原稿メモ

Similar documents
原稿メモ

2007年12月10日 初稿

Microsoft PowerPoint - Itoh_IEEJ(150410)_rev

Microsoft Word - 5_‚æ3ŁÒ.doc

42

<4D F736F F F696E74202D B7B967B836C C668DDA2E B93C782DD8EE682E890EA97705D205B8CDD8AB B83685D>

包括的アライアンスに係る基本合意書の締結について

特集 ロシア NIS 圏で存在感を増す中国特集 ロシアの消費市場を解剖する Data Bank 中国の対ロシア NIS 貿易 投資統計 はじめに今号では ロシア NIS 諸国と中国との経済関係を特集しているが その際にやはり貿易および投資の統計は避けて通れないであろう ただ ロシア NIS 諸国の側

需要国へと変貌する東南アジアの需要国へと変貌する東南アジアの

Microsoft PowerPoint 坂本 豪州QCLNGのFID.ppt [互換モード]

第1章

原稿メモ

【ロシア最新経済金融週報】

untitled

Microsoft PowerPoint 猪原UAE配布資料.ppt

<4D F736F F F696E74202D F91E58AD15F B C D83582E B8CDD8AB B83685D>

<4D F736F F F696E74202D E81798E9197BF A914F89F182CC8CE48E E968D8082C982C282A282C42E >

03-08_会計監査(収益認識に関するインダストリー別③)小売業-ポイント制度、商品券

P _トピックス坂本.indd

ガイアナ:深海Liza油田、発見から2年で最終投資決定(短報)

Microsoft Word - 報告書.doc

女性の活躍推進に向けた公共調達及び補助金の活用に関する取組指針について

【No

企業経営動向調査0908


【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(10月号)~輸出はスマホ用電子部品を中心に高水準を維持

< 顧客配布資料 > ベトナムレポート 作成 :2014 年 7 月 7 日 ( 月 ) ベトナム Weekly レポート お問い合わせ フリータ イアル : ホームヘ ーシ アト レス : ベトナム最大の国営企業 ペトロベト

現代資本主義論

1. 口座管理機関 ( 証券会社 ) の意見概要 A 案 ( 部会資料 23: 配当金参考案ベース ) と B 案 ( 部会資料 23: 共通番号参考案ベース ) のいずれが望ましいか 口座管理機 関 ( 証券会社 ) で構成される日証協の WG で意見照会したところ 次頁のとおり各観点において様々

ecuador

ための手段を 指名 報酬委員会の設置に限定する必要はない 仮に 現状では 独立社外取締役の適切な関与 助言 が得られてないという指摘があるのならば まず 委員会を設置していない会社において 独立社外取締役の適切な関与 助言 が十分得られていないのか 事実を検証すべきである (2) また 東証一部上場

2007年12月10日 初稿

イノベーション活動に対する山梨県内企業の意識調査

資料2-1 課税段階について

Microsoft Word - B-6-4.doc

ISO9001:2015規格要求事項解説テキスト(サンプル) 株式会社ハピネックス提供資料

仮訳 日本と ASEAN 各国との二国間金融協力について 2013 年 5 月 3 日 ( 於 : インド デリー ) 日本は ASEAN+3 財務大臣 中央銀行総裁プロセスの下 チェンマイ イニシアティブやアジア債券市場育成イニシアティブ等の地域金融協力を推進してきました また 日本は中国や韓国を

原発依存低下に伴うエネルギー政策の課題と解決策について

[ 指針 ] 1. 組織体および組織体集団におけるガバナンス プロセスの改善に向けた評価組織体の機関設計については 株式会社にあっては株主総会の専決事項であり 業務運営組織の決定は 取締役会等の専決事項である また 組織体集団をどのように形成するかも親会社の取締役会等の専決事項である したがって こ

【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(5月号)~輸出は好調も、旧正月の影響を均せば増勢鈍化

Microsoft Word _out_h_NO_Carbon Capture Storage Snohvit Sargas.doc

PowerPoint プレゼンテーション

[ 調査の実施要領 ] 調査時点 製 造 業 鉱 業 建 設 業 運送業 ( 除水運 ) 水 運 業 倉 庫 業 情 報 通 信 業 ガ ス 供 給 業 不 動 産 業 宿泊 飲食サービス業 卸 売 業 小 売 業 サ ー ビ ス 業 2015 年 3 月中旬 調査対象当公庫 ( 中小企業事業 )

