19-28_研究報告-荻野谷浩美.indd

Size: px

Start display at page:

Download "19-28_研究報告-荻野谷浩美.indd"

つねたけやすこ
5 years ago
Views:

1 Japanese Journal of Nursing Art and Science Vol. 10, No. 3, pp 19 28, 2012 研究報告ストレス評価における唾液 α アミラーゼ活性の有用性 The Usefulness of Salivary α-amylase Activity to Evaluate Degree of Stress 1) 萩野谷浩美 Hiromi Haginoya 1) 佐伯由香 Yuka Saeki 本研究は, ストレス評価に唾液 α アミラーゼ活性 (saa) が有用であるか否かを調べることを目的とした. 健康な成人女性 7 名 (27.9 ± 8.7 歳,21 47 歳 ) を対象として, 暗算と足浴を各 10 分間行った際の saa の変化を心拍数, スキンコンダクタンス,Visual Analogue Scale の変化と比較検討した. その結果, 暗算開始前と比較して開始後でいずれの測定項目も有意に上昇し (p < 0.05),sAA と各測定項目との間に有意な相関があることが明らかとなった (rs= ).sAA は, 心拍数やスキンコンダクタンスなどの自律神経機能と同様に交感神経活動を反映しており, 客観的にストレスを評価するための指標となりうると考えられた. 今回使用した携帯型 saa 測定機器は簡便で侵襲性もなく測定できることから, 今後は患者のストレス評価だけでなく, 臨床でのアセスメントやケアの客観的評価, 看護研究にも応用できると考えられた. キーワード : 唾液 α アミラーゼ活性, ストレス, 自律神経機能 This study was designed to investigate whether salivary α-amylase activity (saa)is useful to evaluate degree of stress in human. Seven healthy female subjects (27.9 ± 8.7years, 21-47years)participated in this study. Unpleasant and pleasant stimulations were applied to the subjects. The unpleasant stimulation was mental arithmetic calculation (addition & subtraction of 2-3 figures)for 10 minutes, and the pleasant stimulation was footbath for 10 minutes. saa, ECG, skin conductance (SC)were measured to evaluate autonomic nervous function and visual analogue scale (VAS)was used as subjective sensation. As a result, saa, heart rate (HR), SC and VAS showed significant increases during mental arithmetic calculation compared with them before calculation. Furthermore, saa decreased significantly during footbath. There were significant correlations between saa and HR, SC or VAS (rs= ). In conclusion, it was suggested that saa must be a useful marker to evaluate degree of stress as the other autonomic nervous function. Key words:salivary α-amylase activity,stress,autonomic nervous function 受付日 :2011 年 10 月 11 日受理日 :2011 年 11 月 11 日 1) 筑波大学大学院人間総合科学研究科 University of Tsukuba, Graduate School of Comprehensive Human Sciences 連絡先 : 佐伯由香筑波大学大学院人間総合科学研究科茨城県つくば市天王台 TEL & FAX: yukaS@md.tsukuba.ac.jp

