インドネシアで市販されている製材の強度性能 北海道大学農学部森林科学科木材工学研究室 4 年 松下智史
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- よしお まきい
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1 インドネシアで市販されている製材の強度性能 北海道大学農学部森林科学科木材工学研究室 4 年 松下智史
2 目次 1, 諸言 P.1 2, 供試材と試験方法 P.1 ~ P.12 供試材 P.1 ~ P.5 測定項目 手順 P.5 ~ P.6 試験方法 1) 縦振動試験 P.6 ~ P.7 2) ねじり試験 P.7 3) 静的曲げ破壊試験 P.8 ~ P.9 4) 縦圧縮試験 P.9 ~ P.10 5) せん断試験 P.11 6) 部分圧縮試験 P.12 3, 結果と考察 P.13 ~ P.28 試験結果 P.13 ~ P15 各種試験結果の考察 1) 縦振動試験 P.15 2) ねじり試験 P.16 3) 静的曲げ破壊試験 P.17 ~ P.18 4) 縦圧縮試験 P.19 ~ P.20 5) せん断試験 P.20 ~ P.21 6) 部分圧縮試験 P.22 ~ P.23 ヤング率の比較 P.23 ~ P.25 国内樹種との比較 P.25 ~ P.26 熱帯産樹種との比較 P.27 ~ P.28 4, 結論 P.29 参考文献 P.30
3 1 諸言インドネシアは東南アジア南部に位置し, 熱帯雨林気候に区分される数多の島々からなる国家である その高温多雨な気候によって広大な天然林を保有し, それを伐採することで大量の木材を生産してきた インドネシア国外に出回っている木材としてはメランティ ( ラワン材と呼ばれるものに大体相当 ) やアガチスなどがあり, 日本で耳にすることも多い このような樹木については, チークなど以前から有用広葉樹として知られる樹木や, ユーカリ, アカシアなど近年注目されている早生樹とともに研究が進んでいる これらは既に植林もされており, 材の生産は人工林基盤にシフトしている 一方で, インドネシア国内で家具材や建材として流通しているのは上記の樹木のようには研究の進んでいない郷土樹種である 現地の人々は経験的にそれぞれの木材を利用し, その生産も未だ天然林に依存している そこで本研究の目的は, インドネシアカリマンタンで市販されていた板材を使用し, インドネシア国内で流通している木材の強度性能を考察することとする 木材の強度を調べるとき, ヤング率をその指標として用いることが多い ヤング率と強度の間には高い相関があり, 普通ヤング率の高い木材ほど強度が大きい 本実験では実際に使用されることの多い曲げ破壊試験だけでなく, 縦振動試験, ひずみゲージを用いた縦圧縮試験と 3 つの異なる方法からヤング率を求める 縦振動試験は非常に簡単にヤング率を測定することができ, 縦圧縮試験は材長の短い試験体を使用するため, 円板状の試料からでも試験を行うことができる それぞれの実験から求めたヤング率の比較をすることで, 各種試験からのヤング率測定, 特に円板試料からひずみゲージを用いた精度のよいヤング率測定の可能性を探ることも目的とする 2 供試材と試験方法 供試材インドネシア中央カリマンタン, パランカラヤにて既に製材の状態で市販されていた板材を 12 樹種 20 枚 ( 針葉樹 2 樹種 2 枚, 広葉樹 10 樹種 18 枚 ) 購入した それぞれの板材についての情報は Table 1 に記した なお, 樹種名については地域ごとに異なる呼び名が多数存在するため, 販売されていた名称を現地名として載せておく また,White melanti,red melanti に関してはフタバガキ科 Shorea 属の木材を見た目で区別した呼び名であり樹種名ではない Kahui,Benuas も Red melanti に含まれるが, 現地では完全に区別されて売られていたため別々にしておいた
