免疫抑制療法 リウマチ膠原病センター 副部長押領司健介
全身性エリテマトーデスー生命予後の昔と今ー % 100 最新の治療による救命 90% 50 ステロイドがない時代 ステロイドの副作用あるいは疾患自体による障害の回避 20% 診断技術の向上 0 0 5 10 年
メトトレキサートが効くと RA 患者の寿命が延びる 生存率 MTX が効いた方 MTX が効かなかった または使えなかった方 Arthritis Rheum. 2000 Jan;43(1):14-21.
免疫のどこが異常か? 微生物 自然免疫 皮膚 粘膜などのバリア B リンパ球 獲得免疫 抗体をつくる 食細胞 T リンパ球 免疫を強化 補体 NK 細胞 数時間 数日 感染からの時間
免疫抑制剤 商品名作用代表的副作用 アルキル化剤 代謝拮抗剤 T 細胞活性阻害剤 エンドキサン イムラン リウマトレックスメトレート ネオーラル プログラフ 活発なリンパ球を殺す (B>T) 活発なリンパ球を抑える (B>T) リンパ球 好中球 マクロファージを抑える T リンパ球のみ抑える T リンパ球のみ抑える 骨髄抑制 出血性膀胱炎 不妊 骨髄抑制 肝障害 骨髄抑制 肝障害 胸やけ 肺障害 腎障害 中枢神経障害 高血圧 糖尿病 * ステロイドはだいたい全部抑える
副腎皮質ステロイド
糖質コルチコイド ( ステロイド ) の生理作用と薬理作用 生理作用 薬理作用 副作用 代謝作用 アミノ酸代謝異化作用 ( 蛋白質 アミノ酸 ) 糖代謝糖新生促進 ( アミノ酸, グリセロール ブドウ糖 ) 筋蛋白減少骨基質減少皮膚萎縮 血糖上昇 筋力低下骨粗鬆症皮膚線条 耐糖能異常, 糖尿病 脂肪代謝脂肪分解 脂肪酸 ( 脂肪組織 ) コレステロール合成促進 ( 肝臓 ) 許容作用 ( アドレナリン, 成長ホルモン等 ) 視床下部 下垂体のフィードバック作用 骨 カルシウム代謝 水 電解質代謝 遊離脂肪酸上昇コレステロール上昇体脂肪の増加 下垂体 副腎の抑制 腸管カルシウム吸収低下尿中カルシウム排泄増加骨粗鬆症骨芽細胞増殖 分化抑制, アポト-シス促進 ミネラルコルチコイド作用 ( 塩分貯留 ) 降圧ホルモン活性低下 高脂血症中心性肥満 急激な中止による副腎不全 高血圧 動脈硬化 炎症 免疫 アラキドン酸カスケード抑制 ( プロスタグランジン, ロイコトリエン ) 炎症性サイトカイン産生抑制接着分子発現の抑制好中球, マクロファージ機能抑制抗体産生抑制 抗炎症易感染性抗アレルギー抗免疫 鈴木康夫 : ステロイドの上手な使い方 ( 川合眞一編 ),2004, p. 23, 永井書店, 東京
内因性ステロイドと外因性ステロイドの違い ステロイドの使用は 1948 年に Philip S. Hench が RA に対して行い奏功したのが最初だが 翌年にはその副作用 ( ナトリウム貯留など ) に気づくこととなる 1950-60 年代に新規合成ステロイドが複数開発されたが いずれも鉱質コルチコイド活性を抑えたものであった これら合成ステロイドと内因性ステロイドの違いは 力価 代謝 半減期 脂溶性 レセプターとの相互作用 転写を介さない作用にある ヒト内因性ステロイドの量は コルチゾール 10mg PSL 換算 3mg くらい
副腎皮質ステロイドの作用機序 1. 細胞質内ステロイド受容体 (cgr) による遺伝子転写を介した古典的作用 2. cgr による遺伝子転写を介さない作用 3. 膜結合型 GR(mGR) による遺伝子転写を介さない作用 4. 細胞膜とステロイドの相互作用により生じる非特異的かつ遺伝子転写を介さない作用
古典的作用 4つのうち最も重要な作用であるが 作用の段階は 1) 細胞膜を通過し 2) 非活性型 cgrと結合して 3) 糖質ステロイド /cgr 複合体を形成し核内へ移行し 4) 転写を活性化もしくは抑制し作用する 転写活性化は 2 量体を形成した GR がステロイドにより調節を受ける遺伝子の promotor に結合し種々の制御性蛋白を合成して作用する 高脂血症などの副作用はこれに由来すると考えられる 転写抑制は 1 量体 GR により炎症性転写因子の AP-1 NF-B IRF-3 等を阻害することで生じる 抗炎症作用に重要 古典的作用は発現に少なくとも 30 分を要し 実際細胞 組織 器官が変化するには数時間から数日を要する
