循環器病の診断と治療に関するガイドライン (2011 年度合同研究班報告 ) 3. 非観血的検査 7 4. 血液生化学検査 観血的検査 リスク評価と院内および短期予後 リスク評価に基づいた治療指針 緊急入院と転院 初期治療 33 4.

Size: px
Start display at page:

Download "循環器病の診断と治療に関するガイドライン (2011 年度合同研究班報告 ) 3. 非観血的検査 7 4. 血液生化学検査 観血的検査 リスク評価と院内および短期予後 リスク評価に基づいた治療指針 緊急入院と転院 初期治療 33 4."

Transcription

1 循環器病の診断と治療に関するガイドライン (2011 年度合同研究班報告 ) 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン (2012 年改訂版 ) Guidelines for Management of Acute Coronary Syndrome without Persistent ST Segment Elevation(JCS 2012) 合同研究班参加学会 : 日本循環器学会, 日本冠疾患学会, 日本胸部外科学会, 日本集中治療医学会, 日本心血管インターベンション治療学会, 日本心臓血管外科学会, 日本心臓病学会 班長 木 村 剛 京都大学大学院医学研究科循環器内科学 班員 一 色 高 明 帝京大学医学部内科 大 野 貴 之 三井記念病院心臓血管外科 小 川 久 雄 熊本大学大学院生命科学研究部循環器内科学 木 村 一 雄 横浜市立大学附属市民総合医療センター心臓血管センター 坂 田 隆 造 京都大学医学部心臓血管外科 住 吉 徹 哉 榊原記念病院循環器内科 高 梨 秀一郎 榊原記念病院心臓血管外科 茅 野 眞 男 国立病院機構東京病院循環器科 筒 井 裕 之 北海道大学大学院医学研究科循環病態内科学 中 尾 浩 一 済生会熊本病院心臓血管センター 中 川 義 久 公益財団法人天理よろづ相談所病院循環器内科 中 村 正 人 東邦大学医療センター大橋病院循環器内科 野々木 宏 静岡県立総合病院 平 山 治 雄 名古屋第二赤十字病院循環器センター内科 幕 内 晴 朗 聖マリアンナ医科大学心臓血管外科 水 野 杏 一 日本医科大学内科学講座 ( 循環器 肝臓 老年総合病態部門 ) 光 藤 和 明 財団法人倉敷中央病院循環器内科 夜 久 均 京都府立医科大学大学院医学研究科心臓血管外科学 山 科 章 東京医科大学第二内科 協力員 浅 野 竜 太 榊原記念病院循環器内科 石 井 克 尚 関西電力病院循環器内科 石 原 正 治 国立循環器病研究センター心臓内科 海 北 幸 一 熊本大学大学院生命科学研究部循環器内科学 門 田 一 繁 財団法人倉敷中央病院循環器内科 小 菅 雅 美 横浜市立大学附属市民総合医療センター心臓血管センター 榊 原 守 北海道大学大学院医学研究科循環器病態内科学 上 妻 謙 帝京大学医学部内科 小 林 俊 也 聖マリアンナ医科大学心臓血管外科 白 木 裕 人 稲城市立病院循環器科 高 山 守 正 榊原記念病院循環器内科 寺 岡 邦 彦 東京医科大学八王子医療センター循環器内科 七 里 守 名古屋第二赤十字病院循環器内科 持 田 泰 行 日本赤十字社東京都支部大森赤十字病院循環器科 山 口 敦 司 自治医科大学附属さいたま医療センター心臓血管外科 外部評価委員赤 阪 隆 史 和歌山県立医科大学医学部循環器内科 川 副 浩 平 聖路加国際病院ハートセンター 代 田 浩 之 順天堂大学医学部循環器内科学 平 山 篤 志 日本大学医学部内科学講座循環器内科部門 山 崎 力 東京大学医学部附属病院臨床疫学システム講座 ( 構成員の所属は 2012 年 8 月現在 ) 目 ガイドラインの背景と目的 3 2. ガイドラインの対象 3 次 3. 本ガイドラインで使用した略語 病歴と身体所見 4 2. 鑑別すべき疾患 7 1

2 循環器病の診断と治療に関するガイドライン (2011 年度合同研究班報告 ) 3. 非観血的検査 7 4. 血液生化学検査 観血的検査 リスク評価と院内および短期予後 リスク評価に基づいた治療指針 緊急入院と転院 初期治療 薬物治療 薬物治療抵抗性狭心症 補助循環 血行再建治療 特殊な病態への対応 退院準備 退院後のモニタリングと検査 薬物治療と冠危険因子の管理 治療後の長期予後 ( 無断転載を禁ずる ) 改訂にあたって 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン 作成班は, 非 ST 上昇型急性冠症候群の診断, 治療に関する指針作成のため, 日本心臓病学会, 日本心血管インターベンション治療学会, 日本冠疾患学会, 日本胸部外科学会, 日本心臓血管外科学会, 日本集中治療医学会に協力を要請し, 指名された内科医, 外科医がガイドライン作成班に参加した. 英語, 日本語で発表された1990 年以降の研究論文についてコンピュータによる文献検索を2000 年に行い, 選択された論文を批判的に吟味し, エビデンスに基づいて指針を作成, クラス分けを行い2002 年に最初のガイドラインが作成された 年にガイドライン改定の要否が検討され, 部分改定を行うこととなり2006 年に改訂版作成班が発足した. 改訂版作成班は新たに 2006 年 3 月末までの新たな文献, エビデンスについて吟味し, 必要に応じて改訂を加えた. 主な改訂点には,CT,MRI による診断, 抗血小板薬, スタチンなどの新たな薬剤に関する記載, 薬剤溶出型ステントに関する記載, 早期侵襲的治療に関する記載が含まれる. なお, 作成班内における討議の結果で意見の一致をみた点についても指針として加えた 年に再度, ガイドライン改定の要否が検討され, 部分改定を行うこととなり 2011 年に改訂版作成班が発足した. 今回の改訂では2011 年 8 月末までの新たな文献, エビデンスについて吟味し, 必要に応じて改訂を加えた. この間の進歩が著しい非侵襲的診断法である冠動脈 CT, 抗血小板療法, 薬剤溶出型ステントなどを主な改訂点とした. また基本的な診断技術の重要性を強調し, 最も重要な診断法である心電図診断について詳細な記載を行った. 急性冠症候群が疑われる患者の初期診療においては, 1 回の評価で急性冠症候群を否定してしまうのではな く, 救急室に一定時間患者を留まらせることや緊急入院の閾値を低くすることの重要性を強調した. 原則としてガイドラインは,1) クラス分けした指針およびそのエビデンスレベル,2) ガイドラインの根拠と解説, の順で記載した. エビデンスと専門家の意見を集約した指針はクラス Ⅰ,Ⅱ,Ⅲの形で呈示した. クラスⅠ: 手技, 治療が有効, 有用であるというエビデンスがあるか, あるいは見解が広く一致しているクラスⅡ: 手技, 治療の有効性, 有用性に関するエビデンスあるいは見解が一致していないクラスⅡa: エビデンス, 見解から有用, 有効である可能性が高いクラスⅡa : エビデンスは不十分であるが, 手技, 治療が有効, 有用であることに我が国の専門医の見解が一致しているクラスⅡb: エビデンス, 見解から有用性, 有効性がそれほど確立されていないクラスⅢ: 手技, 治療が有効, 有用でなく, ときに有害であるというエビデンスがあるか, あるいは見解が広く一致しているエビデンスとなる臨床試験成績は不十分であるが, 我が国では広く専門家の意見が一致しているものは, クラスⅡa として指針に入れた. 我が国で未だ使用できない手技, 治療法, 治療薬で, 有効性, 有用性について十分なエビデンスがあるか, 見解が広く一致しているものについては, 指針解説の末尾に別途に記載した. また我が国の保険医療で認められていない適応や用法, 用量に 2

3 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン ついても解説の中で言及した. 各ガイドラインについてはエビデンスのレベル ( 以下レベル ) も明示した. 以下の3レベルに分類した. レベルA: 400 例以上の症例を対象とした複数の多施設無作為介入臨床試験で実証された, あるいはメタ解析で実証されたものレベルB: 400 例以下の症例を対象とした多施設無作為介入臨床試験, 良くデザインされた比較検討試験, 大規模コホート試験などで実証されたものレベルC: 無作為介入試験はないが, 専門医の意見が一致したもの本ガイドライン改訂版は外部評価委員による評価を受 けた, 日本循環器学会および合同研究班参加学会の承認を得て, 日本循環器学会のインターネット版でホームページ上にのみ公表される. 改訂版のダイジェスト版は作成されない. 本ガイドラインは多くの臨床試験のエビデンスに基づいているが, ほとんどの優れた臨床比較試験は欧米人を対象として行われたものである. また特定の限定された患者群を対象としたものであり, 我が国の日常診療で遭遇する臨床例と異なる可能性を否定できない. またこの分野は新たな知見により病態, 診断, 治療に関する知識が急速に変化しつつある点も忘れてはならない. したがって, 明らかに変更すべき点が生じた場合は年単位で改訂してホームページ上に示し, 原則として本ガイドライン発表 3 年毎に内容の全面的な見直し改訂が必要と考える. Ⅰ 総論 1 ガイドラインの背景と目的 循環器疾患の病態解明は急速に進歩しており, それに伴って治療法も大きく変化してきている. しかし最新の情報を主治医が逐次収集して自分の患者に速やかに適用していくことは容易ではない. そこで, 疾患の診断, 治療, 管理に関するデータを専門家が厳しく評価, 分析し, まとめた情報から指針を作成して公表することは, 我が国の医療レベルを向上させ, 患者の治療成績, 予後を改善することに大きく寄与するものと考えられる. 日本循環器学会は,1998 年から心臓血管系疾患の診断, 治療に関するガイドライン作成のために研究班を編成し, 関連学会と合同でガイドライン作成に取り組んできた. その一環として2000 年に 急性冠症候群の診療に関するガイドライン 作成班が発足した. 急性冠症候群は冠動脈粥腫破綻, 血栓形成を基盤として急性心筋虚血を呈する臨床症候群であるが, 急性心筋梗塞, 不安定狭心症から心臓急死までを包括する広範な疾患概念である. 急性心筋梗塞に関しては, 平成 11 年度厚生科学研究費補助金による医療技術評価総合研究事業 ( 主任研究者 : 上松瀬勝男日本大学教授 ) として 急性心筋梗塞の診療エビデンス集 EBMより作成したガイドライン が既に発表されている. したがって本合同研究班の対象は,STの持続的上昇を示さない非 ST 上昇型急性冠症候群である. 今回 2011 年の改訂にあたりガイドラインの名称を 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン に変更した. この病態における心筋虚血は, 破綻した粥腫と非閉塞性血栓による冠動脈狭窄が酸素供給減少の主因であり, また冠動脈トーヌスの亢進も酸素供給の減少の一因となり得る. 急性期治療の主な目的は, 急性心筋梗塞への移行防止と心筋虚血の軽減による短期的な予後の改善である. 本ガイドラインの目指すところは, 本疾患群の診断, 治療, 管理に関して一般に容認された方法をまとめ, 医師が臨床上の決定を行うのに役立つ診療指針を作成し, 根拠に基づく医療 (EBM: Evidence-Based Medicine) を推進することにある. 本ガイドラインは多くの状況下で, 種々の患者に対応し得る普遍的な診療指針を作成することを目指している. しかし, 個々の患者における最終判断は, 当該患者の状況を最もよく知る担当医師と患者の双方により総合的に下されるべきもので, 本診療ガイドラインはそれを支援するものである. 2 ガイドラインの対象 本ガイドラインは, 急性冠症候群のうち, 心電図 ST の持続的上昇を認めない非 ST 上昇型急性冠症候群の成人患者, あるいはその疑いのある患者を対象とする. 急性期の診断, 短期的ならびに長期的なリスク評価, 急性 3

4 循環器病の診断と治療に関するガイドライン (2011 年度合同研究班報告 ) 期不安定期の治療, 安定後の亜急性期治療などが本ガイドラインの対象範囲であり, 病態安定後の慢性期の患者は本ガイドラインの対象ではない. 急性冠症候群の疑いがある患者も, 評価の結果により虚血性心疾患である可能性が低く, 非心臓性の原因が考えられる場合はガイドラインの対象外となる. 持続性のST 上昇を示す急性心筋梗塞患者は対象外である. 前述の 急性心筋梗塞の診療エビデンス集 EBMより作成したガイドライン を参照されたい (2006 年から高野照夫日本医科大学教授を班長とする 急性心筋梗塞の診療ガイドライン 作成班により改訂作業が始まっている ). しかし, 急性心筋梗塞後に狭心症発作を有する患者は本ガイドラインの対象とする. 安定労作狭心症は対象外であるが, 急性冠症候群が疑われるが入院治療の必要がないと考えられる低リスク例は, 安定狭心症との区別がしばしば困難であり, このような患者は本ガイドラインの範囲に含めた. 冠動脈血行再建法としてのPCI とCABG の選択については, 別のガイドラインとして日本循環器学会 安定冠動脈疾患における待機的 PCI のガイドライン ならびに 虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン があり, 本ガイドラインにおける取り扱いは最小限にとどめた. 3 本ガイドラインで使用した略語 本文中に用いられる略語は以下の通りである. ACC: American College of Cardiology AHA: American Heart Association BMS: bare-metal stent CABG: coronary artery bypass grafting CCU: coronary care unit CT: computer tomography DES: drug-eluting stent DAPT: dual anti-platelet therapy MACE: major adverse cardiac event MDCT: multi-detector computed tomography MRI: magnetic resonance imaging PCI: percutaneous coronary intervention QOL: quality of life Ⅱ 診断およびリスク評価 1 病歴と身体所見 1 病歴 急性冠症候群を疑う患者においては詳細な病歴聴取が非常に大切である. 特に胸痛の部位, 性質, 誘因, 持続時間, 経時的変化, 消失, 随伴症状などに注意する. 胸痛だけでなく, 既往歴, 冠危険因子や家族歴についても聴取する. 1 胸痛急性冠症候群における胸痛の性質は, 重苦しい, 圧迫される, 締め付けられる, 息がつまる, 焼けるようなという表現が多く, 痛みというより不快感として訴えることもある. 刺されるような痛みやチクチクする痛み, 触って痛むものは狭心痛ではないことが多く, 呼吸や咳, 体位変換の影響を受けない. しかしながら非定型的な症状や非常に軽微な症状が重篤な急性冠症候群の表現形であることもまれではなく, 症状の性状のみからの判断で急性冠症候群を除外してはならない. 1 胸痛の部位は前胸部, 胸骨後部が多く, 放散痛は下顎, 頸部, 左肩ないし両肩, 左腕, 心窩部に出現する. 2 胸痛の持続時間は数分程度が多く, 長くても15~20 分である.30 分以上持続する場合は重症の急性冠症候群を考える. 胸痛の持続が20 秒以下のときは狭心痛の可能性は低くなる. 3 胸痛の誘因としては急ぎ, 昇段, 重いものを持つなどの労作中のみでなく, 安静時にも出現する. 精神的興奮や食事でも起こる. 早朝は胸痛の閾値が低く, 発作が出現しやすい. 安静狭心症では夜間睡眠中に起こることが多い. 4 胸痛の経時的変化から安静時狭心症, 新規発症型狭心症, 増悪型狭心症かを区別する. 5 胸痛が安静およびニトログリセリンで1~5 分で消失する場合は狭心症のことが多い. 症状の消失に10 分以上かかる場合には, 非心臓性胸痛か, 逆に重症の急性冠症候群を考えなければならない. 6 随伴症状として呼吸困難, めまい, 意識消失, 吐き気, 嘔吐, 冷汗を伴うときは重症であり, 心筋梗塞を考慮しなければならない. 発熱を伴うときは肺炎, 胸膜炎, 4

5 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン 心膜炎などを考慮する. 7 虚血性心疾患の明らかな既往があり, その症状に類似するか, より症状が強い場合は急性冠症候群の可能性が高い. 2 既往歴同様の症状は過去にないか, 心筋梗塞の既往や冠動脈造影を受けたことはないか, 脳血管障害, 末梢血管疾患はないか, 他医の診断, 治療は受けていないか, などを聴取する. 3 家族歴親, 兄弟に心臓病はいないか. 若年発症の冠動脈疾患の家族歴は重要である. 家系内に突然死, 急死はないか, その死因は何かなどを聴取する. 4 冠危険因子 3つ以上の危険因子 ( 年齢, 男性, 喫煙, 高脂血症, 糖尿病, 高血圧 ) がある場合は可能性が高くなる. 2 身体所見 急性冠症候群では身体所見が必ずしも診断確定に有用ではないが, 注意深い診察が虚血性心疾患に伴う合併症の発見, 胸痛を起こす他疾患との鑑別に役立つ. 以下の項目は特に確認が必要. 1 顔色と意識 : 苦悶様かどうか, チアノーゼ, 冷汗, 質問への応答, 精神状態. 2 血圧 : ショック状態, 血圧上昇, 血圧の左右差. 3 脈拍 : 徐脈, 頻脈, 脈不整, 脈の大きさ, 緊張度, 四肢の脈の触知 ( 緊急カテーテルなど動脈アクセスの確保のためにも重要 ). 4 呼吸 : 呼吸数, 呼吸の深さ, 速さ, 呼吸が楽な体位, 湿性ラ音, 特に背側面の湿性ラ音. 5 心音, 心雑音 :Ⅲ 音,Ⅳ 音,Ⅱ 音の奇異性分裂,Ⅱ p の亢進, 収縮期雑音, 拡張期雑音. 特に乳頭筋不全症候群を示す僧帽弁逆流雑音の有無は重要. 6 頸部 : 頸静脈の怒張, 頸動脈の血管雑音, 甲状腺腫. 7 末梢循環と皮膚 : 眼瞼結膜, 上肢, 下肢, 手指の色, 温かさ, チアノーゼの有無, 下肢, 臀部の浮腫. 8 腹部と鼠径部 : 拍動性腫瘤 ( 大動脈瘤 ), 血管雑音, 肝腫大の有無, 腸蠕動音. 急性冠症候群の身体所見には, 胸部所見, 聴診所見, 脈拍数や血圧などを含めても特異的なものはない. 胸痛がおさまると消失するⅢ 音 Ⅳ 音または奔馬調律, 両肺 野のラ音などは発作中の左室収縮能の低下を反映する. また消長する僧帽弁逆流雑音は乳頭筋機能不全を示唆している. 高血圧, 黄色腫, アキレス腱の肥厚などは冠動脈疾患の危険因子の存在を示しており, 頸動脈や大腿動脈の雑音, 足背動脈の脈拍減弱などは非冠動脈性ではあるが粥状硬化症の存在を示唆している. 大動脈弁狭窄症でも狭心症と同様の症状が見られることがあり, 収縮期雑音も必ず確認する. 虚血性心疾患を疑わせる胸部症状を有し, 頻脈, 収縮期血圧の低下, 肺野の湿性ラ音のある患者は入院 72 時間以内の致死的合併症の発生率が高く, 十分に注意する必要がある. 3 病歴と身体所見からみたリスク評価 我が国では不安定狭心症の分類として旧来から新規労作, 増悪型労作, 新規安静の3 型とする1975 年のAHA の分類 ( 表 1) が使用されてきた 1). しかし, 狭心症発作の様式からのみでは予後判定は困難であり,1989 年に, 重症度, 臨床像, 治療の状況を加味してBraunwald が新しい分類 ( 表 2) を提唱した 2). この分類は予後の予測に有用であり, 治療戦略の決定に寄与するとの報告が多数ある 3),4). さらに,Ahmedらはこの分類が冠動脈造影所見ともよく一致していることを報告している 5). 我が国でもこの分類を使用することが一般的になっている. それを展開して, 急性冠症候群の可能性を3 段階に評価する方法がAHA/ACC2002 年のガイドラインに示されている. また, 不安定狭心症患者の死亡あるいは非致死的心筋梗塞発症の短期リスクの把握については, The Agency for Health Care Policy and Research (AHCPR) による不安定狭心症の診断 治療に関するガイドライン 6) に示されていたが, こちらもAHA/ ACC2007 年のガイドラインで改定された ( 表 3) 7). 非 ST 上昇急性冠症候群のリスク評価についていくつかの報告がある. しばしば用いられているTIMI リスク 表 1 不安定狭心症の分類 (AHA,1975 年 ) Type Ⅰ 新規労作狭心症 (new angina of effort) 新たに発生した労作狭心症, あるいは少なくとも 6 か月以上発作のなかったものが再発したもの. Type Ⅱ 増悪型労作狭心症 (angina of effort with changing pattern) 労作狭心症の発作の頻度の増加, 持続時間の延長, 疼痛および放散痛の増強, 軽度の労作でも生じやすく, ニトログリセリン舌下錠の効果が悪くなったもの. Type Ⅲ 新規安静狭心症 (new angina at rest) 安静時に発作を生じ,15 分以上持続しニトログリセリンに反応しにくい場合であり,ST 上昇ないし下降,T 波の陰転を認めるもの. 5

6 循環器病の診断と治療に関するガイドライン (2011 年度合同研究班報告 ) 表 2 不安定狭心症の分類 (Braunwald,1989) 重症度 Class Ⅰ: 新規発症の重症または増悪型狭心症 最近 2 か月以内に発症した狭心症 1 日に 3 回以上発作が頻発するか, 軽労作にても発作が起きる増悪型労作狭心症. 安静狭心症は認めない. ClassⅡ: 亜急性安静狭心症 最近 1 か月以内に 1 回以上の安静狭心症があるが, 48 時間以内に発作を認めない. Class Ⅲ: 急性安静狭心症 48 時間以内に 1 回以上の安静時発作を認める. 臨床状況 Class A: 2 次性不安定狭心症 ( 貧血, 発熱, 低血圧, 頻脈などの心外因子により出現 ) Class B: 1 次性不安定狭心症 (Class A に示すような心外因子のないもの ) Class C: 梗塞後不安定狭心症 ( 心筋梗塞発症後 2 週間以内の不安定狭心症 ) 治療状況 1) 未治療もしくは最小限の狭心症治療中 2) 一般的な安定狭心症の治療中 ( 通常量の β 遮断薬, 長時間持続硝酸薬,Ca 拮抗薬 ) 3) ニトログリセリン静注を含む最大限の抗狭心症薬による治療中 スコアは,1 年齢 (65 歳以上 ),2 三つ以上の冠危険因子 ( 家族歴, 高血圧, 高脂血症, 糖尿病, 喫煙 ),3 既知の冠動脈有意 (>50%) 狭窄,4 心電図における 0.5mm 以上のST 偏位の存在,524 時間以内に2 回以上の狭心症状の存在,67 日間以内のアスピリンの服用, 7 心筋障害マーカーの上昇, の要素によって算出される. 2 週間以内の主要心血管合併症発生頻度はスコアが増加するごとに相乗的に高くなる 8).PURSUIT 試験 9) では 20 項目以上の予後予測因子が認められたが, 最も重要な因子は,1 年齢,2 心拍数,3 過去 6 週間における狭心症のうち最も重症のCCS 分類程度,4 収縮期血圧, 5ST 低下の存在,6 心不全の所見であり 30 日間のイベント発症率はこれらの要因の有無から推定できると報告している. このように急性冠症候群の診断あるいは重症度評価, 予後予測は, 病歴, 簡単な診察および検査から得られるものであり, 正確な病歴, 身体所見の把握が重要である. しかし, 急性冠症候群においては非定型的な症状も稀ではなく, 無症状のこともある.43 万人あまりの急性心筋梗塞を登録した米国の研究では, 急性心筋梗塞の 評価項目 病歴 表 3 急性冠症候群 ( 非 ST 上昇型急性心筋梗塞, 不安定狭心症 ) における短期リスク評価 高リスク ( 少なくとも下記項目のうち 1 つが存在する場合 ) 先行する 48 時間中に急激に進行している 中等度リスク ( 高リスクの所見がなく, 少なくとも下項目のうちどれか 1 つが存在する場合 ) 心筋梗塞, 末梢血管疾患, 脳血管障害, 冠動脈バイパス手術の既往 アスピリン服用歴 胸痛の特徴 安静時胸痛の遷延性持続 (>20 分 ) 遷延性 (>20 分 ) 安静時狭心症があ ったが現在は消退しており, 冠動脈 疾患の可能性が中等度 ~ 高度である 夜間狭心症 安静時狭心症 (<20 分または安静か ニトログリセリン舌下により寛解 ) 安静時狭心症 (>20 分 ) はなく過去 2 週間に CCSクラス Ⅲまたは Ⅳの狭心症 の新規発症または増悪があり, 冠動脈 疾患の可能性が中等度 ~ 高度である 臨床所見 おそらく虚血と関連する肺水腫 年齢 >70 歳 新規または増悪する僧帽弁逆流音 Ⅲ 音または新規または増悪するラ音 低血圧, 徐脈, 頻脈 年齢 >75 歳 心電図 心筋マーカー 一過性の ST 変化 (> 0.05mV) を伴う安静時狭心症 新規または新規と思われる脚ブロック 持続性心室頻拍 心筋トロポニン T(TnT),I(TnI) の上昇 (>0.1ng/mL), または CK-MB の上昇 T 波の変化 異常 Q 波または安静時心電図で多くの誘導 ( 前胸部, 下壁, 側壁誘導 ) におけるST 下降 (<0.1mV) TnT,TnI の軽度上昇 (0.01~0.1ng/ ml),ck-mb の上昇 低リスク ( 高あるいは中等度リスクの所見がなく, 下記項目のどれかが存在する場合 ) 持続時間, 頻度, 強度が増悪している狭心症 より低い閾値で生じる狭心症 過去 2 週間 ~ 2 か月以内の新規発症の狭心症 正常または変化なし 正常 ACC/AHA2007 ガイドラインより引用改変 ACC/AHA 2007 Guidelines for the management of patients with unstable angina/non-st-segment elevation myocardial infarction. Circulation 2007; 116: e148-e304. 6

