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す 一方 双方向の矢印上の数値は相関係数と同等です ( 標準化前は共分散 ) また 単方向のパスを受ける変数 ( 従属変数 ) には円の中に e という文字が書かれた変数からも影響を受けていることが分かります これを誤差変数と呼びます 誤差の影響を無視しないのが SEM の特徴でもあります 図 1 では 1) 自信 と 不安 という 2 つの観測変数の背後には [L2 自信 ] と 志向 1~4 の背後には[ 国際的志向性 ] という因子が仮定され 2) それぞれの因子が [L2 WTC] という個人がコミュニケーションを開始する意思を予測し 3) その [L2 WTC] が最終的にスピーキングのパフォーマンスを予測する という 3 つのプロセスを仮定した動機づけとパフォーマンスの仮説モデルを検証しています SEM は因果関係を保証しないので その点については注意が必要です 最後にカイ二乗値や GFI CFI や RMSEA などの適合度指数を確認します 基準とされている値の範囲に収まっていればデータにモデルが適合していると考えられ 仮説モデルはひとまず妥当であると判断できます 2. 問題点 SEMは変数間の複雑な関係性をパス図で表すことができる分析手段です 原理的には 思いつく限りの関係性をパス図として表し 分析することが可能です しかし 留意すべきことは SEMとはあくまで理論的な 仮説 が正しいかどうかを検証する統計的手段であることから 探索的 ではなく 検証的 ( 確認的 ) な分析であるということです (Tabachnick & Fidell, 2007) つまり 新しい関係性を分析結果から純粋に 探索する 目的で使うことは適切ではない ということになります むしろ これまでの理論では考えられなかったような新しい関係性を分析の前に先行研究や理論のレビューから仮定し それを統計的に 確認する ことがSEMの本質と言えます 英語教育学に限らず 動機づけの研究分野では 動機づけの構造 を説明するために SEM が多用されます 例えば 最近 SLA の動機づけの分野で注目されている L2 自己 (Dörnyei, 2005) の理論を用いて 図 2 のようなモデルを仮定したとします そして 分析の結果 想定したパスは全て統計的に有意であり なおかつ適合度も χ 2 = 281.34, p =.56; GFI =.97; 図 2 L2 自己と熟達度の関係性 ( 簡略図 ) AGFI =.95; CFI =.95; RMSEA =.04 (Lo:.01; Hi:.08) とあてはまりが良かったとします つまり 図 2 のパス図は収集したデー 69

タとうまく合致しており 数値上妥当であると判断できます しかし 動機づけ研究の視点からみると L2 理想自己と L2 義務自己との関係性に疑問が残るパス図となります L2 理想自己とは 将来自分がなりたい英語使用者としての自己理想像を指します 将来特定の場面 ( 英語圏とは限らない ) で英語を使用している自分を想像できれば 現在の自己とのギャップを埋めようと英語学習に動機づけられるという考えです 一方 L2 義務自己とは友人や両親 社会からの期待や圧力により英語学習 使用について こうすべきである という義務感に統制された自己概念を指します 本章では詳しく述べませんが (Dörnyei, 2005; 2009 を参照 ) これまでの理論や研究結果から L2 理想自己や L2 義務自己が学習努力を予測したり (e.g., Csízer & Korsmos, 2009; Taguchi, Magid, & Papi, 2009) 両者に相関があったり ( Konno, 2011) することはありましたが L2 義務自己が L2 理想自己を予測する という現象についてはあまり前例がないように思えます この点から 図 2 のモデルは大発見と言えるのかもしれません しかし それは仮説を立てる段階で L2 義務自己が L2 理想自己を予測する という理論的な根拠をその研究者なりに示せている場合に限られるでしょう 2 つの変数の間に一定以上の相関があればある程度のパス係数が望めます ( 他の変数との兼ね合いはありますが ) また その場合 図 2 における L2 義務自己から L2 理想自己の方に伸びるパスを逆に向けても同じ値が得られます あるいは L2 義務自己 と 熟達度 の位置を入れ替えても望ましい適合度指数が得られる可能性もあります つまり 結果を見ながらあれこれパスや変数の位置を調整し なんとか説明がつきそうなモデルを 探る ことができてしまうのです しかし これでは 検証的 ではなく 探索的 な分析になってしまいます ですので SEM において最も重要なことの 1 つは どのような仮説を立てるか であると言えるでしょう それを踏まえた上で 各種変数のレイアウトを考え どこにどのようなパスを伸ばすのかを慎重に検討します 新しい発見を得ようとするほどこのように仮説を立てるに至った経緯の説明が重要です しかし その十分な説明がないとせっかくの発見が いろいろ試したら出ちゃった 結果であるという印象が強まるのではないでしょうか SEM has developed a bad reputation in some circles, in part because of the use of SEM for exploratory work without the necessary controls. と Tabachnick & Fidell (2007, p. 682) が述べるように 安易な探索的な分析だという印象を与えない SEM の使用が望まれます 3. モデルの修正先行研究をレビューし それに基づいて変数間の仮説をモデル化し分析を行うことが SEM の理想的な使用方法と言えます しかし 当初想定していた共分散構造モデルが 何の変更もしないでデータにぴったり適合する ということは稀 ( 狩野 三浦, 2007, p. 70

