 年は25.0% 16 年は25.8% となり 2 年連続で 1ポイント程度の上昇幅となっている ( 図表 1 ) エンゲル係数の上昇要因としては 円安 ( 食料 品は相対的に輸入が多い ) や天候不順 ( 生鮮野菜等は天候の影響を受けやすい ) などによる食料価格の上昇 収入の伸び悩み ( 収入が減少しても食費はあまり減らせない ) などの短期的な要因が考えられる また 長期的な要因としては 高齢化に伴う世帯構造の変化 ( 無職世帯の増加 ) 単身世帯の増加 食に対する意識の変化 ( 安全志向 グルメ志向 ) 食の外部化 ( 調理食品や外食の増加 ) による影響が考えられる ここでは 主にエンゲル係数の急上昇がみられた14 年以降のエンゲル係数の上昇要因について考えていく 2. 乖離する消費支出と食料の推移まず 家計調査の四半期別結果から 2014 年前後の消費支出 食料及びエンゲル係数の動きを確認しておく 13 年以前の消費支出と食料はおおむね連動して推移しており いずれも12 年 10 ~ 12 月期以降 上昇傾向で推移している そして 以降では 食料は 14 年 4 ~ 6 月期に低下したものの 翌期以降は再び上昇傾向で推移している 一方で 消費支出は以降 低下傾向で推移している こうしたことから 14 年 1 ~ 3 月期以前 ほぼ横ばいで推移していたエンゲル係数は 14 年 4 ~ 6 月期以降上昇傾向となり 消費税率引上げ前 (14 年 1 ~ 3 月期 ) の23.3% から 16 年 1 ~ 3 月期でピー 84

6667688384020304965家計調査結果からみた近年のエンゲル係数の上昇要因について 図表 -1 エンゲル係数の推移 ( 二人以上の世帯 ) 38.0 36.0 34.0 32.0 3 4128.0 26.0 24.0 22.0 6970717273747576(1979 年 ) 777879818280第二次オイルショック消費税導入 (3%) (1989 年 ) 6858687消費税率引上げ (3% 5%) (1997 年 ) 888990919293949596979899201000リーマンショック (2008 年 ) 05060708消費税率引上げ (5% 8%) (2014 年 ) 第一次オイルショック (1973 年 ) バブル崩壊 (1991 ~ 1993 年 ) 東日本大震災 (2011 年 ) 011111901234151( 年 ) 注 : 1999 年以前は農林漁家世帯を除く結果 2000 年以降は農林漁家世帯を含む結果資料 : 家計調査 ( 総務省 ) 図表 -2 消費支出 食料及びエンゲル係数 ( 名目 季節調整値 )( 二人以上の世帯 ) 27.0 26.0 25.0 24.0 エンゲル係数 左軸 23.0 108.0 106.0 消費支出 (2013 年 =100) 右軸食料 (2013 年 =100) 右軸 104.0 102.0 10 98.0 96.0 2011 2012 2013 2014 2015 2016 注 : 消費支出及び食料の季節調整に当たっては 統計数理研究所の Web Decomp を用いている また エンゲル係数 ( 季節調整値 ) は 消費支出及び食料の季節調整値 ( 名目支出金額 ) から算出している資料 : 家計調査 ( 総務省 ) 85

