製造業の雇用削減が本格化し 失業率は5.4% に上昇 雇用情勢の悪化が足元で鮮明になっている 急激な減産局面に突入した昨年 11 月あたりから 派遣切り と言われるような非正規労働者を中心とした解雇に注目が集まったが 実際には今年 2 月まで雇用者数はほぼ横ばいで推移しており (2008 年平均は前

Transcription

1 2009 年 8 月 5 日発行 雇用調整助成金の失業抑制効果 ~ 助成金がなければ失業率は 6% 台に ~ 要旨 急激な雇用情勢の悪化に対応して拡充された雇用調整助成金の申請件数は 6 月段階で 238 万件に達した みずほ総合研究所では 雇用調整助成金による失業抑制効果について試算を行った その結果 6 月に助成金によって抑制された失業者は 45 万人に上る 助成金がなければ 失業率は 6.1% と過去最高水準 (5.5%) を大きく上回るまで上昇していた可能性がある 助成金の支給期限を迎えれば抑制されていた失業者が顕在化する可能性があり 今後は一層の労働移動促進策が望まれよう 調査本部経済調査部大和香織 ( ) kaori.yamato@mizuho-ri.co.jp

2 製造業の雇用削減が本格化し 失業率は5.4% に上昇 雇用情勢の悪化が足元で鮮明になっている 急激な減産局面に突入した昨年 11 月あたりから 派遣切り と言われるような非正規労働者を中心とした解雇に注目が集まったが 実際には今年 2 月まで雇用者数はほぼ横ばいで推移しており (2008 年平均は前年比 +1 万人 ) 製造業に限っても減少幅は緩やかなものにとどまっていた しかし生産が回復に転じた 3 月以降になってむしろ雇用削減は本格化し 6 月の雇用者数は前年比 110 万人 そのうち製造業が同 88 万人と大きく減少するに至った 6 月の失業率 ( 季調値 ) は 5.4% と ほぼ過去最高水準 (5.5%) まで急上昇した ( 図表 1) 雇用情勢の悪化に対処するため政府は昨年来 相次いで雇用対策を打ち出している ( 図表 3) なかでも企業の休業手当等を補填する雇用調整助成金( 以下 雇調金 ) は昨年 12 月に中小企業向けが新設されるなど拡充が進み 申請件数は 6 月段階で 238 万件に上った 規模別にみると中小企業の申請件数が 174 万件と 大企業 (64 万件 ) の倍以上となっており 拡充の効果が窺える ( 図表 2) では実際に こうした政策サポートはどの程度雇用情勢の悪化を防いでいるのか 本稿では一定の仮定の下 雇調金による失業率抑制効果について試算する 図表 1 主要雇用指標の推移図表 2 雇用調整助成金の申請件数 ( 倍 ) 有効求人倍率 失業率 (%) 1.10 ( 右目盛 ) ( 前年比 %) 雇用者数 /1 07/5 07/9 08/1 08/5 08/9 09/1 09/5 ( 注 ) 求人倍率 失業率は季調値 雇用者数は前年比 ( 資料 ) 総務省 労働力調査 厚生労働省 一般職業紹介状況 ( 千人 ) 2,000 1,800 1,600 1,400 1,200 1, 大企業中小企業 08/12 09/1 09/2 09/3 09/4 09/5 09/6 ( 資料 ) 厚生労働省 支給対象 支給要件 図表 3 大企業 雇用調整助成金の概要 売上または生産量の最近 3 カ月平均が その直前 3 カ月平均または前年同期比 5% 以上減少 中小企業 ( 中小企業緊急雇用安定助成金 ) 雇用保険適用事業所 / 雇用保険被保険者 a. 売上または生産量の最近 3 カ月平均が その直前 3 カ月平均または前年同期比減少 b. 前期決算等の経常損益が赤字 abともに該当する必要有 ( 但しaが5% 以上減少している場合 bは不要 ) 支 1 休業 休業手当または賃金の2/3 休業手当または賃金の4/5 給 2 教育訓練 1 日当たり4000 円 (~6/7まで1200 円 ) 1 日当たり6000 円 額 3 出向 出向元が負担する賃金の2/3 出向元が負担する賃金の4/5 支給限度日数 3 年間で300 日 (1 年目で300 日取得可能 ) ( 注 )1. 中小企業の範囲は 中小企業基本法の定義による 2. 休業手当は平均賃金 ( 過去 3カ月間の賃金総額をその期間の総日数で除した金額 ) の6 割以上 3. 教育訓練は通常行われる教育訓練以外のもの 4.09 年 4 月より 大量解雇を行わない等の条件を満たした場合 助成率を上乗せ ( 大企業 : 休業手当の3/4 中小企業:9/10) ( 資料 ) 厚生労働省等資料より みずほ総研作成 1