4 Table 1 供試材の概要 樹種名 ( 現地名 ) 学名 針 / 広 用途 記号 板数 試験体数 Pilau Agathis dammara 針 建具材 箱材 将棋盤など Ad 1 7 Alau Dacrydium pectinatum 針 家具 床板 調度品など Dp 1 6 Ramin Gonystylus bancanus 広 家具 内装材など Gb 1 6 Katiau Madhuca mottleyana 広 建具材 家具 調度品など Mm 1 6 Rangas Gluta renghas 広 家具 内装材 構造材 枕木など Gr 1 6 Belanti Mezzettia parviflora 広 Mp 1 7 Kahui Shorea balangean 広 枕木 構造材 橋梁など Sb 5 21 Benuas Shorea laeviforia 広 枕木 構造材 橋梁など Sl 3 21 Tumih Combretocarpus rotundatus 広 建材 枕木 燃料など Cr 2 8 Ulin Eusideroxylon zwageri 広 枕木 海中坑木 橋梁 ウッドデッキなど Ez 1 6 White melanti Shorea(Anthoshorea) spp. 広 家具 合板 造作材など WM 1 7 Red melanti Shorea(Rubroshorea) spp. 広 家具 合板 建材など RM 2 14 左 Ad 右 Dp ( 上 ) 左から Sl-1 Sl-2 Sl-3 ( 下 ) 左から Sb-3 Sb-4 Sb-5
5 ( 上 ) 左から Ez Mm Gb ( 下 ) 左から Gr Mp
6 ( 上 ) 左から Cr-1 Cr-2 ( 中 )Wm ( 下 ) 左から Rm-1 Rm-2
7 試験方法測定項目 気乾密度(WD) 動的ヤング率(Ed) せん断弾性係数(G) 曲げヤング率(Eb) 曲げ強さ(MOR) 含水率 縦圧縮ヤング率(Ec) 縦圧縮強さ(CS) せん断強さ 5% 部分圧縮強さ (LBS5%) 部分圧縮比例限度(LBSp) Ed は縦振動試験,G はねじり試験 ( 小泉ら 1997), それ以外の項目は JIS Z2101 に従って測定し た 手順 1, それぞれの板材から 2cm 2cm 30cm の小試験体を, 繊維方向が長辺になるようにとれる限り製作した 厚さが 2cm に満たない板材から製作した試験体は可能な限り 2cm に近い寸法をとった 製作した試験体は, 含水率が一定になるまで室内に放置して乾燥させ, 寸法 ( 材背, 材幅, 材長 ) を測り記録した 2, それぞれの供試材ごとに, 試験体を製作したあまり材の一部をカットし, 寸法を測った後にオーブンに入れ絶乾状態にした 2,3 日放置した後オーブンから取り出して秤量し, それぞれの供試材の気乾密度 (WD) を算出した 3, 製作した試験体に縦振動試験を行い, 動的ヤング率 (Ed) を測定した 4, 続いてねじり試験によってせん断弾性係数 (G) を計測した 5, 試験体それぞれに静的曲げ破壊試験を行い, 曲げヤング率 (Eb) と曲げ強さ (MOR) を測定した 6, 静的曲げ破壊試験終了後, 試験体の非破壊部分から縦圧縮試験体 ( 長さ 4 cm ), せん断試験体 ( 長さ 3 cm ), 部分圧縮試験体 ( 長さ 6 cm ) を木取った 破壊形態によっては 3 つ全ての試験体を作成できないこともあった 7, それぞれの試験体で 6 を実行した後, あまりの一部を秤量し記録した後, オーブンに入れた 2, 3 日放置して絶乾状態にした後, オーブンから取り出してもう一度秤量し含水率 (u) を求めた 8, 縦圧縮試験体にひずみゲージを貼り付け縦圧縮試験を行い, 縦圧縮ヤング率 (Ec) と縦圧縮強さ (CS) を求めた 9, せん断試験体の隅を切り取って椅子型にし, 椅子型せん断試験でせん断強さ (SS) を計測した 10, 部分圧縮試験体を用いて部分圧縮試験を行い,5% 部分圧縮強さ (LBS5%) と部分圧縮比例限度 (LBSp) を求めた
