タジキスタンにおける水力エネルギー資源開発筑波大学非常勤講師島田志津夫はじめにタジキスタンのラフモン大統領は 2007 年 12 月 3 日 ~5 日の日程で日本を公式訪問した 3 度目となる今回の訪日では 5 日に天皇陛下と会見福田総理と会談したほか 3 日 ~ 4 日に別府市で開催された第

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まいえあると
4 years ago
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筑波大学非常勤講師島田志津夫はじめにタジキスタンのラフモン大統領は 2007 年 12 月 3 日 ~5 日の日程で日本を公式訪問した 3 度目となる今回の訪日では 5 日に天皇陛下と会見福田総理と会談したほか 3 日 ~ 4 日に別府市で開催された第 1 回アジア太平洋水サミットに出席することも目的の一つであったラフモン大統領は同サミットの副議長にも選出され

1 筑波大学非常勤講師島田志津夫はじめにタジキスタンのラフモン大統領は 2007 年 12 月 3 日 ~5 日の日程で日本を公式訪問した 3 度目となる今回の訪日では 5 日に天皇陛下と会見福田総理と会談したほか 3 日 ~ 4 日に別府市で開催された第 1 回アジア太平洋水サミットに出席することも目的の一つであったラフモン大統領は同サミットの副議長にも選出され数少ない首脳級の出席者の一人としてアラル海枯渇問題について報告を行い水資源管理の重要性をアピールしつつ国際社会からの支援を呼びかけたまた 4 日にはラフモン大統領自らが都内で日本の企業関係者を対象としてタジキスタンへの投資に関するプレゼンテーションを行ったこのプレゼンテーションでラフモン大統領は民主主義と市場経済に基づいたプレゼンテーションを行うラフモン大統領 86 国づくりに努力しており民間セクターおよび市場経済の発展における国家の役割を念頭に置いた政府主導プログラムの実施により近年の国内経済は高成長を続け投資家への優遇税制を含む世界基準に見合った法制度の整備など投資環境の改善にも努めていると述べとくに水力発電と鉱物資源開発の分野への投資を歓迎したいと述べたこのように豊富に賦存する水資源を利用した水力発電セクターはタジキスタン経済における重要な柱の一つでありここではの概要について紹介したい水資源の潜在力タジキスタンは国土の93% が山地でありさらに山地の50% 以上が標高 3,000m 以上の高地であるという山岳国である世界の屋根といわれるパミール高原を擁しこれらの山々に降り積もった雪はアム川など中央アジアの平野部を潤す数々の河川の水源となっているこのような自然環境を備えたタジキスタンは水資源量では世界第 8 位に位置づけられその国土面積や人口の割合からすれば世界でも屈指の水資源国であるといえる国内の水力エネルギー資源の潜在力は推定 5,270 億

2 kwhにも上る冬期の降雪や氷河からの融雪その他ヌレク水力発電所の下流のヴァフ水が主要な水源であり氷河面積は11,000km 2 シュ川にはバイパザ水力発電所 ( 出力で国土の約 8% を占めている 600MW) およびヴァフシュ水力発電所 ( 出力タジキスタンの水力エネルギー資源のポテ 285MW) が建設されさらにタジキスタン北ンシャルについては早くから認識されてお部を流れるシル川にカイラククム水力発電所りソ連時代からすでにその開発が始まって ( 出力 126MW) が建設されるなどソ連時代いたとくに1970 年代から1980 年代にかけてには大小様々な規模の数多くの水力発電所がアム川の支流で国土の中央部を貫流するヴァ整備されたフシュ川流域に一連の水力発電所建設が計さらにタジキスタンではソ連中央政府に画実施されその電力を利用してアルミニよっていくつかの大規模な水力発電所建設事ウム精錬を行うタジクアルミニウム工場業が計画実施されたが 1991 年のソ連崩壊 (TadAZ) が建設されたおよび内戦時の経済的混乱によりこれらの独立後の現在でもアルミニウム精錬と水事業は頓挫することとなった力発電はタジキスタンの基幹産業でありその基礎はソ連時代に確立されたものである独立後の水力エネルギー資源開発ちなみにタジキスタンではアルミニウムのラフモン大統領のプレゼンテーションにも原料となるボーキサイトは産出せず国外かあったように独立後のタジキスタンの指導ら原料を持ち込んで電気分解による精錬のみ者層がもっている水力発電分野こそが経済を行っている発展のカギであるとする考えは基本的にはソ連時代のそれを継承するものである 1997 ソ連時代の水力エネルギー資源開発年 6 月の和平合意により5 年間にわたる内戦ソ連時代に実施された最も重要な水力エネが終結すると疲弊した経済の立て直しと社会ルギー資源開発事業の一つがヌレク水力発インフラの復興が急務となったがそこで持電所の建設であるヌレク水力発電所はドち上がったのが以下にみるような頓挫してゥシャンベの南東約 75kmのヴァフシュ川にいた水力発電所建設事業の再開計画であった位置し 1961 年に建設が開始され 1972 年に一部操業開始 1980 年に竣工したその堤高は300mで既存のダムとしては世界第 1 位の高さをもつ出力 3,000MW(330MW 発電機 9 基 ) 年間平均発電量は112 億 kwhであり中央アジアでは最大規模の水力発電所である 2005 年のタジキスタンの電力総生産量は約 171 億 kwhであるので単純計算ではその約 65% がヌレク水力発電所だけで発電されていることになる現在では完成後 30 年近くを経て施設の一部が老朽化し始めておりアジア開発銀行 (ADB) などの支援によるリハビリ事業が計画されているヌレク水力発電所 ( 筆者撮影 ) 87