163) であるのも確かです そのような場合に 仮説モデルを修正することがあります もっともポピュラーな方法は 有意でないパスをモデルから削除することでしょう また Amos 等のソフトウェアではモデルを修正するオプションが用意されています 例えば 修正指数 と 改善度 による修正です 仮説モデルの分析後 これら 2 つの値が算出されます ある変数からある変数にパスを追加した場合の 修正指数 と 改善度 を参照し これら 2 つが大きな値を示す修正候補に従いパスを追加します Koga (2009) による 修正指数 と 改善度 を基にした修正例を以下に示します ( 図 3 4) (χ 2 (17) = 27.013, p =.058, n.s., CMIN/DF = 1.589, CFI =.977, GFI =.950, AGFI =.893, and RMSEA =.071) 図 3 Koga (2009, p. 204) のモデル ( 修正前 ) (χ 2 (16) = 20.272, p =.208, n.s., CMIN/DF = 1.267, CFI =.990, GFI =.962, AGFI =.915, and RMSEA =.048) 図 4 Koga (2009, p. 204) のモデル ( 修正後 ) 2 つの図を比べると 図 4 では [L2 Communication Confidence] という潜在変数 (i.g. 因子 ) から [International Posture] という潜在変数に負荷する News ( 海外での出来事や国際問題への興味 ) という観測変数にパスが新たに伸ばされています それと同時に 図 4 の適合度指数もわずかながら改善されています しかし これは妥当な修正だと言えるでしょうか 強引に解釈すれば 英語でのコミュニケーションに自信を持つ学習者は 海外のニュースにも興味を持つかもしれない と考えることもできますし 分析内の因子は他の観測変数とも大なり小なりの相関関係にあることからも この修正は考えられなく 71

もありません しかし この修正が本当に妥当かどうかは これまでの先行研究の結果や因子分析という観点から深く論理的に考える必要があるでしょう また 修正指数からは次のような修正が示唆されることも多くあります ( 図 5) 図 1 の修正指数と改善度を参考にした結果 不安 の誤差変数である [e2] と 志向 2 の誤差変数である [e4] に双方向のパスを引くという提案がありました 実際に図 5 のように双方向のパス ( 破線 ) を引いてみると 適合度指数が改善したとします しかしながら このような修正も妥当であるかどうか十二分に慎重な判断が必要です このような双方向の図 5 図 1 の修正関係は 今回の分析に含められなかった 何らかのもの により 不安 と 志向 2 により共変関係がもたらされていると考えられます 例えば 同じ教授法 や 社会的な望ましさ などからの共通の影響がある場合にこのような関係性が見られるようです (Brown, 2006) しかし 仮説としてそのような関係性を考慮しなかった以上 何の影響によってもたらされた関係性なのかを特定するのは困難であり このような関係性に実質科学的な意味を見出すことは現実的ではないかもしれません 修正指標によって提案されるパスは必ずしも実質科学的に意味のあるものとは限らないため もし修正の必要がある場合には慎重に検討する必要があります ( 豊田, 2003) 適合度を高めるだけのための修正は避ける 同時に 豊田 (2003) はある程度の適合度が得られている場合 有意でないパスをモデルから必ずしも削除する必要はないとも述べています もし何らかの修正を行ったとしたら 異なるサンプルで修正モデルをテストしない限り そのモデルが正しいとは言えないことも考慮しなくてはなりません (Tabachnick & Fidell, 2007) いずれにしても 修正を加えていくと最初に立てた仮説モデルの意味がなくなったり 解釈不能になる可能性をはらんだりします なにより 探索的 な質の分析へと成り変わってしまう可能性があるので (Brown, 2006) 仮説を立てる段階から慎重になることが求められます 4. 探索的モデル化 SEM を用いて探索的な分析ができないわけではありません 探索的因子分析も実行が可能です また 例えば 仮説モデルを立てる段階でどこにパスを引けばよいか迷う場合 その意思決定を支援する 探索的モデル特定化 という方法を Amos において使用す 72

