回復見通しに水を差すブラジル大統領選

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ひでかかつもと
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No.31 01 年 3 月 1 日回復見通しに水を差すブラジル大統領選 1. 3 年ぶりのプラス成長 (1.0%) となった 017 年経済調査部上席研究員森川央 morikawa@iima.or.jp ブラジル経済は緩やかに持ち直している世界経済の拡大で一次産品輸出が増加に転じているほか工業品輸出も持ち直してきているからだ ( 図 1) その結果 017 年の実質 GDP 成長率は 1.

1 No 年 3 月 1 日回復見通しに水を差すブラジル大統領選 1. 3 年ぶりのプラス成長 (1.0%) となった 017 年経済調査部上席研究員森川央 morikawa@iima.or.jp ブラジル経済は緩やかに持ち直している世界経済の拡大で一次産品輸出が増加に転じているほか工業品輸出も持ち直してきているからだ ( 図 1) その結果 017 年の実質 GDP 成長率は 1.0% 増となり 3 年ぶりにプラス成長となった産業別にみると成長に大きく貢献したのは農業で全体の成長率への寄与度は 0.7 ポイントであった一方サービスや商業などの第三次産業の寄与度は 0.3 ポイントで工業部門 ( 第二次産業 ) の寄与度はゼロであった農業が豊作に恵まれなければ成長率は 0.5% にも届かなかった可能性があり 017 年は運にも恵まれたといえよう需要の動きを見ると最も貢献したのは輸出と在庫投資 ( 誤差脱漏含む ) でともに 0.7 ポイント次いで家計消費が 0. ポイント成長率を押し上げた固定資本形成 ( 設備投資 ) はまだマイナスで寄与度は-0.3 ポイント政府消費も同 -0.1 ポイントであったそして景気回復と同時に輸入も増加したので輸出から輸入を引いた純輸出の寄与度は 0.1 ポイントであった成長のパターンとしては内需主導それも消費主導となっており持続的な成長のためには設備投資の回復が望まれる ( 億ドル ) 図 1 輸出の動き一次産品工業品 ( 注 )1 ヵ月累計額 ( 資料 ) ブラジル地理統計院統計を基に国際通貨研究所作成 1

2 図実質 GDP 成長率の推移 ( 前年比 %) 純輸出在庫誤差政府消費総固定資本形成個人消費実質 GDP 鉱工業生産 ( 資料 ) ブラジル地理統計院統計より国際通貨研究所作成 ( 年 ) 次に四半期ベースでみると 10-1 月の実質 GDP 成長率は前年比.% に上昇している家計消費は同.% 課題の設備投資も同 3.7% に増加してきているのでブラジル経済は自律的な回復に向かっていると見ていいだろう ( 図 ) 景気回復にひと役かっているのがインフレ率の低下である消費者物価上昇率は 01 年初めには桁に達していたが同年後半から急速に低下してきており 017 年 10-1 月期には前年比.% まで低下している ( 図 3) その結果中央銀行であるブラジル銀行は 01 年 10 月から利下げを開始し政策金利 (Selic Rate) は現在.75% になっているこれはブラジルの政策金利としては 1999 年以来で最も低い水準である ( 図 ) 低インフレ低金利という環境は実質所得の向上借り入れコストの低下を通して景気を下支えすることになっている図 3 消費者物価 1 ( 前年比 %) ( 資料 ) ブラジル銀行統計より国際通貨研究所作成

3 図政策金利 (%) ( 資料 ) ブラジル銀行統計を基に国際通貨研究所作成. 先行きが読めない大統領選挙しかし回復シナリオに水を差しているのが大統領選挙である世論調査によるとルラ元大統領 ( 在任期 :003~011 年 ) の人気は依然として高く支持率は 3%(1 月 9-30 日実施のダタフォーリャ調査 ) と位以下を大きく引き離しているしかし汚職疑惑で有罪の判決を受けたため出馬できない可能性が強くなってきたルラ元大統領は不服申し立てを行っているが 3 月中に一旦の結論が出る見通しである本命のルラ氏が不出馬なら大統領選は大混戦となるルラ不在ケースの世論調査によるとブラジルのトランプと言われるボルソナロ下院議員が 1% の支持率でトップとなり環境重視左派のマリーナシルバ候補が 13% で続く中道派のアルキミン候補と左派のシロゴメス候補はどちらも 10% 前後と低迷している中道派の支持が伸び悩んでいる背景には有権者の既存政党への不信感があるブラジルでは近年再び治安が悪化している一方ブラジル史上最悪と言われる国営石油会社をめぐる汚職事件が明るみに出た治安改善もできず私腹を肥やしてきた政治家への嫌悪感がアウトサイダーであるボルソナロマリーナシルバ両候補を支持する理由となっているのであろう中道候補の一本化が進まず仮にボルソナロ対マリーナシルバ間の決選投票となった場合どちらが勝利しても政権運営は前途多難だろう両候補とも小党に所属しており連立工作に苦労すると考えられるからであるブラジルは多党制の国である選挙裁判所に登録されている政党だけで 35 を数え最大政党でテメル大統領が所属する民主運動党 (PMDB) ですら下院 (513 議席 ) で 59 議席を持つに過ぎない議席の占有率はわずか 11.5% である小党乱立は軍事政権の時代に政党結党の自由が奪われていたトラウマもあり権利を主張し政党を多く作りたがる傾向があるためと言われている 3 大政党ですら連立工作に苦労してきたことを考えると小党が連立政権を維持運営することは容易なことではないブラジルの政治は再び不安定化するリスクを抱えている循環的な上昇局面に入ったブラジル経済だが政治からの不透明感の高まりにより回復が短命に終わるリスクも念頭に置いておくべきだろう 3