8 Figure 1 実験手順 (1) 縦振動試験試験体を材軸方向からハンマーで叩き, 材中を伝わる縦波を逆側に設置したマイクロホンでキャッチする キャッチした縦波をリオン社製 FFT アナライザーで解析して試験体の固有振動数を求め, 下記の式でヤング率を計算する 縦振動試験は動的試験の一種であり木材中を伝わる縦波によって瞬間的に強度を測るため, 木材の粘性流動を無視する 従って, 求める動的ヤング率は値が大きくなる
9 Ed = 4l 2 fr 2 ρ Ed : 動的ヤング率 (GPa) ρ: 密度 (kg/m 3 ) fr : 固有振動数 (s -1 ) l : 材長 (m) (2) ねじり試験 試験体の一方の下に円筒状のものを挟んで捻れるようにし, 逆側を固定する 捻れるようにした方 に回転力が加わるように重りを吊り下げて試験体の変位を測定し, せん断弾性係数を求める 変位計 Figure 2 ねじり試験
10 (3) 静的曲げ破壊試験実験方法が比較的簡単で, 実際に木材が使用される場面では曲げ応力を受ける場合が多いことから, 基本的な強度試験として用いられる 本実験では森試験機オルゼン型 2tf 容量万能試験機を使用し, 中央一点集中載荷法でヤング率を測定する 一点集中載荷法では, 曲げ成分だけでなくせん断成分の力も含まれてしまうため, ヤング率は若干低い値となる 軸方向が水平になるよう, 支点上に試験体を渡して置く この時, 二支点間の距離が試験体の高さの 14 倍以上になるようにし, 柾目面が上を向くようにする ( 辺長を 20mm 20mm とれなかった試験体については垂直方向を 20mm とする ) 垂直方向よりロードセルをゆっくりと下ろしていき, 試験体中央に荷重をかける 荷重と変位をデータロガーに記録し, そこから曲げヤング率と曲げ強さを求める 変位計 データロガー ロードセル h = 20 b L = 280 Figure 3 曲げ試験
11 Eb = PL 3 / 48Iδ MOR = Mmax / Z = (PmaxL / 4)*(6 / bh 2 ) = 3PmaxL / 2bh 2 I = bh 3 / 12 矩形断面梁の断面二次モーメント (mm 4 ) Z = bh 2 / 6 矩形断面梁の断面係数 (mm 3 ) Eb : 曲げヤング率 (GPa), P : 荷重 (kn),l : 荷重スパン (mm),δ: 変位 (mm), b : 材幅 (mm),h : 材背 (mm) Figure 4 は変位を横軸, 荷重を縦軸にとったものである Pmax は最大荷重を意味する 曲げヤング率を計算する際には, この曲線の直線域での傾き (P /δ) を求める 0.1Pmax,0.4Pmax はそれぞれ最大荷重の 0.1 倍, 0.4 倍を表す ( 通常は 0.1Pmax から 0.4Pmax までで計算をする ) しかし 0.1Pmax~0.4Pmax の間が直線ではなかった場合, 別の区間の傾きを求める Figure 4 荷重変位曲線 (4) 縦圧縮試験曲げ破壊試験終了後, 非破壊部分から材長 40mm の縦圧縮試験体を切り出し, ひずみゲージを貼る ひずみゲージは木材用のものを,20mm 40mm とれている向かい合った二面のそれぞれ中央に接着剤で貼り付ける 接着剤が乾くまで一日以上放置する 貼り付けたひずみゲージの先にはんだをつけ, 導線が接続しやすいようにする ( 下図 ) Figure 5 縦圧縮試験体
12 はんだ付けまで終えたら, 試験体を試験機 ( 東京衡機 10tf 容量油圧式万能試験機 ) に木口面を上に向けてセットし, ひずみゲージの先をデータロガーに接続する 試験は一定の荷重速度で負荷し, 1~2 分で破壊に至るようにする データロガーに荷重とひずみを記録し, 縦圧縮ヤング率と縦圧縮強さを求める データロガー Figure 6 縦圧縮試験 Ec = 2P / (ε1 +ε2)bh CS = Pmax / bh Ec : 縦圧縮ヤング率 (MPa) P : 荷重 (kn) ε1,ε2 : ひずみ b : 材幅 (mm) h : 材背 (mm)