3 雇調金によって失業率は 0.7%Pt 抑制されていた可能性 本試算では雇調金がなければ失業していた者を潜在失業者とみなし 具体的には 1 カ月を通して休業していた者 と定義する ( 注 1) この定義に従うと 先にみた雇調金の申請件数 (6 月 238 万件 ) をそのまま 6 月の休業者数とみなすことは出来ない その理由の一つには 毎月公表される雇調金申請件数は 休業手当分だけでなく教育訓練を実施した場合もそれぞれ 1 件 ( 対象者 1 人 ) としてカウントされることがある つまり 同一雇用者が休業してかつ教育訓練も受けた場合には 申請件数は 2 件となる また 休業手当は短時間休業の場合も支給対象として認められているため 例えば 1 カ月に 1 時間しか休業しなくとも申請件数 1 件とカウントされていることになる 以上のような教育訓練分や短時間労働者をそのまま潜在失業者数とみなすと 失業率の抑制効果を過大に推計することになるのは明らかであろう ( 注 2) したがって本試算では 休業日一日当たり 1 回の教育訓練を実施すると仮定した上で ( 注 3) 雇調金支給総額を 1 日当たり平均支給額で除して延べ休業日数を算出する そしてこの延べ休業日数を 1 カ月当たり平均所定内労働日数で除した数を潜在失業者数とみなした ( 試算の詳細は図表 4 参照 ) その結果 6 月段階では 45 万人の潜在失業者が存在した計算となる これは労働力人口 (6 月 6,585 万人 ) の 0.7% に相当するため 雇調金がなければ 6 月の失業率は 6.1% と過去最高水準 (5.5%) を大きく上回っていた可能性がある ( 注 1) 潜在失業者はディスカレッジドワーカーや 需要減に伴う供給余剰 ( 雇用保蔵 ) などを指す場合が多いが 本稿では雇調金によって抑制された失業者に限定して用いる ( 注 2) 最近の報道等では 雇調金申請件数の総数をすべて休業者 ( 潜在失業者 ) 数とみなして 雇調金がなければ失業率は 9% 程度まで上昇していたとする試算が散見されるが それらは明らかに過大推計である ( 注 3) 出向についても 3 カ月以上 1 年以内の出向であって 出向者の賃金を出向元事業主が全部 ( 休業手当含む ) または一部を負担する場合 助成対象となる しかし出向に相当するケースは多くないと推察されることから 本試算では考慮しない 図表 4 潜在失業率の試算結果 潜在失業者数試算の前提条件 ( 単位 : 円 ) 規模計 中小企業 大企業 2008 年度月間平均定期給与 266, , ,641 一日当たり平均賃金 ( 定期給与 /30) 8,885 7,527 9,788 一日当たり休業手当 ( 平均賃金 0.6) 5,331 4,516 5,873 休業手当助成額 ( 大企業 2/3 中小 4/5) 3,593 3,011 4,698 訓練費含む一日当たり助成額 7,937 9,011 5,898 (%) 潜在失業率 ( 注 )1. 支給額のうち休業手当と教育訓練費の内訳が不明のため 1 日の休業につき1 回の教育訓練を実施すると想定 2. 訓練費は大企業 1200 円 (6/8 以降 4000 円に増額 ) 中小企業 6000 円 ) 3. 規模計の助成額は 雇調金申請件数の規模別ウェイトを用いた加重平均値 試算方法 潜在的失業者数 = 延べ休業日数 / 一人当たり 1 カ月労働日数延べ休業日数 =1 カ月当たり雇調金支給総額 ( )/ 訓練費含む一日当たり平均助成額 ( ) 雇調金は初回の支給決定が申請月から 2~3 カ月程度遅れるため 6 月の支給決定額は概ね 3 月の申請分に相当する そのため 4 月以降の申請分に対応する支給決定額は 6 月の一人当たり支給決定額を固定し 4 月以降の申請件数を乗じて算出 失業率 08/12 09/ ( 資料 ) 厚生労働省等資料よりみずほ総研作成 雇用調整助成金によって 0.7%Pt 抑制 2