7 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン 33% は来院時に胸痛がなく, 無胸痛群は胸痛群と比べて, 高齢 (74 歳 vs 67 歳 ), 女性 (49% vs 38%), 糖尿病 (33% vs 25%), 心不全の既往 (26% vs 12%) のある患者で多い 10). 胸痛を伴わない急性心筋梗塞患者は病院受診までの時間も長く, 診断も遅れやすく, 適切な治療, 再灌流療法の施行率も低いため院内死亡率も2.21 倍と高く, 注意が必要である. 2 鑑別すべき疾患 病歴ならびに身体所見から急性冠症候群とその他の疾患を鑑別しなければならない. 特に注意が必要なものとして1) 胸痛発作を伴う例,2) 心電図異常が見られる例がある. また鑑別すべきものとして3) 胸痛に類似した症状を呈する疾患,4) 心筋虚血を誘発する病態がある. 問診により, 胸痛が起こる状況や胸痛の放散部位を詳細に聴取することは重要である. 感冒様症状や発熱などその他の臨床症状により鑑別診断が容易になることもある. 心電図検査, 胸部 X 線写真, 血液生化学検査は鑑別診断には必須である. また心エコー図検査は有用である. さらに確定診断にはCT,MRI, 肺血流シンチグラム, 冠動脈造影まで必要なことも多い. 急性冠症候群と鑑別する必要のある疾患 ( 胸痛発作を伴う患者あるいは心電図異常が見られる患者 ) には以下が挙げられる. 1 冠動脈疾患 : 労作狭心症 2 心筋疾患 : 急性心筋炎, 肥大型心筋症, 拡張型心筋症, たこつぼ型心筋症 3 心膜疾患 : 急性心膜炎 4 大動脈疾患 : 急性大動脈解離, 大動脈瘤破裂 ( 急性大動脈症候群 ) 5 弁膜疾患 : 大動脈弁狭窄症 6 肺疾患 : 肺血栓塞栓症, 胸膜炎, 気胸, 肺炎 7 消化器疾患 : 急性腹症 ( 急性膵炎, 胆石症, 胃十二指腸潰瘍穿孔など ) 8 皮膚骨格疾患 : 帯状疱疹, 肋間神経痛, 肋骨骨折 9 脳血管障害 : クモ膜下出血 10 心因性 : 心臓神経症, パニック障害, そのほか急性冠症候群の鑑別診断においては特に重篤な疾患を見逃さないことが重要であり, その意味で肺血栓塞栓症ならびに急性大動脈症候群が最も重要である. その他に急性冠症候群と鑑別する必要のある心筋虚血を誘発する病態としては,1) 酸素需要を増加させる疾 患,2) 酸素供給を減少させる疾患なども挙げられる. 冠動脈疾患がなくてもこれらの病態に陥ると, 狭心症と同様の症状が出現するようになるので注意が必要である. また, 安定狭心症もこれらの病態を合併すると発作を生じやすくなり, 不安定狭心症の状態となる. 1 酸素需要を増加させる疾患 : 高体温, 甲状腺機能亢進症, 管理不良の高血圧症, 持続性頻拍 ( 上室性, 心室性 ) 2 酸素供給を減少させる疾患 : 貧血, 肺疾患, 血液粘度の増加 3 非観血的検査 1 胸部 X 線検査と心電図検査 1 胸部 X 線 クラスⅠ 1. 心臓疾患 ( うっ血性心不全, 心臓弁膜症, 虚血性心疾患 ) および心膜疾患, または大動脈疾患 ( 解離性大動脈瘤 ) の徴候 症状のある患者で胸部 X 線検査を行う.( レベルB) クラスⅡa 1. 肺 胸膜疾患および縦隔疾患の徴候 症状のある患者で胸部 X 線検査を行う.( レベルB) クラスⅡb 1. すべての胸痛患者で胸部 X 線検査を行う.( レベル C) 急性冠症候群の診断における胸部 X 線検査は, 鑑別診断と重症度評価の上で重要と考えられる. 心拡大, 肺うっ血, 肺水腫, 胸水の有無を客観的に評価する上で胸部単純 X 線検査は重要である. 心拡大は, 心筋梗塞既往, 急性左心不全, 心膜液貯留, 大動脈弁または僧帽弁閉鎖不全に伴う左室容量負荷が存在することを示す. 鑑別診断の対象には胸痛を来たす疾患すべてが含まれる. 胸部 X 線検査は, 肋骨疾患, 肺 胸膜疾患, 縦隔疾患, 心臓および心膜疾患, 肺 体血管疾患の形態的診断には有用である. 特に, 診断確定に急を要する重要な鑑別疾患としては, 急性大動脈症候群 と 急性肺血栓塞栓症 がある. 上行大動脈解離では冠動脈を巻き込んで急性心筋梗塞を合併することもあり, 診断に苦慮する場合も多い. したがって, 胸部 X 線検査で上縦隔陰影の拡大, 二重陰影, 大動脈壁内膜石灰化の偏位を認める場合は 急性大動脈症候群 を疑い, 超音波検査, 造影 CT 検査, 造影 MRI 検査を施行して鑑別する必要がある. また, 7

8 循環器病の診断と治療に関するガイドライン (2011 年度合同研究班報告 ) 肺動脈の途絶, 遮断, 区域性乏血が認められた場合は, 急性肺血栓塞栓症 を疑い, 超音波検査, 造影 CT 検査などを行う必要がある. また呼吸困難や低酸素血症を認めるにもかかわらず胸部 X 線写真で異常所見を認めない場合にも 急性肺塞栓症 を疑う. 胸部 X 線写真を評価する際には, 常に撮影体位や撮影条件について確認する必要がある. 救急患者や重症例ではポータブル撮影, 特に臥位で撮影されることが多く, 十分な吸気止めもできないことが多い. このような条件下では胸部 X 線写真所見は過小あるいは過大評価される可能性があることを念頭に置く. 2 安静時心電図検査クラスI 1. 胸部症状を訴える患者や他の症状でも急性冠症候群が疑われる患者ではただちに (10 分以内に )12 誘導心電図を記録する.( レベルB) また受診時に症状がない患者でも病歴から急性冠症候群が疑われる場合には速やかに12 誘導心電図を記録する.( レベルC) 2. 初回心電図で診断できない場合でも症状が持続し急性冠症候群が強く疑われる患者には経時的に (15 ~30 分ごとに )12 誘導心電図を記録する.( レベル B) クラス IIa 1. 胸部症状を認めるすべての患者で12 誘導心電図を記録する.( レベルC) 2. 急性冠症候群が疑われる患者に病院収容前に救急車内で12 誘導心電図を記録する.( レベルB) 3.12 誘導心電図で診断できない場合に急性後壁梗塞を除外するために背側部誘導 (V7-9 誘導 ) を記録する.( レベルB) 1) 心電図検査の意義急性冠症候群では発症早期の的確な診断が重要である. 各種画像診断が飛躍的に進歩した現在においても, 心電図は非侵襲的で普遍性のある簡便な検査法であり診断の基本であることに変わりはない. 心電図は診断のみならず重症度評価, 治療方針の決定に中心的役割を担い, また予後予測に重要な情報を提供する 1). ただし, 心電図に異常がないという理由で急性冠症候群の可能性を否定することはできない.1 枚の心電図診断には限界がある. 診断には来院時の心電図所見とその推移が重要である. 発症から極めて早期の場合には, 胸痛があっても心電図変化がまだ出現していない場合や, 非発作時には心電図が正常な場合も少なくない 10). したがって, 本症が 疑われる場合は一回の心電図検査だけで判断せず,15 ~30 分程度の間隔で, 時間を置いて繰り返し記録すること, 比較することが重要である. ニトログリセリン投与前後の心電図を比較するのも有用である. また, その患者の以前に記録された心電図が入手可能な場合, 比較することによって診断の精度は大きく上昇する. 一見, 心電図に異常がないようでも以前の心電図と比べると変化を認めたり, 受診時の精神的緊張や検査室への歩行など軽度の負荷で陰転したT 波が陽転化し, 正常と間違われることもある. またプレホスピタルでの12 誘導心電図の記録は, 現場および病院内でのより早い診断 治療を可能にする. また, 病院到着時には既に症状が軽減あるいは消失している例もあり, 救急外来の心電図と比較することで診断精度はより向上する. 実際には, 急性冠症候群を疑わせる胸痛を有する患者が来院した場合は, ただちに12 誘導心電図を記録し, ST-T 変化,Q 波あるいは陰性 U 波の有無をチェックする. 隣接する2 誘導以上における0.1mV 以上のST 上昇は, 通常 ST 上昇型心筋梗塞を示唆する所見であり, 再灌流療法の適応を検討する.ST 部分の低下が認められる患者では, 不安定狭心症か, あるいは非 ST 上昇型心筋梗塞の可能性が考えられるが, 最終的に両者の鑑別は, 心筋障害の生化学的マーカーが検出されるか否かによる.Ⅲ 誘導における孤立性の Q 波やV1 V2 誘導におけるQS パターンは正常例でも認められ, 他の所見を参考にする必要がある. ただし, 胸痛を訴えている患者の心電図所見が完全に正常であっても急性冠症候群の可能性を否定はできない. そのような患者の1~6% は急性心筋梗塞 ( 定義上, 非 ST 上昇型心筋梗塞 ) であり,4% 以上が不安定狭心症であることが報告されている. 2) 心筋虚血の心電図所見 1ST 変化 ST 変化は心筋虚血の心電図変化の中で最も重要な所見である. 非貫璧性 ( 心内膜下 ) 虚血の場合はST 下降を, 貫壁性虚血の場合はST 上昇と対側の誘導でST 下降 ( 対側性変化 :reciprocal change) を認める. ST 上昇 ST 上昇の存在は再灌流療法の施行を決定する重要な所見である.12 誘導心電図でST 上昇を認めない場合に見逃してならないのが左回旋枝閉塞による純後壁梗塞である.12 誘導心電図では左室後壁に面する誘導がないため後壁梗塞の診断が難しい.12 誘導心電図に加え, 背側部誘導 (V7-9 誘導 :V7-9 誘導はV4 誘導と同じ高さで,V7 誘導は後腋下線との交点,V8 誘導は左肩甲骨中線との交点,V9 誘導は脊椎左縁との交点に付ける ) 8

9 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン を記録することで左室後壁の虚血診断が可能となる 2) ( 図 1). 正常では背側部誘導で1mm 以上のST 上昇を認めるのは1% 以下とされている 3). 急性心筋梗塞患者の約 3 ~4% は背側部誘導でのみST 上昇を認めるとされ, 背側部誘導のST 上昇を認めればST 上昇型急性心筋梗塞症として再灌流療法の適応となる 4). 診断, 治療を誤らないためにも背側部誘導の記録が推奨される. ST 下降入院時 ST 下降は, その程度がたとえ軽度 (0.05mV) であっても予後不良の強力な予測因子とされている 5)-11). 一般的に,ST 下降は虚血責任冠動脈にかかわらずV4-6 誘導を中心に認めるため,ST 上昇とは異なり ST 下降から虚血の部位診断をするのは難しい. しかし, ST 下降が高度なほど,ST 下降を認める誘導数が多いほど, 高度な虚血を反映し予後は不良である. このようなハイリスク例では早期侵襲的治療を選択することによる予後改善効果が大きいことが示されている 7),8). また. 症状出現 9) や薬物治療開始後 10) 6 時間以上経過しても ST 下降が遷延する例は重症冠動脈病変が高率で予後不良であると報告されている.ST 下降の有無だけでなく, その程度 範囲 時間的な変化も考慮することでさらなるリスク評価が可能となる. 非 ST 上昇型 急性冠症候群の定義は, 心電図で ST 上昇を認めないことである. しかし, これにはaVR 誘導が考慮されていない. 左主幹部や多枝病変の重症冠動脈病変例の診断には,aVR 誘導のST 上昇が有用で, avr 誘導のST 上昇は他の誘導のST 下降よりも強力な予後不良の予測因子であることが報告されている 12)-18). avr 誘導は右肩の方向から左室内腔を覗き込む誘導であり, 左室心内膜側の非貫壁性虚血を反映する 19) ( 図 2) 20). 左主幹部や多枝病変例では左室心内膜側に広範に虚血を生じ, これは12 誘導心電図には広範なST 下降として反映される一方で,aVR 誘導には直接 ST 上昇として反映される ( 図 3). 心電図は,aVR 誘導を除いた 11 誘導で診断されることが多いが,aVR 誘導も含めた 12 誘導 で診断することにより, その有用性を最大限に発揮できる. 前胸部誘導で ST 下降を認める場合に, それが対側性変化によるもので実際にはST 上昇型急性心筋梗塞症のことがあり注意を要する. 急性下壁梗塞で肢誘導が低電位な例では,II,III,aVF 誘導のST 上昇が軽微で見落とされやすく, むしろ対側性変化としての前胸部誘導でのST 下降が目立つことがある. また純後壁梗塞の場合は12 誘導心電図ではST 上昇は認めず, 対側性変化としての前胸部誘導の ST 下降しか認めない. 心内膜下虚血によるST 下降は前述のようにV4-6 誘導を中心に認めるが, このような対側性変化としてのST 下降はV2-3 誘導を中心に認めるので, このST 下降パターンの違いが両者の鑑別に役立つ 21),22). 2T 波の変化 T 波の変化は重要である. 左右対称性のT 波の増高, 尖鋭化 (hyperacute T wave) は急性心筋梗塞の初期変化 図 1 背側部誘導 (V7-9 誘導 ) V7-9 誘導は V4 誘導と同じ高さで,V7 誘導は後腋下線との交点,V8 誘導は左肩甲骨中線との交点,V9 誘導は脊椎左縁との交点につける.( 文献 2:Am J Cardiol 1999; 83: 323 より改変引用 ) 9

10 循環器病の診断と治療に関するガイドライン (2011 年度合同研究班報告 ) 図 2 肢誘導と心臓の位置関係 ( 文献 20:Heart 2000; 83: 657 より改変引用 ) 肢誘導は,aVL 誘導,Ⅰ 誘導,- avr 誘導,Ⅱ 誘導,aVF 誘導,Ⅲ 誘導の順 (Cabrera sequence) に配列し直すと心臓との位置関係を反映し理解しやすくなる 19). avl 誘導は上位側壁,Ⅰ 誘導は下位側壁,Ⅱ 誘導は左側寄りの下壁,Ⅲ 誘導は右側寄りの下壁に面する.aVR 誘導は上下反転させると,Ⅰ 誘導と Ⅱ 誘導との間, つまり左室心尖部領域に面する誘導 (-avr 誘導 ) となる. avr 誘導は心臓と特殊な位置関係にあり, 非 ST 上昇型急性冠症候群の場合には右肩の方向から左室内腔を覗き込む誘導であり, 左室心内膜側の虚血を反映するとされている. でもあり, 経時的に心電図を取りながら典型的心筋梗塞の心電図へ変化して行くか否かを観察する. 同様の変化は冠攣縮性狭心症でも認められる場合があり, 鑑別を要する. 陰性 T 波は急性冠症候群においてはしばしば認められる所見であり, 心筋虚血領域の再分極の異常を反映していると考えられている.Haniesらは, 不安定狭心症において新たに陰性 T 波が出現した場合は, 重症冠動脈狭窄病変が存在すると報告している 23),24). 陰性 T 波を認める例の予後はST 下降を認める例に比べ良好とされているが 25), 陰性 T 波を広範に6 誘導以上で認める例は予後不良であることが報告されている 11),26). 一般的に貫壁性虚血発作ではSTが上昇した誘導で陰性 T 波が出現するので 27), 陰性 T 波からも虚血部位を診断できる. 前胸部誘導の陰性 T 波 : 不安定狭心症患者で前胸部誘導に陰性 T 波を認める例は左前下行枝病変が高率で, 特に陰性 T 波が持続する例では冠インターベンション後に左室前壁の壁運動異常が改善することが報告されてお り, 気絶心筋や交感神経の除神経との関連が示唆されている 28),29). 鑑別すべき疾患 : 前胸部誘導で陰性 T 波を認める場合に, 治療方針を決定する上でも鑑別すべき重要な疾患として, 急性肺塞栓症とたこつぼ型心筋症があげられる. 下記に3 者の代表例の心電図を提示し概説するが, 陰性 T 波の違いを明らかにするために肢誘導をCabrera sequence にした場合の心電図も示した 19),27).Cabrera sequence( 図 2) にすると肢誘導は心臓に面する順に配列し直され, 陰性 T 波が各疾患の病態を反映し異なる分布を示していることが理解でき鑑別診断に役立つ. 左前下行枝病変の急性冠症候群 : 陰性 T 波の分布は左前下行枝の灌流域を反映し, 前胸部誘導では前壁中隔に面するV2-4 誘導を中心に, 肢誘導では側壁誘導を中心に認める 30) ( 図 4). 急性肺塞栓症 : 右心負荷による心電図異常を示すのは重症例に限られ, その頻度は少ない. しかし心電図異常 10

11 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン 図 3 重症 3 枝病変例の心電図 入院時心電図では,Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ,aVF 誘導および V2-6 誘導で広範に ST 下降を認め,aVR 誘導で ST 上昇を認める. また QRS 幅の延長を認める. 冠動脈造影検査では, 右冠動脈近位部の完全閉塞, 左前下行枝近位部の 90% 狭窄, 左回旋枝近位部の 75% 狭窄を認めた. を示す場合には重症例であり, 軽度の心電図異常でも見落さないように注意する. 急性肺塞栓症の心電図所見として, 洞性頻脈, 右脚ブロック, 右軸偏位, 肺性 P 波, S 1 Q 3 T 3 パターン, 低電位, 時計方向回転などが知られているが 31),32), 最も高率かつ長期間にわたり認める心電図異常は前胸部誘導の陰性 T 波である. 陰性 T 波は急激な右室圧負荷と体血圧低下による右室の貫壁性虚血後の変化と推測される. 急激な右室圧負荷により右室は心尖部が挙上するような形で左方へと拡張し, 陰性 T 波を認める誘導に反映される. 右室拡張が高度になるほど, 陰性 T 波の分布は前胸部誘導ではV1 誘導からV6 誘導の方 向に, 肢誘導ではIII 誘導 avf 誘導 II 誘導の方向へと及ぶ 33). 急性肺塞栓症では, 陰性 T 波を右室下面に面するIII 誘導と右室前面に面するV1 誘導で高率に認めるのが特徴である34)( 図 5). たこつぼ型心筋症 : 心電図は, 心尖部を中心とした壁運動異常を反映し, 心尖部領域に面する-aVR 誘導を中心に変化する 30),35). 急性前壁梗塞でも再灌流後には ST 上昇を認めた前胸部誘導を中心に陰性 T 波を認める. しかし, たこつぼ型心筋症のほうがQT 延長を伴った深い陰性 T 波を, 心尖部さらには前壁, 下壁に面する誘導で広範に認め,1 本の冠動脈の支配領域では説明できないことが多い.-aVR 誘導の陰性 T 波は,12 誘導心電図では対側性変化としてaVR 誘導の陽性 T 波として反映され, たこつぼ型心筋症の特徴的な所見である. また一方で, 心室中隔上部 右室前面に面するV1 誘導では急性期に陰性 T 波を認めないことが多い 30) ( 図 6). 3QRS 波の変化心筋虚血によりPurkinje 線維,Purkinje 筋接合部, 心室筋線維の伝導速度は遅くなり,12 誘導心電図には QRS 幅の延長として反映される.QRS 幅の延長は,ST 偏位よりも鋭敏な心筋虚血の指標であり 36),37), 左主幹部や多枝病変の重症冠動脈病変例の診断にも有用であると報告されている 38) ( 図 3). 4U 波の変化陰性 U 波は虚血発作時や運動負荷試験時にしばしば認め, 高度虚血の存在を示唆する 39). 陰性 U 波は, 実験的には虚血部位に面した誘導で出現するとされ, 虚血部位の診断に有用である. しかし,U 波はT 波に続く小さな波であるために実際に認識できる頻度が高いのは前胸部誘導であり,V3-5 誘導を中心に認める陰性 U 波は左前下行枝病変による高度虚血を示唆する ( 図 7). ただし, 陰性 U 波は高血圧, 大動脈弁閉鎖不全症, 心房中隔欠損症, 心筋症など様々な疾患でも認めるため, 病歴や臨床所見などを考慮し診断する必要がある. また後壁虚血による陰性 U 波は, 対側性変化として前胸部誘導 (V2-4 誘導 ) に陽性 U 波の増高として反映される 40). 心電図で心筋虚血の診断が難しい場合心電図のST-T 部分は心筋虚血だけでなく, 心肥大, 心室内伝導障害, 心筋疾患, 電解質異常, ジギタリスなどの薬剤使用, 自律神経緊張など様々な病態で変化を認める. これらの変化と心筋虚血との鑑別はしばしば困難であり, 虚血に由来するかどうかの診断は病歴や臨床所見, 他の検査結果等とあわせて評価する. また以前の心電図との比較や時間経過による変化をみることで診断精 11

