プールに関する疾病とその予防

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ただきよこけい
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1 プールの衛生と塩素消毒平成 30 年度プール衛生管理講習会平成 30 年 6 月 6 日府中市市民活動センタープラッツバルトホール講師立川眞理子 1

2 講演内容 1. はじめに 2. プール水の管理考え方 3. プールに関する感染症 4. プールでの感染事故例 5. 対処方法 6. 塩素消毒について 7. 塩素系消毒剤について 8. 汚染事故への対処 9. 乳幼児への対応 2

3 はじめにプールは健康増進スポーツレジャーのみならずリラックスやリハビリテーションなど様々な目的で利用されるようになってきた多くの多様な人々が遊泳を楽しむようになり同じプールを利用する機会が多くなってきている水は病原性微生物や毒性を有する化学物質に汚染された場合には疾病を伝播させる強力な媒体となるプール水は入泳者とその施設の環境により絶え間なく汚染されておりその水質が適正に管理されていない場合には大規模な水系感染症の発生をきたす恐れが非常に大きい衛生的な環境を保持できるプール水であるように管理されていなくてはならないプールで生じる感染症を中心にその防御と対策についてプールの水質管理と塩素消毒の重要性衛生管理において注意すべき点を解説する 3

4 プールの水質管理プール水は水道水あるいは水道法で定める水質基準に適合する地下水等を利用する入泳者が持ち込むあるいは遊泳中に排出する汗等によってプール水は汚染されるプール水としての条件を満たすことができなくなる最も注意しなくてはならないのは感染性微生物の適正な管理プール水の水質基準項目の遵守 4

5 保育所でのプール衛生管理 * 遊泳用プールの衛生基準に従い遊離残留塩素濃度が 0.4 mg/l~1.0 mg/l に保たれるよう毎時間水質検査を行い濃度が低下している場合は塩素剤を追加するなど適切に消毒する低年齢児が使用することの多い簡易ミニプール ( ビニールプール ) についても塩素消毒が必要である排泄が自立していない乳幼児には個別のタライ等を用いてプール遊びを行い他者と水を共有しないように配慮するプール遊びの前後にはシャワーを用いて汗等の汚れを落とすプール遊びの前に流水を用いたお尻洗いも行う * 保育所における感染症対策ガイドライン (2018 年改訂版 ) 厚生労働省 (H19 5/28 付健発第号厚生労働省健康局長通知別添 ) 5

6 プールに関連する感染症ウィルスによる感染症咽頭結膜熱 ( プール熱 ) 流行性角結膜炎アデノウィルス急性出血性結膜炎夏かぜ症候群ヘルパンギーナ手足口病エンテロウイルスコクサッキーウイルスエコーウィルス水いぼ伝染性軟属腫ウイルスウイルス性胃腸炎ノロウィルスロタウイルス細菌による感染症腸管出血性大腸菌感染症 O157,O26,O111 急性外耳炎内耳炎とびひ黄色ブドウ球菌日和見感染症緑膿菌アシネトバクターレジオネラ症レジオネラ菌原虫類による感染症クリプトスポリジウムジアルジアその他アタマジラミ症 6

7 感染の防止塩素濃度の保持接触感染に注意タオル等の共用禁止更衣室各種の洗い場等の共用施設の清浄乾燥消毒 7

8 プール水が原因と推定された腸管出血性大腸菌 O26 集団感染事例 - 長野県 (IASR Vol. 34 p : 2013 年 5 月号 ) 2012 年 8 月 10 日医療機関から管轄保健所に EHEC O26 感染の患者 (A 保育所 3 歳未満児のクラスの園児 ) 1 人の届出があり疫学調査を行った関係者ら 330 人の便と 7 月 25~27 日の検食 10 検体について検査を実施したが食品からは当該菌は検出されなかった一方発症者が 7 月 27 日 ~8 月 16 日の間持続的に発生しており保育所内での継続した感染も疑われたことから環境 5 検体の検査も実施したところプールに入る前に足の砂を落とす金タライの水 ( 以下タライ水 ) から当該菌を検出した IASR(Infectious Agents Surveillance Report): 病原微生物検出情報 ( 国立感染症研究所 8 )

9 プール水が原因と推定された腸管出血性大腸菌 O26 集団感染事例 - 長野県 (2) (IASR Vol. 34 p : 2013 年 5 月号 ) 9

10 プール水が原因と推定された腸管出血性大腸菌 O26 集団感染事例 - 長野県 (3) (IASR Vol. 34 p : 2013 年 5 月号 ) プールに入る準備としてパンツを脱がずにずらしたままお尻を洗っておりパンツに染み込んだ水がタライに滴り落ちる状況であったまたお尻を洗った後再びそのパンツをはいてプールに入っていたことからプール水も同様に汚染されたことが推察されたプールは塩素消毒がされていなかった 10