おカネはどこから来てどこに行くのか―資金循環統計の読み方― 第4回 表情が変わる保険会社のお金

エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律の制定の背景及び概要 ( 平成 22 年 11 月 ) 資源エネルギー庁総合政策課編

原稿メモ

特許庁工業所有権保護適正化対策事業

公益目的支出計画実施報告書 29 年度 (2017/4/1 から 2018/3/31 まで ) の概要 1. 公益目的財産額 10,097,432 円 2. 当該事業年度の公益目的収支差額 ((1)+(2) (3)) 10,213,503 円 (1) 前事業年度末日の公益目的収支差額 7,130,4

図 2 マラッカ海峡付近の主要航路図 2. インドネシアの主な一般情報 ( 表 1 参照 ) 表 1 インドネシアの主な一般情報 正式国名及び国旗 インドネシア共和国 独立年 政体 首都 1949 年にオランダから独立 共和制 ジャカルタ 人口 2 億 4,450 万人 (2012 年統計 ) 公用

平成20年度税制改正(地方税)要望事項

特集 平成 2 5 年 5 月 2 2 日東京税関調査部調査統計課 金の輸出入 2012 年の世界の金需要は 4,405 トン 2012 年に合金も含む金を日本は 132 トン輸出し 11 トン輸入しています 日本の 2006 年から 2010 年の平均年間金産出量は 10 トン足らずですが 200

国内の皮革産業及び革靴産業は中小 小規模事業者が大部分を占めていることから業界の構造改善及び競争力強化を実施し アジア諸国をはじめとする海外から大量に輸入される製品と対抗しうる日本製品の優位性が備わるまで 本制度を維持する必要がある 3 改正の必要性ア. あるべき姿と現状のギャップ国内の皮革産業及び

Microsoft Word _out_l_co_heavy_oil.doc

手続には 主たる債務者と対象債権者が相対で行う広義の私的整理は含まれないのでしょうか 手続には 保証人と対象債権者が相対で行う広義の私的整理は含まれないのでしょうか A. 利害関係のない中立かつ公正な第三者 とは 中小企業再生支援協議会 事業再生 ADRにおける手続実施者 特定調停における調停委員会

GM OEM GM GM 24 GM 16 GM

リムLNG年鑑2010

これは 平成 27 年 12 月現在の清掃一組の清掃工場等の施設配置図です 建替え中の杉並清掃工場を除く 20 工場でごみ焼却による熱エネルギーを利用した発電を行っています 施設全体の焼却能力の規模としては 1 日当たり 11,700 トンとなります また 全工場の発電能力規模の合計は約 28 万キ

[グループⅠ]公募仕様書案

IMF世界経済見通し 2015 年 4月 第 章 要旨

西アフリカ 3億人ビジネス市場マップ ―2035年5億人市場に向けて―

バイオマス比率をめぐる現状 課題と対応の方向性 1 FIT 認定を受けたバイオマス発電設備については 毎の総売電量のうち そのにおける各区分のバイオマス燃料の投入比率 ( バイオマス比率 ) を乗じた分が FIT による売電量となっている 現状 各区分のバイオマス比率については FIT 入札の落札案

PowerPoint プレゼンテーション

3 参照基準次に掲げる基準は この基準に引用される限りにおいて この基準の一部となる - プライバシーマーク付与適格性審査実施規程 - プライバシーマーク制度における欠格事項及び判断基準 (JIPDEC) 4 一般要求事項 4.1 組織 審査業務の独立性審査機関は 役員の構成又は審査業務

(3) インドネシアインドネシアの電力供給は 石炭が 5 割 コンバインドサイクル 2 割 ディーゼル 1 割 水力 1 割 その他 1 割となっている 2015 年の総発電設備容量は PLN 3 が約 8 割 IPP が 2 割弱を 残り数 % を自家発電事業者 (PPU) が占めている 同国で

IFRS基礎講座 IAS第11号/18号 収益

RW ppt

番号文書項目現行改定案 ( 仮 ) 1 モニタリン 別表 : 各種係 グ 算定規程 ( 排出削 数 ( 単位発熱量 排出係数 年度 排出係数 (kg-co2/kwh) 全電源 限界電源 平成 21 年度 年度 排出係数 (kg-co2/kwh) 全電源 限界電源 平成 21 年度 -

