数値シミュレーションを援用した 超音波探傷の欠陥寸法評価精度向上に関する研究 前田正広 2016 年 2 月

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1 九州大学学術情報リポジトリ Kyushu University Institutional Repository 数値シミュレーションを援用した超音波深傷の欠陥寸法評価精度向上に関する研究 前田, 正広 出版情報 : 九州大学, 2015, 博士 ( 工学 ), 論文博士バージョン :published 権利関係 : 全文ファイル公表済

2 数値シミュレーションを援用した 超音波探傷の欠陥寸法評価精度向上に関する研究 前田正広 2016 年 2 月

3 目 次 第 1 章緒言... 1 第 2 章超音波探傷試験の基礎 緒言 超音波探傷の方法 超音波の性質 超音波の反射, 通過, 屈折 垂直入射の場合 斜め入射の場合 振動子の音場特性 超音波の指向性 超音波の伝播距離 結言 第 3 章超音波伝播解析手法について 緒言 従来の解析手法の概要 動的陽解法による超音波伝播解析 動的陽解法による超音波伝播解析プログラム UT-WAVE 探触子のモデル化 探触子と試験体の結合条件と試験体の無反射条件 垂直探傷数値シミュレーションの精度検証 超音波伝播挙動の可視化 音源重ね合わせ超音波伝播シミュレーション手法 音源重ね合せ超音波伝播シミュレーション (SPM 法 ) 斜角探傷試験結果との比較による SPM 法の精度検証 結言 第 4 章超音波探傷試験による欠陥寸法評価 緒言 垂直探傷試験による欠陥寸法評価 垂直探傷試験の基本 欠陥の評価法 水平欠陥におけるエコー高さの変化 デシベルドロップ法による欠陥寸法評価 i

4 4.3 斜角探傷試験による欠陥寸法評価 斜角探傷試験の基本 斜角探傷試験による欠陥寸法評価 結言 第 5 章ニューラルネットワークを適用した超音波探傷試験の欠陥性状同定 緒言 従来の研究 階層型ニューラルネットワークの概要 ニューラルネットワークの構造 ニューラルネットワークの学習 ニューラルネットワークを適用した垂直探傷試験の欠陥性状同定 欠陥同定の手順と特徴 ニューラルネットワークの教師データ 欠陥同定ニューラルネットワークの構成 垂直探傷試験の欠陥同定のフロー ニューラルネットワークによる欠陥同定結果 ニューラルネットワークを適用した斜角探傷試験の欠陥性状同定 SPM 法シミュレーションによる教師データの取得 斜角探傷試験の欠陥同定のフロー シミュレーション結果を入力とした欠陥性状推定結果 探傷試験結果を入力とした欠陥性状推定結果 結言 第 6 章超音波探傷試験のエコー高さに及ぼす塗膜厚さの影響 緒言 塗膜付き試験体および試験要領 塗膜付き試験体 試験要領 塗膜付き試験体の超音波伝播解析 垂直探傷試験の解析モデル 斜角探傷試験の解析モデル 探触子および塗膜の物性値 探触子の入力 受信波形 塗膜の縦波音速と減衰係数 エコー高さの計算および計測結果 塗膜内超音波の反射による波の干渉 垂直探傷におけるエコー高さの変化 ii

5 6.5.3 斜角探傷におけるエコー高さの変化 塗膜厚さの影響を受けない計測法 結言 第 7 章結言 付録 A 有限要素法の定式化 付録 B 超音波伝播解析プログラム UT-WAVE2 の解析精度検証 付録 C 誤差逆伝播学習法 付録 D.1 マイグレーション手法を用いた欠陥の可視化 付録 D.2 f-k マイグレーションの定式化 謝辞 参考文献 iii

6 第 1 章緒言 船舶, 鉄道などの輸送機器, 電力, 石油, ガスなどの各種プラント, 橋梁などの構造物やそれらを構成する部材などの製造時の品質の管理 保証, また, これらの構造物の供用中の健全性や安全性を評価するために非破壊検査が実施される 1)-4) 構造物の内部に発生する欠陥の検出法としては, 主に放射線透過試験と超音波探傷試験が用いられる 放射線透過法は,X 線を試験体に照射して透過した放射線を反対側に配置したフィルムで検出して, 空洞や割れなどの不連続部を撮影する方法である 超音波探傷法は, 超音波パルスを試験体に伝播させ, 欠陥や裏面などの不連続部から反射したパルスを電気信号に変換して, その信号の大きさや伝播時間から欠陥を検出する方法である 大型構造物の検査や供用中の検査への適用を考えた場合, 放射線透過試験は試験体を挟んで線源と X 線フィルムを配置する必要があり試験体の両側へのアクセスが必要であるのに対して, 超音波探傷では片側のアクセスで検査が可能であるなどの検査の容易さにおいて優れている また, 放射線透過試験では被曝の恐れがあるため, 試験中の混在作業はできないが, 超音波探傷試験では可能であることや欠陥の深さ位置や欠陥高さの測定が可能であり, 即座に欠陥の合否判定が可能であることなどから, 超音波探傷試験が利用されることが多い また, 近年では TOFD (Time of Fright Diffraction Technique) 法やフェーズドアレイ探傷装置などを用いた新しい探傷方法が実用化され, 超音波探傷の適用が拡大している 5) 近年, 破壊力学の発展により, 構造物中に存在する欠陥の性状が既知の場合に, その安全性評価を行うことができるようになってきた 6) 最近では定期検査などで欠陥が検出された場合, 安全を十分に維持しながら運用効率を確保するために, 製造時の基準に従って直ちに補修または取替えを行うのではなく, 余寿命を予測して耐用期間の設定または検査間隔の決定を行うようになってきた 7),8) しかし, 安全性の評価や余寿命の推定を行うには欠陥寸法が明らかであることが前提となっている したがって, 非破壊検査では, 欠陥の検出技術に加えて, 高精度に欠陥寸法を評価することが必須となってきている 船舶の分野においても, コンテナ船の大型化に伴って甲板構造へ 50mm を超える極厚板を採用することが多くなっている 9) 鋼材ならびにその溶接継手の破壊靭性値は板厚が厚くなるほど小さくなることが知られており, 脆性破壊を防ぐために, 初期溶接欠陥や疲労き裂の長さ測定精度の向上が求められている 10),11) また,LNG 船をはじめその他の船舶においても, 疲労寿命や破壊強度を評価することの重要性がますます増大しており, 欠陥性状を高精度に同定する技術の構築が望まれている 1

7 従来の超音波探傷試験は, 熟練技術者の技量に依存した経験的な技術にすぎなかった すなわち, 探触子を試験体表面に当てて超音波を送信し, 裏面や内部欠陥からの反射波形を受信し, その波形を探傷器の画面に表示して, 検査技術者が反射波形を目で見て欠陥の有無や欠陥寸法評価を行っている 計測波形から欠陥の寸法評価を行う際には豊富な経験と労力を必要とし, その精度は検査技術者の経験 技量によるところが大きく, 欠陥評価結果には大きなばらつきが存在するのが現状である 2),12) さらに, 複雑な構造物内部に存在する欠陥の位置やその大きさを同定する際に, あらかじめ探傷方法を実験で把握する方法が採られているが, 模擬試験片を作製する必要があり, 探傷方法を決定するまでに時間と費用がかかりすぎる問題がある そこで, 本研究では, 熟練者や専門家の経験を必要としない定量的な欠陥同定を高精度に, 簡便かつ迅速に行う手法の開発を目的として, まず, 超音波の伝播経路や到達時間だけでなく伝播波形にも注目し, 動的陽解法を用いた時刻歴応答有限要素解析によって超音波の伝播挙動をシミュレーションするプログラムを開発し, 超音波探傷計測結果と比較して解析精度の検証を行うとともに, 探触子の振動子サイズ, 探傷周波数, および欠陥位置や寸法が異なる場合のシミュレーションを行い, 欠陥検出限界や欠陥寸法の推定精度について検討した 次に, 欠陥寸法だけでなく欠陥形状も含めた欠陥性状同定を目的として, シミュレーション結果を教師データとしたニューラルネットワークを構築し, 超音波の伝播波形情報をもとに欠陥性状の同定が可能であるかについて検討した さらに, 塗膜上から超音波探傷試験を実施する場合, 超音波エコー高さに及ぼす塗装の塗膜厚さの影響を調べるために, 塗膜厚さが異なる塗膜付き試験体を製作し, エコー高さを計測するとともに, 数値シミュレーションを実施して塗膜厚さが超音波エコー高さに及ぼす影響を明らかにした これらの研究成果をまとめた本論文は 7 章より構成されている 第 1 章の緒言に続いて, 第 2 章では, 超音波探傷の基礎として, 欠陥の探傷方法および超音波探傷の理解に必要な超音波伝播の基礎についてまとめた 第 3 章では, 超音波伝播解析手法および計算精度について説明した 3.2 節では, 従来の解析手法の概要を示し,3.3 節では, 開発した超音波伝播挙動をシミュレーションする動的陽解法を用いた時刻歴応答有限要素解析プログラム UT_WAVE2 の定式化を示す この手法は中心差分法を用いて波動方程式を定式化し, 動的陽解法による弾性波の伝播挙動を解析するものである 次に, 解析対象のモデル化について説明し, 垂直探傷試験結果との比較による数値シミュレーションの精度検証結果を示す さらに, 画像表示ソフトを用いた超音波伝播挙動の可視化を示す 3.4 節では, 音源重ね合せ超音波伝播シミュレーション手法の概要について説明する この手法は点音源の伝播による距離減衰と弾性波の 2

8 重ね合わせによる位相のずれを利用したものであり, 有限要素法を用いた超音波伝播シミュレーションと比較して短時間でシミュレーションを行うことができる まず, シミュレーション手法および計算対象のモデル化について説明する 次に, 斜角探傷試験結果との比較によるシミュレーション精度の検証結果を示す 第 4 章では, 超音波探傷試験の欠陥寸法評価に関して, 振動子寸法, 周波数, 欠陥深さ, 欠陥寸法を種々変更したシミュレーションを実施し, その欠陥寸法推定精度について検討した まず,4.2 節では, 垂直探傷試験による欠陥寸法評価について, 水平欠陥を対象に探触子の振動子サイズ, 探傷周波数および欠陥深さや寸法が異なる場合のシミュレーションを実施し, 欠陥からの反射波の大きさがどのように変化するかを調べた さらに, 欠陥の長さを推定する方法の一つであるデシベルドロップ法による欠陥検出限界や欠陥寸法の推定精度について検討した 4.3 節では, 斜角探傷試験による欠陥寸法評価に関して, デシベルドロップ法および端部エコー法による欠陥寸法推定精度について調べた 第 5 章では, 未知の欠陥性状を推定する方法の一つとして, 種々の欠陥に対する計測波形を教師データとしてニューラルネットワークを構築し, 欠陥寸法だけでなく欠陥形状も含めて欠陥の同定を行う方法について検討した 5.2 節では, 従来の研究について概要を述べ,5.3 節では, 本研究で採用した階層型ニューラルネットワークについて説明する 5.4 節では, ニューラルネットワークを適用した垂直探傷試験の欠陥性状同定手順と特徴について述べ, 数値シミュレーション結果を用いた欠陥同定結果を示す 5.5 節においては, ニューラルネットワークを適用した斜角探傷試験の欠陥性状同定の手順と探傷試験結果を用いた欠陥同定結果について述べる 第 6 章では, 塗膜上から超音波探傷試験を実施する場合, 塗装の塗膜厚さが超音波エコー高さに及ぼす影響について調べた 6.2 節では, 塗膜付き試験体および試験要領について説明する 6.3 節および 6.4 節では, 塗膜付き試験体の超音波伝播解析, 探触子および塗膜の物性値について述べる 6.5 節では, 垂直探傷と斜角探傷について, 塗膜によるエコー高さの変化を計算と実験で比較している 6.6 節では, 塗膜影響を受けない計測法について検討した 第 7 章では, 本論文における研究結果をまとめて総括した 3

9 第 2 章超音波探傷試験の基礎 2.1 緒言 本章では, 超音波探傷試験の基礎として, 欠陥の探傷方法および超音波探傷の理解に必 要な超音波の性質, 反射, 屈折, 音場特性などの超音波の基礎についてまとめる 13)-15) 2.2 超音波探傷の方法超音波探傷試験の代表的な方法であるパルス反射法による欠陥検出の例を Fig.2.1 に示す 探触子 (probe) は試験体中に超音波を入射すると共に, 欠陥から反射してきた超音波を受信するセンサーである この探触子を試験体表面上で走査して欠陥を検出する Fig.2.1(a) に垂直探傷法を示す 試験体の表面 ( 探傷面 ) に対して垂直に超音波が入射するように探触子を配置し, 水やグリセリンなどの接触媒質を介して試験体中に超音波を伝播させ, 欠陥や底面からの反射波の強さや伝播時間を測定し, 試験体の健全性を調べるものである 欠陥からの反射波の強さから欠陥の大きさがわかる また, 超音波パルスが試験体に入射されてから反射波が返ってくる時間を測定し, この時間に試験体の音速を乗じることにより, 試験体表面から欠陥までの距離を求めることができる Fig.2.1(b) に斜角探傷法を示す 試験体表面 ( 探傷面 ) に対して斜めに進行する超音波ビームを用いて探傷する方法で, 溶接部などの検査に多く適用されている 超音波パルスは振動子から縦波が発生する この超音波パルスがくさび中を伝播し探傷面に到達する そして, 超音波パルスがくさびと試験体の境界面を通過するときに屈折現象が生じる 屈折した超音波は縦波から横波にモードを変えて, 試験体の中へ伝播していく 試験体の中へ伝播した超音波は, その超音波ビーム内に欠陥があると, 欠陥で反射され, 元の経路をたどって, 再び探触子によって受信される 探触子は振動子, くさび, 吸音材等から構成されている 超音波を発生させる素子として探触子の中に振動子が組み込まれている 振動子に電圧を加えると圧電効果によって, 機械的な振動を発生する この振動が超音波として固体中を伝播する 発信と受信を別々のセンサーで行う方法を 2 探触子法, 一つのセンサーで行う方法を 1 探触子法という くさびは試験体への超音波の入射方向を決めるものであり, アクリルがよく用いられる 吸音材は振動子によって発生した超音波がくさびの境界面で繰り返し反射するのを防止するためのものである 探触子から試験体に超音波を伝播させるためには, 探触子と試験体探傷面の間を液体で満たしておく必要がある この液体を接触媒質と言う もし空気層があると超音波は探触 4

10 子と空気層の境界で反射して試験体中には伝わらなくなる 接触媒質には水やグリセリン の他, マシン油などが用いられる angle probe normal probe damper transducer test surface test surface backing material wedge transducer ultrasonic beam WF specimen defect WB specimen bottom surface defect bottom surface (a) Straight beam technique Fig.2.1 Ultrasonic testing (b) Angle beam technique き裂に向かって超音波を伝播させると, き裂の先端から端部エコー ( 回折波 ) が発生する この端部エコーを検出して, き裂の寸法を測定する方法に Fig.2.2 で示す TOFD(Time of Flight Diffraction) 法 5),16),17) がある TOFD 法は, 送信探触子と受信探触子を向かい合わせに配置し, 探触子間で送受信した波形を収録, 画像化する手法である 収録した波形には, 透過, 反射, 散乱, 回折による多くの情報が含まれ, 欠陥の検出や長さの評価に留まらず, 構造物の余寿命推定に必要な欠陥高さ測定等が可能となり,TOFD 法の適用拡大が期待されている この手法では, 欠陥のない健全部では,1 表面を伝播するラテラル波と4 試験体裏面で反射する反射波が検出される これに対し, 内部に欠陥が存在すると,2 欠陥の上端部および3 欠陥の下端部で生じる端部エコーが受信される これらの超音波の伝播時間を測定することにより欠陥の深さや欠陥高さを幾何学的な計算によって定量的に求めることが可能である TOFD 法は従来の超音波探傷法と比較して, 欠陥の検出能力, 欠陥の高さ寸法測定精度が高いという長所がある 一方,2 つの探触子を対向させて探傷するための治具が必要であることや欠陥の識別 判定に熟練が必要であり, 欠陥の判定作業に時間を要すること, 従来の探傷装置に比べて機器が高価であるなどの問題点もある 5

11 Transmitter Receiver Signal amplitude Time 1 Lateral wave 3 Lower tip of defect 2 Upper tip of defect 4 Bottom reflection wave Fig.2.2 Probe arrangement and scanning method in TOFD technique また,Fig.2.3 に示すフェーズドアレイ法と呼ばれる小さな振動子を多数配置したアレイ探触子を用い, 各振動子の励振タイミングを電気的に制御することで超音波の主ビームを任意の方向に伝播させ, かつ任意の深さに集束させて探傷することのできる探傷手法が開発されている 5),18) 電子操作方法には振動子の配列方向に走査するリニアスキャンや, 扇状に走査するセクタースキャン, あるいはそれらの組合せ等が挙げられる また, コンピュータを利用して検出した超音波波形を画像処理し, 断面画像や平面画像をリアルタイムに表示でき, かつ, 欠陥検出や欠陥寸法を推定することが可能である フェーズドアレイ法は従来の超音波探傷法と比較して, 任意の位置に超音波の焦点を合わせることができることから欠陥の検出性が良く, 電子的に屈折角を変化させることができるので, 探触子を走査することなく板厚方向の広い範囲が探傷可能であり, 欠陥の識別, 判定にはあまり熟練を必要としない長所を有している しかし, 事前設定作業に時間を要し, 装置の取り扱いが複雑であることや機器が高価であるなどの問題がある 6

12 piezo Phased array probe Delay time control Synthetic wave front focal spot Image of ultrasonic propagation (a) Phased array ultrasonic testing Transmitter pulse Delay time control Transmitter pulse Delay time control probe probe Wave front Focal position (b) Control of incident direction (c) Control of focal point Fig.2.3 Overview of phased array ultrasonic testing 7

13 2.3 超音波の性質超音波とは周波数 20kHz 以上の音波のことをいい, 超音波探傷試験では周波数が 1~ 5MHz の超音波が一般に利用される 可聴音レベルの音波は無指向性であり全方向に広がるが, 超音波の域まで周波数が高くなると指向性が現れるため, 波がビーム状に伝わり, 限られた範囲内を探傷することが可能となる 超音波探傷に用いる波は弾性波であり, 主に次に示す縦波, 横波, 表面波があり, 探傷方法により波の種類が使い分けられる (1) 縦波縦波は, 粒子間隔の伸び縮みの方向, すなわち, 粒子の振動方向が振動の伝わっていく方向と一致している波である 縦波は垂直探傷試験で使用される (2) 横波横波は, 粒子の移動方向, すなわち, 粒子の振動方向が振動の伝わっていく方向と直角となる波であり, 固体中でのみ伝播する 横波には探傷面に垂直方向に振動する SV 波と探傷面に水平方向に振動する SH 波がある 横波は斜角探傷試験で使用される (3) 表面波材料の表面層だけを伝わる波である 表面から 1 波長分の非常に浅い層にエネルギーの大部分が集中しており, 表面付近の粒子は, 縦振動と横振動を混合したような挙動を示す (4) その他その他に板波, クリーピング波がある 板波は板が薄い場合, 表面波が上面と下面に同時に起こる場合で, 音速は板厚により周波数依存性を持っている 斜め入射の場合に, 入射角度により材料の表面を伝播する縦波が発生する その波をクリーピング波という 次に, 超音波の伝播速度について説明する 超音波が媒質中を伝播する速度, すなわち 音速 C は, 媒質の弾性係数と密度によって決まり, 次式で表される C E (2.1) ここで, は媒質の密度, E はヤング率である (2.1) 式で求まる音速は, 波長よりも十分直径が小さい棒の場合の音速で, 棒の縦振動音速と呼ばれる 波長より幅の広い固体中に超音波を伝播させた値とは異なる 固体に引張力や圧縮力が作用すると, 力の方向に変形するだけでなく, その直交方向にも変形が生じる 縦波が固体中を伝播する場合, 粒子の振動方向と直交する方向の変形は周囲から拘束されて変形できないと考えるのが妥当であ る したがって, 固体中の縦波の音速 C は, 棒の縦振動音速をポアソン比 で補正した次 式で与えられる L 8

14 c L E (2.2) 横波の音速 C は S C S G E 1 21 (2.3) ここで,G は横弾性係数である 波長, 音速 C, 周波数 f の間には以下の関係がある C f (2.4) 探傷試験に使用する探触子の周波数を決めるためには, 次の点を考慮する必要がある (1) 周波数が高いほど超音波の減衰が大きくなる (2) 分解能は波長に依存する 波長が短い ( 周波数が高い ) 超音波を用いることにより, より小さい欠陥を検出することができる 例えば鋼中に周波数 2MHz および 5MHz の縦波超音波を伝播させたときの波長は, 鋼中の縦波音速を 5900m/s とすると, 周波数 2MHz の場合, 波長は 2.95mm, 周波数 5MHz の場合, 波長は 1.18mm となる 一般に, 検出できる欠陥の大きさは波長の 1/2 程度と言われている 2.4 超音波の反射, 通過, 屈折 13) 垂直入射の場合 損傷部において超音波の反射, 通過, 屈折, 回折が起きるのは損傷部の音響インピーダ ンスが健全部と異なるためである 音響インピーダンス Z は, 媒質の密度 と媒質中を伝 わる超音波の音速 C の積で決まる値である Z C (2.5) 空気の音響インピーダンスは鋼の音響インピーダンスより 4 桁ほど小さいので欠陥内部 に伝わる超音波のエネルギーは小さく, 欠陥面で大部分が反射される 音響インピーダン スの異なる 2 つの媒質があるとすると, 一方から超音波が伝播して境界面に垂直に入射し た時に, 超音波はそこで反射する成分と通過する成分に分かれる この 2 つの大きさの割 合は境界面で接する 2 つの媒質の音響インピーダンス Z で決まる Fig.2.4 に示すように 媒質 1 を伝播してきた超音波が媒質 2 との境界面に垂直に入射する場合を考える 9

15 入射する音の音圧 ( 強さ ) を P I, 境界面での反射波の音圧を P R とすると, 入射波の音圧に対する反射波の音圧の比, 音圧反射率 r1 2は (2.6) 式で与えられる PR Z2 Z1 r1 2 (2.6) PI Z1 Z2 Z 1, Z 2 はそれぞれの媒質の音響インピーダンスである 音響インピーダンスの差が大きければ反射は大きくなる 媒質が異なっても音響インピーダンスが同じであれば反射は起こらないことを示している また, 音圧 PI の超音波が境界面を通過して音圧 PT となったとする このときの音圧通過率 t1 2は次式で与えられる PT 2Z2 t 1 2 P (2.7) R Z1 Z2 媒質 2 から媒質 1 へ超音波が垂直に入射したときの音圧通過率 t2 1は次式で与えられる 2Z t 1 r Z2 Z1 (2.8) ここで, r 21 は媒質 2 から媒質 1 へ超音波が垂直入射したときの反射率である 超音波探傷の場合, 欠陥からの反射波を受信する過程を考慮すると, 境界面を往復して 戻ってきた音圧を考えた方が便利である その場合, 媒質 1 から媒質 2 へ垂直入射した超音波が完全反射して媒質 1 に戻ったときの音圧通過率, すなわち, 音圧往復通過率 T1 2は 次式で与えられる 2Z 2Z 4Z Z T t t 1r Z1Z2 Z2 Z1 Z1 Z2 (2.9) Material 1 Material 2 Incidence Refraction Reflection boundary Fig.2.4 Normal Incidence to Interface 10

16 2.4.2 斜め入射の場合 (1) 反射と屈折 Fig.2.5 に示すように,2 つの媒質の境界面に超音波が斜めに入射すると, その一部は境 界面で反射し, 残りは境界面で屈折して通過する 境界面で屈折して通過する超音波を屈 折波という また, 境界面に立てた法線と超音波ビームの中心線とのなす角を入射角, 反 射の場合を反射角, 屈折波の場合は屈折角という 入射角を, 反射角を, 屈折角を とすると, 媒質 1 の音速 C1 および媒質 2 の音速 C2 の関係を次式で表すことができる sin sin sin (2.10) C C C これはスネルの法則と呼ばれる 2 つの媒質の境界面における超音波の反射と屈折は, スネルの法則に従って起こり, 超音波の伝播方向は境界面の法線に対する角度 ( 入射角, 反射角, 屈折角 ) の sin 成分と伝播速度の比は一定に保たれることを意味する 媒質 2 の 音速 C2 が媒質 1 の音速 C1 より大きいとき, 入射角 を増していくと屈折角 が 90 とな る このときの を臨界角といい, これ以上の入射角では屈折角は存在せず, すべて反射 することになる この現象を全反射という Incidence Reflection Wave velocity c 1 Wave velocity c1 angle of Angle of incidence reflection Material 1 boundary Material 2 angle of refraction refraction Wave velocity c 2 Fig.2.5 Reflection and Refraction of wave (2) 反射率境界面に超音波が斜め入射したとき, 入射角によっては, 縦波と横波の両方が発生したり, 縦波か横波のどちらか一方だけであったり, 両方ともに発生しなかったりと現象は複雑である ここでは, 実際の超音波探傷試験に必要な範囲の音圧反射率について計算された結果を示す 13) Fig.2.6 は鋼またはアルミニウムをそれぞれ媒質 1, 空気を媒質 2 としたときの縦波の各入射角に対する音圧反射率の計算結果である 入射角によって反射率は 11

17 大きく変化している 鋼の場合, 入射角 70 付近での音圧反射率は最小値となる これは, 入射した超音波の縦波の大部分が横波にモード変換し, 縦波の大部分が損失したことを意 味している Fig.2.6 Relation between reflection coefficient and incident angle of longitudinal wave [13] Fig.2.7 は鋼中横波の境界面における横波の各入射角に対する音圧反射率について計算された結果である 実線は媒質 2 が真空の場合であり, 入射角 30 付近で音圧反射率は最小値を示し,33 以上では音圧反射率が 1 となり, 全反射となっている これは縦波臨界角を超えたためである 12

18 Fig.2.7 Relation between reflection coefficient and incident angle of shear wave [13] (3) 通過率超音波が固体から固体へ斜めに入射したときの往復通過率について Kuhn 19) の式を紹介する Fig.2.8 に示すように, 媒質 1 の縦波および横波の音速をC 1L, C 1S, 密度を 1, 媒質 2 の縦波および横波の音速を C 2L, C 2S, 密度を 2 とする 媒質 1 における縦波の入射角を, 媒質 2 における縦波の屈折角を 2L, 横波の屈折角を 2S とする ただし, 固体と固体が液体の薄い層を介して接触しているものとする A1 と A を入射縦波および屈折縦波の変位ポテンシャル振幅, B 1 と B を入射横波および屈折横波の変位ポテンシャル振幅とすると, 屈折縦波および屈折横波の変位ポテンシャル 振幅 A および B は次式で与えられる C b 1 b 1 2b b 1 A A B C a k C a k S C2S S 1S (2.11) C 2 b 1 C 4b B A B C k C k S 2S S 1S (2.12) ここで, 13

19 L S a c C1 L a c C a j c C 2 2 b c C1 s 1 1 L 2 2 b c C b j c C 1 S, 第 1 臨界角のとき, 第 1 臨界角のとき, 第 2 臨界角のとき, 第 2 臨界角のとき j , k 2C2S 1C1S 2 2 b 1 2a2b b 1 2a2b 2, 2 (2.11) 式,(2.12) 式より音圧往復通過率が求められる 超音波の入射波は縦波のみを考え, A1 1, B 1 0 とすると, 媒質 1 の縦波から媒質 2 で横波が発生する場合の往復通過率 TS1 2は次式で与えられる T 2 2b B S12 1a A1 (2.13) 媒質 1の縦波から媒質 2 で縦波が発生する場合の往復通過率 TL 1 2は次式で与えられる T 2 2a A L12 1a A1 (2.14) A 1 Medium 1 Medium 2 B B 1 2 2L 2S A 2 A B Fig.2.8 Reflection and refraction waves produced by an incident wave in two mediums 14

20 Fig.2.9 は媒質 1 がアクリル樹脂, 媒質 2 が鋼の場合の音圧往復通過率について計算さ れた結果を示している 13) アクリル樹脂中を伝播してきた縦波が, アクリル樹脂と鋼の境界で鋼中に斜めに入射し, 鋼中に屈折縦波 TL と屈折横波 TS が生じている 横軸がアクリル樹脂中の縦波入射角, 縦軸が音圧往復通過率である また, 上側の横軸に縦波屈折角およ び横波屈折角を示している 横波屈折角が 35 より大きい範囲では, 横波だけが試験体内 部に伝わっている 通常の斜角探傷試験に用いられる斜角探触子の屈折角 45 ~70 の範 囲では, 屈折角に対する音圧往復通過率の変化は小さいものとなっている Fig.2.9 Echo transmittance of refraction wave [13] 15

21 2.5 振動子の音場特性試験体に入射した超音波は探傷面と垂直の方向に媒質の中をビーム状に伝播していき, 振動子前方の媒質中で独特の音圧分布が形成される 超音波の強さの分布を音場という 振動子の作る音場の一例を Fig.2.10 に示す 13) 白い部分が音圧の高いところ, 黒い部分が音圧の低いところで振動子の近くでは音圧の変化が複雑であることが分かる この音場の複雑な範囲を近距離音場という この範囲より遠い距離では, 超音波ビームは一定の角度 ( 指向性 ) をもって拡がりながら伝播する その境界を近距離音場限界距離という 超音波の伝播挙動は振動子の大小, 振動子の振動周波数によって変化する この節では超音波の指向性, 伝播距離特性について説明する PIEZO Fig.2.10 Sound field made with transducer [13] 超音波の指向性 振動子から発信される超音波はある角度範囲内にだけ強く放射される これを指向性と いう 円形振動子の指向性について計算された結果の例を Fig.2.11 に示す 13) 超音波のビ ームは円形振動子の中心を頂点とした円すい形になって, ある限られた方向に広がってい る グラフの円周方向は, 振動子の中心軸方向を 0 度としたときの傾き, グラフの半径 方向は, 振動子の中心音圧に対する音圧比を表している 振動子の中心音圧が一番強く, 傾き角 が大きくなると音圧は次第に弱くなり, やがて零となる この角度 0 のことを指向角という Fig.2.11 は周波数が同じでも振動子の直径が 2 倍になると指向角が半分となり, 指向性が 2 倍鋭くなった例が示されている 指向角 0 は (2.15) 式で求められる C (deg) (2.15) D Df 16

22 ここに, D は円形振動子の直径, は超音波の波長, f は周波数,C は音速である (2.15) 式から, 指向角は, 振動子の直径に反比例し, 波長に比例することがわかる 指向角が大きければ指向性は鈍いといい, 指向角が小さければ, 指向性は鋭いという 周波数が高いほど, すなわち波長が短いほど指向角は小さくなる また, 波長に比べて振動子が大きいほど, 指向角は小さく指向性は鋭くなる 各種媒質において, 振動子径と周波数をパラメータにした指向角の違いの計算結果を Table 2.1 に示す Fig.2.11 Calculation result of angle of beam spread [13] Table 2.1 angle of beam spread 0 (unit:degree) Longitudinal Wave Frequency (MHz) Diameter (mm) Steel Aluminium Acrylate Water (20 C)

