jphc_outcome_d_009.indd

Similar documents
jphc_outcome_d_014.indd

hyoushi

高齢者におけるサルコペニアの実態について みやぐち医院 宮口信吾 我が国では 高齢化社会が進行し 脳血管疾患 悪性腫瘍の増加ばかりでなく 骨 筋肉を中心とした運動器疾患と加齢との関係が注目されている 要介護になる疾患の原因として 第 1 位は脳卒中 第 2 位は認知症 第 3 位が老衰 第 4 位に

和歌山県地域がん登録事業報告書

厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業)

Microsoft Word _nakata_prev_med.doc

心房細動1章[ ].indd

肥満と栄養cs2-修正戻#20748.indd

<4D F736F F F696E74202D D58FB08E8E8CB15F88F38DFC FC92F994C532816A>

図. 各要因による 9.4 年間での日英 ( イングランド ) の生存期間の差 ~ 日英高齢者の生存期間の比較研究から ~ 注 ) 調査開始時点の日英の年齢や健康状態の差を調整した上でも 9.4 年間の間に日本人が女性で319 日 男性で132 日 英国人よりも長生きをしていました グラフの数字は

<4D F736F F D208FAC93638CB48E7382CC8C928D4E919D90698C7689E696DA C82CC8D6C82A695FB2E646F63>

調査の概要 本調査は 788 組合を対象に平成 24 年度の特定健診の 問診回答 (22 項目 ) の状況について前年度の比較から調査したものです 対象データの概要 ( 全体 ) 年度 被保険区分 加入者 ( 人 ) 健診対象者数 ( 人 ) 健診受診者数 ( 人 ) 健診受診率 (%) 評価対象者

自殺予防に関する調査結果報告書

Q1.65 歳での健康寿命に 65 を足せば 0 歳での健康寿命になりますか A1. なりません 別途 健康寿命の算定プログラム 等を用いて 0 歳での健康寿命を算定する必要があります 例えば 健康寿命の算定方法の指針 の図 4-3 の男の算定結果を見ると 健康な期間の平均が 65 歳時点では 17

JAしまね[01-36].indd

< E188CA8C9F8FD88A65955C2E786C73>

平成 30 年 7 月 4 日 報道機関各位 東北大学大学院歯学研究科 喫煙者は交通事故死亡のリスクが高い傾向 発表のポイント これまで日本で喫煙と交通事故の関連についての検討はほとんどされておらず 本研究では喫煙と交通事故死亡の関連を調べた 男性ではたばこを 1 日 20 本以上吸うことは交通事故

データの取り扱いについて (原則)

Microsoft Word コーヒーと健康

15 第1章妊娠出産子育てをめぐる妻の年齢要因

健康だより Vol.71(夏号)

平成 21 年循環器疾患登録の年集計について 喫煙習慣の割合は 男性で約 4 割 女性で約 1 割である 週 1~2 回以上の運動習慣のある割合は1 割程度と 男女共に運動習慣のある者の割合が低い 平成 21 年における循環器疾患登録者数 ( 循環器疾患にかかった人のうち届出のあった人 ) について

4 月 17 日 4 医療制度 2( 医療計画 ) GIO: 医療計画 地域連携 へき地医療について理解する SBO: 1. 医療計画について説明できる 2. 医療圏と基準病床数について説明できる 3. 在宅医療と地域連携について説明できる 4. 救急医療体制について説明できる 5. へき地医療につ

青焼 1章[15-52].indd

かけはし_049.indd

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 10 年相対生存率に明らかな男女差は見られない わずかではあ

第 3 部食生活の状況 1 食塩食塩摂取量については 成人男性では平均 11.6g 成人女性では平均 10.1gとなっており 全国と比較すると大きな差は見られない状況にあります 図 15 食塩摂取量 ( 成人 1 日当たり ) g 男性

Microsoft Word - cjs63B9_ docx

5 つの健康習慣はじめに 今 日本人の二人に一人が 一生のうち一度はがんになるというデータがあります がんは日本人にとって身近な病気で その予防は多くの人の関心を集めるテーマです この冊子では 日本人を対象とした研究結果から定められた 科学的根拠に基づいた 日本人のためのがん予防法 についてまとめて

Microsoft PowerPoint - 100826上西説明PPT.ppt

妊娠 出産 不妊に関する知識の普及啓発について 埼玉県参考資料 現状と課題 初婚の年齢は男女とも年々上昇している 第一子の出生時年齢も同時に上昇している 理想の子ども数を持たない理由として 欲しいけれどもできないから と回答する夫婦は年々上昇している 不妊を心配している夫婦の半数は病院へ行っていない