Microsoft Word - 20_2

平成 29 年 7 月 地域別木質チップ市場価格 ( 平成 29 年 4 月時点 ) 北東北 -2.7~ ~1.7 南東北 -0.8~ ~ ~1.0 変動なし 北関東 1.0~ ~ ~1.8 変化なし 中関東 6.5~ ~2.8

JICA 事業評価ガイドライン ( 第 2 版 ) 独立行政法人国際協力機構 評価部 2014 年 5 月 1

目次 年度第 3 四半期決算 (1) 概要 (2) セグメント別情報 年度業績予想 (1) 概要 (2) セグメント別情報 3. 参考資料 1

untitled

別添 4 レファレンスアプローチと部門別アプローチの比較とエネルギー収支 A4.2. CO 2 排出量の差異について 1990~2012 年度における CO 2 排出量の差異の変動幅は -1.92%(2002 年度 )~1.96%(2008 年度 ) となっている なお エネルギーとして利用された廃

エチオピア 2017 年 2 月 エチオピアは FATF 及び ESAAMLG( 東南部アフリカ FATF 型地域体 ) と協働し 有効性強化及び技術的な欠陥に対処するため ハイレベルの政治的コミットメントを示し 同国は 国家的なアクションプランや FATF のアクションプラン履行を目的とした委員会

内の他の国を見てみよう 他の国の発電の特徴は何だろうか ロシアでは火力発電が カナダでは水力発電が フランスでは原子力発電が多い それぞれの国の特徴を簡単に説明 いったいどうして日本では火力発電がさかんなのだろうか 水力発電の特徴は何だろうか 水力発電所はどこに位置しているだろうか ダムを作り 水を

( 考慮すべき視点 ) 内管について 都市ガスでは需要家の所有資産であるがガス事業者に技術基準適合維持義務を課しており 所有資産と保安責任区分とは一致していない LPガスでは 一般にガスメータの出口より先の消費設備までが需要家の資産であり 資産区分と保安責任区分が一致している 欧米ではガスメータを境

第2部

平成10年7月8日

Ⅰ. 世界海運とわが国海運の輸送活動 1. 主要資源の対外依存度 わが国は エネルギー資源のほぼ全量を海外に依存し 衣食住の面で欠くことのでき ない多くの資源を輸入に頼っている わが国海運は こうした海外からの貿易物質の安定輸送に大きな役割を果たしている 石 炭 100% 原 油 99.6% 天然ガ

< 目次 > 1. 機関の概要と事業環境等 2. 平成 30 年度要求の概要 3. 編成上の論点 1 産業投資の効率的 効果的な活用 4. 編成上の論点 2 収益性の確保

規制の事前評価の実施に関するガイドライン(素案)

IFRS基礎講座 IAS第37号 引当金、偶発負債及び偶発資産

Slide 1

扉〜目次

1 はじめに 日本の原油輸入の 2 割を占める重要なパートナーである中東のアラブ首長国連邦 (UAE) 近年急激な経済成長を背景に 年平均 16 % 以上の電力需要増加が見込まれるこの国で 最近日本の総合商社が取組む大型電力案件の話題が相次いで報じられた 5 月 9 日 UAE のフジャイラ首長国に

[000]目次.indd

日本基準基礎講座 有形固定資産

目 次 Ⅰ. 今後の電力需給見通しと燃料について Ⅱ. 原油 重油を巡る状況について Ⅲ.LNGを巡る状況について IV. 石炭を巡る状況について V. 電力の燃料調達について ( まとめ ) 2

中国:なぜ経常収支は赤字に転落したのか

Invesco Premia Plus Fund

原稿メモ

第4章 日系家電メーカーにおけるグローバル化の進展と分業再編成

順調な拡大続くミャンマー携帯電話市場

Microsoft Word - 規則11.2版_FSSC22000Ver.4特例.doc

2 政策目的達成時期我が国皮革産業及び革靴産業が構造改善を行い アジア諸国からの低価格品及び欧州からの高価格品と対抗しうる国際競争力が備わるまで 本制度を維持する必要がある 3 改正の必要性ア. あるべき姿と現状のギャップ国内皮革産業及び革靴産業は 高付加価値化やコスト削減などの構造改善を進めること

