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1 仙台厚生病院地域連携セミナー 災害時における感染症および感染対策 2011 年 6 月 9 日 東北大学大学院内科病態学講座感染制御 検査診断学分野東北大学大学院感染症診療地域連携寄付講座 國島広之

2 災害時における感染症および感染対策 1. 今回の大震災について 2. 宮城における感染症 3. 宮城における感染対策

3 東日本大震災, 3 月 11 日 ( 金 ) 宮城県では 1200 箇所以上に 30 万人以上が避難 地震 (2:46pm) では被害は少ない その後の大津波で壊滅的な被害

4 東日本大震災, 3 月 11 日 ( 金 ) 固定 携帯電話ともに不通 現状把握できず 自宅の停電のため 酸素生成機が使用不能となり在宅酸素療法の患者が多数入院 診療所機能破綻のため 透析患者 妊婦なども地域で連携し対応 検査室の棟が耐震上 立ち入り制限 複数の機器が倒壊 損壊 停電により すべての検査機器 (200V) が使用不能 断水で 生化学検査機器は使用不能 段階的に検査室の移転 復旧を進める検査部門は病院の要であることを再認識

5 物流の途絶と感染対策の変更 高速道路網の寸断により極端な物品 食料不足が発生 院内在庫を極力持たないため 物流の寸断に対応し難いガスが供給されないため 滅菌とリネン洗濯ができない ライン類の交換頻度の再検討医療器材の使用基準の見直し清掃 リネン交換の簡素化 3/18( 震災 7 日後 ) 大学病院内に通知するとともに 可能な病院にも連絡

6 災害時における感染症および感染対策 1. 今回の大震災について 2. 宮城における感染症 3. 宮城における感染対策

7 東北大学病院における 震災関連入院症例の疾患推移 (n=425, 3/11~3/31) 震災発生後 1 週間までは外傷が多く 2 週目以降は感染症が疾患として優勢となる傾向

8 東北大学病院における 震災関連感染症入院症例 BSIs その他 消化器 喀痰培養 尿路 創部 呼吸器 n=124 MRSA 7 例 PSSP 5 例 MSSA 4 例 M. Catarrhalis 3 例 Legionella pneumophila 1 例 P. aeruginosa 1 例 H. influenzae 1 例 呼吸器感染症が 67% を占める平均年齢 : 79 歳 (41~94 歳 ) 誤嚥性肺炎を含む高齢者の市中肺炎 COPD の二次感染が多い 創部感染症が次いで多い ( 初期 ) そのうち 震災時の受傷による破傷風が 2 例 尿中肺炎球菌抗原 (n=31) 陽性 :8(25.8%) 被災者の肺炎でも 肺炎球菌は主要な原因菌となっている

9 レジオネラ症 61 歳男性 津波に飲み込まれ漂流し 避難所生活していた 1 週間後 発熱 咳があり 呼吸困難の増悪を認め ヘリで 3/18 搬送 レジオネラ尿中抗原 : 陽性喀痰培養 : L. pneumophila serogroup 1 入院後の治療により呼吸不全は改善するものの 脳梗塞を併発し第 14 病日死亡 震災後の発生事例は報告されていない 宮城県では震災後 2 例 (2010 年 : 15 例 )

10 破傷風 3/15-5/15 までの報告症例 年齢発症日診断日 1 50 代 - 3 月 20 日 2 60 代 3 月 21 日 3 月 25 日 3 80 代 3 月 22 日 3 月 25 日 4 60 代 3 月 25 日 3 月 27 日 5 70 代 3 月 25 日 3 月 28 日 6 60 代 3 月 29 日 4 月 1 日 7 70 代 - 4 月 6 日 宮城県では震災後 7 例 (2010 年 : 3 例 ) 震災時の受傷例は確認されているものの現在のところ がれきのリスクは不明

11 結核 宮城県立循環器 呼吸器病センター 86 歳女性 :2011 年 2 月末より下腿浮腫 4 月 3 日より咳 痰 食欲低下 倦怠感 震災後 南三陸の避難所で 3 日間 その後は歌津の親戚宅で避難生活をしていた 心不全 肺炎治療目的に循環器科へ紹介 肺炎にて呼吸器科入院 SpO2 93%(5L マスク ) 喀痰抗酸菌 G2+ にて 感染病棟転棟 PCR 結果は TB-PCR 陽性であった 震災後 1 ヶ月間で 肺結核で 7 名の入院 避難所 (2) 自宅 (5) 昨年の同期間の入院例は 7 名 ( 年間 102 例 ) で 増加傾向ではない 避難所における接触者健診は困難が予想される