2 20 日本看護技術学会誌 Vol. 10, No. 3 Ⅰ. 序論ストレスに伴う生理的反応を測定するために, 自律神経機能や内分泌機能が指標として多く用いられている. スキンコンダクタンス (skin conductance, 以下 SC) の変化から体位変換を行った際の交感神経機能の変動を検討した研究 ( 永松ら 2006), 血中および唾液中のコルチゾル変動からストレス負荷と同時に香料を吸入したときの効果を検討した研究 ( 細井ら 2002) などがある. しかし, 血中におけるコルチゾルやカテコールアミンなどのストレスホルモンを評価する場合, 血液を採取しなくてはならず, この方法では採血自体がストレッサーとなってしまい的確なストレス評価にはならないという問題がある. その点, 唾液中の物質測定は唾液を採取するのみで身体的心理的苦痛を伴うことがないため, 血液の採取よりも適確に人間のストレス評価ができると考えられる. そこで近年, 血中ではなく唾液中のコルチゾルやα アミラーゼ活性を測定してストレスを客観的に評価していく方法が用いられるようになった. なかでも唾液 αアミラーゼ活性 (salivary α-amylase activity, 以下 saa) は, ストレス負荷に対する応答性が唾液コルチゾルに比べて速く, 交感神経活動の変化を捉えるための指標として注目されている (Takai et al. 2004). saa をストレス評価の指標に用いる研究は, 海外で 1970 年代に報告されて以来年々増加している (Gilman et al.1979;groza et al.1971;speirs et al. 1974). 生体にストレス負荷を加えると saa は上昇するが, これは交感神経活動が亢進することによると考えられている (Chatterton et al.1996;skosnik et al.2000;speirs et al.1974;van Stegeren et al. 2006). わが国でも, ストレス評価の指標に saa を用いた研究結果が 2001 年頃から発表され,sAA が心理的ならびに身体的ストレス負荷に反応して上昇することが報告されている ( 山口ら 2001). さらに,2002 年には信頼性が保証された簡易型 ( 携帯型 ) の測定機器も開発され, より容易に saa 測定ができるようになった ( 山口高井 2002;Yamaguchi et al.2006). しかし, これらの多くは, ストレス負荷に対する saa の変化のみを測定した研究 ( 金丸ら 2003),sAA の変化と主観的指標である State Trait Anxiety Inventory Score (STAI)(Noto et al.2005),profile of Mood Scale (POMS)( 辻川上 2007),Visual Analogue Scale ( 以下 VAS)(Shirasaki et al.2007) などとの関連性を検討した研究である. そこで本研究では, これらに加え他の自律神経活動の変化と saa の変化がどのような関連性にあるか明らかになれば, 看護研究だけでなく, 臨床実践におけるアセスメントやケアの客観的評価にも応用できると考えられる. そこで, ストレス負荷に対する saa の変化を心拍数 (Heart Rate, 以下 HR) や SC の変化, ならびに主観的指標である VAS と比較して両者間の関連性を検討し, 看護実践や看護研究における saa の有用性を明らかにすることを本研究の目的とした. Ⅱ. 研究方法 1. 被験者本研究の趣旨と方法を理解し同意が得られ, 自律神経系に影響を与える薬物を服用しておらず, 実験当日の健康状態に問題のない健康な成人女性 7 名 (27.9 ± 8.7 歳,21 47 歳 ) を対象とした. また, 被験者には実験の 2 時間前から水以外の飲食を禁止するよう伝えた. 2. 実験期間 2008 年 2 月 5 日 2008 年 4 月 11 日 3. 測定項目と測定方法自律神経機能の指標として saa,hr,sc を用いた.sAA の測定には唾液アミラーゼモニター (NIPRO 社製 ) を使用した. これは, 唾液採取チップの先端部を舌下に入れ,30 秒後に口腔粘膜に触れないように口から取り出し, 唾液アミラーゼモニターに差し込み saa を測定する方法である.HR は心電図 (ECG) 測定用の電極を前胸部に 3 ヵ所装着し,SC は SC 測定用の電極を利き手と反対側の示指と中指の指尖部 2 ヵ所に装着し, 測定した. 主観的指標には VAS(10cm の直線スケール ) を用い, リラックスしている状態を 0, 緊張している状態を 100 として評価した. 4. 実験手順何らかの刺激を加えた際,sAA が刺激後どの程度の時間で変化するのかを確認するため, まず実験 Ⅰを

3 日本看護技術学会誌 Vol. 10, No 行った. 次に, 暗算足浴前後における自律神経機能ならびに主観的指標の変化を調べるために実験 Ⅱを行った. いずれの実験も, 空調設備が整った静かな部屋で個別に行った ( 室温 24.3 ± 1.4, 湿度 46.3 ± 6.3%). 1) 実験 Ⅰ: 暗算時の自律神経機能の変化被験者に ECG 測定用と SC 測定用の電極を装着し, 実験中は持続的に測定した (ProComp Infiniti, Thought Technology 社製 ). 約 10 分間の安静後,2 または 3 桁の暗算 ( 加算減算 ) を 10 分間実施した. saa は, 暗算開始前, 開始後は 2 分毎, そして終了後 2 分の時点まで, 合計 7 回測定した. この際, 被験者が行っている計算が中断することのないよう, 研究者が唾液採取チップを被験者の舌下に挿入し 30 秒後に取り出した. 2) 実験 Ⅱ: 暗算足浴前後における自律神経機能ならびに主観的指標の変化実験 Ⅰと同様に電極を装着し,ECG と SC を持続的に測定した. 約 10 分間の安静後,2 または 3 桁の暗算 ( 加算減算 ) を 10 分間実施し, その後 10 分間安静, そしてスチームタイプの足浴 ( スチームフットスパ,National 社製 ) を 10 分間行った ( 図 1).sAA と VAS は, 暗算開始前, 暗算開始後 2 分, 暗算終了時, 暗算終了後 2 分, 足浴開始前, 足浴開始後 2 分, 足浴終了時, 足浴終了後 2 分の時点でそれぞれ測定し評価した. なお被験者には, 暗算の正答率が 80% を超えなかった場合は 80% を超えるまで暗算の課題を繰り返し実施することを事前に伝えたが, 実際には正答率の高低にかかわらず 1 回のみの実施とした. 5. 解析方法実験開始から終了まで連続して測定した ECG と SC のデータは,AD 変換 (sampling rate;200hz) した後コンピューターに保存し, 後日解析ソフト (BioGraph Infiniti,Thought Technology 社製 ) を用いて解析した. 実験 Ⅰでは, 暗算開始前の 2 分間, 開始後 2 分間毎の中央値をその時点の代表値として統計処理を行った. 実験 Ⅱは以下の時点の 2 分間の中央値を用いた ; 暗算開始前, 暗算開始後, 暗算終了前, 暗算終了後, 足浴開始前, 足浴開始後, 足浴終了前, 足浴終了後. 6. 統計処理すべてのデータは中央値 ( 四分位範囲 ) で表示した. 暗算ならびに足浴実施における各測定指標の中央値間の比較には,Wilcoxon の符号付き順位検定を用い, 有意水準 5 % 未満を有意差ありとした (p < 0.05). また,sAA と HR,SC,VAS との相関関係は Spearman の順位相関係数を用いて評価した (SPSS Ver.16.0J for Windows). なお相関関係をみる場合は,sAA や SC の測定値において個人差が大きいため, 暗算開始前ならびに足浴開始前の値を 100% とした変化率で評価した. Ⅲ. 倫理的配慮本研究は, 筑波大学大学院研究倫理委員会の承認を得て行われた. 本研究に関心を示した者に対し, 本研究の趣旨と方法, プライバシーの保護, 研究への同意は自由意思であり同意した後であっても撤回できること, 研究への同意を撤回した場合でも決して個人が不利益を被らないこと, 使用後の唾液採取チップは測定後被験者の同意を得て廃棄すること, データは研究のみに使用し厳 1 実験 Ⅱ の手順

4 22 日本看護技術学会誌 Vol. 10, No. 3 重に管理されること, ボランティアであることなどを説明し, その上で研究同意が口頭と書面で得られた者を対象とした. Ⅳ. 結果 1. 実験 Ⅰ: 暗算時の自律神経機能の変化 HR は, 暗算開始前の 77 (69-86)bpm から暗算開始後すべての時点で有意に上昇した. また, 終了後 2 分の時点では暗算終了時と比較して有意に減少した ( 図 2). 暗算開始前に 1.7 ( )μ S であった SC は, 暗算開始後 2 分に 6.0 ( )μ S となり, その後も有意に上昇していた. 暗算終了後 2 分は暗算終了時と比較して有意に減少した ( 図 2). saa は, 暗算開始前の 18.0 ( )kU/L から暗算開始後 2 分に 39.0 ( )kU/L となり, 暗算中はすべての時点で有意に上昇したままであった. 暗算終了後 2 分には 13.0 ( )kU/L となり, 暗算終了時と比較して有意な減少であった ( 図 2). 2. 実験 Ⅱ: 暗算足浴前後における自律神経機能ならびに主観的指標の変化 HR は暗算開始前の 77 (71-84)bpm から, 暗算開 2 暗算時の自律神経機能の変化

5 日本看護技術学会誌 Vol. 10, No 始後有意に上昇した. 暗算終了後 2 分の HR は 79 (72-84)bpm で暗算終了時の 93 (82-94)bpm と比較して有意な減少が認められた. 足浴前後において, HR の有意な変化はみられなかった ( 図 3). SC は, 暗算開始前の 1.9 ( )μ S から暗算開始後 2 分には 6.8 ( )μ S, 終了時も 5.5 ( ) μ S と有意に上昇し, 暗算終了後 2 分も高いままであった. しかし, 暗算終了時と比較すると暗算終了後 2 分の SC は, 有意に減少していた. また, 足浴開始前と比較すると足浴開始後 2 分の時点では有意な上昇