目次 要旨 1 Ⅰ. 通信 放送業界 3 1. 放送業界の歩み (1) 年表 3 (2) これまでの主なケーブルテレビの制度に関する改正状況 4 2. 通信 放送業界における環境変化とケーブルテレビの位置づけ (1) コンテンツ視聴環境の多様化 5 (2) 通信 放送業界の業績動向 6 (3) 国民

第2部

国立大学法人富山大学 PPP/PFI 手法導入優先的検討要項

RO ( 改修 Rehabilitate- 運営等 Operate) 方式ハ民間事業者が公共施設等の設計及び建 BT( 建設 Build- 移転 Transfer) 方式設又は製造を担う手法民間建設借上方式 2 優先的検討の対象とする事業及び検討開始時期一優先的検討の対象とする事業建築物の整備等に関

確実に縮小する国内の石油市場 1 我が国の石油製品需要は ピーク時の 1999 年から 3 割減少 2030 年までに更に約 2 割減少する見込み 我が国の石油精製能力と石油製品需要量の推移 我が国の石油製品需要量の見込み 石油精製能力 ( 万 BD)

Transcription:

インドネシア :LNG 供給削減にみる石油ガス産業の問題点 < 更新日 :2005/01/17> < 石油 天然ガス調査グループ : 坂本茂樹 > ( 各情報誌 Wood Mackenzie RetaineeConsultant レホ ート ) 2004 年の 12 月 インドネシアは日本 韓国 台湾の需要家に対して 2005 年の LNG 供給の削減を通知したと報じられた LNG の供給削減 つまり生産不振の直接の原因は ガス生産施設や輸送パイプラインの不具合であるが その背景には ガス生産企業に長期投資をためらわせるようなインドネシア石油 ガス事業環境の不透明さ および 操業上諸手続きの煩わしさ 日数を要することなどがある 併せて 石油製品に対する手厚い補助金政策が エネルギーの市場価格体系形成を損ない 石油下流事業および国内市場向け天然ガス事業の進展を阻害する要因であった 現在 石油製品への補助金政策は徐々に撤廃される方向にある 国内石油需要の拡大にも拘わらず 石油供給力の低迷に危機感が叫ばれる現在 石油 ガス事業環境の改善が急務であり また同時に 好機であるものと考えられる 1. インドネシアの LNG 供給削減報道 2004 年の 12 月半ば インドネシアのアルーンおよびボンタン LNG プラントの生産低迷に伴い インドネシア側が日本 韓国 台湾の需要家に対して 2005 年の LNG 供給の一部削減を通知したと報じられた 詳細は アルーン ガス田の生産量減少とボンタン LNG プラントにおける 2004 年 6 月の火災等事故等の影響にて 2004 年来 LNG 生産量が計画未達になっていること等を理由として 2005 年の需要家への供給量が一部削減される という内容であった 最大需要国の日本に対しては 約 11% 程度の 174 万トン (30 カーゴ ) の輸出削減 韓国向けおよび台湾向けは最大でそれぞれ 100 万トンおよび 60 万トンの削減ということであった この LNG 供給削減の事実関係に関しては 供給側および需要家側のいずれからも公式発表はなされないが 各紙は業界筋として さまざまな報道を行っている 複数の業界紙が 韓国ガス公社 (Kogas) 筋の情報として 韓国向け LNG 削減の事実はないと報じた また日本および台湾の需要家は 2005 年のインドネシアからの LNG 削減に相当する量は 既に他ルートからの代替調達を手配済であり 購入量に何ら問題はないと報じられている インドネシアが販売契約を守るためにの代替供給用として 中東からスポット LNG を購入したとの報道も行われた しかし このような LNG 供給削減に対しては LNG 主要供給国としてのインドネシアの信頼性 - 1 -