12 災害時における感染症および感染対策 1. 今回の大震災について 2. 宮城における感染症 3. 宮城における感染対策

13 宮城県 仙台市 行政との連携 感染症対策支援に関する協定 ( 平成 20 年 9 月 29 日 ) 宮城県 仙台市と新型インフルエンザ対策を実施寄附講座設置 ( 平成 22 年 4 月 1 日 ) 宮城県 仙台市対策本部に訪問し 感染症および管理の活動調整 (3 月 13 日 ( 日 )) 避難所巡回等に関する依頼 ( 平成 23 年 3 月 21 日 )

14 感染対策の 8 カ条 (3/24: ズームイン Super) 行政 ( 宮城県 仙台市 東北厚生局等 ) を通じて 2,000 枚を避難所に貼付 メディア (NHK 民放 新聞等 ) を通じ また医師会でも広報

15 感染管理における避難所の巡回 東北大学大学院内科病態学講座感染制御 検査診断学分野グループ 居住区域 手指衛生の状況 トイレなどの環境整備 消毒薬の使用法 食品管理 体調管理 自治管理などの状況を評価し 改善支援を行う 山元 亘理地区避難所 (3/23) 気仙沼避難所 (3/23 24) 多賀城 塩釜 七ヶ浜避難所 (3/28) 気仙沼避難所 (3/30 31) 女川避難所 (4/4) 石巻 ( 牡鹿半島地域 ) 避難所 (4/5) 歌津 本吉避難所 (4/7) 名取避難所 (4/8, 13) 栗原避難所 (4/11) 北上地区避難所 (4/14) 石巻地区避難所 (4/19) 宮城県 地域保健師とともに巡視

16 気仙沼市内の大型避難所での インフルエンザ対応事例 日付は診断日 有症状者 ( および必要であればその家族 ) の個室収容 マスク着用 アルコール手指消毒の啓発強化 発症者の周囲のモニタリング / 発熱外来の設置 キッズルームへの介入 濃厚接触者などへのタミフル予防投与

17 避難所の感染管理マニュアル 感染対策全般診療上の対応予防投与の目安 現場の医療従事者向けの資料を作成

18 避難所生活における感染管理上のリスクアセスメント 宮城県全域の避難所 ( 計 342 箇所 ) を対象に 平成 23 年 3 月 22 日 4 月 1 日にかけて 感染管理のリスクアセスメントを行った 石巻地域石巻市 (132) 東松島市 (17) 女川町 (21) 石巻市雄勝 (12) 石巻市牡鹿 (4) 石巻市渡波 (1) 気仙沼地域気仙沼市 (81) 南三陸町 (12) 本吉町 (6) 県南地域名取市 (9) 岩沼市 (3) 亘理町 (5) 山元町 (7) その他白石市 (4) 丸森町 (3) 角田市 (3) 村田町 (1) 柴田町 (1) 蔵王町 (1) 川崎町 (1) 大崎市 (5) 登米市 (5) 美里町 (2) 涌谷町 (2) 栗原市 (1) 加美町 (1) 大郷町 (1) 大河原町 (1)

19 リスクアセスメントの評価 感染症サーベイランスには 診断の質保証が必要 感染症の発生動向に関わらず 避難所のリスクアセスメントは必要 市中感染症の季節性の流行状況によらない評価 震災時 電気 電話がない状態では 紙運用が選択される 保健師の記載による評価と その他の職種では 情報量に違い 地域における院内感染対策の経験を 震災時の行政支援に活用

20 3 月末時点における宮城の避難所におけるリスクアセスメント 1. 近接した距離で多数が生活しており インフルエンザ 結核 水痘など呼吸器感染症の伝播リスクがある 2. 手洗い 清掃 食品衛生のためには 上下水道の復旧が必要である 3. 地域によっては トイレの清掃状態について改善を要する避難所がある 4. 医療団が広く診療しているものの 継続的な健康状態の把握は不十分 5. マスクやアルコール手指消毒薬は概ね充足しているものの 次亜塩素酸の確保 消費量に応じた供給や 避難所による差異について対応が必要 6. 多数を収容している避難所では 管理運営が行い難いことが示唆される 7. 栄養状態や食品衛生管理も避難所の格差がある