年齢調整死亡率 (-19 歳 ) の年次推移 ( :1999-1) 1 男性 女性 年齢調整死亡率 -19 年齢調整死亡率 年齢調整死亡率 -19 年齢調整死亡率

ウ食事で摂る食材の種類別頻度野菜 きのこ 海藻 牛乳 乳製品 果物を摂る回数が大きく異なる 例えば 野菜を一週間に 14 回以上 (1 日に2 回以上 ) 摂る人の割合が 20 代で 32% 30 代で 31% 40 代で 38% であるのに対して 65 歳以上 75 歳未満では 60% 75 歳以


EBNと疫学

結果の概要

カテゴリー別人数 ( リスク : 体格 肥満 に該当 血圧 血糖において特定保健指導及びハイリスク追跡非該当 ) 健康課題保有者 ( 軽度リスク者 :H6 国保受診者中特定保健指導外 ) 結果 8190 リスク重なりなし BMI5 以上 ( 肥満 ) 腹囲判定値以上者( 血圧 (130 ) HbA1

81 平均寿命 女 単位 : 年 全 国 長野県 島根県 沖縄県 熊本県 新潟県 三重県 岩手県 茨城県 和歌山県 栃木県

初めて親となった年齢別に見た 就労状況 ( 問 33 問 8) 図 97. 初めて親となった年齢別に見た 就労状況 10 代で出産する人では 正規群 の割合が低く 非正規群 無業 の割合が高く それぞれ 22.7% 5.7% であった 初めて親となった年齢別に見た 体や気持ちで気になること ( 問

厚生労働科学研究費補助金 (地域健康危機管理研究事業)

講演

pdf_c

Microsoft Word - Ⅲ-11. VE-1 修正後 3.14.doc

PDF

Microsoft PowerPoint - R-stat-intro_12.ppt [互換モード]

Microsoft PowerPoint - 3-2奈良.ppt [互換モード]

家族の介護負担感や死別後の抑うつ症状 介護について全般的に負担感が大きかった 割合が4 割 患者の死亡後に抑うつ等の高い精神的な負担を抱えるものの割合が2 割弱と 家族の介護負担やその後の精神的な負担が高いことなどが示されました 予備調査の結果から 人生の最終段階における患者や家族の苦痛の緩和が難し

平成 27 年度全国体力 運動能力 運動習慣等調査愛媛県の結果概要 ( 公立学校 ) 調査期間 : 調査対象 : 平成 27 年 4 月 ~7 月小学校第 5 学年 ( 悉皆 ) 中学校第 2 学年 ( 悉皆 ) 男子 5,909 人男子 5,922 人 女子 5,808 人女子 5,763 人 本

13章 回帰分析

平成13-15年度厚生労働科学研究費補助金

スライド 1

<4D F736F F D20926A8F9782CC88D38EAF82CD82B182F182C882C988E182A F C98CA982E782EA82E9926A8F9782CC8DB72E646F63>

標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会

平成 2 9 年名古屋市民の平均余命 平成 30 年 12 月 25 日 名古屋市健康福祉局

図 3. 新規 HIV 感染者報告数の国籍別 性別年次推移 図 4. 新規 AIDS 患者報告数の国籍別 性別年次推移 (2) 感染経路 1 HIV 感染者 2016 年の HIV 感染者報告例の感染経路で 異性間の性的接触による感染が 170 件 (16.8%) 同性間の性的接触による感染が 73

相対的貧困率の動向: 2006, 2009, 2012年

平成 27(2015) 年エイズ発生動向 概要 厚生労働省エイズ動向委員会エイズ動向委員会は 3 ヶ月ごとに委員会を開催し 都道府県等からの報告に基づき日本国内の患者発生動向を把握し公表している 本稿では 平成 27(2015) 年 1 年間の発生動向の概要を報告する 2015 年に報告された HI

2. 栄養管理計画のすすめ方 給食施設における栄養管理計画は, 提供する食事を中心とした計画と, 対象者を中心とした計画があります 計画を進める際は, それぞれの施設の種類や目的に応じて,PDCA サイクルに基づき行うことが重要です 1. 食事を提供する対象者の特性の把握 ( 個人のアセスメントと栄