を損なう懸念がある 2. LNG 生産不振の要因今回報道された LNG 生産不振の要因として 次の事由が挙げられている 1スマトラ島北部ガス田老朽化によるアルーン LNG の生産力低下 2インドネシア政府が国営肥料会社に対する原料ガスの優先供給を指導している 32004 年 6 月にカリマンタン島ボンタンLNG 基地で起きた火災の影響 次に これらの要因を検証する (1) ガス田埋蔵量の検証インドネシアで最初の LNG プロジェクトであるアルーンに原料ガスを供給するガス田では 既に老朽化と埋蔵量の減退が著しい ( 残存可採埋蔵量 : 約 2tcf) ExxonMobil が操業する主力の N.Sumatra B 鉱区では 特に 2005 年からの生産減退見込みが顕著であり NSO/NSO Extention 鉱区の生産ガスを以って アルーン LNG 基地への原料ガス供給を何とか賄うことができるような状にある 一方 同国最大のボンタン LNG 基地に原料を供給するガス田の埋蔵量は Total が操業する Offshore Mahakam ガス田の 22tcf をはじめ 残存可採埋蔵量合計で 31tcf を超え 原料ガスの供給力に全く不安はない また 最近では Unocal が深海地域で新たなガスの発見を続けており (Makassar の West Seno Ganal 等 ) これらは 2006~2010 年にかけて生産を開始する予定であって 将来的にボンタン LNG 基地への原料ガス供給に大きく貢献するものと考えられる 現時点のボンタンへのガス供給量は Total が 80% 超を占めており この比率は 2010 年頃まで継続するものとみられる しかし 2010 年以降は Unocal の供給比率が徐々に高まっていくものとみられる このように アルーンではガス田の老朽化による LNG 生産量減少が事実であるが ボンタンは原料ガスの供給力に何ら問題はない (2) 肥料会社への原料ガスの優先供給インドネシア政府は アチェ州の肥料製造会社 AAF(Asean Aceh Fertilizer) 向け原料ガス供給を確保するために アルーン LNG 基地からの LNG 輸出削減をやむ無しとしているといわれる 北スマトラ アチェ州の天然ガス生産量は減少しつつあるため 肥料製造会社 AAF は近年 原料ガスの調達がままならずに この 1 年は尿素製造プラントの休止に追い込まれていた 政府は 国 - 2 -

民生活に重要な肥料工場を存続させるために あえて 貴重な外貨取得手段の LNG 輸出量の一部削減もやむ無しと考えている様子である 肥料工場へのガス供給量は多くはないものの アルーン LNG プラントの生産性低迷の一因にはなるであろう なお インドネシアは 石油製品に補助金政策のため エネルギーの市場価格化が進展せず 国内市場でのガス利用が進まないことが従来から大きな問題のひとつであった ( 後述 ) しかし 最近 産業用石油製品価格への補助金は廃止になった 政府が 国内の石油製品需要を天然ガスに振り向けようとしていることもあり 電力会社 肥料工場等の産業向け原 燃料ガスの販売価格は徐々に改善しつつある (3) ボンタン LNG 基地に対する原料ガス供給に係わる問題 2004 年のボンタン LNG 基地の生産は低迷しており その原因として 先述の 2004 年 6 月に同 LNG 基地で起きた火災の影響 または 原料ガスを LNG 基地に輸送するパイプラインの不具合等が挙げられている しかしながら ボンタン LNG を巡る問題は以前から指摘されており 一過性の事故や不具合によるものでのみはないと考えられる ボンタン LNG 基地への原料主要供給者である Total は かねてからプルタミナおよびインドネシア政府当局 (MIGAS) との間に事業運営を巡る不一致を抱え 設備投資に慎重であったと言われる 結果的に 輸送パイプライン またはガス田生産設備の不具合等が発生し これが原料ガスの供給不足になったことも要因のひとつに挙げられる Total がインドネシア側に抱く不満は 次のような点にあったといわれる 1 プルタミナは 生産が減退しつつあるアルーン LNG の補填として 採算性を除外してボンタンの LNG 生産量増加を求めることがあり Total にはこれが不満であった 2 Total の Offshore Mahakam に係わる PSC は 2017 年に契約期限を迎え 同社は契約期限延長を求めている しかし 契約期間の延長交渉は Cepu 鉱区を巡るプルタミナと ExxonMobil との交渉が頓挫している例にも見るように 一般に 新たな要求項目を求められるタフな交渉であって 長い時間を要する 多くの場合 新たな投資義務が課せられたり また コントラクターの利益配分比率のうち 2.5% の削減を求められる 3 鉱区権益の契約期間延長の行方が不透明なこともあり Total は上流部門への投資とそれを回収する事業期間を勘案して 新たな投資義務発生に対して 極めて慎重に対応している 4 また 日常のガス田の操業に際しては 必要な作業の許認可にあたって 不要な入札 購入備 - 3 -