23 2.5.2 超音波の伝播距離 円形振動子の中心軸上の音圧と距離の関係について計算された一例を Fig.2.12 に示す 近距離音場限界距離 x 0 以内の領域では音圧分布は複雑であるが, x 0 より遠い距離では単調に変化する x 0 は (2.16) 式で与えられる 2 2 D D f x 0 4 4C (2.16) 近距離音場限界距離 x0 は振動子の大きさ, 周波数や媒質によって変化し, 振動子の直径 D の 2 乗に比例し, 波長 λに反比例して変化することがわかる x 0 より近い範囲を近距離音場, x 0 より遠い範囲を遠距離音場という 遠距離音場では音圧は距離が遠くなるに従って単調に小さくなる Table 2.2 に各種媒質中における近距離音場限界距離 x0 の計算値を示す 中心軸上の距離 x における音圧 Px は近似的に (2.17) 式で与えられる 2 D A P x P0 P0 4x x (2.17) ここに, A は振動子の面積, P 0 は振動子を接触させた部分の平均音圧である (2.17) 式から振動子の中心軸上の音圧は, 振動子の面積に比例し, 距離に反比例することがわか る Fig.2.12 Change of a sound pressure by the distance [13] 18

24 Table 2.2 Near field length x 0 (unit:mm) Longitudinal Wave Frequency (MHz) Diameter (mm) Steel Aluminium Acrylate Glycerine Water (20 C) 結言本章では超音波探傷試験の基礎についてまとめた すなわち,2.2 節では, 超音波探傷試験の方法を概説し,2.3 節では超音波の性質,2.4 節では超音波の反射, 透過, 屈折,2.5 節では振動子の音場特性について概説した 19

25 第 3 章超音波伝播解析手法について 3.1 緒言従来, 超音波探傷試験は, 超音波が欠陥などの反射源に当たった後, 探触子に帰ってきたエコー ( 反射波 ) の強さ, および到達時間だけに注目して構造物内の欠陥の有無の調査や位置の推定を行うものであった 近年, 疲労寿命や破壊強度を評価することの重要性がますます増大しており, 正確な評価を行うために超音波の到達時間だけでなく, より多くの情報, すなわち欠陥の大きさ, 形, 傾き, 分布などを定量的に精度よく同定することが求められている 超音波探傷を用いて複雑な構造物の内部に存在する欠陥の位置やその大きさを同定する際には, 探触子を検査対象のどの位置に設置すれば良いかを決定するために, 欠陥を模擬した試験体を作製して試験を行わなければならない場合もある このような場合に, 検査対象構造の内部を超音波がどのように伝播し, 欠陥部で反射した超音波がどのような経路で再び探触子に戻ってくるかを見ることができれば, 超音波探傷における試験方案を作成する上で, 有益な情報を得ることができると考えられる 一般に超音波探傷試験においては, 検査対象構造の内部を超音波がどのように伝播するかを見ることはできないが, 数値シミュレーションを用いて超音波の伝播挙動を明らかにすることは有用である これまでにも有限要素法 20)-25), 差分法 26)-29) および境界要素法 30),31) を用いた研究がいくつかなされてきている しかしながら, 弾性波の伝播経路や到達時間に注目したものが多く, 欠陥寸法, 形状の測定精度の向上にとって重要な伝播波形に注目した研究は少ない 数値シミュレーションでは, 試験体内部の超音波の複雑な伝播挙動や伝播波形を定量的に把握することができる また, 数値シミュレーションで得られた情報は, 欠陥の検出能力の向上を図る探傷方法や欠陥の大きさや形状などに関する定量的な評価を行う評価法の開発に利用することができる 数値シミュレーション技術は探傷技術の高度化, 高精度化を図るための有力なツールとなることが期待できる 本章では, 本研究で採用した 2 つの超音波伝播挙動解析シミュレーション手法およびその精度検証について述べる 手法の一つは本研究で開発した, 動的陽解法を用いた時刻歴 FEM 解析による超音波伝播挙動シミュレーション手法 UT-WAVE2 である もう一つは, 音源重ね合せ超音波伝播シミュレーション手法 SPM 39),53) である この手法は, FEM を用いた超音波伝播シミュレーションには膨大な計算時間が必要となることから, これを補う手段として開発されたものである 3.2 節で従来の超音波伝播解析手法について述べる 3.3 節では本研究で開発, 作製し 20

26 た中心差分法を用いて弾性波伝播の波動方程式を定式化した, 動的陽解法による時刻歴応答解析の手法 UT-WAVE2 について説明し, 解析対象と探触子のモデル化, および解析精度の検証結果, さらに超音波の伝播挙動の可視化について述べる 3.4 節では音源重ね合せ超音波シミュレーション手法 SPM, および計算精度について簡単に述べる 3.2 従来の解析法の概要超音波による欠陥検出は, 受信信号に基づき欠陥位置 寸法を求める逆問題である 超音波探傷で対象とする部材の内部に存在する欠陥は有限で任意の形状であるのが普通であるから, 与えられた初期条件 境界条件で与えられた波動方程式の解析解を適用して超音波伝播解析を行う事はできず, 数値解析が不可欠となる 超音波伝播の数値解析は, レイトレーシング法 ( 幾何音響学法 ), 差分法, 有限要素法, 境界要素法等の手法がある 以下にその概要を示す (1) レイトレーシング法 ( 幾何音響学法 ) 超音波探触子により励起された個々の超音波ビームについて界面での反射 屈折を既知の解析解を用いて計算し, それらの重ね合わせにより受信波形を求める 計算は簡単であり, 境界条件が単純で反射 屈折回数が少ない場合には有効であるが複雑な形状, 多重反射が起こる場合への適用は困難である Ogilvy 32),33) はレイトレーシング法を用いてオーステナイト系ステンレス鋼溶接部における超音波の伝わり方を報告している 古川 34),35) らはレイトレーシングの手法を取り入れて超音波ビームの音場を線の束で表した力線モデルを用いた手法について報告している (2) 差分法差分法は, 支配方程式を微分形式のまま差分近似した差分方程式にして, これを代数方程式として数値的に解く方法である 最も簡単な一次元の縦波の波動方程式については以 下のようになる, 1 ux, t 2 u x t 2 x c t (3.1) ここで ux, tは, 位置 x, 時刻 t における縦波の変位, c は伝播速度である この式の偏 微分項をテイラー級数で近似して, 以下の差分方程式を得る 21

27 , 2,, u x x t u x t u x x t 2 x, 2,, 1 u x t t u x t u x t t 2 2 c t ここで現在および一つ前の時間ステップ t および t 22 (3.2) t における変位 u が与えられれば, それを上式に代入することによって, 次の時間ステップ t tにおける変位 ux, ttが 求められる これを繰り返すことによって, 変位 u の変化を t 毎に時間を追って求めるこ とができる 松本 28) らは超音波信号シミュレーションプログラムを作成し, 単純な形状のきずの超音 波信号の評価を行っている 栗田 27) らは裏当て金付完全溶込み T 継手を対象に SH 波の差 分シミュレーションを行い SH 波の伝搬の様子や溶込み不良に対するエコー高さの変化を 求めている 羽田野 29) らは音響異方性を考慮した差分法プログラムを開発し, 圧延鋼板に おける超音波探傷のシミュレーションを行っている また, 円形平面きずと丸底穴を想定 してエコー波形の計算を行っている 26) (3) 境界要素法 境界要素法は, 支配微分方程式を境界上の積分方程式に変換し, これを離散化して解析 する数値解析手法である 境界上のみの要素分割であるので, 領域全体を離散化する有限 要素法などの領域型解法に比べて, 入力データ数や計算時間を大幅に削減できる しかし, 境界面変位を求めるには有効であるが, 領域内の各点の応答を求めるためには, 領域内に 多数の積分点を設ける必要があり内部点が多くなると不利である 中畑らは 30) 円形空洞欠陥による散乱波形を求め, 欠陥周辺の散乱波動場を可視化するこ とを試みている 田中らは 31) 内在する未知の欠陥を同定するために境界要素法による定常 動弾性解析を実施している (4) 有限要素法 有限要素法は, 他の数値シミュレーションの方法に比べて, 任意の形状の欠陥を対象と した解析が容易であること, 入力についても任意の波形を用いることが可能であること, 結果としてられる超音波波動の伝播状況を画像化しやすいなどの特徴が挙げられる 有限要素法での基礎方程式は次式で表される M d Cd Kdp (3.3) ここに, M は質量マトリックス,C は減衰マトリックス, K は剛性マトリックス, p は 外力ベクトル, d は節点変位ベクトル, d は節点速度ベクトル, d は節点加速度ベクトル

28 である (3.3) 式の時間微分項の離散化には, 陰解法である Newmark のβ 法や Wilson のθ 法を用いて時間を離散化することにより, 最終的に得られる連立方程式の変位ベクト ル d に対して, 剛性行列 K に関する項が乗ぜられているため, 節点変位ベクトル d を 算出するためには, 節点変数と同程度の規模の多元連立一次方程式を解く必要がある 超音波が非常に高周波であるため各節点間距離は 10-1 mm オーダーにしなければならない このため実際の鋼部材の解析を行なおうとすると要素数, 節点数が膨大になり, 大幅な計算時間の増大やメモリ不足が心配される 劉 21) らは, 鋭い欠陥端部から発生する端部エコーの発生メカニズム, 及び端部エコーの特性と欠陥形状, 寸法との関係を数値シミュレーションと実験により検討している 林 24) らは, 斜角探触子により励起される薄肉円管の周方向に伝搬する波動を, 有限要素法を用いて解析している また, 結晶粒が超音波伝搬特性に及ぼす影響 25) について考察している 3.3 動的陽解法による超音波伝播解析 動的陽解法による超音波伝播解析プログラム UT-WAVE2 有限要素法は実際の超音波探傷試験で得られる受信波形を最も正確に予測することができることや超音波波動の伝播状況を画像化しやすいことから, 本研究では超音波伝播解析に有限要素法による解析手法を採用した 超音波探傷に用いられる弾性波の周波数は 1~ 5MHz のオーダーであり, 鋼中での縦波の伝播速度 ( 約 5900m/s) から計算される波長は 1~6mm 程度となる このように短い周期と短い波長を有する弾性波の伝播挙動を FEM で計算する場合, 細かいメッシュ分割と短い時間増分が必要となる 従来の陰解法 FEM では, 大規模な構造解析を行う際にメモリの使用量が要素数の 2 乗に比例して増加するため膨大なメモリが必要となり, メモリ容量が問題となる 一方, 陽解法を用いた FEM は, 短時間 ( 数秒以内 ) の動的な現象 ( 衝撃, 衝突など ) のシミュレーションに対して主に使用されており, 特に数十万要素以上の大規模なモデルに対して, 少ないメモリでかつ高速に解析できる特徴がある 本節では, 本研究で開発, 作製した動的陽解法による超音波伝播挙動解析シミュレーションプログラム UT-WAVE2 について説明する 有限要素法により空間的に離散化された運動方程式は (3.3) 式のように書ける M d C d K d p (3.3 再掲 ) n ここで, 23 n n n

29 M : 質量マトリックス,C : 減衰マトリックス, d n d n : 時刻 t n の加速度ベクトル,d : 時刻 t n n の速度ベクトル : 時刻 n t の変位ベクトル, p n : 時刻 t n の外力ベクトル K : 剛性マトリックス 有限要素法の定式化 36),37) は付録 A に示す この運動方程式を中心差分法 ( 陽解法 ) を採用して逐次数値積分する 中心差分法では 時間区間 tt, t 時刻 tt 2 および t t 2 において, 速度が一定であると仮定する での速度をそれぞれd, d n12 n 12 とし, 変位 d n で表せ ば速度と変位の関係は (3.4),(3.5) 式のように書ける d d n n d 1 n12 t (3.4) d d n 1 n d n12 t (3.5) 時刻 t での速度 d は, n d (3.4),(3.5) 式より d d n12 n12 (3.6) n 1 d d d n 2 n1 n1 2t また, 時刻 t での加速度 d は, n d (3.7) d (3.4),(3.5) 式より d n12 n12 (3.8) n t 1 d d 2d d n 2 n1 n n1 t (3.9) (3.7),(3.9) 式を (3.3) 式に代入し, 加速度および速度を変位で書き改め, 1 理すると次式が得られる d n について整 24

30 1 M n 1 n n n 1 2 C d p K M t t t d t M 2 t C d (3.10) 上式において,d n とd n1 が分かっているときに,d n 1 (3.10) 式において, 質量マトリックス が計算できる M と減衰マトリックスC が対角マトリックス 1 1 であるとするならば, 2 M C t 2t の逆行列を求めることなしにスカラー式で解くことが可能となる なお, 第 1ステップ目の (3.10) 式の右辺の計算には, d 0 の値が必要となるが, これは,(3.7), (3.9) 式において n 1と置いた式から d 2 を消去することにより得られる すなわち, 2 t d0 d1td 1 d 1 (3.11) 2 中心差分法はアルゴリズムが単純であるため,1 ステップあたりの計算時間が短く要素 形状をすべて同じとすると M, C を事前に計算してコンピュータのメモリに保存すれ ば, 計算効率は格段に向上し, 各時間ステップの計算時間が大幅に短縮できる その反面, ある時刻における変位は, その隣接する点の前の時刻における変位にしか影響されないため, 解析精度を維持するには時間ステップ t は以下のクーランの条件を満足する必要があ り, かなり小さなものとなる t L E (3.12) ここに, L は最小要素長さ, E はヤング率, は密度である 探触子のモデル化本研究では試験体だけでなく, 従来の超音波シミュレーションではモデル化していなかった, 探触子も Fig.3.1 に示すように有限要素にモデル化して時刻歴応答計算を行う 圧電型垂直探触子の構造を Fig.3.2 に示す 探触子は振動子にダンパー ( 吸音材 ) を取付けケースに挿入して作られる 振動子 ( 圧電子 ) に電圧を加えると電圧に応じて振動子が振動し, 試験体に弾性波が伝播する また, 弾性波が試験体から振動子に戻ってくると, 振動子の変形が圧電現象によって電圧に変換されて超音波の受信が可能となる仕組みである 25

31 Probe Damper X Transducer Specimen Fig.3.1 Finite element model Fig.3.2 Typical UT sensor 超音波の伝播挙動を調べるためには, その送信波形をモデル化することが必要である 超音波探傷試験に用いられる超音波には, パルス波と連続波があるが, 現在ではパルス波が広く用いられている 波数が 1 波または 2 波のパルスを発生する広帯域探触子と波数が 3~5 波のパルスを用いた狭帯域探触子とがある 本解析では広帯域探触子を想定して, Fig.3.1 の振動子部の全要素に温度の時間変化を sin 半波のパルス波の波形を与え, その体積膨張から圧力変動を発生させることにより, 振動子から発信される波形を生成する 入力波形を Fig.3.3 に示す また, 受信波形は振動子上面と下面の対応する節点の相対変位の平均値で表す 26

32 Signal E E E 06 Time(sec) Fig.3.3 Incident waveform 探触子に組み込まれている振動子やダンパーの減衰を正確に評価することにより, 発生 する弾性波の波形を実波形に近いものすることが可能となる しかし, 振動子やダンパー の物性値は探触子メーカーのノウハウとなっており物性値を知ることはできない 有限要 素法による振動解析では, 減衰マトリックスの与え方として, モード解析法を適用したモ ード減衰比を与える方法や減衰係数が質量に比例するとして比例減衰を与える方法, 剛性 に比例するとして与える方法, あるいはその両者の一次結合によって表されると仮定して 与える方法等 38) が用いられる 本研究では, 減衰マトリックスが質量マトリックスに比例するものと考え, 比例定数 を用いた (3.11) 式の質量比例型の減衰係数を与える C M (3.11) p 次の臨界減衰係数 ccrp は, 質量 mp と剛性係数 k を用いて p c 2 m k crp p p (3.12) で与えられる 今, 振動子が固有振動数 (3.12) 式より f p で励振されていると考えると, k p ccrp 2 mpkp 2 mp 2pmp 4 fpmp (3.13) m p (3.11) 式より, p 次の臨界減衰係数 ccrp は, c crp cr m p であるので m 4 f m cr p p p ゆえに, 比例定数 は, 4 f cr p cr (3.14) 27

33 となる 本シミュレーションでは, 実際の探傷試験で計測された波形と数値シミュレーションにより得られた波形が一致するように, 振動子およびダンパーの減衰係数 c p, c d と臨界減衰係数 ccr との比 を与えている 振動子 : c p c cr p cr ダンパー : c d c cr d cr 探触子と試験体の結合条件と試験体の無反射条件解析モデルの概要を Fig.3.4, 計算で用いた探触子を構成する材料の物性値を Table3.1 に示す 欠陥位置の上下の要素の節点を結合しないことでき裂を表現している また, 実際の超音波探傷では, 探触子から試験体に超音波を効率的に伝えるために探触子と試験体との接触面に水やグリセリンなどの接触媒質を塗布しているが, この状況をモデル化するために, 接触面での垂直方向変位を結合させ, 面内方向変位はスライド条件とすることにより実際の探傷を模擬する シミュレーションにおいては, 接触媒質層の影響は小さく無視できると考え, 接触媒質層は設けていない また, 計算メモリを縮小するために, 試験体の幅方向には限定した領域を解析範囲とし, 試験体解析領域の両端から反射波が戻ってこないように, 試験体解析領域の両側面部に減衰の大きな仮想の要素を追加している Damper Piezo Probe Contact surface Specimen Defect Attenuation domain (a) Simulation model (b) Modeling of the defect Fig.3.4 Overview of the Calculation model 28

34 Table 3.1 Material Property Density Young's modulus Poisson's ratio ρ [ 10 3 kg/m 3 ] E [MPa] ν Specimen , Piezo , Damper , Sonic velocity C L [m/sec] 5,940 4,820 2, 垂直探傷数値シミュレーションの精度検証作製した動的陽解法による超音波伝播シミュレーションプログラム UT-WAVE2 の解析精度について, 要素サイズが解析精度に及ぼす影響 要素形状が計算精度に及ぼす影響ついて調べた さらに, 超音波探傷試験との比較によるシミュレーションの精度検証として以下の項目について検証した (1) 垂直反射試験による受信波形の比較 (2) 垂直反射試験によるエコー高さの比較 (3) 垂直透過試験によるエコー高さの比較 (4) 垂直反射 2 探触子試験によるエコー高さの比較 (5) 垂直透過 2 探触子試験によるエコー高さの比較 (6) 切り欠き付き試験によるエコー高さの比較 (7) ブローホール試験によるエコー高さの比較検証結果の詳細は付録 B に示すが, 得られた検証結果は次の通りである 要素サイズは超音波の 1 波長の 1/24 以下の要素サイズで計算すれば精度よく反射波をシミュレートできる 要素形状が解析精度へ与える影響は非常に小さい 垂直反射試験により試験体裏面からの反射波形について, 数値シミュレーションにより得られた波形と試験で計測された波形を比較した結果, 裏面からの反射波形は到達時刻, 波形とも良く一致している 板厚を変化させて裏面からの反射波のピーク高さがどのように変化するかについて, 数値シミュレーション結果と試験結果を比較した結果, 反射波のピーク高さは試験と計算では 1.5dB 程度の誤差範囲で一致した結果が得られた 垂直反射 2 探触子試験では, 受信側探触子を移動させて裏面からの反射波のピーク高さ 29

35 がどのように変化するかについて, 計算と試験の結果を比較した 試験と計算は 2.5db 程度の誤差範囲で一致している 切り欠き試験について試験と計算のエコー高さの比較を行った 試験でノイズの影響が大きくなり探傷限界に近づいた場合を除き, 計算結果は反射波の到達時間, 音圧レベル, 反射波形とも試験結果を比較的よくシミュレートできていることを確認した ブローホール試験とシミュレーションの比較を行った 解析と試験値は 1dB 以内で一致していることを確認した 以上より, 作製した UT-WAVE2 の計算結果は超音波の反射波形, 到達時間, 音圧レベルともに試験結果を精度良くシミュレーションできていることが確認できた 超音波伝播挙動の可視化超音波探傷試験においては, 検査対象構造物の内部を超音波がどのように伝播するかを見ることはできないが,FEM を用いた超音波伝播シミュレーションでは超音波の伝播挙動を可視化することが可能である 超音波伝播の可視化により, 複雑な構造物内での超音波の伝播を視覚的に把握し, 効率よく欠陥を検出するための探触子位置や周波数, 屈折角等の探傷条件の検討が可能となる さらに, 受信波形が欠陥からの反射波であるかどうかの判別が可能となる 超音波伝播解析プログラム UT_WAVE2 では, 要素応力を計算し, 主応力を平均することで圧力を求めている UT_WAVE2 で計算された圧力を, 汎用の画像表示ソフト Micro AVS を使用して圧力分布を表示することにより, 超音波の縦波の伝播挙動を可視化した Fig3.5 は垂直探傷法における縦波の伝播挙動の可視化例を示している 欠陥が無い場合の垂直反射試験の縦波の伝播挙動を Fig.3.5(a) に示す 探触子から発信された縦波が試験体内を伝播し, 裏面で反射して探触子に戻ってくる様子が可視化でき, 検査対象構造の内部を超音波がどのように伝播するかを見ることが可能となった Fig3.5(b) は試験体内部に水平欠陥が存在する場合の超音波の伝播挙動である 探触子から発信された縦波が試験体内部を伝播し, 欠陥位置で超音波が反射している様子が可視化されている 30

36 (a) Visualization results by MICRO-AVS (without crack) (b) Visualization results by MICRO-AVS (with crack) Fig.3.5 Visualization of the propagating behavior of longitudinal wave また,Fig.3.6 には斜角探傷法における横波の伝播状況を可視化した例を示す モデル作成の都合上, 探触子と試験体が離れているが, 探触子と試験体が接触する探触子下面と試験体表面上の対応するそれぞれの節点において, 垂直方向変位を結合し面内方向変位はスライド条件としており, 計算上問題とならないようにしている 一般に斜角探傷試験では横波が用いられる 横波は剪断波であり, 剪断応力を計算して出力することで横波が可視化できると考えられるが, 剪断応力では可視化できない そこで, 変位の回転を (3.15) 式を用いて求め可視化した 31

37 ω x y ここで, u : x 方向の変位, v : y 方向変位 (3.15) Fig.3.6 Visualization results by MICRO-AVS (shear wave) 3.4 音源重ね合せ超音波伝播シミュレーション手法超音波探傷における超音波の周波数は 1~5MHz と高い周波数を用いるため, 有限要素法を用いた超音波伝播シミュレーションでは, 解析精度を保証するための要素サイズは, 波長の 1/24 以下と非常に細かい要素サイズにする必要がある そのために短い時間増分で計算を行うことが必要となる また, 斜角探傷試験のシミュレーションを行う場合, 超音波を斜めに送受信するため, 超音波の伝播距離が長くなることから試験体モデルの解析領域も大きくなるため, 大規模な計算となり膨大な計算時間を要するという問題がある これを補う手段として, 点音源群の重ね合わせ法をベースとしたシミュレーション手法が提案され, 超音波探傷実験および FEM 計算結果との比較によって精度検証がなされている 39),53) 本節では, 音源重ね合わせ法 (Superposing method, SPM) による数値シミュレーション手法, および計算精度について簡単に述べる 音源重ね合せ超音波伝播シミュレーション (SPM 法 ) Fig.3.7 に示すように超音波を送受信する探触子の振動子面 (Surface 1), 探触子と探傷面との接触面 (Surface 2), 欠陥面 (Surface 3) のみを考慮し, それぞれを有限個の微小領域に分割し, 各微小領域の中点を音源の代表点として面上に並ぶ点音源群の集合として取り扱う それらの点音源全てが送受信を行うものとし, 受信点が他の全ての送信点から受け取る音圧を逆方向に追跡して, 伝播経路と伝播距離による減衰である拡散減衰を理論式に基づいて計算し, 得られる音圧を重ね合せることで受信点の音圧を求める このとき 32

38 各音圧は時間の情報を含むため, 点音源間の距離の違いにより位相のずれが発生すること になる Fig.3.7 の図中に示す矢印が超音波の伝播経路を示しており, 振動子 (Surface 1) から発信 された超音波が探触子と探傷面の接触面 (Surface 2) を通って欠陥面 (Surface 3) に到達し, 反射後, 再び Surface 2 を通って振動子 (Surface 1) に到達する 振動子の各受信点で受信 された音圧の平均値を受信波形とする 本シミュレーション手法は 2 次元問題として取り扱うため, 音波のエネルギーは平面を 同心円状に円筒波として拡がっていくものとしている 音源からの距離が r である円状の波面の単位面積におけるエネルギー W は, 音源から放射されるエネルギーをW 0 として W W r r 0 2 で表されるが, その箇所での音圧は r は r の平方根に反比例する r W に比例するので, 円筒波の音圧 Pr Test specimen Defect (Surface3) Angle probe Transducer (Surface1) 4 Inspecting surface (Surface2) Fig.3.7 Image of divided sound point for angle beam ultrasonic testing Fig.3.8 に例として1つの送信面および受信面の点音源群を表す図を示す n 個の微小区分領域 s1,1, s1,2,, s1, n に分割した送信面から m 個の微小区間領域 s2,1, s2,2,, s2, m に分割 s j m が時刻 t に送信面 した受信面に超音波が伝播するとき, 任意の受信区分領域 から伝達する音圧 Ps2, j, t は次式により算出される 2, j 1 n ri, j ds1, i Ps2, j, t ps1, i, t i cos1 cos2 i1 C 2 r (3.16) i, j ここで, r i, j は s 1, j と s 2, j との距離,C は媒質中の音速, ds 1, j は送信区分長さ, 1 は伝播経路方向に垂直な面と送信区分領域のなす角, 2 は伝播経路方向に垂直な面と受信区分領 33

39 域のなす角である また, は受信側区分領域の裏面への入射を除去するための項で, i Fig.3.8 に示すように, 超音波ビームに対して欠陥面の裏側に位置する区分領域にはビームが到達しないため, 伝播経路方向のベクトル と区分領域の法線ベクトル n の内積をとり, (6.2) 式で表される項を導入して判別している 1 n 0 i (3.17) 0 n 0 s1,1 s1, 2 s1, 3 s 1,i transmitting s 1, n n s 2,1 s s 2,2 2, 3 receiving s 2,m r The course of transmitting to the back of surface Fig.3.8 Processing of ultrasonic propagation to back side 斜角探傷試験結果との比較による SPM 法の精度検証 SPM 法による超音波シミュレーションの妥当性を検証するため, 人工欠陥試験体を用いた斜角探傷試験を行い, シミュレーション結果との比較を行った結果を示す (1) 試験方法人工欠陥試験体の外観を Fig.3.9 に示す 試験体は機械加工を容易にするために試験体端面を欠陥面と同じ角度になるようにあらかじめ加工し, 斜めに加工した面から機械加工で欠陥を加工したものである 試験体幅 (100mm) に欠陥長さ 10mm, 厚み 20mm の帯状に切り欠きを入れた試験体で, 欠陥幅を無限大とした 2 次元欠陥を模擬したものである 試験体の切断面の角度を変えることで欠陥の傾きαを 45 度,50 度,60 度,70 度に変えている 探傷面となる試験体表面と欠陥中心との距離 ( 欠陥深さ ) を 21.2mm としている 試験は, 周波数 2MHz, 振動子寸法 10 10mm, 屈折角 45 度の斜角探触子を用いて, 試験体表面上の幅中央位置で, 欠陥に対して探触子を前後に移動させることで欠陥からのエコー高さの変化を捉えた エコー高さは, 深さ 21.2mm の位置に加工したφ3mm の貫通横穴 ( 標準欠陥 ) から得られたエコー高さを基準とした相対エコー高さとして求めた 34

40 Defect surface ,50,60,70deg Fig.3.9 Appearance of test specimen (2) 計算モデルと計算条件試験体に対応した計算モデルを Fig.3.10, 計算条件を Table 3.2 に示す 欠陥の傾きα は,45 度,50 度,60 度および 70 度の 4 種類である 探触子は実際の試験に使用されている周波数 2MHz, 振動子寸法 10mm, 屈折角 45 度,60 度,70 度の斜角探触子を想定してモデル化した 欠陥中心位置を基準に探触子を前後方向に走査 (Fig3.10 において左右方向 ) させ, 探触子位置と各位置における欠陥からのエコー高さの最大振幅を求めた なお, 探傷面より深さ 21.2mm の位置にあるφ3.0mm の横穴欠陥に対するエコー高さを計算により求めこれを基準エコー高さとしている 領域分割幅は波長の 1/2 以下に設定すれば計算精度を保つことができることがわかっている 以降では領域分割幅は 0.3λ(λは波長 ) として計算を行う なお,SPM における受信波形は入力波形の精度によって変化する 精度の良い受信波形を得るためには, 実験で得られた計測波形を正確に再現して入力波形とすることが重要である 以下のシミュレーションでは, 実験で得られた計測波形を入力波形としシミュレーションを実施している 45,50,60,70deg Fig.3.10 Calculating model for angle ultrasonic testing 35

41 Table 3.2 Calculating condition Probe Defect Frequency f (MHz) 2 Transducer size B (mm) 10 Refraction angle θ (deg) 45,60,70 Length 2a (mm) 10 Depth d (mm) 21.2 Gradiend α (deg) 45,50,60,70 (3) 計測結果と計算結果の比較得られたエコー高さの変化の結果を Fig.3.11 に示す Fig.3.11(a) は欠陥角度 45 度に対して屈折角 45 度の探触子で,Fig.3.11(b) は欠陥角度 70 度に対して屈折角 70 度の探触子で探傷した場合で, 欠陥中心を狙ったときに欠陥面への超音波の入射角は 0 度 ( 垂直入射 ) となる シミュレーション結果は実験結果とよく一致している Fig.3.11(c)~Fig.3.11(e) は欠陥中心を狙ったときに超音波の入射角が欠陥面に対して 0 度 ( 垂直入射 ) にならない場合である シミュレーション結果は実験結果とよく一致していることがわかる Fig.3.11(d) および Fig.3.11(e) に示すように, 欠陥面への入射角が 15 度,25 度となると欠陥面からのエコーは低く, 逆に欠陥端部付近を狙ったときにエコー高さのピークが得られる, これは一般に端部エコーと言われているものである (a) Incident angle 0 deg. (α=45 deg.,θ=45 deg.) (b) Incident angle 0 deg. (α=70 deg.,θ=70 deg.) 36