13 (5) せん断試験曲げ破壊試験終了後, 非破壊部分から材長 30mm のせん断試験体を切り出す 切り出した試験体を下図のようにさらにカットし, 椅子型せん断試験体を作製する 厚さの足りなかった供試材の場合,20mm の辺を半分に切り落とすようにする 作製した試験体を治具にしっかり固定, 治具ごと試験機 ( 東京衡機 10tf 容量油圧式万能試験機 ) にセットして縦圧縮試験と同じようにゆっくり荷重をかける せん断破壊が起こったら試験機を止め, 最大荷重からせん断強さを求める P 左図のように, カットした部分がはみ出すようにして固定し, はみ出た部分へ荷重をかける 一定の荷重速度で負荷し,1~2 分で破壊が起こるようにする せん断力は斜線の面にかかる 柾目面にせん断力がかかるようにする SS = Pmax / A = Pmax / 20b Figure 7 せん断試験 SS : せん断強さ (MPa) Pmax : 最大荷重 (kn) A : せん断面積 (mm 2 ) b : 材幅 (mm)
14 (6) 部分圧縮試験曲げ破壊試験終了後, 非破壊部分から材長 60mm の部分圧縮試験体を切り出す 試験機の上に柾目面を上にして横たえ ( 厚さの足りなかった供試材は 20mm ある辺が高さ方向になるように置く ), 試験体中央部に辺長と同じ幅 20mm 直六面体の加圧鋼板をのせる 東京衡機 10tf 容量油圧式万能試験機で一定の変形速度になるよう鋼板に荷重を加え,1~2 分で辺長の 5%(1mm) の変形に達するように試験を行う 荷重と変位をデータロガーに記録し, そこから部分圧縮比例限度と 5% 部分圧縮強さを求める LBSp = Pp / A = Pp / 20b LBS5% = P5% / A = P5% / 20b LBSp : 部分圧縮比例限 (MPa) LBS5% : 5% 部分圧縮強さ (MPa) Pp : 比例限度荷重 (kn) P5% : 辺長の 5% 変形時荷重 (kn) A : 圧縮断面積 (mm 2 ) b : 材幅 (mm) Figure 8 部分圧縮試験
15 3, 試験結果と考察 それぞれの供試材の測定結果について算術平均値 (Ave.), 標準偏差 (S.D.), 変動係数 (C.V.) を算出して Table 2,Table 3 に記載した また,Table 4 には複数枚供試材のある樹種 (Kahui,Benuas, Tumih,Rm) の結果をまとめた 含水率については曲げ破壊試験の終了後, せん断試験体, 縦圧縮試験体, 部分圧縮試験体を作製した残り部位を使用して測定した Table 2 供試材ごと試験結果 樹種 気乾密度 WD (kg/m 3 ) 動的ヤング率 E d (Gpa) せん断弾性係数 G 曲げヤング率 E b (Gpa) 曲げ強さ MOR 含水率 u (%) 縦圧縮ヤング率 E c (Gpa) 縦圧縮強さ CS せん断強さ SS 部分圧縮比例限度 LBS p 5% 部分圧縮強さ LBS 5% 比強度 針葉樹 Ad n Ave S.D C.V Dp n Ave S.D C.V 広葉樹 Gb n Ave S.D C.V Mm n Ave S.D C.V Gr n Ave S.D C.V Mp n Ave S.D C.V Sb-1 n Ave S.D C.V Sb-2 n Ave S.D C.V Sb-3 n Ave S.D C.V Sb-4 n Ave S.D C.V Sb-5 n Ave S.D C.V n : 試験体数 Ave. : 算術平均値 S.D. : 標準偏差 C.V. : 変動係数