特定健診の受診率は毎年上昇しており 平成 28 年度は県平均よりも 7% 高い状況 となっていますが 国が示す目標値 60% を達成するには更なる工夫や PR が必要とな っています 長与町国保の医療費は平成 25 年度から上昇していましたが 平成 28 年度は前年度より約 3 億円減少し 1 人当

健康寿命の指標

<4D F736F F D CB48D655F94928D95445F90488E9690DB8EE68AEE8F802E646F63>

3.2013/14シーズンのインフルエンザアップデート(12/25現在)

統計トピックスNo.92急増するネットショッピングの実態を探る

2) エネルギー 栄養素の各食事からの摂取割合 (%) 学年 性別ごとに 平日 休日の各食事からのエネルギー 栄養素の摂取割合を記述した 休日は 平日よりも昼食からのエネルギー摂取割合が下がり (28~31% 程度 ) 朝食 夕食 間食からのエネルギー摂取割合が上昇した 特に間食からのエネルギー摂取

目 次 1 平成 29 年愛知県生命表について 1 2 主な年齢の平均余命 2 3 寿命中位数等生命表上の生存状況 5 4 死因分析 5 (1) 死因別死亡確率 5 (2) 特定死因を除去した場合の平均余命の延び 7 平成 29 年愛知県生命表 9

新潟県の自殺の現状 平成 27 年の本県の自殺者数は厚生労働省の人口動態統計によると 504 人です 自殺者数の推移を見ると 平成 10 年に国と同様 中高年男性を中心とした自殺者の急増があり 当時は県内で 800 人を超える方が毎年自ら死を選択されるという状況でした 以後漸減し 平成 27 年の

スライド 1

 

スライド 1

3 睡眠時間について 平日の就寝時刻は学年が進むほど午後 1 時以降が多くなっていた ( 図 5) 中学生で は寝る時刻が遅くなり 睡眠時間が 7 時間未満の生徒が.7 であった ( 図 7) 図 5 平日の就寝時刻 ( 平成 1 年度 ) 図 中学生の就寝時刻の推移 図 7 1 日の睡眠時間 親子

(3) 生活習慣を改善するために

02 28結果の概要(3健康)(170622)

健康寿命

山梨県生活習慣病実態調査の状況 1 調査目的平成 20 年 4 月に施行される医療制度改革において生活習慣病対策が一つの大きな柱となっている このため 糖尿病等生活習慣病の有病者 予備群の減少を図るために健康増進計画を見直し メタボリックシンドロームの概念を導入した 糖尿病等生活習慣病の有病者や予備

IORRA32_P6_CS6.indd

Microsoft Word - 使用説明書.doc

青年期を対象とした携帯食事手帳システムの提供 目 次 1. 目的 1 2. 携帯食事手帳システムの概要 1 (1) システムの基礎データ 1 (2) 利用方法 1 (3) 確認できる情報 1 3. 携帯食事手帳利用の手引き 2 (1) 携帯食事手帳 (QRコード) 3 (2) 料理選択の仕方 4 (

事業評価のためのチェックリスト ( 単位 : %) (2) 平成 27 年度の原発がんに対する早期がん割合を把握しましたか 肺がんでは臨床病期 Ⅰ 期がん割合 乳がんでは臨床病期 Ⅰ 期までのがん割合を指す (2-1)

< F2D906C8CFB93AE91D48A77322E6A7464>

現況解析2 [081027].indd

わが国における糖尿病と合併症発症の病態と実態糖尿病では 高血糖状態が慢性的に継続するため 細小血管が障害され 腎臓 網膜 神経などの臓器に障害が起こります 糖尿病性の腎症 網膜症 神経障害の3つを 糖尿病の三大合併症といいます 糖尿病腎症は進行すると腎不全に至り 透析を余儀なくされますが 糖尿病腎症

私の食生活アセスメント

Microsoft Word - meti-report

Chapter 1 Epidemiological Terminology

葉酸とビタミンQ&A_201607改訂_ indd

3 成人保健

2 夜食 毎日夜食をとっている者は では 22.5%( 平成 23 年 23.9%) であり で % と割合が高い では 18.3%( 平成 23 年 25.2%) であり 40 歳代で割合が高い 図 夜食の喫食状況 (15 歳以上 性別 年齢階級別 )

資料1-1 HTLV-1母子感染対策事業における妊婦健康診査とフォローアップ等の状況について

14 日本 ( 社人研推計 ) 日本 ( 国連推計 ) 韓国中国イタリアドイツ英国フランススウェーデン 米国 図 1. 1 主要国の高齢化率の推移と将来推計 ( 国立社会保障 人口問題研究所 資料による ) 高齢者を支える