42 (c) Incident angle 5 deg. (α=45 deg.,θ=50 deg.) (d) Incident angle 15 deg. (α=45 deg.,θ=60 deg.) (e) Incident angle 25 deg. (α=50 deg.,θ=45 deg.) Fig.3.11 Relation between probe position and echo amplitude (f=2mhz) SPM 法を用いた超音波伝播挙動の計算は FEM 計算に比べて約 1/1000 の時間でシミュレーションすることができる SPM 法による数値シミュレーションを用いることで, 予想される欠陥を想定し, 探触子の周波数や屈折角等の探傷条件を変更したり, 対象とする欠陥の性状をパラメータとするシリーズ計算を短時間で実施することが可能である 37

43 3.5 結言本章では超音波の伝播シミュレーションを行うために開発した, 動的陽解法を用いた超音波伝播挙動解析プログラム UT_WAVE2 について説明した さらに, 垂直探触子を用いた超音波探傷試験結果と比較して解析精度の検証を行い以下の結果を得た (1) 要素サイズは超音波の 1 波長の 1/24 以下の要素サイズで計算すれば精度よく反射波をシミュレートできる (2) 要素形状が解析精度へ与える影響は非常に小さい (3) 垂直反射試験により試験体裏面からの反射波形について, 数値シミュレーションにより得られた波形と試験で計測された波形を比較した その結果, 裏面からの反射波形は到達時刻, 波形とも良く一致している (4) 板厚を変化させて裏面からの反射波のピーク高さがどのように変化するかについて, 数値シミュレーション結果と試験結果を比較した その結果, 反射波のピーク高さは試験と計算では 1.5dB 程度の誤差範囲で一致した結果が得られた (5) 垂直反射 2 探触子試験では, 受信側探触子を移動させて裏面からの反射波のピーク高さがどのように変化するかについて, 計算と試験の結果を比較した 試験と計算は 2.5db 程度の誤差範囲で一致している (6) 切欠き試験について試験と計算のエコー高さの比較を行った 斜め欠陥の場合には, 受信側探触子が切り欠きの右側にあるときには, 計算は試験結果と良く一致しているが, 左側にあるときは試験結果と一致していない結果も得られた 試験でノイズの影響が大きくなり探傷限界に近づいた場合を除き, 計算結果は反射波の到達時間, 音圧レベル, 反射波形とも試験結果を比較的よくシミュレートできていることを確認した (7) ブローホール試験とシミュレーションの比較を行った 解析と実験値は 1dB 以内で一致していることを確認した (8) 画像作成ソフト Micro AVS を使用して超音波の伝播挙動を可視化した その結果, 検査対象構造の内部を超音波がどのように伝播するかを見ることが可能となった 以上のことより, 開発した超音波伝播シミュレーションプログラム UT_WAVE2 の計算結果は反射波の到達時間, 音圧レベル, 反射波形ともに試験結果を精度よくシミュレーションできていることが確認できた 本プログラムは超音波探傷試験における欠陥検出の向上を図るための探傷条件の検討や, 欠陥性状の同定に関する定量的な情報を得るための探傷法の検討などに適用でき, 探傷技術の高度化, 高精度化を図るための有力なツールとして利用できる 次に, 音源重ね合わせ法 (Superposing method, SPM) による数値シミュレーションの手法について説明した SPM 法による超音波シミュレーションの妥当性を検証するため, 38

44 人工欠陥試験体を用いた斜角探傷試験を行ない, シミュレーション結果との比較を行なった結果を示した 得られた結果を以下に示す (1) 斜角探傷試験の計測結果と SPM 法を用いたシミュレーション結果はよく一致する結果が得られた (2) 欠陥端部で生じる端部エコーが SPM 法を用いてシミュレーション可能である (3) SPM 法を用いた超音波伝播挙動の計算は FEM 計算に比べて約 1/1000 の時間でシミュレーションすることができ大幅に計算時間の短縮が図れる 以上のことより,SPM 法による数値シミュレーションを用いることで, 予想される欠陥を想定し, 探触子の周波数や屈折角等の探傷条件を変更したり, 対象とする欠陥の性状をパラメータとするシリーズ計算を短時間で実施することが可能である 39

45 第 4 章超音波探傷試験による欠陥寸法評価 4.1 緒言 超音波探傷試験は, 材料, 溶接部および構造物の内部の欠陥を検査するために, 検査対 象に超音波を伝播させ, 欠陥からの反射波を検出し, 検査対象内部の欠陥の有無, 欠陥位 置や大きさを推定している しかし, 一般に超音波探傷による欠陥の種類や形状を高精度 に推定することは容易ではない 目に見えない欠陥の有無や欠陥性状を計測波形に基づい て評価を行うため, 欠陥の評価には豊富な経験と労力を必要とし, 実際の評価結果には大 きなばらつきが存在している 2),12) また, 波形の解釈に幾分任意性があるので客観性が弱 いという問題もあり, 計測技術者の能力や判断に大きく依存しているのが現状である さ らに, 計測技術者の高齢化に伴って, 熟練技術者の不足が懸念されており, 検査技術者の 個人的な技術レベルに依存しない客観的で精度よい欠陥同定技術の確立が望まれている 近年, 海上貨物輸送の需要増加を背景にコンテナ船の大型化が進んでいる これにとも なって, 船体強度を確保するために甲板構造へ 50mm を越える極厚板が使用されることが 多くなった 鋼板は板厚が厚くなると靭性が低下する傾向にあり, 脆性破壊に対する安全 対策に十分配慮する必要がある 例えば, 溶接継手部に一旦発生した疲労き裂や初期内在 欠陥が就航期間中に受ける波浪曲げモーメントによる繰り返し荷重によって成長し, 限界 寸法に達したときにき裂が停止せずに直進し, 船体を 2 つに分断するような大規模な脆性 破壊に至る可能性がある このような事故を防ぐためにも, 初期溶接欠陥や疲労き裂の検 出およびそれらの欠陥の寸法測定精度の向上が必要である 欠陥寸法を精度よく測定することは, 欠陥を有する部材の安全性評価や余寿命予測の精 度を向上させるために重要である 欠陥の寸法が正確に測定できれば, 発生応力, 材料の 破壊靭性値, き裂進展速度などから, 破壊力学の手法を用いて構造の健全性を評価するこ とができる 40) 構造物にある大きさのき裂が存在するとき, 構造物に作用する荷重によっ て発生する応力がある大きさを越えると, き裂を起点にして破壊が発生する 簡単な例と して, 無限板に長さ 2a の貫通き裂が存在し, き裂から十分に離れた位置において, き裂に 垂直方向に引張応力 が発生しているとき, 応力拡大係数 K は K a (4.1) と表される 応力拡大係数は引張応力 とき裂長さ 2a によって決まる 破壊発生条件は 部材寸法に無関係に (4.2) 式により記述できる 41) K K C (4.2) KC は破壊靭性値と呼ばれる材料の物性値である したがって, 超音波探傷試験によりき 40

46 裂の長さ 2a を測定し, 応力拡大係数を算出することにより, 構造物の安全性評価を行なうことができる 精度の高い構造物の安全性評価を行うためには, 超音波探傷試験における欠陥検出率の向上とともに, 精度の高い欠陥寸法測定法を適用しなければならない そのために, 欠陥性状による反射エコーの違いや探傷方法および使用する探触子の周波数, サイズ, 屈折角等の探傷条件の違いが探傷結果に与える影響を調べることは探傷結果の信頼性向上に役立つと考えられる しかしながら, 欠陥寸法の推定精度が探触子の種類や欠陥サイズによってどの程度変化するかについての詳細な情報は得られていないのが現状である また, 欠陥寸法の評価にはしきい値法, デシベルドロップ法や端部エコー法が適用されているが, その適用性について検証する必要がある 本章では,4.2 節で垂直探傷試験による欠陥寸法評価手法ついて説明し, 水平欠陥を対象に振動子サイズ, 探触子周波数, および欠陥位置や寸法が異なる場合のシミュレーションを実施し, 欠陥からの反射波の大きさがどのように変化するかを調べた さらに, 欠陥の長さを推定する方法の 1 つである垂直探触子を用いたデシベルドロップ法による欠陥検出限界や欠陥寸法の推定精度について検討した 4.3 節で斜角探傷試験によるデシベルドロップ法および端部エコー法による欠陥長さ推定精度について検討した 4.2 垂直探傷試験による欠陥寸法評価 垂直探傷試験の基本垂直探傷は Fig.4.1 に示すように, 試験体の表面に対して垂直に超音波が入射するように探触子を配置し, 接触媒質を介して試験体中に超音波を伝播させ, 欠陥や底面からの反射波の強さや伝播時間から欠陥の有無や位置, 大きさを測定するものである 受信信号の横軸は時間軸であり, 超音波パルスが試験体に入射されてから反射波が戻ってくる時間を表す この時間に試験体の音速を乗じることで, 試験体表面から欠陥までの距離を求めることができる 実際には, 寸法および位置の分かった欠陥を有する標準試験片 ( 対比試験片 ) を用いて時間軸を調整することにより, 試験体表面から反射源までの距離を求めている 縦軸はエコーの強さを表し, 反射波が強いほどエコー高さは高くなり, 小さければ低くなる 逆に探傷感度を高めることによりエコー高さは高くなり, 感度を低下させればエコー高さも低くなる 欠陥の探傷を行うとき, 標準試験片などにより, 適切な探傷感度に調整し欠陥を評価する必要がある 41

47 ultrasonic beam normal probe WF transducer test surface defect damper WB echo height bottom echo flaw echo specimen 0 WF time bottom surface WB Fig.4.1 Straight beam technique 垂直探傷試験は鋼板や鍛鋼品に対して適用されることが多い 鋼板の欠陥には内部欠陥と表面欠陥があるが, 超音波探傷の対象となるのは内部欠陥である 内部欠陥の多くはスラグ製造時の気泡や非金属介在物が原因である 一般に鋼板の欠陥は圧延により延ばされ板面に平行に扁平になるので垂直探傷が行われる 鍛鋼品は鋼塊や鋼片を加熱し, これをプレスやハンマーを用いて鍛錬し, 目的の形状に成形される 主なものにタービンのローター材や大型エンジンのクランク軸, 発電用設備のシャフト, 船舶用シャフトなどがある 鍛鋼品で超音波探傷の対象となるのは大型のものが多い また,T 継手などの溶接部を垂直探傷する方法が規定 42) されており必要に応じて垂直探傷が実施される 欠陥の評価法超音波探傷試験の目的は, 欠陥の検出, 欠陥位置の測定, および欠陥の性状 ( 種類, 形状, 寸法など ) の測定である ここでは, 垂直探傷における欠陥の評価の方法として欠陥の検出, 欠陥の位置, 寸法の測定方法について説明する (1) 距離振幅特性曲線試験体中を伝播する超音波のビーム路程が長くなると, 超音波の音圧は次第に弱くなる 同じ形状 大きさの欠陥であっても, ビーム路程が長くなると反射エコー高さは小さくなる これを距離振幅特性という ビーム路程によるエコー高さの変化を示す曲線を距離振幅特性曲線という 超音波探傷試験で欠陥を評価する場合には必ず距離振幅特性を考慮しなければならない 距離振幅特性曲線は標準欠陥を種々の距離から探傷して, それぞれのエコー高さをプロットし, それらを結ぶことによって作成する 13) 42

48 距離振幅特性曲線の例を Fig.4.2 に示す 標準試験片 STB-G V2 φ2mm の平底穴の最大エコー高さを 80% になるように探傷器の感度を調整し, 探傷器の感度を変えずに標準試験片 STB-G V3,V5,V8,V15-2 を探傷して, 各 φ2mm の平底穴の最大エコー高さをプロットし, プロット点を直線で結んだものである なお, 使用した探触子は周波数 5MHz, 寸法 10mm の垂直探触子である 距離振幅特性曲線は, 距離によるエコー高さの変化を示す曲線であり, 周波数, 振動子寸法により異なる したがって, 探傷に使用する探触子を用いて距離振幅特性曲線を作成する必要がある 100 Relative echo height Distance(mm) Fig.4.2 Example of Distance-Gain-Size diagram 距離振幅特性曲線を 6dB ステップ間隔で描いた線をエコー高さ区分線といい, 欠陥エコー高さを領域で区分して評価する際に用いられる 超音波探傷試験において欠陥として評価の対象とするエコー高さの最低限レベルを検出レベルといい, このレベルを超えるエコーが現れたときに欠陥の位置や大きさなどを測定し, 補修などの処置を決めることになる エコー高さ区分線は実際に探傷試験で使用する探傷器, 探触子を用いて作成する 垂直探傷のエコー高さ区分線の作成手順は Fig.4.3 に示すように標準試験片などを用いて図中に示すような位置で探触子を走査し, それぞれ最大エコー高さのピーク位置を目盛板にプロットし, これらの 4 点を直線で結んで一つのエコー高さ区分線とする エコー高さ区分線は1 本または複数とし, 複数の場合は 6dB ずつ異なるエコー高さ区分線を 3 本以上作成する 領域区分は作成したエコー高さ区分線のうち下位から 3 番目以上の線を H 線とし, H 線より 6dB 低いエコー高さ区分線を M 線,12dB 低いエコー高さ線を L 線とする エコー高さ領域区分 H 線,M 線及び L 線で区切られたそれぞれの領域をエコー高さ領域 Ⅰ, Ⅱ,Ⅲ 及びⅣと区分する エコー高さ区分線の作成例を Fig.4.4 に示す L 線より高いエコーを欠陥とする 43

49 3 2 4 Fig.4.3 The probe position for making curves for dividing pulse amplitude % Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ M L H Fig.4.4 Example of curves for dividing pulse amplitude (2) 欠陥深さの測定超音波を探傷面に対して垂直に伝播させて欠陥エコー高さが最大となる探触子位置およびビーム路程 ( 伝播時間 ) を求める このときの探触子位置が欠陥の位置であり, ビーム路程が欠陥の深さ位置となる (3) 欠陥長さの測定探触子を試験体表面に沿って水平に移動させて欠陥エコーが出現する範囲, すなわち, エコーの高さが一定値以上ある範囲の探触子移動距離を求めることにより欠陥長さを測定している この測定法は大別して, しきい値法とデシベルドロップ法の 2 つがある i) しきい値法標準試験片や対比試験片の欠陥を基準にして感度のレベルを決めて, 欠陥エコー高さがその線を越える範囲を欠陥の長さとする方法をしきい値法と呼んでいる 13) しきい値法は, Fig.4.5 に示すように欠陥からの最大エコー高さとは無関係に, エコー高さが予め定めたしきい値以上で現れる範囲を欠陥長さとする方法である 測定手順が機械的であるため, 測 44

50 定値に技術者の主観が入らず, 技術者のミスが少ないが, 技術者の熟練度合いや検査環境 等により欠陥エコー高さが異なることからエコー高さ変化の影響を受けやすいといわれて いる Echo height Length of defect threshold Position of probe Ultrasonic beam Defect probe Fig.4.5 Defect length measurement method by the normal beam method (Threshold level method) ii) デシベルドロップ法デシベルドロップ法は,Fig.4.6 に示すように欠陥からの最大エコー高さを基準として, エコー高さが De デシベル低下する範囲を欠陥長さとする方法である 13) この De 値は通常 6dB が用いられるが,10dB,12dB 及び 20dB が採用される場合もある この方法はエコー高さ変化の影響を受けにくいが, 欠陥の形状や傾きを予め調べ適切な De 値を決めることが必要である また, 技術者によって検出する最大エコーの位置や高さが異なり, 技術者の主観が入りやすいといわれている さらに, 探触子に近い位置すなわち表面に近い位置に存在する欠陥に対しては適用できないとされている その理由は, 探触子の振動子近くで形成される音圧の変化が複雑であり, 中心軸上で音圧が最大となるとは限らないため, 最大エコー高さを示す探触子位置から欠陥位置を正確に測定できるとは限らないためである 45

51 Echo height Length of defect Max. echo height De(dB) Position of probe Ultrasonic beam Defect probe Fig.4.6 Defect length measurement method by the normal beam method (Decibel drop method) 水平欠陥におけるエコー高さの変化探触子から伝播する超音波は, 試験体内部で広がりその角度は振動子の大きさや励振振動数によって変化する 探触子の種類や欠陥長さ, 深さによってエコー高さがどのように変化するかについての詳細な情報は得られていない 本節では,3 章で説明した SPM による超音波伝播挙動シミュレーションを用いて, スリット状欠陥を対象として, 垂直探傷における欠陥長さ推定精度について, 振動子サイズ, 探触子周波数, および欠陥位置や長さが異なる場合のシミュレーションを実施し, 欠陥からの反射エコー高さがどのように変化するかを調べた (1) 解析モデルと計算条件 Fig.4.7 に解析モデルを示す 試験体表面から深さ d の位置に, 長さ 2a の水平スリット欠陥があるとする 振動子幅 B, 周波数 f の探触子を試験体表面に沿って移動させて, 探触子が欠陥中央から距離 c の位置での欠陥からの反射波のピーク値を計算した Table 4.1 に数値計算を行った探傷面からの欠陥深さ, 振動子の幅, 探触子周波数の組合せを示す 欠陥長さは 3mm~25mm の 7 通りとした 46

52 B Probe c Specimen d 2a Defect Fig.4.7 Relative position between the probe and the defect Table 4.1 The parameters in each calculation cases Probe Defect Frequency f (MHz) 2, 5 Transducer size B (mm) 5, 10, 20 Length 2a (mm) 3, 5, 7, 10, 15, 20, 25 Depth d (mm) 10, 20, 30, 40 (2) 計算結果およびエコー高さの変化 計算結果を Fig.4.8 から Fig.4.14 に示す 図の横軸は,Fig.4.7 に示す欠陥中央の位置と 探触子中央位置の水平相対距離 c であり, 縦軸は,(4.3) 式で計算される反射波の最大振幅の無次元値 PR を示す Pc x PR 20log10 (4.3) Pc 0 ここに, P cx は c xにおける反射波のピーク値であり, P c0 は c 0 ( 欠陥中心直上 ) での反射波のピーク値である 計算結果の一部を Fig.4.8 に示す Fig.4.8 (a)~(d) は周波数 2MHz, 振動子幅 10mm で欠陥深さを 10mm から 40mm まで変化させた結果である 探触子が欠陥中央から欠陥端部に移動すると欠陥エコー高さは小さくなっている 欠陥からの反射波の最大振幅は, 探触子が欠陥中心直上にあるとき最大となり, 欠陥中心位置から遠ざかるにつれて欠陥からの反射波が減少する これより欠陥エコー高さが最大となる探触子位置が欠陥位置と判断することができる また,(a) 図 ~(d) 図を比較すると欠陥深さが深くなるほど探触子が欠陥中央から欠陥端部に移動すると欠陥エコー高さの減少率が小さくなっていることがわかる これは欠陥が深くなるに従って超音波ビームの拡がりが大きくなり, 欠陥に当たる超音波 47

53 の面積の割合が大きくなることが影響していると考えられる エコー高さが欠陥中心直上での反射波のピーク値より 6dB 低下したラインに注目すると, 欠陥長さが 10mm 以上の場合, 反射波のピーク値が最大となる位置からピーク値が 6dB 低下する位置までの探触子移動距離 c の 2 倍が欠陥長さと一致することがわかる 欠陥長さが 10mm 以下の場合には, 欠陥長さより探触子移動距離 c を 2 倍した長さより長くなっていることがわかる これは, 振動子幅に比較して欠陥寸法が相対的に小さくなると, 欠陥からの反射波は小さくなるものの, 欠陥端部からの反射波の影響によりエコー高さが高くなり, エコー高さが 6dB 低下する探触子位置が拡がるためと考えられる (e) 図は周波数 2MHz, 欠陥深さ 20mm で振動子幅が 5mm の場合の結果である 欠陥深さが同じ (b) 図と比較するとエコーの減少率は (b) 図ほど大きくはない これはビームの拡がり, すなわち指向性は振動子幅が小さいほど鈍くなるためビームが欠陥に当たる面積の割合が大きくなるためである また, 欠陥が長い場合にエコー高さが欠陥の中心位置ではない位置で最大になっている 欠陥が短い場合は基準エコー ( 探触子が欠陥中心直上にあるときのエコー高さ ) に欠陥端部のエコーも含まれているが, 欠陥が長くなると欠陥の端部から返ってくるエコーの影響が相対的に大きく現れるためと考えられる (f) 図は周波数 2MHz, 欠陥深さ 40mm で探触子幅を 20mm とした場合の結果である エコー高さが 6dB ドロップ低下したラインに注目すると欠陥長さが 20mm 以下の場合では欠陥が小さいほど過大に評価されることがわかる これは振動子幅が欠陥長さより大きく, 欠陥端部からの反射波の影響によりエコー高さが高くなり, エコー高さが 6dB 低下する探触子位置が拡がることにより欠陥寸法を過大に評価することになっていると考えられる (g) 図は周波数 5MHz, 振動子幅 5mm で欠陥深さ 20mm でとした場合の結果である 周波数 2MHz の (e) 図と比較するとエコー高さの減少率が大きいことがわかる 周波数が高いとエコーの拡がりが小さい, すなわち指向性が鋭くなりビームが欠陥に当たる面積の割合が小さくなるためである (h) 図は周波数 2MHz, 振動子幅 20mm で欠陥深さ 20mm でとした場合の結果であり, 他の場合と異なった結果となった この場合の探傷条件は欠陥位置がいわゆる近距離音場の範囲内にある条件となっている 近距離音場では音圧の変化が複雑であり, 振動子の中心軸上で音圧が最大になるとは限らず, 探触子のわずかな移動でエコー高さが大きく変化したものと考えられる このような条件の場合には欠陥長さの測定にはデシベルドロップ法を適用することはできないことがわかった 48

54 non-dimensional echo height: P R [db] a 3mm 5mm 7mm 10mm 15mm 20mm 25mm Distance between the probe and the center of defect : c [mm] (a) f = 2 MHz, B = 10 mm, d = 10 mm Non-dimensional echo height P R [db] mm 5mm 7mm 10mm 15mm 20mm 25mm Distance between the probe and the center of defect: c [mm] 2a (b) f = 2 MHz, B = 10 mm, d = 20 mm Fig.4.8 Calculation result of non-dimensional peak amplitude of reflected wave from defect 49

55 Non-dimensional echo height P R [db] Distance between the probe and the center of defect : c [mm] (c) f = 2 MHz, B = 10 mm, d = 30 mm 2a 3mm 5mm 7mm 10mm 15mm 20mm 25mm Non-dimensionalecho height [db] Distance between the probe and the center of difect : c [mm] 2a 3mm 5mm 7mm 10mm 15mm 20mm 25mm (d) f = 2 MHz, B = 10 mm, d = 40 mm Fig.4.8 Calculation result of non-dimensional peak amplitude of reflected wave from defect 50

56 Non-dimensional echo height P R [db] a 3mm 5mm 7mm 10mm 15mm 20mm 25mm Distance between the probe and the center of difect : c [mm] (e) f = 2 MHz, B = 5 mm, d = 20 mm Non-dimensioal echo height P R [db] Distance between the probe and the center of difect : c [mm] 2a 3mm 5mm 7mm 10mm 15mm 20mm 25mm (f) f = 2 MHz, B = 20 mm, d = 40 mm Fig.4.8 Calculation result of non-dimensional peak amplitude of reflected wave from defect 51

57 Non-dimensional echo height P R [db] a 3mm 5mm 7mm 10mm 15mm 20mm 25mm Distance between the prob and the center of defect : c [mm] (g) f = 5 MHz, B = 5 mm, d = 20 mm Non-dimensional echo height P R [db] Distance between the probe and the center of defect : c [mm] (h) f = 2 MHz, B = 20 mm, d = 20 mm Fig.4.8 Calculation result of non-dimensional peak amplitude of reflected wave from defect 2a 3mm 5mm 7mm 10mm 15mm 20mm 25mm 52

58 4.2.4 デシベルドロップ法による欠陥寸法評価前節の計算結果から, 反射波のピーク値が最大となる位置から 6dB 低下した位置までの探触子移動距離を読み取り, 実欠陥長さとの関係を求めた 探触子移動距離は, 欠陥中心位置を始点, その位置でのエコー高さより 6dB 低下した位置を終点とし, その間の走査距離 c を 2 倍したものである Fig.4.9~Fig.4.11 に結果を示す 縦軸が実欠陥長さ, 横軸が探触子移動距離 2c( 推定欠陥長さ ) を示している 6dB ドロップ法による欠陥長さの測定精度に及ぼす振動子幅, 探傷周波数, および欠陥深さの影響について調べた (1) 欠陥深さの影響欠陥長さ測定精度に及ぼす欠陥深さの影響を調べた デシベルドロップ法による欠陥測定結果を Fig.4.9 に示す 欠陥深さによらず実欠陥長さ 10mm 以上では探触子移動距離 2c と実欠陥長さが一致しているが, 欠陥長さが 10mm 以下の場合に実寸法より過大に評価している その傾向は欠陥深さが深いほど大きくなっている これは探傷深さが深くなるほど超音波ビームが拡がるため, 超音波ビーム内部に欠陥全体が入り, 欠陥端部からの反射波の影響によりエコー高さが 6dB 低下する探触子位置が拡がるためである 35 Actual defect length: 2a [mm] f = 2 MHz, B = 10 mm d = 10 mm d = 20 mm d = 30 mm d = 40 mm Probe migration length: 2c [mm] Fig.4.9 Relationship between defect length 2a and probe migration length 2c (Effect of the defect depth) (2) 振動子幅の影響 欠陥長さの同定精度に及ぼす振動子の幅の影響を調べた Fig.4.10(a) は周波数 2MHz, 欠陥深さ 20mm で振動子幅が 5mm~20mm の場合で, 実欠陥長さと欠陥中央の最大エコ 53

59 ー高さから 6db 低下した探触子移動距離を示している 6db ドロップでは幅 10mm の振動子では欠陥長さが 10mm 以上は精度良く測定できているのに対し, 幅 20mm の振動子では精度良く推定できるのは欠陥長さが 20mm 以上の場合となっている 欠陥長さが振動子幅より小さい場合, 欠陥長さを過大に評価する結果となることがわかる 6db ドロップ法では振動子が小さいほど, より小さな欠陥長さを正確に評価できる Fig.4.10 (b) は 10db ドロップしたときを図示している 同図のように予め, 実欠陥寸法とエコー高さおよび探触子移動距離 2c の関係を調べておくことにより,10db ドロップ時の探触子移動距離 2c を用いて,10mm 程度の欠陥長さについても, 正確に欠陥な長さを推定できることが同図よりわかる Actual defect length: 2a [mm] f = 2 MHz, d = 20 mm B = 5 mm B = 10 mm B = 20 mm Probe miguration length: 2c [mm] (a) 6dB drop method Actual defect length: 2a [mm] f = 2 MHz, d = 20 mm B = 5 mm B = 10 mm B = 20 mm Probe miguration length: 2c [mm] (b) 10dB drop method Fig.4.10 Relationship between defect length 2a and probe migration length 2c (Effect of the transducer size) (3) 探触子周波数の影響欠陥長さの測定精度に及ぼす探触子周波数の影響を調べた Fig.4.11(a) は振動子幅 10mm, 欠陥負深さ 30mm の場合について周波数 2MHz と周波数 5MHz を比較したものであり, 欠陥中央の最大エコー高さから,6dB 低下した位置の欠陥長さと探触子移動距離を示している 5MHz では 7mm の欠陥長さまで推定できているのに対して,2MHz では 10mm 以下の欠陥は測定精度が低下している これは, 探触子周波数が高いほど指向角が鋭いため小さな欠陥を精度よく測定できると考えられる Fig.4.11(b) は 10db ドロップしたときを図示している 5MHz の探触子を用いた場合に 54

60 6dB ドロップ法では 7mm 以下の欠陥は同定できないが, 同図の 10dB ドロップの場合の 探触子移動距離 2c と実欠陥長さの関係を用いれば,5mm の欠陥まで同定ですることが可 能である Actual defect length: 2a [mm] B = 10 mm, d = 30 mm f = 2 MHz f = 5 MHz Actual defect length: 2a [mm] B = 10 mm, d = 30 mm f = 2 MHz f = 5 MHz Probe migration length: 2c [mm] Probe migration length: 2c [mm] (a) 6dB drop method (b) 10dB drop method Fig.4.11 Relationship between defect length 2a and probe migration length 2c (Effect of the probe frequency) (4) 測定精度に及ぼすビーム幅の影響 Fig.4.12 は 6dB ドロップ法を適用した際の, 欠陥長さ測定精度に及ぼす超音波ビーム幅の影響を調べたものである ここで, 横軸における超音波ビーム幅 W は (4.4) 式で求められるエコー高さ半減角 (6dB エコー指向角 ) 13) 0. 5 を用いて幾何学的に求めたものである (Fig.4.13 参照 ) C [deg] (4.4) D D f E E 2 tan( 0.5) 2 tan 25.5 DE f W x x C (4.5) ここで, D E [mm] は振動子幅, [mm] は波長, f [Hz] は周波数, C[ m s] は媒質中の音速である ただし, (4.5) 式で算出した値が振動子幅より小さい場合は振動子幅をビーム幅とした 実欠陥長さ (2a) がビーム幅より大きい場合,6db ドロップ法で計測した欠陥長 55

61 さは精度よく欠陥長さを評価できるが, 実欠陥長さ (2a) がビーム幅より小さいと 6db ドロップ法で計測した欠陥長さは実欠陥長さより過大に評価されることがわかった 7 Estimate defect length (2c)/Actual defect length ( 2a) MHz 5mm 2MHz 10mm 2MHz 20mm 5MHz 5mm 5MHz 10mm 5MHz 20mm Actual defect length (2a) / Beam width (W) Fig.4.12 Relationship between actual defect length and estimated defect length (6dB drop method) Transducer 0 2c W x Fig.4.13 Dependence of the ultrasonic beam 56

62 4.3 斜角探傷試験による欠陥寸法評価 斜角探傷試験の基本 Fig.4.14 に斜角探傷法を示す 試験体表面 ( 探傷面 ) に対して斜めに進行する超音波ビームを用いて探傷する方法で, 溶接部などの検査に適用されている 超音波パルスは振動子から縦波のモードの波が発生する この超音波パルスが楔中を伝播し探傷面に到達する そして超音波パルスが楔と試験体の境界面を通過するときに屈折現象が生じる 楔と試験体の境界面で反射した超音波は探触子の中の吸音材に吸収される 屈折した超音波は縦波から横波にモードを変えて, 試験体の中へ伝播していく 試験体の中へ伝播した超音波は, その超音波ビーム内に欠陥があると, 欠陥では反射され元の経路をたどって, 再び探触子によって受信される これが探傷器の表示画面の欠陥エコー F である 欠陥エコーは超音波ビームの中心が欠陥にあたったとき最大となる backing material angle probe transducer test surface wedge Probe index 100 specimen d Angle of refraction echo height 50 flaw echo F defect bottom surface 0 WF y Fig.4.14 Angle beam technique 欠陥位置の推定は, 入射点から欠陥までに距離 ( ビーム路程 WF) を読み取ることでできる 予め標準試験片を用いて斜角探触子の入射点と屈折角 θを測定しておけば, ビーム路程と屈折角から三角関数を用いて幾何学的に次式で求めることができる d W cos (4.6) F y W sin (4.7) F 欠陥の大きさの推定は, 最大エコー高さは欠陥の面積におよそ比例する したがって予め欠陥の大きさとエコー高さの関係を実験などで求めておけば, 最大エコー高さから欠陥のおおよその大きさが推定できる 57