6 24 日本看護技術学会誌 Vol. 10, No. 3 がみられた (p=0.017)( 図 3). saa は, 暗算開始前の 18.0 ( )kU/L から暗算開始後 2 分で 47.0 ( )kU/L と有意に上昇し, 終了時も 36.0 ( )kU/L と上昇したままであった. 暗算終了後 2 分は 16.0 ( )kU/L で, 暗算終了時と比較して有意に減少した. 足浴前後の saa は, 足浴開始前の 13.0 ( )kU/L から足浴開始後 2 分には 12.0 ( )kU/L, 足浴終了時には 12.0 ( )kU/L へとそれぞれ有意に減少し (p=0.012), 足浴終了時と足浴終了後 2 分との比較でも有意な減少が認められた (p=0.018)( 図 3). 暗算開始前に 8.0 ( ) であった VAS は, 暗算開始後すべての時点で有意に上昇し, 暗算終了後 2 分にいたっても 42.0 ( ) と有意に上昇したまま

7 日本看護技術学会誌 Vol. 10, No であった. また, 暗算終了時と暗算終了後 2 分との比較では有意な減少がみられた. 足浴開始前に比べ足浴開始後に減少傾向がみられ, 足浴開始前と足浴終了時との間で有意差が認められた ( 図 3). 3.sAA と HR,SC,VAS との相関関係暗算, 足浴それぞれの刺激を受けたときの saa と HR,SC,VAS との変化の相関をみると,sAA と HR との相関係数 (rs) は (p < 0.05),SC との相関係数は (p < 0.05),VAS との相関係数は (p < 0.05) といずれも有意な相関がみられた ( 図 4). Ⅴ. 考察ストレス負荷時の saa の変化を他の自律神経機能の指標である HR や SC の変化, また主観的指標である VAS と比較して両者間の相関関係について検討した. その結果, 暗算においては, 開始前に比べ開始後 2 分, 終了時ともに saa,hr,sc,vas の値は有意に上昇した. また, 暗算終了後 2 分の値は終了時と比較して有意に減少した. 足浴においては, 開始前に比べ開始後に有意な減少がみられたのは saa と VAS のみであった. また,sAA と HR,SC,VAS 間での相関も認められた. 1.sAA の反応潜時について一般的に潜時の早い反応は神経系を介して起こるのに対し, 内分泌系はより遅く, そして持続的な反応をもたらすとされている. 今回指標として測定した saa は, 交感神経によって支配され, 交感神経系に影響を及ぼすような刺激を受けることで反応が現れると報告されている (Skosnik et al.2000;takai et al. 2004; 山口高井 2002). そして山口ら (2001) は, 生体が刺激を受けて saa に変化が起こるまでに 1 数分という幅がみられると報告している. 実際に, 今回の研究で使用する機器では刺激を加えてどのくらいの潜時で変化が起こるのかを確認するため, 暗算を行った際の saa を 2 分毎に測定した. その結果, saa は暗算開始後 2 分には有意な上昇を示し, これは HR や SC の反応とも一致していた ( 図 2). このことから, 交感神経系に影響を及ぼすような刺激が与えられた場合, その 2 分後には saa に反応が現れると考え, 実験 Ⅱの saa の評価を 2 分後とした. 2. 自律神経機能の変化 1) 暗算時の反応について Noto ら (2005) は, 健康な女性に 4 桁の数字から 13 を連続して減算していく課題を 15 分間取り組ませ, その前後で saa の変化を調べた. 結果は, 暗算開始前に比べ開始 15 分後のほうが saa は上昇し, 終了 10 分後では開始 15 分後と比較して有意な減少が認められている. また Nater ら (2005) は, 健康な成人を対象に TSST (The Trier Social Stress Test) 実施時と安静時の saa および HR の変動を調べた. 安静時に比べ TSST 実施時の saa,hr が有意に上昇したことから, 精神的ストレス負荷に伴い saa や HR が有意に上昇すると報告している. 本研究における saa の変化も, 暗算開始前と比べ開始後に有意に上昇し, 終了後には有意な減少がみられ ( 図 3), 先行研究と一致した結果が得られた. 受ける刺激によって saa に変化が起こるまでに幅がみられるという山口ら (2001) の研究結果を踏まえると, 本研究の暗算 (2 または 3 桁の加算減算を 10 分間実施 ) では開始後 2 分に saa の反応が現れたが, 生体に加えられる刺激の種類, 強さ, 持続時間によっては saa に変化が起こるまでの時間に差が生じてくると考えられる. これらのことから, 本研究で行った暗算は被験者にとって精神的ストレスであり, 暗算に取り組んでいる間の交感神経活動は亢進していたと考えられる. 暗算開始後にみられた saa,hr,sc の有意な上昇は暗算により交感神経活動が亢進したため, また, 暗算終了後にみられた saa,hr,sc の有意な減少は暗算によるストレス負荷がなくなり交感神経活動が低下したためと考えられる. また, 暗算という不快な刺激から解放されたことで被験者の緊張度が減るとともに快適度が増し, その結果交感神経活動が低下した可能性も考えられるまた,sAA は血漿中のノルアドレナリン濃度と有意に関連しているという報告 (Chatterton et al.1996;rohleder et al. 2004) を考慮すると, 交感神経活動を反映する指標であると考えられる. 2) 足浴時の反応について本研究において, 足浴開始前と比べ開始後に saa は有意な減少を示した ( 図 3). 清水ら (2001) は, 健康な女性を対象に 10 分間の足浴が HR へ及ぼす影響を調べた. その結果, 足浴開始後 1 分以内で HR は上昇し, 開始 1.5 分から 2.5 分で有意な減少がみられたと報告している. これらの結果は, 仰臥位足浴開始