21 避難所におけるトイレ清掃のポイント 石巻赤十字病院 ( 石井先生 : 石巻地区災害医療コーディネータ ) より 衛生環境の改善について 県を通じて支援要請 石巻赤十字病院 石巻保健所 東北大学で内容調整 トイレをきれいに使用すること 定期的な清掃 使用物品 消毒薬の使用法 清掃の手順などを解説 WEB 上で公開 A3 版を 1,000 枚印刷 配付 全県的に使用予定 地域内では清浄化しつつある

22 宮城の被災地の現状 4 月中旬以降は就業復帰や 学校での授業開始もあり 日中は人が少ない 避難所は減少傾向 仮設住宅に入居しつつある 避難所だけでなく 自宅 親戚宅にいる方も多い 避難の長期化に伴い 避難所が自宅のようになっている がれきの撤去や 上下水道の復旧に伴い 衛生状態は改善されつつある 食糧の配給に頼る場合は栄養不足 自前で調理する場合は食品衛生上の課題がある

23 被災地における市中感染症 日本における流行状況 インフルエンザ 震災時 ( 第 10 週 ) は 全国的にインフルエンザ (16.1/ 定点 ) および 感染性胃腸炎 (10.2/ 定点 ) の流行が見られていた 感染性胃腸炎 被災地でも市中感染症は同様にみられる 公衆衛生の考え方 日本全体における感染対策の向上が必要

24 宮城の避難所における感染症の現状 ( 第 21 週 : 5.23 ~ 5.29) 宮城県結核 感染症情報センター, 保健所 仙南 塩釜 大崎 栗原 登米 石巻 気仙沼 合計 避難所当り 前週 避難所数 避難者数 消化器症状 インフルエンザ 呼吸器系症状 ( インフルエンサ を除く ) 発熱を伴う発疹 全国における流行状況 ( 定点当たり報告数 ): 第 20 週 (5 月 16 日 ~5 月 22 日 ) インフルエンザ : 全国では 1.62 都道府県別では沖縄県 (16.19) 佐賀県 (6.92) 長崎県 (5.37) 宮崎県 (4.95) 福井県 (4.59) 鹿児島県 (4.07) 青森県 (3.81) が多い 宮城県は 0.63 感染性胃腸炎 : 全国では 6.22 都道府県別では富山県 (12.9) 新潟県 (11.9) 山形県 (11.0) が多い 宮城県は 6.81

25 感染症に関する情報の共有 感染症の情報について 医療従事者 公衆衛生担当者 市民 メディアにどのように伝えていくかも課題

26 地震と感染症 高山義浩, メディカ出版 INFECTION CONTROL より一部改変 発生年災害死亡 ( 名 ) 感染症なと の発生 1923 年関東大震災 105,385 発生の翌年には狂犬病の発生報告数か 726 件と増加 そのほか 感染症か 流行したという記録はない 1948 年福井地震 3,769 感染症か 流行したという記録はない 1995 年阪神 淡路大震災 6, 年新潟県中越地震 68 季節的にインフルエンサ の流行か 危惧されたものの 感染症のアウトフ レイクは発生していない 尿路感染症の問題か 指摘されたものの 感染症のアウトフ レイクは発生していない 年 台湾地震 2, 年 スマトラ島沖地震 227, 年 四川大地震 87, 年 ハイチ大地震 22 万以上 呼吸器疾患の報告は増加したか 下痢症の有意な増加は認めなかった 虫刺症か 多く テ ンク 熱なと の流行か 危惧されたか 実際には感染症のアウトフ レイクの発生はない 津波直後に下痢症か 増加した地域もあるか 一部地域て 麻疹か 流行した以外にアウトフ レイクは認められなかった 発災から 1 ヵ月まて にカ ス壊疽を合併した外傷患者が数万人規模て 発生した 発災から 9 ヵ月か 経過したころより 被災地て コレラが拡大し 27 万人以上か 感染 4,700 人以上か 死亡した

27 次なる災害に向けた課題 広域無線 1. 電話やインターネットが不通な場合の情報の共有 連絡手段の確保 ( 避難所 診療所 社会福祉施設を含め ) 2. 物流やライフラインが乏しい状況での感染対策の指針 3. 拠点医療機関 派遣医療における検査体制 ( 血液 生化学 迅速診断など ) 慢性疾患への対応 4. 被災地と緊急援助チームにおける情報の共有および 公衆衛生活動のサポート ( 被災地の状態把握 ) 5. 感染症サーベイランス体制 ( 市中 院内 重症感染症 ) の整備 中 長期的な感染症対策とその評価 6. 国 県 市町村における感染症担当行政官の育成 7. 現場の状況 ニーズと支援に関する情報の一元化 震災についての記録を残すことも重要

28 今後ともよろしくお願いします