63 4.3.2 斜角探傷試験による欠陥寸法評価斜角探傷法を用いた欠陥寸法の代表的な測定方法には, 探触子の移動距離を利用するデシベルドロップ法と超音波の伝播時間を利用する端部エコー法がある 本節では 3 章で説明した音源重ね合せ超音波伝播シミュレーション手法 (SPM 法 ) を用いて, スリット状の欠陥を対象として, 両測定法の欠陥長さ推定精度について検証を行った 3 章の Fig.3.11 に示したように, 欠陥面に対して垂直に近い角度で超音波が入射する場合, つまり入射角が 0 度に近い場合 (Fig.3.11(a),b),(c)) は, 欠陥面からのエコーが検出され, 欠陥中心付近をピークとするピークが一つの走査グラフが得られる この場合には, デシベルドロップ法を適用して欠陥寸法を測定する また, 欠陥面に対して斜めに超音波が入射する場合, つまり欠陥面に大きな入射角を持って入射する場合 (Fig.3.11(d), (e)) には, 欠陥端部からのエコーが現れ, 欠陥面からのエコーが低くなり, エコーは欠陥端部が主体となり, 欠陥上端および下端からの端部エコーによるピークが二つある走査グラフが得られる この場合には欠陥面からの欠陥エコー高さを用いたデシベルドロップ法を適用することができないため, 端部エコー法 13) を適用して欠陥寸法を計測することになる (1) 計算モデル Table 4.2 に計算に用いた探触子, 欠陥寸法,Fig.4.15 に計算モデルを示す 実際の探傷試験では探触子周波数 2~5MHz, 振動子幅 10~20mm の探触子が用いられることが多い そこで, 本シミュレーションでは, 周波数 2MHz, 振動子幅 10mm とし, 探触子屈折角を 45 度とした 欠陥傾き角 45 度は欠陥面に垂直に超音波が入射する場合であり, デシベルドロップ法の推定精度の検証を行なうものである 欠陥傾き角 70 度は欠陥端部からのエコーを捉えることを想定したもので, 端部エコー法の推定精度の検証を行なうものである 探傷面となる試験体表面と欠陥中心との距離 ( 欠陥深さ ) を 21.2mm に統一した これは屈折角 45 度の斜角探触子を使用したときに, ビーム中心が欠陥中心と一致する位置におけるビーム路程が 30mm となる深さとしている 欠陥長さ 2a は 3~20mm とした なお, 領域分割幅は 0.3λ(λは波長 ) として計算を行っている 58

64 Table 4.2 Calculating condition Probe Defect Frequency f (MHz) 2 Transducer size B (mm) 10 Refraction angle θ (deg) 45 Type Slit Length 2a (mm) 3~20 Depth d (mm) 21.2 Gradiend α (deg) 45,70 B=10mm probe transducer test surface 45 d=21.2mm defect 2a Fig.4.15 Simulation model Fig.4.16 に示すように探傷面で探触子を前後に走査し超音波ビーム中心が欠陥面の中心に一致する探触子位置を原点 (0) とし, 探触子を前進させる方向を ( ), 探触子を後退させる方向を (+) として, 各探触子位置での最大振幅を並べると走査グラフが得られる 探触子走査ピッチは 1mm とした 探触子位置 x を欠陥面上に座標軸をとり, 欠陥中心からビーム中心線までの距離 c に換算する すなわち, 探触子位置 x, 屈折角 および欠陥 面の傾き を用いれば c は次式で表される c xcos cos (4.8) 2a 0 0 Defect c x Probe Fig.4.16 Calculating model for angle beam ultrasonic testing (2) デシベルドロップ法による欠陥長さ推定デシベルドロップ法は欠陥長さを調べる手法の一つで, 探触子を探傷面で移動させて欠陥エコーの最大振幅の低下が一定 db を越える範囲を調べ, その範囲を欠陥推定長さとす 59

65 る方法である 通常は 6dB が基準とされるため,6dB ドロップ法と呼ばれ利用されている Fig.4.17 は欠陥傾き角 45 度, 欠陥長さ 10mm のモデルに対する走査グラフを示す c 0 の位置でエコー高さが最も高く, 両側に行くとエコー高さが低下している 6dB ドロップ 法を適用すると欠陥推定長さ 2c は約 10mm となり実寸法と対応している Fig.4.18 に示すのは, 各欠陥長さに対して 6dB ドロップ法を適用して推定した欠陥長さ と実際の欠陥長さを比較したものである 欠陥長さが振動子幅 10mm 以上の範囲において, 6dB ドロップ法による欠陥長さの推定精度は十分な精度を持っているが, 振動子幅より小 さな欠陥長さの範囲においては欠陥を大きめに推定していることがわかる 6 Echo height: H(dB) (20 log 10 (P x /P 0 )) actual range of defect Distance between beam center and 10 defect center: c (mm) Fig.4.17 Relationship between probe position and echo amplitude (2a=10,α=45) Actual defect length: 2a (mm) Estimate defect length: 2c (mm) Fig.4.18 Relationship between actual defect length(2a) and estimated length (2c) by 6dB method (α=45) 60

66 (3) 端部エコー法による欠陥長さ推定端部エコー法は,Fig.4.19 に示すように欠陥を探傷した際に欠陥上端および下端からの端部エコーにより走査グラフのピークが二つある場合に用いられる欠陥長さ推定法である この方法は, 二つのピークが得られる際のビーム路程と屈折角から幾何学的に欠陥長さが求められる Fig.4.19 は欠陥傾き角 70 度, 欠陥長さ 10mm のモデルに対する走査グラフを示している 端部エコー法を適用すると推定欠陥長さは約 10mm となり実寸法と対応している Fig.4.20 は端部エコー法によって推定された欠陥長さと実際の欠陥長さを比較したものである 欠陥長さが振動子幅 10mm 以上の範囲では端部エコー法による欠陥推定長さは十分な精度を持っているが, 欠陥長さが振動子幅より小さな範囲においては欠陥を大きめに推定していることがわかる 12 Echo height: H (db) (20 log 10 (P x /P 0 )) actual range of defect Distance between beam center and defect center: c (mm) Fig.4.19 Relationship between probe position and echo amplitude (2a=10,α=70) Actual defect length: 2a (mm) Estimate defect length: 2c (mm) Fig.4.20 Relationship between actual defect length (2a) and estimated defect length 61 (2c) by edge echo method (α=70)

67 4.4 結言本章ではスリット状の欠陥に対して垂直探傷試験および斜角探傷試験を実施する場合を想定して, 振動子サイズ, 探触子周波数, および欠陥位置や寸法が異なる場合のシミュレーションを実施し, 欠陥からの反射波の大きさがどのように変化するかを調べた さらに, 従来, 欠陥寸法測定に用いられているデシベルドロップ法および端部エコー法による欠陥寸法の測定精度について検討し, 以下の結果を得た (1) 垂直探傷試験の場合の欠陥からの反射波の変化について 1) 欠陥からのエコーは探触子が欠陥中心直上にあるとき最大となり, 欠陥から遠ざかるにつれてエコー高さは小さくなる したがって, エコー高さが最大となる探触子位置が欠陥位置と判断することができる 2) 欠陥長さが振動子幅より小さい場合, 欠陥端部からのエコーの影響が相対的に大きくなり, エコー高さが欠陥中心位置でない探触子位置で最大となる 3) 探触子周波数が同じ場合, 探触子を欠陥中心から遠ざける方向に探触子を移動させると, 振動子幅が小さいほどエコー高さの低下率が小さくなる これは振動子幅が小さくなると指向角が鈍くなるためビームが欠陥に当たる面積が大きくなるためである 4) 振動子幅が同じ場合, 探触子を欠陥中心から遠ざける方向に探触子を移動させると, 周波数が高いほどエコー高さの低下率が大きくなる これは探触子周波数が高くなると超音波の指向性が鋭くなり, 超音波が欠陥に当たる面積の割合が小さくなることを示している (2) 垂直探傷試験の場合のデシベルドロップ法による欠陥寸法の測定精度について 1) 欠陥深さが欠陥長さ同定精度に及ぼす影響は, 欠陥長さが振動子幅より大きい場合, 欠陥深さによらず探触子移動距離と実欠陥長さは一致する 欠陥長さが振動子幅より小さい場合は欠陥実寸法より過大に評価される 2) 振動子幅が欠陥長さ同定精度に与える影響は, 振動子幅が小さい方がより小さな欠陥まで欠陥長さを正確に評価できる 6dB ドロップ法では欠陥長さが振動子幅より小さいくなると欠陥実寸法より過大に評価される 10dB ドロップ法を適用した場合, より小さな欠陥まで正確に欠陥長さを評価できる可能性がある 3) 探触子周波数が欠陥長さ同定精度に与える影響は, 周波数が高いほど小さな欠陥を精度よく同定できる 10dB ドロップ法を適用すると 6dB ドロップ法より小さな欠陥長さまで同定できる可能性がある (3) 斜角探傷試験の場合の欠陥寸法測定精度について欠陥面に対して垂直に近い角度で超音波が入射する場合, つまり入射角が 0 度に近い場 62

68 合は, 欠陥面からのエコーが検出され, 欠陥中心付近をピークとする走査グラフが得られる この場合には, デシベルドロップ法を適用して欠陥寸法の測定を行うことができる また, 欠陥面に対して斜めに超音波が入射する場合, つまり欠陥面に大きな入射角を持って入射する場合には, 欠陥面からのエコーは低く, 欠陥上端および下端からの端部エコーによるピークが二つ存在する走査グラフが得られる このような場合には, 端部エコー法を適用して欠陥寸法を測定することができる 1)6dB ドロップ法を適用した欠陥長さ推定では, 欠陥長さが振動子幅以上の範囲では十分な精度で欠陥長さを推定できるが, 振動子幅より小さな欠陥長さ範囲では欠陥長さを過大に評価する 2) 端部エコー法を適用した欠陥長さ推定では, 欠陥長さが振動子幅以上の範囲では十分な精度で欠陥長さを推定できるが, 振動子幅より小さな欠陥長さ範囲では欠陥長さを過大に評価する 63

69 第 5 章ニューラルネットワークを適用した超音波探傷試験の欠陥性状同定 5.1 緒言溶接継手部に存在する埋没初期欠陥がある大きさ以上の場合, 就航後にこれが疲労き裂として成長し, 板厚貫通に至る可能性があることが明らかにされ, 脆性き裂発生防止のための溶接継手部の埋没初期欠陥の許容寸法は, 新造船のコンテナ船を対象とした場合, 北太平洋航路において,25 年間で板厚貫通に至る初期欠陥寸法は, 溶接線方向長さ 42.5mm, 板厚方向長さは 8.5mm であることが報告されている 68) 脆性破壊を防止するには き裂長さをその材料の靱性値と作用応力 使用温度から決まる限界長さ以下にすることが必要であり, 実製品でそれを保証するために, 初期あるいは就航後の定期検査において, 内在欠陥寸法を精度よく測定する要求が高まっており, 高精度な欠陥性状の同定技術の構築が望まれている 実際の探傷試験では振動子幅 10~20mm の探触子が用いられることが多いが,4 章での欠陥寸法推定精度に関する検討から, 従来の欠陥寸法測定法であるデシベルドロップ法や端部エコー法を用いた場合, 振動子幅より小さな欠陥長さ範囲では欠陥長さを過大に評価することがわかった したがって, 小さな欠陥においても欠陥長さを精度よく推定する手法を構築できれば船舶の構造安全性管理上, 有益であると考えられる 超音波探傷試験では, 一般に複雑な構造の探傷を行なう際に, あらかじめ探傷方法を実験で把握する方法が採られている しかし, 模擬試験片を作製する必要があり, 探傷方法を決定するまでに時間と費用がかかりすぎる問題がある 一方, 数値シミュレーションは, 構造物内部の超音波の複雑な伝播挙動や伝播波形を定量的に把握することができる ゆえに, シミュレーションで得られた超音波の伝播時間や伝播波形などの情報は, 欠陥形状や寸法などの測定精度の向上に利用できる 超音波探傷試験で得られた欠陥からのエコー高さ, 波形形状, 走査グラフの形状は欠陥の種類や性状との相関がある 欠陥性状が既知である種々の欠陥に対して探傷試験を行ない, 欠陥からの反射波の情報を多く入手できれば, 実際の超音波探傷試験で得られた反射波の情報をこれらと比較することにより, 未知の欠陥性状を推定できる可能性が高い しかし, この方法では判定を行なう技術者の修練度の差により判定結果が異なってくる可能性がある 近年, 人間の神経細胞 ( ニューロン ) の機能を模擬した素子を組み合わせた脳のメカニズムを工学的にモデル化したニューラルネットワークが注目されている 43) また, ニューラルネットワークの学習 推定機能を利用して, 数値シミュレーションとニューラルネッ 64

70 トワークを組み合わせた構造最適化 44)-46) や欠陥同定問題 47) の研究が報告されている 本研究では, 熟練者や専門家の経験を必要としない定量的な欠陥同定を高精度に, 簡便かつ迅速に行う手法の開発を目的として, シミュレーション結果を教師データとしたニューラルネットワークを構築し, 振動子幅より小さい欠陥を対象として, 欠陥からのエコー情報を基に精度よく欠陥性状の同定を行う欠陥同定システムについて検討した 欠陥の位置や大きさなどの欠陥パラメータとそれに対応する超音波探傷試験におけるエコー高さと伝播時間の測定情報の離散的な教師データをニューラルネットワークに学習させ, 学習済みニューラルネットワークの推定機能によって, 未学習データに対しても妥当な推定ができるものと考えられる ニューラルネットワークの学習には教師データが必要となるが, そのために多くの人工欠陥試験片を作製して探傷試験を実施してデータを取得するのは不可能である しかし, 数値シミュレーションを用いれば容易に教師データの取得が可能であり, 数値シミュレーションと推定能力を有する階層型ニューラルネットワークの組合せは, 欠陥性状同定手法に有用であると考えられる 本章では, 5.2 節でニューラルネットワークを用いた欠陥同定法のこれまでの研究の概要について述べる 5.3 節では階層型ニューラルネットワークの構造, 学習法について説明する 5.4 節では, ニューラルネットワークを適用した垂直探傷試験の欠陥性状同定について述べ,5.5 節において, ニューラルネットワークを適用した斜角探傷の欠陥性状同定について述べる 5.2 従来の研究矢川 47) は表面に対して垂直に入ったクラックの深さを推定するために, クラックの入った部材を水槽に入れ, クラックが存在する面と反対側の水中から超音波を発信し, この入射波とクラックの相互作用を経て伝播した波動をトランスデューサで受信し, 受信した時刻歴の波形と受信波形を周波数分析した波形を入力信号としてニューラルネットワークを学習し, クラック深さの推定を行っている 時間領域の波形と周波数領域の波形そのものを入力としており, ネットワークの構造が大規模となり学習に時間がかかるうえ, 実際の現場で要求される多様な形状 材質の部材への適用は困難が予想される 大石らは 48)-50), 裏面に表面欠陥を有する部材の表面に正弦波状圧力を加え, 欠陥で生じる反射波を部材表面に設けた複数の測定点で得られた変位の時間変化を有限要素法で求め, 変位データを入力, 対応する欠陥パラメータを出力として, ニューラルネットワークを学習させ, 学習済みニューラルネットワークに未知変位データを入力して欠陥パラメータを同定している しかし, 実際の超音波探傷試験では探触子で超音波を入射し, 欠陥からの反射波を探触子で受信し, その受信波形情報から欠陥寸法の推定が行なわれている 入力 65

71 信号として探触子の接触する位置に周期的な圧力を試験体に与え, 試験体表面の変位データから欠陥を同定する方法では, 超音波送受信の現実的なモデルではなく, 伝播波形の性状が正しく模擬できず, 欠陥からの反射波形を基にして欠陥を同定するには十分な精度を有しているとは言えず, 実際の超音波探傷試験の現場で適用するには問題を有している 5.3 階層型ニューラルネットワークの概要ニューラルネットワークのモデルおよび学習メカニズムについては, いくつかの成書 43),51),52) に記されているので, 本節では階層型ニューラルネットワークとその学習法について概説する ニューラルネットワークの構造ニューラルネットワークとは, 人間の神経細胞 ( ニューロン ) の機能を模擬した素子を組み合わせたて, 脳のメカニズムを工学的にモデル化した情報処理システムである その構造により, 階層的な構造をした階層型ニューラルネットワークと, すべてのニューロン間に結合がある相互結合型ニューラルネットワークに分類できる 43) このうち階層型ニューラルネットワークは, 文字認識, パターン認識, 関数近似など幅広い分野で利用されてきた 51) Fig.5.1(a) に 3 階層型ニューラルネットの構造を示す Fig.5.1(b) に示すニューロンを層状に結合したものである データは左の層から入力され右の層から出力される 層数は入力側から数えて, 第 1 層目を入力層, 第 2 層を中間層, 第 3 層を出力層と呼ぶ 各層の ニューロン間は重み w を介して完全に結合されているが, 層間を渡った結合はない また ij 同一層内, あるいは出力側のニューロンから入力側のニューロンへの結合もない 第 1 層目のニューロンは入力を中間層に分配するだけである 66

72 Input Data Output Data w 11 1 w 11 2 w 12 1 (a) Schematic diagram of neural network Fig.5.1 Example of hierarchical neural network x 1 w j1 x 2 x 3 w j3 w j2 i f x i w jm x m (b) Neuron model Fig.5.1 Example of hierarchical neural network ニューロンは神経細胞の数学モデルであり, 多入力, 一出力の処理を行う これを数式 で表現すると m i ij i i j1 x w y (5.1) となる 43) x i は i 番目のニューロンの出力である また w は j 番目のニューロンからi 番 目のニューロンへの結合の重みである i は i 番目のニューロンのしきい値である 本研 ji 67

73 究ではニューロンの出力関数に (5.2) 式のシグモイド関数を用いる f x i 1 xi 1exp T (5.2) T はシグモイド関数の形状パラメータである 入力値 xi がニューロンに与えられた時, ニューロンは (5.2) 式の出力関数によって求められる出力値 xi を結合されている次のニュー ロンに伝達する ニューラルネットワークの学習入力とそれに対する望ましい出力の組の集合を教師データと呼ぶ 入力値に対して適切な出力値を出力するネットワークを構築するためには, 各ニューロン間の重みと各ニューロンのしきい値の組み合わせを最適化する必要がある その方法として, すでに入力と出力の関係が分かっている複数のデータ ( 教師データ ) を用いて各ニューロン間の重みと各ニューロンのしきい値を調整していく 重みおよびしきい値の初期値は乱数で与え, 教師データの出力値とネットワークの出力値の差を小さくするように, 重みとしきい値を更新していく この差が設定した誤差以内になるまで重みとしきい値の繰り返し計算を行い, 最適な重みを見つけネットワークを構成する この重みの更新をニューラルネットワークの学習と呼んでいる 学習アルゴリズムは, 教師データの出力値とニューラルネットワークの出力値の二乗誤差が最小になるように, ニューロン間の重み係数とニューロンのしきい値を出力層 中間層間, 中間層 入力層間の順に学習させていく誤差逆伝播学習法 (Back Propagation) 43) を用いる 誤差逆伝播学習法の詳細は付録 C に示す 階層型ニューラルネットワークの特徴は次のようにまとめられる 1 離散的な入力と出力の関係を学習するだけで任意の連続関数をシミュレートするネットワークを構築できる 2 未学習の入力データについても, ネットワーク内で内挿し妥当な出力が得られる 3 学習済みのネットワークは積和演算を行うだけで, 与えた入力データに対して短時間で出力が得られる 5.4 ニューラルネットワークを適用した垂直探傷試験の欠陥性状同定 欠陥同定の手順と特徴本研究では,MATLAB のニューラルネットワーク ツールボックスを用いて 3 層ニューラルネットワークを構成し, 重みの学習にはバックプロパゲーションアルゴリズムを用 68

74 いた重み学習法を採用した 超音波探傷試験における欠陥性状の同定は, 計測された欠陥からの反射波形から欠陥の形状, 位置, 寸法を推定する逆問題である この逆問題を解析するニューラルネットワークを構築できれば欠陥性状の同定が可能となる ニューラルネットワークを適用した欠陥性状推定のイメージを Fig.5.2 に示す 手順は次のようになる (1) 多くの模擬試験片を製作して探傷試験を実施して欠陥からの波形情報を取得するのは費用と時間の面から困難である そこで, 模擬試験片を用いた試験の代わりに, 種々の欠陥を想定して, 超音波伝播シミュレーションプログラム UT_WAVE2 を用いたシミュレーション計算, すなわち, 順解析を実施することによって欠陥からの反射波形を取得する (2)(1) で得られた波形データと対応する欠陥形状の組合せを教師データとして, ニューラルネットワークの学習を行い, 欠陥同定ニューラルネットワークを構築する (3)(2) で構築された学習済みニューラルネットワークに, 未知欠陥の波形データを入力し, 未知の欠陥の形状, 位置, 傾き, 寸法を同定する ニューラルネットワークを適用した欠陥性状推定には次のような特徴がある 入力( 波形データ ) と出力 ( 欠陥性状 ) の教師データからニューラルネットワーク上に波形と欠陥性状の関係が構築されるので, 複雑な応答の数学モデルを必要とせずに欠陥同定を行うことができる 種々の欠陥に対するシミュレーションは一度だけ行えばよい また, この計算結果を蓄積すればデータベースとして利用できる 未知の欠陥についても, ニューラルネットワークの汎化能力により高精度の欠陥性状推定が期待できる 学習済みニューラルネットワークは積和演算のみで出力( 欠陥性状 ) が得られるため, 探傷現場においてリアルタイムで結果を得ることができる 検査技術者の個人的な技術レベルに依存せず, 短時間で欠陥性状推定を行うことが可能となる 69

75 Signal Signal 1.00E E E E E E E E E E-03 入力値 ( 波形データ ) E E E E E E E-05 Time(s) 1.50E E E E E E E E E E E E E- 2.00E- 3.00E- 4.00E- 5.00E- 6.00E- 7.00E- 8.00E- 9.00E- 1.00E E- 2.00E- 3.00E- 4.00E- 5.00E- 6.00E- 7.00E- 8.00E- 9.00E- 1.00E Time(s) ニューラルネットワーク 出力値 ( 例 : 欠陥形状 ) 探触子 1: 円形欠陥 探触子 2: 水平スリット 探触子 Signal 0.00E E E E E E Time(s) 3: 斜めスリット Fig.5.2 Image of defect identification by neural network ニューラルネットワークの教師データ ニューラルネットワークを用いて欠陥性状の同定を行う場合, 学習効率や同定精度に影 響を及ぼすニューラルネットワークへの入力データの選択が重要となる 本研究では計算 で得られた探触子の受信波形を入力とする さらに受信波形をそのまま入力するのではな く, 各種欠陥からの反射波形データの特徴を抽出して入力データとする 欠陥同定のための入力値として採用する入力波形情報について説明する まず, 欠陥の 形状と深さ位置, さらに探触子と欠陥水平位置を種々変えた場合を想定してシミュレーシ ョン計算を行う 得られたデータのうち,Fig.5.3 に示す X2 のピーク値の絶対値が最大と なる探触子位置 1 で得られる波形を採用する しかし, 探触子位置が一点だけでの波形情 報では種々の欠陥形状や大きさを同定するのは困難であると考えられるため,X2 のピーク 値の絶対値が最大となる探触子位置から探触子幅分だけ右にずらした位置 2 での波形 (Fig.5.3 の赤線の波形 ) も入力値として採用する これら 2 つの波形から, 図中に示した エコー高さ X2,X1,X3,rX2 及び Y2 と X2 のピーク値の比 (X1/X2 X3/X2 rx2/x2 Y2/X2) とそのエコーが計測される時刻 t X 2, t X 1 と t X 2 の時間差 t1, t X 2 と t X 3 の時間差 t2, trx 2 と t X 2 の時間差 t r 2, t Y 2 と t X 2 の時間差 t Y 2 をニューラルネットワークの入力値とする 出力は欠陥種類, 欠陥長さ, 欠陥深さ位置, 欠陥角度 ( 水平でないスリット欠陥の場合 ) である 波形の特徴を適切に抽出することにより, 欠陥同定には不要な情報を排除でき, ニュー 70

76 ラルネットワークによる欠陥同定精度の向上が期待できる 伝播波形そのものを入力とするとデータ量が膨大となるため, ニューラルネットワークの規模が大きくなり学習時間が長くなる 47) のに対して, 特徴を抽出して入力データとすることにより, ニューラルネットワークの規模が小さくなり学習時間も低減できる 本研究のように反射波のピーク値の情報など有意なデータのみ与える方が効率的であると考える B 1 2 defect 1 Probe position in which the absolute value of the peak X2 becomes maximum. bottom surface 2 Probe position in which the width of the probe is moved from 1 to the right. Signal 1.0E E-03 X1 from defect X3 from bottom 0.0E+00 rx2-5.0e-03 Y2 X2-1.0E E E E E E E-05 t1 t2 Y 2 Time(s) X1,X2,X3 : Reflected wave from defect in the case of 1. Y2 : Reflected wave from bottom in the case 1. rx2 : Reflected wave from defect in case 2. Fig.5.3 Input information in the constructed neural network 欠陥同定ニューラルネットワークの構成構築したニューラルネットワークは,Fig.5.4 に示す入力層, 中間層 1 層, 出力層からなる 3 層階層型ニューラルネットワークである 中間層ニューロン数は 5 個である 入力 71

77 値に関しては, 計測波形を入力値, 欠陥性状を出力値と設定し, 欠陥形状に関してはスリット状欠陥, 円形欠陥および斜め欠陥を想定した また, ネットワーク構築の際には, 学習確認用データを用いてネットワークの学習精度を判定する ここで, 学習確認用データとは, ネットワークにより出力されるデータの正解値が既知のデータのことで, 推定データと正解値の誤差が許容範囲内になるネットワークを学習済みと判定する さらに, ニューラルネットワークの学習をするとき, ネットワークの初期の重みは乱数によって設定されるため, この初期値の影響により学習済みのネットワークに偏りがある可能性がある この偏りを無くすために,Fig.5.5 に示すように 7 個のネットワークを作成し, それぞれのネットワークから出力された推定値のなかの, 最大値と最小値を除く,5 個のデータの平均を推定値とする Input Layer of Neurons Output t x 1 x 2 t x 2 rx 2 K x 1 x 2 K x 2 x 3 K x 2 rx 2 t : K : time difference ratio of peak level Shape or Location or Size or Angle Fig.5.4 Neural network for defect identification max ニューラルネットワーク 1 出力値 1 入力データ ニューラルネットワーク2 ニューラルネットワーク3 ニューラルネットワーク4 ニューラルネットワーク5 出力値 2 出力値 3 出力値 4 出力値 5 max と min を除いた出力値 2~ 6 の平均値を推定値とする ニューラルネットワーク 6 出力値 6 ニューラルネットワーク 7 出力値 7 min Fig.5.5 Processing the output data of neural network 72

78 5.4.4 垂直探傷試験の欠陥同定のフロー本研究の欠陥性状推定システムを Fig.5.6 に示す あらかじめ, 教師データを用いて Network 1~8 を作製しておく 始めに, 欠陥の種類を同定するニューラルネットワーク (Network 1) により欠陥形状を推定する ここで想定した欠陥形状は, 水平欠陥 ( 傾き角 0 ), 円形欠陥および傾き角 30 ~60 の斜めスリット欠陥である その後, 欠陥ごとに作成された位置同定用ネットワーク (Network 2,4,7), 長さ同定用ネットワーク (Network 3,5,8) および角度同定用ネットワーク ( 斜め欠陥時のみ,Network 6) を適用して, 欠陥性状 ( 種類, 位置, 大きさ, 角度 ) が同定できる 例えば Network 1 で斜めスリットと判定された場合は Network 6 に移って角度を推定し, 次に,Network 7 で欠陥位置を推定し, その後,Network 8 で大きさが推定できる ニューラルネットワークを欠陥性状推定に用いる場合は, 多くの情報を同時に出力させる ( 種類, 位置, 長さを一度に出力 ) 多出力のニューラルネットワークを構築することも可能であるが,Fig.5.6 に示すようにフローチャートに沿って個別にネットワークを構築する方が学習時間も短く, 推定精度は良くなると考えられる Simulation of Ultrasonic wave propagation Input data for Neural Network (peak time,magnitude etc,) Identification of Crack Shape (Network 1) Slit Circular crack Slanted crack Angle (Network 6) Location (Network 2) Location (Network 4) Location (Network 7) Size (Network 3) Size (Network 5) Size (Network 8) Fig.5.6 Flow chart for evaluation of defect shape, angle, location and size 73

79 5.4.5 ニューラルネットワークによる欠陥同定結果システムの妥当性を検証するために, 種々の欠陥を想定して順解析を行い, 得られた反射波形のデータから構築したニューラルネットワークで逆解析した結果を示す 第 4 章で, 垂直探傷による水平欠陥の長さの同定に関して,6dB ドロップ法および 10dB ドロップ法を用いた場合の推定精度について検討を行った その結果, 振動子幅より欠陥が小さくなると欠陥を過大に評価することがあることがわかった 本節では, 振動子幅より小さな欠陥を対象として欠陥寸法だけでなく欠陥形状も含めて欠陥性状同定を行う (1) 解析モデルスリット欠陥, 斜めスリット欠陥および円形欠陥が内在する試験体を表面から探傷し, 欠陥で生じる反射波をシミュレーションで求めて, ニューラルネットワークによる欠陥同定を行う Fig.5.7 に解析モデルを示す 板厚は 24mm, 解析する幅は 60mm とする 使用探触子の幅は 5mm で周波数は 1MHz とする 教師データを得るたに以下のパラメータを組み合わせた複数のモデルについて解析を行った 欠陥種類 : 水平スリット欠陥, 斜めスリット欠陥, 円形欠陥欠陥形状を判別するために欠陥形状の ID は円形欠陥を 0, スリット状水平欠陥 ( 角度 0 ) を1, スリット状斜め欠陥 ( 角度 30 ~60 ) を 2 と分類する 欠陥の長さ :3~5mm 欠陥位置 : 底面から 10~16mm, 円形や斜めの場合は上端位置を基準とする ( 水平スリットは 12~16mm のみ ) 欠陥角度 :30~60 5mm 24mm Y X Mesh size: 0.25mm circular crack, slit, slanted crack 10~16mm Probe frequency: 1MHz specimen: steel 60mm Fig.5.7 Calculating model for normal ultrasonic testing 74