16 Table 3 供試材ごと試験結果 ( 続き ) 樹種 気乾密度 WD (kg/m 3 ) 動的ヤング率 E d (Gpa) せん断弾性係数 G 曲げヤング率 E b (Gpa) 曲げ強さ MOR 含水率 u (%) n : 試験体数 Ave. : 算術平均値 S.D. : 標準偏差 C.V. : 変動係数 縦圧縮ヤング率 E c (Gpa) 縦圧縮強さ CS せん断強さ SS 部分圧縮比例限度 LBS p 5% 部分圧縮強さ LBS 5% Sl-1 n Ave S.D C.V Sl-2 n Ave S.D C.V Sl-3 n Ave S.D C.V Cr-1 n Ave S.D C.V Cr-2 n Ave S.D C.V Ez n Ave S.D C.V Wm n Ave S.D C.V Rm-1 n Ave S.D C.V Rm-2 n Ave S.D C.V 比強度 Table 4 供試材多数の樹種まとめ 樹種 気乾密度 WD (kg/m 3 ) 動的ヤング率 E d (Gpa) せん断弾性係数 G 曲げヤング率 E b (Gpa) 曲げ強さ MOR 含水率 u (%) n : 試験体数 Ave. : 算術平均値 S.D. : 標準偏差 C.V. : 変動係数 縦圧縮ヤング率 E c (Gpa) 縦圧縮強さ CS せん断強さ SS 部分圧縮比例限度 LBS p 5% 部分圧縮強さ LBS 5% 比強度 Sb n Ave S.D C.V Sl n Ave S.D C.V Cr n Ave S.D C.V Rm n Ave S.D C.V
17 気乾密度は文献値と同じような値を示したが, 曲げヤング率, 曲げ強さ, 縦圧縮強さ, せん断強さに関しては強さの関係性は同じであったものの, ほとんどの樹種で文献値より大きな値を示した 文献値は生材や含水率が高い材での値が多かったのでそれも理由にあるかもしれない その中で Ulin だけは文献値を下回る数値を示した 各種試験結果の考察 1) 縦振動試験 Figure 9 は気乾密度を横軸に, 動的ヤング率を縦軸にとったものである 全てが直線上に並ぶわけではないが,Benuas や Tumih など WD が大きいほど Ed も大きくなっており, この二つの間には正の相関があると考えられる しかし Kahui の一部や Ulin は直線の下の方に大きく外れており, WD が比較的大きいにも関わらず Ed は小さくなっている 密度が大きいが強度が小さいという場合, 試験体に節などの欠点が多く含まれていたり, 繊維傾斜が大きい材であったりということが考えられる 実際,Ulin の板材は, 他の板に比べて薄く繊維性が悪かったため目切れも多かった Kahui や Rm の一部の試験体にも繊維傾斜の大きい部分はみられた また, 入手できる供試材の大きさにも限りがあったため, 多少の欠点が含まれていても試験体として利用したということも関係しているかもしれない 以上のような理由でこれらの供試材は Ed/WD の値が低かったのではないか Figure 9 気乾密度と動的ヤング率
18 2) ねじり試験 Figure 10 に, 気乾密度 (WD) とねじり試験によって得られたせん断弾性係数 (G) の関係を示す WD と G の間にははっきりと正の相関がみられ,WD の大きい供試材ほど G の値が大きかった Kahui は他の樹種よりも WD に対して G が小さいが,Kahui の中でも正の相関がみられることから樹種としてせん断力に弱いのかもしれない Figure 11 は G を横軸に,Ed を縦軸にとったものである どちらも WD と正の相関があるので, 基本的には G が大きければ Ed も大きくなる Kahui は G の値が小さかったため Ed / G が大きくなっている Ulin は Ed に比べて G の値が非常に大きい G はヤング率と異なり, 材に繊維傾斜があったとき大きな値を示すことがあり, 繊維傾斜の大きかった試験体では Ed の値が小さくなり,G は大きくなったと考えられる Figure 10 気乾密度とせん断弾性係数 Figure 11 せん断弾性係数と動的ヤング率