季刊家計経済研究 2017 SPRING No.113 図表 -3 エンゲル係数の対前年差の要因分解 ( 二人以上の世帯 ) 2.5 2.0 1.5 1.0 家計購入数量要因消費者物価要因食料価格要因食料購入数量要因エンゲル係数の対前年差 0.5-0.5-1.0-1.5 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016( 年 ) 注 : エンゲル係数 =( 食料 / 消費支出 )=( 実質食料 / 実質消費支出 )*(CPI 食料 /CPI 持家の帰属家賃を除く総合 ) という関係から要因分解を行った資料 : 家計調査 ( 総務省 ) 消費者物価指数 ( 総務省 ) 図表 -4 CPI 食料の構成品目の対前年寄与度及び前年比 ( 全国 ) 対前年寄与度 前年比 2016 年 2015 年 2014 年 16 年 ( 対 13 年比 ) 食 料 1.7 3.1 3.8 8.9 穀 類 0.14 7 4 0.5 魚介類 0.15 0.32 0.79 15.8 肉 類 0.15 0.39 0.59 14.8 乳卵類 1 0.12 0.22 8.9 野菜 海藻 0.41 0.64 0.29 13.1 果 物 0.27 0.30 0.15 20.3 油脂 調味料 3 4 0.14 5.0 菓子類 0.22 0.40 0.31 11.1 調理食品 0.17 0.35 0.50 9.4 飲 料 2 6 6 2.3 酒 類 2 1 0.11 1.5 外 食 0.16 0.43 0.56 5.5 資料 : 消費者物価指数 ( 総務省 ) クの26.0% に達し わずか 2 年間で 2.7ポイント上昇した ( 図表 2 ) 3. 食料価格の上昇と家計購入数量の減少図表 2 でみたように 2014 年 4 ~ 6 月期以降のエンゲル係数の上昇は 食料への支出増が続く一方で 消費支出が減少傾向に転じたことによるものであった エンゲル係数の変化は 同係数を算出する際に用いる消費支出に影響する 消費者物価要因 及び 家計購入数量 ( 消費量 ) 要因 に また 食料に影響する 食料価格要因 及び 食料購入数量 ( 消費量 ) 要因 に分解することができる エンゲル係数の対前年差について これらの要因に分解すると 14 年はエンゲル係数の対前年差 86

家計調査結果からみた近年のエンゲル係数の上昇要因について 図表 -5 10 大費目の支出金額及び対前年実質寄与度 ( 二人以上の世帯 ) 支出金額 ( 円 ) 対前年実質寄与度 2016 年 2015 年 2014 年 2013 年 2016 年 2015 年 2014 年 16 年 ( 対 13 年 ) 消 費 支 出 282,188 287,373 291,194 290,454 1.7 2.3 2.9 6.9 食料 72,934 71,844 69,926 68,604 4 8 0.45 0.56 住居 16,679 17,931 17,919 18,262 0.46 4 0.17 0.66 うち設備修繕 維持 8,359 9,081 9,122 9,325 0.28 8 0.14 0.48 光熱 水道 21,177 23,197 23,799 23,240 0.12 0 0.29 0.41 家具 家事用品 10,329 10,458 10,633 10,325 3 0.11 3 0.17 被服及び履物 10,878 11,363 11,983 11,756 0.24 0.30 1 0.52 保健医療 12,888 12,663 12,838 12,763 4 0.10 2 8 交通 通信 39,054 40,238 41,912 41,433 0.13 0.29 0.20 0.63 うち自動車等関係費 20,648 21,928 24,081 23,729 0.22 0.42 0.10 0.73 教育 11,310 10,995 10,936 11,539 5 4 0.28 0.27 教養娯楽 28,159 28,314 28,942 28,959 0.15 0.40 0.36 0.89 うち教養娯楽サービス 16,834 16,825 16,934 17,153 6 0.13 0.25 0.44 その他の消費支出 58,780 60,371 62,305 63,573 0.53 0.87 1.12 2.48 うち交際費 20,903 22,027 22,335 22,942 0.38 0.18 0.45 1.00 注 : その他の消費支出 及び 交際費 の実質化には 持家の帰属家賃を除く総合 を用いている資料 : 家計調査 ( 総務省 ) 消費者物価指数 ( 総務省 ) に対してなどによる 食料価格要因 の上昇寄与が 消費者物価要因 の低下寄与を上回り 価格要因全体ではエンゲル係数の上昇に寄与している また 購入数量要因全体では エンゲル係数の対前年差に対して上昇に寄与している さらに から 1 年が経過した15 年では 食料購入数量要因 及び 消費者物価要因 による低下寄与は14 年に比べて小さくなった一方で 食料価格要因 及び 家計購入数量要因 による上昇寄与は依然として大きく 結果として エンゲル係数の対前年差の上昇幅は拡大している ( 図表 3 ) こうしたことから 14 年以降は 食料価格の上昇を受けて 家計では食料の購入数量を減らしたものの 購入数量の減少を上回る食料価格の上昇による食料への支出増に加え 食料を含む家計全体の購入数量の減少による消費支出減がエンゲル係数の上昇要因とみられる 4. 肉類 野菜 海藻及び調理食品等の価格が上昇 次に 前節の 食料価格要因 に関して 食料 の構成品目の対前年寄与度をみると 14 年以降 肉 類 野菜 海藻 調理食品 及び 外食 な どの品目が食料全体の価格上昇に寄与している ( 図 表 4) 15 年以降 食料全体への上昇寄与が大き い 野菜 海藻 については 天候不順などによ る生鮮野菜の価格高騰が影響している また 調 理食品 及び 外食 の支出については 食の外 部化を背景として 食料への支出全体に占める支 出割合が年々高まっており これらの支出金額の大 きい品目において価格上昇がみられたことも 食料 への支出金額の増加に影響しているとみられる また 家計購入数量要因 に関して 消費支 出の内訳である 10 大費目の対前年実質増減率をみ ると 14 年以降 その他の消費支出 教養娯楽 住居 ( 設備修繕 維持 ) 及び 交通 通信 な どの減少が消費支出全体の減少に寄与しており 87