80 (2) 教師データ (1) に示した条件の下, シミュレーション計算を実施することで得られた教師データを Table 5.1 に示す Table 5.1 の左項 case において, 最初の記号 C は円形欠陥, H は水平スリット, S は斜めスリットを表し, D3 は直径 3mm, L3 はスリット長さ 3mm, A30 はスリット角度のことを表す y は底面からの欠陥上端位置までの距離を 示している これらの教師データを用いて, 欠陥性状 ( 種類, 位置, 長さ, 角度 ) ごとに ネットワークの学習を行い,Network 1~8 の欠陥同定用ニューラルネットワークを作製 する なお,Network 1~8 を構築する際に使用する入力値は次の通りである Network 1( 形状 ):X1/X2,X3/X2, t1, t2, t r2 Network 2,4( 円形または平行スリット位置 ): t Y 2, t X 2,( 入力教師データ No.1~48),( 入力教師データ No.1~21) Network 3,5( 円形の大きさまたは平行スリット長さ ):rx2/x2,y2/x2, ( 入力教師データ No.1~21) Network 6( 斜めスリット角度 ):X1/X2,X3/X2,rX2/X2,Y2/X2, t1, t2, t r2, t Y 2, t X 2,( 入力教師データ No.22~48) Network7( 斜めスリット位置 ):X1/X2 X3/X2 rx2/x2 Y2/X2 t1, t2, t r2, t Y 2, t X 2,( 入力教師データ No.22~48) Network8( 斜めスリット長さ ):rx2/x2,y2/x2, t r2, t Y 2 ( 入力教師データ No.22~48) 75

81 Table 5.1 Teaching data for neural network No. case X1/X2 X3/X2 rx2/x2 Y2/X2 t1 t2 ty2 tr2 tx2 1 CD3_y E E E E E-06 2 CD3_y E E E E E-06 3 CD3_y E E E E E-06 4 CD3_y E E E E E-06 5 CD4_y E E E E E-06 6 CD4_y E E E E E-06 7 CD4_y E E E E E-06 8 CD4_y E E E E E-06 9 CD5_y E E E E E CD5_y E E E E E CD5_y E E E E E CD5_y E E E E E HL3_A0_y E E E E E HL3_A0_y E E E E E HL3_A0_y E E E E E HL4_A0_y E E E E E HL4_A0_y E E E E E HL4_A0_y E E E E E HL5_A0_y E E E E E HL5_A0_y E E E E E HL5_A0_y E E E E E SL3_A30_y E E E E E SL3_A30_y E E E E E SL3_A30_y E E E E E SL_A430_y E E E E E SL_A430_y E E E E E SL_A430_y E E E E E SL5_A30_y E E E E E SL5_A30_y E E E E E SL5_A30_y E E E E E SL3_A45_y E E E E E SL3_A45_y E E E E E SL3_A45_y E E E E E SL4_A45_y E E E E E SL4_A45_y E E E E E SL4_A45_y E E E E E SL5_A45_y E E E E E SL5_A45_y E E E E E SL5_A45_y E E E E E SL3_A60_y E E E E E SL3_A60_y E E E E E SL3_A60_y E E E E E SL4_A60_y E E E E E SL4_A60_y E E E E E SL4_A60_y E E E E E SL5_A60_y E E E E E SL5_A60_y E E E E E SL5_A60_y E E E E E-06 76

82 (3) 欠陥同定結果 Table 5.2 に Network 1 による欠陥形状推定結果を示す 推定したのは円形欠陥 4 個 (No.1~4), 水平スリット欠陥 4 個 (No.5~8), 斜めスリット欠陥 5 個 (No.9~13) である 真の値は 0,1 および 2 の離散値であるが, ニューラルネットワークの推定値は実数値を出力しているが, 出力された値は欠陥形状の真の値とよく一致している これより欠陥形状を精度よく分類できていることが分かる 次に,Network 1 での同定結果をもとに Network 2 から Network 8 を用いて欠陥角度, 位置, 長さを推定した結果を Fig.5.8 に示す Fig.5.8(a) の斜めスリット欠陥の推定角度は実際の欠陥角度との誤差 ±5% 以内の精度で推定されている また,Fig.5.8(b) の欠陥深さの推定位置は円形欠陥, 水平欠陥, 斜め欠陥ともに実際の深さ位置と比較して誤差 ±5% 以内の精度で推定されていることがわかる 更に,Fig.5.8(c) の欠陥長さの推定結果を見ると推定値は実際の欠陥長さと比較してほぼ ±10% 以内の精度で推定されている この結果より, ニューラルネットワークを利用することによって欠陥の形状を精度よく分類することができ, 欠陥角度, 位置, 長さを良好な精度で推定できることがわかった 教師データはシミュレーションで得ることができるので, 板厚や予想される欠陥性状ごとのシミュレーションを行うことで, 比較的容易にニューラルネットワークを構築することが可能であり, ニューラルネットワークを利用することにより技術者の修練度に依らず欠陥性状を推定できる欠陥同定システムの構築が可能であることがわかった Table 5.2 Defect identification result by Network 1 No. Shape of crack ID of Estimated Value crack shape (Shape of crack) 1 Circular Circular Circular Circular Slit Slit Slit Slit Slant Slant Slant Slant Slant

83 Actual defect angle (deg) Slant ±5% Estimate defect angle (deg) Actual defect depth (mm) Circular Slit Slant ±5% Estimate defect depth (mm) (a) Results of estimated angle (b) Results of estimated depth Actual defect length (mm) Cirular Slit Slant ±10% Estimate defect length (mm) (c) Results of estimated length Fig.5.8 Calculation results of defect angle, depth and length by neural network (Straight beam technique) 78

84 5.5 ニューラルネットワークを適用した斜角探傷試験の欠陥性状同定垂直探傷試験における欠陥同定にニューラルネットワークを利用することによって, 欠陥性状を推定できることがわかった しかし, 垂直探傷では, 構造安全上重要である鋼板板厚方向の欠陥高さの測定を行うことができない 一方, 斜角探傷試験は超音波を斜めに送受信するため, 板厚方向欠陥高さの測定ができ, 溶接部の探傷試験も行うことができる 本節では, 斜角探傷試験を対象として, 実際の探傷試験で得られる欠陥からの反射波から, 精度よく欠陥寸法を推定することを目的として, シミュレーション結果を教師データとしたニューラルネットワークを構築し, 実際の超音波探傷試験より得られた波形情報をもとに欠陥寸法の同定が可能であるかについて検討した なお, 斜角探傷試験による欠陥長さの評価に関して,6dB ドロップ法および端部エコー法を用いた場合の推定精度について第 4 章で検討した結果, 振動子幅より欠陥が小さくなると欠陥を過大に評価することがわかっている よって, 本節では振動子幅より小さなスリット状欠陥を対象とし, 欠陥長さだけでなく, 欠陥の傾き角, 欠陥深さをニューラルネットワークを適用して欠陥性状の推定を行う SPM 法シミュレーションによる教師データの取得ニューラルネットワークを構築するためには教師データが必要となる そのために多くの人工欠陥試験体を作製し, 試験を実施してデータを取得するのは不可能である また, 斜角探傷試験では超音波を斜めに送受信するため, 垂直探傷と比べて送受信時間が長く, さらに, 解析領域が大きくなるため, 有限要素法を用いて多くのシミュレーションを実施するには膨大な計算時間を必要とする そこで, 本節では,3 章で説明した音源重ね合せ超音波伝播シミュレーションプログラム (SPM) を用いて教師データの取得を行った なお, 教師データとしての超音波の波形は発信する波形の精度によって変化する そのため, ニューラルネットワークでの推定精度を向上させるため,SPM での発信波形は計測に用いる探触子の発信波形を正確に再現することが重要である ここでは, 次節で行なう人工欠陥試験体の超音波探傷試験に用いた探触子の発信波形を再現した波形を用いてシミュレーションを行った Table 5.4 に計算条件を示す 使用する探触子は周波数 2MHz, 振動子幅 10mm とした 欠陥面に垂直に超音波を入射することが有効であり, 端部エコーを利用する場合は, 屈折角は 60 度,70 度より 45 度を利用する方が有効である 53) ことから屈折角は 45 度とした 推定対象とする欠陥長さを振動子幅以下として 2mm~8mm の範囲で 2mm ごとに変化させ 4 種類, 欠陥傾きを 30 度 ~70 の範囲で 10 度ごとに変化させた 5 種類, 欠陥中心深さを 15mm~30mm の範囲で 5mm ごと変化させ 4 種類, これらの組合せた 80 個について 79

85 超音波伝播挙動を計算した Table 5.4 Calculating condition for preparing the teaching data for neural network Probe Defect Frequency f (MHz) 2 Transducer size B (mm) 10 Refraction angle θ (deg) 45 Type Slit Length 2a (mm) 2,4,6,8 Depth d (mm) 15,20,25,30 Gradiend α (deg) 30,40,50,60,70 斜角探傷では欠陥面に対する超音波の入射角により走査グラフの形状が変化する つまり, 欠陥面に対して垂直に近い角度で超音波が入射する場合, ピークが一つの走査グラフとなる また, 欠陥面に大きな入射角を持って入射する場合, 欠陥上端および下端からの端部エコーによりピークが二つの走査グラフとなる ピークが一つの場合とピークが二つの場合に分けて, ニューラルネットワークを構築することは可能であり, 予想される欠陥領域における走査グラフを作製し, その走査グラフから使用するニューラルネットワークを決定することもできると考えられる しかし, 一般には欠陥角度は不明であり, 予想される欠陥領域において探触子を細かいピッチで走査し, 走査グラフを作製するには手間がかかる また, 欠陥の角度によってはどちらのニューラルネットワークを使用すべきか判断しづらい場合もありうると考えられる そこで, 探傷面で探触子を前後に動かし, エコー高さが最大となる位置, その位置から探触子を前後に 3mm 動かした位置でのエコー高さ, およびそれぞれのエコー高さを記録した探触子位置での伝播時間をニューラルネットワークの入力とした すなわち,Fig.5.9 に示す 3 点での取得データを用いる Point 1: エコー高さが最大となる探触子位置 P1: 最大エコー高さ T1: 最大エコー高さを記録した探触子位置での伝播時間 Point 2:Point 1 から前方へ探触子を 3mm 動かした位置 P2:Point 2 でのエコー高さ T2:Point 2 での伝播時間 Point 3:Point 1 から後方へ探触子を 3mm 動かした位置 P3:Point 3 でのエコー高さ T3:Point 3 での伝播時間 80

86 これらのデータから教師データの入力値は, 以下の値とした P1: 最大エコー高さ T1: 最大エコー高さを記録した探触子位置での伝播時間 P2/P1:P1 と P2 のエコー高さの比 T1-T2:P1 と P2 を記録した伝播時間の差 P3/P1:P1 と P3 のエコー高さの比 T3-T1:P1 と P3 を記録した伝播時間の差 Non-dimensional echo height :H-Hφ(dB) Point 2 Point 3 Point Distance between defect center and beamline: c (mm) Fig.5.9 Position of probe to obtain input values なお,Fig.5.9 の横軸は探触子を移動させた際の欠陥中心からビーム中心までの距離を表 しており, 縦軸は深さ 21.2mm,φ3mm の横穴欠陥 ( 標準試験片 ) を探傷して得られるエ コー高さを基準にした相対エコー高さである 斜角探傷試験の欠陥同定のフロー垂直探傷欠陥同定の場合と同様に入力層, 中間層 1 層, 出力層で構成される 3 層型ニューラルネットワークを適用する 斜角探傷欠陥同定フローを Fig.5.10 に示す まず, シミュレーションにより取得した教師データを用いて欠陥深さ, 欠陥傾き角, 欠陥長さの同定を行なう 3 種類のニューラルネットワークの学習を行なう 欠陥深さ同定ネットワークは, 前節で示した 6 個を入力値とし, 中間層のニューロンの数を 6 個として, 欠陥中心深さを出力値とする 欠陥傾き角同定ネットワークは教師データに欠陥中心深さを追加し, 中間層のニューロンを 7 個として, 欠陥傾き角を出力値とする 欠陥長さ同定ネットワークは教師データに欠陥中心深さ, 欠陥傾き角を追加し, 中間層のニューロンを 8 個として, 欠陥長さを出力値とする 81

87 Simulation of Ultrasonic Wave Propagation Preparation of Training Data Training of depth identification network Training of angle identification network Training of length identification network Estimating the Defect Depth Estimating the Defect Angle Estimating the Defect Length Fig.5.10 Flow chart for evaluation of defect depth, angle and length. (Angle beam technique) シミュレーション結果を入力とした欠陥性状推定結果構築したニューラルネットワークの推定精度を確認するために, 教師データとは別に欠陥深さ, 傾き, 長さをランダムに組合せて SPM シミュレーションを行ない,20 組の推定用探傷データを準備し, 得られた入力値をニューラルネットワークに入力して得られた欠陥深さ, 傾き角, 長さの推定結果を Fig.5.11 に示す グラフの横軸は欠陥パラメータ推定値を表し, 縦軸は実欠陥のパラメータを表している Fig.5.11(a) は欠陥中心深さの推定結果で, 推定値は実深さに対して ±5% 以内で推定できていることがわかる Fig.5.11(b) は欠陥傾き角の推定結果であり, 実際の傾き角に対してほぼ ±5% 程度の誤差で推定できている Fig.5.11(c) は欠陥長さの推定結果を示している 欠陥中心深さ, 傾き角の推定値より誤差が若干大きいが, 推定値は実欠陥長さに対して ±10% 程度の誤差で推定できている なお, 欠陥傾き角あるいは欠陥長さ同定用のニューラルネットワークを学習する際, エコー高さと伝播時間だけを入力とした場合, ニューラルネットの学習が収束しなかった これは入力値から欠陥性状を同定するための情報量が不足したことが原因であると推察される また, 走査グラフのピークが一つの場合と二の場合に分けて, ニューラルネットワークを構築すれば推定精度がさらに向上する可能性があると考えられる 82

88 35 80 Actual defect depth(mm) : Estimate value : ±5% error Actual defect angle (deg) : Estimate value : ±5% error Estimate defect depth(mm) (a) Estimate result of defect depth Estimate defect angle(deg) (b) Estimate result of defect angle Actual defect length(mm) : Estimate value : ±10% error Estimate defect length (mm) (c) Estimate result of defect length Fig.5.11 Defect identification results by neural network 斜角探傷試験結果を入力とした欠陥性状推定結果本節では, 人工欠陥試験体の超音波探傷試験を実施し, 前節で構築したニューラルネットワークに探傷試験結果を入力し欠陥性状の推定を行い, 構築したニューラルネットワークの推定精度および実用性を検証した (1) 人工欠陥試験体の超音波斜角探傷試験傾きのあるスリット欠陥を超音波探傷試験する目的のために人工欠陥試験体を作製した 欠陥の傾き, 深さおよび長さを Fig.5.12 に示す 試験体側面から放電加工によりスリット状に人工欠陥を入れており, 欠陥は実際の欠陥に近い形として欠陥幅 0.6mm のスリット状 83

89 の欠陥とした 各試験体内のスリット欠陥は長さおよび欠陥中心深さが同じで, 欠陥傾き角を変えている 一つの試験体に寸法が異なる複数の欠陥を入れているが, 探傷試験を実施する際, 隣接する欠陥の影響を受けないようにスリット欠陥の間隔を十分に大きくしている また, 試験体の上面および下面から探傷することにより, 異なる欠陥深さの欠陥を探傷することができる 試験体 1は欠陥長さ 2mm, 欠陥傾き角は各々 30,45,50,60,70, 欠陥深さは 16mm と 24mm である 試験体 2は欠陥長さ 4mm, 欠陥傾き角は各々 15,30,45, 60, 欠陥深さは 16mm と 24mm である また, この試験体 2には相対エコー高さの基準となる直径 3mm, 深さ 21.2mm の横穴円形欠陥 ( 標準欠陥 ) を入れている 試験体 3は欠陥長さ 7mm, 欠陥傾き角は各々 30,45,50,60,70 で欠陥深さは 20mm と 28mm である 試験体 4は欠陥長さおよび欠陥傾き角は試験体 3と同じで欠陥深さが 16mm と 24mm となっている Length Width thickness (mm) Defect hight (mm) Defect angle (deg.) (a) Specimen 1(Defect length 2mm) 84

90 Length Width thickness (mm) Defect hight (mm) Defect angle (deg.) (b) Specimen 2(Defect length 4mm) Length Width thickness (mm) Defect hight (mm) Defect angle (deg.) (c) Specimen 3(Defect length 7mm) 85

91 Length Width thickness (mm) Defect hight (mm) Defect angle (deg.) (d) Specimen 4(Defect length 7mm) Fig.5.12 Specimen for angle beam ultrasonic testing Fig.5.13 に計測に使用した OLYMPUS 社製の超音波探傷器 EPOCH LT とジャパン プローブ ( 株 ) 社製の斜角探触子 2C10 10A45 を示す この斜角探触子は周波数 2MHz, 振動子寸法 10mm 10mm, 屈折角 45 である Ultrasonic flaw detector EPOCH LT Angle probe(frequency 2MHz, transducer 10mm 10mm, angle of refraction Fig.5.13 Ultrasonic flaw detector 45deg.) and angle probe 86

92 以上で説明した人工欠陥試験体を用いて試験を実施した 試験方法は探触子を試験体表面で前後走査し, 人工欠陥からのエコーが最大となる探触子位置でのエコー高さ, ビーム路程を計測し, その位置を原点 (0) とし, この位置から探触子を前方に 3mm, 後方に 3mm 動かした位置でのエコー高さとビーム路程を計測した 欠陥エコー高さは, 試験体 2の直径 3m, 深さ 21.2mm の標準欠陥から得られるエコー高さを基準とした相対エコー高さとした (2) 推定結果シミュレーション結果を用いて学習した前節のニューラルネットワークに, 試験により得られた各欠陥のエコー高さ, 伝播時間を入力して欠陥性状の推定を行った 推定結果を以下に示す (ⅰ) 欠陥中心深さ推定結果欠陥中心深さの推定結果を Table 5.5 および Fig.5.14 に示す 推定を行った欠陥では, 推定誤差は最大 6.5%, 誤差の絶対量で見ると最大 1.5mm の誤差で欠陥中心深さを推定できている Table 5.5 Estimate results of defect depth Actual data estimated depth error error Depth Angle Length (mm) (%) (mm) (mm) (deg) (mm)

93 Actual defect depth(mm) : Estimate value : ±10% error Estimate defect depth(mm) Fig.5.14 Relationship between actual defect depth and estimated defect depth (ⅱ) 欠陥傾き角推定結果欠陥傾き角の推定結果を Table 5.6 および Fig.5.15 に示す 推定を行った欠陥では, 推定誤差は最大 12.0%, 誤差の絶対量で見ると最大 7.7 度の誤差で欠陥傾き角を推定できている Table 5.6 Estimate results of defect angle Actual data estimated angle error error Depth Angle Length (deg) (%) (deg) (mm) (deg) (mm)

94 Actual defect angle(deg) : Estimate value : ±10% error Estimate defect angle(deg) Fig.5.15 Relationship between actual defect angle and estimated defect angle (ⅲ) 欠陥長さ推定結果欠陥長さの推定結果を Table 5.7 および Fig.5.16 に示す 推定を行った欠陥では, 推定誤差は最大 15.0% の推定誤差となった 誤差の絶対量で見ると推定誤差が 1mm より小さい場合がほとんどであり, 振動子幅以下の欠陥長さ推定精度が極端に低下する従来の推定法であるデシベルドロップ法や端部エコー法に比べて, 欠陥長さの推定精度は格段に向上している Table 5.7 Estimate results of defect length Actual data estimated length error error Depth Angle Length (mm) (%) (mm) (mm) (deg) (mm)

95 Actual defect length(mm) : Estimate value : ±10% error Estimate defect length(mm) Fig.5.16 Relationship between actual defect angle and estimated defect angle 5.6 結言熟練者や専門家の経験を必要としない定量的な欠陥同定を高精度に, 簡便かつ迅速に行う手法の開発を目的として, シミュレーション結果を教師データとしたニューラルネットワークを構築し, 振動子幅より小さい欠陥を対象として欠陥からのエコー情報を基に精度よく欠陥性状の同定を行う方法について検討し, 欠陥性状の同定を行った 得られた結果をまとめると以下の通りである 垂直探傷試験による欠陥同定では, (1) ニューラルネットワークの教師データとして, 探触子受信時刻歴波形そのものを入力とするのではなく, 反射波のピーク値およびその伝播時間を抽出し入力とすることで, 小規模なニューラルネットワークを構成することが可能である (2) ニューラルネットワークの学習の際, ネットワークの初期の重みは乱数によって設定される この初期値の影響によるネットワークの偏りをなくすために,7 個のネットワークを作成し, それぞれのネットワークの出力の最大値と最小値を除く,5 個の出力値の平均値を推定値とすることで, ネットワークの偏りの影響を抑えることができる (3) 欠陥形状同定, 欠陥位置同定, 欠陥の大きさ同定, 欠陥角度同定用のニューラルネットワークを構築し, それぞれを順次適用していくことで欠陥形状, 大きさ, 位置, 傾きを精度よく推定することが可能であり, 従来の欠陥長さ推定法であるデシベルドロップ法では過大評価される振動子幅より小さな欠陥においても精度よく欠陥長さを推定できることがわかった 90

96 斜角探傷試験による欠陥性状同定では, (4) 欠陥からの最大エコー高さおよびその位置での伝播時間, 最大エコー高さを計測した位置から探触子を前後に 3mm 動かした位置でのエコー高さおよびその位置での伝播時間をニューラルネットワークの入力とすることで, 欠陥中心深さを推定することができる 欠陥傾き角は, 上記のエコー高さと伝播時間に欠陥中心深さを加えることで角度を推定することができる 欠陥長さは, さらに傾き角を入力に追加することで推定可能である (5) シミュレーション結果を教師データとして構築したニューラルネットワークに, 斜角探傷試験より得られた計測値を入力して欠陥寸法の推定を行い, 欠陥中心深さ, 傾き角, 長さともに精度よく推定できることがわかった (6) 従来の欠陥長さ推定法であるデシベルドロップ法や端部エコー法では過大評価される振動子幅より小さな欠陥において, 欠陥長さの推定精度は格段に向上する 以上より, 試験体の製作など多くの時間ならびにコストを必要とする探傷試験の代わりに, シミュレーション結果を教師データとしてニューラルネットワークを構築し, 構築したニューラルネットワークに探傷試験データを入力して, 欠陥性状を同定する本手法の推定精度, 実用性を検証することができた 91

97 第 6 章超音波探傷試験のエコー高さに及ぼす塗膜厚さの影響 6.1 緒言各種機械や構造物の高精度化, 長寿命化の傾向が加速し, 使用環境がますます苛酷になっている これにともない構造物が健全であるかどうか調べるために定期的に検査保全することが必要になってきた 構造物に内在する欠陥の位置や性状が明らかにされ, かつ作用荷重がわかり, 構造物の破壊靭性値やき裂進展速度等がわかれば, 破壊力学の手法等を用いた試験体の余寿命推定が可能となる この結果から, 欠陥を補修する必要があるかどうか判断することができることから, 構造物の強度評価を行なうためには欠陥寸法の大きさを精度よく推定することが必要不可欠であると言える 現在, 構造物に内在する欠陥の検査には超音波探傷試験が有効な手段として利用されている 供用中の構造物は防錆の目的から塗装されおり, 塗膜上から探傷試験を実施する必要がある場合がある 塗膜上から超音波探傷試験を実施する場合, 塗膜の厚さによりエコー高さが変化することが実験により確認されている 11) 一般的に, 超音波探傷試験では標準試験片や対比試験片を用いて探傷感度が設定され, しきい値法またはデシベルドロップ法を用いた欠陥寸法の測定が行なわれるが, 表面塗膜によりエコー高さが変化すると欠陥の検出性や欠陥性状の正確な評価ができない等の問題が生じる 塗膜の影響を補正するために検査部位と同等の塗装状態の模擬試験片を準備して, 探傷器の感度調整を行うのは困難である また, 検査精度を確保するために, 塗膜を剥離して超音波探傷試験を実施し, 再塗装するには多くの労力と費用を要する 塗膜上から超音波探傷試験を実施して欠陥性状を正確に評価するためには, 検査技術者は塗膜厚さによるエコー高さの変化率を把握しておく必要がある 検査対象面から塗膜を剥離して検査する場合には, 検査対象面の反対側に塗膜が残る可能性が高い したがって, 表面塗膜が探傷感度に及ぼす影響のみならず, 裏面の塗膜が探傷感度に及ぼす影響についても把握しておく必要がある さらに, 塗膜影響を取り除くことができる新しい検査技術を開発することが望まれる 非破壊試験における塗膜の影響に関する研究は少なく, 著者の知る範囲では表面き裂検出に及ぼす塗膜の影響に関する調査 65), 薄板を対象として超音波探傷行う場合, 予め塗膜厚さと超音波の減衰量の関係を求め, 感度補正を行う手法 66) についての報告があるのみである 本章では, 片面が塗装されている試験体の塗装面側から, あるいは非塗装面側から超音波探傷試験を実施する場合に塗膜厚さが超音波エコー高さに及ぼす影響について調べた 92

98 低周波電源コイル 6.2 節では塗膜付き試験体および試験要領について説明する 6.3 節では塗膜付き試験体の波動伝播解析の解析モデルについて述べる 6.4 節ではシミュレーション計算と計測の受信波形の比較を行い,6.5 節では垂直探傷, 斜角探傷について塗膜によるエコー高さの変化を計算と実験で比較して, 塗膜厚さが超音波エコー高さに及ぼす影響を明らかにした 6.6 節では塗膜影響を受けない計測法について検討した 6.2 塗膜付き試験体および試験要領 塗膜付き試験体実際の超音波探傷試験では検査対象の内在欠陥からのエコーを計測している また, 欠陥からの反射波の形状と欠陥以外の検査対象の裏面 ( 底面 ) からの反射波の形状には相関があり, 塗膜がエコー高さに及ぼす影響は欠陥の有無には関係ない そこで, 内在欠陥がない鋼板に塗料を塗布した試験体を作製し, 試験体底面エコーの計測を行うことにした 塗膜付き試験体を Fig.6.1 に示す 試験体材質は MS400 材で塗膜種類はエポキシ系である 試験体の片面を塗装し, 試験体の一部分 ( 幅 mm) は無塗装とし, 基準 ( 塗膜厚さ 0μm) として利用する 目標塗膜厚さを 100,250,350,500,700,1000,2000μm として 7 体の塗膜付き試験体を製作した 塗膜厚さは試験体製作完了後, 電磁誘導式膜厚計で測定を行った 電磁誘導式膜厚計の概略図を Fig.6.2 に示す 測定原理は鉄芯入りコイルの先端に鉄を近づけるとそのわずかな変化に対応し, コイルのインダクタンスが変化す る この変化を利用して鉄素地上の非磁性体皮膜の膜厚 ( h ) を測定するものである 塗 膜測定結果を Table 6.1 に示す 測定塗膜厚さは, 目標塗膜厚さ 100μm の試験体で若干厚くなっているが, 他の試験体では目標塗膜厚さとの差は約 5% 以内の塗膜厚さとなっている P No coating surface Coating surface mm 250mm h p 電流計 ~ 300mm Fig.6.1 Specimen with paint t=20mm 鉄素地 Fig.6.2 Electromagnetic induction thickness meter 93

99 Table 6.1 Results of measurement of paint film thickness Specimen No. (unit:μm) Point No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6 No 試験要領探傷試験は垂直探傷試験と斜角探傷試験を実施した それぞれ, 塗装面, 非塗装面からの底面エコー高さの計測を行った また, 塗膜中の超音波の縦波音速の計測も実施している (1) 垂直探傷試験要領垂直探傷試験に用いた探触子を Table 6.2 に示す 探触子の振動子直径は 6.4mm と 12.7mm, 周波数帯域は狭帯域で, 周波数は 2.25MHz と 5MHz を組み合わせて 3 個の探触子を使用した 計測は各塗膜付き試験体の塗装面, 非塗装面それぞれ 5 か所で底面エコー高さを計測した Table 6.2 Normal probe property Geometry Diameter Frequency D [mm] f [MHz] Case Case Case (2) 斜角探傷試験要領斜角探傷試験に用いた横波斜角探触子を Table 6.3 に示す 振動子の寸法は 10mm 10mm, 周波数帯域は狭帯域, 周波数は 2MHz で屈折角の 45 度の斜角探触子を用いた 各試験体において計測箇所は 5 ラインとし,V 透過法で最大エコー高さが得られる位置でエコー高さの計測を行った 94

100 Table 6.3 Angle probe property Geometry Beam Angle Frequency Width θ(degree) f [MHz] B [mm] Case Case Case 塗膜付き試験体の超音波伝播解析 垂直探傷試験の解析モデル垂直探傷における解析モデルを Fig.6.3 に示す 振動子の厚さは周波数 2.25MHz の場合 1.1mm, 周波数 5MHz の場合 0.4mm とした 試験体の解析領域は幅 40mm, 板厚 20mm である 試験体下面または上面に塗膜層を配置し, シミュレーションプログラム UT_WAVE2 を用いて, 塗膜厚さを変えて超音波伝播シミュレーション計算を実施した 本解析では試験体の要素サイズは探触子周波数 2.25MHz の場合 0.05mm 0.05mm, 探触子周波数 5MHz の場合 0.025mm 0.025mm とした 塗膜部においても鋼と同じ要素サイズで分割している 要素サイズは超音波の1 波長の 1/24 以下の要素サイズで計算すれば欠陥からの反射波形を精度よくシミュレートできる Probe Damper Piezo B = 6.4mm, 12.7mm f = 2.25MHz, 5MHz Paint film Specimen Specimen 20 mm 40 mm Fig.6.3 Calculation model (Normal beam technique) 95

101 6.3.2 斜角探傷試験の解析モデル屈折角 45 の探触子を用いた斜角探傷試験 (Case4) の解析モデルを Fig.6.4 に示す 探触子は周波数 2MHz, 振動子幅 10mm, 振動子厚さ 1.1mm とし, 計測で用いた屈折角の斜角探触子を想定してモデル化を行った 試験体の解析領域は幅 120mm, 板厚 20mm とした 垂直探傷同様に試験体下面または上面に塗膜層を配置した 試験体および塗膜の要素サイズは 0.05mm 0.05mm である Receiving probe Piezo 40 mm Wedge Transmission probe Paint film Specimen mm 120 mm Fig.6.4 Calculation model (Angle beam technique) 6.4. 探触子および塗膜の物性値 探触子の入力 受信波形数値シミュレーションの精度向上のためには振動子の剛性やダンパーの減衰を適切に設定する必要がある 探触子の物性値についての情報は入手するのが困難であるため, 実際の超音波探傷試験で得られた探触子の受信波形に一致するように探触子の特性を定めている Table 6.4 に探触子および塗膜の物性値を示す 超音波パルスの入力波形はカタログを参照して 67) Fig.6.5(a) に示す波形を入力した 数値シミュレーションおよび計測で得られた無塗装面での底面反射波形を Fig.6.5(b) に示す Fig.6.5(b) は Case 2 の垂直探傷で探触子周波数 5MHz, 振動子の寸法 6.4mm で超音波を試験体表面から入射し, 裏面 ( 試験体底面 ) からの反射波の受信波形である Fig.6.5(c) は Case 4 の斜角探傷で屈折角 45 の場合の受信波形である 数値シミュレーションの波形と実験より得られた波形はよく一致しており, 探触子の特性が適切にモデル化できていることがわかる 96