19 3) 曲げ破壊試験 Figure 12 は横軸に気乾密度 (WD), 縦軸に曲げヤング率 (Eb) をとったものである WD の大きい材ほど Eb の値が大きくこの 2 つの間には正の相関がある 図を見ていると, それぞれの供試材の位置が Ed / WD の図とほとんど同じであることに気付くと思うが,Figure 13 からも分かる通り Ed と Eb はかなり高い相関を示した Pilau,Alau,Katiau,Rangas,Benuas の一部などがきれいに直線状に並んでいるのも,WD に対して Ulin のヤング率が小さいことも同じであり,Ed を調べることでかなり高い精度で Eb を推定することが可能であると言える Figure 12 気乾密度と曲げヤング率 Figure 13 動的ヤング率と曲げヤング率
20 曲げヤング率と曲げ強さ曲げヤング率 (Eb) と曲げ強さ (MOR) の間には正の相関が認められた よって WD と MOR の間にも正の相関があるといえる 他の試験体から離れた下の方に点がある Rmや Rangas の数試験体は加圧途中に突然バキッと大きな音を立て脆性破壊が起こった そのため MOR は小さくなっている 同じ板から切り出した試験体同士は大体近くに固まっているが Ulin はばらばらで, 他のものに比べて材が均質でないようである 実際, 使用した Ulin の板は最も薄く, 繊維傾斜も大きかったためその影響が出ている可能性がある Figure 14 曲げヤング率と曲げ強さ 破壊形態 左 Wm 右 Rm-2( 脆性破壊あり )
21 4) 縦圧縮試験 Figure 15 より縦圧縮ヤング率 (Ec) と曲げヤング率 (Eb) の間には正の相関があるといえる 実際には図に書き込んである直線よりも, 傾きの大きい直線になると考えられる そうなると Tumih-1(Cr の右 4 つ ) は Ec の値が Eb に比べて大きくなる Tumih-1 からとれた試験体全てで Ec が大きいので, 材の密度分布に偏りがあって, 曲げ試験で応力が集中する中央部分よりも縦圧縮試験体の WD が大きかったかもしれない Figure 16 はヤング率を求める際に描いた Kahui-3-2 の荷重変位曲線だが, 曲げ試験でのグラフに比べ縦圧縮試験のグラフは始まりが立ち上がっており, 丸みを帯びているのがわかる 縦圧縮試験のグラフはこのように少しいびつなことが多く, 直線域が確認できない試験体もみられた グラフの傾きからヤング率を求める方法をとったため,Ec には使用したグラフ範囲による影響が出ている可能性もある Figure 15 縦圧縮ヤング率と曲げヤング率 Figure 16 曲げ試験の荷重変位曲線 ( 左 ) と縦圧縮試験時の荷重変位曲線 ( 右 ) (Kahui-3-2)
22 曲げヤング率と縦圧縮強さ曲げヤング率 (Eb) と縦圧縮強さ (CS) も正の相関を示した Pilau は他の樹種よりも CS/Eb が小さく, 曲げ破壊よりも縦圧縮破壊に弱い材なのかもしれない 図の右方には Kahui の一部 (Kahui-1, 2) で CS/Eb の値が小さいのも確認できる Kahui-1,2 では縦圧縮ヤング率を測定していないが, これも供試材の密度分布に偏りがあり縦圧縮試験体に低密度の部位が使われた可能性がある Ulin の一部など CS/Eb の値が大きいものは逆に高密度の部位が使われたり, 曲げ破壊試験体の繊維性が悪かったことなどが理由として考えられる Figure 15 曲げヤング率と縦圧縮強さ 5) せん断試験静的ヤング率とせん断強さ Figure 16 をみても, 曲げヤング率 (Eb) とせん断強さ (SS) の間には相関らしきものがみられなかった 供試材が複数枚あった樹種についても,SS の値は Eb の大きさと関係なく比較的一定であり,SS と Eb は関係性を持たないのかもしれない 椅子型せん断試験では, せん断面の一部に応力集中が起こってしまうこと, せん断面上部に割裂を起こすような力が働いてしまうことなどの問題点が考えられ, そういった要素が組み合わさってバラバラな分布になってしまった可能性がある Figure 17 はせん断弾性係数 (G) と SS をグラフにしたもので,R 2 値は 0.38 と低いものの右肩あがりで正の相関があるように思う こちらもせん断試験時にせん断応力以外の要素が影響してしまった可能性はあるが, 同じ供試材では固まって分布していることから, 試験体中央部になるねじり試験の計測範囲と端の方からとるせん断試験体で繊維性が異なっていたということも考えられる