季刊家計経済研究 2017 SPRING No.113 図表 -6 世帯主の年齢階級別エンゲル係数の推移 ( 二人以上の世帯 ) 29.5 39 歳以下 28.5 40~49 歳 50~59 歳 27.5 60~69 歳 70 歳以上 26.5 全体 25.5 24.5 23.5 22.5 21.5 20.5 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016( 年 ) 資料 : 家計調査 ( 総務省 ) 図表 -7 世帯主の年齢階級別世帯割合 ( 二人以上の世帯 ) 10 9 8 7 6 5 4 39 歳以下 40~49 歳 50~59 歳 60~69 歳 70 歳以上 3 2 1 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016( 年 ) 資料 : 家計調査 ( 総務省 ) 88

家計調査結果からみた近年のエンゲル係数の上昇要因について 図表 -8 エンゲル係数の対前年差の要因分解 ( 二人以上の世帯 ) 1.2 1.0 世帯主構成変化要因 39 歳以下 0.8 0.6 40~49 歳 50~59 歳 60~69 歳 70 歳以上 年齢階級内変化要因 0.4 エンゲル係数の対前年差 0.2-0.2-0.4 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016( 年 ) 注 : エンゲル係数の対前年差の 年齢階級内変化要因 及び 世帯主構成変化要因 への分解は 次式による エンゲル係数の対前年差年齢階級内変化要因世帯主構成変化要因 F: 食料 C: 消費支出 i: 世帯主の年齢階級 ( 添え字なしは全体 ) t: 暦年資料 : 家計調査 ( 総務省 ) 家計においては不要不急な費目への支出を抑える 動きがみられる ( 図表 5 ) 5. 世帯主の年齢階級別にみたエンゲル係数の上昇要因 (1) 全ての年齢階級でエンゲル係数は上昇 次に 世帯主の年齢階級別にエンゲル係数の推 移を確認しておく 世帯主が 50~59 歳 60~69 歳及び 70 歳以上 の世帯では 14 年以降エンゲル係数の上昇がみられ る 一方 世帯主が 39 歳以下及び 40 ~ 49 歳の世 帯では 14 年においてはエンゲル係数の上昇はみ られず 翌年 15 年以降において大幅な上昇がみられる また 各年齢階級のエンゲル係数の水準をみると 世帯主が 50 ~ 59 歳の世帯を除いて 世帯主の年齢階級が上がるにつれて 高くなる傾向がみられる 16 年において エンゲル係数が最も高い 70 歳以上の世帯 (28.6%) と最も低い 50 ~ 59 歳の世帯 (23.0%) では 両者の水準差は 5.6ポイントとなっている ( 図表 6 ) (2) 増加する高齢者世帯続いて 二人以上の世帯に占める世帯主の年齢階級別世帯割合をみると 高齢化の進展に伴い世帯主が60 歳以上の高齢者世帯の世帯割合が上昇 89