品の過度の地元調達等の合理性を欠く要請を受けることが多い また認可に長い日数を要するために 必要なメインテナンス作業をタイムリーに実施できずに 操業上の不具合を生じることもしばしば起こるということである このように インドネシアで上流事業を行なう企業は 法制度およびその運用の不明確 不完全さ 事業習慣の不合理性に対して 強い懸念を持つことが多いといわれる 3. 石油 ガス産業の抱える問題ここで インドネシア石油 ガス産業が有する問題点を整理する (1) 石油 ガス法 (2001 年制定 ) 2001 年 11 月 メガワティ前政権のもとで 新たな石油 ガス法が制定された この新石油 ガス法制定の主要な目的は 従来 政府機能を兼ね備え 独占的な権限を有していたプルタミナから石油権益付与 PSC 管理などの政府機能を取り去り これらの機能を 新たに設ける政府の管理機構に委ねることであった この本来の目的は プルタミナが有した政府機能を 新設された MIGAS BP MIGAS( 石油上流部門 ) BPS MIGAS( 下流部門 ) 等の政府機関に移転することによって達成されている しかし この新石油ガス法の運用を巡っては 問題点が多いと指摘されている インドネシアの上流外資企業にとっての不満は この石油ガス法に定められた法規の枠組みを履行するための具体的な法令が十分に整備されていないことであり 実際に事業を実施する際に不明確な点が多いことである そのために 実際の事業運営上 しばしば大きな障害を生じることがあるといわれる またプルタミナを含めた政府関係当局間の権限の区分が不明確であって 責任体制が整っておらず 諸手続きの遂行が煩わしく また非常に時間がかかるという 例を挙げると 石油 ガス法制定によって LNG 事業の管理当局は BP Migas とされたが 当初は 従来プルタミナの監督下にあった既存 LNG 事業がどのように扱われるのかが はっきりしていなかった その後 既存 LNG 事業は従来方式を踏襲して プルタミナの監督におかれることとなった このように 新石油 ガス法制定後の石油 ガス事業の実施方法を巡って混乱が生じ それに対するインドネシア当局の対応が遅いこともあって しばしば事業運営の滞りが発生した (2) 石油製品への補助金制度 インドネシア政府は 多額の補助金補填により国内石油製品価格を安価に保つ補助金政策を - 4 -

取っている 民生用石油製品 特に灯油は 厨房用に広く使われているため 低所得層の生活必需品とみなされており 低所得層救済策として 国家の価格補填によって石油製品価格を安価に維持するという 極めて政治色の強い政策である これは エネルギーの市場価格形成に対する障害になると共に 国家財政にとって大きな負担となっている しかしながら 過去に 政府が財政再建を目的として石油製品価格引き上げを行った際には いずれも暴動などの社会不安を引き起こしており 対応の難しい問題である この石油製品の補助金政策およびプルタミナの事業独占下において インドネシアの石油下流産業は健全な発展が遅れ 今日も極めて脆弱な状態にある インドネシアは主要産油国のひとつであるのに拘わらず 石油製品を自給する原油処理能力を持たないために 石油製品の輸入量が多い 例えば 石油燃料の供給義務を負うプルタミナは その支出項目の中で 石油および石油関連製品の輸入 が 50% 近くを占めるという不自然な収支構造を有している また昨今の原油高価格下においては 高騰した石油製品の輸入額が増大しているので 国内の石油製品価格を一定に維持するために さらに多額の補助金投与が必要となっており さらに国家財政への負担が増している 一方 天然ガスの国内市場においては ガスは補助金付の安い石油製品との競合を余儀なくされているため 天然ガスの国内需要が喚起できずに 天然ガス産業の進展に対する妨げとなっていた しかし 最近 政府は政策を転じて 産業用石油製品への補助金を廃止したため 国内の天然ガス利用は徐々に進みつつある ( 後述 ) (3) 事業環境の透明性の欠如 2004 年 12 月にシンガポールで開催された Global Pacific Conference において 複数の参加者から インドネシアの石油産業の問題点は 事業環境の不透明さとあからさまな汚職である との発言があった旨が報道された 事業実施に際する判断基準が不明確であり 政府当局との諸手続き方法もわかりにくい 鉱区延長等の交渉に際しても 国際事業習慣に照らして合理的に欠くと思われる判断 決定が散見される 現在のこのような状況下で インドネシアの上流事業に参入しようとする外国上流企業は概して多くなく 逆に既存の資産を売却して撤退する企業もみられる BP は 2004 年 6 月に ジャワ島西部に保有する Kangean ガス田権益を現地企業に売却し インドネシアの主要資産をパプア州のタングーのみとした 最近 新規に石油契約を締結した企業の中では インドネシア現地企業が過 - 5 -