8 26 日本看護技術学会誌 Vol. 10, No. 3 時には一時的な交感神経活動の亢進が起こったが, その後に交感神経活動が減少した可能性を示している. 本研究では, 足浴開始前に比べ開始後 2 分間の HR は減少しているものの有意な変化ではなかった ( 図 3). 本研究では, 足浴開始後 2 分間の HR を統計処理に用いたため, 足浴開始直後に出現していたであろう一時的な交感神経活動の亢進に伴う HR の上昇とその後に生じたであろう低下が隠されてしまったと考えられる. あるいは, 足浴実施時の姿勢や足浴方法などの実験方法の違いが影響しているかもしれない. 中嶌ら (2006) は, 被験者にストレスを負荷した後足浴を行い, そのときの SC の経時的変化を調べ足浴により SC が低下したと報告している. 足浴による快適な刺激が交感神経活動を低下させ, それに伴い SC の減少が引き起こされることは明らかである. しかし, 本研究では足浴開始前と開始後 2 分との比較において有意な上昇がみられ ( 図 3), 中嶌ら (2006) の研究とは異なる結果であった. この要因として考えられることは, 中嶌ら (2006) の研究では図版の記憶再認テストに取り組んだ直後に足浴を実施しているが, 本研究では 10 分間の安静の後で足浴を実施しているため, 足浴を実施する前の被験者のストレス状態が異なっていたこと, また, 足浴自体が温熱刺激となり一時的に交感神経活動が亢進した結果 SC の上昇につながったことが考えられる. 以上のことから, 足浴開始後にみられた saa の減少は, 足浴によって快適な刺激が加えられた結果, 交感神経活動が低下したためと考えられる.HR に著明な変化がみられなかったことに関しては, 足浴開始前の 10 分間の安静時間が影響していたと考えられる. 3. 主観的指標 (VAS) の変化 1) 暗算時の反応について本研究において, 暗算開始前に比べ開始後に有意な上昇がみられ, 終了時には最高値を示した ( 図 3). これは, 暗算の刺激に伴い出現してきた不快な感情を反映した結果であると考えられる. また, 暗算終了時と終了後 2 分の比較でみられた有意な減少は, 暗算の不快な刺激が取り除かれたことで被験者がリラックスしている状態へと変化してきた結果であると考えられる. 2) 足浴時の反応について邑田ら (2005) は, 成人女性を対象に 40 と 44 の湯で 5 分間足浴したときの快適度を VAS で調べた. その結果, 足浴前に比べ足浴後に快適度は増し, 40 の湯温では足浴終了直後に,44 では足浴終了直後と 60 分後に有意な快適度の増加がみられた. また山本ら (2007) は, 健康な男女を対象に 30 分間足浴を実施した前後の主観を VAS で評価した. 結果は, 足浴実施前に比べ実施後に有意に心地よくリラックスしていたと報告している. 本研究でも先行研究同様, 足浴開始前と終了時との比較において有意な減少がみられ, 足浴開始前に比べ開始後に被験者の緊張度は減少し, リラックス状態にあったと考えられる ( 図 3). なお, 先行研究と本研究とでは足浴の方法や足浴時間に違いがみられるが, 両者ともに足浴開始前に比べ足浴終了後に緊張度が減少し快適度や心地よさが増していることから, 適度な温熱刺激が生体に加えられることで主観的な緊張度が減少し, 快適度が増加することが明らかとなった. 4.sAA と HR,SC,VAS との相関関係暗算, 足浴それぞれの刺激を受けたときの saa と HR,SC,VAS との変化の相関を比較すると,sAA と HR,SC,VAS 間で相関が認められた ( 図 4). このことから,sAA を測定することで交感神経活動の評価や主観的ストレスの評価が可能であると考えられる. Noto ら (2005) が実施した前述の研究においても,sAA と STAI との間 (r=0.589) および HR と STAI との間に相関 (r=0.449) が認められたと報告している. また Shirasaki ら (2007) は, 慢性的な痛みを有する患者に治療目的で硬膜外ブロックを施行し, その前後で saa,hr,bp,vas の変化を調べた. 結果,sAA と VAS との間に相関 (r=0.561) がみられたと報告しており, これは本研究と一致するものである. これらの先行研究と本研究で得られた結果をまとめると, 不快なストレス負荷が加わることで交感神経の活動が亢進し,HR や SC だけでなく saa も上昇することが明らかになった. したがって saa は,HR や SC などの自律神経機能同様に交感神経活動の指標になると考えられた. また不快なストレス負荷が加わったときは,sAA の上昇とともに VAS などの主観的指標の緊張度や不快度も上昇してくることが明らかになった. このことから,sAA と主観, 自律神経活動と主観は互いに影響し合っていると考えられる.