転写を介さない作用 mgr を介して T cell に作用し Lck や Fyn を抑制し TCR シグナルを抑制したり calcium signaling を逆転させ下流のイノシトール 1,4,5-3 リン酸受容体を抑制する 細胞膜に作用し 安定化させる ( 抗ショック作用 ) 高用量で リンパ球のアポトーシスを誘導する 投与後速やかに作用を発揮する 1mg/kg 以上を投与するのは この作用を期待してのこと
脂溶性 ステロイド剤の種類 静注製剤では薬剤利用率が経口より劣る可能性があり 増量することがすすめられている ソルコーテフ等は半減期が短いため 最低 1 日 2 回投与
剤形間 ( 内服薬 注射薬 ) の対応量 ( 経口不能又は腸管浮腫のとき ) プレドニゾロ ンを静注に変えるなら, 経口予定量の 1.5 倍又は 2 倍の水溶性プレドニゾロンを 2 分割する 三森明夫 : 膠原病診療ノート,2006, pp. 28-30, 日本医事新報社, 東京
分割投与? 一括投与? ループス腎炎では朝 1 回投与と分割投与で差はない 巨細胞性動脈炎では分割投与が勝る 病態により異なるが 一般的に疾患急性期では効果の切れる時間帯を作らない方が無難
無視できない副作用 1. 骨粗鬆症 PSL 5mg を 3 ヶ月以上投与する際は 予防をする ビスホスホネート 活性型ビタミン D K テリパラチドなど 2. 感染症 PSL 20mg 以上のとき リスク 2 倍 PSL 0.6mg/kg 以上のとき さらにリスク増 細菌感染は早期に 抗酸菌 ウイルス 感染 ( 帯状疱疹など ) 真菌は長期治療時に生じやすい 3. 耐糖能異常血糖値に合わせ インスリン 経口糖尿病薬を使い分ける 朝食前が低血糖となりやすいため DPP-4 阻害薬などが使いやすい 4. 消化性潰瘍ステロイド単独ではリスクは高くないと考えられている 胃粘膜保護薬程度で良い NSAIDs との併用でリスク高く PPI 併用が望ましい
無視できない副作用 5. 無菌性骨壊死 SLE で最もハイリスク IgA 腎症では 1/4000 程度 6. 白内障 7. 精神障害原病 low T3 syndrome によるものが多い 突発性難聴で精神障害が出ることはほとんどない 8. 高血圧プレドニゾロンにはコルチゾールの 40% 程度の Na 貯留作用があり 発症する可能性がある
無視できない副作用 9. 副腎不全 プレドニゾロン10mgを半年服用すると副腎不全状態 好酸球増加 低 Na K 上昇などで疑う 感染症を発症したからといってステロイドを中止するのはもってのほか むしろ増量する必要がある時もある 手術に際したステロイドカバーは 小手術 : 術前にソルコーテフ100mg iv 中手術 : 術前からソルコーテフ100mg iv 8 時間毎 計 4 回大手術 ( 心血管系など ):4-6 時間毎
使用量とねらい 多くは下記の様であるが 疾患により微妙にプロトコールは異なる 減量スピードは疾患が寛解を維持 していることを前提に概ね右表の ような感じ
膠原病なら必ずステロイドを使うということはない IFX 投与前 IFX 投与後 インフリキシマブ初回投与より 2 年が経過するが 腸管病変の再発はない
ベーチェット病の病態 サイトカイン産生 抗 TNFα 薬など T リンパ球の閾値低下 シクロスポリン等 コルヒチン 患者 T リンパ球が健常人 T リンパ球に比して in vitro で種々の細菌抗原に対し過敏に反応することが知られている (Arthritis Res Ther 5:139-146.2003) 本症患者には扁桃炎 う歯の既往が多く 手術 外傷 抜歯などでの増悪がみられる 活動性のベーチェット病では末梢血単核球の TNFα 産生能が亢進している (J Rheumatol 17: 1428-1429, 1990) 本症の基本病態がこのような T リンパ球の過剰反応性に基づくサイトカイン産生による好中球機能の亢進であり ターゲットを恒常的に阻害することで好中球機能亢進による急性炎症の発症を抑制できる T 細胞の活性化や好中球の動員が生じた場所では どこでも炎症を惹起しうる
感染症対策
サイトメガロウイルス (CMV) 感染症 腸炎 血球貪食症候群 肺炎などを生じる 年齢 間質性肺炎 腸の器質的病変の有無により感染しやすさが異なる PSL 単独では 0.6mg/kg 以上でリスク PSL<0.6mg/kg でも 免疫抑制剤併用でかなりリスク上昇 定期モニタリングないし予防内服を!