半数を占めており 外国企業の数は従来に比べて少ない このように インドネシアの石油上流事業は 以前に比べて魅力の乏しいものとなっているように思われる インドネシアは なお多くの石油 ガス資源未開発地域を有するが 現在 探鉱 開発などの事業活動は決して活発ではない また 同国は 長らく 100 万 b/d 超の原油生産量を維持してきたが 2004 年は原油価格高騰にも拘わらず生産量を 90 万 b/d 台へと減少させ また同年に初めて石油のネット輸入国となった 千 b/d 石油生産量 消費量の推移 (BP 統計 ) 1800 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200 0 1980 1981 1982 1983 1984 ( 注 )2004 年は実績見込みの推定 石油生産量 石油消費量 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 インドネシア政府は 繰り返し 石油産業の再活性化および原油生産量 100 万 b/d 超の維持を 唱えているが それらを実現させるには 上記に述べた わかりにくく不透明といわれて不人気な 事業環境を改善させなければならない また 世界で最も厳しい経済条件グループのひとつに数 えられる 石油開発の経済条件を再検討することも必要であろう 4. 石油 ガス事業環境 改善の兆し 上述したように 最近のインドネシア石油産業のパフォーマンスは 決して芳しいものではない 一方 2004 年 10 月に成立したユドヨノ新政権が表明した経済再建への決意は 総じて好感を持っ - 6 -

て受け取られている様子である 石油 ガス産業において 現時点で画期的な新政策が発表されているわけではなく 石油製品の市場価格化への動きも一進一退の状態ではあるが 市場経済化は徐々に進みつつあるように思われる プラスおよびマイナス効果をもたらす要因も併せて 最近の事例を下記に掲げる (1) 憲法裁判所の 石油 ガス法 (2001 年制定 ) 電力法(2002 年制定 ) に対する判断インドネシア憲法裁判所は 提訴を受けて審理を行っていた石油 ガス法および電力法に対して 2004 年 12 月 15 日に 次のような判断を下した 1 石油 ガス法 (2001 年制定 ) 石油 ガス法自体は合憲とされたが 次の 3 項目に違憲の疑いがあるとして 改定が勧告された エネルギー 鉱業大臣が内外企業に石油 ガスの探査 開発を行う権限を委譲できる のは違憲であり 重要産業のひとつである石油産業は国家によって運営 管理され なければならない 産出した石油 ガスの最大 25% を国内需要に割り当てる として国民の利用できる比率に 25% の上限を設けるのは 天然資源は国民の最大利益の為に利用される との憲法の規定に反する 国民生活に影響の大きい石油 天然ガス価格は 決定を市場メカニズムにゆだねる のではなく 国家がこれを運営 管理しなければならない 2 電力法 (2002 年制定 ) 電力法は 国営電力会社 PLN の独占を排して 電力産業に競争原理をもたらすことを目的として制定された しかし今回の憲法裁判所判決は 電力事業は国家にとって重要で 大多数の国民の生活に影響を与える産業部門に相当するため 国家がこれを支配 ( 運営 管理 ) しなければならない として 競争原理を指向する電力法を違憲とした このように 国有企業の独占を排して エネルギー産業に市場経済化を導入することを目的に制定された石油 ガス法 電力法が それぞれ部分的および全面的に違憲と判定されたことは 政府関係当局を含む経済自由化を指向する部門にとっては 打撃であった 司法権の独立が尊重されたと見ることもできるが 経済の自由化 民営化の動きに対しては 一歩後退を示す裁定であった - 7 -