9 日本看護技術学会誌 Vol. 10, No sAA をストレス評価として用いることの問題点ストレスの指標である副腎皮質ホルモンの分泌にはサーカディアンリズムがある. 同様に, 自律神経系も夜間は副交感神経系が, そして昼間の活動している時間帯は交感神経系が優位になることが知られている. Rohleder ら (2004) は, 唾液中コルチゾルは起床時に上昇し夕方にかけて減少していくのに対し,sAA は起床時急激に減少し夕方に向かって上昇していくと報告している. つまり,sAA には唾液中コルチゾルの分泌リズムと逆のパターンを示すサーカディアンリズムがあることを明らかにしている. 一方, 花輪ら (2005) は,sAA は起床時に最低値を示し, その後上昇するが日中は kU/L の範囲であり, クレペリンテストのような刺激を与えた際の saa の上昇に比べると小さな変動であることを示している. したがって, サーカディアンリズムは存在してもストレス反応を捉えることは可能であり, ストレス評価として使用できると考える. しかし, 小さいながらもサーカディアンリズムが存在することは念頭におく必要がある. また, 唾液は食事などによってその分泌量が変化する. したがって,sAA を評価する場合, 唾液の分泌量が saa に影響を及ぼす可能性があげられる. Rohleder ら (2006) は, 実験的ストレスや唾液のサンプリング方法の違いが流量や saa に影響を及ぼすか否かについて調べている. その結果, 実験的ストレスでは唾液のサンプリング方法の違いにより流量は異なるが,sAA には影響しないと結論付けている. どのような状況においてもこの結論が当てはまるか否かは不明であるが, 少なくとも本研究においては, 実験前 2 時間は水以外の飲食を禁じていたこともあり, 測定した saa には唾液の分泌量の変動による影響はないと考えられる. Ⅵ. 結論 saa は,HR や SC などの自律神経機能同様に交感神経活動を反映しており, 客観的にストレスを評価するための指標となり得る. また saa の測定は, 侵襲性がなく簡易に行えることから, 臨床でのアセスメントやケアの客観的評価にも応用できる. 文献 Chatterton Jr R.T., Vogelsong K.M., Lu Y.C. et al. (1996): Salivary α-amylase as a measure of endogenous adrenergic activity, Clin Physiol,16, Gilman S.C., Fischer G.J., Biersner, R.J. et al. (1979): Human parotid alpha-amylase secretion as a function of chronic hyperbaric exposure, Undersea Biomed Res, 6, Groza P., Zamfir V., Lungu D.(1971): Postoperative salivary amylase changes in children, Rev Roum Physiol, 8, 花輪尚子, 出口満生, 若杉純一, 他 (2005): 里山における唾液アミラーゼ活性の日内変動, 日本生理人類学会誌,10, 細井純一, 井上かおり, 庄司健, 他 (2002): 香りのストレス緩和効果の血中および唾液中コルチゾールを指標とした評価, 自律神経,39, 金丸正史, 金森貴裕, 山口昌樹, 他 (2003): 唾液アミラーゼ活性によるジェットコースターの感性評価, 信学技報, 103,1-6. 邑田真紀子, 三好樹里, 河本敦子, 他 (2005): 湯温 44 の足浴がもたらす覚醒効果, 第 36 回日本看護学会論文集 ( 看護総合 ), 永松一真, 椎原康史, 秋好力, 他 (2006): 各種体位における上肢の交感神経機能 :Skin Conductance による評価, 自律神経,43, 中嶌広美, 椎原康史, 小笠原映子, 他 (2006): ラベンダーオイルを用いた足温浴のリラクセーション効果, 看護研究, 39, Nater U.M., Rohleder N., Gaab J. et al. (2005): Human salivary alpha-amylase reactivity in a psychosocial stress paradigm, Int J Psychophsiol, 55, Noto Y., Sato T., Kudo M. et al. (2005): The relationship between salivary biomarkers and state trait anxiety inventory score under mental arithmetic stress: A pilot Study, Anesth Analg, 101, Rohleder N., Nater U.M., Wolf J. M. et al. (2004): Psychosocial stress-induced activation of salivary alpha-amylase:an indicator of sympathetic activity?, Ann N Y Acad Sci, 1032, Rohleder N., Wolf J.M., Maldonado E. et al. (2006): The psychosocial stress-induced increase in salivary alphaamylase is independent of saliva flow rate, Psychophysiol, 43, 清水祐子, 佐藤みつ子, 永澤悦伸, 他 (2001): 仰臥位足浴による心臓自律神経活動の変化若年健康女性を対象に, 山梨医大紀要,18, Shirasaki S., Fujii H., Takahashi M. et al. (2007): Correlation between salivary α-amylase activity and pain scale in patients with chronic pain,reg Anesth and Pain Med, 32, Skosnik P.D., Chatterton R.T.Jr., Swisher T. et al. (2000): Modulation of attentional inhibition by norepinephrine and cortisol after psychological stress,int J of Psychophysiol, 36, Speirs R.L., Herring J., Cooper W.D. et al. (1974): The influence of sympathetic activity and isoprenaline on the secretion of amylase from the human parotid gland, Arch Oral Biol, 19, Takai N., Yamaguchi M., Aragaki T. et al. (2004): Effect of psychological stress on the salivary cortisol and amylase levels in healthy young adults,arch Oral Biol, 49, 辻弘美, 川上正浩 (2007): アミラーゼ活性に基づく簡易ストレス測定器を用いたストレス測定と主観的ストレス反応測定との関連性の検討,The Human Science Research Bulletin,