季刊家計経済研究 2017 SPRING No.113 図表 -9 エンゲル係数の対前年差の要因分解 ( 二人以上の世帯 )(60 歳以上の世帯 ) 2.5 2.0 1.5 家計購入数量要因消費者物価要因食料価格要因食料購入数量要因 1.0 エンゲル係数の対前年差 0.5-0.5-1.0-1.5 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016( 年 ) 注 : 図表 -3 の注釈を参照資料 : 家計調査 ( 総務省 ) 消費者物価指数 ( 総務省 ) しており 2000 年に34.1%(60 ~ 69 歳 :21.3% 70 歳以上 :12.8%) であった世帯割合は 13 年には50%(60 ~ 69 歳 :24.5% 70 歳以上 :25.5%) と半数を占め 16 年には53.0 %(60 ~ 69 歳 : 24.1% 70 歳以上 :28.9%) となっており 16 年間で 18.9ポイント上昇している 一方で 60 歳未満の世帯割合は 2000 年に 65.9% であったが 16 年には 47.0% となっている 特に 39 歳以下の世帯割合は 16 年間で半分程度にまで低下している ( 図表 7 ) (3) 高齢者世帯が二人以上の世帯全体のエンゲル係数の大きく押し上げ図表 7のように 世帯主が60 歳以上の高齢者世帯は増加傾向にあり 2013 年以降は二人以上の世帯全体の半数以上を占めている このようなエンゲル係数の水準が相対的に高い高齢者世帯の 上昇は 二人以上の世帯全体のエンゲル係数の押し上げに寄与するとともに 二人以上の世帯全体に対する高齢者世帯の影響を高めることとなる そこで 二人以上の世帯全体のエンゲル係数の対前年差について 年齢階級内変化要因 と 世帯主構成変化要因 に分解すると 2001 年以降 世帯主構成変化要因 はエンゲル係数の対前年差の上昇に寄与しており 00 年から16 年までのエンゲル係数 (23.3% 25.8%) の上昇幅 2.5ポイントのうち 0.6ポイント程度が 世帯主構成変化要因 による影響で押し上げられている また が行われた 14 年以降のエンゲル係数の上昇幅のうち 世帯主構成変化要因 による寄与はわずかであり 二人以上の世帯全体のエンゲル係数の上昇は 特に 60 ~ 69 歳及び 70 歳以上の世帯の高齢者世帯における上昇が影響している ( 図表 8 ) 90

家計調査結果からみた近年のエンゲル係数の上昇要因について 図表 -10 エンゲル係数の対前年差の要因分解 ( 二人以上の世帯 )(39 歳以下の世帯 ) 2.5 2.0 1.5 家計購入数量要因消費者物価要因食料価格要因食料購入数量要因 1.0 エンゲル係数の対前年差 0.5-0.5-1.0-1.5 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016( 年 ) 注 : 図表 -3 の注釈を参照資料 : 家計調査 ( 総務省 ) 消費者物価指数 ( 総務省 ) (4) 高齢者世帯や若年世帯においても食料価格の上昇と家計購入数量の減少が影響 2014 年以降 二人以上の世帯全体のエンゲル係数の上昇に大きく寄与している世帯主が 60 歳以上の高齢者世帯と 39 歳以下の若年世帯について 図表 3 と同様に エンゲル係数の対前年差について 消費者物価要因 家計購入数量 ( 消費量 ) 要因 食料価格要因 及び 食料購入数量 ( 消費量 ) 要因 に要因分解を行う 60 歳以上の世帯における14 年以降のエンゲル係数の上昇については 二人以上の世帯全体 ( 図表 3) とほぼ同様の動きをしており 食料価格の上昇と家計全体の購入数量の減少が要因となっている ( 図表 9 ) また 39 歳以下の世帯では 14 年は 食料価格要因 及び 家計購入数量要因 がエンゲル係数の上昇に寄与しているものの 消費者物価要 因 及び 食料購入数量要因 の低下寄与により上昇寄与分を相殺しており 結果としてエンゲル係数の上昇はほとんどみられない しかし 15 年は 食料購入数量要因 がエンゲル係数の上昇に寄与したこともあり エンゲル係数は大きく上昇している そして 16 年は14 年及び 15 年と同様に 食料価格要因 及び 家計購入数量要因 がエンゲル係数の上昇に寄与している ( 図表 1 0 ) (5) 可処分所得減 節約志向による消費支出の減少最後に 世帯主が 60 歳以上の世帯及び39 歳以下の世帯について 可処分所得 ( 実収入から直接税 社会保険料などの非消費支出を差し引いた額 ) 消費支出及び食料の動きを確認しておく 世帯主が 60 歳以上の高齢者世帯では 14 年以降 可処分所得及び消費支出は低下傾向がみられる 一方で 食料は 14 年以降も上昇が続いている 91

