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学位論文の要約 Postural and Chronological Change in Pelvic Tilt Five Years after Total Hip Arthroplasty in Patients with Developmental Dysplasia of the Hip: A Three-Dimensional Analysis. ( 発育性股関節形成不全患者に対する人工股関節全置換術後 5 年までの姿勢性および経時的 な骨盤傾斜の変化 : 3 次元的解析 ) http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26276573 1. 序論わが国においては, 高齢化に伴い, 変形性股関節症を発症する患者が増加してきている. それに伴って, 変形性股関節症に対する一般的な手術法である人工股関節全置換術 (Total Hip Arthroplasty, THA) の手術件数も年々増加している.THA では変形し, 痛みや可動域制限を生じている股関節 ( 寛骨臼と大腿骨頭 ) を人工のインプラントに置換する. 寛骨臼側にはカップを, 大腿骨側にはステム, ネックおよび骨頭を設置し, カップと骨頭の間 ( 摺動面 ) にはポリエチレン製などのライナーを設置する. 設置するインプラントの中でも, 臼蓋側のカップと大腿骨側のステムの 2 つにより THA の術後成績は大きく左右される. これらのインプラントが不良に設置されると, 術後可動域の不良, ポリエチレンの摩耗, インプラントの破損および脱臼などの術後合併症がおこる危険性が高くなり, 術後成績に大きく影響する. 適切なインプラント設置に関しては, 多くの報告があり,Widmer らは, 厳しい股関節の可動域条件において, インプラント同士のインピンジメントを生じないインプラント設置角について, コンピューターモデルを用いて計算し, カップ外転角 40 ~45, ステム前捻角に 0.7 を乗じた値とカップ前方開角の和が 37.3 となる設置が, 術後に最大の可動域を得るために, 最も理想的であると報告した (Widmer et al, 2004). この研究により, カップ前方開角とステム前捻角を相互的に考える combined anteversion (CA) という理論が導入された. 現在の THA では, ナビゲーションシステムの使用などにより, 目標位置に適切にインプラントを設置することが可能となってきているが, カップ設置角は骨盤の傾斜の変化によっても影響を受けると報告されている.Babisch らは骨盤傾斜が 1 変化するとカップ外転角は 0.3, カップ前方開角は 0.8 変化すると報告した (Babisch et al, 2008). 骨盤傾斜は THA 術後に経時的に変化し, 臥位から立位へと姿勢性にも変化すると報告されている (Nishihara et al, 2003; Taki et al, 2012). したがって, 術中にナビゲーションシステムなどを使用し, 至適なカップ設置が実現していたとしても, 術後に姿勢性および経時的な影響により骨盤傾斜が変化した場合, 目標としたカップ設置とは異なる結果となり,safe zone

から逸脱する可能性もあることが予想される. よって, 術中だけではなく, 長期的に良好なカップ設置を実現するためには,THA 術後の姿勢性および経時的な骨盤傾斜変化, およびそれに伴うカップ設置角の変化を理解することが重要である. また, 脊椎は股関節, 骨盤と密接に関連しあい, それぞれの病態に影響を与えるということから Hip-Spine syndrome という概念が提唱されている (Offierski et al, 1983).THA を受ける患者の中でも脊椎のアライメントには多様性があり,THA を施行する際には脊椎に関しても考慮する必要がある. 一般的に, 若年者では股関節症による痛みなどから, 股関節の屈曲拘縮が生じることで骨盤が前傾し, それに伴い腰椎前弯が増強し, 脊椎症を発生するといわれている ( 會田ら, 2004). 