ることができます 詳しい操作の説明は豊田 (2007) を参照して頂きたいのですが ここ では簡単にその内容を説明します 図 6 探索的モデル特定化の例 図 6 は入学試験と中間試験が プレイスメントテストと学年末試験に与える影響をモデル化したものです 入学試験と中間試験の間の双方向のパス 及び入学試験から学年末試験への単方向のパスが破線となっていますが これは引くべきかどうか迷っているパスと考えてください 探索的モデル化を実施して どのパスを引くべきか あるいは引くべきでないかを検証します まず メニューの 分析 から 探索的モデル化 を選択すると 図 7 のようなウィンドウが現れます 一番左側の破線のアイコンをクリッ図 7 探索的モデル特定化のメニューウィンドウクした後 モデル内の検討したいパスをクリックすると 検討するパスとして選択されます 分析を実行すると 選択したパスがある場合とない場合のパターンが全て検討されます それぞ図 8 探索的モデル特定化の結果れのパターンの適合度を比較し どのパターンが良いのかを決定できるようになります 一番良い値には下線が引かれます それを基にすると 図 8 では 4 番目のモデルが良さそうです この行をダブルクリックすると そのパターンを反映したモデルを参照することができます 今回はどちらのパスも引いた方が良い という結果となりました しかし 繰り返しになりますが この結果を採用する前に 探索的モデル特定化によって提案されたパスに実質科学的に意味があり 理論的に説明可能かどうかを慎重に検討 73

する必要があります 統計ソフトがそう示しているからそれでいい という安易な判断 は 探索的モデル特定化に限らず避けるべきです 5. 最後に SEM をどのように使えばよいのか特に明確な基準はないので 研究者によって使い方に幅があるのは当然かもしれません 本章で紹介したような探索的な手段として用いることも 数々の修正を通して様々な形の仮説モデルを構築して分析することも可能です 一番大切なことは SEM は本来検証的 ( 確認的 ) な分析手段であり 分析前にどのような仮説を立てるのか だと思います どのようなモデルを採択するにしても なぜそこにパスを引くのか なぜある変数が従属変数で ある変数が独立変数なのか あるいは なぜ全体的な変数のレイアウトがそのようになるのか 結果を示す前に理論的な説明を行い なぜそのような仮説モデルが成立したのかを明確にする必要があります ディスカッション内での後からの解釈だけでは十分とは言えないのではないでしょうか 探索的な手段も 例えば仮説を新たに立てたり 試行錯誤を繰り返したりする際には有用だと思います しかし 修正した場合も最終的なモデルのみを提示することは適切とは言えず 修正の根拠を論理的に説明する必要があります 何を行うにしても SEM で分析を行う限り 特に論文や発表内で結果を報告する際には上記のようなパスや変数の関係性と配置について事前に理論的に説明することが大事であると言えます これらの事は スペースの都合 で省くべきではないでしょう 参考文献 Brown, T. A. (2006). Confirmatory factor analysis for applied research. New York: Guilford Press. Dörnyei, Z. (2005). The psychology of the language learner: Individual differences in second language acquisition. New Jersey: Lawrence Erlbaum. Koga, T. (2009). Dynamic aspects of individual difference variables: Focus on trait and state components. Unpublished manuscript, University of Tsukuba. Konno, K. (2011a). The relationship between L2 selves, intrinsic/extrinsic motivation and motivated behavior of Japanese EFL learners. ARELE, 22, 345-360. Tabachnick, B. G., & Fidell, L. S. (2007). Using multivariate statistics. Boston: Pearson Education. 狩野裕 三浦麻子 (2007) グラフィカル多変量解析( 増補版 ) 京都 : 現代数学社. 豊田秀樹 ( 編 ) (2003) 共分散構造分析 [ 疑問編 ] 東京 : 朝倉書店. 豊田秀樹 ( 編 ) (2007) 共分散構造分析 [Amos 編 ] 東京 : 東京図書. 平井明代 ( 編 ) (2012) 教育 心理系研究のためのデータ分析入門 東京 : 東京図書. 74