3 サングトゥーダ第 1 水力発電所ドゥシャンベの南約 200kmのヴァフシュ川に位置し出力 670MW 年間平均発電量 27 億 kwh( 見込み ) 1980 年代後半に建設が開始され全体の約 20% の工事が完了していたがソ連崩壊により建設が中断されていた 2003 年よりタジキスタン政府とロシア政府の間で工事再開にかかわる協議が始まり 2004 年 10 月プーチン大統領のタジキスタン公式訪問の際ロシア政府がサングトゥーダ第 1 水力発電所建設工事に投資を行うとの内容の政府間合意が調印された 2005 年 1 月のタジキスタンロシアイランによる三者協議によりロシアとタジキスタンがサングトゥーダ第 1 水力発電所イランとタジキスタンがサングトゥーダ第 2 水力発電所の建設を行うと取り決められた発電所建設のため株式会社サングトゥーダ第 1 水力発電所が設立されその株式の 75% をロシアの統一エネルギーシステムが保有し 25% をタジキスタン政府が保有している建設工事は2005 年 4 月に再開され 2009 年末の竣工が予定された当初建設費は4 億 8,200 万ドルと見積もられていたが後に5 億 9,800 万ドルに修正されている建設作業の進捗状況も建設機材や有能な技術者の不足セメントなど資材調達の不備により遅れぎみであり 2007 年 12 月 21 日に第 1ユニットの操業を開始する予定であったが翌年 1 月以降にずれ込む見通しであるいるタジキスタンの建設負担額は4,000 万ドルで 2006 年 2 月より工事が再開しているラグン水力発電所ドゥシャンベの東約 110km のヴァフシュ川に位置し出力 3,600MW(600MW 発電機 6 基 ) 年間平均発電量 131 億 kwh( 見込み ) でヌレク水力発電所を上回る大規模発電所である堤高は335mが計画され完成すれば世界で最も高いダムとなる 1976 年に建設が始まり 1992 年までには40mの高さまでダムが完成していたがその後工事は中断し完成していた部分も増水によって流されてしまった第 1ユニット操業までの建設費だけで5 億 9,000 万ドル必要であり総工費は22 億ドルに上ると見積もられている 2004 年 10 月のプーチン大統領訪問の際ロシアアルミニウム社 ( 以下 RUSAL) がラグン水力発電所の建設工事に投資するとの合意文書が調印されたがサングトゥーダ第 1 水力発電所の工事が進んでいるのに対してこちらの建設工事はいまだ再開されていないサングトゥーダ第 2 水力発電所第 1 水力発電所の下流に位置し出力 220MW 年間平均発電量 9 億 3,000 万 kwh( 見込み ) 上述のとおり 2005 年 1 月の協議の決定によりイランが建設を支援するイラン政府は建設費 1 億 8,000 万ドルを特恵融資し完成後 12 年半はイランが発電所を運営しその後タジキスタンに所有権が引き渡されるということになって雪解け水を集めて急流となったパンジ川 ( 筆者撮影 ) 88