102 Table 6.4 Specimen Paint film Normal Probe (2.25MHz) Material property Density Young's modulus Poisson's ratio Sonic velocity ρ [ 10 3 kg/m 3 ] E [MPa] ν C L [m/sec]c S [m/sec] , ,900 3, , ,580 Piezo , ,550 Damper , ,260 Normal Probe (5MHz) Angle Probe (2MHz) Piezo , ,380 Damper , ,260 Piezo , ,190 Damper , ,260 Wedge , ,730 C L : Longitudinal wave velocity, C S : Shear wave veloctiy Wave amplitude Amplitude Time(μs) (a)signal waveform Exp. Exp. 0.5 Cal. 0.5 Cal Time(μs) Time(μs) 36.0 Wave amplitude (b)normal probe (Case 2) (c) Angle probe (Case 4) Fig.6.5 Comparison of waveform between calculation and experiment (without paint film) 97

103 6.4.2 塗膜の縦波音速と減衰係数 (1) 塗膜の縦波音速塗膜の物性値については不明な点が多いが, 塗膜がある場合の超音波伝播挙動シミュレーションを実施するためには, 塗膜の物性値を同定する必要がある 塗膜の音速は密度, 縦弾性係数, ポアソン比で決まる そこで, 塗膜の密度, ポアソン比はエポキシ樹脂の値を採用し, 縦弾性係数のみを変化させた計算を行い, 塗膜上から実測した底面反射波と計算により得られる底面反射波の伝播時間, 波形の極値間隔を合わせることにより塗膜の縦弾性係数すなわち音速の同定を行った (2) 塗膜の減衰係数 塗膜の減衰係数を cp 2 p ( p m m : 塗膜質量, : 探触子固有円振動数, : 減衰比 ) と定義し, 計測波形の極値の振幅減少量に合うように を変化させた計算を行い減衰係数を同定した (3) 音速と減衰係数の同定結果計算を行ったのは Case2( 垂直探触子, 振動子寸法 6.4mm, 周波数 5MHz) と Case3 ( 垂直探触子, 振動子寸法 12.7mm, 周波数 2.25MHz) の場合である Fig.6.6 に計測波形とシミュレーション波形がよく一致した時の音速と塗膜厚さの関係を示している また, 超音波パルス法により計測して求めた音速も同時に示している 超音波パルス法による塗膜中の縦波音速の計測方法について説明する 探触子周波数 5MHz, 直径 9.5mm の垂直探触子を用いて,Fig.6.7 に示すように同一試験体で, 塗膜の ない箇所と塗膜のある箇所で, 底面反射波の伝播時間の測定を行った 塗膜の縦波音速 C は (6.1) 式で求められる PL C 2h t t PL P 2 1 (6.1) ここで, t 1 は塗膜のない位置での超音波の伝播時間, t 2 は塗膜のある位置での超音波の伝播時間を表し, h P は塗膜の厚さを表す なお 塗膜厚さは電磁誘導式膜厚計で計測している Fig.6.6 を見ると, 塗膜中の縦波音速は計算および計測の両者とも塗膜が厚くなると 低下する傾向にある これは, 塗膜と試験体の剛性が大きく異なり, 鋼の部分の剛性が大 きいため塗膜と鋼の境界面近傍では塗膜の変形が拘束されることになる したがって, 塗 膜が薄い場合, 鋼の剛性の影響により塗膜の拘束度が大きく, 見かけ上塗膜の剛性が大き くなり音速が速く, 塗膜が厚いと拘束度が低下することにより音速が低下するものと考え られる また, 計測した音速は シミュレーションにより求めた音速より 100~200m/s 程度速い結果が得られた これは塗膜上から底面反射波形を計測した時期から数カ月後に 音速計測を実施したため, 塗膜が乾燥した影響によるものと考えている 以降のシミュレ 98

104 ーション計算では, 塗膜中の縦波音速は, 計測した底面反射波形をシミュレーションして 得られた音速の平均値 2580m/sec を用いて計算を実施した Wave velocity (m/sec) paint film thickness(μm) Case 2 Case 3 Exp. Fig.6.6 Relationship between the paint film thickness and wave velocity Probe Paint film Specimen Fig.6.7 Measurement method of wave velocity Fig.6.8 に示すように減衰係数の大きさにより, 波形の極値の振幅減少量は変化する 一 方, 減衰係数の大きさが最大エコー高さに及ぼす影響は,Fig.6.8(a) に示すように塗膜が薄 い場合には影響が小さく, また,Fig.6.8(b) に示すように塗膜が厚い場合には影響が大きい ことが計算によりわかった 0.2 とすることにより全塗膜厚さの場合で最大エコー高 さ, 振幅減少量が計算と計測でほぼ一致する結果が得られた 以降のシミュレーション計 算では, 0.2 を用いて計算を実施した C =2580m/sec, 0.2 PL とした時の Case2 と Case3 の伝播波形の計算結果を計測波 形と比較して Fig.6.9 と Fig.6.10 に示す シミュレーションにより得られた波形は計測さ れた波形とほぼ一致した結果が得られている 99

105 Wave amplitude ζ=0.1 ζ=0.2 ζ=0.3 Wave amplitude ζ=0.1 ζ=0.2 ζ= Time(μs) (a) h p =200μm (b) h p =1000μm Fig.6.8 Waveform changes due to differences of damping coefficient (Normal probe Case 2) Time(μs) Wave amplitude Exp. Cal. Wave amplitude Exp. Cal Time(μs) (a) Time(μs) h p =250μm (b) h p =500μm Wave amplitude 1.0 Exp. 0.5 Cal Time(μs) Wave amplitude Exp. Cal Time(μs) (c) h p =700μm (d) h p =1000μm Fig.6.9 Comparison of waveform between calculation and experiment (Normal probe Case 2) 100

106 Wave amplitude Exp. Cal. Wave amplitude Exp. Cal Time(μs) Time(μs) (a) h p =250μm (b) h p =500μm Wave amplitude Exp. Cal. Wave amplitude Exp. Cal Time(μs) (c) Time(μs) h =1000μm h p =700μm (d) p Fig.6.10 Comparison of waveform between calculation and experiment (Normal probe Case 3) 6.5 エコー高さの計算および計測結果 塗膜内超音波の反射による波の干渉斜角探傷試験で非塗装面から探傷する場合, 鋼中に入射された超音波は鋼と塗膜の境界面で反射する波と, 鋼から塗膜内に入射し塗膜裏面で反射する波があり, この両者が干渉することになる Fig.6.11 は塗膜内での超音波の干渉の様子を図示したものである 入射波の波面 BB' が屈折して波面 CC' に進んだとする CC' は同じ波面であるから, その波面上の各点での位相は同じである C' 点で反射する波 B'C'F と, 塗膜の中を通って出てきた波 BDC'F との位相の違いは, 一方の波が CDC' をよけいに通ることのよって生じる 屈折角を とすると, 波 B'C'F と波 CDC'F との距離差は CD DC CD DE CE 2h cos (6.2) である 距離差と波長の比 R を式 (6.3) のように定義する 101 P

107 2hP cos R (6.3) PL 1 CPL sin sin CSS C, PL PL f ここで, PL : 塗膜中の縦波波長, C SS : 鋼中の横波音速, : 鋼から塗膜への超音波の入射角, f : 探触子周波数 Steel A A B θ θ θ F C SS,λ SL Paint film h P B α C α C C PL,λ PL D α Fig.6.11 Interference with ultrasonic wave in the paint film E Fig.6.12 に示すように, Z ( C) を音響インピーダンスとすると, 非塗装面から探傷する場合,Fig.6.12(a) のように Z 1 Z 2 Z 3 であるので波 A' が C' 点で反射するとき位相の反転は起こらない また, 波 A が D 点で反射するときも位相は反転しない よって,2 つの 波は同相となり, R 0.5 n n ) のとき 2 つの反射波の位相差は 2n 1 ( 0,1, 2,3, となり,2 つの波は弱め合う 一方, R つの波は強め合うことになる nのとき 2 つの反射波の位相差は 2n となり,2 塗装面からの探傷の場合は, 入射時および受信時に干渉が生じる Fig.6.12(b) のように入射時は Z 1 Z 2 Z 3 であるので波 A は D 点,C' 点で反射する時に位相が反転する した がって, 波 A' の透過波は同相となる R 0.5 n ( n 0,1, 2,3, ) のとき 2 つの波の 位相差は2n 1 となり,2 つの波は弱め合う また, R nのとき 2 つの波の位相差は 2n となり,2 つの波は強め合うことになる 受信時は Z 1 Z 2 Z 3 であるので波 A は C' 102

108 点,D 点で反射する時, 位相の反転は起こらない したがって, 波 A' の透過波は同相とな る R 0.5 n n ) のとき 2 つの波の位相差は2n 1 ( 0,1, 2,3, となり,2 つの 波は弱め合う また, R nのとき 2 つの波の位相差は 2n となり,2 つの波は強め合うことになる A A F Steel:Z 1 B α C Paint film:z 2 D Air:Z 3 (a) Specimen with painted at bottom side ( Z1 Z2 Z3) A A B α C Acrylic:Z 3 Paint film:z 2 B α C Acrylic:Z 3 Paint film:z 2 D Steel:Z 1 D Steel:Z 1 Transmission ( Z1 Z2 Z3) Receiving ( Z1 Z2 Z3) (b) Specimen with painted at top side Fig.6.12 Reflection and refraction of wave A A 垂直探傷におけるエコー高さの変化 (1) 塗装面からの探傷の場合 Fig.6.13 に塗装面からの探傷した場合の塗膜厚さと底面エコー高さの関係を計算結果と 計測結果を同時に示す 横軸は塗膜厚さを表し, 縦軸は (7.4) 式に定義するように無塗装面 の底面エコー高さを計測し, これを基準にして表示している PR 20 log 10 p p 0 (6.4) p : 塗膜がある場合の底面エコーのピーク値 p 0 : 無塗膜面の底面エコーのピーク値また,Fig.6.13 は横軸を (7.3) 式でθ=0 とした 103

109 R 2t p PL (6.5) で定義される無次元塗膜厚さとエコー高さの関係を図示したものである エコー高さは塗膜厚さにより変化し, 塗膜厚さとエコー高さの関係は線形関係でないこと がわかる 周波数が 2.25MHz である Case1 と Case3 の計算値と計測値は定性的には合っ ているが, 計測値は計算値より全体的に 5dB~10dB 程度大きな値となっている エコー 高さは塗膜厚さ 0.3mm で最小となり,0.5mm で最大となっている Case2 の周波数 5MHz の場合は計算結果と計測結果はほぼ一致した結果が得られた エコー高さは, 塗膜厚さ 0.125mm で最小となり,0.25mm で最大となっている (6.5) 式を用いて塗膜厚さを超音波の波長で無次元化表示した Fig.6.14 を見ると, 使用した探触子に依らず, エコー高さは R 0.5, すなわち塗膜内を超音波が往復する距離が波長の 1/2 で最小値となり, R 1.0, すなわち超音波が塗膜内を往復する距離と波長が等し い時最大値をとる 以上のことより, エコー高さの非線形な変化の原因が塗膜内の反射波 の干渉によるものであることがわかった さらに,Case1~3 の結果はほぼ一致する結果 が得られた 探触子の振動子寸法, 周波数の違いがエコー高さに影響しない結果が得られ た Relative echo height, P R (db) Cal. Case1 Cal. Case2 Cal. Case3 Exp. Case1 Exp. Case2 Exp. Case Paint film thickness (mm) Fig.6.13 Relationship between the paint film thickness and the echo height (for the specimen with painted at top side) 104

110 Relative echo height, P R (db) Cal. Case1 Cal. Case2 Cal. Case3 Exp. Case1 Exp. Case2 Exp. Case Non-dimensional value of paint film thickness, R Fig.6.14 Relationship between the non-dimensional paint film thickness and the echo height (for the specimen with painted at top side) (2) 非塗装面からの探傷の場合 Fig.6.15 に非塗装面からの探傷した場合の塗膜厚さと底面エコー高さの関係を示す 計測結果では Case2( 探触子周波数 5MHz) の場合にばらつきがあるものの, 計算結果と計測結果は定量的に良く一致している結果が得られた 周波数 2.25MHz の場合 (Case1, Case3) は塗膜厚さ 0.3mm で最小となる 周波数 5MHz の場合 (Case2) は塗膜厚さ 0.125mm で最小となっている (6.5) 式を用いて塗膜厚さを超音波の波長で無次元表示した Fig.6.16 を見ると, エコー高さは R 0.5 で最小値となり, R 1.0 で最大値をとる 2 Relative echo height, P R (db) 0-2 Cal. Case1 Cal. Case2-4 Cal. Case3 Exp. Case1 Exp. Case2 Exp. Case Paint film thickness (mm) Fig.6.15 Relationship between the paint film thickness and the echo height (for the specimen with painted at bottom side) 105

111 2 Relative echo height, P R (db) Cal. Case1 Cal. Case2 Cal. Case3 Exp. Case1 Exp. Case2 Exp. Case Non-dimensional value of paint film thickness, R Fig.6.16 Relationship between the non-dimensional paint film thickness and the echo height (for the specimen with painted at bottom side) (3) 塗膜物性値がエコー高さに及ぼす影響について 節では, 密度とポアソン比をエポキシ樹脂の値とし, ヤング率のみを変化させて, 音速が計測値と一致するようにヤング率を求めた 縦波音速は (2.2) 式で求められる C E (2.2, 再掲 ) また, 音響インピーダンスは (2.5) で求められる Z C (2.5, 再掲 ) (2.2),(2.5) 式より, ポアソン比が同じと仮定すると, ヤング率と密度の比が一定であ れば異なる材質においても音速は同じ値となるが, 音響インピーダンスの値は異なること がわかる そこで, 塗膜の音響インピーダンスの違いによりエコー高さがどのように変化 するかを調べた Table 6.5 に示すような物性値を持つ 2 種類の塗膜を仮定した MAT2 は MAT1 の密度を 2 倍にして音速を同じ値にしたものであり, 音響インピーダンスの値が 異なっている Table 6.5 Properties of assumed paint film Density ρ[ 10 3 kg/m 3 ] Young's modulus E [Mpa] Poisson's ratio ν Velocity C [m/s] Z [N S/m 5 ] MAT , , MAT , ,

112 Table 6.5 の物性値を用いて, 超音波伝播解析を行い, 塗膜厚さとエコー高さの関係を求めた結果を Fig.6.17 と Fig.6.18 に示す 音速は同じであっても密度, ヤング率が異なるとエコー高さが異なることがわかる 塗装面から探傷した場合 (Fig.6.17), 密度の小さい MAT 1 がエコー高さの低下が大きいことがわかる 一方, 非塗装面から探傷した場合 (Fig.6.18), 密度の大きい MAT 2 の方がエコー高さの低下が大きい MAT1 と MAT2 のそれぞれについて, 塗膜と鋼との境界で超音波が垂直に入射するときの音圧反射率, 音圧往復通過率を求めた結果を Table 6.6 に示す なお, 鋼の音響インピーダンスは (N S/m 5 )( 密度,7850kg/m 3, 縦波音速,5900m/s) とした 塗膜上から探傷する場合, 超音波が塗膜を通過して鋼裏面で反射し, 再度塗膜を通過するため, 往復通過率が高ければ高いほど底面エコー高さは大きくなる よって,Fig.6.17 で MAT1 より MAT2 の方がエコー高さが高くなっているのは,MAT2 の音圧往復通過率が大きいためである また,Fig.6.16 の MAT1 と MAT2 のエコー高さの平均的な比 0.53 は, 往復音圧通過率の比 0.56 と近い値となっている 非塗装面からの場合には, 鋼と塗膜の境界面で反射する反射波が先に伝播し, その後, 塗膜層に入射した超音波が塗膜裏面で反射波となって帰ってくる したがつて, 通過率の大きい方が塗膜に超音波が多く入射することになり, 鋼と塗膜の境界面で反射するエコー高さが低くなる よって,Fig.6.18 で MAT2 の方がエコー高さが低くなっている理由は, MAT2 の音圧通過率が大きいためである 以上のことより, エコー高さに及ぼす塗膜の物性値は, 音速だけの同定では不十分であり, 密度あるいはヤング率を正確に同定する必要があることがわかった 0 Relative echo height, P R (db) MAT 1 MAT Non-dimensional value of paint film thickness, R Fig.6.17 Relationship between the non-dimensional paint film thickness and the echo height (for the specimen with painted at top side) 107

113 Relative echo height, P R (db) MAT 1 MAT Non-dimensional value of paint film thickness, R Fig.6.18 Relationship between the non-dimensional paint film thickness and the echo height (for the specimen with painted at bottom side) Table 6.6 Value of reflection coefficient and Transmittance coefficient MAT 1 MAT 2 Reflection coefficient 87.8% 76.8% Transmittance coefficient 12.3% 23.2% Echo transmittance 22.9% 41.0% 塗膜の密度の測定を行い, 測定した密度も用いて超音波伝播解析を行い, 塗膜厚さとエコー高さの関係を求めた 塗膜物性値を Table 6.7 に示す 計算結果を Fig.6.19 と Fig.6.20 に示す また, 周波数 2.25MHz, 直径 10mm の垂直探触子を用いて, 塗膜付き試験体に対して垂直探傷試験を行い, 底面エコー高さを計測した結果 (Case 7) も合わせて図示している Fig.6.19 を見ると, 計測値は周波数 2MHz の方が 5MHz よりエコー高さが高くなっている これは塗装面の多少の凹凸の影響が平均化されるためと考えられる また, 周波数 5MHz の Case2 は塗膜が厚い領域で超音波の減衰が大きくなるため計算値と計測値の差があるが, 計算値と計測値は良く一致している結果が得られている Fig.6.20 では,5MHz の計測値にばらつきがあるものの計算値と計測値は良く一致している Table 6.7 Properties of paint film Density ρ [ 10 3 kg/m 3 ] 1.75 Young's modulus E [MPs] 7,980 Poisson's ratio ν 0.32 Velocity C [m/s] 2,

114 Relative echo height, P R (db) 0 Exp. Case1 Exp. Case2 Exp. Case3 Exp.Case7-6 Cal. Case1 Cal. Case2 Cal. Case3 Cal.Case Non-dimensional value of paint film thickness, R Fig.6.19 Relationship between the non-dimensional paint film thickness and the echo height (for the specimen with painted at top side) 2 Relative echo height, P R (db) 0-2 Cal. Case1 Cal. Case2-4 Cal. Case3 Exp. Case1 Exp. Case2 Cal.Case7 Exp. Case3 Exp.Case Non-dimensional value of paint film thickness, R Fig.6.20 Relationship between the non-dimensional paint film thickness and the echo height (for the specimen with painted at bottom side) 斜角探傷におけるエコー高さの変化 (1) 塗装面からの探傷の場合 Fig.6.21 に (6.3) 式で無次元化した無次元塗膜厚さとエコー高さの関係を示す R=0.3~ 0.4 の範囲でエコー高さが大きく変化し, 無塗装の場合よりエコー高さが大きくなる範囲が存在する エコー高さの極値を示す R の値は, 探触子屈折角により異なり, 斜角探傷の場合は垂直探傷の場合のように, エコー高さの非線形な変化を超音波が塗膜内を往復する距離と波長の関係で表すことができないことがわかった 109

115 Relative echo height, P R (db) Exp.Case4 Exp.Case5 Exp.Case6 Cal.Case4 Cal.Case5 Cal.Case Non-dimensionam paint film thickness, R Fig.6.21 Relationship between the paint film thickness and the echo height (for the specimen with painted at top side) (2) 非塗装面からの探傷の場合 Fig.6.22 は横軸の塗膜厚さを (6.3) 式で無次元化した塗膜厚さとエコー高さの関係を図示したものである エコー高さは R で極小値となり, 塗装面からの探傷と同様, 垂直探傷の場合のようにエコー高さの変化を超音波が塗膜内を往復する距離と波長の関係 で表すことができないことがわかった Relative echo height, P R (db) Exp.Case4 Exp.Case5 Exp.Case6 Cal.Case4 Cal.Case5 Cal.Case Non-dimensional paint film thickness, R Fig.6.22 Relationship between the paint film thickness and the echo height (for the specimen with painted at bottom side) 110

116 (3) 斜角探傷における塗膜内の超音波の干渉に関する考察 節では同じモード ( 縦波または横波 ) の 2 つの波を考え, 位相差が 2n のと き 2 つの波が弱め合い, 位相差が 2n のとき 2 つの波が強め合うと考えた しかし, 斜角探傷試験の結果は異なった結果が得られた 斜角探傷時の波の干渉について考察するために, 塗膜層を厚くし, 超音波伝播挙動を計算し, その状況を可視化した結果を Fig.6.23 に示す Fig.6.23(a) は探触子から塗膜に超音波が入射する場合であり, 探触子から塗膜層に入射した縦波とモード変換により発生した横波が塗膜内を伝播しており,Fig.6.23(b) では鋼中を伝播してきた横波とモード変換により生じた縦波が塗膜内を伝播することがわかった 塗膜 縦波 b 横波 a 鋼 鋼 塗膜 縦波 c 横波 b (a) Specimen with painted at top side (b) Specimen with painted at bottom side Fig.6.23 Visualization of the propagating behavior of ultrasonic wave Fig.6.24 は超音波の斜め入射の屈折, 反射およびモード変換の様子を図示したものである 赤線が縦波, 青線が横波を表している Fig.6.24(a) は塗膜上から超音波を入射した場合で, くさび ( アクリル ) 中を伝播してきた縦波が塗膜に入射し, 屈折通過したときに屈折縦波 (f) と一部が横波にモード変換した屈折横波 (a) が塗膜中を伝播する 塗膜から鋼に屈折通過する際, 横波 (a) は屈折横波として伝播し, 縦波 (f) は入射角が臨界角に達するため横波のみにモード変換して屈折横波 (g) となり鋼中を伝播する 鋼中を伝播してきた横波 (b,g) は鋼下面で反射し反射横波 (c,h) として伝播する 反射縦波は入射角が臨界角に達しているため発生しない 鋼下面で反射した横波が再度塗膜に入射するとき, 横波 (c) は屈折横波 (d) と一部がモード変換した屈折縦波 (e) となり, また, 横波 (h) 111

117 は屈折横波 (i) と一部がモード変換した屈折縦波 (j) となって伝播する したがって, 塗膜中では 4 つの波 (d,e,j,i) が伝播することになる Fig.6.24(b) は非塗装面 ( 鋼 ) から超音波が入射した場合であり, くさび ( アクリル ) 中を伝播してきた縦波が鋼中に屈折通過するときにモード変換し屈折横波 (a) として鋼中を伝播する その際, 入射角が臨界角に達しているため屈折縦波は発生しない 鋼中を伝播してきた横波 (a) が塗膜に入射し, 屈折通過したときに屈折横波 (b) と一部がモード変換した屈折縦波 (g) が塗膜中を伝播する 塗膜下面で横波 (b) が反射する際, 反射横波 (c) と一部がモード変換した反射縦波 (e) となり, また, 縦波 (g) が反射する際, 反射縦波 (j) と一部がモード変換した反射横波 (h) として伝播する 塗膜内を伝播してきた波が再度鋼に入射し, 屈折通過する際, 屈折横波 (d,i) とモード変換した横波 (f,k) となり伝播する したがって, 鋼中では (d,f,i,k) の 4 つの波が伝播することになる 塗膜上面から塗膜下面までの縦波および横波の伝播時間は次式で得られる (Fig.6.25 参 照 ) T T L S hp cos C L hp cos C S PL PS (6.6) (6.7) ここに, T, T : 塗膜中の縦波, 横波の伝播時間, h : 塗膜厚さ L S C, C : 塗膜中の縦波, 横波の音速,, : 縦波, 横波の屈折角, PL PS Fig.6.24(a) の場合, 縦波 (j) が最初に到達し, 次に時間 ( T S T L ) だけ遅れて横波 (i) と縦波 (e) が同時に到達する さらに時間 ( T S T L ) だけ遅れて横波 (d) が到達する Fig.6.24(b) の場合, 横波 (k) が最初に到達し, 次に時間 ( T S T L ) だけ遅れて横波 (f) と横波 (i) が同時に到達する さらに時間 ( T S T L ) だけ遅れて横波 (d) が到達することになる 以上より, 斜角探傷時は 節で説明した同じモードの2つの波の塗膜内の反射による干渉の他に, 超音波が塗膜内に入射し屈折通過, 反射する際に生じるモード変換により発生する波の伝播時間の差による干渉があり, 複雑な干渉現象が生じ, 塗膜厚さと超音波波長の比のみでエコー高さの変化を表現できないことがわかった L P S 112

118 i j Paint film d e f a i Steel k f d a e Steel h c g b Shear wave Longitudinal wave Paint film h j c g b Shear wave Longitudinal wave (a) Specimen with painted at top side (b) Specimen with painted at bottom side Fig.6.24 Reflection and refraction of slanting incidence Paint film hp θl θs Longitudinal wave Shear wave Fig.6.25 Propagation with ultrasonic wave in the paint film 6.6 塗膜厚さの影響を受けない計測法垂直探傷の場合には, 鋼と塗膜の境界面で反射する波と鋼から塗膜内に入射し塗膜裏面で反射する波が干渉することにより, エコー高さが変わることがわかった そこで 2 つの反射波が干渉しないようすればエコー高さは変化せず一定値が得られることが期待できる Fig.6.26 に示すように試験体の裏面あるいは表面に塗膜と同じ物性値を有する非干渉板を設置し, 超音波の干渉が生じないようにする方法について検討した 非干渉板を設置することにより超音波が非干渉板内を伝播する距離が長くなり 2 つの波が干渉しなくなると考えられる 113

119 Probe Probe Decoupling plate specimen Paint film Paint film specimen Decoupling plate Fig.6.26 Calculation model with decoupling plate 探触子周波数 2.25MHz, 探触子の振動子寸法 6.4mm の計算モデルを用いて, 非干渉板の効果を確認するために数値計算を実施した 非干渉板と探触子は接着しているものとして, 垂直方向および面内方向変位を結合した, 非干渉板と試験体の接触面は垂直方向変位を結合させ, 面内方向変位を自由にしている 非干渉板の厚さは 2mm とした Fig.6.27 は R=0.6( 塗膜厚さ 350μm) で塗装面から探傷した場合のエコーの時刻歴を示している Fig.6.27(a) は非干渉板を設置していない場合,Fig.6.27(b) は非干渉板を設置した場合である 非干渉板を設置することにより底面エコーと塗膜と鋼の境界面で反射するエコーが分離され干渉していないことがわかる 塗膜厚さを変えて計算を行った Fig.6.28 に非塗装面からの探傷の場合の計算結果, Fig.6.29 に塗装面からの探傷の場合の計算結果を示す 両者とも塗膜厚さが変わってもエコー高さは変化せず, エコー高さは一定の値となることを確認することができた しかしながら, 斜角探傷の場合は, 超音波の反射による位相差による干渉だけでなく, モード変換によって生じた波の伝播時間の差による干渉があるために, このような非干渉板の設置では効果がないものと考えられる 114

120 1.5E-03 Wave amplitude 1.0E E E E E E E E E E-05 Time(sec) (a) without decoupling plate 4.E-04 Wave amplitude 2.E-04 0.E+00-2.E-04-4.E E E E E-05 Time(sec) (b) with decoupling plate Fig.6.27 Calculated waveform in R=0.6 (for the specimen with painted at top side) Non-dimensional echo height: P R [db] Cal. Case1 with Decoupling plate Non-dimensional value of paint film thickness: R Fig.6.28 The effect of decoupling plate on the echo height (for the specimen with painted at bottom side) 115

121 Non-dimensional echo height: P R [db] Cal. Case1 with Decoupling plate Non-dimensional value of paint film thickness: R Fig.6.29 The effect of decoupling plate on the echo height (for the specimen with painted at top side) 6.7 結言塗膜上から超音波探傷試験を実施する場合, 塗膜の影響によりエコー高さが変化する 塗膜厚さが超音波エコー高さに及ぼす影響を調べるために, 塗膜厚さ, 探触子の種類を変えて, 数値シミュレーションを実施して塗膜厚さが超音波エコー高さに及ぼす影響について調べた 得られた結果をまとめると以下の通りである (1) 数値計算結果と計測結果は良く一致した結果が得られ, 数値計算は良い精度でシミュレーションできていることが確認できた (2) エコー高さに及ぼす塗膜の物性値は, 音速だけの同定では不十分であり, 密度あるいはヤング率を正確に同定する必要があることがわかった (3) 垂直探傷の場合, 塗膜と試験体材料との界面で生じる超音波の多重反射による干渉でエコー高さが変化する その変化は塗膜厚さとは線形関係とならず, 塗膜厚さと超音波の波長の比によりエコー高さが変化することがわかった (4) 斜角探傷の場合, エコー高さの変化は塗膜内の超音波の反射による干渉と, 超音波が塗膜に入射し屈折通過, 反射する際に生じるモード変換によって発生した波の伝播時間の差による超音波の干渉があり, 複雑な干渉現象が生じている (5) 垂直探傷試験の場合に塗膜厚さの影響を受けない計測法について検討し, 非干渉板を設置して 2 つの反射波を非干渉化することにより塗膜厚さが変わってもエコー高さは変化しないことを確認した 今後は, 塗膜厚さによる超音波のエコー高さの変化を予測し適切な補正を行う方法につ 116

122 いて検討することが必要である また, 非干渉板の効果を実験により確認し, その効果を 取入れた探触子の開発を行うことである これにより垂直探傷の場合は, 塗膜上からの探 傷試験を短時間で高精度に実施することができるようになると期待できる 117

123 第 7 章結言 本研究では, 超音波探傷試験による欠陥性状を定量的に精度よく推定を行う手法の開発を目的として, まず, 動的陽解法を用いた時刻歴応答有限要素法により超音波伝播挙動解析プログラム UT-WAVE2 を開発し, 超音波探傷計測結果と比較して解析精度の検証を行うとともに, 振動子サイズ, 探傷周波数, および欠陥位置や寸法が異なる場合のシミュレーションを行ない, 欠陥検出限界や欠陥寸法の推定精度について検討した 次に, 熟練者や専門家の経験を必要としない定量的な欠陥同定を高精度に, 簡便かつ迅速に行う手法として, シミュレーション結果を教師データとしたニューラルネットワークを構築し, 超音波の伝播波形情報をもとに欠陥性状の同定が可能であるかについて検討した さらに, 探傷面の塗膜が超音波エコー高さに及ぼす影響を調べるために, 塗膜厚さが異なる塗膜付き試験体を製作し, エコー高さを計測するとともに, 数値シミュレーションを実施して塗膜厚さが超音波エコー高さに及ぼす影響を明らかにした 第 1 章の緒言に続き, 第 2 章においては, 超音波探傷試験の基礎についてまとめた す なわち,2.2 節では, 超音波探傷試験の方法を概説し,2.3 節では超音波の性質,2.4 節で は超音波の反射, 透過, 屈折,2.5 節では振動子の音場特性について概説した 第 3 章では, 動的陽解法を用いた時刻歴応答有限要素法による超音波伝播挙動解析プログラム UT-WAVE2 を開発し, 垂直探触子を用いた超音波探傷計測結果と比較して解析精度の検証を行った さらに, 点音源重ね合わせ法 (Superposing method;spm) による数値シミュレーションの手法について説明し, シミュレーション結果と斜角探傷試験結果との比較を行った精度検証結果を示した 得られた結果をまとめると以下の通りである (1) UT-WAVE2 について 1) 超音波の伝播挙動を計算する際の要素サイズは超音波の波長の 1/24 以下の要素サイズで計算すれば欠陥からの反射波を精度よくシミュレーションできることがわかった 2) 数値シミュレーションの解析精度を検証するために, 試験体を用いて垂直探傷試験を実施した その結果, 計算結果は反射波の到達時間, 反射波形, エコー高さともに実験結果を比較的良くシミュレーションできていることを確認できた 118