12 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2011 年度合同研究班報告 図4 急性冠症候群の心電図 左前下行枝近位部に 90 狭窄を認めた急性冠症候群の心電図 陰性 T 波は 前胸部誘導では V2-4 誘導を中心に 肢誘導で は上位側壁に面する avl 誘導で認める 陰性 T 波の分布は 虚血責任血管である左前下行枝の灌流域を反映すると考えら れる 図5 急性肺塞栓症の心電図 右心不全を合併した重症急性肺塞栓症の心電図 陰性 T 波は 前胸部誘導では V1-3 誘導を中心に V4 誘導まで認める 肢誘 導の陰性 T 波は 通常の配列だと連続性がなく分かりにくいが Cabrera sequence にするとⅢ誘導を中心に avf Ⅱ誘 導の下壁誘導で認めることが分かる 陰性 T 波を広範に認めるほど 右室拡張が高度であったと考えられる 12

13 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン 図6 たこつぼ型心筋症の心電図 発症 2 日後のたこつぼ型心筋症の心電図 QT 延長を伴った深い陰性 T 波を広範に認める 陰性 T 波は 前胸部誘導では V2-6 誘導で認めるが V1 誘導には認めない 肢誘導では 通常の配列だと分かりにくいが Cabrera sequence にすると avl 誘導以外のすべての誘導で認めていることが分かる avr 誘導の陽性 T 波は 上下を反転させると avr 誘導の陰性 T 波になる 陰性 T 波の分布と壁運動異常の拡がりとの関連が示唆される 図7 前胸部誘導の陰性 U 波 左前下行枝近位部に高度狭窄を有する例の発作時 左 と症状消失後 右 の心電図 発作時に V3-6 誘導で陰性 U 波 図 中矢印 を認める 13

14 循環器病の診断と治療に関するガイドライン (2011 年度合同研究班報告 ) 度は向上する. 急性心筋梗塞患者のうち, 約 7% が新規左脚ブロックを呈すると言われている. しかし, もともと脚ブロックを呈している例や心室ペーシング植込み患者が心筋梗塞を併発した場合には,ST-T 変化を含めた心電図診断が困難なことが多い. また左脚ブロックを呈する急性心筋梗塞患者の約半数は, 胸痛を認めないとの問題も報告されており, 診断が困難な場合も少なくない 41). このため, このような心電図異常が認められる場合には, 急性心筋梗塞を念頭に置きつつ, 臨床症状や心筋逸脱酵素の経時的変化をあわせて総合的に診断することが必要である. 3 運動負荷心電図検査クラスⅠ 1. 治療により症状が安定し運動負荷が可能な患者で, 運動負荷心電図検査を行う ( 負荷前よりST 変化のあるもの, 左脚ブロック, 左室肥大, 早期興奮症候群, ジギタリス投与時, ペーシング調律の患者を除く ).( レベルC) クラスⅢ 1. 病状が安定していない時期に運動負荷心電図検査を行う.( レベルA) 運動負荷心電図検査の適応には制限があり, 運動負荷が可能で, 検査により心筋虚血の判定が可能であることを確認する必要がある. 安静時心電図所見 (0.1mV 以上のST 下降, 完全左脚ブロック, 早期興奮 (WPW) 症候群, 心室ペーシングなど ) や投与中の薬剤 ( 特にジギタリス ) の影響で判定が難しい場合には運動負荷心電図以外の検査法を考慮する. また, すべての運動負荷試験は急性冠症候群が安定した後に行われるべきである. 検査を行う際には必ず病状が安定していて症状がないこと, また検査前の心電図に新たな虚血性変化がないこと ( 急性冠症候群では無症候性虚血発作を起こしている例もあるため ) を確認する必要がある. 近年のAHA のガイドラインでは, 低リスクあるいは中等度リスクの患者においては, 運動負荷試験が適応となる場合があるとされているが, 我が国では早期に冠動脈造影あるいは冠動脈 CTを施行されることが多く, 必ずしも実情にそぐわないと考えられる. 同症を疑う症例に対する運動負荷心電図検査の適応については他の診断法の可否など施設の特性も含めて検討した上で慎重に判断すべきである 42)-44). 早期侵襲的治療が選択された場合の運動負荷心電図検査の意義は主として, 急性冠症候群責任病変治療後の残存虚血評価となる. 多枝疾患において,PCI の標的病変を 適切に選択することは予後に影響を及ぼすと報告されており, 急性冠症候群責任病変治療後の残存虚血評価は重要である. 虚血評価に基づいて急性冠症候群責任病変以外の残存病変に対して,PCI あるいはCABG の適応を検討することが重要である 45). 2 心エコー図検査 クラスⅠ 1. 急性冠症候群の患者に心エコー図検査を行う.( レベルB) 2. 治療により安定した急性冠症候群の患者で, 心電図による評価が困難な患者に運動負荷あるいは薬剤負荷心エコー図検査を行う.( レベルB) クラスⅡa 1. 胸部症状が存在するとき, 心電図で異常が明らかでない急性冠症候群の疑いのある患者に心エコー図検査を行う.( レベルB) 2. 急性冠症候群が明らかで冠動脈造影と左室造影を行う予定がない患者において左室機能を評価するために心エコー図検査を行う.( レベルB) 胸痛を訴え, 救急外来を受診する患者の診断とリスクの層別化にベッドサイドの心エコー図検査は有用である. 心エコー図検査は胸痛患者の診療において救急室で繰り返し施行でき, しかもその場で診断できる利点がある. 心エコー図検査を用いた急性冠症候群の診断として, 1) 責任冠動脈病変の診断,2) 心筋虚血範囲と程度の同定,3) 左室機能の評価が可能である. また, 心筋虚血以外の胸痛疾患, すなわち1) 急性解離性大動脈瘤,2) 急性肺血栓塞栓症,3) 心外膜炎,4) 大動脈弁狭窄症,5) 肥大型心筋症などの鑑別にも非常に有益である. 1 心エコー図法を用いた胸痛患者のトリアージ急性冠症候群では冠動脈病変の著しい狭窄のため胸部症状 ( 胸痛, 胸部絞扼感など ), 心電図変化が出現する. 注意深い病歴の聴取および心電図の経時的変化により診断がつけられることが多いが, 病歴や心電図変化が明らかでない場合には, 胸部症状の出現時に心エコー図検査により左室壁運動異常が観察され, かつ胸部症状が改善した後に壁運動異常が消失するような可逆的変化をとらえられれば急性心筋虚血と診断できる. その壁運動異常の出現部位や範囲から責任冠動脈の推察が可能である 46),50).Horowitzらの心エコー図検査を用いた胸痛患者の研究では, 臨床的に心筋梗塞と診断し得た患者群において左室局所壁運動異常から見た診断感度は94%, 14

15 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン 特異度 84% であったが, 発症早期の心電図では 45%, 血液マーカ (CK-MB) では 52% であったと報告してい る 51). また Sabia らは胸痛患者において明らかな壁運動 異常を認めない群では入院率, 入院期間および入院費をそれぞれ32%,23%,24% 減少させたと報告している 52). さらに持続する胸痛を訴え心電図変化が典型的でない患者の鑑別として左室壁運動スコア (wall motion score index: WMSI) を算出して評価することができる. WMSI が1.7を超える症例では心筋灌流異常が 20% 以上であり, 再還流療法後に左室収縮運動が改善しても心筋梗塞再発作, 心不全, 重篤な不整脈などの合併症が高率であることが報告されている 53)-55). 不安定狭心症で入院した患者に対する72 時間以内の心エコー図検査において, 左室壁運動スコア (WMSI). 駆出率. 僧帽弁逆流を指標に用い. この3 指標が一定の基準を上回り正常と判断されれば. 入院中の心事故発症率は陰性予測値が100% と判断できると報告されている 56). 2 負荷心エコー図法 胸痛患者の鑑別方法として救急室での数時間の観察期間後に, 運動負荷心エコー図法 46),57)-60) やドブタミン 61) およびジピリダモール 62) 負荷心エコー図法を用いたアルゴリズムの有用性が報告されている.Gibler らは運動負荷心エコー図を用いたアルゴリズムにより救急室を受診した患者の82.1% が安全に帰宅し得たと報告している 57). またBholasingh らは救急室を受診した低リスク胸痛患者で, 心電図変化が典型的でなくトロポニンT 陰性患者を対象にドブタミン負荷心エコーの有用性を検討し, ドブタミン負荷心エコー陰性症例では有意にその後の心血管イベント発生率が低いことを報告している 61). いずれの報告においても救急室での負荷心エコー図法の簡便さ, 安全性そして非常に高い陰性適中率が示されている 49),57)-65). さらにContiらは救急室での負荷心エコー図検査は負荷心筋シンチグラフィーと同等の予後診断能であることを報告している 59). 救急室を受診する患者で, すでに冠動脈病変を有し負荷心エコー図検査陽性の場合はCCU に入院させることが必要である. この負荷心エコー図法を用いたアルゴリズムに関しては,3 か国,6 施設で500 名以上の患者を用いたSPEED トライアルにおいて, 救急室における負荷心エコー図法の陰性適中率は 99% でありその安全性と有用性が証明されている 62). 3 心筋コントラストエコー図法 心筋梗塞に陥った領域は心筋細胞とともに冠微小循環系も障害を受け, 心筋血流が減少する. これは主に, 冠 血管床の減少による心筋血液量の低下によるものであり, 心筋コントラストエコー法を用いることにより心筋染影性の低下あるいはコントラスト欠損として描出される 66).Kangらは心電図上, 明らかなST 上昇や異常 Q 波を伴わない労作性もしくは安静時胸痛を訴える患者に心筋コントラストエコー法を用いた急性心筋梗塞の診断感度は93%, 特異度 63% であり, 不安定狭心症の診断感度は59% 特異度 96% と報告している. 彼らの検討では急性冠症候群の診断として心筋コントラスト法は心電図, トロポニンあるいは左室壁運動異常のみを用いた場合よりすぐれていた 67). またTong らは救急室での心筋コントラストエコー法は, 胸痛患者においてバイオマーカーの異常が検出されるより早く, 短期および長期予後の推定に有用であることを報告している 68). 4 虚血メモリー (Diastolic stunning) を用いた胸痛診断近年, 虚血発作後に心筋内に虚血メモリーが遷延することが報告されている.Dilsizianらは心筋脂肪酸代謝トレーサであるBMIPP 心筋シンチ検査を用い, 運動負荷後に左室虚血部位の脂肪酸代謝異常が 30 時間以上にわたり持続していることを報告し 69),Ishiiらは冠攣縮性狭心症患者において, 胸痛発作回復後も拡張運動遅延が遷延することを報告している 70). このように一過性の心筋虚血後に収縮運動が回復後も持続する拡張機能障害が diastolic stunningであり, 虚血メモリーの機序と考えられている. また心エコー技術の進歩により組織ドプラ法 71) や2 次元および3 次元スペックル トラッキング法を用いた心筋局所のストレイン評価が可能となり, 虚血メモリーの検出がさらに容易になってきている 72)-75). Asanumaらは組織ドプラ法を用いた動物実験において再灌流後にpostsystolicthickening が遷延することを報告し虚血メモリーの存在を証明した 76).Onishiらは虚血心筋において等容拡張期にpositive myocardial velocityが観察され, これを応用したパラメトリック イメージが胸痛患者の鑑別に有用であることを報告している 77),78). Liangらは2 次元スペックル トラッキング法を用い, 冠動脈に70% 以上の高度狭窄を有する領域では安静時においても拡張早期のlongitudinal strain rate が低下していることを報告している 79). またIshiiらは2 次元スペックル トラッキング法を用い50% 以上の有意狭窄領域においてトレッドミル運動負荷 10 分後においても diastolic stunningが観察可能であることを報告し 80), さらに虚血が示された病変においては,PCI にて虚血が解除された24 時間後もその支配領域でdiastolic stunning が 15

16 循環器病の診断と治療に関するガイドライン (2011 年度合同研究班報告 ) 観察されることを報告している 81). このように急性冠症候群では責任冠動脈領域において高頻度にdiastolic stunningが検出されることが考えられ, 今後スペックル トラッキング法を用いたdiastolic stunningの検出が急性冠症候群の非侵襲的診断に有用となる可能性が考えられる. 3 核医学検査 クラスⅠ 1. 胸痛で受診した患者で冠動脈疾患の診断がつかない場合にTl-201,Tc-99m 安静時心筋血流シンチグラフィによりACS の診断を行う.( レベルB) 2.Tl-201,Tc-99m 安静時心筋血流シンチグラフィにより梗塞範囲を推定する.( レベルB) 3.123I-BMIPP シンチグラフィにより不安定狭心症の診断を行う.( レベルB) クラスⅡa 1.Tl-201,Tc-99m 安静時心筋血流シンチグラフィにより予後予測を行う.( レベルB) 2.I-123-BMIPP シンチグラフィにより予後予測を行う.( レベルC) クラスⅢ 1. 運動負荷心筋シンチグラフィを急性冠症候群の急性期に行う.( レベルC) 1 胸痛症例の診断について外来を受診した胸痛を呈する症例をCCU に入院させるべきか否かを決定する際, 院内で用時調整が可能で再分布がなく投与後 30~60 分で撮影が可能なTc-99m 標識の血流製剤を用いた安静時心筋血流イメージングの有用性が報告されている 82)-96). 1) リスク層別化について急性心筋梗塞あるいは急性冠症候群の早期に施行される心筋イメージングの異常は, 他の冠動脈疾患の危険因子とあわせて, リスク層別化の重要な因子である. 血行再建や再灌流前後のイメージングにおいても, リスク評価と効果判定の価値が認識されている 87)-91). 1Tl-201 心筋血流イメージング Tl-201による心筋血流イメージングは歴史的にも意義が確立された重要な心筋血流検査法であるが, その放射物理学的な特性 ( 核種のエネルギーの低さ, 長い半減期による被曝とそのための投与量の制限 ) などから, 画質の問題, 心電図同期 SPECTに不向きなどの欠点があり, 我が国でも次第にTc-99m 心筋血流製剤にとって代わってきている. 2Tc-99m 標識心筋血流イメージング急性期あるいは救急でTc-99m 心筋血流製剤を投与して施行されるリスク心筋のイメージングおよび後日の心筋イメージング再検による救済心筋評価はその有用性が報告されているが, 救急外来での利用については実施できる施設の点で限界がある 83),92),93). また, 心筋血流イメージングで評価された急性心筋梗塞後の最終的な梗塞サイズは, 左室駆出分画や壁運動とともに, 患者の予後と相関する点でも重要である.Tc-99m 製剤は心電図同期法 (SPECT) に適しており, その併用により診断能が向上すると報告されている 94),95). 微小心筋梗塞の診断に際してもトロポニンI と同等以上の診断結果が得られたと報告されている 96). 2 心筋血流イメージング以外の検査方法 1 Tc-99m ピロリン酸を用いた急性心筋梗塞イメージング本法は心筋細胞膜の破綻によるCaの過負荷とミトコンドリア内 Ca 沈着の増大の結果ピロリン酸 (PYP) が集積して急性心筋梗塞巣を陽性描出する.PYP の集積は梗塞発症後 12~16 時間から観察され,48~72 時間でピークとなり,1~ 2 週後陰性化する. 画像で検出できるまで時間がかかること, 感度, 特異度に問題があること, 画像の空間分解能も悪いことなどから今日, 行われることはほとんどなく, 心臓 MRI にとって代わられている. 2 I-123-BMIPP イメージングを用いた脂肪酸代謝イメージング急性冠症候群の診断不安定狭心症や急性心筋梗塞急性期では, 心筋の生存性や脂肪酸代謝障害の程度により様々なBMIPP 集積異常を示す. 壊死心筋では代謝活性, 生存性ともに消失する. このため, 安静時心筋血流とBMIPP 集積の一致した高度な欠損や壁運動低下を認める. 一方, 一定以上の重症な虚血心筋 ( 冬眠心筋 ) や急性冠症候群の心筋血流の再開通などによる重症虚血解除後の生存心筋 ( 気絶心筋 ) では安静時心筋血流が維持されるが脂肪酸代謝障害を示すため血流 /BMIPP 集積乖離を呈する 97)-102). 血流 /BMIPP 集積乖離の程度は心筋壊死を規定する心筋虚血の程度と持続時間, 残存狭窄, 冠側副血行路, 治療などの修飾因子により様々である. BMIPP イメージングによる梗塞心筋の診断精度は心筋血流イメージングと同等であるが, 非 ST 上昇型心筋梗塞や不安定狭心症の診断では優っている 103)-107). これは, 自然再開通や冠攣縮の寛解, 治療などにより早期の再灌流を得た場合, 壊死は免れるも虚血性心筋脂肪酸 16

17 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン 代謝障害が残存しているためである 97)-102). したがって, 急性冠症候群の早期の障害心筋の評価, 急性冠症候群回復期の負荷検査困難例, 負荷による診断が困難ないし診断精度が低いと予想される際, 安静時心筋 BMIPP イメージングの有用性は高い 108),109). 一過性の壁運動低下を呈している気絶心筋において BMIPP イメージングの診断的価値は高い. 心筋バイアビリティーを認めるが, 虚血性心筋脂肪酸代謝障害のため血流 代謝 (BMIPP) 乖離領域として同定される. 脂肪酸集積は数週間から数か月の経過で壁運動とともに回復し, 壁運動の改善は血流 代謝乖離所見の改善とよく相関するため, 心機能の改善予測も可能である 97),100)-104),106),108),118)-114). しかし, 心筋虚血重症度によって心筋 BMIPP 集積 ( 心筋脂肪酸代謝 ) は完全には正常化しないこともある 115),116). 急性心筋梗塞後の予後研究では, 血流 BMIPP 集積乖離やBMIPP 欠損の大きさは心臓死を含む心事故の有意な独立した予後規定因子とされ, 心筋梗塞の既往, 左室駆出率, 女性, 加齢, 左前下行枝病変とともに相加的にも予後評価上の意義を有している 115)-120). 4 冠動脈 CT クラス IIa 1. 中リスク群 ( 心電図変化なし, 血液生化学検査陰性 ) において冠動脈 CTを施行する.( レベルB) 2. 低リスク群 ( 心電図変化なし, 血液生化学検査陰性 ) において冠動脈 CTを施行する.( レベルB) クラス IIb 1. 胸痛患者において triple rule out として冠動脈 CTを施行する.( レベルC) 2. 高リスク群 ( 心電図変化あり, あるいは血液生化学検査陽性 ) において冠動脈造影が予定されていない場合に, 冠動脈 CTを施行する.( レベルC) クラス III 1. 高リスク群 ( 心電図変化あり, あるいは血液生化学検査陽性 ) において冠動脈造影が予定されている場合に冠動脈 CTを施行する.( レベルC) 近年のMDCT の進歩により,64 列に代表される MDCT を用いた冠動脈狭窄の検出能は, 著しく向上し, 冠動脈造影に匹敵する形態情報が得られるようになった ). 冠動脈造影での50% 以上の狭窄を有意狭窄とすると, 冠動脈 CTによる冠動脈狭窄の検出における陽性的中率は91~93% 121), 陰性的中率は95~100% と報告されている 121)-123). 特に陰性的中率の高さが特徴であり, 冠動脈 CTで有意狭窄が認められなければ冠動 脈狭窄はほぼ否定される. このような冠動脈 CTの狭窄診断の精度の向上を背景として, 最近, 胸痛患者において冠動脈 CTがACS の診断や除外診断に有用と報告されている.The ROMICAT studyでは 125), 冠動脈疾患の病歴がなく, 心電図変化を示さず, トロポニン陰性の低 中等度リスク症例 368 例 (ACS は8%) を対象に64 列 MDCT の診断精度が検討され, プラークの有無による感度は100%, 特異度は54%, 50% 以上の冠動脈狭窄の診断について感度 77%, 特異度 87% であった. また, 急性の胸痛を示した58 例を対象としたRubinsteinらの検討では 126), 冠動脈 CTによる ACS 診断の感度は100%, 特異度は92%,15か月間の経過観察におけるMACE に対する感度は92%, 特異度は76% と報告されている. さらに,197 例の急性の胸痛を訴える,ACS 疑いの患者を対象としたGoldsteinらの冠動脈 CTと負荷心筋シンチグラムの無作為比較検討では, 冠動脈 CT 群は診断に要した時間が有意に短く, 冠動脈造影検査施行頻度が高かったものの総経費は低値であった. ただし, 冠動脈 CT 群では, 中等度狭窄の所見や診断に足る画像が得られないために, その24% の患者に追加の負荷心筋シンチグラムを要している 127). ACS において冠動脈 CTの最も良い適応となるのは, 冠動脈疾患や心筋梗塞の既往がなく, 心電図変化や血液学的陽性所見のない低 中等度リスク群の患者である. 洞調律で腎機能が保たれていれば, 冠動脈 CTを受けることにより, より侵襲性の高い冠動脈造影検査を回避でき, その恩恵は最も大きい. 一方, 高リスク群では, 冠動脈造影検査を避けられず, 冠動脈 CTの良い適応とはならない 128),129). 胸痛を訴える低 中等度リスク群の患者においては, ACS を含めた冠動脈疾患, 大動脈解離, 肺血栓塞栓症の3 疾患を同時に評価する triple rule out の有用性が議論されている 130). しかし, 現在, 最も普及している 64 列の装置では, triple rule out のための撮影プロトコールは, 撮影範囲の拡大, 時相をずらしての複数回の撮影による被曝線量の増加が問題となる 131). 低線量被曝を可能とするdual source CT 装置を用いても, 冠動脈撮影に特化したプロトコールと比較して, 病院滞在時間, 他の検査の併用なしでの退院率, および急性イベント否定までの時間に差がないとする報告もあり 132), さらなる検討が必要である. ただし, 冠動脈 CTは冠動脈狭窄に関する情報ばかりでなく, プラークの大きさや性状についての重要な情報を提供することに特徴がある.Motoyamaらは,ACS 症例に見られる冠動脈プラークの特徴として,positive 17

18 循環器病の診断と治療に関するガイドライン (2011 年度合同研究班報告 ) remodeling( 陽性リモデリング ),non-calcified plaques( 非石灰化プラーク ), ならびにspotty calcification( 微小石灰化 ) を挙げている 133). さらに, 彼らは冠動脈 CTを施行した1,059 例の検討から,low-attenuationプラークを伴うpositive remodelingを示す冠動脈病変を有する症例が,acs 発症の高リスク症例であることを示した 134). 冠動脈 CTが, その後のACS 発症を予測し得る可能性を示したもので, 冠動脈 CTのACS における, さらなる有用性が期待される. 5 核磁気共鳴イメージング (MRI) 心臓 MRI クラス IIb 1. 急性冠症候群 ( 心電図変化あり, あるいは血液生化学検査陽性 ) の診断において心臓 MRI を施行する.( レベルC) 心臓 MRI は, 近年, 急速な発展を遂げ, 壁運動評価, 心筋灌流, および心筋性状の評価において極めて高い有用性を示してきたが, 急性冠症候群の診断における十分なエビデンスの蓄積はない. これまでの急性冠症候群における心臓 MRI による診断の報告を見ると, いずれも極めて高い感度 (84~100 %) と特異度 (83~96%) を示し 135)-138), シネMRI による壁運動異常の検出, パーフュージョンMRI による安静時の心筋灌流の異常, 遅延造影 MRI による梗塞巣の有無,T2 強調画像を用いた心筋浮腫の有無などの所見を総合的に組み合わせて評価した報告が多い. 心電図変化を伴わない急性冠症候群を疑わせる胸痛で救急外来を受診した 161 例を対象に心臓 MRI による急性冠症候群の診断能を検討したPleinらの報告では, 壁運動異常, 灌流欠損および梗塞の有無の評価より, 心臓 MRI は感度 84 %, 特異度 85 % と高い診断能を示した 137). また,Curyらの報告では, 壁運動異常, 灌流欠損および梗塞の有無を診断基準に用いる従来の解析に, T2 強調画像による心筋浮腫所見を加えた解析を行うと, 特異度は 84% から96% へ, 陽性的中率は55% から85% へ, 正診率は84% から93% へと著しく改善する 138). さらに,Ramanらの報告では,T2 強調画像で心筋浮腫 (Area at Risk を表す ) が認められる症例は, 認められない症例に比して, 予後が不良で, 発症早期の interventionを必要とする指標となることが示されている. 心臓 MRI 以外の検査では評価できない指標が治療や予後において重要な意味を有することが明らかになるなど, 心臓 MRI の急性冠症候群における有用性の可能性を示す報告も認められている 139). 現状では, 急性の重症疾患の可能性のある患者を制約の多いMRI 検査室で検査を行うことへの心理的な躊躇が, この領域での心臓 MRI 検査が今なお進展しない最大の足かせになっていると思われるが, その潜在的な可能性の高さを考えると, 心臓 MRI を迅速かつ安全に施行するために十分な物的および人的環境の整備ができれば, 心臓 MRI が急性冠症候群の診断 管理において, 有用な検査となる可能性は高い. 4 血液生化学検査 クラスⅠ 1. 胸痛または胸部不快感を示す患者の早期リスクの層別化に心筋障害の生化学的マーカーを用いる.( レベルB) 2. 急性冠症候群を疑う全患者で, 生化学的マーカーであるクレアチニンキナーゼ (CK および CK-MB) および心筋特異度が高い心筋トロポニン ( トロポニンT, トロポニンI) を測定する.( レベルC) 3. 胸痛発症後 6 時間以内の測定で生化学的マーカーが陰性の場合も, 発症 6~12 時間後に再度測定する. ( レベル C) クラスⅡa 1. 胸部症状発症後 6 時間以内の患者に, 心筋トロポニンに加えてミオグロビンも測定する.( レベルC) クラスⅡb 1.C 反応性蛋白 (CRP) および他の炎症マーカーを診断の補助とする.( レベルB) 生化学的マーカーについては従来から急性心筋梗塞ではCK(CK-MB), ミオグロビン,GOT,LDH などの心筋逸脱酵素や心筋構造蛋白が血中に流出することが知られ, 広く診断と重症度判定に用いられてきた. 一方, 不安定狭心症で心筋逸脱酵素の軽度上昇を示す患者は, 急性心筋梗塞発症の危険度が高い病態にあると推測されてきたが, 心筋特異性の低いこれらのマーカーによる重症度評価はしばしば困難であった. 近年, モノクローナル抗体を用いた免疫測定法により心筋組織に特異的なトロポニンT, トロポニンI の微量レベルでの測定ができるようになり, 健常人との鑑別が可能となった 140)-142). 非 ST 上昇型急性冠症候群における心筋トロポニン測定の有用性は多施設共同研究で広く検証され, 急性冠症候群の診療に関する2000 年の ACC/AHA ガイドライン 18

19 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン においても重要な位置を与えられている. 心筋トロポニンの正常上限値の設定によりCK-MB が上昇しない程度の微小心筋障害も検出でき, このような病態は不安定狭心症の中の30% を占めるとされる.CK-MB は総 CK 値との比を考慮すれば心筋障害評価の意義は高く, 従来と同様に用いることが可能である. ショック, 直流通電などにより骨格筋損傷があると総 CK 値とともにCK-MB も上昇するが, 骨格筋損傷では両者の比は5% を超えない点で鑑別可能である. 同様に血中ミオグロビンも骨格筋損傷で増加し心臓特異性は低いが, これが否定できれば, 血中ミオグロビンは心筋障害発現後にもっとも迅速に,1 時間で上昇を始める. 生化学的マーカーを用いた急性冠症候群の評価では, 測定が簡便で, かつ迅速に ( できれば30 分以内 ) 結果が得られることが重要である. この点から, トロポニンTの迅速定性ならびに定量測定法は有用であると考えられ, 市販されているキットではベッドサイドで採血後 10~12 分後に測定結果を得ることができる 143). これらの生化学的マーカーによるリスク評価については, 心筋トロポニンTおよびI の上昇と患者の予後との関係が広く検討されていて 144)-147), 死亡および心筋梗塞の予測因子として有用であり, 治療指針の決定にも有効であることが示されている 148). 胸痛のため救急部門を受診した患者で心電図がST 上昇を示さずCK-MB 値も正常な患者においても, トロポニンI の上昇が認められればその上昇の程度に応じ早期死亡率は1.0% から7.5 % まで直線的に増加し 147), また胸痛に加えて心電図で ST-T 変化を認め血清 CK-MB の上昇を示す患者でも, トロポニンTの上昇が30 日予後を予測させる最良の因子であると報告されている 149). 最近高感度トロポニンT, トロポニンIが測定可能となった 150),151). 高感度トロポニンの測定はST 上昇型心筋梗塞のみならず, 非 ST 上昇型心筋梗塞の早期診断にも有用であることが報告されている 152). 安定狭心症や不安定狭心症において, 通常のトロポニン測定が測定感度以下であっても, 高感度トロポニン高値例は予後が悪く, 心筋梗塞や死亡も多い 153),154). ただし, 高感度トロポニンは様々な病態で上昇することが知られている 155). 今後, 急性冠症候群の診断のカットポイントや連続測定の基準値の確立が望まれる.CK-MB も非 ST 上昇型急性冠症候群の30 日および6か月後の死亡率と強い相関が認められている 156). 新しい心筋マーカーのヒト心臓由来脂肪酸結合タンパク質 (H-FABP) は発症 2 時間以内の心筋障害が診断可能である. 一方, 血中 CRP 値は急性炎症をあらわすマーカーであり, 不安定狭心症にてCRP 0.3mg/dL 以上はそ れ未満に比べ早期心事故を3 倍高率に生じると報告されている.CRP は冠動脈硬化の粥腫不安定化のマーカーとして着目されていて 157), 不安定狭心症で急性炎症反応の指標が上昇している場合は, 無症状であっても不安定性が持続している, あるいは再発しやすいことを示している可能性がある 158). 5 観血的検査 1 冠動脈造影と左室造影 1 冠動脈造影クラスⅠ 1. 薬物治療に抵抗し心筋虚血発作を繰り返す患者, あるいは初期治療により一旦安定が得られた後に症状が再燃した患者では緊急に冠動脈造影を行う.( レベル B) 2. 短期リスクの高い不安定狭心症患者では準緊急に冠動脈造影を行う.( レベルB) 3. 短期リスクが高度 ~ 中等度の不安定狭心症患者に初期治療を行い, 安定した後に冠動脈造影を行う. ( レベル A) 4. 各種非侵襲的検査により高度な虚血所見や左室機能低下が認められる不安定狭心症患者に冠動脈造影を行う.( レベルB) 5.6か月以内にPCI を施行している不安定狭心症患者に冠動脈造影を行う.( レベルB) 6. 冠動脈バイパス術の既往がある不安定狭心症患者に冠動脈造影を行う.( レベルB) クラスⅡa 1. 冠攣縮性狭心症が疑われる患者に冠動脈造影を行う.( レベルC) クラスⅡb 1. 短期リスクの低い不安定狭心症で, 各種非侵襲的検査でも高度な心筋虚血所見や左室機能低下が認められない患者に冠動脈造影を行う.( レベルC) クラスⅢ 1. 反復する胸部不快感があるが心筋虚血の客観的所見に乏しく, 過去 5 年以内の冠動脈造影所見が正常である患者に冠動脈造影を行う.( レベルC) 2. 冠血行再建の適応がない不安定狭心症患者, あるいは冠血行再建によりQOL, 生存期間の向上が見込めない患者に冠動脈造影を行う.( レベルC) 3. 合併疾患のため冠動脈造影の危険性がその利点を 19

20 循環器病の診断と治療に関するガイドライン (2011 年度合同研究班報告 ) 上回る患者に冠動脈造影を行う.( レベルC) 冠動脈造影の適応を判断するときには, 冠動脈造影に伴うリスクとその利点を勘案することが重要で, 患者の短期リスクの評価が欠かせない ( 表 3). 冠動脈造影を施行することの利点としては,(1) 冠動脈病変の重症度に基づき予後を推測し, 適切な治療を選択するための重要な情報が得られる,(2) 血行再建の実施により予後の改善, 抗狭心症薬の減量や入院期間短縮が期待できるなどが挙げられる 159). 一般的に急性冠症候群が疑われる場合は可能な限り冠動脈造影施行可能な施設に収容すべきである. 急性冠症候群において緊急冠動脈造影の適応とされるのは, 十分な薬物治療下においても発作を繰り返す患者, 新規または増悪した僧帽弁逆流や心不全所見 ( 湿性ラ音,Ⅲ 音 ) を認める患者, 不安定な血行動態を呈する患者, 危険な不整脈の認められる患者である 160)-163). また非侵襲的検査で左心機能低下がある場合や, 灌流域の大きな前下行枝病変や多枝病変例などの高リスクが疑われた場合も, 早期に冠動脈造影を施行し, 血行再建の適応を判断することが重要と考えられる 44),47),164). 急性冠症候群に対する治療戦略は冠動脈造影および血行再建の施行時期によって早期侵襲的治療戦略と早期保存的治療戦略 ( もしくは選択的侵襲的治療戦略 ) の2 通りに分けられる. 早期侵襲的戦略では, 禁忌がなければ入院した全患者に早期に待機的冠動脈造影を施行し, 適応があれば血行再建治療を行う. 早期保存的戦略では, 臨床的に高リスクと判断されるか, 十分な薬物治療によっても心筋虚血発作を繰り返す患者に対してのみ冠動脈造影を施行する. したがって, 冠動脈造影施行時期はどのような治療戦略をとるかによって大きく異なる. この治療戦略の優劣については1994 年以来 15 年以上にわたり議論されてきたが 165)-174), ステントが積極的に使用される時代となり, 早期侵襲的治療群の遠隔期心事故は早期保存的治療群と比べ有意に低率であり, 特に重症例ほどその効果が大きいことがほぼ確立された 170)-174). また, 複数のメタ解析でも早期侵襲的治療の有効性が証明されているが, この戦略をとる場合, 初期には血行再建術に伴う心筋梗塞などのリスクが伴うことには注意が必要である 24),175)-178). さらに, 生化学的マーカー陰性の女性においては, 統計的に有意ではないもののむしろ心血管事故が多いという報告もあり, 治療選択決定におけるリスク層別化の重要性が強調されている 178). 一方, 低リスク症例や急性冠症候群を否定すべき症例については, 冠動脈造影ではなく陰性的中率に優れる冠動脈 CT を行うことも有用な方法である. 我が国で侵襲的治療と保存的治療を無作為に比較した報告はないが, 胸痛や心筋虚血が遷延している患者では早期に冠動脈造影を実施する施設が多い. 特に広範な ST 低下所見を呈する患者には, 重症多枝病変で早期の CABG を要する症例が含まれており, その適応の確認に冠動脈造影は必須である 179). 一般に不安定狭心症の冠動脈造影所見では有意狭窄のないものが10~20% 占めるとされている 44). また我が国では, 欧米に比べて冠攣縮の関与した安静時狭心症が多いといわれているが 180),181), 冠攣縮は造影上正常に近い部位に生じる場合や器質的狭窄部位に一致して起こる場合があり, 造影によってそれを明らかにすることは治療方針決定に役立つ. 冠血行再建術後の患者に狭心症が再発した場合には, 早期に積極的に冠動脈造影を施行して再血行再建の要否を確認する必要がある. 高リスク患者の生命予後改善のためや, 広範囲な虚血心筋を救済するために血行再建術が必要となることが多いためである.CABG 後のグラフト疾患はPCI により良好な拡張が得られることが多く, 積極的に冠動脈造影を行うことに意義がある. またバルーン拡張のみによるPCI 直後には2~11% で急性冠閉塞が発生し 182)-185), ステント留置術後には約 1% に亜急性血栓性閉塞が発生するので 186),187), このような場合にも PCI を再施行するために緊急冠動脈造影が必要となる. またPCI 後 9か月以内の狭心症再発は再狭窄の可能性が高く 188),189), やはり血行再建術再施行を前提とした冠動脈造影の適応となる. なお, 不安定狭心症で初回インターベンション治療を施行した場合には, 再狭窄時にも不安定狭心症の病態を呈することが多いと言われている 188). 冠動脈造影の不利益冠動脈造影の不利益としては, 侵襲的手技による合併症発生, 不必要なPCI の増加, それに伴う医療費の増大などが挙げられる. 一般に冠動脈造影の合併症としての死亡率は0.2% 以下で, 脳血管障害, 心筋梗塞, 出血などの合併症は0.5% 以下とされている 190). 我が国での心筋梗塞患者を対象としたカテーテル関連合併症に関する厚生省長寿科学研究事業研究班の調査では, 冠動脈造影検査に伴う合併症は60 歳未満では5.4%,70 歳以上では 9.1% に出現している 191). 特に脳塞栓, 脳出血といった重篤な合併症は老年者に認められ, また血栓溶解療法による出血性合併症も明らかに高齢者で多かったとしている. したがって事前に脳血管障害あるいは重症高血圧の既往の有無を確認することが重要である. また, 高齢者 20

21 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン では皮膚や皮下組織が脆弱であり, カテーテル検査を行うときには, 穿刺部血腫や仮性動脈瘤などの血管損傷を生じやすいので注意を要する. 十分な病歴の把握と身体所見からカテーテル手技を安全に行い得るかを判断し, 慎重に冠動脈造影の適応を決定する. その他, 熱性疾患の合併, 血液凝固線溶系の異常, 重篤な造影剤アレルギー, 高度の腎機能障害, 高度の閉塞性動脈硬化症などは一般にカテーテル検査の禁忌であり, このような患者には原則として緊急冠動脈造影は避けるべきである. 2 左室造影 クラスⅡa 1. 非観血的検査により左室機能が評価できない患者に左室造影を行う.( レベルC) 2. 左室収縮能の評価が必要な患者に, 冠動脈造影とともに左室造影を行う.( レベルC) クラスⅢ 1. 腎機能低下などの合併疾患があり, 左室造影により得られる情報よりも危険性の方が上回ると考えられる患者に左室造影を行う.( レベルC) 虚血性心疾患においては冠動脈病変枝数と左室機能は長期予後に影響する重要な要因である 192),193). 左室造影では左室容積, 駆出率, 左室局所壁運動などの情報を得ることができる. 局所壁運動の定量的解析手段としてはセンターライン法が普及しており 194),195), 壁運動が残存していることは生存心筋の証明となる. 従来より左室造影は左室収縮能評価法の標準的検査法として施行されてきた. 左室造影の利点としては, 心エコー図検査と異なり, ほとんどすべての患者で再現性の高い良好な画像を記録できることが挙げられる. 明らかな根拠はないが, 左室造影による合併症の危険性が低いと予想される場合には, 冠動脈造影に伴って左室造影を施行してもよいと思われる. 不明瞭な心エコー図画像しか得られない患者においては左室造影が有用である. 2 血管内エコー法, 血管内視鏡, 光干渉断層法 1 血管内エコー法 (IVUS) 血管内エコー法 (IVUS) は, 従来の冠動脈造影法による形態的評価と異なり, 血管内腔面積, 血管総断面積や粥腫面積の定量的評価が可能な唯一の検査法である. また, 冠動脈造影では評価できない石灰化病変の描出や血管リモデリングの検出にも優れている. したがって, 急性冠症候群の発生機序とされる粥腫の亀裂や解離等の形態的評価やPCI 後の血管壁, 内腔拡張状態の評価には役立つと思われる. また, 急性冠症候群患者の治療戦略やPCI の終止点の決定にも冠動脈造影以上に有益な情報が得られる. しかし, 大規模試験の成績では,IVUS の併用によりPCI 後再狭窄が減少したとする報告ばかりでなく, 非併用群と差がないとする報告も認められ, 意見の一致が見られていなかったが, ベアメタルステント (BMS) 時代におけるルチーンでのIVUS 併用群と非併用群のPCI を比較した大規模試験のメタ解析が近年発表され,IVUS 併用群では,6か月間の造影上の再狭窄や 12か月間の再血行再建術および主要心血管事故の発症率は減少させるものの, 長期的な死亡率や心筋梗塞の発症に有意差を認めなかった 196)-198). 現在, 薬剤溶出性ステント (DES) 時代に入り, 待機的なPCI においては, IVUS 併用にてステントの密着や適切なデバイスの選択および拡張ができるようなり, 短期的な再狭窄や再血行再建術の必要性は減少傾向にあり, 特に分岐部病変においては, 長期的な予後改善の報告もある 199),200). また IVUS の使用によりPCI 手技中のNo Reflow 現象を余地することができるとの報告もある 201). 一方で, ルーチンでのIVUS 併用にいまだ意見の一致が見られておらず, 特に急性冠症候群に対してルーチンでのIVUS 併用によるPCI は,DES 時代においても, 長期的な死亡率や心臓血管イベントを減少させたという報告はなく 202), さらにIUVS を急性冠症候群の診断目的だけに施行することの有用性は証明されていない. 急性冠症候群におけるIVUS の有用性について今後の検討が必要である. 2 血管内視鏡冠動脈内腔壁の形態や色調を直接観察することは, 急性冠症候群の病態解明や治療戦略の選択に有益な情報が得られ, 治療成績の向上が図れると期待される 203). 特に血栓や粥腫の診断においては, 本法による色調からの分類が有用である. 血栓は赤血球主体の赤色血栓, 血小板主体の白色血栓, その混合である混合血栓に分類され, 治療戦略をたてる上での有力な情報がもたらされる 204). 一方粥腫 ( プラーク ) は, 線維性被膜が薄く脂質コアの多い黄色プラークと線維性被膜が厚く脂質コアの少ない白色プラークに分類され, 冠動脈硬化の進行程度や破裂しやすいプラーク ( 不安定プラーク ) の推測がある程度可能とされる 205). しかし現時点では, 冠動脈内視鏡を急性冠症候群の診断目的に施行することの有用性は証明されていない. 21

22 循環器病の診断と治療に関するガイドライン (2011 年度合同研究班報告 ) 3 光干渉断層法 (OCT) 急性冠症候群の責任病変となり得るプラークは, 一般的に不安定プラーク (vulnerable plaque) と呼ばれるが, その診断には内腔の狭窄度やプラークのサイズのみならず, 組織の性状や線維性被膜の厚さなどの詳細な検討が必要である. また,DES 時代に入り, ステントの晩期ステント血栓症が懸念されるため, ステントと内膜との適切な圧着 (apposition) やステント留置時の解離などの評価も適切に行わなければならない. 近年, 近赤外線を用いて冠動脈内を観察することができる光干渉断層法 (Optical coherence tomography: OCT) が臨床応用され, 約 10μmという高解像度を有し (IVUS の約 10 倍 ), 不安定プラークの組織学的診断や, 適切なステント留置の評価に有用性を認めている.65μm 未満の薄い線維性被膜を有し, 内部に豊富な脂質成分を含んだ動脈硬化巣は, 不安定プラークの中でも破裂しやすく急性冠症候群に移行しやすいと言われている. そのような危険性の高い薄い線維性被膜で覆われた動脈硬化巣はThin-cap fibroatheroma(tcfa) と呼ばれている 206). また, 急性冠症候群における不安定プラークは, 責任病変に局在するものではなく, その他の冠動脈にも多数認められることがOCTで確認されている 207),208). さらに, 高解像度を有するOCTでは, 薄い線維性被膜の計測や脂質プラークの評価も可能であり,TCFA を確認することにより急性冠症候群発症の予測ならびに, スタチンを含む治療効果の判定にも有用であることが報告されている 209). しかし, 近赤外線の深部到達度が低いことや, 病変の観察のために赤血球を除去する必要性があることなど, 多くの問題点もかかえており, 急性冠症候群の組織学的診断には優れるものの, 臨床上の問題点がまだ多く存在する. また, 現在のところPCI 時に,OCTのルーチン使用で長期的な予後や心血管イベントの減少を証明した報告はない. 次世代のOCTでは, 近赤外線の到達度が改善され, また, 赤血球排除のためのバルーン閉塞も必要でなくなるなど利便性や空間分解能も向上するため, 今後さらなる臨床応用が期待される. 4 冠血流予備量比 (Fractional Flow Reserve: FFR) FFR は冠動脈狭窄の機能的重症度指標としてその有用性が認められている 210),211). 冠動脈造影時にリアルタイムに冠動脈の各枝 病変ごとの機能的重症度の判定ができることに最大のメリットがある. 最近の前向き試験ではFFR の結果に基づく治療方針の決定が予後を改善す ることが報告されている 45),212). 近年, 我が国でも虚血性心疾患も重症化が進み,ACS においても多枝に複数にわたる病変を有する患者が多く, 冠動脈造影時に責任血管の同定や, 非責任血管の機能的狭窄度の判断に苦慮することもまれでない.ACS の冠動脈造影時の責任血管 / 責任病変の同定あるいは非責任血管に存在する病変の機能的重症度評価はACS の管理において極めて重要である.ACS 急性期の非侵襲的負荷検査による虚血評価は過小評価する傾向にあり, 精度の高い虚血評価が必要とされる. 現状では十分なエビデンスはそろっていないが, 責任冠動脈病変への再灌流治療に引き続いて行う非責任血管 病変のFFR による虚血評価の有用性が報告されている 213). 6 リスク評価と院内および短期予後 病歴, 身体所見や種々の検査所見から, リスクを評価し, 院内および短期の予後を推測することができる. 院内および短期予後のリスク評価を考える場合に, 共通する部分も少なくないが, 原則として, 予後ハイリスク患者の評価に関しては, 院内予後を対象とし, 短期予後については退院時から,1 年後までの予後とした. 1 院内予後ハイリスク患者 1 病歴と身体所見病歴や身体所見は非特異的な指標ではあるが, 重要な情報を提供する. 病歴では, 高齢者 (65 歳以上 ) 214), 糖尿病の既往 215),216), 腎機能障害 217), 心筋梗塞後狭心症, 末梢動脈疾患の既往 218), 脳血管疾患の既往 193), 心筋梗塞の既往, 冠動脈バイパス術歴, アスピリン服用歴などがハイリスク要因として挙げられる. アスピリン服用歴がハイリスクとされるのは, 抗血小板療法を行っていても, なお急性冠症候群を発症するという点で, より重症化した症例として, 捉えているためである. 症状については, 不安定狭心症のBraunwald 分類がリスク評価に有用である 160). クラスⅡおよびⅢ( 急性あるいは亜急性 ), クラスB( 一次性不安定狭心症 ), クラスC( 梗塞後狭心症 ) などが, 中等度 ~ 高リスクである. 身体所見として, 血圧低下 219),220) や頻脈, 徐脈などの所見や心不全症状 220),221) も高リスクである. 一過性のギャロップ音, 心不全を示唆する湿性ラ音, 新規出現の僧帽弁逆流音は虚血に伴う心機能低下を示唆し, 予後不良である 219). 22

23 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン 2 心電図変化心電図で, ハイリスクとされる所見として, 以下の所見が挙げられる. 新たなST 偏位 (0.05mV 以上 ) 0.3mV 以上のT 波の陰転左脚ブロックの出現持続性心室頻拍さらに,aVR 誘導でのST 上昇やQRS 幅の延長も, 予後不良とされる左主幹部病変や3 枝疾患と関連していると報告されており, 注意する必要がある 17),222). また, 受診時の心電図だけでなく, 入院患者での心電図連続モニターでの,1 分以上持続する1mmを超えるST 低下も心血管死を含む再発性の虚血と関連すると報告されている 223),224). 3 血液生化学検査急性冠症候群のリスク評価と予後予測のための血液生化学マーカーとして, 心筋障害あるいは心筋壊死のマーカー, 炎症のマーカー, 心筋ストレスのマーカー, さらに, 血糖値, 腎機能などがある. 心筋障害あるいは心筋壊死のマーカーとしては, 従来から, トロポニンTやトロポニンI が用いられてきており,30 日時点での心筋梗塞や死亡の予測因子とされ, また1 年以後の予後とも関連している. トロポニンの上昇を認めれば, 心筋壊死のマーカーであるCKMB の上昇を認めなくても, 予後は不良である. 最近, より感度の高い検査 ( 高感度トロポニンTや高感度トロポニンI も開発され, 急性冠症候群の早期診断に加え, 予後予測因子としての有用性も報告されている 150),154). 高感度トロポニンTについては, 従来のトロポニンTに比べ, 予後の予測因子として, 良好であることが報告されており 150), また, 高感度トロポニンI については, その値が 0.04μg 以上であれば,30 日時点での死亡あるいは心筋梗塞のハイリスクとなるとされている 154). その他の心筋障害マーカーとして, 心臓型脂肪酸結合タンパク (H-FABP) がある.H-FABPは急性冠症候群の診断に使用されることが多いが 225), 予後規定因子としての有用性も報告されている 226). 炎症のマーカーは不安定プラークを反映するマーカーでもあり, 高感度 CRP がある 227),228).CRP が陽性であれば, トロポニンが陰性でも, 短期および長期予後が不良である 229). 心筋ストレスのマーカーとしてはBNP やNT-pro BNP が有用である 227),228),230),231). 心筋虚血や併存する左心機能低下が BNP あるいはNT-Pro BNPの上昇をもたらし, 生命予後 予測因子として, 有用である. ただ, 測定のタイミングが重要であり, 入院時よりも, 数日後の値の方が予後予測に有用であり, 入院時のリスク評価には, 限界がある 232). その他, 高血糖は非糖尿病患者でも, 死亡と心不全の強力な予測因子である 233). 腎機能障害も短期および長期予後に影響を与える因子である 234). 血清クレアチニンそのものは, 年齢や性別の影響を受け, 腎機能の指標として, 限界があり, クレアチニンクラランスやeGFR (estimated glomerular filtration rate) の方が用いられる. 上記, 生化学マーカーの中で, 心筋障害あるいは心筋壊死のマーカーは, ベッドサイドで, 早期に測定する (point of care) ことで, より早期より, リスクの層別化を行うことが可能となる. 4 冠動脈造影および血管内画像診断リスク評価および予後評価に冠動脈造影所見は重要である. 急性冠症候群に対する治療戦略には早期侵襲的戦略と早期保存的治療戦略があるが, 冠動脈造影は早期侵襲的戦略でのその後の治療方針を決める上で, 重要な情報を与える. リスク評価に重要な冠動脈所見としては, まず病変枝数が挙げられる. 左主幹部病変は血行再建を行わなければ, 予後は不良である. さらに, また, 多枝疾患は,1 枝疾患に比べてハイリスクであり, 予後も悪い 235). 病変所見として, 血栓が存在する場合は血栓が存在しない場合よりも, 予後は不良である 236). さらに, 偏心性病変や壁不整病変などの複雑病変の方が予後不良である 236). 冠動脈造影以外の冠動脈内画像診断として, 血管内超音波 (IVUS), 血管内視鏡,Optical Coherence Tomography(OCT) などを用いて, 不安定プラークの直接的な検出が試みられている. 実際に,OCTや radiofrequency IVUS を用いることで, 不安定プラークの病態として, 重要とされる薄い線維性被膜 (TCFA, Thin cap fibroatheroma) などの描出が可能とされる. また, 血管内視鏡検査では, 血栓の観察や黄色プラークの検出なども可能である. ただ, これらがリスク評価に役立つという明確な証拠はまだない. 5その他 1) リスクスコア上述のように, 予後予測因子として, 単独の因子として, 様々なものが報告されているが, リスクファクターを複数組み合わせたものがリスクスコアとして, 報告されている. 主なものとして, 以下の3つのリスクスコア 23

24 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2011 年度合同研究班報告 表4 リスクスコア がある TIMI リスクスコアは 7 個の因子として ①年齢 回以上の狭心症症状の存在 ⑥ 7 日間以内のアスピリ ンの服用 ⑦心筋障害マーカーの上昇が挙げられており 歳以上 ② 3 つ以上の冠危険因子 家族歴 高血圧症 それぞれの因子の有無によって それぞれ 1 点ずつ 加 糖尿病 喫煙 ③既知の冠動脈有意狭窄 50 ④ 算するしくみとなっており 表 4 14 日以後の死亡率 心電図における 0.5mm 以上の ST 変化 ⑤ 24 時間以内に あるいは非致死性心筋梗塞発症率はリスクファクターが

25 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン 表 5 CRUSADE 出血性リスクスコア 増加するにつれ, 相乗的に悪化することが報告されている. また, 退院後のイベント発生予測の上でも, 有用とされている 237). GRACE スコアは8 個のリスクファクターとして,1 年齢,2 心拍数,3 収縮期血圧,4 初期血清クレアチニン,5Killip 分類,6 心停止による入院,7 心筋マーカーの上昇,8ST 部分の偏位が挙げられており, 実際に これらの因子に重み付けを行い ( 表 4) 238), 入院時および6か月後の予測される死亡率と死亡あるいは心筋梗塞発症率が算出される仕組みとなっている. PURSUIT リスクスコアは5 個のリスクファクターとして,1 年齢,2 性別,3 過去 6 週間の最悪のCCS 分類, 4 心不全徴候,5 心電図におけるST 変化に重み付けを行って, 予後を予測するしくみとしている ( 表 4) 239). 25

26 循環器病の診断と治療に関するガイドライン (2011 年度合同研究班報告 ) これらのリスクスコアはそれぞれ単独で, リスク評価に使用されるが, 各種血液生化学マーカーなどと関連させて, より正確にリスクを評価する試みも行われている 240),241). ただ, これらのリスクスコアは欧米での多数例から, 導き出されたものであるが, 冠攣縮性狭心症の頻度が高いとされる我が国では, そのまま, 当てはめるには限界がある可能性もあり, 我が国独自のリスクスコアが必要なのかもしれない. 2) 出血のリスク出血は急性冠症候群の病態として, 安定型の冠動脈疾患に比べ併発しやすく, また, 抗血栓薬の投与に伴い問題となる頻度が高い 242). また, 今後, 抗血小板薬として, より強力なものが使用できるようになると, 副作用としての出血の問題が現在よりも, 大きくなる可能性がある. 実際に出血性の合併症を来たすと入院期間の延長に繋がり, 頻度は低いものの生命予後に関連する場合もあり, 出血は非 ST 上昇型心筋梗塞の予後予測因子として重要である. 出血に関連する因子として, 患者背景においては, 女性, 高齢, 血清クレアチニン, 白血球数, 貧血, ST 上昇あるいは非 ST 上昇急性心筋梗塞が, 治療関連因子においては, ヘパリンの投与, 我が国では使用できないが血小板糖蛋白 IIb/IIIa 拮抗薬の投与が報告されている 243). また, 最近, 出血のリスクをスコア化したものとして,CRUSADE 出血性リスクスコアが報告されている ( 表 5).1 入院時のヘマトクリット値,2クレア チニンクレアランス,3 心拍数,4 女性,5 心不全の徴候,6 血管疾患の既往,7 糖尿病,8 収縮期血圧から, スコアを算出する仕組みとなっている 244). 通常, 高齢者では, 出血を来たしやすいものと思われるが, 因子として含まれていない. 図 8にCRUSADE 出血性リスクスコアに応じた出血のリスクの頻度を示す. 以上, 不安定狭心症あるいは非 ST 上昇型急性心筋梗塞の院内予後のハイリスク症例について, 記載した. これらの評価から, ハイリスクとされた症例では, 早期に侵襲的治療を考慮すべきと思われる. ただ, このようなリスク評価の多くは, 侵襲的治療の成績をもとにしたものではなく, 入院時の多数例での侵襲的治療を行う前の検討から, 得られたものであり, 治療選択の際のリスク評価としての限界もあるものと思われる. 2 短期予後 急性冠症候群の長期予後は院内での治療戦略に大きく依存するので, ここでは短期予後について述べる. 一部は前項に記載している部分もあるので, 重複した部分は割愛している. 1 病歴と身体所見急性冠症候群の患者が1 年以内に死亡するリスクは臨床的指標および心電図から予測可能である.Diltiazem Reinfraction Study Research Group 245) によれば, 非 Q 波 図 8 CRUSADE 出血性リスクスコアに応じた出血のリスクの頻度 26

27 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン 梗塞患者における予後不良の高リスク因子は入院から退院までの持続するSTの低下, 鬱血性心不全, 高齢および退院時のST 上昇である, これらのリスク因子をすべて有する患者の1 年間の死亡リスクはリスク因子のない患者の約 14 倍となる. また, 入院時の血清トロポニン Tの上昇は短期のみならず,1~2 年後の予後を予測する上でも独立したリスク指標となることが示されている 246),247).Braunwald らは20 分以上持続する安静狭心症, 虚血に合併した肺水腫,III 音またはラ音を伴う狭心症, 低血圧を伴う狭心症の短期予後は不良であることを指摘している. 2 心電図検査来院時の安静時心電図変化が1 年間の心事故 ( 死亡あるいは非致死性心筋梗塞 ) の発症と関連することを示した報告がある 248). それによると1 年間の死亡あるいは非致死的心筋梗塞の予測因子は左脚ブロックとST 変化 (>=0.5mm) であり, リスク比はそれぞれ2.80,2.45 であった. 一方,T 波の変化は死亡や非致死的心筋梗塞の危険率を増加させなかった. またGUSTO IIb 試験では,T 波の変化より,STの0.5mm 以上の変化の方が30 日間の心事故と関連していた 249). 3 冠動脈造影所見安静型の冠動脈疾患を対象に, 左主幹部疾患あるいは 3 枝疾患を対象に冠動脈バイパス術とTAXUS ステントを用いた無作為比較試験 (SYNTAX 試験 ) が行われ, その長期成績が報告されている 250). その中で, 用いられている冠動脈全体での病変の進行度を示すものとして SYNTAX スコアが提唱され, リスクの層別化に有用と報告されている 250). このSYNTAX スコアが急性冠症候群のリスクの層別化にも有用とする報告がある 251) が, 今後の更なる検討が必要と思われる. 4 血管内超音波検査最近,PCI 施行急性冠症候群を対象に, 冠動脈 3 枝を, 血管造影, 血管内超音波 (Gray scale IVUS および radiofrequency IVUS) で, 評価を行い, その後,3~4 年追跡し, 責任病変と非責任病変ごとの心血管イベントを追跡した成績が報告されている 252). その結果, 責任病変と非責任病変で,3 年時点で,12% 前後とほぼ同様の心血管イベント ( 心臓死, 心停止, 心筋梗塞, 不安定狭心症あるいは進行する狭心症による再入院 ) を来たすことが報告され,radiofrequency IVUS でのTCFA (Thin cap fibroatheroma),4 mm 2 以下の最小血管内腔,70% 以 上のplaque burden がイベント発症と関連し, これらの因子が重責するとイベント発生率がより, 高くなるとされている 252). 5 核医学検査安静時の心筋灌流異常は短期予後不良を示唆する指標となる. 救急外来で, 心電図変化がなくても, 安静時の灌流異常を認められれば, 死亡, 非致死的心筋梗塞, 血行再建の心事故が 71% に発生したが, 灌流異常がなければ心事故は1.4% であったと報告されている 253). 6MRI 検査 MRI を用いて, 急性冠症候群の予後を予測する検討が行われている. 救急室で, 急性の胸痛を認めた患者で, アデノシンストレス灌流心臓 MR を行い,1 年後の冠動脈疾患の進行を100% の感度と93% の特異度で, 予測できるとする報告 254) や, 急性冠症候群の症例で, 心筋浮腫の有無でその後の血行再建率が異なるとする報告がある 139). Ⅲ 治療 1 リスク評価に基づいた治療指針 クラスⅠ 1. 急性冠症候群が疑われるすべての患者に対して閉塞性冠動脈疾患の確からしさを迅速に評価し, その結果を患者管理に反映させる.( エビデンスレベル C) 2. すべての患者において臨床像, 生化学的マーカーに基づいたリスク評価を行う.( レベルB) 3. 短期リスクの層別化に基づいて初期の治療方針を決定する.( レベルB) 4. 高リスク患者は救急治療室でリスク評価を行い, 入院後は CCU 管理とする.( レベルB) 5. 以下の高リスク患者では早期侵襲的治療を選択する.( レベルB) a. 十分な薬物療法下でも安静時狭心症を再燃させる, あるいは低レベル負荷でも狭心症を生ずる患者. b. 心不全の徴候を有し, 狭心症を生ずる患者. c. 非侵襲的な検査で高リスクと判断された患者. 27

28 循環器病の診断と治療に関するガイドライン (2011 年度合同研究班報告 ) d. 低左心機能の患者. e. 血行動態が不安定な患者. f. 持続性心室頻拍を有する患者. g.6か月以内にpci を施行した患者. h. 冠動脈バイパス術の既往がある患者. i. 心筋バイオマーカー上昇を認める患者. j. 新たなST 低下, または新たに出現したと考えられるST 低下を認める患者. 6. 急性冠症候群の可能性が高い症例に反復して心電図検査, 心筋バイオマーカー検査を実施し, 短期リスクを再評価する.( レベルB) 7. 当初安定していた患者において臨床イベントのリスクレベルが上昇した場合, 早期侵襲的治療戦略の適応とする.( レベルC) 8. 急性冠症候群の安定化後は, 長期予後に関するリスク評価を行い, そのリスクに応じた治療法を選択する.( レベルB) クラスⅡa 1. 高リスク患者ではないが, 薬物療法下で狭心症のコントロールが不十分である患者に早期侵襲的治療を行う.( レベルC) 2. 高リスク患者ではないが,65 歳以上の高齢者,ST 低下, 生化学的マーカー上昇の患者に早期侵襲的治療を行う.( レベルC) 3.TIMI,PURSUIT,GRACE 試験におけるリスクスコア評価を治療戦略決定の一助とする.( エビデンスB) 4. 高リスク症例に早期侵襲的治療戦略を選択した場合, 冠動脈造影は24 時間以内に実施する.( エビデンスB) クラスⅡb 1. 初期安定化した臨床イベントの高リスク患者において, 侵襲的検査のリスクは高くない場合に保存的治療を治療戦略として考慮する.( レベル B) クラスⅢ 1. 冠動脈造影が禁忌の患者に早期侵襲的治療を行う. ( レベル C) 2. 重度の合併症を有し ( 呼吸不全, 癌など ), 血行再建のメリットが小さいと想定される症例に早期侵襲的治療戦略を選択する ( レベルC) 3. 急性冠症候群の確からしさが極めて低い患者に, 早期侵襲的治療を推奨する.( レベル C) 4. 同意の得られない患者に対し, 早期侵襲的治療戦略を選択する.( レベルC) 1 リスク評価と治療戦略 本疾患に対する治療の最大の目標は患者の短期的, 長期的な予後改善であることから, 有害事象発症リスクを推測することは治療戦略を考慮する上で基本的重要事項である. 病歴, 身体所見, 心電図検査, 血液生化学検査から急性冠症候群の疑いが高いか否かをまず判断する. 本疾患である可能性によって, 非心臓性疾患, 慢性安定狭心症, 急性冠症候群の可能性あり, 急性冠症候群確実の4つのカテゴリーに大きく分類できる. 急性冠症候群, あるいはその疑いが高いと判断した場合, 次いで短期的な生命予後 ( 心臓死, 非致死的な心事故の発生 ) に関するリスク層別化を行う ( 図 9). 初期診断における重要ポイントはここに集約される. 1 リスク評価 病歴, 身体所見, 心電図検査, 心筋バイオマーカーからなるBraunwaldの分類による短期リスク評価は短期生命予後 255),256), 冠動脈造影における冠動脈病変重症度 170),257),PCI 施行時の合併症との相関が示されており, リスク評価に基づき有害な臨床転帰の可能性を推定することができる. 初期ケアを行う管理すべき場所 (CCU, 一般病棟, 外来の別 ), 治療方針, 特に血行再建の必要性などの決定に有益である. 実際, リスク評価に基づいた治療戦略決定の臨床的有効性が証明されており 214), 初診時から少なくとも12 時間以内にこの判断が行われるべきである. リスクが高いと判断された場合は, CCU での管理が必須であり, 中等度リスクの症例も高 図 9 非 ST 上昇型急性冠症候群の診断フローチャート 低リスク 急性冠症 を示 する症状 ST 上昇 急性冠症 定的 ~ 時間後に再 生化 的マーカー 定 中等度リスク 急性冠症 定的 的所見心電図変化 高リスク 28

29 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン リスクに準じた管理が求められる. 低リスクの症例は外来管理も可能である. リスク評価は初診時の一点のみでなく連続した心電図検査, 心筋バイオマーカー評価によって方針が決定されるべきであり, 再評価時にリスクが高くなっている場合には治療戦略の変更が考慮される. 来院時に心筋虚血を示唆する所見がない急性冠症候群患者を見逃さないことが大切である. 欧米ではこのような患者は外来ユニットで繰り返しリスク評価が行われる. 我が国ではこのような診療ユニットがないことを考慮して, 心筋虚血のサインがなくとも疑わしい場合は入院観察とすることを推奨する. 受診時一時点のみの評価では隠れたハイリスク症例を見逃すリスクがあることを銘記することが重要である. GRACE,TIMI, および PURSUIT リスクスコアは, 本疾患の長期予後リスク判定のために開発されたスコアであるが, 初診時のリスク判断にも有益であることが報告されている 239),258),259). これら3つのリスク判定方法の中ではGRACE リスクスコアの有効性が最もよく検証されており 260),261), 入院時ならびに1 年後の予後判定において感度, 特異度ともにTIMIリスクスコアが他の2 つのリスクスコアに劣ることが報告されている 262). GRACE リスクスコアが高くなればなるほど積極的な治療のメリットは増加すると報告されている 263),264). 2 治療戦略について高リスク例に対する治療戦略は, 冠動脈造影, 血行再 建の施行時期によって初期保存的治療戦略と早期侵襲的治療戦略の2 通りに大別される ( 図 10) 265). 前者は, 治療抵抗性, 症状の再燃, 血行動態不安定などを認めない限り保存的な治療を優先し侵襲的治療のルーチンでの実施を回避する手法である. スタチン, 強力な抗血小板薬などによって不安定粥腫の安定化を得たのちの血行再健は手技リスクの低下につながり, 血行再建は恩恵が得られると想定される患者群に限定することで不必要な検査を回避できるといった利点が考えられる. 後者は, 禁忌患者以外はルーチンで冠動脈造影を実施し必要に応じて血行再建を実施する手法である. 冠動脈造影は予後リスクの決定に有用であり, この治療戦略では血行再健が有益である潜在的虚血患者を見落とすことがないという利点がある. また, 責任病変の血行再建はその後の心事故発生のリスクを軽減し, 入院期間の短縮, 使用薬剤など投薬量を減ずることが可能である. この二つの治療戦略の優劣を比較した多施設臨床比較試験の成績は, 時代とともに変化してきている. バルーンPCI の時代に施行された不安定狭心症と非 Q 波心筋梗塞を対象としたTIMIⅢB 試験では,6 週間の心事故発生率は早期侵襲的戦略群と早期保存的戦略群に有意差はなかったが, ハイリスク例 ( 心電図変化例, 心筋逸脱酵素上昇, 女性,65 歳以上 ) では早期侵襲的治療群は入院日数, 再入院率, 再入院日数が有意に少なかった 266). 心筋梗塞後に心筋虚血のある患者を対象としたDANAMI 試験では,1~3 年後のいずれの時点でも侵 図 10 短期リスク評価に基づいた治療戦略 中等度リスク 高リスク アスピリン パリン抗狭心症薬 ニ リング 早期保存的治療 早期侵襲的治療 安定化 症状再 心不 虚血の出現など 時冠動脈 12~24 時間以内 低リスク 低リスク以外 29

心房細動1章[ ].indd

心房細動1章[ ].indd 1 心房細動は, 循環器医のみならず一般臨床医も遭遇することの多い不整脈で, 明らかな基礎疾患を持たない例にも発症し, その有病率は加齢とともに増加する. 動悸などにより QOL が低下するのみならず, しばしば心機能低下, 血栓塞栓症を引き起こす原因となり, 日常診療上最も重要な不整脈のひとつである. 1 [A] 米国の一般人口における心房細動の有病率については,4 つの疫学調査をまとめた Feinberg

More information

狭心症と心筋梗塞 何を調べているの? どのように調べるの? 心臓の検査虚血チェック きょけつ の きょうさく狭窄のチェック 監修 : 明石嘉浩先生聖マリアンナ医科大学循環器内科

狭心症と心筋梗塞 何を調べているの? どのように調べるの? 心臓の検査虚血チェック きょけつ の きょうさく狭窄のチェック 監修 : 明石嘉浩先生聖マリアンナ医科大学循環器内科 狭心症と心筋梗塞 何を調べているの? どのように調べるの? 心臓の検査虚血チェック きょけつ の きょうさく狭窄のチェック 監修 : 明石嘉浩先生聖マリアンナ医科大学循環器内科 はじめに 心臓の筋肉 ( 心筋 ) に血液を運ぶ血管 ( 冠動脈 ) に 動脈硬化などの障害が起きると 心筋に酸素や栄養が供給されず 狭心症 心筋梗塞 が起きます 治療法にはお薬による治療 カテーテル治療 バイパス手術といった様々な方法がありますが

More information

5 1. リスク評価に基づいた治療指針 5 2. 緊急入院と転院 7 3. 初期治療 7 4. 薬物治療 7 5. 補助循環 9 6. 血行再建治療 退院準備 退院後のモニタリングと検査 薬物治療と冠危険因子の管理 12 改訂にあたって 非 ST 上昇型急性冠

5 1. リスク評価に基づいた治療指針 5 2. 緊急入院と転院 7 3. 初期治療 7 4. 薬物治療 7 5. 補助循環 9 6. 血行再建治療 退院準備 退院後のモニタリングと検査 薬物治療と冠危険因子の管理 12 改訂にあたって 非 ST 上昇型急性冠 ダイジェスト版 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン (2012 年改訂版 ) Guidelines for Management of Acute Coronary Syndrome without Persistent ST Segment Elevation(JCS 2012) 合同研究班参加学会 : 日本循環器学会, 日本冠疾患学会, 日本胸部外科学会, 日本集中治療医学会,

More information

循環器 Cardiology 年月日時限担当者担当科講義主題 平成 23 年 6 月 6 日 ( 月 ) 2 限目 (10:40 12:10) 平成 23 年 6 月 17 日 ( 金 ) 2 限目 (10:40 12:10) 平成 23 年 6 月 20 日 ( 月 ) 2 限目 (10:40 1

循環器 Cardiology 年月日時限担当者担当科講義主題 平成 23 年 6 月 6 日 ( 月 ) 2 限目 (10:40 12:10) 平成 23 年 6 月 17 日 ( 金 ) 2 限目 (10:40 12:10) 平成 23 年 6 月 20 日 ( 月 ) 2 限目 (10:40 1 循環器 Cardiology 年月日時限担当者担当科講義主題 平成 23 年 6 月 6 日 ( 月 ) 2 限目 平成 23 年 6 月 17 日 ( 金 ) 2 限目 平成 23 年 6 月 20 日 ( 月 ) 2 限目 平成 23 年 6 月 27 日 ( 月 ) 2 限目 平成 23 年 7 月 6 日 ( 水 ) 3 限目 (13:00 14:30) 平成 23 年 7 月 11 日 (

More information

胸痛の鑑別診断持続時間である程度の鑑別ができる 数秒から1 分期外収縮筋 骨格系の痛み 心因性 30 分以内 狭心症食道痙攣 逆流性食道炎 30 分以上 急性心筋梗塞 解離性大動脈瘤 肺塞栓症 急性心膜炎自然気胸 胸膜炎胃 十二指腸潰瘍 胆嚢炎 胆石症帯状疱疹 急性心筋梗塞の心電図変化 R P T

胸痛の鑑別診断持続時間である程度の鑑別ができる 数秒から1 分期外収縮筋 骨格系の痛み 心因性 30 分以内 狭心症食道痙攣 逆流性食道炎 30 分以上 急性心筋梗塞 解離性大動脈瘤 肺塞栓症 急性心膜炎自然気胸 胸膜炎胃 十二指腸潰瘍 胆嚢炎 胆石症帯状疱疹 急性心筋梗塞の心電図変化 R P T 2013 8 21 TOPIX Medical cooperation TSUTSUJI 01 胸痛の鑑別診断持続時間である程度の鑑別ができる 数秒から1 分期外収縮筋 骨格系の痛み 心因性 30 分以内 狭心症食道痙攣 逆流性食道炎 30 分以上 急性心筋梗塞 解離性大動脈瘤 肺塞栓症 急性心膜炎自然気胸 胸膜炎胃 十二指腸潰瘍 胆嚢炎 胆石症帯状疱疹 急性心筋梗塞の心電図変化 R P T T 波増高

More information

エントリーが発生 真腔と偽腔に解離 図 2 急性大動脈解離 ( 動脈の壁が急にはがれる ) Stanford Classification Type A Type B 図 3 スタンフォード分類 (A 型,B 型 ) (Kouchoukos et al:n Engl J Med 1997) 液が血管

エントリーが発生 真腔と偽腔に解離 図 2 急性大動脈解離 ( 動脈の壁が急にはがれる ) Stanford Classification Type A Type B 図 3 スタンフォード分類 (A 型,B 型 ) (Kouchoukos et al:n Engl J Med 1997) 液が血管 心臓財団虚血性心疾患セミナー 急性大動脈解離の診断と治療における集学的アプローチ 安達秀雄 ( 自治医科大学附属さいたま医療センター心臓血管外科 ) 本日は 急性大動脈解離の診断と治療における集学的アプローチ というテーマでお話しいたします. 概念まず, 急性大動脈解離という疾患の概念についてお話しいたします. 急性大動脈解離は, 急性心筋梗塞とともに, 緊急処置を要する循環器急性疾患の代表格といえます.

More information

PowerPoint プレゼンテーション

PowerPoint プレゼンテーション Clinical Question 2016 年 5 月 2 日 J Hospitalist Network 無症候性脚ブロック 東京医療センター総合内科レジデント吉田心慈監修 : 山田康博 分野循環器テーマ疫学 症例 85 歳男性 口腔内潰瘍による食思不振があり入院 入院時のルーチン検査として施行した 12 誘導心電図で完全右脚ブロックを認めた 2 年前に当院で施行された心電図では脚ブロックを認めなかった

More information

CCU で扱っている疾患としては 心筋梗塞を含む冠動脈疾患 重症心不全 致死性不整脈 大動脈疾患 肺血栓塞栓症 劇症型心筋炎など あらゆる循環器救急疾患に 24 時間対応できる体制を整えており 内訳としては ( 図 2) に示すように心筋梗塞を含む冠動脈疾患 急性大動脈解離を含む血管疾患 心不全など

CCU で扱っている疾患としては 心筋梗塞を含む冠動脈疾患 重症心不全 致死性不整脈 大動脈疾患 肺血栓塞栓症 劇症型心筋炎など あらゆる循環器救急疾患に 24 時間対応できる体制を整えており 内訳としては ( 図 2) に示すように心筋梗塞を含む冠動脈疾患 急性大動脈解離を含む血管疾患 心不全など CCU 部門の紹介 1. CCU の概要久留米大学心臓 血管内科 CCU( 心血管集中治療室 cardiovascular care unit) は久留米大学病院高度救命救急センター内において循環器救急疾患の初療と入院後集中治療を担当している部署として活動しています 久留米大学病院高度救命救急センターは 1981 年 6 月に開設され 1994 年には九州ではじめて高度救命救急センターの認可を受け

More information

Microsoft Word - 日本語要約_4000字_.docx

Microsoft Word - 日本語要約_4000字_.docx 心疾患に罹患したイヌおよびネコの血漿中 N 末端 prob 型ナトリウム利尿ペプチド濃度の診断的意義に関する研究 The diagnostic significance of plasma N-terminal pro-b type natriuretic peptide concentration in dogs and cats with cardiac diseases 学位論文の内容の要約

More information

CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の

CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の [web 版資料 1 患者意見 1] この度 高尿酸血症 痛風の治療ガイドライン の第 3 回の改訂を行うことになり 鋭意取り組んでおります 診療ガイドライン作成に患者 市民の立場からの参加 ( 関与 ) が重要であることが認識され 診療ガイドライン作成では 患者の価値観 希望の一般的傾向 患者間の多様性を反映させる必要があり 何らかの方法で患者 市民の参加 ( 関与 ) に努めるようになってきております

More information

ここが知りたい かかりつけ医のための心不全の診かた

ここが知りたい かかりつけ医のための心不全の診かた Section 1 心不全パンデミックに向けた, かかりつけ実地医家の役割と診療のコツ ここがポイント 1. 日本では高齢者の増加に伴い, 高齢心不全患者さんが顕著に増加する 心不全パンデミック により, かかりつけ実地医家が心不全診療の中心的役割を担う時代を迎えています. 2. かかりつけ実地医家が高齢心不全患者さんを診察するとき,1 心不全患者の病状がどのように進展するかを理解すること,2 心不全の特徴的病態であるうっ血と末梢循環不全を外来診療で簡便に評価する方法を習得すること,

More information

study のデータベースを使用した このデータベースには 2010 年 1 月から 2011 年 12 月に PCI を施行された 1918 人が登録された 研究の目的から考えて PCI 中にショックとなった症例は除外した 複数回 PCI を施行された場合は初回の PCI のみをデータとして用いた

study のデータベースを使用した このデータベースには 2010 年 1 月から 2011 年 12 月に PCI を施行された 1918 人が登録された 研究の目的から考えて PCI 中にショックとなった症例は除外した 複数回 PCI を施行された場合は初回の PCI のみをデータとして用いた 学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小西裕二 論文審査担当者 主査荒井裕国 副査小川佳宏 下門顯太郎 論文題目 Comparison of outcomes after everolimus-eluting stent implantation in diabetic versus non-diabetic patients in the Tokyo-MD PCI study ( 論文内容の要旨

More information

標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会

標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会 第 3 章保健指導対象者の選定と階層化 (1) 保健指導対象者の選定と階層化の基準 1) 基本的考え方生活習慣病の予防を期待できる内臓脂肪症候群 ( メタボリックシンドローム ) の選定及び階層化や 生活習慣病の有病者 予備群を適切に減少させることができたかを的確に評価するために 保健指導対象者の選定及び階層化の標準的な数値基準が必要となる 2) 具体的な選定 階層化の基準 1 内臓脂肪型肥満を伴う場合の選定内臓脂肪蓄積の程度を判定するため

More information

2005年 vol.17-2/1     目次・広告

2005年 vol.17-2/1     目次・広告 2 0 0 5年1 2月2 5日 総 7 丸井 外来における心不全診療とそのピットフォール 説 外来における心不全診療とそのピットフォール 丸 井 伸 行 はじめに るいは左心あるいは右心不全を判別する事が心不 外来における心不全診療は急性期の初期診療と 全の病状の理解に役立つ 実際の臨床の現場では 慢性期心不全管理の二面から理解する必要があ 症状を時系列にとらえ 身体所見を系統的にとら る 循環器

More information

心臓血管外科カリキュラム Ⅰ. 目的と特徴心臓血管外科は心臓 大血管及び末梢血管など循環器系疾患の外科的治療を行う診療科です 循環器は全身の酸素 栄養供給に欠くべからざるシステムであり 生体の恒常性維持において 非常に重要な役割をはたしています その異常は生命にとって致命的な状態となり 様々な疾患

心臓血管外科カリキュラム Ⅰ. 目的と特徴心臓血管外科は心臓 大血管及び末梢血管など循環器系疾患の外科的治療を行う診療科です 循環器は全身の酸素 栄養供給に欠くべからざるシステムであり 生体の恒常性維持において 非常に重要な役割をはたしています その異常は生命にとって致命的な状態となり 様々な疾患 心臓血管外科カリキュラム Ⅰ. 目的と特徴心臓血管外科は心臓 大血管及び末梢血管など循環器系疾患の外科的治療を行う診療科です 循環器は全身の酸素 栄養供給に欠くべからざるシステムであり 生体の恒常性維持において 非常に重要な役割をはたしています その異常は生命にとって致命的な状態となり 様々な疾患 病態をきたします 心臓血管外科が対象にする患者さんは小児から成人さらに老人までにおよび その対象疾患や治療内容も先天性心疾患

More information

埼玉医科大学電子シラバス

埼玉医科大学電子シラバス 心臓 1: 脈管疾患日時 :6 月 4 日 ( 火 ) 1 時限 担当者 : 吉武明弘 ( 国セ心臓血管外科 ) 1. 大動脈疾患の診断 手術適応 治療法について理解する 1) 大動脈瘤の解剖学的分類 ( 真性 解離性 仮性 ) について説明できる 2) 典型的な画像から 大動脈疾患の診断ができる 3) 大動脈疾患の手術適応が説明できる 4) 大動脈疾患に対する主な治療法を説明できる 5) 大動脈疾患の術後合併症に関して説明できる

More information

PowerPoint プレゼンテーション

PowerPoint プレゼンテーション モーニングセミナー (2013/10/24) ~ 虚血性心疾患と心電図変化 ~ 心電図 : 1887 年 英国生理学者 Waller が毛細管電位計を使用して拍動する心臓の電気現象を初めて体表面から記録し 心電図 (electrocardiogram) と命名した 1 2 3 一言に言うと心臓の電気信号の流れ上図のように心臓には 1 同結節 心臓を動かす発電所が電気を発生させ 1 2 の間を電気が流れ心房が収縮します

More information

心房細動の機序と疫学を知が, そもそもなぜ心房細動が出るようになるかの機序はさらに知見が不足している. 心房細動の発症頻度は明らかに年齢依存性を呈している上, 多くの研究で心房線維化との関連が示唆されている 2,3). 高率に心房細動を自然発症する実験モデル, 特に人間の lone AF に相当する

心房細動の機序と疫学を知が, そもそもなぜ心房細動が出るようになるかの機序はさらに知見が不足している. 心房細動の発症頻度は明らかに年齢依存性を呈している上, 多くの研究で心房線維化との関連が示唆されている 2,3). 高率に心房細動を自然発症する実験モデル, 特に人間の lone AF に相当する C H A P T E R 章 心房細動の機序と疫学を知る 第 I : 心房細動の機序と疫学を知る ① 心房細動の俯瞰的捉え方 心房細動の成因 機序については約 1 世紀前から様々な研究がなされてい る 近年大きな進歩があるとはいえ 未だ 群盲象を評す の段階にとどまっ ているのではないだろうか 森の木々の一本一本は かなり詳細に検討がなさ れ 実験的にも裏付けのある一定の解釈がなされているが 森全体は未だおぼ

More information

第 3 節心筋梗塞等の心血管疾患 , % % % %

第 3 節心筋梗塞等の心血管疾患 , % % % % 第 3 節心筋梗塞等の心血管疾患 2016 28 1,326 13.6% 2 528 40.0% 172 13.0% 2016 28 134 1.4% 9 10 1995 7 2015 27 14.8 5.5 10 25 75 2040 2015 27 1.4 9 75 PCI PCI 10 DPC 99.9% 98.6% 60 26 流出 クロス表 流出 検索条件 大分類 : 心疾患 年齢区分 :

More information

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or 33 NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 2015 年第 2 版 NCCN.org NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) の Lugano

More information

スライド 1

スライド 1 冠動脈疾患と治療 心臓の構造 上行大動脈弓 肺動脈弁 上大静脈 肺動脈幹 卵円窩 肺静脈 右心房三尖弁冠状静脈洞口右心室 左心房僧帽弁腱索乳頭筋 位置 : 胸郭内のほぼ中央 やや左寄りにあり 左右は肺に接し 前方は胸骨後方は食道および大動脈に接しています 大きさ : 握りこぶしよりやや大きく 成人で約 200-300g です 下大静脈 左心室 心室中隔 心臓の構造 ( 冠動脈 ) 心臓をとりまく動脈は

More information

第 90 回 MSGR トピック : 急性冠症候群 LDL-C Ezetimibe 発表者 : 山田亮太 ( 研修医 ) コメンテーター : 高橋宗一郎 ( 循環器内科 ) 文献 :Ezetimibe Added to Statin Theraphy after Acute Coronary Syn

第 90 回 MSGR トピック : 急性冠症候群 LDL-C Ezetimibe 発表者 : 山田亮太 ( 研修医 ) コメンテーター : 高橋宗一郎 ( 循環器内科 ) 文献 :Ezetimibe Added to Statin Theraphy after Acute Coronary Syn 第 90 回 MSGR トピック : 急性冠症候群 LDL-C Ezetimibe 発表者 : 山田亮太 ( 研修医 ) コメンテーター : 高橋宗一郎 ( 循環器内科 ) 文献 :Ezetimibe Added to Statin Theraphy after Acute Coronary Syndromes Christopher P. Cannon, et al. N Engl J Med 2015;

More information

わが国における糖尿病と合併症発症の病態と実態糖尿病では 高血糖状態が慢性的に継続するため 細小血管が障害され 腎臓 網膜 神経などの臓器に障害が起こります 糖尿病性の腎症 網膜症 神経障害の3つを 糖尿病の三大合併症といいます 糖尿病腎症は進行すると腎不全に至り 透析を余儀なくされますが 糖尿病腎症

わが国における糖尿病と合併症発症の病態と実態糖尿病では 高血糖状態が慢性的に継続するため 細小血管が障害され 腎臓 網膜 神経などの臓器に障害が起こります 糖尿病性の腎症 網膜症 神経障害の3つを 糖尿病の三大合併症といいます 糖尿病腎症は進行すると腎不全に至り 透析を余儀なくされますが 糖尿病腎症 2009 年 4 月 27 日放送 糖尿病診療における早期からの厳格血糖コントロールの重要性 東京大学大学院医学系研究科糖尿病 代謝内科教授門脇孝先生 平成 19 年糖尿病実態調査わが国では 生活習慣の欧米化により糖尿病患者の数が急増しており 2007 年度の糖尿病実態調査では 糖尿病が強く疑われる方は 890 万人 糖尿病の可能性が否定できない方は 1,320 万人と推定されました 両者を合計すると

More information

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial ( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial Hyperglycemia-Induced Pathological Changes Induced by Intermittent

More information

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医 佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生 住所 M T S H 西暦 電話番号 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 家族構成 情報 医療機関名 診療科 住所 電話番号 紹介医 計画策定病院 (A) 連携医療機関 (B) 疾患情報 組織型 遺伝子変異 臨床病期 病理病期 サイズ 手術 有 無 手術日 手術時年齢 手術 有 無 手術日

More information

概要 214 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症 215 ファロー四徴症 216 両大血管右室起始症 1. 概要ファロー四徴症類縁疾患とは ファロー四徴症に類似の血行動態をとる疾患群であり ファロー四徴症 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖 両大血管右室起始症が含まれる 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症は ファ

概要 214 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症 215 ファロー四徴症 216 両大血管右室起始症 1. 概要ファロー四徴症類縁疾患とは ファロー四徴症に類似の血行動態をとる疾患群であり ファロー四徴症 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖 両大血管右室起始症が含まれる 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症は ファ 概要 214 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症 215 ファロー四徴症 216 両大血管右室起始症 1. 概要ファロー四徴症類縁疾患とは ファロー四徴症に類似の血行動態をとる疾患群であり ファロー四徴症 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖 両大血管右室起始症が含まれる 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症は ファロー四徴症における肺動脈狭窄が重症化して肺動脈閉鎖となった型であり 別名 極型ファロー四徴症とも呼称される

More information

Microsoft Word - 1 糖尿病とは.doc

Microsoft Word - 1 糖尿病とは.doc 2 糖尿病の症状がは っきりしている人 尿糖が出ると多尿となり 身体から水分が失われ 口渇 多飲などが現れます ブドウ糖が利用されないため 自分自身の身体(筋肉や脂肪)を少しずつ使い始めるので 疲れ やすくなり 食べているのにやせてきます 3 昏睡状態で緊急入院 する人 著しい高血糖を伴う脱水症や血液が酸性になること(ケトアシドーシス)により 頭痛 吐き気 腹痛などが出現し すみやかに治療しなければ数日のうちに昏睡状態に陥ります

More information

PowerPoint プレゼンテーション

PowerPoint プレゼンテーション Clinical Question 2014.8.25 JHOSPITALIST Network 冠動脈ステント留置後の患者に心房細動が起きたら抗血小板薬に抗凝固薬を併用した方がよいのか? 亀田総合病院総合内科小菅理紗 監修佐田竜一 佐藤暁幸 分野 : 循環器テーマ : 治療 引き継ぎ初診外来 ~78 歳男性 ~ いやぁ 新しい先生だからドキドキしちゃうねぇ 血圧 117/68mmHg 脈拍 78

More information

死亡率(人口10 万対1950 '55 '60 '65 '70 '75 '80 '85 '90 ' 心血管系疾患 ( 動脈硬化による ) とがんが死亡の大 部分を占める 脳血管疾患 悪性新生物 結核 心疾患 )肺炎 50 不慮の事故自殺 0 肝疾患昭和

死亡率(人口10 万対1950 '55 '60 '65 '70 '75 '80 '85 '90 ' 心血管系疾患 ( 動脈硬化による ) とがんが死亡の大 部分を占める 脳血管疾患 悪性新生物 結核 心疾患 )肺炎 50 不慮の事故自殺 0 肝疾患昭和 2010.10 府民公開講座 心筋梗塞の危険な症状 こんな時はすぐ医療機関へ 大阪府立成人病センター 副院長 ( 循環器内科 ) 淡田修久 死亡率(人口10 万対1950 '55 '60 '65 '70 '75 '80 '85 '90 '95 2003 心血管系疾患 ( 動脈硬化による ) とがんが死亡の大 部分を占める 250 200 脳血管疾患 悪性新生物 150 100 結核 心疾患 )肺炎

More information

188-189

188-189 概要 188 多脾症候群 189 無脾症候群 1. 概要内臓が左右対称性に形成される臓器錯位症候群のうち右側相同または左側相同を呈する症候群 それぞれを無脾症候群または多脾症候群という ここでは 内臓が左右反転する内臓逆位は含まないものとする 無脾症候群では 通常脾臓は欠損している 50-90% に先天性心疾患を合併する 合併心奇形は 単心房 共通房室弁 単心室 総肺静脈還流異常 肺動脈閉鎖 ( 狭窄

More information

64 は認められなかった 術前に施行したIVIgの効 きた 特に 小児例では血漿交換は肉体的侵襲が 果が明らかでなかったため 2月20日より単純血 大きく Blood Accessも難iしいことから1 IVIg 漿交換を施行した 第1回施行直後より 開瞼3 mmまで可能となり 眼球運動も改善 3回目終了 が推奨されてきている11 12 後より水分経口摂取開始 4回目終了後には人工 呼吸器から離脱が可能となり著明な改善効果を認

More information

急性心筋梗塞の迅速生化学診断と初期治療 - Earlier Risk Stratification & Therapeutic Decisions - 日本医科大学内科学第一講座清野精彦 Yoshihiko Seino,MD. PhD.

急性心筋梗塞の迅速生化学診断と初期治療 - Earlier Risk Stratification & Therapeutic Decisions - 日本医科大学内科学第一講座清野精彦 Yoshihiko Seino,MD. PhD. 急性心筋梗塞の迅速生化学診断と初期治療 - Earlier Risk Stratification & Therapeutic Decisions - 日本医科大学内科学第一講座清野精彦 Yoshihiko Seino,MD. PhD. 100 例 50 例 急性心筋梗塞の発症状況 - 東京都 CCU 連絡協議会の分析から - (n=9525, 1982.1~1994.12) (1) 発症は 12,

More information

パスを活用した臨床指標による慢性心不全診療イノベーション よしだ ひろゆき 福井赤十字病院クリニカルパス部会長循環器科吉田博之 緒言本邦における心不全患者数の正確なデータは存在しないが 100 万人以上と推定されている 心不全はあらゆる心疾患の終末像であり 治療の進步に伴い患者は高齢化し 高齢化社会

パスを活用した臨床指標による慢性心不全診療イノベーション よしだ ひろゆき 福井赤十字病院クリニカルパス部会長循環器科吉田博之 緒言本邦における心不全患者数の正確なデータは存在しないが 100 万人以上と推定されている 心不全はあらゆる心疾患の終末像であり 治療の進步に伴い患者は高齢化し 高齢化社会 パスを活用した臨床指標による慢性心不全診療イノベーション よしだ ひろゆき 福井赤十字病院クリニカルパス部会長循環器科吉田博之 緒言本邦における心不全患者数の正確なデータは存在しないが 100 万人以上と推定されている 心不全はあらゆる心疾患の終末像であり 治療の進步に伴い患者は高齢化し 高齢化社会の進行とともに更なる増加が予想される エビデンスに基づく治療やデバイス使用 合併症の治療により心不全の予後は改善しているが

More information

Microsoft Word - 10山崎_心筋梗塞.doc

Microsoft Word - 10山崎_心筋梗塞.doc 10. 急性心筋梗塞 山崎 力 確定診断に要する検査 ( 図 1 : 検査の進め方 ) A. 確定診断 1.30 分以上持続するニトログリセリンの無効な前胸部痛,2. 心電図上の ST 上昇 ( 時に下降 ),3.CK, CK-MBなどの血清酵素値の上昇,4. 冠動脈支配領域に一致した左室局所壁運動異常 ( 心エコーなど ) を総合的に判断して行われる B. 身体所見大半の症例では, 胸部苦悶や呼吸困難を伴い,

More information

症例報告書の記入における注意点 1 必須ではない項目 データ 斜線を引くこと 未取得 / 未測定の項目 2 血圧平均値 小数点以下は切り捨てとする 3 治験薬服薬状況 前回来院 今回来院までの服薬状況を記載する服薬無しの場合は 1 日投与量を 0 錠 とし 0 錠となった日付を特定すること < 演習

症例報告書の記入における注意点 1 必須ではない項目 データ 斜線を引くこと 未取得 / 未測定の項目 2 血圧平均値 小数点以下は切り捨てとする 3 治験薬服薬状況 前回来院 今回来院までの服薬状況を記載する服薬無しの場合は 1 日投与量を 0 錠 とし 0 錠となった日付を特定すること < 演習 ABC-123 臨床試験進行または再発胃癌患者に対するプラセボを対照薬とした無作為化二重盲検比較試験症例報告書 治験実施計画書番号 P123-31-V01 被験者識別コード 割付番号 治験実施医療機関名 ご自分の医療機関 お名前を記載して下さい 症例報告書記載者名 症例報告書記載者名 治験責任医師 ( 署名又は記名 押印 ) 治験責任医師記載内容確認完了日 印 2 0 年 月 日 1 症例報告書の記入における注意点