4 実際の休業者数も増加 雇調金から試算した潜在失業者は 1 カ月を通して休業していた ( とみなせる ) 雇用 者数であったが 実際の休業者数はどの程度増加しているのか 労働力調査の休業者数 ( 雇用者ベース みずほ総研による季節調整値 ) をみると 雇調金の拡充が実施された昨年 12 月に 105 万人 (11 月 89 万人 ) に急増して以降 6 月も 95 万人と高水準が続いている ( 図表 5) 08 年 12 月 ~09 年 6 月平均の休業者数 (100 万人 ) は 雇調金が実施される前 (08 年 2 月 ~11 月平均 ) と比べて 16 万人増加しており 雇調金拡充の効果が窺える 休業者の業種別内訳をみると 足元では非製造業の休業者数が急増しており 雇用調整の動きが製造業から非製造業にも波及していることが確認できる ( 図表 6) なお 雇調金支給額から試算した潜在失業者数 45 万人と比べると少ないが これは定義の違いによる部分が大きい 労働力調査の休業者は 仕事をもちながら 調査期間中 ( 月末 1 週間 ) に少しも (1 時間以上 ) 仕事をしなかった者 である 従って 休業日が月末 1 週間以外に設定されていた場合には 休業者としてカウントされない 延べ休業日数から休業者数を逆算する場合には月末一週間以外の休業も計算に含めるため 本稿で試算した潜在失業者数の方が労働力調査の休業者数よりも多くなったものとみられる 図表 5 休業者数 ( 雇用者 ) の推移図表 6 休業者数の業種別内訳 ( 万人 ) ( 万人 ) 非製造業製造業 休業者数前年差 ( 注 ) みずほ総研による季調値 ( 資料 ) 総務省 労働力調査 潜在失業者が顕在化しな ( 注 ) 非農林雇用者 ( 資料 ) 総務省 労働力調査 以上のように 現在の失業率は政策サポートによってかなりの程度抑制されている いよう 今後一層の労働移動促進策が望まれる ことが確認された こうした政策サポートは雇用者のセーフティネット的役割を担うという点で評価できるが 一方で それがなければ失業していたはずの雇用者を企業内 に滞留させるため 本来必要な労働移動が阻害されているという側面もある 助成金の支給期限 ( 注 4) を超えてもなお需要が戻らず余剰人員が解消しなければ 結局は解雇せざるを得なくなるだろう 今後は 一層の教育訓練や職業紹介機能の強化などによる労働移動の促進が求められよう ( 注 4) 最大 3 年間 300 日まで (1 年目で 300 日すべてを使うことが可能 ) 以上 3

5 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり 商品の勧誘を目的としたものではありません 本資料は 当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが その正確性 確実性を保 証するものではありません また 本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります