公共経済分析I

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1 公共経済分析 I 1 講義ノート3 佐藤主光 ( もとひろ ) 一橋大学経済学研究科 政策大学院

2 財政の 機能 2

3 機能配分論 そもそも政府 ( 国 地方 ) の役割とは? 個別の 施策 事業 単位 ( 保健所の運営 学校の施設管理 介護保険 国民健康保険事業等 ) ではなく 機能 別に理解する 財政の 3 機能 ( マスグレイブ ) ー資源配分機能ー所得再分配機能ー経済安定化機能 規範的 観点からの (i) 政府と市場 ( 民間 ) (ii) 国と地方の役割 ( 機能 ) 分担 3

4 財政の三機能 機能内容規範的位置づけ 資源配分機能 短期 希少な資源の 有効利用促進 長期 経済成長 市場の失敗 の矯正 = 効率性の改善 再分配機能 市場経済で生じる経済 ( 所得 ) 格差の是正 所得分配の公平の確保 経済安定化機能バブルや不況など景気変動幅の縮減 安定的な経済活動の確保 4

5 政府の 機能 表 1: 政府の機能 機能 資源配分 対応する公共政策公共サービスの提供国防 治安 司法 道路 港湾等生活 産業インフラ 教育 医療サービス 都市計画 公園規制環境規制 品質規制 免許制 ( 医者 教員等 ) 土地利用規制リスク ヘッジ ( 保険 ) 社会保障 ( 年金 医療 介護 ) 所得再分配 生活保護 ( 累進的 ) 所得税 経済安定化 ( マクロ政策 ) 金融政策 財政政策 ( 公共投資など ) 5

6 機能と政策 事業 機能アウトカム = 成果 政策アウトプット = 結果 事業インプット 資源配分機能 = 知識 技能の提供 学校教育 カリキュラム 教員配置 校舎の整備 6

7 機能と政策 事業 ( その 2) 機能 政策 事業 アウトカム = 成果 アウトプット = 結果 インプット 所得再分配機能 = 所得格差の是正所得税生活保護 ( セイフティーネット ) 徴税 査察資格調査 給付 7

8 機能と手段 機能 = 効能 効果 手段 = 所定の効能 効果を実現するもの 広義の機能具体的機能具体的政策手段 資源配分機能 地域環境の保全 環境規制 課税環境保全活動への支援都市計画 公園の整備 地域経済の活性化 商店街活性化事業職業訓練インフラの整備 規制など 教育の充実 学校施設の建設 整備教員の採用 配置など 8

9 機能で考える 複数の政策 ( 手段 ) から一つの機能が提供される例 : 医療 学校教育 一つの機能を果たすのに複数の政策手段がありうる例 : 所得再分配 ( 格差是正 ) 一つの制度が複数の 機能 を果たす場合例 : 社会保障 ( 保険 扶助 ) 交付税 ( 財源保障 財政調整 ) 手段 ( 手続き ) ではなく 結果 ( 効能 ) を重視 9

10 機能 目的の混同 政府の対応 子ども手当て経済対策 ( 内需拡大 ) =マクロ経済対策 医師不足 偏在 医師定員の増額 =マクロ管理 本来の課題 少子化対策 子育て支援 = 社会政策医師の配置は? =ミクロの資源配分 財政再建 無駄の削減 ミクロ効率性 総額管理 ( マクロ ) マクロ効率性 ( 持続可能性 ) 10

11 資源配分機能 資源配分機能は単一の政策 制度 事務事業を意味しない 様々な公共サービス 規制体系が経済の資源配分に影響 公共サービス : - インフラ整備 - 学校教育ー介護 医療サービスなど 規制 - 土地利用規制 - 環境規制 - 都市計画など 11

12 経済安定化機能 公共投資の乗数効果 = 派生需要による経済活動の喚起 総支出 B AE=cY+I+G+X-M ΔI A 派生需要 =cδi 0 1 Y 0 ΔI/(1-c) Y 1 産出量 12 =Y

13 GDP ギャップ マクロ需要 GDP ギャップ =35 兆円 (2009) B A C+I+G+(X-M) = マクロ需要 E C 不況のスパイラル 0 1 需要 供給 GDP 13

14 金融 財政政策のポリシーミックス 利子率 LM= 貨幣市場均衡 :M/P=L(Y,r) 金利上昇 クラウディングアウト r 2 r 0 財政出動 F G 金融緩和 E IS= 財市場均衡 :Y=C+I+G+X-M 0 Y 0 Y 2 Y 1 14 産出量

15 総需要 総供給分析 物価水準 不完全雇用 = 右上がりの AS P 1 E 総供給 AS = 労働市場の均衡を反映 デフレの克服 P 0 F 景気対策で有効需要を喚起 0 経済活動の底上げ Y 0 Y 1 総需要 AD 15 産出量

16 景気対策と成長戦略 景気対策 成長戦略 機能経済安定化資源配分機能 手段 金融政策 有効需要管理政策など 規制緩和 競争力 生産性の促進など 経済の効率化 働きかけ需要サイドサプライ ( 供給 ) サイド 目的 経済の変動を抑制 経済の 潜在的 ( 長期的 ) 成長 力の向上 ヒトの体に例えると 体調管理 体力増進 病気に例えると急性疾患の治療慢性疾患への対処 制度改革概ね現行制度を前提構造改革が不可欠 視点短期長期 ( マクロ ) 経済学景気循環論経済成長論 16

17 景気対策で経済成長? リフレ ( デフレ脱却 ) で ( 長期的 ) 経済成長? マクロ経済の 複数均衡 が前提 現状は 悪い均衡 構造改革派 = 現状が日本経済の 実力 実力向上のための構造改革 デフレ 脱デフレ 期待は楽観的 期待は悲観的 現状 = 悪い均衡 経済成長 = 良い均衡 景気は水もの 非伝統的金融政策拡張的財政政策 17

18 公共事業の機能 : 資源配分 社会インフラ ( 例 : 港湾 上下水道 道路 ) の整備 生産性の向上 所得再分配地方圏における雇用確保 ( セイフティーネット ) 経済安定化景気対策 有効需要の喚起 ( ケインズ政策 ) わが国では 都市圏から地方圏への所得再分配 地方圏におけるセイフティーネット ( 雇用 ) のための政策 手段 として公共事業が利用されてきた 改革の方向 : 同じ政策目的 ( 所得再分配 ) を他の手段で充 18 足するか?

19 都道府県別公共投資依存度 (2005 年度 ) y= 一人あたり公的総固定資本形成 ( 千円 ) y = x ,500 2,000 2,500 3,000 3,500 4,000 4,500 5,000 x= 一人あたり県民所得 ( 千円 ) 19 出所 : 県民経済計算

20 機能と手段 所定の機能を有効に達成する手段の選択 政策目的政策手段政策水準 ( 程度 ) 例地域間所得再分配貧困層支援産業振興 経済成長の促進経済安定化公共事業地方交付税 補助金生活保護 失業手当職業訓練 規制 ( 緩和 ) 公共投資水準 (= 公共財供給量 ) 生活保護の給付水準補助金額 評価基準 目的 自体が効率 公平( 社会厚生の増進 ) に即しているか? 所定の 目的 を充当する上で 効率的 公平な 手段 を選択社会的受益とコストを比較 20

21 財政の機能強化 資源配分機能 社会保障財源の安定的確保 = 社会保障制度改革 消費税 所得再分配 低所得者へのセイフティーネット = 給付付き税額控除 経済安定化 損益通算の徹底( 金融所得課税の一体化 ) 課税の自動安定化装置の活用 21

22 機能 ファースト 財政学の視点 = 所定の機能 ( 効能 ) を最も効果的 ( 公平 効率に適うよう ) に達成できる政策手段を選択することが望ましい 財政の実際 = 所定の政策に対して 様々な政策目的 ( 機能 ) が冠される 例 : 公共事業 : 経済安定化 格差是正 子供手当て : 少子化対策 経済対策 既得権益 ( 予算 メンツ等 ) は政策手段に! 22

23 再分配の在り方

24 所得格差の拡大 小泉構造改革 ( 労働市場に対する規制緩和等 ) 経済のグローバル化に伴い所得格差が拡大 (?) 税制 社会保障の再分配機能の強化 が要請 24 出所 : 経済財政諮問会議 ( 平成 21 年 4 月 22 日 )

25 年間所得 150 万円未満の労働比率 25 出所 : 経済財政諮問会議 ( 平成 21 年 4 月 21 日 )

26 再分配への誤解 所得再分配は高所得者 ( 金持ち 大企業 ) への課税だけでは完結しない 政府 低所得者に所得を移転する仕組みが不可欠 低所得者とは誰? 課税 移転 二種類の低所得者 タイプ1= 止むにやまれない事情により低所得に陥る タイプII= 自らの自助努力の欠如の結果 全ての低所得者が弱者ではない 情報の 非対称性 再分配の 歪み 納税者 ( 高所得者 ) 再分配 低所得者 ( 弱者 ) 26

27 再分配における留意点 再分配の 機会コスト 負担増 ( 税金 社会保険料 ) による経済 ( 成長 ) への悪影響 支え手 に対する配慮 過度な再分配は支え手 ( 若年者 企業等 ) を疲弊 投資 としての再分配 = トランポリン型 再分配 ( 就労支援等 ) を通じた支え手の育成 広く社会で支える再分配 ロビンフッド型再分配 再分配のコストを国民の間で広くシェア

28 格差と再分配 問われるのは格差を是正する手段 既存の再分配 ( セイフティーネット ) は新しい格差に対応できない! 既存の再分配手段 新しい課題 公共事業基礎年金生活保護ワーキング プア非正規社員 地方圏の雇用確保高齢者の所得保障 障害者 母子家庭 高齢者が主たる対象 地域を問わず働く若年世帯への支援 ( 医療保険を含む ) が欠如

29 構造改革は悪か? 問題の発生 顕在化 風 (= 構造改革 ) が吹いて木が倒れる (= 格差の顕在化 ) 風 = 原因? きっかけ? 現状 構造改革 現状 新たな セイフティーネットの整備 格差拡大地方経済の疲弊効率と公平の両立

30 格差是正 格差の原因 経済学 経済成長の低下 セイフティーネットの欠如 通念 儲けているヒトがいるから = ゼロ サムゲーム 社会的弱者 弱者も多様 高齢者 農家地方 母子家庭 格差是正 市場原理を重視 金持ち 大企業に課税 友愛

31 再分配における留意点 再分配の 機会コスト 負担増 ( 税金 社会保険料 ) による経済 ( 成長 ) への悪影響 支え手 に対する配慮 過度な再分配は支え手 ( 若年者 企業等 ) を疲弊 投資 としての再分配 = トランポリン型 再分配 ( 就労支援等 ) を通じた支え手の育成 広く社会で支える再分配 ロビンフッド型再分配 再分配のコストを国民の間で広くシェア

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