一方, 高齢者では加齢や脊椎症により胸椎および腰椎の生理的弯曲が減少し, 腰椎の後弯が増強することに伴い, 骨盤は後傾し, 大腿骨頭に対する寛骨臼前方の被覆が低下することにより股関節症を発症するといわれている. 2. 対象および方法当院にて初回 THA を行った片側のみの二次性変形性股関節症患者 77 例 ( 女性 64 例, 男性 13 例 ) を対象とした. 平均年齢は 64.4 歳 (44-82 歳 ) であった. 変形性股関節症の脱臼度の調査には Crowe 分類を用いた (Crowe et al, 1979). また, 臨床成績の評価には Harris hip score (HHS) を用いた (Harris, 1969).HHS は pain (0-44 点 ),function (0-47 点 ),absence of deformity (0-4 点 ),range of motion (ROM) (0-5 点 ) の 4 項目からなり, 合計で 100 点となる. 点数が高いほど良好な成績であることを示す. 手術は全例側臥位で,mini-incision direct lateral approach を用いて行った (Inaba et al, 2011). 全例 CT-based navigation system (Stealth Station TREON Plus, Medtronic Inc., Louisville, KY) を用いて, われわれの報告 ( 稲葉ら, 2013) に基づいた術前計画を行い, インプラント設置を行った. 使用したインプラントは 61 例に対して Trilogy カップと VerSys Fiber Metal MidCoat ステム (Zimmer Inc., Warsaw, IN) を, 8 例に対して TriAD カップと Secure-Fit ステム (Stryker Inc., Mahwah, NJ) を, 6 例に対して REFLECTION カップと SL-PLUS ステム (Smith & Nephew Inc., Memphis, TN) を, 2 例に対して TriAD カップと Accolade TMZF ステム (Stryker Inc., Mahwah, NJ) を使用した. 使用した骨頭径は 68 例に対して 26 mm を,9 例に対して 28 mm を使用した. 全例に対し, 術前および術後隔年で骨盤単純 X 線正面像 ( 臥位および立位 ) を撮影し, 術後 1 週で骨盤単純 CT を施行した. 骨盤単純 X 線正面像の撮影において,X 線照射の中心は恥骨結合上縁に合わせた. 骨盤 CT から再構築した 3 次元モデルで臥位および立位の状態を再現するため,Nishihara ら (2003) の報告に基づき, 骨盤単純 X 線正面像において骨盤腔の縦径 (A: 両仙腸関節下縁を結ぶ線の中点から恥骨結合上縁へおろした垂線の長さ ) と横径 (B: 骨盤腔内で最長となる水平線の長さ ) を測定した ( 図 1). 骨盤腔縦横比 (A/B) と 3 次元 CT モデルの骨盤腔縦横比 (A /B ) が等しくなるように水平軸に沿って CT モデルを回転させた状態で, 両上前腸骨棘と恥骨結合で規定される anterior pelvic plane (APP)

の鉛直面に対する傾きを, 前傾を正の値として記録した. 計測した骨盤傾斜を元に, 術前臥位から術後 5 年立位への変化 (pelvic change, PC) を調査した.PC は術後 5 年立位骨盤傾斜から術前臥位骨盤傾斜を引いた値とした. よって,PC が負の値の場合は, 術前臥位から術後 5 年立位で骨盤が後傾したことを意味した. 計算した PC の値を元に, 患者を 3 群に分類した.PC が-10 より大きいものを Group A,-20 より大きいが-10 以下のものを Group B,-20 以下のものを Group C とした. また術前および術後 1 年で全脊椎単純 X 線側面像を立位で撮影し,sagittal balance (SB), 胸椎後弯角 (thoraco-kyphotic angle, TKA), 腰椎前弯角 (lumbo-lordotic angle, LLA) を Jackson らの報告 (2000) に基づき計測した.SB は C7 椎体中央からおろした鉛直線 (C7 plumb line) と大腿骨頭中心との距離とし,C7 plumb line が骨頭中心より前方にある場合を正の値とした.TKA は Th1 椎体上縁と Th12 椎体下縁のなす角度,LLA は Th12 椎体下縁と S1 椎体上縁のなす角度とし,TKA は後弯を,LLA は前弯を正の値として計測した. 統計学的解析には SPSS ソフトウェア (version 21.0, IBM Corp., Armonk, NY, USA) を用いた. 各群間の平均値の比較には Kruskal-Wallis test と Steel-Dwass test を用いた. 各群における経時的な骨盤傾斜変化の比較には paired t test を使用した.P 値が 5% 未満を有意差ありとした. a b

c 図 1 3 次元 CT モデルによる骨盤傾斜の計測法 a) 骨盤単純 X 線正面像 A: 骨盤腔縦径 ( 両仙腸関節下縁を結ぶ線の中点から恥骨結合上縁への垂線の長さ ) B: 骨盤腔横径 ( 骨盤腔内で最長となる水平線の長さ ) b) 3 次元 CT モデル単純 X 線での骨盤腔縦横比 A/B と A /B が等しくなるよう水平軸に沿ってモデルを回転させることで,3 次元 CT モデル上で a) の肢位を再現 c) 骨盤傾斜角 :APP と鉛直面との角度とし前傾を正の値として計測 Suzuki H, Inaba Y, Kobayashi N, Ishida T, Ike H, Saito T. Postural and Chronological Change in Pelvic Tilt Five Years after Total Hip Arthroplasty in Patients with Developmental Dysplasia of the Hip: A Three-Dimensional Analysis. J Arthroplasty, 31: 317-322, 2016. より引用 3. 結果全患者において, 臥位骨盤傾斜は術前 3.0 ±10.5 から術後 5 年で-0.4 ±9.8 と変化し, 立位骨盤傾斜は術前 -1.5 ±11.8 から術後 5 年で-6.9 ±12.3 へと変化した. 全患者の平均 PC は-9.9 ±6.3 であり,PC が正の値となる症例 ( つまり, 術前臥位から術後 5 年立位で骨盤が前傾する症例 ) は認めなかった. Group A( 全体のうち 56%) は 43 例 ( 女性 34 例, 男性 9 例 ) で, 平均年齢は 63.3±8.8 歳であった ( 図 2).Group A の平均 PC は-5.3 ±2.5 であった.Group B( 全体のうち 36%) は 28 例 ( 女性 24 例, 男性 4 例 ) で, 平均年齢は 64.2±9.9 歳であった.Group B の平均 PC は-14.0 ±3.2 であった.Group C( 全体のうち 8%) は 6 例 ( 全例女性 ) で, 平均年齢は 73.7 ±4.7 歳であった.Group C は他のグループに比べて有意に高齢であった (p=0.04).group

C の平均 PC は-23.2 ±2.1 であり, もっとも大きく変化したものは PC=-25 であった.Group C において, 臥位骨盤傾斜は術前 -2.5 ±10.9 から術後 5 年で-9.0 ±8.8 と変化し, 立位骨盤傾斜は術前 -11.0 ±15.9 から術後 5 年で-26.0 ±10.6 へと変化した.Group C における術前立位骨盤傾斜は Group A に比べて有意に後傾していた (p=0.03). Group C において, 術後 1 年で立位骨盤傾斜は全例後傾し, さらに術後 5 年まで後傾する傾向を認めた. 加えて, 各時点での姿勢性の変化 ( 各時点での立位骨盤傾斜から臥位骨盤傾斜を引いた差 ) は術後に大きくなった.Group C における術前腰椎前弯角は 26.2 ±14.8 と他の群に比べて小さく (p=0.001), 術後も改善を認めなかった (22.8 ±15.1 ).Crowe 分類,HHS に関しては 3 群間で有意差は認めなかった. 図 2 PC による患者の分類 *p<0.05, **p<0.01, ***p<0.005 PTsupine: 臥位骨盤傾斜,PTstand: 立位骨盤傾斜全体のうち 93%(Group A, B) では PC が-20 以内であった. Group C は全体の 7% を占めた. 