子宮頸がん死亡数 国立がん研究センターがん対策情報センターHPより

花粉症患者実態調査(平成28年度) 概要版

平成29年版高齢社会白書(全体版)

【ピンクリボン月間】「乳がんに関するアンケート結果」-女性の6割が乳がん罹患後も仕事を続けたいと希望-

生活福祉研レポートの雛形

出産・育児調査2018~妊娠・出産・育児の各期において、女性の満足度に影響する意識や行動は異なる。多くは子どもの人数によっても違い、各期で周囲がとるべき行動は変わっていく~

<4D F736F F F696E74202D208E9197BF B9957B8CA78BA68B6389EF B83678C8B89CA82BD82CE82B188C432>

宗像市国保医療課 御中

4 年齢階級別の死因山形県の平成 28 年の死因順位は 20 歳から 34 歳までの各階級において自殺が1 位となっているほか 64 歳までの各階級においても死因順位の上位にあり おおむね全国と同様の傾向が見られます < 表 7> 年齢階級別の死因順位 死亡者数 ( 山形県 ) 年齢階級 総死亡者数

<4D F736F F D C63899E D8D8790AD8DF F0939A89F090E02E646F6378>

Taro-鳥取における自死の現状(平

Transcription:

日本における大豆 イソフラボン 乳がんリスクの関係 ( 詳細版 ) 1 日本における大豆 イソフラボン 乳がんリスクの関係 本内容は米国がん研究所雑誌 (Journal of National Cancer Institute 2003; 95:906-913) に発表したものに準じたものです

2 乳がん罹患率の国際比較 図は国別 民族別の 0 歳から 64 歳までの乳がん累積罹患率を示しています (5 大陸のがん罹患 vol.7 より ) 乳がんの罹患率はアジアで低く 欧米で高くなっていますが アジア人の中でも米国に移民した人では高くなっています 3 都道府県別乳がん標準化死亡率の年次推移 この図は人口動態統計による都道府県別の乳がん標準化死亡比の年次推移を表しています 東京 神奈川 大阪 といった大都市で乳がん死亡率が高いことがわかります

4 何が乳がん罹患率の差を引き起こしているのか? 5 日本の食卓と大豆製品 写真はある日のある家の日本の食卓を示しています 豆腐 おから 納豆 大豆 みそ汁 ( おみそ 豆腐 油揚げ ) 豆腐ハンバーグなど 多くの大豆製品を日常的に食べていることに気がつきます

6 大豆イソフラボン 大豆には植物性エストロゲンのひとつであるイソフラボンが含まれています これはその形が女性ホルモンに似ていることから動物実験などにおいて 乳がんを抑制する効果があることが知られています また 大豆製品はアジア諸国で多く食べられていますが 欧米ではほとんど食べられていません 我々の研究では日本人と米国白人では 700 倍も摂取量が違うというデータもあります この摂取量の差がアジアと欧米の乳がん罹患の差と関連しているのかもしれません しかもこの研究はアジアでしかできないのです 7 これまでの疫学研究のまとめ 動物実験で乳がんを減少させる効果があっても それが必ずしも人間に対しても同じとは限りません 人間に対しての研究結果が必要となります 人間に対しての観察研究のことを疫学研究といいますが これまでの疫学研究では大豆製品摂取と乳がん罹患が関係しているとはっきり結論できるものはありませんでした

8 大豆製品は本当に乳がんを減らすのか? そこで我々は厚生労働省研究班による 多目的コホート研究 を用いて大豆製品摂取とそこから計算されるイソフラボンと乳がん罹患との関係を調べました 9 厚生労働省多目的コホート研究 (JPHC Study) コホート Ⅰ 厚生労働省研究班による 多目的研究 (JPHC Study) は厚生労働省のがん研究助成金による指定研究で 国内 11 保健所地域約 14 万人の地域住民を対象とした保健所を調査の基盤とする前向きコホート研究です 本研究は そのうち 1990 年に開始した ( コホート I) 4 保健所管内 14 市町村に住民登録されていた 40~59 歳の女性 27,435 人を対象として行いました