23 Figure 16 曲げヤング率とせん断強さ Figure 17 せん断弾性係数とせん断強さ
24 6) 部分圧縮試験 5% 部分圧縮強さ (LBS5%) と部分圧縮比例限度 (LBSp) は非常に高い相関を示した (Figure 18) 本実験ではブリネル硬さ試験は行っていないが,5% 部分圧縮強さとブリネル硬度は高い相関関係にあり, ブリネル硬度は 5% 部分圧縮強さの大体 1.25 倍の値をとるとされている (2008 寺西 ) Figure 19 をみると,WD と LBS の間にも正の相関が認められる Ulin は他の樹種に比べ, Eb の値は小さかったが LBS の値が顕著に大きく, 特に部分圧縮に強い樹種だと考えられる Kahui は全体的に直線の下側に外れており, こちらは WD に対し LBS が小さい樹種であると言える Eb と LBS5% の関係も Figure 20 に示したが,WD が大きくなれば Eb も大きくなるということで, 当然 LBS5% も大きくなっている しかし, 樹種間のばらつきが大きく縦の範囲が広くなった Figure 18 5% 部分圧縮強さと部分圧縮比例限度 Figure 19 気乾密度と 5% 部分圧縮強さ
25 Figure 20 曲げヤング率と 5% 部分圧縮強さ ヤング率の比較 Figure 21 に曲げヤング率 Eb, 縦圧縮ヤング率 Ec, 動的ヤング率 Ed それぞれの値を棒グラフで示した 標準偏差はグラフに書き入れてある ほとんどの樹種で Eb < Ec < Ed という結果になった 縦圧縮試験は動的試験で, 木材中を伝わる縦波によって瞬間的に強度を測定するため, 粘性流動を含まず値は大きくなる 曲げ試験, 縦圧縮試験は静的試験であるため粘性流動を含むのは共通しているが, 曲げ試験は一点集中載荷法をとっているため, 曲げ応力以外にせん断応力も含み, 値は小さくなる 本実験の試験結果はこれらのことと合致している Figure 21 各ヤング率の比較
26 Figure 22 は Ec と Eb の関係を,Figure 23 は Ed と Eb の関係をそれぞれ表す これをみると,Ec と Eb,Ed と Eb にはそれぞれ正の相関が認められ, 特に Ed と Eb は非常に高い相関関係を示している Ec と Eb の値には多少ばらつきがある 曲げ試験では試験体中央部に最大応力がかかるために中央部の密度や材質が重要になるが, 材端部にはあまり力が加わらない そのため仮に欠点が存在したとしても, 材中央部でなければあまり試験結果に影響しない 縦圧縮試験の場合は, 材のどの部分にも応力がかかるため, いずれの部分に欠点が存在しても試験結果に関わってくる 供試材には限りがあったため, 完全に無欠点な小試験体ではなく, 欠点が少し含まれていた可能性もある また, 脆性材料は圧縮力には比較的強いため,Ec の方が Eb よりも大きくなったのかもしれない しかし正の相関が認められ, 縦圧縮ひずみ, 縦振動法, これら 2 つの方法でヤング率を測定することは可能であるといえる Figure 22 縦圧縮ヤング率と曲げヤング率