他の群に比べ高齢であった. Group B においては術後 2 年で立位骨盤傾斜が有意に後傾した. Group C においては, 術後 1 年の段階で, 立位骨盤傾斜が全例後傾した. また立位骨盤傾斜の後傾は術後 5 年まで経時的に継続した. Suzuki H, Inaba Y, Kobayashi N, Ishida T, Ike H, Saito T. Postural and Chronological Change in Pelvic Tilt Five Years after Total Hip Arthroplasty in Patients with

Developmental Dysplasia of the Hip: A Three-Dimensional Analysis. J Arthroplasty, 31: 317-322, 2016. より引用 4. 考察 THA において, カップの設置角は骨盤傾斜の変化にも影響を受けるので,THA 術後の骨盤傾斜変化を術前から予測することは重要である (Ishida et al, 2011, Blondel et al, 2009, Tannast et al, 2005). 骨盤の傾斜は姿勢性および THA 後経時的に変化するとの報告がある (Harris et al, 1969; DiGioia et al, 2006; Eddine et al, 2001, Konishi et al, 1993; Nishihara et al, 2003).Ishida ら (2011) は骨盤単純 X 線側面像を用いた骨盤傾斜計測を行い, 骨盤傾斜 ( とくに立位での骨盤傾斜 ) は術後に後傾することを報告した. 本研究においても, 術後の経時的な骨盤傾斜の変化は, 臥位よりも立位で大きかった. THA 術後に骨盤が後傾することに伴い, カップの外転角, 前方開角はともに増大する. Babisch ら (2008) は骨盤傾斜が 1 度変化することに伴い, カップ外転角は約 0.3, 前方開角は約 0.8 増大すると報告した. したがって,THA の術前計画においては, 術後に骨盤傾斜が大きく変化する症例は, どのような症例かを把握しておくことが重要となる. Nishihara ら (2003) は THA 症例の 90% においては, 術前臥位での肢位を基準として術前計画を行うことが合理的であると報告した. しかし同時に, 残りの 10% の症例に関しては, 術後の骨盤傾斜変化の影響などにより, 基準とする骨盤の肢位やカップ設置角を調整する必要が出てくる可能性があることも示唆した.Taki ら (2012) は THA 術後 4 年まで骨盤傾斜を計測し, 臥位から立位への姿勢性の骨盤傾斜変化が 10 以上になる症例は, 経時的に増加すると報告した. 一般的に, 骨盤は臥位から立位になると後傾し,THA 術後にも後傾するといわれている. したがって, われわれは PC( 術後 5 年立位骨盤傾斜から術前臥位骨盤傾斜を引いた差 ) が, 本研究の個々の症例において, 姿勢性および経時的な骨盤傾斜の変化をまとめて考えた場合に, 最も大きな後傾変化を示すと考えた. 本研究においては全体の 92% の症例では PC が-20 より大きかったが, 残りの 8%(Group C) においては PC が- 20 以下であり, 最も大きな後傾変化は PC=-25 であった. このような症例では, Babisch ら (2008) の報告に基づくと, 術前臥位で計画したカップ設置角に比べて, 術後 5 年立位の状態ではカップ外転角が 8, 前方開角が 20 増大する結果となった.Group C は他の群に比べて有意に高齢であり, 術前の立位骨盤傾斜, 胸椎後弯角および腰椎前弯角がいずれも有意に小さかった.Jackson と Hales の健常者の脊椎矢状面アライメントについての報告と比較しても,Group C の術前腰椎前弯角 ( 平均 26.2 ) は健常者の腰椎前弯角 (35.4-90.4 ) より著しく小さく, 術後も改善を認めなかった (Jackson et al, 2000). さらに Group C の立位骨盤傾斜は術後 5 年まで後傾を続けた. Offierski ら (1983) は Hip-Spine syndrome という概念を提唱し, 股関節または脊椎のいずれか一方に主原因があり, 他方に影響を与えている場合を Secondary Hip-Spine syndrome, 股関節と脊椎のいずれが主原因か不明確な場合を Complex Hip-Spine