10 28 日本看護技術学会誌 Vol. 10, No. 3 6, van Stegeren, A., Rohleder N., Everaerd W. et al. (2006): Salivary alpha amylase as marker for adrenergic activity during stress: Effect of betablockade, Psychoneuroendocrinol, 31, Yamaguchi M., Deguchi M., Wakasugi J. et al. (2006): Handheld monitor of sympathetic nervous system using salivary amylase activity and its validation by driver fatigue assessment, Biosens Bioelectron, 21, 山口昌樹, 金森貴裕, 金丸正史, 他 (2001): 唾液アミラーゼ活性はストレス推定の指標になり得るか, 医用電子と生体工学,39, 山口昌樹, 高井規安 (2002): 唾液アミラーゼ活性によるストレスモニタ,BIO INDUSTRY,19, 山本敬子, 阿曽洋子, 永田鎮也 (2007): 密封式足浴が中年期健康者の自律神経系および精神神経免疫活性に及ぼす影響ウェーブレット解析による自律神経系活性の時系列変化の検討, 自律神経,44,

science_of_stress_all.pdf

science_of_stress_all.pdf 1998 5 2 2 1 3 1 1 2 3 ATP 40 1999 2001 2 1 2 3 21 2004 3 1 2 3 9 9 OVERVIEW Cannon WB Selye H Selye H 1936 general adaptation syndrome Nature Selye Selye 3 OVERVIEW 70 2 /ADHD ADHD 80 15 2 O 157 OMICS