11 塩素の働きとその取り扱い 11

12 塩素剤の種類次亜塩素酸の生成 (1) 次亜塩素酸ナトリウム ( 液体 ) NaOCl + H 2 O HClO (OCl - ) + Na + +OH - (2) サラシ粉次亜塩素酸カルシウム ( 固体 ) Ca(OCl) 2 + H 2 O 2HClO (OCl - ) + Ca OH - (3) 塩素化イソシアヌル酸 ( 固体 ) Cl 3 Cy + H 2 O 3HClO + H 3 Cy ClN O NCl HClO OCl - ph 7.5 O N Cl O 12

13 遊離塩素 NaOCl 水で希釈 HOCl OCl - 次亜塩素酸次亜塩素酸イオン遊離塩素 HOCl H (+1) O ( 2) Cl (+1) 酸化作用をもつ Cl (+1) : 有効塩素 Cl (+1) +2e Cl ( 1) 比較!! NaCl Na (+1) Cl ( 1) 測定法 :DPD 法塩化物イオン : 酸化力を持たない 13

14 結合塩素塩素原子 (Cl + ) は窒素化合物と結合しやすいアンモ二ア - NH 3 アミノ酸 - NH 2 >NH タンパク質 - CO NH - 水中では様々な結合塩素が生成する [ アンモニアクロラミン ] NH 3 + HOCl NH 2 Cl + H + + OH - NH 2 Cl NH 2 ( 1) Cl (+1) クロラミンも酸化力のある有効塩素一般に結合塩素の殺菌力は遊離塩素に比べて弱い測定法 (DPD 法 ) によって遊離塩素と結合塩素を区別 14

15 プール水における結合塩素の由来尿一日当たりの排泄量 ( 男子 ) 尿量 1.5 L 尿素 30 g クレアチニン 1-2 g 尿酸 g アンモニアミネラル (Na, K など ) 汗一日当たりの排泄量汗量 L 少量の溶質を含む (1-2 %) ミネラル尿素クレアチニン乳酸塩その他身体付着物 : 日焼止めローションなど 15

16 プール水中では結合塩素生成や塩素消費が常に生じている残留塩素を正確に測る塩素の様子を把握する感染症の確実な予防が可能となる測定法 (DPD 法 ) に慣れる 16

17 塩素注入量の計算換水後など一定量のプール水に初めて塩素剤を注入する場合の必要量 (q) q= 100 a Y X q: 塩素剤の必要量 (g または ml ) Y: プールの水量 (m 3 ) X: 塩素剤の濃度 (%) a: 目標とする残留塩素濃度 (mg/l ) 1 mg/l を目標にして調製する調製後かならず有効塩素濃度を測定して確認する固形の塩素剤は水で溶解してからプールに加える 17

18 1m 3 のプール水の有効塩素を 1.0 mg/l にするための塩素剤所要量計算値塩素剤の種類と有効塩素含量塩素剤所要量計算値製品液体 5 % 10 % 20 ml 10 ml 次亜塩素酸ナトリウム溶液固体 60 % 70 % 80 % 90 % 1.7 g 1.4 g 1.3 g 1.1 g ジクロロイソシアヌル酸 Ca(OCl) 2 トリクロロイソシアヌル酸小量のプール水に溶かしてからプールに加える調整後塩素濃度の確認が重要 18

19 病原微生物の塩素水中での殺菌不活化時間 (Cl 2 : 1 mg/l, ph 7.5, 25 ) 微生物病原性大腸菌 O157:H7 A 型肝炎ウイルスジアルジア原虫クリプトスポリジウム時間 1 分以内約 16 分約 45 分約 15,300 分もしくは10.6 日 * 立川和訳して改変. 19

20 プールでの便失禁や嘔吐への対処事故場所 1. プール周辺および付帯施設説明をして入泳者を遠ざける汚物を消毒剤 ( 例 0.1% NaOCl) をしみこませたタオルのようなもので拭き集める集めたものは密封して処理をする清掃に使用した器具も十分に消毒する消毒液のスプレーは避ける 0.1% 塩素水溶液の作り方を確認しておく塩素剤の塩素含量が 5% なら 50 倍希釈 (20mL/L) 60% なら 600 倍希釈 (2g/1.2L) 塩素濃度が高くなっているので皮膚等への接触に注意! 20

21 プール水の汚染事故水量の少ない温水槽や子供用プールでは換水が望ましい説明をして入泳者をプールから出す汚物を除きプール水を消毒して衛生的に排水するプールおよび汚水が流れた部分を消毒洗浄し流水ですすぐ清浄な水を加える phと塩素濃度を確認する水温も! 入泳開始プールの水温 25 以上 29 ~30 21