syndrome と定義した. これらの中でも, 脊椎に主原因がある症例に対して THA を施行しても, もともと存在する脊椎疾患の程度によっては十分な代償作用が得られず, 骨盤傾斜や脊椎矢状面アライメントが改善しない可能性が考えられる ( 石田ら, 2009). 本研究の結果からも, 腰椎圧迫骨折などにより腰椎前弯角が著しく小さい高齢患者においては, 術前臥位と比べて術後立位の骨盤は大きく後傾し, 脊椎矢状面アライメントも改善しないことがわかった. 幸いにして, 本研究の症例においては,5 年間の観察期間中に新規の腰椎圧迫骨折などを起こした症例はなかった. しかし, このタイプの症例ではさらなる急激な腰椎前弯の消失や, 骨盤後傾の進行を防ぐために, 術後に腰椎のケアをすることが重要であると考えた. 加えて, 術前計画の段階から, 術後の骨盤後傾変化が大きいことを考慮し, 計画する際の基準の肢位を, 術前臥位の状態よりも骨盤を後傾させた状態に設定し, カップ前方開角を小さくなるように計画する必要があると考えた. 本研究にはいくつかのリミテーションがあった. ひとつは, 本研究においては臥位と立位のみしか調査していないことである. 今後はその他の日常生活でとりうる肢位 ( 座位など ) における検討も必要と考える. また, 本研究では詳細な股関節可動域の調査をしてないことも挙げられる. 股関節の屈曲拘縮や過伸展なども骨盤傾斜に影響を及ぼすことが予想される. 本研究での HHS の結果を元にすると, 今回の Group 間において absence of deformity と ROM の項目についても点数に有意差がなかったことから, 本シリーズにおいて屈曲拘縮などの影響はほとんどなかったものと考えた. しかしながら, 詳細な股関節可動域の調査がなされていないことは本研究のリミテーションのひとつである. また, 本研究の追跡期間は 5 年であったが,Group C の立位骨盤傾斜が 5 年まで経時的に後傾を続けたことを考えると,5 年目以降さらに後傾が進むことも予想されるため, さらに長期的な観察も今後必要であると考える. 5. まとめ THA 術後 5 年までの姿勢性および経時的な骨盤傾斜変化を,2D-3D マッチング法を用いて計測し,PC( 術前臥位から術後 5 年立位への骨盤傾斜変化 ) を調査した.PC が正の値となる症例 ( つまり, 術前臥位から術後 5 年立位で骨盤が前傾した症例 ) は認めなかった. よって, THA 患者が, 術後大きく骨盤が前傾することは考えづらく,THA 後は主に骨盤後傾変化に注意を向ける必要があると考えた. 全症例のうち,92% の症例は PC>-20 であったが, 残りの 8% においては PC が-20 以下であった. こうした症例は, 高齢で術前立位骨盤傾斜,TKA および LLA が小さく, 特に LLA に関しては健常者のそれと比較しても著しく小さかった. これらの症例に対して THA を計画する際には, 術後に骨盤が大きく後傾することを考慮に入れた術前計画が必要であり, 同時に腰椎に対するケアが必要であると考えた.

論文目録 主論文 Postural and Chronological Change in Pelvic Tilt Five Years after Total Hip Arthroplasty in Patients with Developmental Dysplasia of the Hip: A Three-Dimensional Analysis (Journal of Arhtroplasty, 31: 317-322, 2016) 副論文 人工股関節全置換術後における骨盤傾斜の経時的変化と術前脊椎アライメントの関係 ( 日本人工関節学会誌, 43: 85-86, 2013) 参考論文 人工股関節全置換術における骨盤傾斜を考慮したインプラント設置の術前計画と術後検証 ( 日本関節病学会誌, 32: 433-440, 2013)