(2) 石油製品価格 市場価格化への動き石油製品への補助金削減は緩やかに進みしつつある 一般大衆を直接消費者としない産業用の燃料価格は 既に補助金が廃止された しかしながら 民生用石油製品 特に 灯油 軽油価格は 低所得層の生活必需品への価格補填政策として微妙な政治的判断を伴う問題であるために 大胆な削減は実施しにくい 2004 年 12 月下旬に プルタミナが 国内の原油生産低迷と石油輸入価格の大幅な上昇を理由として LPG ハイオクガソリン等の石油製品価格を 40~60% 値上げすると発表した 2005 年初めには 普通ガソリンや灯油価格も見直される予定と伝えられる しかし 国民はいっせいに反発を強めていると言われ ユドヨノ新政権にとっては最初の試練であり 実現の可否は予断を許さない (3) 天然ガスのローカル需要拡大インドネシア政府は かねてからエネルギー政策に天然ガスの国内利用拡大を掲げ 天然ガス開発の経済条件には一定のインセンティブを与える政策を取ってきた しかしながら 国内市場向けガス事業は ガス価格が補助金を受けた安価な石油製品と競合するために 事業採算性に乏しく なかなか進展しなかった 一方 近隣諸国の状況をみると アセアン中進国のマレーシア タイは インドネシアと同様に 自国産の天然ガス利用政策を掲げて エネルギーの市場価格政策を進め 併せて 幹線ガスパイプライン建設を着々と進めて 天然ガス利用拡大に成功した こうした事例をみると インドネシアのガス利用は 政策および輸送設備整備の双方において 著しい遅れをとっている スマトラ 西ナツナなど ガス輸出プロジェクトのパイプラインは整備されているが 国内需要用の輸送設備に目を転じると 最大消費地のジャワ島においてすら 西部と中東部を結ぶ幹線パイプラインが未完成の状態である しかしインドネシア政府は 最近 石油製品への補助金政策を徐々に廃止することを決め まずは産業用石油製品への価補助金が撤廃されたことから ガス価格は徐々に上昇しつつあり 国内市場向けの天然ガス事業の採算が改善しつつある ガス販売事例も増えている様子である 例として 最近では 次のような天然ガス販売契約締結が報道されている (2004 年 12 月 ) - 8 -

供給者 購入者 納入先 契約数量 契約期間 CNOOC 国営電力会社 (PLN) 西ジャワ チレゴンコンハ イント サイクル 80MMcfd 2006~2017 アメラダ ヘス 国営電力会社 (PLN) 東ジャワ グレシックコンハ イント サイクル 100MMcfd ExxonMobil 肥料会社アチェ州工場 57~117 MMcfd 2007~2026 CNOOC アメラダ ヘスの国営電力会社 (PLN) への売価は $2.4~2.7/MMBtu という好水準と報 道されている 今後 エネルギーの市場価格化が徐々に進展するのであれば 天然ガス事業採算 の好転 ガス事業の進展を期待することができる (4) 今後の石油 ガス産業の発展インドネシアの石油 ガス産業の健全な発展には 1 エネルギーの市場価格化 2 外国企業にとっても 合理的で透明性のある法制度 事業環境の整備 ( 手続き等諸習慣 ) が必要であると考えられる エネルギー価格への補助金制度は インド イラン等の発展途上産油国に共通に見られ 撤廃には低所得層の十分な縮少を含む国民経済の発展が必要であり 時間を要する問題ではあろう しかしながら 既に補助金が廃止された産業用燃料に次いで 民生用燃料価格も徐々に補助金を廃止し 市場価格に近づけることが望まれる 法制度 事業環境の未整備 わかりにくさは 速やかに適切な法令の整備を行うと共に 当局が改善に対する強い意思を以って臨む問題と考える インドネシアのエネルギー資源ポテンシャルは アジア産油国の中でも大きいのにも拘わらず その石油 ガス産業は十分な成果をみるに至っていない 経済の拡大に伴って国内石油需要が拡大しつつあるのにも拘わらず 石油供給能力は低下しており 現在 エネルギー供給力の回復が強く求められている この点は ユドヨノ新政権を初めとして エネルギー関連当局が共有する問題意識でもある このように 多くが危機感を共有している現在は インドネシア エネルギー資源の潜在能力を回復するために必要な諸策を断行するための好機であると考えられる - 9 -