27 Figure 23 動的ヤング率と曲げヤング率 日本国内で使用される樹種との比較図 24 は気乾密度 WD と曲げヤング率 Eb, 図 25 は曲げヤング率 Eb と曲げ強さ MOR の関係を表しており, さらに文献に載っていた日本国内で使用される 4 樹種 ( トドマツ カラマツ シナノキ マカンバ ) の値, 国産 35 樹種の回帰直線を表示している Figure24 をみると,WD は国産樹種と同程度の分布幅であるものの, 国産樹種よりも WD に対する Eb の値の大きいものが多い 本研究の含水率と, 参考にした文献の試験体の含水率の差は 3~5% 程度であり, その差を受けたとしても大きく感じられる Figure25 では, 試験結果が国産樹種の回帰直線上にのっている Eb と MOR の関係は国産樹種と同様であり, ヤング率から強度を推定し, 国産樹種と比較することも可能である 熱帯産の材といえば交錯木理など繊維性が悪いといわれることがあるが, 実験結果は日本国内で流通している樹種に比べても比ヤング率の高いものも多く, 本研究の供試材は国産材に対して繊維性が劣るというわけではないといえる 樹種 学名 Table 5 国産樹種 4 種各種強度 気乾密度 WD (kg/m 3 ) 曲げヤング率 E b (GPa) 縦圧縮強さ CS (MPa) 曲げ強さ MOR (MPa) せん断強さ SS (MPa) 柾目面硬さ H (MPa) トドマツ Abies sachalinensis カラマツ Larix kaempferi シナノキ Tilia japonica マカンバ Betula maximowicziana ( 1)
28 Figure 24 国産樹種との比較 ( 比ヤング率 ) Figure 25 国産樹種との比較 ( 曲げ強さ / 曲げヤング率 ) ( 2)
29 他の熱帯産樹種との比較早生樹であるアカシア, ユーカリと, 銘木と云われるチークの文献値を実験結果と一緒に Figure26~27 に示した 比ヤング率, 比強度ともに, 早生樹の 2 種のほうが本実験の供試材よりも小さいように思える また, 樹種ごとに違いはあれども, アカシアやユーカリには材の割れや狂いがひどいものも多く, 建材などには適さないとされている チークは比ヤング率, 比強度ともに大きかったが, 供試材中にもそれに匹敵する強度を示すものがあった Table 6 熱帯産樹種の強度 樹種アカシアユーカリチーク 学名 Acacia auriculiformis 気乾密度 WD (kg/m 3 ) 含水率 u (%) 曲げヤング率 E b (GPa) 縦圧縮強さ CS (MPa) 曲げ強さ MOR (MPa) せん断強さ SS (MPa) Acacia decurrens Acacia leucophloea Acacia mangium Eucalyptus deglupta Eucalyptus globulus Eucalyptus platyphylla Tectona grandis ( 3, 4, 5) Figure 26 熱帯産樹種との比較 ( 比ヤング率 )
30 Figure 27 熱帯産樹種との比較 ( 比強度 ) Figure 28 熱帯産樹種との比較 ( 曲げヤング率 / 曲げ強さ )
31 4, 結論 実験結果から, 密度とヤング率, 強度などの間に国産樹種と同じような関係をみとめることができた インドネシアの郷土樹種にも大きな密度, 強度を示すものもあり, 比ヤング率もほかの地域の樹種と比べても小さくなかった 南洋材は交錯木理になっていたり繊維性が悪いといわれることもあるが, 本研究結果からは国内の樹種などと比べても繊維性が劣るわけではないということができる 曲げ試験以外 ( 縦振動試験, 縦圧縮法 ) から測定したヤング率は, 曲げ試験で測定したヤング率と相関を示しており, それら 2 つの試験方法でのヤング率測定が可能であることがいえる 本実験では市販されていた木材を使用したため, どのような樹木のどの部分なのか, といった情報はわからなかったが, 今後研究を進めていく際にはそのような観点からの考察も必要である また, 実際に使用するうえで必要になる収縮率等のデータも取るべきである
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