ニューモシスチス肺炎 (PCP) 関節リウマチにおける致死率は約 30 パーセント 年齢 肺疾患の有無 他の免疫抑制剤やステロイドの使用でリスク上昇 予防内服を! 予防率 98%! 呼吸困難や倦怠感あり CRP が上昇し 胸写で違和感あり βd グルカンが陽性で 動脈ガスで CO2 が著明に低下し カンジダ アスペルギルス抗原陰性ならほぼ PCP
ニューモシスチスは症状なく肺にいることがある ニューモシスチスを持っている方 ( 平均 75 歳 ) は持っていない方 ( 平均 64 歳 ) よりかなり高齢 65 歳以上の患者さんでは約 2 割もっている Case1 は検査の 1 か月後にニューモシスチス肺炎を発症 Mod Rheumatol (2008) 18:240 246
B 型肝炎 B 型肝炎ウイルスをもらったことがある方で 肝炎を発症していないがリウマチの治療を始めることで眠っていたウイルスが再び出てくることがある 初診時の検査で B 型肝炎をもらったことがある方を発見し 治療開始後ウイルスが出てこないか定期的に検査をする必要がある
メトトレキサート単独で HBV 再活性化を来したリウマチ患者の報告 Diagnosis/ Age/ sex 1 RA/ 59/F 2 RA/ 72/F Base line serology HBsAg(-) Anti-HBs(+) Asymptomatic Carrier 3 RA/ 58/F HBeAg(-) HBsAg(+) Anti-HBe(+) 4 RA/ 49/M Anti-HBc(+) 5 RA/ 75/F 6 RA/ 67/M 7 RA/ 57/F HBsAg(+) HBeAg(+) Immunosuppressive regimen MTX duration (why stop), MTX discon to ALT flare Treatment of HBV reactivation Outcome, after onset of symptom MTX 10mg/wk po, PSL 5 mg/day 7 years (ALT), LVD 100mg/d Died, 8wks MTX 4mg/wk, PSL 5 mg/day 2y (ALT), Discontinue MTX MTX 15mg/wk, LD Pred (<7.5mg/d) 2y (ALT) LVD 100mg Infliximab 6mg/8wk + MTX 10mg/wk 1y7m (ALT) LVD 100mg/d MTX 5-7.5mg/week PSL, 7.5 mg/day 3 ys (ALT), 2 mos IFN-β (3MU/d) Died MTX 7.5mg/wk, Pred 5mg/day 2y (RS*), 3wk Discontinue MTX Died MTX 7.5-10mg po/week 3y (RS*), 41d Discontinue MTX Died Died of fungal pheumonia Alive, INFL ETN +LVD Alive, Normalized after 2mos RS, respiratory symptom; indicates time between discontinuation or reduction of immunosuppressive therapy and hepatitis B flare. RA, rheumatoid arthritis; MTX, methotrexate; Pred, prednisolone; LVD, lamivudine. 1) Gwak GY, Clin Exp Rheumatol 2007;25:888-889 2) Hagiyama H, Clin Exp Rheumatol 2004;22:375 6 3) Calavrese LH, Ann Rheum Dis 2004;63 (s2):18-24 4) Ostuni P, Ann Pheum Dis 2003;62:686-7 5) Ito S, Arthritis Rheum 2001;44:339 42 6) Narvaez J, J Rheumatol 1998;25:2037 8 7) Flowers