4 3. 年金改革とん挫の影響昨年ブラジルで年金生活に入った人の平均年齢は女性で 5 歳男性で 55 歳であったブラジルでは年金支給開始年齢の規定がなく男性は 35 年間女性は 30 年間の積立期間が過ぎれば受給権を得るので 50 代半ばで受給することができるだがブラジルでも平均寿命は延びている地理統計院によると 53 歳の女性の平均余命は 30 年 55 歳男性の平均余命は年である長期間の年金支払いはこれから財政への大きな負担となっていく R. Zeidan と F. Giambiagi によると年金支出の GDP 比は過去 30 年で約 3 倍になり 01 年には約 10.3% に上っているそして年金支出は今後も毎年実質で 3% 増加していくテメル政権は 01 年に財政支出に上限を設ける憲法修正を実現した向こう 10 年間の連邦支出をインフレ率以上に増やさないつまり実質で金額を凍結するという規定であるこの規定を守るためには年金改革は避けて通れないなぜなら年金支出は支出全体の約半分を占めているうえ先に示したとおり実質 3% で増加し続けるからである全体の支出を実質ゼロに抑えるためには教育医療その他行政サービスを大幅に削減しなくてはならなくなるそれは当然国民から大きな反発を受けるので国会議員らは渋々でも年金改革に賛成するというのがテメル大統領が描いたシナリオだっただがこのシナリオは月にとん挫してしまったリオデジャネイロ州の治安が悪化したためやむなく連邦軍を治安維持に投入したことが思わぬ影響を生んだブラジルでは軍政時代の反省から連邦政府が州の自治権に直接介入している間は憲法修正はできないという規定がありリオ州への連邦軍投入はこれに該当するそのため憲法修正が必要になる年金制度の変更が当面不可能になったのである一方で選挙が近づいてきており残り時間を考えると今年中の年金制度改革の実現は絶望的になったといえよう年金制度改革がお蔵入りになったことはブラジルの将来にとっては大きな損失と言わざるを得ないテメル政権を継承する政権が成立する可能性は小さく次期大統領が年金制度改革にどの程度の熱意で取り組むのかも不明である格付機関がこのニュースを受けてブラジル国債の格付けを一段階引き下げたのも肯ける年金制度は目先の経済への影響は小さいが長期的な影響は大きいからである

5 . まとめ 01 年のブラジル経済を展望すると短期的には上昇局面に入っていることから年内は拡大基調が続くだろうだが中期的長期的な要因は楽観を許さない中期的な要因として住宅価格は 01 年から下落しておりインフレ率を考慮すると実質では-5% 程度の下落が続いている長期的には年金の重石が財政にのしかかり財政赤字の拡大が予想されるこうした不安要因を払しょくし見通しを好転させるだけのリーダーシップを発揮する大統領が誕生するのか 01 年は 00 年代のブラジルを見通すうえで節目の年になりそうである以上 Copyright 01 Institute for International Monetary Affairs( 公益財団法人国際通貨研究所 ) All rights reserved. Except for brief quotations embodied in articles and reviews, no part of this publication may be reproduced in any form or by any means, including photocopy, without permission from the Institute for International Monetary Affairs. Address: 3-, Nihombashi Hongokucho 1-Chome, Chuo-ku, Tokyo , Japan Telephone: , Facsimile: 東京都中央区日本橋本石町 1-3- 電話 : ( 代 ) ファックス : admin@iima.or.jp URL: 当資料は情報提供のみを目的として作成されたものであり何らかの行動を勧誘するものではありませんご利用に関してはすべてお客様御自身でご判断下さいますよう宜しくお願い申し上げます当資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますがその正確性を保証するものではありません内容は予告なしに変更することがありますので予めご了承下さいまた当資料は著作物であり著作権法により保護されております全文または一部を転載する場合は出所を明記してください 5

不透明感と船出したオブラドール・メキシコ新大統領

不透明感と船出したオブラドール・メキシコ新大統領 No.332 2018 年 12 月 25 日 1. 政治イベントこなし景気は堅調不透明感と船出したオブラドールメキシコ新大統領経済調査部上席研究員森川央 morikawa@iima.or.jp メキシコ経済は堅調な拡大が続いている 7-9 月期の実質成長率は 4-6 月期並みの前年比 2.5% となった産業別の寄与度をみると第 3 次産業が 2.1 ポイントと安定した寄与をし第 2 次産業も