季刊家計経済研究 2017 SPRING No.113 図表 -11 可処分所得 消費支出及び食料 ( 名目 ) (60 歳以上の世帯 )( 二人以上の世帯のうち個人営業などの世帯 1) を除く ) 108.0 2013 年 =100 106.0 104.0 可処分所得 消費支出 食料 102.0 10 98.0 96.0 94.0 2012 2013 2014 2015 2016 ( 年 ) 資料 : 家計調査 ( 総務省 ) 図表 -12 可処分所得 消費支出及び食料 ( 名目 ) (39 歳以下の世帯 )( 二人以上の世帯のうち勤労者世帯 ) 11 108.0 106.0 可処分所得 消費支出 食料 2013 年 =100 104.0 102.0 10 98.0 96.0 2012 2013 2014 2015 2016 ( 年 ) 資料 : 家計調査 ( 総務省 ) 92

家計調査結果からみた近年のエンゲル係数の上昇要因について 14 年以降の食料品を含む多くの財 サービスの価 格上昇下における可処分所得の減少は 消費支出 のうち日常生活に必要不可欠な食料などへの支出 割合を高めることにつながりやすいことから エ ンゲル係数が上昇したとみられる ( 図表 1 1 ) また 39 歳以下の世帯の消費支出をみると 14 年以降の可処分所得の上昇とは反して 14 年及び 15 年はほぼ横ばいで推移し 16 年では大きく低下 している 一方で 食料への支出は 14 年以降上昇 が続いている これは 可処分所得は増加してい るものの 食料以外での支出を抑えることで家計 全体の支出を減らす節約志向による消費支出の減 2) 少 ( 平均消費性向は低下 ) がエンゲル係数の上 昇要因になっているとみられる ( 図表 1 2 ) 6. まとめ これまでみてきたように 2014 年以降のエンゲ ル係数の上昇は 肉類や生鮮野菜などの食料価格 の上昇による食料への支出増が続く中で 家計に おける支出全体の購入数量の減少により消費支出 が減少したことが要因とみられる また 世帯主の年齢階級別にエンゲル係数をみ ると 14 年以降 二人以上の世帯全体の半数を超 える 60 歳以上の高齢者世帯における上昇幅が特に 大きく 全体のエンゲル係数の上昇に大きく寄与し ている この高齢者世帯におけるエンゲル係数の 上昇については 14 年以降 可処分所得が伸び悩 む中で 消費支出全体が減少した一方で 食料価 格の上昇による食料への支出は増加したことが影 響している 一方 39 歳以下の若年世帯では 可処分所得は 14 年以降 2 年連続で増加しているものの 食料以 外の支出は抑えており 消費支出全体では減少し ている こうした世帯における節約志向などによ る消費支出の減少が食料価格の上昇による食料へ の支出増とともに エンゲル係数の上昇の要因と みられる 付記本稿の内容は執筆者の個人的見解を示すものであり 所属する組織の見解を示すものではない 注 1) 個人営業などの世帯については 月々の収入を営業上の収入と家計収入に切り離してとらえることが困難であることから 家計調査 では支出面だけが調査され 収入面は調査されていない ( 年間収入の調査は行われている ) このため ここでは二人以上の世帯の世帯主が 60 歳以上の世帯のうち 勤労者世帯と無職世帯を合算した可処分所得 消費支出及び食料を用いている なお 二人以上の世帯の世帯主が 60 歳以上の世帯全体のうち 無職世帯が約 6 割を占めており 勤労者世帯及び個人営業などの世帯はそれぞれ約 2 割を占めている 2) 平均消費性向の低下 ( 黒字率の上昇 ) は消費支出を節約し 貯蓄にまわしていることを意味しているものの この貯蓄には金融資産 ( 貯蓄など ) の純増のほか 土地家屋借金純減 ( 住宅ローンの返済など ) などの負債の返済なども含まれる 13 年以降は 住宅ローンが低金利であったことや住宅ローン減税の拡充等を背景として 39 歳以下の世帯では持ち家率の上昇がみられる こうした住宅ローンの返済を行う世帯の増加についても 平均消費性向の低下の一因とみられる おおしま けいじ総務省統計局統計調査部消費統計課統計専門職 93