10 対象者とデータ 厚生労働省研究班 多目的コホート研究 のコホート Ⅰ 地区対象者のうち がん罹患を把握していない葛飾区在住者 1990 年のアンケートに答えてない方 アンケートにがんの既往ありと答えた方 追跡期間中に外国人であることやはじめからいなかったことが判明した方を除く 21,852 人の女性を本研究の対象者としました 1990 年の自記式アンケートを用いて 喫煙 食生活 (38 項目 ) 身体活動 既往歴 職業 教育歴 性格 出産歴などを把握しました また 研究班で設立したがん登録システムを用いてがん罹患を把握しました このがん登録は 病院からの報告 県がん登録 人口動態統計死亡票などを手続きを経て利用することによってデータを集めています 上記対象者の中で 1990-1999 年までの 10 年間に 179 人の乳がん罹患を把握しました これらのデータを用いて アンケートから把握した大豆およびイソフラボン摂取量とその後の乳がん罹患との関係を調べました 解析方法として 他の交絡要因を調整した Cox 回帰で相対リスク ( ハザード比 ) を推定しました 11 大豆製品とイソフラボン摂取量の推定 自記式アンケート中 大豆製品は みそ汁 大豆 豆腐 油揚 納豆 の 2 項目でした みそ汁 に対して ほとんど飲まない 週に 1-2 杯 週に 3-4 杯 ほとんど毎日 ( 毎日飲む場合 さらに杯数を尋ねている ) と尋ねています ほとんど毎日未満の人が少なかったので 毎日 1 杯未満 1 日 1 杯 1 日 2 杯 1 日 3 杯以上の 4 つに再カテゴリ化しました 大豆 豆腐 油揚 納豆 に対して ほとんど食べない 週に 1-2 回 週に 3-4 回 ほとんど毎日と頻度を尋ねています 週 1-2 回以下の人が少なかったので 週に 1-2 回以下 週に 3-4 回 ほとんど毎日の 3 つに再カテゴリ化しました イソフラボン については 上記 2 項目からイソフラボン成分表 * を用いて摂取量を計算し 摂取量順に少ないほうから順に 4 カテゴリ化しました いずれの摂取量についても妥当性研究を行い 概ね正しく把握できていることを確認してあります

12 イソフラボン摂取と他の因子との関係 大豆製品の摂取状況を見ると みそ汁 をほとんど飲まない人が 2.7% 毎日飲む人が 74.8% で 大豆 豆腐 油揚 納豆 をほとんど食べない人が 2.2% ほとんど毎日食べる人が 45.4% でした イソフラボン摂取と他の因子との関係をみると イソフラボン摂取と正の関連が見られたものは 年齢 閉経 喫煙歴 受動喫煙 総摂取エネルギー 魚 肉 野菜 果物摂取であり イソフラボン摂取と負の関連が見られたものは 妊娠回数 初回妊娠年齢 教育歴 アルコール摂取でした イソフラボン摂取と関連が見られなかったものは 良性腫瘍既往歴 乳がんの家族歴 初潮年齢 ホルモン剤使用 身長 体重 肥満度 余暇の身体活動でした 13 みそ汁 と乳がんリスク みそ汁 摂取と乳がんリスクとの関係を調べました 縦軸には 1 日 1 杯未満を規準とする各摂取カテゴリの調整済みハザード比を示しています 個々のカテゴリで統計的に有意な関連は見られませんでしたが 摂取量が増えるに従って乳がんリスクが減少するという傾向が有意に観察されました

14 大豆 豆腐 油揚 納豆 と乳がんリスク 大豆 豆腐 油揚 納豆 摂取と乳がんリスクとの関係を調べました 縦軸には 1 日 1 杯以下を規準とする各摂取カテゴリの調整済みハザード比を示しています 個々のカテゴリで統計的に有意な関連は見られませんでした やや傾向があるものの 摂取量が増えるにしたがって乳がんリスクが減少するという傾向は統計的に有意ではありませんでした 15 イソフラボン摂取 と乳がんリスク イソフラボン摂取 と乳がんリスクとの関係を調べました 縦軸には摂取量最小群を規準とする各摂取カテゴリの調整済みハザード比を示しています 摂取量最大群のカテゴリで統計的に有意なリスクの減少が見られた上に 摂取量が増えるにしたがって乳がんリスクが減少するという傾向も有意に観察されました