4 RUSALとの軋轢合意文書では RUSALがタジキスタンに対し総額 15 億ドルまでの投資を行うことが取り決められたすなわち同社はラグン水力発電所建設工事のうちとりあえず第 1ユニットの建設費を投資し 2010 年までにそれを完成させ 2008 年までにタジクアルミニウム工場に 2 基の電気溶解炉 ( 総額 1 億 6,000 万ドル ) を設置し年間生産量を10 万 t 引き上げることを計画しさらにタジキスタン南部に新たなアルミニウム精錬工場 ( 総工費 6 億ドル年産 20 万 t) を建設するというものであった 1975 年に生産を開始したタジクアルミニウム工場は年間 40 万 t 余りの生産量を誇り国内最大の企業であるアルミニウムはタジキスタンの輸出品目の第 1 位を占め戦略的にも重要な産業であり RUSALによる大規模な投資の計画はタジク政府にとっても大いに魅力的なものと思われたに違いないしかしその後ラグン水力発電所建設におけるダムの高さをめぐってこれまでの計画どおりの高さを主張するタジキスタン政府とより低い高さでの建設を主張するRUSAL との間で意見の不一致が生じた RUSALは第三者の判断を求めるとしてドイツの Lahmeyer 社に新たなF/Sの実施を依頼したがタジキスタン側はRUSALの息のかかった会社によるF/Sの結果は受け入れられないとし議論は平行線に終わった結局 2007 年 8 月にラフモン大統領はRUSALとの合意を白紙に戻すと宣言し現在ラグン水力発電所建設工事再開に向けて新たな道を模索中である一部の報道などではこういったことの背景には上流部のダム建設により下流域の水量を管理されることを快く思わないウズベキスタン政府によるRUSALへの圧力があったとする見方もある電力輸出国への道いずれにせよ現在ソ連時代に計画されソ連崩壊により頓挫していた水力発電所建設事業が再始動しつつある採算性など度外視した社会主義計画経済下のソ連中央政府からの補助金に代わり市場経済下で国際社会の支援を取り付けながら建設事業をどうにか再開しようと努力しその一部を実現しつつあるラフモン大統領の手腕はある意味では評価すべきものであろう前述の3つの水力発電所が完成すれば年間 80 億 ~100 億 kwhの余剰電力が生じることとなりタジキスタンは電力輸出国となることを目指している冬期に発電量が大幅に減少する水力発電に頼るタジキスタンでは寒い冬の時期に電力供給制限が行われ地方では朝晩 2 時間ずつしか電力が供給されないということも普通である電力輸出国となれば夏に豊富な電力を輸出しその利益やバーター取引を利用して冬に十分な量の電力を輸入することができるようになる電力輸出国となるためには高圧送電線網の整備も重要となるこれまではソ連時代に整備された送電システムを利用せざるをえなかったが中央アジア諸国が独立をはたした現在国境線を越えて第三国を経由して送電することが難しくなってきているたとえばタジキスタン南部の発電所から北部のフジャンド ( タジキスタン第 2の都市 ) に送電する場合には現状では隣国のウズベキスタン領内の送電線を経由して送電せざるをえないこのような問題を解決するためにも国土の南北を結ぶ高圧送電線の整備が悲願であったが現在中国の借款により南北 500kV 高圧送電線 ( 全長 350km 総工費 2 億 8,000 万ドル ) の建設が開始されているこれはドゥシャンベ~フジャンド~チャナク ( ウズベ 89

キスタン国境 ) 道路の整備( 総工費 2 億 9,600 万ドル ) と並んで 2006 年 6 月の上海協力機構首脳会合の際に調印された中国政府からタジキスタンへの総額 6 億ドル余りの経済支援の一角を成すものであるさらに現在 ADBや世銀をはじめとする国際金融機関の主導により中央アジア南アジア地域電力市場 (CASAREM) という枠組みのもと

5 キスタン国境 ) 道路の整備( 総工費 2 億 9,600 万ドル ) と並んで 2006 年 6 月の上海協力機構首脳会合の際に調印された中国政府からタジキスタンへの総額 6 億ドル余りの経済支援の一角を成すものであるさらに現在 ADBや世銀をはじめとする国際金融機関の主導により中央アジア南アジア地域電力市場 (CASAREM) という枠組みのもと中央アジアから南アジアへの電力輸出の問題について議論がなされている 2007 年 11 月にカブールで開催された会合ではタジキスタンとキルギスから電力が不足しているアフガニスタンとパキスタンに送電するために総額 5 億ドルの高圧送電線建設プロジェクト ( 全長 750km) が具体的に検討されたタジキスタン政府はタジキスタンの水力発電エネルギーが低コストで ( その試算によれば1kWhあたり3セント以下 ) 環境にやさしいクリーンなエネルギーであると国際社会にアピールし水力エネルギー資源開発分野への支援を呼び込もうとしている国連における国際淡水年 (2003 年 ) および命のための水国際行動の10 年 (2005~2015 年 ) の決議をめぐるラフモン大統領のイニシアティブにもみられるように環境問題と水資源利用をうまく結び付けることで国際社会からの関心や支援を呼び込むことも電力輸出国への道に近付くための一つの方法であるかもしれない 90

特集ロシア NIS 圏で存在感を増す中国特集ロシアの消費市場を解剖する Data Bank 中国の対ロシア NIS 貿易投資統計はじめに今号ではロシア NIS 諸国と中国との経済関係を特集しているがその際にやはり貿易および投資の統計は避けて通れないであろうただロシア NIS 諸国の側

特集ロシア NIS 圏で存在感を増す中国特集ロシアの消費市場を解剖する Data Bank 中国の対ロシア NIS 貿易投資統計はじめに今号ではロシア NIS 諸国と中国との経済関係を特集しているがその際にやはり貿易および投資の統計は避けて通れないであろうただロシア NIS 諸国の側特集ロシア NIS 圏で存在感を増す中国特集ロシアの消費市場を解剖する Data Bank 中国の対ロシア NIS 貿易投資統計はじめに今号ではロシア NIS 諸国と中国との経済関係を特集しているがその際にやはり貿易および投資の統計は避けて通れないであろうただロシア NIS 諸国の側の統計は様式が不揃いであったり発表が遅かったり一部の項目を国家機密扱いしていたりと ( 特にロシアの天然ガスや軍需関連品目の輸出