124 3) 超音波の縦波の伝播挙動は試験体中の圧力分布を計算することにより可視化することができる また, 横波の伝播挙動は変位の回転を計算し出力することで可視化することができる 超音波の可視化により, 構造物中の超音波の伝播を視覚的に把握し, 探触子位置, 探触子周波数や屈折角等の探傷条件を効率的に検討することが可能である 以上のことより, 開発した超音波伝播シミュレーションプログラム UT_WAVE2 は超音波探傷試験における欠陥性状の同定に関する定量的な情報を得るための探傷法の検討などに適用でき, 探傷技術の高度化, 高精度化を図るための有力なツールとして利用できる (2) SPM について 1) 斜角探傷試験の計測結果と SPM 法を用いたシミュレーション結果はよく一致する結果が得られた 2) 欠陥端部で生じる端部エコーを SPM 法を用いてシミュレーション可能である 3)SPM 法を用いた超音波伝播挙動の計算は FEM 計算に比べて約 1/1000 の時間でシミュレーションすることができ, 大幅に計算時間の短縮が図れる 以上より,SPM 法による数値シミュレーションを用いることで, 予想される欠陥を想定し, 探触子の周波数や屈折角等の探傷条件を変更したり, 対象とする欠陥の性状をパラメータとするシリーズ計算を短時間で実施することが可能である 第 4 章では, スリット状の欠陥に対して垂直探傷試験および斜角探傷試験を実施する場合を想定して, 振動子サイズ, 探触子周波数, および欠陥位置や寸法が異なる場合のシミュレーションを実施し, 欠陥からの反射波の大きさがどのように変化するかを調べた さらに, デシベルドロップ法および端部エコー法による欠陥寸法の推定精度について検討し, 以下の結果を得た (1) 垂直探傷試験における欠陥からの反射波の変化について 1) 欠陥長さが振動子幅より大きい場合, 欠陥からのエコーは探触子が欠陥中心直上にあるとき最大となり, この探触子位置が欠陥位置と判断することができる しかし, 欠陥長さが振動子幅より小さい場合, 欠陥端部からのエコーの影響が相対的に大きくなり, 欠陥中心位置でない探触子位置でエコー高さが最大となることがわかった 2) 振動子幅が小さいほど, また, 探触子周波数が高いほど超音波の指向性が鋭くなることが確認できた (2) デシベルドロップ法を用いた垂直探傷試験における欠陥寸法の想定精度について 119

125 1) 欠陥長さが振動子幅より大きい場合, 欠陥深さによらず探触子移動距離 ( 反射波のピークから 6dB 低下する左右 2 ヶ所の位置の間の距離 ) と実欠陥長さは一致する 欠陥長さが振動子幅より小さい場合は欠陥実寸法が過大に評価される 2) 周波数が高いほど小さな欠陥の寸法を精度よく推定できる 3) 振動子幅が小さい方がより小さな欠陥まで欠陥長さを正確に評価できる 6dB ドロップ法では欠陥長さが振動子幅より小さいくなると欠陥実寸法が過大に評価されるが,10dB ドロップ法を適用した場合, より小さな欠陥まで正確に欠陥長さを評価できる (3) 斜角探傷試験の場合の欠陥寸法推定精度について欠陥面に対して垂直に近い角度で超音波が入射する場合, つまり入射角が 0 度に近い場合は, 欠陥面からのエコーが検出され, 欠陥中心付近をピークとする走査グラフが得られる このような場合には, デシベルドロップ法を適用して欠陥寸法の推定を行なうことができる また, 欠陥面に対して斜めに超音波が入射する場合, つまり欠陥面に大きな入射角を持って入射する場合には, 欠陥面からのエコーは低く, 欠陥上端および下端からの端部エコーによるピークが二つ存在する走査グラフが得られる このような場合には端部エコー法を適用して欠陥寸法を推定することができる 1)6dB ドロップ法を適用した欠陥長さ推定では, 欠陥長さが振動子幅以上の範囲では十分な精度で欠陥長さを推定できるが, 振動子幅より小さな欠陥長さ範囲では欠陥長さを過大に評価することがわかった 2) 端部エコー法を適用した欠陥長さ推定では, 欠陥長さが振動子幅以上の範囲では十分な精度で欠陥長さを推定できるが, 振動子幅より小さな欠陥長さ範囲では欠陥長さを過大に評価することがわかった 第 5 章では, 熟練者や専門家の経験を必要としない定量的な欠陥同定を高精度に, 簡便かつ迅速に行う手法の開発を目的として, シミュレーション結果を教師データとしたニューラルネットワークを構築し, 従来の欠陥推定手法では過大に評価される振動子幅より小さい欠陥を対象として, 欠陥エコーの情報から精度よく欠陥性状の同定を行なう方法について検討した 得られた結果をまとめると以下の通りである (1) 探触子受信時刻歴波形そのものを入力するのではなく, 反射波のピーク値およびその伝播時間を抽出して入力とすることで, 小規模なニューラルネットワークを構成し, 欠陥性状を同定することが可能である 120

126 (2) 欠陥形状同定, 欠陥深さ同定, 欠陥の大きさ同定, 欠陥角度同定用のニューラルネットワークを構築し, それぞれを順次適用していくことで欠陥形状, 大きさ, 位置, 傾きを精度よく推定できることがわかった (3) 従来の欠陥長さ推定法であるデシベルドロップ法や端部エコー法では過大評価される振動子幅より小さな欠陥において, 欠陥長さの推定精度は格段に向上する (4) 数値シミュレーション結果を教師データとして構築したニューラルネットワークに探傷試験データを入力して欠陥性状を同定する本手法の推定精度, 実用性を検証することができた 第 6 章では, 塗膜上から超音波探傷試験を実施する場合, 塗膜の影響によりエコー高さが変化するが, 塗膜付き試験体を作製し, 塗膜厚さ, 探触子種類を変えて, エコー高さの計測を行なうとともに数値シミュレーションを実施して, 塗膜厚さが超音波エコー高さに及ぼす影響について調べた 得られた結果をまとめると以下の通りである (1) 数値計算結果と計測結果は良く一致した結果が得られ, 数値計算は塗膜がある場合においても良い精度でシミュレーションできていることが確認できた (2) エコー高さに及ぼす塗膜の物性値は, 音速だけの同定では不十分であり, 密度あるいはヤング率を正確に同定する必要があることがわかった (3) 垂直探傷の場合, 塗膜と試験体材料との界面で生じる超音波の多重反射による干渉でエコー高さが変化する その変化は塗膜厚さとは線形関係とならず, 塗膜厚さと超音波の波長の比によりエコー高さが変化することがわかった (4) 斜角探傷の場合, エコー高さの変化は塗膜内の超音波の反射による干渉と, 超音波が塗膜に入射し屈折通過, 反射する際に生じるモード変換によって発生した波の伝播時間の差による超音波の干渉の両方が原因であることを明らかにした (5) 垂直探傷の場合は, 塗膜内で超音波の反射波が干渉する影響を減じるために, 非干渉板を塗膜と探触子の間に設置することで, 塗膜影響をキャンセルできる可能性があることを示した 第 7 章では, 本論文における研究結果をまとめて総括とした 121

127 122

128 付録 A 有限要素法の定式化 36),37) 減衰を考慮した運動の支配方程式は (A.1) 式で表される ij uj cu j (A.1) xi ここで, は応力, は密度, u は変位ベクトル, u は速度ベクトル, u は加速度ベク ij トル, c は減衰係数である (A.1) 式に対する仮想仕事の原理は (A.2) 式のようになる T j T T u u dv dv u t ds (A.2) V V S t は表面力ベクトルである 有限要素内部の変位 u, 速度 u および加速度 u は, その要素を構成する節点変位 d, 節点速度 d および節点加速度 d によって, 次のよ うに補間される u Nd (A.3) u N d (A.4) u Nˆ d (A.5) ここで,N, N および ˆN はそれぞれ変位, 速度および加速度に対する変位関数であ る (A.3),(A.4),(A.5) 式を (A.2) 式に代入し, u は幾何学的境界条件を満足する j j 以外は任意であることに注意すると, 次式が得られる M d Cd Kdp (A.6) ここで,M は要素質量マトリックスであり, 次のように表される T ˆ ˆ M N NdV (A.7) V K は要素剛性マトリックスであり, 次のように表される 123

129 T K B D B dv (A.8) V B は要素内のひずみと変位の関係を表すマトリックス, 応力とひずみの関係を表すマトリックスである p は要素荷重ベクトルであり, 次のように表される T S D は弾性係数マトリックスで p N t ds (A.9) ここで,t は表面力ベクトルである C は要素減衰マトリックスであり, 次のように表される V しかし, 経験的に T (A.10) C N c N dv C M K (A.11) と仮定されることが多い は質量比例減衰に関する定数, は剛性比例減衰に関する定 数である 本研究では問題を 2 次元問題, 平面ひずみ状態と仮定する また, 有限要素はアイソパ ラメトリック要素を用いる すなわち要素の変位関数と形状関数とを同じ関数で与える Fig.A.1 に要素の座標系を示す y 1 x Fig.A.1 Spatial arrangement of node and element in the FEM 124

130 この場合の形状関数は次式となる 1 1 N1 1 1, N (A.12) 1 1 N3 1 1, N また, 変位 ( uv), と要素内座標 ( x, y) は, 節点での変位 ( u, v ) や座標 ( x, y )( i 1 4) を用いて 4 4 u Nu, v N v (A.13) x i i i1 i1 4 4 Nx i i, y i1 i1 i i i N y となる 局所座標系, と全体座標系に関して次の関係がある Ni Ni x Ni y x y マトリックス表示すると i N N x N y x y, i i i i i i i (A.14) Ni x y Ni Ni x x J N N i x y i Ni y y (A.15) マトリックスJ は Jacobi マトリックスと呼ばれる B は要素内のひずみと変位の関係を表すマトリックスである Bd (A.16) マトリックス表示すると 125

131 u1 v N 1 1 N2 N3 N x x x x u 2 x N1 N2 N3 N v 4 2 y y y y y u 3 xy N1 N1 N2 N2 N3 N3 N4 N 4 v3 y x y x y x y x u 4 v4 (A.17) このBマトリックスは (3.15) 式から 1 N x y N i i x Ni x y Ni y (A.18) として求められる 剛性マトリックスは, T T K B D B dv B D B t dxdy V (A.19) となる ここで,t は板厚である D は弾性係数マトリックスで応力とひずみの関係を表す D (A.20) マトリックス表示すると次のようになる x 1 0 x E y 1 0 y 112 xy 1 2 xy (A.21) 126

132 (A.19) 式を計算するためには積分は 座標系で行わなくてはならない 積分の変数 変換の公式により,xy 座標系と 座標系の微小面積の変換は, ヤコビアンJ を使って, dxdy detj dd となるため,(A.19) 式は (A.22) 式となる T 1 1 T det K B D B t dxdy t B D B J dd 1 1 (A.22) 127

133 付録 B 超音波伝播解析プログラム UT-WAVE2 の解析精度検証 動的陽解法による超音波解析プログラム UT_WAVE2 の解析精度の検証を行う まず, 探触子や試験体を要素分割し, 要素サイズ, 要素形状が解析精度に及ぼす影響について調べた 次に, 各種探傷試験結果と数値シミュレーションの結果との比較を行い解析精度の検証を行った 1. 要素サイズが解析精度に及ぼす影響一般に, 有限要素解析においては要素分割を細かくすれば解析精度は良くなる傾向にあるが, 節点数 ( 自由度 ) の増加とともに計算時間がかかり, 大容量のメモリが必要となる したがって, 解析精度を保つ限界の要素サイズを知ることは超音波探傷シミュレーションの高速化を図るうえで重要である そこで, 平面欠陥のある試験体に対する垂直探傷試験のシミュレーション解析を実施し, 要素分割数と伝播波形の関係を調査した 垂直探傷試験の解析モデルを Fig.B.1 に示す 試験体の寸法は幅 W=25mm, 厚さ H=20mm とした 垂直探傷試験は試験体表面に探触子を置き, 裏面あるいは欠陥からの反射波を求めた 欠陥からの反射波を求める場合は試験体下面より 10mm の位置に幅 5mm の欠陥を配置した 探触子の周波数は 1MHz として解析を行った 鋼中での縦波の伝播速度を約 5900m/sec とすると, 探触子周波数 1MHz の場合, 超音波の波長は約 6mm となる 要素サイズが解析精度に及ぼす影響を調べるため, 要素形状を正方形とし, 要素 1 辺の長さを超音波の波長の 1/8,1/15,1/24,1/30,1/40 に分割して計算を実施した 解析ケースを Table B.1 に示す Fig.B.2 に要素サイズを超音波の 1 波長の 1/8,1/15,1/24,1/30 および 1/40 とした場合の欠陥が無いときの底面反射波の計算波形を示す 受信波形は試験体底面からの反射波のピーク値でそれぞれ正規化を行っている 1/8 サイズで計算すると大きな計算ノイズとともに波形の乱れが見られ,1/15 以下の要素サイズでは底面からの反射波が戻ってくる時間は一致しているが,1/15 の場合にも細かい計算のノイズが見られる 1/24 以下の要素サイズでは計算波形はほぼ一致した このことより, 超音波の 1 波長の 1/24 以下の要素サイズで計算すれば精度よく底面からの反射波形をシミュレーションできることが分かった Fig.B.3 に欠陥がある場合の欠陥からの反射波の計算波形を示す 欠陥が無い場合と同様に 1/8 サイズで計算すると大きな計算ノイズとともに波形の乱れが見られ,1/15 以下の要素サイズでは欠陥からの反射波が戻ってくる時間は一致しているが,1/15 の場合にも細かい計算のノイズが見られ,1/24 以下の要素サイズで計算すれば精度よく欠陥からの反射波形をシミュレーションできることが分かった 128

134 要素サイズは超音波の 1 波長の 1/24 以下の要素サイズで計算すれば精度よく欠陥からの反射波をシミュレートできることが分かった しかし, 要素サイズを細かくすると (3.12) 式で求められる計算ステップ Δt が小さくなり計算時間が増大することになる 以後の計算では計算時間の観点から超音波の波長の 1/24 の要素サイズで計算を実施する Probe 5mm damper Piezo 10mm I=2.2mm specimen 5mm H=20mm 10mm W=25mm Fig.B.1 Numerical simulation model to calculate reflection waveform Table B.1 The parameters in each simulation case Case H L I Mesh size (mm) (mm) (mm) RD /8 (0.75mm) Without defect W=25 H=20 RD /15 (0.4mm) RD /24 (0.25mm) RD /30 (0.2mm) RD /40 (0.15mm) RD /8 (0.75mm) With defect Defect position h=10 b=5 RD /15 (0.4mm) RD /24 (0.25mm) RD /30 (0.2mm) RD /40 (0.15mm) 129

135 1.0 Mesh size Wave amplitude /8(0.75mm) 1/15(0.4mm) 1/24(0.25mm) 1/30(0.2mm) 1/40(0.15mm) -0.5 from bottom E E E E E E-05 Time(sec) Fig.B.2 Calculated received waveform from bottom surface with various mesh size 1.0 Mesh size Wave amplitude /8(0.75mm) 1/15(0.4mm) 1/24(0.25mm) 1/30(0.2mm) 1/40(0.15mm) -0.5 from defect from bottom E E E E E E-05 Time(sec) Fig.B.3 Calculated received waveform from defect with various mesh size 130

136 2. 要素形状が計算精度に及ぼす影響水平欠陥の場合には要素形状を正方形に分割することができる しかし斜め欠陥やブローホールのような円形や楕円形状のような欠陥が試験体内部に存在する場合には必ずしも試験体全体を正方形要素に分割することはできない そこで,Fig.B.4 に示すように試験体内部に円形の領域を設定し, 要素形状が均一でない要素が存在する場合のモデルを考え, 円形領域上部に探触子を置き, 底面からの反射波形の計算を実施し, 要素の形状が計算精度に及ぼす影響について調べた 計算結果を Fig.B.5 に示す これより要素形状が解析精度へ与える影響は非常に小さいことがわかった Fig.B.4 The appearance divided into ununiformly elements 4.0E E E-02 square mesh ununiformly mesh 1.0E-02 Wave amplitude 0.0E E E E E E E E E E E-05 Time(sec) Fig.B.5 Comparison of reflection waveform from bottom surface of square elements and ununiformly elements 131

137 3. 超音波探傷試験との比較による数値シミュレーションの精度検証超音波探傷シミュレーションを実際の探傷試験に利用するためには 数値シミュレーションの結果が実際の探傷結果を精度よくシミュレートできることが必要である 数値シミュレーションの結果と各種試験結果との比較を行い, 数値シミュレーションの精度の検証を行った 数値シミュレーションと実験計測は以下の項目について比較した (1) 垂直反射試験による受信波形の比較 (2) 垂直反射試験によるエコー高さの比較 (3) 垂直透過試験によるエコー高さの比較 (4) 垂直反射 2 探触子試験によるエコー高さの比較 (5) 垂直透過 2 探触子試験によるエコー高さの比較 (6) 切り欠き付き試験によるエコー高さの比較 (7) ブローホール試験によるエコー高さの比較なお, 本研究で行った計算は全て 2 次元計算であり, 対応する試験も板幅方向に一様な超音波が伝播するような Fig.B.6 に示す垂直探触子を用いている ダンパー : エポキシ系樹脂 30 mm 30 mm 5 mm 圧電子 : セラミック, 板厚 2.2mm, 固有振動数 1MHz Fig.B.6 External view and internal structure of probe used for inspection 3.1 垂直反射試験による受信波形の比較垂直反射試験による試験体裏面からの反射波形について数値シミュレーションにより得られた波形と実験で計測された波形を比較した Fig.B.7 に解析モデルを示す 幅 W=35 mm, 板厚 H=24mm である Fig.B.8 に計算と試験で得られた反射波形を合わせて示す 探触子の周波数は 1MHz である 波形は裏面反射波のピーク値の現れる位置で時間と振幅を正規化したものである 裏面からの反射波形は到達時刻, 波形とも良く一致しており, 132

138 数値シミュレーションにより精度よく反射波形を計算できることが確認できた ただ, 試験結果には裏面からの反射波形だけでなく, 電気信号によると思われるノイズが重疊されていると考えられ, 裏面からの反射波が届く時間以外でも低いレベルの振動が存在しており, これにより探傷限界のあることがわかる damper Piezo Probe 10mm I=2.2mm specimen H=24mm W=35mm Fig.B.7 Simulation model to calculate reflection waveform Wave amplitude Exp. Cal Time [sec] 10-6 Fig.B.8 Comparison of reflected wave from bottom surface in reflection test 133

139 3.2 垂直反射試験によるエコー高さの比較超音波の伝播波形は検査対象の試験体の板厚が厚くなると振幅が減少する これは超音波の距離減衰によるものである 板厚を変化させて裏面からの反射波のピーク高さがどのように変化するかについて, 数値シミュレーション結果と実験結果を比較して超音波の減衰特性の比較を行った 解析モデルを Fig.B.9 に示し, 実験と解析ケースを Table B.2 に示す 解析領域は W=35mm とした 板厚は 15mm から 48mm の 4 種類である Fig.B.10 に板厚 15mm のときの受信ピーク値で正規化した結果を示す 板厚が厚くなると超音波の振幅が低下する結果は試験と計算で一致している 試験と計算は 1.5dB 程度の誤差範囲で一致している damper Piezo Probe 10mm I=2.2mm specimen H W=35mm Fig.B.9 Reflection test with 1 probe Table B.2 The parameters in each reflection test with 1 probe Case H (mm) Probe Frequency (MHz) Probe Location L(mm) Reflection test (1 probe) R R R R

140 3 Non-dimensional echo feight of reflected wave from bottom (db) Exp. Cal Thickness of specimen H(mm) Fig.B.10 Comparison of calculated echo level and measured one in reflection test with 1 probe 3.3 垂直透過試験によるエコー高さの比較垂直透過試験の解析モデルを Fig.B.11, 実験と解析ケースを Table B.3 に示す 計算と試験結果の比較を Fig.B.12 に示す 試験と計算ともに板厚が厚くなるとエコー高さは小さくなっている 受信波のピーク高さは 1.0db 以下で一致している Probe damper Piezo specimen W=35mm 10mm I=2.2mm H=24mm Probe Fig.B.11 Percolation test with 2 probes 135

141 Table B.3 The parameters in each percolation test Case H (mm) Probe Frequency (MHz) Probe Location L(mm) Percolation Test (2 probe) T T T T Non-dimensional echo height of transmitted wave (db) Exp. Cal Thickness of specimen H(mm) Fig.B.12 Comparison of echo height from in percolation test 3.4 垂直反射 2 探触子試験によるエコー高さの比較垂直反射 2 探触子試験では, 受信側探触子を移動させて裏面からの反射波のピーク高さがどのように変化するかについて, 計算と試験の結果を比較した Fig.B.13 に解析モデルを示す 実験と解析ケースを Table B.4 に示す Fig.B.14 に受信側探触子を送信側から 10mm 離したときの受信ピーク値で正規化した結果を示す 計測値と計算値ともに探触子間距離が大きくなるにつれてエコー高さは低くなっており両者の傾向は一致している 探触子間距離が小さい場合の誤差はほとんど無く, 探触子間距離が大きくなると誤差が大きくなる傾向にあるが誤差が最大になる場合でも 2.5db 程度の誤差範囲で一致している 136

142 Transmitter Receiver specimen H=24mm Fig.B.13 Reflection test with 2 probes Table B.4 The parameters in each reflection test with 2 probes Case H (mm) Probe Frequency (MHz) Probe Location L(mm) R Reflection test (2 probe) R R R R Non-dimensional echo height of reflected wave from bottom (db) Exp. Cal Horizontal distance between two probes L(mm) Fig.B.14 Comparison of echo height from in reflection test with 2 probes 137

143 3.5 垂直透過 2 探触子試験によるエコー高さの比較垂直透過 2 探触子試験では, 試験体裏面の受信側探触子を移動させて表面探触子からの送信波形を受信して, 波形のピーク高さがどのように変化するかについて, 計算と試験の結果を比較した Fig.B.15 に解析モデルを示す 実験と解析ケースを Table B.5 に示す Fig.B.16 に受信側探触子が送信側探触子の真下にあるときの受信ピーク値で正規化した結果を示す 受信波のピーク高さの誤差は 1.0db 以下で一致しており良い精度で解析できていることがわかる Transmitter Piezo specimen W=35mm specimen H=24mm Receiver Fig.B.15 Percolation test with 2 probes Table B.5 The parameters in each reflection test with 2 probes Case H (mm) Probe Frequency (MHz) Probe Location L(mm) T Percolation Test (2 probe) T T T T

144 Non-dimensional echo height of transmitted wave (db) Exp. Cal Horizonta distance between tow probes L( mm ) Fig.B.16 Comparison of echo height in percolation test 3.6 切り欠き付き試験体によるエコー高さの比較切欠き付き試験体によるエコー高さを実験と計算で比較した 切欠き試験片の写真を Fig.B.17 に示す 解析モデルを Fig.B.18 に示す 解析ケースを Table B.6 に示す 実験と解析のエコー高さの比較を Fig.B.19 に示す 試験体表面に平行な欠陥 (α=0 ) の場合には, 試験結果と計算結果は良く一致している 斜め欠陥の場合 (α=30 ) には, 受信側探触子が切り欠きの右側 (+ 側 ) にあるときには, 計算は試験結果と良く一致しているが, 左側にあるときは試験結果と一致していない結果も得られている これは, 斜め欠陥で反射した超音波が主として右側に反射して進み, 左側の音圧レベルが低くなり, 試験では探傷限界に近づいて探傷精度が悪くなったためと推察される 以上のことより, 試験でノイズの影響が大きくなり探傷限界に近づいた場合を除き, 計算結果は反射波の到達時間, 音圧レベル, 反射波形とも試験結果を比較的よくシミュレートできていることが確認できた 139

145 Transmitter Receiver specimen 15mm Fig.B.17 Specimen of slant defects Fig.B.18 Slant defects test with 1 probe Table B.6 The parameters in each slant defects test with 1 probes Angle of Probe Probe Case slant defect Frequency Location α(deg) (MHz) L(mm) N N Slant defect Test N N N N N N

146 Non-dimensional echo height of reflected wave from bottom (db) Exp.(α=0 ) Cal.(α=0 ) -30 Exp.(α=30 ) Cal.(α=30 ) Plobe position L(mm) Fig.B.19 Comparison of echo height in slant defects test 3.7 ブローホール試験体によるエコー高さの比較ブローホール試験とシミュレーションの比較を行った ブローホール試験片を Fig.B.20 に示す 解析モデルを Fig.B.21 に示す 解析ケースを Table B.7 に示す 実験と解析のエコー高さの比較を Fig.B.22 に示す ブローホールの位置が深くなるとエコー高さは小さくなることは両者同じ傾向であり, 計算値と実験値は 1dB 以内で一致していることが確認で きた Probe damper 5mm Piezo 10mm I=2.2mm h specimen φ3mm 60mm Fig.B.20 Specimen of blowhole model Fig.B.21 Blowhole defect test with 1 probe 141

147 Table B.7 The parameters in each blowhole defect test with 1 probes Case Depth h (mm) Probe Frequency (MHz) Blowhole test B B B Non-dimensional echo height of reflected wave from blowhole (db) Exp. Cal Depth h(mm) Fig.B.22 Comparison of echo height in blowhole defect test 142

148 付録 C 誤差逆伝播学習法 43) 誤差逆伝播学習法 ( バックプロパゲーションアルゴリズム ) の詳細を示す Fig.C.1 は M 層ニューラルネットワークの構造を示したものである y m は第 m 層 ( m1,, M ) i 番 i 目のニューロンの出力を示し, x m はニューロンの入力の総和すなわち i m m m 1 x w y (C.1) i ij j j を表す ここで, w m, y m1 はそれぞれ m 1 層の j 番目のニューロンから m 層のi 番目 ij i ニューロンへの重み係数, m 1 層の j 番目のニューロンの出力を表す j に関する総和は m 1 層のすべてのニューロン出力にわたっているものとする また, ニューロンのし きい値は重み係数に含まれているものとする y m と x m は非線形関数 F によって i i y m m i F xi (C.2) のように関係付けられる M layer M 1 layer M M M y y y N 1 i M M x i M w M 1 ij M 1 M 1 y1 y i M 1 y x N M i M 2 layer M 1 M 2 w M 2 ij M 2 1 y i y N y M Input layer 1 y 1 y 1 i 1 y NM Fig.C.1 M layer neural network 143

149 第 1 層は入力層であり y 1 i ( i 1,, N1 ) は入力信号を表す (B.1),(B.2) 式は m 層のニュー ロン出力が1つ前の m 1 層のニューロン出力によっていかに決められるかを示しており, 入力層に入力信号が与えられれば, これらの式を用いて順次出力層に向かって ( 順方向に ) 各層のニューロン出力が計算される 1 教師データの入力 y i ( i 1,, N1 ) と期待出力 d i ( i 1,, NM ) が与えられる場合について考える ここで, N ( m1,, M ) は m 層のニューロン数を表す 全ての重み係数が初 m 期値として値 ( 通常は乱数を用いてランダムに与える ) をもっていれば, 入力教師データ が入力層に与えられると, この重みの初期値に対して (C.1),(C.2) 式を用いてネットの出力 M y i ( i 1,, NM ) が定まる この値は初めは期待出力とかなり異なった値をとる 期待出 力とネットの実際の出力の 2 乗誤差の総和 E N 1 2 M M E y d i i (C.3) 2 i1 と定義し, E を評価関数としてそれを暫時小さくするように重みの修正規則を考える 基 本的な考え方は, 評価関数 E のネットに含まれるすべての重み係数に関する偏微分 m ( m 1,, E w ij M ; i 1,, Nm ; j 1,, Nm 1 ) を求める この値が正の値をとるという ことは, 重み w m を少し増やすと誤差 E が増えることを意味し, 負の値をとるということ ij は逆に w m を増やすと誤差 E が減少することを意味する したがって, 重み係数を以下の ij 修正式に従って更新してゆけば, 徐々に誤差を減じてゆける E w n w n (C.4) m 1 m ij ij m wij ここで n は学習ステップを表す は収束速度を決めるパラメータである (C.4) 式の中の偏微分を具体的に示す 出力ニューロンについては (C.3) 式より E y M i M y d ; i 1,, N i i M (C.5) M が得られる 次に, E w i は M E E yi M M M i i i x y x (C.6) 144

150 となるが,(C.2) 式よりy M x M は非線形関数の微分となる 非線形関数として次式の シグモイド関数 i i F x 1 x 1exp T ( 再掲 5.2) を用いると, この微分 F x は 1 F x F x F x T 1 となる したがって,(C.5),(C.6),(C.7) 式より E x M i y M M 1 M i di yi yi (C.7) (C.8) M となる 次に偏微分 E w ij を求める E E x M i M M M ij i ij w x w である ここで,(C.1) 式より E w M ij y M 1 j したがって求める偏微分は (C.8),(C.9),(C.10) 式より E w M ij 1 1 y d y y y M M M M i i i i j (C.9) (C.10) (C.11) となる (C.11) 式右辺は入力教師データをネットに与えて計算されるニューロン出力, お よび教師データの期待出力からなっており, 計算可能な値である 次に, 評価関数 E の中間層ニューロンへの重みに関する偏微分を求める 評価関数 E の M 2 層のニューロンから出力層の一つ前の層 M 1のニューロンへの重みに関する偏微 M 1 分 E w ( i 1,, NM 1 ; k 1,, NM 2 ) について考える 評価関数 E の出力層への重 jk み M 1層による偏微分を求めたときと同様, 評価関数 E の M 1層の j 番目のニューロ ン出力値 M 1 y j に関する偏微分 E y j M 1 の計算を行なう M 層のニューロンに対し ては期待出力が存在しないので,(C.5) の形は適用できない この場合は (C.5) 式の代わりに