More information

臨床研究実施計画書

臨床研究実施計画書 心臓超音波検査を用いた臨床研究について 御理解 御協力いただける方へ 心エコー図法による心不全患者の予後予測に 関する研究 に関する説明 これは心臓超音波検査の所見の一部を用いた臨床研究への参加についての説明文書です 本臨床研究についてわかりやすく説明しますので 内容を十分ご理解されたうえで 参加するかどうかお決め下さい また ご不明な点などがございましたら遠慮なくご質問下さい 臨床研究代表者 群馬大学医学部附属病院循環器内科

More information

「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」 2017 年 2 月 1 日 作成者 : 山田さおり 慢性心不全看護エキスパートナース育成コース 1. 目的江南厚生病院に通院あるいは入院している心不全患者に質の高いケアを提供できるようになるために 看護師が慢性心不全看護分野の知識や技術を習得することを目的とする 2. 対象レベルⅡ 以上で各分野の知識と技術習得を希望する者 ( 今年度は院内スタッフを対象にしています ) 期間中 80% 以上参加できる者

More information

<4D F736F F D2095CA8E B7D90AB8AA58FC78CF38C51834B E646F63>

<4D F736F F D2095CA8E B7D90AB8AA58FC78CF38C51834B E646F63> 急性冠症候群ガイドライン 湘南地区メディカルコントロール協議会 疾患の背景 急性の胸部症状を主訴として救急隊を要請する傷病者は 生命の危機のある重篤な状態である場合が多い 原疾患として急性冠症候群 (ACS: acute coronary syndrome; 不安定狭心症および急性心筋梗塞をあわせた総称 ) 急性大動脈解離 急性肺動脈血栓塞栓症 気胸 特発性食道破裂などがあり いずれも対応可能な医療施設への迅速な搬送が必要である

More information

Microsoft Word - 44-第4編頭紙.doc

Microsoft Word - 44-第4編頭紙.doc 別紙 2 レセプト分析対象病名等一覧 ( 優先順 ) 疾病と治療疾患名 ICD10 コード点数コード 1 糖尿病糖尿病 E11~E14 2 インスリン療法インスリン在宅自己注射指導管理料点数コード レセ電算コード C101 3 高血圧症 高血圧症 I10 本態性高血圧症 I10 4 高脂血症 高脂血症 E785 高 HDL 血症 E780 高 LDL 血症 E780 高トリグリセライド血症 E781

More information

医療事故防止対策に関するワーキング・グループにおいて、下記の点につき協議検討する

医療事故防止対策に関するワーキング・グループにおいて、下記の点につき協議検討する 大阪府立病院機構医療事故公表基準 1 公表の目的この基準は 府立 5 病院における医療事故の公表に関する取り扱いについて必要な事項を定めるものとする 病院職員は 次に掲げる公表の意義を正しく認識し 医療事故防止に努めるものとする (1) 病院職員が事故原因の分析や再発防止への取組みなどの情報を共有化し 医療における安全管理の徹底を図るため 自発的に医療事故を公表していくことが求められていること (2)

More information

H29_第40集_大和証券_研究業績_C本文_p indd

H29_第40集_大和証券_研究業績_C本文_p indd 慢性腎臓病 (CKD) における危険因子としての食後高血糖の検討 独立行政法人国立病院機構千葉東病院臨床研究部 糖尿病研究室長関直人 はじめに 1. 研究の背景慢性腎臓病 (CKD) は 動脈硬化 腎機能低下 末期腎不全 心血管イベントなどの危険因子であることが報告されている (1) 一方で食後高血糖もまた 動脈硬化 心血管イベントの危険因子であることが報告されている (2) 食後高血糖の検出には持続血糖モニタリング

More information

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 (ICD10: C81 85, C96 ICD O M: 9590 9729, 9750 9759) 治癒モデルの推定結果が不安定であったため 治癒モデルの結果を示していない 203 10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) 71 68 50 53 52 45 47 1993 1997 1998 2001 2002 2006 2002 2006 (Period 法 ) 43 38 41 76

More information

機能分類や左室駆出率, 脳性ナトリウム利尿ペプチド (Brain Natriuretic peptide, BNP) などの心不全重症度とは独立した死亡や入院の予測因子であることが多くの研究で示されているものの, このような関連が示されなかったものもある. これらは, 抑うつと心不全重症度との密接な

機能分類や左室駆出率, 脳性ナトリウム利尿ペプチド (Brain Natriuretic peptide, BNP) などの心不全重症度とは独立した死亡や入院の予測因子であることが多くの研究で示されているものの, このような関連が示されなかったものもある. これらは, 抑うつと心不全重症度との密接な 論文の内容の要旨 論文題目 慢性心不全患者に対する心不全増悪予防のための支援プログラムの開発に関する研究 指導教員 數間恵子教授 東京大学大学院医学系研究科平成 19 年 4 月進学博士後期課程健康科学 看護学専攻氏名加藤尚子 本邦の慢性心不全患者数は約 100 万人と推計されており, その数は今後も増加することが見込まれている. 心不全患者の再入院率は高く, 本邦では退院後 1 年以内に約 3 分の

More information

- 1 - - 2 - - 3 - - 4 - - 5 - - 6 - - 7 - - 8 - - 9 - - 10 - - 11 - - 12 - - 13 - - 14 - - 15 - - 16 - - 17 - - 18 - - 19 - - 20 - - 21 - - 22 - - 23 - - 24 - - 25 - - 26 - - 27 - - 28 - - 29 - - 30 -

More information

頭頚部がん1部[ ].indd

頭頚部がん1部[ ].indd 1 1 がん化学療法を始める前に がん化学療法を行うときは, その目的を伝え なぜ, 化学療法を行うか について患者の理解と同意を得ること ( インフォームド コンセント ) が必要である. 病理組織, 病期が決定したら治療計画を立てるが, がん化学療法を治療計画に含める場合は以下の場合である. 切除可能であるが, 何らかの理由で手術を行わない場合. これには, 導入として行う場合と放射線療法との併用で化学療法を施行する場合がある.

More information

14栄養・食事アセスメント(2)

14栄養・食事アセスメント(2) 14 5. 栄養 食事アセスメント 2 ④成果 アウトカム outcome の予測 合併症 死亡 5. 栄養 食事 アセスメント 2 率 ケア必要度 平均在院日数などの成果が予測出来 るかどうか 疾患別に検討されている 一般病棟の高 齢患者では総蛋白質 血清アルブミン リンパ球数と 1. 栄養状態の評価 判定の定義と目標 術後合併症併発 一般病棟内科疾患患者ではアルブミ ① 栄養状態の評価 判定 栄養状態が過剰あるいは欠乏

More information

01 表紙

01 表紙 第 11 節 / 心疾患による障害 心疾患による障害の程度は 次により認定する 1 認定基準 心疾患による障害については 次のとおりである 令別表障害の程度障害の状態 国年令別表厚年令別表第 1 1 級 身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって 日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって

More information

心疾患患による死亡亡数等 平成 28 年において 全国国で約 20 万人が心疾疾患を原因として死亡しており 死死亡数全体の 15.2% を占占め 死亡順順位の第 2 位であります このうち本県の死亡死亡数は 1,324 人となっています 本県県の死亡率 ( 人口 10 万対 ) は 概概ね全国より高

心疾患患による死亡亡数等 平成 28 年において 全国国で約 20 万人が心疾疾患を原因として死亡しており 死死亡数全体の 15.2% を占占め 死亡順順位の第 2 位であります このうち本県の死亡死亡数は 1,324 人となっています 本県県の死亡率 ( 人口 10 万対 ) は 概概ね全国より高 第 3 節心筋梗塞等の心血管疾患 現状と課題データ分析 心疾患の推計患者数 全国で 平成 27 年において救急車で搬送される患者の約 8.6% 約 30.2 万人が心疾患の患者であると推計されています ( 平成 28 年度版救急 救助の現況 ) また 全国で 平成 26 年度において継続的な治療を受けている患者数は 急性心筋梗塞 ( 1) 等の虚血性心疾患では約 78 万人 大動脈瘤及び大動脈解離

More information

(2) レパーサ皮下注 140mgシリンジ及び同 140mgペン 1 本製剤については 最適使用推進ガイドラインに従い 有効性及び安全性に関する情報が十分蓄積するまでの間 本製剤の恩恵を強く受けることが期待される患者に対して使用するとともに 副作用が発現した際に必要な対応をとることが可能な一定の要件

(2) レパーサ皮下注 140mgシリンジ及び同 140mgペン 1 本製剤については 最適使用推進ガイドラインに従い 有効性及び安全性に関する情報が十分蓄積するまでの間 本製剤の恩恵を強く受けることが期待される患者に対して使用するとともに 副作用が発現した際に必要な対応をとることが可能な一定の要件 保医発 0331 第 9 号 平成 29 年 3 月 31 日 地方厚生 ( 支 ) 局医療課長都道府県民生主管部 ( 局 ) 国民健康保険主管課 ( 部 ) 長都道府県後期高齢者医療主管部 ( 局 ) 後期高齢者医療主管課 ( 部 ) 長 殿 厚生労働省保険局医療課長 ( 公印省略 ) 抗 PCSK9 抗体製剤に係る最適使用推進ガイドラインの策定に伴う留意事項の 一部改正について 抗 PCSK9

More information

糖尿病経口薬 QOL 研究会研究 1 症例報告書 新規 2 型糖尿病患者に対する経口糖尿病薬クラス別の治療効果と QOL の相関についての臨床試験 施設名医師氏名割付群記入年月日 症例登録番号 / 被験者識別コード / 1/12

糖尿病経口薬 QOL 研究会研究 1 症例報告書 新規 2 型糖尿病患者に対する経口糖尿病薬クラス別の治療効果と QOL の相関についての臨床試験 施設名医師氏名割付群記入年月日 症例登録番号 / 被験者識別コード / 1/12 症例報告書 新規 2 型糖尿病患者に対する経口糖尿病薬クラス別の治療効果と QOL の相関についての臨床試験 施設名医師氏名割付群記入年月日 症例登録番号 / 被験者識別コード / 1/12 患者背景同意取得時から試験開始までの状況について記入 性別 男 女 年齢生年月日 歳 西暦年月日 身長. cm 体重. kg 腹囲. cm 糖尿病罹病期間 西暦年月 ~ 現在 喫煙 合併症 あり なし飲酒 あり

More information

認定看護師教育基準カリキュラム

認定看護師教育基準カリキュラム 認定看護師教育基準カリキュラム 分野 : 慢性心不全看護平成 28 年 3 月改正 ( 目的 ) 1. 安定期 増悪期 人生の最終段階にある慢性心不全患者とその家族に対し 熟練した看護技術を用いて水準の高い看護実践ができる能力を育成する 2. 安定期 増悪期 人生の最終段階にある慢性心不全患者とその家族の看護において 看護実践を通して他の看護職者に対して指導ができる能力を育成する 3. 安定期 増悪期

More information

平成 26 年 ₇ 月 15 日発行広島市医師会だより ( 第 579 号付録 ) 2.NT-proBNP の臨床的意義 1 心不全 ( 収縮及び拡張機能障害 ) で早期より測定値が上昇するため 疾患の診断や病状の経過観察さらには予後予測等に活用できます 2NT-proBNP の測定値は疾患の重症度

平成 26 年 ₇ 月 15 日発行広島市医師会だより ( 第 579 号付録 ) 2.NT-proBNP の臨床的意義 1 心不全 ( 収縮及び拡張機能障害 ) で早期より測定値が上昇するため 疾患の診断や病状の経過観察さらには予後予測等に活用できます 2NT-proBNP の測定値は疾患の重症度 平成26 年7 月平成 26 年 ₇ 月 15 日発行広島市医師会だより ( 第 579 号付録 ) 免疫血清部門 尿一般部門病理部門細胞診部門血液一般部門生化学部門先天性代謝異常部門 細菌部門 NT-proBNP ~ 心不全マーカーと生活習慣病との関連性 ~ 検査 ₁ 科自動 生化学係 はじめに心不全診療において心筋バイオマーカーである NT-proBNP や BNP の測定は重要な検査として位置づけられています

More information

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規 論文の内容の要旨 論文題目アンジオテンシン受容体拮抗薬テルミサルタンの メタボリックシンドロームに対する効果の検討 指導教員門脇孝教授 東京大学大学院医学系研究科 平成 19 年 4 月入学 医学博士課程 内科学専攻 氏名廣瀬理沙 要旨 背景 目的 わが国の死因の第二位と第三位を占める心筋梗塞や脳梗塞などの心血管疾患を引き起こす基盤となる病態として 過剰なエネルギー摂取と運動不足などの生活習慣により内臓脂肪が蓄積する内臓脂肪型肥満を中心に

More information

PowerPoint プレゼンテーション

PowerPoint プレゼンテーション 高齢者の臨床検査データの診方 ( 見方 ) 考え方 ~ 注意すべきポイント ~ 2017.7.15 ( 株 ) 兵庫県登録衛生検査センター一般社団法人日本健康倶楽部和田山診療所 山口宏茂 1 この違いは何故でしょうか? 1) RBC 380 万 /μl Hb9.8g/L 40 歳男性貧血の原因精査 ( 消化管出血 悪性腫瘍 血液疾患など ) 89 歳女性精査を行うことは極めて少ない ( 前回値にもよるが

More information

大規模臨床データベースにおける プロジェクト設計の評価基準

大規模臨床データベースにおける プロジェクト設計の評価基準 JACVSD 2013 年の項目改定に関して 2012 年 10 月 18 日福岡サンパレス JACVSD DM 会議 東京大学大学院医学系研究科医療品質評価学講座 主な改定内容 1. 項目検討委員会,PCI 合同データベースワーキンググループの意見を参考, 項目の定義や選択肢の修正, 項目の追加, 削除を行った. 2. STS DB(Society of Thoracic Surgeons National

More information

背景 急性大動脈解離は致死的な疾患である. 上行大動脈に解離を伴っている急性大動脈解離 Stanford A 型は発症後の致死率が高く, それ故診断後に緊急手術を施行することが一般的であり, 方針として確立されている. 一方上行大動脈に解離を伴わない急性大動脈解離 Stanford B 型の治療方法

背景 急性大動脈解離は致死的な疾患である. 上行大動脈に解離を伴っている急性大動脈解離 Stanford A 型は発症後の致死率が高く, それ故診断後に緊急手術を施行することが一般的であり, 方針として確立されている. 一方上行大動脈に解離を伴わない急性大動脈解離 Stanford B 型の治療方法 学位論文の要約 Mid-Term Outcomes of Acute Type B Aortic Dissection in Japan Single Center ( 急性大動脈解離 Stanford B 型の早期 遠隔期成績 ) 南智行 横浜市立大学医学研究科 外科治療学教室 ( 指導教員 : 益田宗孝 ) 背景 急性大動脈解離は致死的な疾患である. 上行大動脈に解離を伴っている急性大動脈解離

More information

Philips iCT spを導入して ー循環器医の立場でー

Philips iCT spを導入して ー循環器医の立場でー 12-0721 第 58 回北陸循環器核医学研究会 in 金沢 インターベンション治療医から 見た心臓 CT の有用性 射水市民病院循環器科 上野博志 冠動脈 CT の役割 診断に用いる 多列化 高速化により高心拍 不整脈にも対応し 幅広い患者層の診断が可能陰性的中率のみならず 陽性的中率も高くなってきた 虚血性心疾患を診断するにあたり 冠動脈 CT 検査の有用性は確立されている 治療時のサポート

More information

HOSPEQ 2015 PCI治療の現状と未来

HOSPEQ 2015 PCI治療の現状と未来 日本の PCI 治療の現状と未来 2015 年 8 月 21 日日本医疗器械科技协会第 2 カテーテル部会宮道雅也 1 本日の内容 PCI 治療とは 1 心疾患の日本での現状 2 病気と治療方法 日本の PCI 治療の進歩 1 PCI 治療の歴史 2 慢性完全閉塞 (CTO) への挑戦 日本から世界へ 1 日本からのドクター海外普及活動意義 2 中国での今後の展望 2 PCI 治療とは PCI (Percutaneous

More information

Microsoft Word - 【セット版】別添資料2)環境省レッドリストカテゴリー(2012)

Microsoft Word - 【セット版】別添資料2)環境省レッドリストカテゴリー(2012) 別添資料 2 環境省レッドリストカテゴリーと判定基準 (2012) カテゴリー ( ランク ) 今回のレッドリストの見直しに際して用いたカテゴリーは下記のとおりであり 第 3 次レッド リスト (2006 2007) で使用されているカテゴリーと同一である レッドリスト 絶滅 (X) 野生絶滅 (W) 絶滅のおそれのある種 ( 種 ) Ⅰ 類 Ⅰ 類 (hreatened) (C+) (C) ⅠB

More information

Microsoft PowerPoint - 薬物療法専門薬剤師制度_症例サマリー例_HP掲載用.pptx

Microsoft PowerPoint - 薬物療法専門薬剤師制度_症例サマリー例_HP掲載用.pptx 薬物療法専門薬剤師の申請 及び症例サマリーに関する Q&A 注意 : 本 Q&A の番号は独立したものであり 医療薬学会 HP にある 薬物療法専門薬剤師制度の Q&A の番号と関連性はありません 薬物療法専門薬剤師認定制度の目的 幅広い領域の薬物療法 高い水準の知識 技術及び臨床能力を駆使 他の医療従事者と協働して薬物療法を実践 患者に最大限の利益をもたらす 国民の保健 医療 福祉に貢献することを目的

More information

資料 3 1 医療上の必要性に係る基準 への該当性に関する専門作業班 (WG) の評価 < 代謝 その他 WG> 目次 <その他分野 ( 消化器官用薬 解毒剤 その他 )> 小児分野 医療上の必要性の基準に該当すると考えられた品目 との関係本邦における適応外薬ミコフェノール酸モフェチル ( 要望番号

資料 3 1 医療上の必要性に係る基準 への該当性に関する専門作業班 (WG) の評価 < 代謝 その他 WG> 目次 <その他分野 ( 消化器官用薬 解毒剤 その他 )> 小児分野 医療上の必要性の基準に該当すると考えられた品目 との関係本邦における適応外薬ミコフェノール酸モフェチル ( 要望番号 資料 3 1 医療上の必要性に係る基準 への該当性に関する専門作業班 (WG) の評価 < 代謝 その他 WG> 目次 小児分野 医療上の必要性の基準に該当すると考えられた品目 との関係本邦における適応外薬ミコフェノール酸モフェチル ( 要望番号 ;II-231) 1 医療上の必要性の基準に該当しないと考えられた品目 本邦における適応外薬ミコフェノール酸モフェチル

More information

<4D F736F F D E C CD89F382EA82E982B182C682AA82A082E991BA8FBC90E690B6816A2E646F63>

<4D F736F F D E C CD89F382EA82E982B182C682AA82A082E991BA8FBC90E690B6816A2E646F63> 心不全 : ポンプは壊れることがある? 国際医療センター心臓内科 村松俊裕 1. はじめに心不全は聞きなれた言葉かと思いますが 心不全とは心臓のポンプとしての働きが壊れたことを指すもので 病名ではありません 心不全の原因となるものとして虚血性心疾患 ( 狭心症 心筋梗塞 ) 弁膜症 心筋症 高血圧 不整脈など多くの疾患が挙げられます 高齢化社会を反映して また従来は亡くなったかもしれない心筋梗塞などの患者さんも

More information

Title

Title Clinical question 2014 年 7 月 28 日 JHOSPITALIST Network 左室収縮障害を伴う広範な前壁中隔梗塞では 左室内血栓が無くても抗凝固療法を行うべきか 東京ベイ 浦安市川医療センター福井悠 監修山田徹 分野 : 循環器テーマ : 治療 高血圧 高脂血症 喫煙歴のある 62 歳男性 胸痛で受診 心電図で前壁中隔誘導のST 上昇 アスピリン200mg クロピドグレル300mgが投与され

More information

未承認薬 適応外薬の要望に対する企業見解 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 会社名要望された医薬品要望内容 CSL ベーリング株式会社要望番号 Ⅱ-175 成分名 (10%) 人免疫グロブリン G ( 一般名 ) プリビジェン (Privigen) 販売名 未承認薬 適応 外薬の分類

未承認薬 適応外薬の要望に対する企業見解 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 会社名要望された医薬品要望内容 CSL ベーリング株式会社要望番号 Ⅱ-175 成分名 (10%) 人免疫グロブリン G ( 一般名 ) プリビジェン (Privigen) 販売名 未承認薬 適応 外薬の分類 未承認薬 適応外薬の要望に対する企業見解 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 会社名要望された医薬品要望内容 CSL ベーリング株式会社要望番号 Ⅱ-175 成分名 (10%) 人免疫グロブリン G ( 一般名 ) プリビジェン (Privigen) 販売名 未承認薬 適応 外薬の分類 ( 該当するものにチェックする ) 効能 効果 ( 要望された効能 効果について記載する ) ( 要望されたについて記載する

More information

帝京大学 CVS セミナー スライドの説明 感染性心内膜炎は 心臓の弁膜の感染症である その結果 菌塊が血中を流れ敗血症を引き起こす危険性と 弁膜が破壊され急性の弁膜症による心不全を発症する危険性がある 治療には 内科治療として抗生物質の投与と薬物による心不全コントロールがあり 外科治療として 菌を

帝京大学 CVS セミナー スライドの説明 感染性心内膜炎は 心臓の弁膜の感染症である その結果 菌塊が血中を流れ敗血症を引き起こす危険性と 弁膜が破壊され急性の弁膜症による心不全を発症する危険性がある 治療には 内科治療として抗生物質の投与と薬物による心不全コントロールがあり 外科治療として 菌を スライドの説明 感染性心内膜炎は 心臓の弁膜の感染症である その結果 菌塊が血中を流れ敗血症を引き起こす危険性と 弁膜が破壊され急性の弁膜症による心不全を発症する危険性がある 治療には 内科治療として抗生物質の投与と薬物による心不全コントロールがあり 外科治療として 菌を除去し弁形成や弁置換で弁機能を回復させる方法がある ではどちらの治療が有効なのであろうか これまでの研究をみると ( 関連資料参照

More information

P001~017 1-1.indd

P001~017 1-1.indd 1 クリアランスギャップの理論 透析量の質的管理法 クリアランスギャップ の基礎 はじめに標準化透析量 : Kt /V は, 尿素窒素クリアランス : K(mL/min), 透析時間 : t(min),urea 分布容積 体液量 (ml) から構成される指標であり, 慢性維持透析患者の長期予後規定因子であることが広く認識されている 1-3). しかし, 一方で Kt /V はバスキュラーアクセス (VA)

More information

2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります 2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にありますが 本邦の結核では高齢者結核が多いのが特徴です 結核診療における主な検査法を示します ( 図 1) 従来の細菌学的な抗酸菌の塗抹

More information

(別添様式1)

(別添様式1) 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 1. 要望内容に関連する事項 要望者 ( 該当するものにチェックする ) 学会 ( 学会名 ; 日本呼吸器学会 ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 優先順位 2 位 ( 全 6 要望中 ) 要望する医薬品 成 分 名 ( 一般名 ) 販 売 名 会 社 名 国内関連学会 シクロスポリンネオーラルノバルテイス ファーマ ( 選定理由 )