MA, Ann Intern Med 1990;112:381 2 L H Calabrese (Dept of Rheumatic and Immunological Disease, Cleveland Clinic), Ann Rheum Dis 2006; 65: 983 Hepatitis B virus (HBV) reactivation with immunosuppressive therapy in rheumatic diseases: assessment and preventive strategies. http://ard.bmj.com/cgi/content/abstract/65/8/983
Hepatitis B reactivation after chemotherapy: two decades of clinical research George K. K. Lau (The University of Hong Kong), Block K (Queen Mary Hospital) Hepatol Int. 2008 June; 2(2): 152-162. HBV 再活性化による肝炎は 2 段階で進行する 1) 免疫抑制によるHBV 複製が増強 まずHBV DNAが増える 炎症は抑えられているのでALTは上昇しない 2) 化学療法終了後の免疫回復 感染細胞に対する免疫の反応が強まり 肝障害がおこる 肝炎 ( 一過性 ALT 上昇 慢性肝炎 ) 肝不全 死亡するケースも 初期の段階で 抗 HBV 作用のある核酸アナログを投与すれば HBV の再生が 効果的に抑制され その結果 HBVに起因する肝炎の頻度を下げることがでもしきる HBV-DNAが検出された場合は 免疫抑制療法を中止せず 抗ウイルス薬を開始したほうがよい
まとめると MTX 単独治療で 既感染例で発症したのは 1 例のみ 3 例は治療前からHBs 抗原陽性 3 例はスクリーニングされていない 1 年間のフォローでは足りない ほぼ死んでいる
結核 TNFα 阻害薬は結核のリスクが増す レミケードとヒュミラが同等で エンブレルのほうがリスクが低い TNFα 阻害薬投与中の患者では肺外に播種性に感染する率が高い スクリーニングとして問診 ツベルクリン クオンティフェロン 胸部レントゲン撮影が必要 いずれかに異常がある場合 TNFα 阻害療法開始 1-2ヶ月前からイスコチンを開始し 抗 TNF-α 製剤投与開始 9ヶ月後まで継続する 抗 TNFα 抗体製剤使用中の患者の方が結核の治癒効率が良いという報告もある TNF 阻害薬投与前には問診 ツ反 or クオンティフェロン 胸写を施行し いずれか陽性ならイスコチンの予防投与を!
生物学的製剤ごとの感染症発現頻度 感染症総数 433/5000 (8.7%) インフリキシマブエタネルセプトアダリムマブトシリズマブアバタセプト 1206/13894 (8.7%) 610/7972 (7.7%) 615/6424 (9.6%) 139/5333 (2.6%) 重篤な感染症 202 (4.0%) 334 (2.4%) 208 (2.6%) 233 (3.6%) 35 (0.7%) 肺炎 ( 細菌性肺炎 気管支肺炎 ) ニューモシスチス肺炎 24.9% 14.4% 16.4% 15.8% 12.9% 5.0% 2.1% 4.4% 1.6% 2.9% 結核 3.2% 1.0% 1.5% 0.7% 0% 非定型抗酸菌 1.6% 1.2% 1.0% 2.4% 0% 敗血症 2.3% 2.1% 2.6% 2.0% 0.7% 真菌 3.5% 0.5% 3.3% 2.6% 6.5% サイトメガロウイルス 0.7% 0.2% 0.3% 0.3% 0.7% 帯状疱疹 14.8% 9.4% 9.2% 11.5% 15.8% 蜂窩織炎 3.9% 3.1% 3.6% 7.6% 5.0% 製剤間でかかりやすい感染症が微妙に異なり ある程度予想して治療 予防することが重要
まとめ ステロイド 免疫抑制剤は個々の病態に応じて使い分ける 薬剤による副作用を先回りして予防することが重要 現在できる感染症予防に加え 個々の患者さんに適した薬剤を選択することで さらに合併症を減らすことが今後の目標
朝早くから お疲れ様でした