151 N M M E E xi M1 (C.12) M M1 y x y j i1 i j N M M M w ij (C.13) i1 E x i M の関係を用いる (C.13) 式中の E x i は,E の出力への重みに関する偏微分を求める段階において (C.8) 式で計算されている値を用いることができる 次に M 1 E E j M1 M1 M1 j j j y x y x E y y y M1 M1 M 1 j 1 j j (C.14) (C.15) M 1 ここで, 前と同様に, 非線形関数は (5.2) 式を用いた 目的とする E の重み係数 w に関 jk M 1 する偏微分 E w jk ( i 1,, NM 1 ; k 1,, NM 2 ) は M 1 E E j M1 M1 M1 jk j jk x w x w (C.16) E x M 1 j y M 2 k (C.17) と求まる 以下同様の手順で E の各層 m ( m M 2,,2 ) のニューロンへの重みに関する偏微分を, 順次入力層の方向へ向けて ( 逆方向 ) 層ごとに計算することができる 重み修正アルゴリズムを要約すると以下のようになる ステップ 1 重み係数の初期値を乱数を用いて小さな値に設定する ステップ 2 入力層に入力教師データ y 1 i ( i 1,, N1 ) をネットに与え, 入力層から出力層に向かって前向きに各層のニューロンの出力を計算する この計算には (C.1), (C.2) 式を用いる すなわち N m 1 m m m1 yi F wij yj ( m 1,, M ; i 1,, Nm ) (C.18) j1 146

152 m ステップ 3 評価関数 E の重み係数 w ( m 1,, M ; i 1,, Nm ; j 1,, Nm 1 ) に ij m 関する偏微分 E w ij を求める (ⅰ) 出力層ニューロンへの重みに関する偏微分の計算 ((C.5),(C.6),(C.8),(C.9),(C.11) 式 ) E y M i E x y M i M M i ij d E yi 1 yi y E E M M y w x i i i M M M 1 j (C.19) (C.20) (C.21) (ⅱ) 中間層ニューロンへの重みに関する偏微分の計算 (C.13),(C.15),(C.17) 式を用いて出力層に近い中間層から入力層に向けて ( 逆方向 ) 層ごとに計算する E y m j N m 1 m1 wij (C.22) m1 i1 x E E E 1 m m y j y x y i E E m m y w x jk i j i m m m1 k ステップ 4 重み係数の更新を (C.4) 式に従って行なう j (C.23) (C.24) ステップ 5 E が十分小さくなるまでステップ 2 から 4 までを繰り返す 147

153 付録 D.1 マイグレーション手法を用いた欠陥の可視化 1 はじめに欠陥可視化に対するアプローチとして, マイグレーション処理を用いた欠陥分布の可視化手法に関する検討を行った マイグレーションとは地層探査に用いられる手法 54)-58) で, 地上で発した音が地層境界から反射してくる時間を計測することにより, 反射時間から地層境界の位置を推定し, また, 各地層における音の伝播速度から地層の種類などを推定する手法である 54),58) この手法が超音波探傷においても利用可能であれば, 試験体の表面で探触子を動かして受信記録を集めることで, 試験体の正確な欠陥分布図の作成が可能となり, 複数, 異種の欠陥であっても欠陥性状を判定することができるようになる可能性がある 2 節では従来行なわれている超音波探傷試験結果の画像化について概要を説明する つぎに,3 節では地表で観測されたデータをあたかも地中の各深度ごとに観測されたかのように変換するデータ処理であるマイグレーションについて述べ, マイグレーション処理を行った計測データに対して, フィルタリング処理を行うことで断面構造をより鮮明に可視化するウインドウ処理について述べる 4 節では各種欠陥に対する超音波探傷シミュレーション結果に対するマイグレーション処理の適用結果を示す さらに,5 節では計測データに対するマイグレーション処理結果を示す 2 超音波探傷試験結果の画像化法超音波探傷装置は, 一般的にエコーの持つ2つの基本パラメータ, すなわち, エコーがどの程度大きいか ( 振幅 ) とエコーがゼロ点に対してどのタイミングで発生するか ( 伝播時間 ) を記録している 伝播時間は欠陥位置の深さと相関があり, 検査対象の音速と時間の関係により欠陥深さが得られる 超音波探傷波形データの最も一般的な表示方法は超音波エコーの信号波形を探傷器の表示器上に表示して観測する A スコープ法 ( 基本表示 ) によって行なわれる 14) Fig.D.1.1(a) に示すように,A スコープ法では縦軸に振幅, 横軸に伝播時間をとり波形表示を行なっている この方法では検出された信号から直ちに試験体内の欠陥の位置 形状 方向などを判断することは困難で, 熟練した検査員でも探傷結果の判定 評価に苦しむ場合が少なくなく, 客観性や記録性に欠けるという問題がしばしば指摘される 波形情報を表示する別の方法に B スコープ法 ( 断面表示 ) がある 14) 表示器上に探触子の試験体上における位置と伝播時間 ( 深さ ) とを直角座標にとって表示する方法で Fig.D.1.1(b) に示すように試験体の深さ方向断面内の情報を表す B スコープ法は探触子を 148

154 試験体の表面上で走査することにより, 探触子の位置データを A スコープ法に加味したものである 超音波波形データを表示するもう一つの方法は C スコープ法 ( 平面表示 ) と呼ばれるものである 14) Fig.D.1.1(c) に示すように試験体上における探触子を表示器上に示し, その時のエコー高さを濃淡で表示する方法である C スコープ法は探触子を 2 次元で走査することにより平面的な欠陥位置, 形状を表示している この方法の難点は探触子の 2 次元的な移動走査を機械的方法に依存するために検査所要時間が長くなる点である 断面表示および平面表示は基本表示を平面あるいは直線上に並べただけであり, 客観性の問題は解決されているものの分解能などの精度の改善はいまだ十分ではない probe probe defect Linear scanning X echo height (a) A-scan display echo height X location Time depth (b) B-scan display probe Square scanning X location Y location (c) C-scan display Fig.D.1.1 A,B,C-scan display method 149

155 超音波探傷試験の客観性及び定量性を向上させるために, 多点で計測されたデータをも とに開口合成法の手法を用いて計測結果の画像化 59),60) が行われることがある 開口合成法 は探触子を走査して各点で得られた欠陥エコーを深さ方向で集束するように, ビームの広 がりを考慮しながら探傷波形を合成していく技術である 超音波探触子によって送受信さ れる超音波のビーム幅は, 探触子の開口寸法 ( 例えば振動子が円形の場合はその直径 ) に 反比例する したがつて, 開口寸法を大きくすることによって相対的に超音波ビームの幅 の拡がりを狭くでき, 解像度を高くしている 開口合成法の原理について説明する 14) 開口合成法は次のようにして大きな開口寸法 を実現している Fig.D.1.2(a) に示すように開口寸法の小さな超音波探触子をある範囲にわ たって走査する 走査範囲の上端と下端の座標をそれぞれ x 1, 各点 x i 1, 2,3, M i x M とする 走査範囲内の において超音波の送受信を行う 各座標値 xi と, 各点 たエコー信号 r t i 1, 2, 3,, M i xi で受信し を記録しておく t は時間である これらの記録したエ コー信号 r t に信号処理を施すことによって, 走査範囲 x i M x 1 と同じ寸法で与えられ る大きな開口寸法を持った超音波探触子を使用した場合に得られる分解能と同じ分解能を実現する すなわち信号処理を介して, 小さな開口寸法を合成することによって大きな開口寸法を実現している 開口合成法における信号処理の基本操作は, 時間を遅延させる操作と加算演算である Fig.D.1.2(a) に示すように点 A に反射源があるものとすると, 点 x i 1, 2,3, M i の位置 で超音波を送受信したときに, 探触子から超音波が送信されたエコー信号が受信されるま での試験体内の往復の伝播遅延時間を 1, 2, 3,, i i M とする これらの伝播遅延時間 の中の最大値を max とする 各点 xi で得られるエコー信号 i r t は,Fig.D.1.2(a) のように なる Fig.D.1.2(a) のように各点 x で受信され記録されたエコー信号 r t を, それぞれ, i i max i だけ遅延させると, 遅延操作を施した後の各点 i x でのエコー信号は, Fig.D.1.2(b) に示すように同時刻に全てのエコー信号が揃う その後,Fig.D.1.2(b) に示した各エコー信号を加算すると, 各エコー信号の波形が同じであれば Fig.D.1.2(c) に示すよ 150

156 うに各エコー信号の波形はお互いに強め合うように重なり, 加算後のエコー信号の振幅は 大きくなり, 欠陥位置だけが強調された画像が得られる 以上が開口合成法の基本的な考 え方である measured waveform r1 t x 1 1 t A (reflector) i M x 2 x 3 x i 2 3 i r3 t r2 t ri t rm t t t t x M probe M t (a) Measured waveform x 1 max 1 delayed waveform r t 1 max 1 t A (reflector) i M x 2 x 3 x i max 2 max 3 max i r t 2 max 2 r t 3 max 3 r t i max rm t i t t t x M max t (b)delayed waveform 151

157 M i i1 r t M max 1 0 max t (c) Addition of waveform Fig.D.1.2 Illustration of principles of synthetic aperture technique 近年, 欠陥形状を画像化する TOFD 法, フェーズドアレイ超音波探傷が導入され 5),61)-63), 客観性の高い欠陥評価が可能となってきた TOFD 法は欠陥深さ測定を行うため,Fig.D.1.3 に示すように欠陥を挟んで送信及び受信用の 2 個の探触子を試験体表面に置き, 縦波を入射し, 欠陥の上端および下端で回折した縦波波形を画像化し, 欠陥上端と下端からの回折波の到達時間差から欠陥深さを求める方 法である Fig.D.1.4 に内部欠陥に対する TOFD 画像の例を示す 欠陥上端部の深さ d, 欠陥下端部の深さ d, 欠陥高さ h は次式で求めることができる 5) FU FL U d C T S (D.1.1) FL L d C T S (D.1.2) FU FL FU L U hd d CT S CT S (D.1.3) ここで, 2S : 送受信探触子の入射点間距離 t : 試験体厚さ d FU : 表面から欠陥上端までの深さ d FL : 表面から欠陥下端までの深さ T U : 欠陥上端回折波の伝播時間 T B : 裏面反射波の伝播時間 T L : 欠陥下端回折波の伝播時間 C : 試験体の縦波音速 152

158 TOFD 法による欠陥高さ測定は検査技術者の技量の影響が少ない方法である しかし, 従来の探傷に関する技量のほかに TOFD 法に関する知識と装置の取り扱いに習熟した者で, 対象としている欠陥の特性等を十分に理解していることが求められる さらに画像の判定には熟練度を要する 2S Transmitter S S Re ceiver t d FU d FL h T U T L T B Fig.D.1.3 Illustration of principles of TOFD Lateral wave Backwall echo Upper tip flaw Lower tip of flaw Fig.D.1.4 Example of TOFD image [5] Fig.D.1.5 に示すフェーズドアレイ超音波探傷は, アレイ探触子の各振動子から異なったタイミングで超音波を送信および受信 ( 遅延時間制御 ) するにより, 超音波主ビームを任意の方向および任意の位置に, 送信波形よりも振幅の大きな合成波面として入射させて探傷し, 欠陥検出, 欠陥高さ測定等を行なう技術である 5) 超音波ビームの入射方向と集束位置を電子制御することで, 任意の方向, 任意の位置に強い超音波を入射でき, アレイ探触子を走査することなく所定の領域全体を探傷できる また, コンピュータを利用して検出した超音波波形を画像処理し, 断面画像や平面画像をリアルタイムに表示でき, かつ 153

159 欠陥検出や欠陥寸法を推定することが可能である Fig.D.1.6 にフェーズドアレイ超音波探傷による内部欠陥の画像の例を示す フェーズドアレイ超音波探傷は検査技術者の技量の影響が少ない方法である しかし, 一探触子法の他にフェーズドアレイ技術に関する知識と装置の取り扱いに習熟したもので, 対象としている欠陥の特性等を十分に理解していることが求められる フェーズドアレイ探傷法や TOFD 探傷法が実用化されてきているが, 現状では非常に高価であるという問題があり, 原子力プラント等一部で導入されているのみで, 容易に用いることができないのが現状である Transmitter pulse Delay time control Transmitter pulse Delay time control probe probe Wave front Focal position (a) Control of incidence direction (b) Control of focal position Fig.D.1.5 Illustration of principles of phased array technique dead band top surface tip echo h:flaw height Flaw corner echo Bottom surface Fig.D.1.6 Example of phased array UT [5] 154

160 3 マイグレーション手法 3.1 マイグレーションの適用例マイグレーションとは地質探査において地層構造を可視化するために用いられる手法 54),58) である この手法では, まず, 地表面で発した音波を地中に伝播させ, 地層境界から反射してくる音波を時刻歴で計測する 音波を送受信する位置を地表面上で移動させて, 反射波の時刻歴データを取得する 次に, 反射波の時刻歴データをデータ処理して, 地層の断面図を作製している 通常 地表面で観測された反射記録断面 ( 観測記録を観測点の順に横に並べたもの ) は, 必ずしも垂直な地下断面図にはなっておらず, 地下反射面の様子を厳密に示したものではない これは 発信波の拡散や反射面の傾斜などの影響により, 反射記録断面図上のある観測点位置に現れる反射事象が, その観測点の真下で発生しているとは限らないためである 一例として,Fig.D.1.7 に解析モデル,Fig.D.1.8 にマイグレーション前の反射記録断面 (a) とマイグレーション処理後の構造分布図 (b) を比較した図を示す なお Fig.D.1.8(a) の反射記録断面は Fig.D.1.7 に示すモデルに対して UT_WAVE2 を用いて波伝播挙動解析を行うことで得られたものである Fig.D.1.8 の (a) と (b) を比較すると, モデル中央の観測点において, 底面反射波による振幅がほとんどなく想定した地層がうまく表せていないことがわかる これに対して, マイグレーション処理を施すと地表を良く表した図が得られる, 地層構造が鮮明に可視化されていることがわかる マイグレーションは, ずれた反射事象を真の位置に戻し, より鮮明でピントのあった分布図を得る手段と言える この手法が超音波探傷においても利用可能であれば, 試験体の表面で探触子を動かして受信記録を集めることで, 試験体内の正確な欠陥分布図の作成が可能となり, 複数, 異種の欠陥であっても欠陥性状を判定することができるようになる可能性がある V=5934 [m/sec] 1000[m] 600[m] V=5934 [m/sec] 100[m] 2000[m] Fig.D.1.7 Simulation model for migration 155

161 0.2 Observation Point:L(m) Observation Point:L(m) Time:t(sec) Depth:D(m) (a) Record section 1300 (b) Migrated time section Fig.D.1.8 Comparison of time section before and after of migration 3.2 f-k マイグレーションの概要 マイグレーション処理は反射記録を波動方程式に基づいて処理することで実施される マイグレーション処理にも波動方程式の解き方によっていくつかの種類があり, 時間波形 を直接重ね合せる方法 (Kirchhoff マイグレーション ), 差分法を利用する方法 ( リバース タイムマイグレーション ), フーリエ変換を利用する方法 (f-k マイグレーション ) に分類 できる 57) 超音波探傷の場合は一般に媒質が一種類で固定であり, 波伝播速度の変化が発 生しないため,FFT を利用するアルゴリズムで大量のデータを高速処理できる計算効率の 良い f-k マイグレーションを適用する Fig.D.1.11 にマイグレーション処理のイメージを示す ある点 ( x 0, t 0 ) におけるマイグレーション処理とは, 対象の点 ( x 0, t 0 ) を頂点とした双曲線上の値を積分して, 一点に集める操作のことを言う マイグレーション処理を超音波探傷に応用する場合, まず, 従来の探傷法と同様に, 探触子を試験体表面上で移動させ, 各位置で反射波形を計測し, これを Fig.D.1.11(a) のように並べて表示する たとえば, 欠陥が P 点にあった場合,P 点 からの反射波は試験体の表面上では最初に D 点で計測される また,D 点から少し離れた A 点においては,Q 点で表われることになる すなわち,P 点での反射波は,D 点の直下 で P 点を頂点とする双曲線上の点で計測される よって,P 点を頂点とする双曲線に沿っ て計測データを積分することによって,Fig.D.1.11(b) に示すように, P 点に反射源のある 場合の計測振幅は P 点で強調されることになる 一方, 例えば,Q 点について, この点を 頂点とする双曲線上で反射波を積分した場合,Q 点以外では反射波の振幅は零であり, 積 156

162 分された値は大きくはならない このように各点でその点を頂点とした双曲線上で反射波の振幅を積分することにより, 欠陥位置における反射波だけが強調された結果が得られることになる この操作を, 試験体内部のすべての点で行なえば, 欠陥位置だけが強調された結果が得られることになる f-k マイグレーションはマイグレーション処理をフーリエスペクトル領域 ( 周波数 - 波数領域 ) で行なう手法である マイグレーション処理を数式で表現すると次式のようになる 64) ckz kx kz 2 2 ikx x kz z 1 p( x, z,0) P kx,0, c kx kz e dkxdkz 4 (D.1.4) p xz,,0はマイグレーション後の振幅である f-k マイグレーションの定式化を付録 D.2 に示す t 0 (time) t A B C D E F G x P(x 0,z 0 ) z 0 gathering Q Apex of hyperbolic curve (a) Observation data (b) Migration result A~G: observation point (depth) z A B C D E F G P observation point x Fig.D.1.11 Image of migration 3.3 ウインドウ処理 マイグレーション結果にフィルター処理を施し, 欠陥の可視化分布図をより鮮明にする ための処理を行う この処理を ウインドウ処理 と呼ぶことにする Fig.D.1.12 にウインドウ処理のイメージを示す Fig.D.1.12(a) にフィルターとなる基本波形 ck ( )( 探触子 からの送信波形 ) をマイグレーション処理後の波形に時間を移動させながら乗じている ウインドウ処理後の記録を wi (, j) とすると, wi (, j) は次式より得られる 157

163 n k 1 2 wi (, j) max ui (, jk) ck ( ),0 (D.1.5) ここで, n は基本波形を離散化した際の分割数で, そのサンプリング間隔はマイグレーション処理後の計測波形 ui (, j) のサンプリング間隔と同じである i は反射波形番号, j は 時間を離散的に表した番号である (D.1.5) 式は, マイグレーション処理後のある点の振幅 ui (, j) に基本波形 ck ( ) を掛け合わせ, 正の値であった場合に, その値を 2 乗して足し合わせ, その合計値が処理後の振幅 wi (, j) となるということを示している Fig.D.1.8(b) のマイグレーション処理した波形に対して (D.1.5) 式のウインドウ処理を 施した結果を Fig.D.1.13 に示す (D.1.5) 式のウインドウ処理は, フィルター操作として はごく単純なものであるが,Fig.D.1.8(b) のマイグレーション処理波形とウインドウ処理後 の Fig.D.1.13 を比べると, 構造がより鮮明に可視化出来ていることが分かる (a) Fundamental wave pattern used as a filter ck ( ) (b) Multiplication of migration wave and fundamental wave Fig.D.1.12 Image of window processing 158

164 Observation Point:L(m) Depth : D(m) Fig.D.1.13 The image of the defect after window processing 4 超音波探傷シミュレーション結果へのマイグレーションの適用 4.1 水平欠陥への適用試験体内部に水平欠陥が存在する場合へ, マイグレーション処理を適用した結果を示す Fig.D.1.14 に試験体表面と平行なスリットを持つ欠陥モデルを示す このモデルに対してシミュレーション計算を行うことで得られた反射記録断面図を Fig.D.1.15(a) に, この反射記録データにマイグレーション処理を適用した結果を Fig.D.1.15(b) に示す 5mm X 24mm Y X=21mm X=38mm 12.5mm Defect area: X=28.5mm ~ 31.5mm (Length=3.0mm) 60mm Fig.D.1.14 Simulation model for Migration (Slit defect) Fig.D.1.15(a) の反射記録断面図では, 欠陥反射波が広がって分布している Fig.D.1.15(b) のマイグレーション処理後において, 欠陥反射波の広がりが改善され, 欠陥の位置や寸法が視覚的に判りやすくなっていることが確認できた Fig.D.1.15(c) にマイグレーション処理後の波形に対してウインドウ処理を施した結果を示す ウインドウ処理を施すことで欠陥分布図がより明確になり,Fig.D.1.15(c) のなかで中央付近の波形の振幅が大きくなった 159

165 部分が欠陥位置であり, 欠陥長さが容易に推定できる欠陥分布図が得られている なお, 下部の波形は底面反射波である Time (μs) Observation point(mm) Depth (mm) Observation point(mm) Depth (mm) Observation point(mm) (a) Observation data (b) Migration result (c) After windows processing Fig.D.1.15 Visualization result (Slit defect) 4.2 斜めスリット欠陥への適用試験体内部に斜めスリット欠陥が存在する場合へ, マイグレーション処理を適用した結果を示す 解析モデルを Fig.D.1.16 に示す このモデルに対してシミュレーション計算を行い得られた反射記録断面図を Fig.D.1.17(a) に, この反射記録データにマイグレーション処理を適用した結果を Fig.D.1.17(b) に示す 水平スリット欠陥と同様,Fig.D.1.17(a) の反射記録断面図においては, 欠陥からの反射波が広い範囲の観測点で生じており, 欠陥反射波が広がって分布している Fig.D.1.17(b) のマイグレーション処理後の結果においては, 欠陥反射波の広がりが改善され, 欠陥の位置や寸法が視覚的に判りやすくなっていることが分かる Fig.D.1.17(c) に, マイグレーション処理結果に対してウインドウ処理を施した結果を示す 水平スリット欠陥と同様, ウインドウ処理を施すことで欠陥分布図がより見やすい形となっていることが分かる Fig.D.1.17(c) の振幅が大きい部分が欠陥の位置であり, 長さも容易に推定することができる 160

166 5mm 21mm 38mm 24mm Angle:30 12mm Defect area: X=28.5mm ~ 31.5mm (Length=3.0mm) 60mm Fig.D.1.16 Simulation model for Migration ( Slant defect) Time (μs) Observation point(mm) Depth (mm) Observation point(mm) Depth (mm) Observation point(mm) (a) Observation data (b) Migration result (c) After windows processing Fig.D.1.17 Visualization result (Slit defect) 4.3 円形欠陥への適用試験体内部に円形欠陥が存在する場合へマイグレーション処理を適用した結果を示す 解析モデルを Fig.D.1.18 に示す このモデルに対してシミュレーション計算を行い, 得られた反射記録断面図を Fig.D.1.19(a) に, この反射記録データにマイグレーション処理を適用した結果を Fig.D.1.19(b) に示す Fig.D.1.19(a) においてはスリット欠陥に比べてより広い範囲で欠陥反射波が計測されている これは, 円形欠陥特有の現象であると言える マイグレーション処理後は Fig.D.1.19(b) に示す通りその広がりが強く抑制されていること 161

167 が分かる Fig.D.1.19(c) にマイグレーション処理結果に対してウインドウ処理を施した結果を示す ウインドウ処理の基本波形は観測点 30.5mm の位置 ( 円の中心 ) で抽出している スリット欠陥と同様, ウインドウ処理を施すことで欠陥分布図がより見やすい形となっていることが分かる Fig.D.1.19(c) の振幅の大きい位置が欠陥位置に対応していることが容易にわかる 5mm X=13mm X=42mm 24mm Diameter=5.0mm 12mm Defect area: X=28.5mm ~ 31.5mm 60mm Fig.D.1.18 Simulation model for Migration ( Circular defect Time (μs) Observation point(mm) Depth (mm) Observation point(mm) Depth (mm) Observation point(mm) (a) Observation data (b) Migration result (c) After windows processing Fig.D.1.19 Visualization result (Circular defect) 4.4 複数, 異種の欠陥を持つモデルへの適用試験体内部に円形状の欠陥とスリット状の欠陥が複数個隣接して存在する試験体を想定して, マイグレーション処理を適用した結果を示す 解析モデルを Fig.D.1.20 に示す このモデルに対してシミュレーション計算を行い, 得られた反射記録断面図を Fig.D.1.21(a) 162

168 に, この反射記録データにマイグレーション処理を適用した結果を Fig.D.1.21(b) に示す 円形欠陥からの反射波の広がりとスリット欠陥からの反射波が干渉しあって複雑であった反射記録断面図が, マイグレーション処理によって判りやすい欠陥分布図へと変換されたことがわかる されにウインドウ処理を実施した結果を Fig.D.1.21(c) に示す ウインドウ処理により欠陥性状がより判別しやすくなっている マイグレーション処理およびウインドウ処理により, 欠陥はより鮮明になり, 欠陥の数や位置がこれらの図からより正確に評価できる結果となった 本節の結果はシミュレーション結果を基にしているが, 計測データであっても, 複数異種の欠陥が存在する場合でもマイグレーション処理などにより, その性状をより明確に推定できると期待できる 5mm X Y X=10mm X=50mm diameter=5.0 [mm] 24[mm] 12[mm] 20[mm] 30[mm] 40[mm] 60[mm] Fig.D.1.20 Simulation model for Migration ( Plural and different defect) Observation point(mm) Observation point(mm) Observation point(mm) Time (μs) 4 6 Depth (mm) Depth (mm) (a) Observation data (b) Migration result (c) After windows processing Fig.D.1.21 Visualization result (Plural and different defect) 163

169 5 計測データへのマイグレーションの適用 4 節ではシミュレーション計算によって得られた情報を基にマイグレーション処理やウインドウ処理の効果を検証したが, 本節では超音波探傷試験によって得られた反射記録にマイグレーションやウインドウ処理を行いその効果を検証する 5.1 平面円形欠陥探傷データへの適用 Fig.D.1.22 に示す実験器具により,Fig.D.1.23 に示すような板表面に平行な直径 3mm の円形欠陥を人工的に設けた試験片を検査対象とする 使用した探傷器は OLYMPUS 社製の EPOCH LT である この探傷器に Fig.D.1.22(b) に示す探触子直径 5mm で励振周波数 2.25MHz の垂直探触子を接続し超音波探傷試験を行なった 得られた反射記録データを Fig.D.24(a) に示す 欠陥寸法に比較して, 欠陥と想定される部分からの反射波はより広い幅の領域に反射波が認められる この計測波形を基に, マイグレーション処理とウインドウ処理を行った結果を Fig.D.1.24(b) に示す 計測データそのままと比較して, 欠陥からの反射波は欠陥がある位置で強められた結果となっており, 欠陥分布がより明確になり, 欠陥寸法が視覚的に判り易くなっていることが確認できた Ultrasonic Detector Probe (2MHz,5mm) Specimen (a) Equipment of the experiment (b) Normal probe (Diameter=5mm,Frequency=2.25MHz) Fig.D.1.22 Equipment of the experiment 164

170 25mm Defect area: X=13.5mm ~ 16.5mm (Length=3.0mm) 10mm 15mm 30mm Fig.D.1.23 Dimensions of the specimen Time (sec 10-6 ) Observation Point (mm) Depth (m) Observation Point (mm) (a) Observation data Fig.D.1.24 Visualization result (b) After windows processing 5.2 TOFD 法探傷データ ( 深さ方向欠陥 ) への適用厚板の突き合わせ溶接に際して, 溶着金属や HAZ 部に欠陥が残る可能性があり, 大きな欠陥の場合には脆性破壊など構造物にとって致命的なダメージを与える可能性がある これを防ぐためには, 板厚方向の欠陥寸法を正確に計測し, 許容値以上であれば, これを補修することが求められる 近年, 板厚方向の欠陥寸法を正確に計測する方法として TOFD 法 (Time of Flight Diffraction) が開発され, 実構造物における非破壊検査に適用され始めている Fig.D.1.25 は TOFD 法の概念図と計測波形を示している TOFD 法では欠陥の両側に送信用と受信用の探触子を配して, 探触子を溶接線に沿って移動させて計測がなされる 計測波形の最初のピーク値 1は表面波の伝播を表し,2は欠陥上端からの回折波を,3は欠陥下端からの回折波を,4は裏面からの反射波をそれぞれ表している 板厚方向の欠陥は, 欠陥上端と欠陥下端からの回折波の到達時間の違いから判定し, また, 板幅方向の欠陥長さは探触子 165

171 を溶接線に沿って移動させて計測し, 欠陥からの反射波の強弱をもとに判定する Transmitter Receiver Signal amplitude Time 1Lateral wave 3Lower tip of defect 2 Upper tip of defect 4 Bottom reflection wave Fig.D.1.25 Probe arrangement and scanning method in TOFD technique TOFD 法による欠陥高さ測定精度を検証するために作製された, 人工欠陥試験体の欠陥部の X 線 CT(Computed Tomography) 写真を Fig.D.1.26 に示す 試験体表面から 28mm の位置に, 高さ 7.4mm, 幅 20mm の欠陥が存在している この人工欠陥に対して TOFD 法を適用して計測した計測波形を Fig.D.1.27(a) の左側に, 計測波形を濃淡表示したものを右側に示す この図から, 欠陥の位置や寸法がある程度推定できるが, 判断する人によっては誤差が生じやすい Fig.D.1.27(b),(c) はそれぞれ, マイグレーション処理, さらにウインドウ処理を行った結果である ウインドウ処理を行った (c) 図より欠陥寸法は, 欠陥位置は表面より 26mm, 欠陥高さ 7.1mm, 欠陥幅 19mm と求めることができた 欠陥寸法は X 線 CT 写真から計測した結果とほぼ一致している なお, 欠陥上部と下部に相当する位置に複数の線があり, ウインドウ処理の方法についてはさらに改良する必要がある マイグレーション処理とウインドウ処理を行うことにより欠陥はより鮮明になり, 計測者による誤差はより小さくなることが期待できる 166

172 Fig.D.1.26 The measurement value of the artificial defect by the X-rays CT (a) The Image of the defect(measured data) (b) The Image of the defect after migration processing 167

173 (c) The Image of the defect after window processing Fig.D.1.27 The visualization of measured data by the TOFD method 6 まとめ地層探査の分野で用いられるマイグレーション手法を超音波探傷に応用し, 試験体内部の欠陥分布図を作成することで欠陥性状の同定が可能であるかについて検討した シミュレーションにより求めた単一欠陥 ( 水平スリット欠陥, 斜めスリット欠陥, 円形欠陥 ) の反射記録データにマイグレーション処理およびウインドウ処理を適用した結果, 欠陥位置や寸法が視覚的に判り易い欠陥分布図を作成することが可能となった また, 複数異種の欠陥が存在すると欠陥反射波が干渉しあって反射記録断面図が複雑であり欠陥の判別が困難であるが, マイグレーション処理とウインドウ処理を施すことによって, 複雑であった反射記録断面がわかりやすい欠陥分布図へと変換されることがわかった 垂直探傷および TOFD 法を用いた超音波の計測波形をマイグレーション処理し, さらにウインドウ処理することにより, 従来より鮮明に欠陥性状を表示できることを示し, 実測データであっても, マイグレーション処理とウインドウ処理により欠陥性状をより鮮明に表示することができることを示した 168

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