22 プールでの嘔吐への対処嘔吐の場合嘔吐の原因を明らかにする水にむせた場合 : 汚物をバケツなどで掬い取り衛生的に処理する残留遊離塩素濃度や水温を確認した後入泳を許可する体調不良の場合 : 換水 ( 前スライドに準じて処置 ) 22

23 水遊び用おむつ水あそびパンツを使用しても水中での便尿の流れ出しを完全に防げるわけではないので病気などの感染を防ぐことはできない子どものオシッコやウンチに気がついた時には急いで決められた場所などで処理するプールサイドでは行わない公共の施設によっては使用できない場所がある 23

24 小規模プールの衛生管理プールの安全衛生管理 ( 東京都健康福祉局平成 20 年 5 月 ) 1 小規模プールの特徴幼稚園や保育園で使用される小規模プールはプール水を循環ろ過させる設備のないためおき式のプールがほとんどですまた園庭などに仮設的に設置しているため給排水設備や水泳者の身体を清浄に保つためのシャワー専用の更衣室等が設けられていない場合が多くみられます 2 遊泳者の健康管理幼児や乳児の健康チェックは周りの管理者が行ってください目耳鼻皮膚の状態発熱や下痢などの体調をチェックしますまた保護者とも連絡帳などで連絡をとり一人ひとりの健康状態を把握できるようにしましょう 3 水遊びの前にプールに入る前には必ずトイレに行かせましょう水着は清潔なものを着用し頭から足の先までシャワー ( できれば温水 ) でていねいに洗いましょう 4 水遊びに適する温度水遊びに適する気温水温の目安は気温 + 水温が 50 以上と考えましょう特に乳幼児の場合は更に高めが良いでしょう 5 水遊び中の注意点プールでは思わぬけがや事故が起こりがちですすぐに応急措置手当のできる体制を整えておく必要があります救急薬品毛布タオル等はプールの近くに置いておきましょうまた何かのときに対応してくれる近くの診療所又は病院を 2 か所以上把握しておきましょう 6 終わったら水遊びしたあとは入る前と同様にシャワーを使って頭から足先までていねいに洗いましょうまたうがいをさせたり目を水道水で軽く洗い流して下さいプールで起こる感染症を防ぐためにも役立ちます 24

25 プール利用者が注意しなくてはならないこと 1 下痢やその他の病気にかかっている時はプールに入らないようにする 2 プールに入る前やトイレを利用した場合はシャワーにより十分に身体を洗う乳幼児の場合は保護者の方が十分に洗ってあげましょう ( 消毒用塩素は水中の汚れがあるだけで消毒効果が低くなります身体に付着した病原体などを落とすだけでなく汚れも水中に持ち込まないように心掛ける ) 3 唾液やたんを水の中に吐かない 4 プール水の誤飲に注意する 5 プール後には十分にシャワーを浴び洗眼うがいをする 6 タオルハンカチ目薬などを共用しない 7 乳幼児を連れた保護者の方は子供さんがトイレに行きたいという前に定期的にトイレに連れて行く ( トイレに行きたいと言った時には排便している場合が多い ) 8 オムツタイプの水着の交換やオムツ交換は決してプールサイドなどで行わず必ずトイレで行う堺市衛研だより平成 19 年 6 月第 25 号プールと感染症

26 参考資料プールの安全衛生の管理 ; 東京都福祉保健局平成 19 年 11 月 21 日 19 福保健衛第 849 号 anri.files/hp_pool_anzen_eisei.pdf 保育所における感染症対策ガイドライン : 厚生労働省 (2018 年改訂版 ) レジオネラ症とは ( 国立感染症研究所感染情報 ) Cryptosporidium の環境汚染と消毒技術 : 森田重光 JASV 会報 No p2-6 高木正明, 他プール水を介したクリプトスポリジウム症集団発生事例, 感染症学雑誌 : 82: 14-19, 水泳プール総合ハンドブック公益社団法人日本プールアメニティ協会 26

プールに関する疾病とその予防

プールに関する疾病とその予防プールの衛生と塩素消毒平成 30 年度プール衛生管理講習会平成 30 年 5 月 30 日府中市市民活動センタープラッツバルトホール講師立川眞理子 1 講演内容 1. はじめに 2. 水の管理水質基準項目 3. プールに関する感染症 4. プールでの感染事故例 5. 塩素消毒について 6. 塩素系消毒剤について 7. 汚染事故への対処 8. 利用者への注意 2 はじめにプールは健康増進スポーツ