More information

スライド 1

スライド 1 1. 血液の中に存在する脂質 脂質異常症で重要となる物質トリグリセリド ( 中性脂肪 :TG) 動脈硬化に深く関与する 脂質の種類 トリグリセリド :TG ( 中性脂肪 ) リン脂質 遊離脂肪酸 特徴 細胞の構成成分 ホルモンやビタミン 胆汁酸の原料 動脈硬化の原因となる 体や心臓を動かすエネルギーとして利用 皮下脂肪として貯蔵 動脈硬化の原因となる 細胞膜の構成成分 トリグリセリド ( 中性脂肪

More information

1. 期外収縮 正常なリズムより早いタイミングで心収縮が起きる場合を期外収縮と呼び期外収縮の発生場所によって 心房性期外収縮と心室性期外収縮があります 期外収縮は最も発生頻度の高い不整脈で わずかな期外収縮は多くの健康な人でも発生します また 年齢とともに発生頻度が高くなり 小学生でもみられる事もあ

1. 期外収縮 正常なリズムより早いタイミングで心収縮が起きる場合を期外収縮と呼び期外収縮の発生場所によって 心房性期外収縮と心室性期外収縮があります 期外収縮は最も発生頻度の高い不整脈で わずかな期外収縮は多くの健康な人でも発生します また 年齢とともに発生頻度が高くなり 小学生でもみられる事もあ 不整脈レポート このレポートは過去 当会が開催してきました初心者勉強会や講演会を基にし記述しております これをお読みになって少しでもご自分の身体の事を理解されてより安心した生活を送られる事を節に願います 通常 心臓は規則正しいリズムで動いています この規則正しいリズムを維持するために心臓には刺激伝導系と呼ばれるものがあります 刺激伝導系は刺激を発生する洞結節と その刺激を心筋に伝える伝導部分からなります

More information

葉酸とビタミンQ&A_201607改訂_ indd

葉酸とビタミンQ&A_201607改訂_ indd L FO AT E VI TAMI NB12 医療関係者用 葉酸 とビタミンB ビタミンB12 アリムタ投与に際して 警告 1 本剤を含むがん化学療法に際しては 緊急時に十分対応できる医療施設において がん化学療 法に十分な知識 経験を持つ医師のもとで 本剤の投与が適切と判断される症例についてのみ投 与すること 適応患者の選択にあたっては 各併用薬剤の添付文書を参照して十分注意すること また 治療開始に先立ち

More information

資料

資料 Lecture1 疾患概念と病態 虚血性心疾患とは心筋への酸素の供給が需要を下回り 心筋に虚血による障害が起こった状態を指す この疾患群の代表的なものが狭心症や心筋梗塞である 酸素供給のアンバランスは 冠動脈の狭窄や閉塞 攣縮を背景とした 1 冠血流の減少 2 酸素運搬能の障害 3 心筋酸素需要の増加により引き起こされる 狭心症発作は一過性の心筋虚血で胸痛が生じている状態であり 心筋梗塞は心筋虚血の継続により心筋が不可逆的な壊死に陥った状態といえる

More information

研究協力施設における検討例 病理解剖症例 80 代男性 東京逓信病院症例 1 検討の概要ルギローシスとして矛盾しない ( 図 1) 臨床診断 慢性壊死性肺アスペルギルス症 臨床経過概要 30 年前より糖尿病で当院通院 12 年前に狭心症で CABG 施行 2 年前にも肺炎で入院したが 1 年前に慢性

研究協力施設における検討例 病理解剖症例 80 代男性 東京逓信病院症例 1 検討の概要ルギローシスとして矛盾しない ( 図 1) 臨床診断 慢性壊死性肺アスペルギルス症 臨床経過概要 30 年前より糖尿病で当院通院 12 年前に狭心症で CABG 施行 2 年前にも肺炎で入院したが 1 年前に慢性 研究協力施設における検討例 病理解剖症例 80 代男性 東京逓信病院症例 1 検討の概要ルギローシスとして矛盾しない ( 図 1) 臨床診断 慢性壊死性肺アスペルギルス症 臨床経過概要 30 年前より糖尿病で当院通院 12 年前に狭心症で CABG 施行 2 年前にも肺炎で入院したが 1 年前に慢性壊死性肺アスペルギルス症の診断となる 1 か月前にも肺炎で入院し 軽快退院したが 1 週間後より呼吸状態が再び悪化して再入院

More information

094.原発性硬化性胆管炎[診断基準]

094.原発性硬化性胆管炎[診断基準] 94 原発性硬化性胆管炎 概要 1. 概要原発性硬化性胆管炎 (PSC) は 肝内外の胆管の線維性狭窄を生じる進行性の慢性炎症疾患である 胆管炎 AIDS の胆管障害 胆管悪性腫瘍 (PSC 診断後及び早期癌は例外 ) 胆道の手術や外傷 総胆管結石 先天性胆道異常 腐食性硬化性胆管炎 胆管の虚血性狭窄 floxuridine 動注による胆管障害や狭窄に伴うものは 2 次性硬化性胆管炎として除外される

More information

スライド 1

スライド 1 感染と CRP 感染と CRP メニュー 1.Sepsis 1 診断的 価値 Intensive Care Med 2002 2 重症度 3 治療効果 予後判定 判定 Crit Care 2011 Infection 2008 2.ICU Patients 3.VAP Crit Care 2006 Chest 2003 Crit Care Med 2002 Heart & Lung 2011

More information

更生相談・判定依頼のガイド

更生相談・判定依頼のガイド 自立支援医療 ( 更生医療 ) 内容意見書 ( 心臓疾患用 ) 申請の区分 : 新規 継続 ( 期間延長 ) 内容変更 ( ) フリガナ氏名 性別男 女 生年月日 大正 昭和 平成 年 月 日 年齢 才 住所 : 電話 : 障害名 : 心臓機能障害級 ( 有 申請中 ) 原傷病名 : (1) 上記の機能障害を起こした年月日 : 平成年月日推定 確認 不詳 先天性 (2) 障害が永続すると判定された年月日

More information

自動車運送事業者における 心臓疾患大血管疾患 対策ガイドライン 概要版 本ガイドラインのポイント 実践 業者が実施スクリーニング検査事医療機関が実施事業者が実施知識 健康起因事故の原因となる心臓疾患 大血管疾患 疾患の原因と予防 ( 参考 ) 関係法令について 心臓疾患 大血管疾患の早期発見と発症予

自動車運送事業者における 心臓疾患大血管疾患 対策ガイドライン 概要版 本ガイドラインのポイント 実践 業者が実施スクリーニング検査事医療機関が実施事業者が実施知識 健康起因事故の原因となる心臓疾患 大血管疾患 疾患の原因と予防 ( 参考 ) 関係法令について 心臓疾患 大血管疾患の早期発見と発症予 自動車運送事業者における 心臓疾患大血管疾患 対策ガイドライン 概要版 本ガイドラインのポイント 実践 業者が実施スクリーニング検査事医療機関が実施事業者が実施知識 健康起因事故の原因となる心臓疾患 大血管疾患 疾患の原因と予防 ( 参考 ) 関係法令について 心臓疾患 大血管疾患の早期発見と発症予防のための実施事項 重篤な疾患を見逃さないために注意すべき症状 を把握 症状あり 疾患を見逃さないため

More information

スライド 1

スライド 1 2018.7.18 @ Watanabe Hospital 脂質異常症について ~ 脂質の種類と合併症 ~ 医療法人瑞心会渡辺病院 統括部長 中村了 脂質の種類は? 血液中の脂質の状態を知ろう! コレステロール : 細胞の膜を構成したり胆汁やホルモンの原料になったりいわば体を構成するための材料となるような脂質 LDL-C:LDLの中に含まれているコレステロールのこと ( 通称 悪玉コレステロール )

More information

循環器内科後期研修プログラム 1 循環器内科の概要和歌山県立医大附属病院での基準病床数は循環器内科 45 床 ( 内 CCU5 床 ) であり 冠動脈疾患をはじめ 心不全 不整脈 心筋症 弁膜症 血管疾患などの循環器疾患全般を担当しています 外来 入院患者さんに対してはまず Physical Exa

循環器内科後期研修プログラム 1 循環器内科の概要和歌山県立医大附属病院での基準病床数は循環器内科 45 床 ( 内 CCU5 床 ) であり 冠動脈疾患をはじめ 心不全 不整脈 心筋症 弁膜症 血管疾患などの循環器疾患全般を担当しています 外来 入院患者さんに対してはまず Physical Exa 循環器内科後期研修プログラム 1 循環器内科の概要和歌山県立医大附属病院での基準病床数は循環器内科 45 床 ( 内 CCU5 床 ) であり 冠動脈疾患をはじめ 心不全 不整脈 心筋症 弁膜症 血管疾患などの循環器疾患全般を担当しています 外来 入院患者さんに対してはまず Physical Examination に重点をおいた非侵襲的な評価診断を基本とする姿勢をくずさないように心がけています また

More information

表紙.indd

表紙.indd 教育実践学研究 23,2018 1 Studies of Educational Psychology for Children (Adults) with Intellectual Disabilities * 鳥海順子 TORIUMI Junko 要約 : 本研究では, の動向を把握するために, 日本特殊教育学会における過去 25 年間の学会発表論文について分析を行った 具体的には, 日本特殊教育学会の1982

More information

症例_佐藤先生.indd

症例_佐藤先生.indd 症例報告 JNET 7:259-265, 2013 後拡張手技を行わない頚動脈ステント留置術後の過灌流状態においてくも膜下出血とステント閉塞を来した 1 例 Case of Subarachnoid Hemorrhage and In-Stent Occlusion Following Carotid rtery Stenting without Post alloon Dilatation ccompanied

More information

10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32 白血球増加の初期対応 白血球増加が 30,000~50,000/μL 以上と著明であれば, 白血病の可能性が高い すぐに専門施設 ( ) に紹介しよう ( 図 1) 白血球増加があれば, まず発熱など感染症を疑う症状 所見に注目しよう ( 図 1) 白血球増加があれば, 白血球分画を必ずチェックしよう 成熟好中球 ( 分葉核球や桿状核球 ) 主体の増加なら, 反応性好中球増加として対応しよう ( 図

More information

また リハビリテーションの種類別では 理学療法はいずれの医療圏でも 60% 以上が実施したが 作業療法 言語療法は実施状況に医療圏による差があった 病型別では 脳梗塞の合計(59.9%) 脳内出血 (51.7%) が3 日以内にリハビリテーションを開始した (6) 発症時の合併症や生活習慣 高血圧を

また リハビリテーションの種類別では 理学療法はいずれの医療圏でも 60% 以上が実施したが 作業療法 言語療法は実施状況に医療圏による差があった 病型別では 脳梗塞の合計(59.9%) 脳内出血 (51.7%) が3 日以内にリハビリテーションを開始した (6) 発症時の合併症や生活習慣 高血圧を 栃木県脳卒中発症登録 5 ヵ年の状況 資料 2 1 趣旨栃木県では平成 10 年度から脳卒中発症登録事業として 県内約 30 の医療機関における脳卒中の発症状況を登録し 発症の危険因子や基礎疾患の状況 病型等の発症動向の把握に取り組んでいる 医療機関から保健環境センターに登録されるデータは年間約 4,200 件であり これまでに約 8 万件のデータが同センターに蓄積されている 今回 蓄積データのうち

More information

心不全とは?(Fig.3) 心機能低下に起因する循環不全 と定義され 心臓が全身の組織における代謝の必要量に応じて 血液を十分駆出できない状態です 発症の仕方により 急性心不全 (acute heart failure:ahf) と慢性心不全 (chronic heart failure:chf)

心不全とは?(Fig.3) 心機能低下に起因する循環不全 と定義され 心臓が全身の組織における代謝の必要量に応じて 血液を十分駆出できない状態です 発症の仕方により 急性心不全 (acute heart failure:ahf) と慢性心不全 (chronic heart failure:chf) 心不全 心臓とは? 左右の肺に囲まれ 下方は横隔膜に接した全身に血液を送り出す臓器です (Fig.1) 右心房 右心室 左心房 左心室の 4 つの部屋で構成され 右心房には上 下大静脈 左心房には肺静脈が流入し 右心室から肺動脈 左心室からは大動脈が駆出しています 心房と心室の境に房室弁 ( 三尖弁 僧帽弁 ) 動脈の出口に動脈弁( 肺動脈弁 大動脈弁 ) があります (Fig.2) が これらの弁の狭窄や閉鎖不全

More information

Microsoft Word - 【最終】05.PRECISE-IVUSプレスリリース原稿案

Microsoft Word - 【最終】05.PRECISE-IVUSプレスリリース原稿案 国立大学法人熊本大学 報道機関各位 平成 27 年 7 月 28 日 熊本大学 二つの薬の併用で冠動脈プラークを劇的に退縮 - 心筋梗塞発症予防に向けた新たな治療法 - 熊本大学大学院生命科学研究部循環器内科学 ( 小川久雄教授 ) の辻田賢一講師らは 標準的な脂質低下治療薬 スタチン と併用してコレステロール吸収阻害薬 エゼチミブ 投与することで 標準的な治療に比べて強力な脂質低下効果と冠動脈プラーク退縮

More information

ストラクチャークラブ ジャパン COI 開示 発表者名 : 高木祐介 演題発表に関連し, 開示すべき COI 関係にある 企業などはありません.

ストラクチャークラブ ジャパン COI 開示 発表者名 : 高木祐介 演題発表に関連し, 開示すべき COI 関係にある 企業などはありません. ストラクチャークラブ ジャパンライブデモンストレーション 2017 < Others BAV > 心不全急性期における BAV 高木祐介 いわき市立総合磐城共立病院循環器内科 ストラクチャークラブ ジャパン COI 開示 発表者名 : 高木祐介 演題発表に関連し, 開示すべき COI 関係にある 企業などはありません. Q. 治療抵抗性の AS の心不全がいます. AVR も TAVI も難しく,

More information

Clinical Training 2007

Clinical Training 2007 12 誘導と ST 虚血性心疾患 = 冠動脈疾患 冠動脈が完全に又は一時的に塞がり ( 狭くなり ) 心筋に血液が流れなくなり心筋虚血が起こった部位に刺激が伝わらなくなる 心電図に変化が現れる 狭心症一過性に心筋虚血がおこる < 原因 > 動脈硬化による冠動脈の狭窄 冠動脈自体の攣宿 ( スパズム ) < 種類 > 労作性狭心症 ( 労作時 ST 低下 ) 異型狭心症( 発作時 ST 上昇 ) 心筋梗塞心筋が限局性に壊死

More information

課題名

課題名 非心臓手術の周術期管理における心エコー検査の実態および有用性 の検討 : 多施設共同登録 観察研究 作成 : 徳島大学病院循環器内科助教楠瀬賢也 平成 28 年 4 月 27 日版数 1 目次 1. 実施計画の経緯 ( 背景 )... 1 2. 目的... 1 3. 研究の対象について... 1 3-1 選択基準... 1 3-2 除外基準... 1 3-3 中止基準... 1 4. 試料 ( 資料

More information

座談会 Round Table Discussion 末梢動脈疾患におけるこれからの脂質低下療法を考える PAD に対しては, 脚の病変部分だけでなく, 冠動脈疾患や脳血管障害の予防を見据えた治療対策を常に考慮しておく必要があります 中村正人 ( 座長 ) 東邦大学医療センター大橋病院循環器内科教授

座談会 Round Table Discussion 末梢動脈疾患におけるこれからの脂質低下療法を考える PAD に対しては, 脚の病変部分だけでなく, 冠動脈疾患や脳血管障害の予防を見据えた治療対策を常に考慮しておく必要があります 中村正人 ( 座長 ) 東邦大学医療センター大橋病院循環器内科教授 提供 : サノフィ株式会社 座談会 Round Table Discussion 末梢動脈疾患におけるこれからの脂質低下療法を考える Round Table Discussion Taketsugu Tsuchiya Daizo Kawasaki Masato Nakamura Katsuhiko Sato 出席者 ( 発言順 / 敬称略 ) 中村正人 ( 座長 ) 東邦大学医療センター大橋病院循環器内科教授

More information

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果 2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果汁飲料 ) の飲用試験を実施した結果 アトピー性皮膚炎症状を改善する効果が確認されました なお 本研究成果は

More information

95_財団ニュース.indd

95_財団ニュース.indd NO. 95 平成 21 年 7 月 1 日発行 No.95 日本リウマチ財団ニュース 表 1 ACR-EULAR 関節リウマチ診断基準 分類基準 試案 eular 2009, 岡田正人 訳 上を診断とするかはこれから決 score 0 22 34 定され また この項目と点数 0 6 印象も受けるが 時代とともに PIP,MCP,MTP, 手関節 4箇所以上非対称性 4箇所以上対称性 10

More information

ン (LVFX) 耐性で シタフロキサシン (STFX) 耐性は1% 以下です また セフカペン (CFPN) およびセフジニル (CFDN) 耐性は 約 6% と耐性率は低い結果でした K. pneumoniae については 全ての薬剤に耐性はほとんどありませんが 腸球菌に対して 第 3 世代セフ

ン (LVFX) 耐性で シタフロキサシン (STFX) 耐性は1% 以下です また セフカペン (CFPN) およびセフジニル (CFDN) 耐性は 約 6% と耐性率は低い結果でした K. pneumoniae については 全ての薬剤に耐性はほとんどありませんが 腸球菌に対して 第 3 世代セフ 2012 年 12 月 5 日放送 尿路感染症 産業医科大学泌尿器科学教授松本哲朗はじめに感染症の分野では 抗菌薬に対する耐性菌の話題が大きな問題点であり 耐性菌を増やさないための感染制御と適正な抗菌薬の使用が必要です 抗菌薬は 使用すれば必ず耐性菌が出現し 増加していきます 新規抗菌薬の開発と耐性菌の増加は 永遠に続く いたちごっこ でしょう しかし 近年 抗菌薬の開発は世界的に鈍化していますので

More information

2

2 2008 No.236 2 4 5 6 7 9 8 11 10 12 [ ESSAY ] MY HOBBY IS RADIO PROGRAMS PRODUCTION 13 85 81 82 83 84 90 85 86 87 88 90 89 91 92 メタボ対策にもってこい 特定健診 特定健診 異常値を早期発見し 早期治療 へ導くための健診でした 異常値になる前にそのリスク対象者を発見して 生活習慣を改善し健康へ導くための健診です

More information

冠動脈イメージングと脂質低下療法

冠動脈イメージングと脂質低下療法 提供 : サノフィ株式会社 2017 年 3 月作成 SAJP.ALI.17.02.0357 冠動脈イメージングと脂質低下療法 Coronary artery imaging for lipid-lowering therapy 座長ディスカッサント ( 発言順 ) 久保隆史先生 Takashi Kubo 和歌山県立医科大学循環器内科准教授 前原晶子先生 Akiko Maehara Assistant

More information

を示しています これを 2:1 房室ブロックと言います 設問 3 正解 :1 ブルガダ型心電図正解率 96% この心電図の所見は 心拍数 56/ 分 P-P 間隔 R-R 間隔一定の洞調律 電気軸正常です 異常 Q 波は認めません ST 部分をみると特に V1 V2 誘導で正常では基線上にあるべき

を示しています これを 2:1 房室ブロックと言います 設問 3 正解 :1 ブルガダ型心電図正解率 96% この心電図の所見は 心拍数 56/ 分 P-P 間隔 R-R 間隔一定の洞調律 電気軸正常です 異常 Q 波は認めません ST 部分をみると特に V1 V2 誘導で正常では基線上にあるべき 生理機能検査部門平成 26 年度機能検査分野サーベイ報告機能検査分野分野長佐藤譲担当佐藤譲 ( 日本海総合病院 ) 會田志乃 ( 山形市立病院済生館 ) 富樫ルミ ( 山形県立中央病院 ) 牧野恵子 ( 北村山公立病院 ) はじめに 今回のサーベイは簡単な患者情報と心電図から所見を判断する問題 7 題 疾患を推定する問題 3 題 計 10 題出題しました 方法は 各設問 選択肢 5 つの中から最も適当と思われるものを選択する方法を用いました

More information

くろすはーと30 tei

くろすはーと30 tei 1No.30 017 1 脳神経内科 脳神経内科部長 北山 次郎 脳神経外科部長 吉岡 努 皆様へお知らせです 既にお気づきの方もおられる 高脂血症など生活習慣病を背景とした脳血管病変の 013年4月に脳血管内手術を当院に導入するために 代表的な手術として 脳動脈瘤の手術 動脈瘤コイル塞 かとは思いますが このたび016年10月より当院脳 評価や治療にあたる一方で 意識障害 けいれん 頭 赴任し 脳血管内手術の定着のために業務上の調整を

More information

50% であり (iii) 明らかな心臓弁膜症や収縮性心膜炎を認めない (ESC 2012 ガイドライン ) とする HFrEF は (i)framingham 診断基準を満たす心不全症状や検査所見があり (ii) は EF<50% とした 対象は亀田総合病院に 年までに初回発症

50% であり (iii) 明らかな心臓弁膜症や収縮性心膜炎を認めない (ESC 2012 ガイドライン ) とする HFrEF は (i)framingham 診断基準を満たす心不全症状や検査所見があり (ii) は EF<50% とした 対象は亀田総合病院に 年までに初回発症 学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 瀬戸口雅彦 論文審査担当者 主査古川哲史副査下門顕太郎 林丈晴 論文題目 Risk factors for rehospitalization in heart failure with preserved ejection fraction compared with reduced ejection fraction ( 論文内容の要旨 ) < 要旨 > 駆出性の保持された心不全

More information

平成14年度研究報告

平成14年度研究報告 平成 14 年度研究報告 研究テーマ 多嚢胞性卵巣発症に関する遺伝性素因の解析 - PCO の解析 - 北海道大学大学院医学研究科 助手菅原照夫 現所属 : 北海道大学大学院医学研究科 医学部連携研究センター サマリー 多嚢胞性卵巣 (PCO) は生殖可能年齢の婦人の 5 10% に発症する内分泌疾患である 臨床症状は 月経不順 多毛 肥満 排卵障害が主な特徴であり 難治性の不妊症の主な原因である

More information

心臓財団虚血性心疾患セミナー ハイリスク患者の術前評価 原和弘 ( 三井記念病院内科 ) はじめに非心臓手術の周術期には, 心筋梗塞, 不整脈, 心不全などの心血管イベントが生じて, 本来の手術以上に危険が生じる可能性があります. このような危険を回避するために, 日本循環器学会, 米国心臓協会,

心臓財団虚血性心疾患セミナー ハイリスク患者の術前評価 原和弘 ( 三井記念病院内科 ) はじめに非心臓手術の周術期には, 心筋梗塞, 不整脈, 心不全などの心血管イベントが生じて, 本来の手術以上に危険が生じる可能性があります. このような危険を回避するために, 日本循環器学会, 米国心臓協会, 心臓財団虚血性心疾患セミナー ハイリスク患者の術前評価 原和弘 ( 三井記念病院内科 ) はじめに非心臓手術の周術期には, 心筋梗塞, 不整脈, 心不全などの心血管イベントが生じて, 本来の手術以上に危険が生じる可能性があります. このような危険を回避するために, 日本循環器学会, 米国心臓協会, 欧州心臓会議は循環器内科医のみでなく手術を担当する外科医や麻酔科医も参考にできるガイドラインを公表しています

More information

臨床試験の実施計画書作成の手引き

臨床試験の実施計画書作成の手引き 臨床試験実施計画書 汗中乳酸測定システムを用いた 組織酸素代謝評価の検討 聖マリアンナ医科大学救急医学 神奈川県川崎市宮前区菅生 2-16-1 電話 :044-977-8111( 医局内線 3931) 医局 FAX:044-979-1522 責任医師森澤健一郎 kmori0079@yahoo.co.jp 臨床試験実施予定期間 : 承認後 ~ 2018 年 6 月 30 日まで 作成日 :2016 年

More information