16 閉経状態別に見たイソフラボン摂取と乳がんリスク アンケート回答時の閉経状態別に見た イソフラボン摂取 と乳がんの関係を調べました 縦軸には摂取量最小群を規準とする各摂取カテゴリの調整済みハザード比を示しています 赤で示した閉経後の対象者に対し 摂取量最大群のカテゴリで統計的に有意なリスクの減少が見られた上に 摂取量が増えるにしたがって乳がんリスクが減少するという傾向も有意に観察されました 閉経前の対象者に対しては 明らかな関連が見られませんでした 17 参考 : 国別年齢別乳がん罹患リスク この図は国別年齢別乳がん罹患リスクを表しています 日本と欧米の差は特に 50 歳以上で大きくなっていることがわかります これはイソフラボン摂取が閉経後の乳がんリスクの減少と特に関係があるという先ほどの結果でうまく説明できるといえるかもしれません

18 本研究の長所と短所 本研究の長所と短所を挙げます 長所として 1 一般住民の方を対象とした前向き研究であることが挙げられます 前向きに調べることによって 病気になってから過去の食生活を振り返った場合に生じる思い出しバイアスを防ぐことができますし 一般住民の方を対象にすることによって ある特定の職業集団を用いた研究などよりも 結果がただちに一般の方に当てはめることができます 2 乳がんの死亡でなく罹患を用いていることが挙げられます 乳がんは一度かかってもその後の治療で十分長生きすることができる病気です したがって 乳がん死亡に対するリスクを調べても 乳がんになった後の治療などの影響も含まれ 正しく 乳がんになる リスクを調べることができません ただ 罹患を調べることは 乳がんになった人を把握する必要があり 特別なシステムが必要です 本研究では高精度のがん登録を運営 維持することによって罹患に対するリスクを調べることができました 3 妥当性が確認されたアンケート票を用い 大豆に加えてイソフラボンの摂取量も調べています アンケートによる大豆製品の摂取量やイソフラボンの摂取量が妥当であるかどうかをより正確な摂取量推定値が得られる食事記録や血清中のイソフラボン濃度と比べることによって調べました 結果として 大規模な研究を行う上では妥当といえる精度の摂取量推定値が得られることが確認されています 4 現代日本というイソフラボン摂取において多くのばらつきを持つ国で研究を行いました 大豆やイソフラボンの摂取量は欧米では一律に摂取が低く 日本の過去の研究では一律に高いことはよく知られています これまでの研究ではっきりと大豆製品と乳がんリスクの関係が見られなかった理由のひとつはこの摂取量のばらつきの少なさではないかと考えられます 短所としては 1 乳がん患者の数がそれほど多くないことが挙げられます ただ これが大きな問題になるのは 差が見られなかった場合であり もしもっと多くの数があればより強い関連が見られたかもしれません 2 アンケートに 2 項目しか大豆製品が含まれていません 確かに 2 項目では大豆製品ごとの細かい検討ができません ただし 本研究で尋ねている みそ汁 大豆 豆腐 油揚 納豆 で総イソフラボン摂取量の 90% 以上をカバーできることも調べられているため 総イソフラボン摂取量との関連を見るにはそれほど問題はないと考えられます 3 他の因子の影響を十分に排除できていない可能性があります できる限り多くの変数で調整したり いろいろなモデルを用いて調整しても結果は変わりませんでした しかし これを持ってすべての要因が調整できている保障にはなりません これは我々の研究に限らず 観察研究の限界でもあります これを完全に克服するためには ランダムにイソフラボン摂取量を割り付けるランダム化比較試験を行うほかないでしょう

19 まとめと今後の課題 まとめますと 私たちは厚生労働省研究班による 多目的コホート研究 という前向き疫学研究で 1 みそ汁 と イソフラボン 摂取量と乳がんリスクの減少との間に関連が見られました 2 大豆 豆腐 油揚 納豆 とは明確な関連見られませんでした 3 閉経後乳がんリスク減少に対して特に顕著な関連が見られました 今後の課題として 1 多目的コホート研究 の他の地区も加え より多くの対象者を用いた研究 2 追跡期間を延長し より多くの乳がん患者を把握 3 血清中のイソフラボン濃度と乳がんリスクとのより直接的な関連を調べる ことにより さらに確かな結論が得られると思われます 20 本研究の研究関連組織 (1990-1999) 平成元年度から 10 年度までの間に 分担研究者として本研究に参加した者の一覧である 本研究は その他にも研究の参加者 保健所や市町村の関係者など 数多くの人々の協力のもとに 実施されてきた 本研究は 厚生労働省がん研究助成金による指定研究班 多目的コホートによるがん 循環器疾患の疫学研究 による共同研究である