平成20年度沖縄県医師会臨床検査精度管理調査

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1 第 4 回九州臨床検査技師会 病理検査精度管理調査結果報告書 はじめに今回で4 回目となる九州臨床検査技師会主催の病理 細胞検査精度管理調査ですが この精度管理の目的は 個人や団体の評価ではなく 九州地区の病理 細胞検査に従事する臨床検査技師の自己研鑽につながればという思いで事業を展開した 対象 ( 参加施設 ) および方法 1. 対象 ( 参加施設 ) 今回の参加施設は 九州全体で 140 施設の協力が得られた 参加人数は 337 名の参加がみられ その内訳は 細胞検査士 258 名 臨床検査技師 79 名であった 2. 方法今回の病理検査部門の精度管理は 前回同様にフォトサーベイを実施した 設問数は全部で 15 問あり 2 枚のフォトに対して 回答欄の 5 つの選択肢から 最も適切だと思われるものを 1 つ選び 施設単位ではなく 個人単位での回答を求めた 写真の倍率は撮影時の対物レンズの倍率を記した 正解と解説 設問 1 HE 染色の不良標本です 不良の原因は次のうちどれですか 写真 : 左図 HE 10 右図 HE 40 回答欄 : 1. 脱パラ不良 2. 染色むら 3. コンタミネーション 4. メス傷 5. 伸展不良 正解 : 5. 伸展不良解説 : HE の不良標本で 伸展不良を出題 高い正解率を示した ( 正解率 :97.3%)

2 設問 2 不良標本の HE 染色です 不良の原因として考えられる要因は次のどれですか 写真 : 左図 HE 10 右図 HE 20 回答欄 : 1. 脱パラ不良 2. 脱水不良 3. 染色むら 4. メス傷 5. 封入剤不足 正解 : 1. 脱パラ不良解説 : HE の不良標本で 脱パラ不良を出題 55.2% とやや低い正解率を示した 次に染色むら 28.7% 脱水不良 16.1% と回答が分散する結果となった 脱パラ不良では 他の 2 項目に比べ ヘマトキシリン エオジン両方ともほとんど染色されておらず 鑑別可能と思われる ( 正解率 :55.2%) 設問 3 図に示した HE 染色像の上皮は次のうちどれですか 写真 : 左図 HE 10 右図 HE 40 回答欄 : 1. 単層扁平上皮 2. 重層扁平上皮 3. 円柱上皮 4. 線毛円柱上皮 5. 移行上皮 ( 尿路上皮 ) 正解 : 4. 線毛円柱上皮解説 : HE 染色像での上皮の選択問題 肺の気管支で数層の円柱上皮に線毛が見られ 線毛円柱上皮の像を呈し 高い正解率であった ( 正解率 :97.9%)

3 設問 4 HE 染色の組織像です 臓器名は次のどれですか 写真 : 左図 HE 4 右図 HE 10 回答欄 : 1. 胃 2. 小腸 3. 大腸 4. 胆のう 5. 食道 正解 : 4. 胆のう解説 : HE 染色での臓器の選択問題で 胆のうを出題し 77.1% の正解率であった 次に高い回答は 19.9% の小腸がみられた 胆のうの粘膜面は他方向にヒダが走り 粘膜筋板が欠如している点で他の消化管と異なる 小腸ではヒダの表面に多数の腸絨毛がみられる ( 正解率 : 77.1%) 設問 5 HE 染色の組織像です 臓器名は次のうちどれですか 写真 : 左図 HE 4 右図 HE 10 回答欄 : 1. 胃 2. 小腸 3. 大腸 4. 胆のう 5. 虫垂 正解 : 5. 虫垂解説 : HE 像消化菅臓器の選択問題で 虫垂を出題し 59.5% とやや低い正解率であった 次に大腸 25.3% 胃 8.3% 小腸 6.5% の回答となった 特に設問のスライドでは 大腸と虫垂の鑑別が必要となった 虫垂は 粘膜の構成要素は結腸と同じだが 腸腺 ( リーベルキューン陰窩 ) は短く不規則で離れていることが多く リンパ節がたくさんあり大きな胚中心を有することが多い リンパ小節は 粘膜下層にまで伸びて粘膜筋板を中断し そこで大きく広がるのが特徴である ( 正解率 : 59.5%)

4 設問 6 HE 染色の標本です 標本中に見られるものは次のうちどれですか 写真 : 左図 HE 20 右図 HE 40 回答欄 : 1. 石灰化 2. 壊死物質 3. 寄生虫卵 4. 真菌 5. 縫合糸 正解 : 5. 縫合糸解説 : HE 標本でみられる縫合糸の問題 正解率は 84.7% であった 次に多い回答が壊死物質 8.7% であった 縫合糸はエオジンに薄く染まり 強拡大で 1 本 1 本の線維が規則正しく見られる ( 正解率 :84.7%) 設問 7 腎生検の HE と PAM 染色です で囲まれた器官の名称はどれですか 写真 : 左図 HE 20 右図 PAM 20 回答欄 : 1. 糸球体 2. 近位尿細管 3. 遠位尿細管 4. ボウマン嚢 5. メサンギウム領域 正解 : 2. 近位尿細管解説 : 腎臓の器官の選択問題で 近位尿細管を出題し 正解率は 82.5% を示した 次に遠位尿細管 14.5% の回答が多くみられた 近位尿細管はエオジンに濃く染まる顆粒状の細胞質をもつ やや大型の立方細胞で刷子縁が見られる 遠位尿細管は 数は少なく細胞は小さい 細胞質はより淡く染まり刷子縁が存在しない ( 正解率 :82.5%)

5 設問 8 肺組織の HE 染色と Fe 染色です Fe 陽性物質は次のどれですか 写真 : 左図 HE 40 右図 Fe 40 回答欄 : 1. メラニン 2. リポフスチン 3. ヘモジデリン 4. アスベスト 5. ホルマリン色素 正解 : 4. アスベスト解説 : 肺の HE 標本と鉄染色陽性のアスベストの問題 正解率は 39.5% で ヘモジデリンの回答率 59.9% を下回った 両者とも HE 染色で褐色 鉄染色陽性を呈するが ヘモジデリンの顆粒状に比べ アスベストは 大きな塊でみられ一部に棍棒状や鉄アレイ状の形態がみられる ( 正解率 :39.5%) 設問 9 肺の HE 染色の標本です 必要な特殊染色は次のうちどれですか 写真 : 左図 HE 20 右図 HE 40 回答欄 : 1. チール ネルゼン染色 2. コンゴーレッド染色 3. グロコット染色 4. 墨汁染色 5. ヒメネス染色 正解 : 3. グロコット染色解説 : 肺の HE 標本で 強い出血壊死を伴い ヘマトキシリンに染まる物質に必要な特殊染色を求めた 肺真菌症 ( ムコール菌症 ) 症例で 高い正解率を示した ( 正解率 :93.7%)

6 設問 10 B 型劇症肝炎の HE 染色と特殊染色です 特殊染色は次のうちどれですか 写真 : 左図 HE 40 右図 40 回答欄 : 1. アルシャンブルー染色 2. アザン染色 3. オルセイン染色 4. ベルリンブルー染色 5. ビクトリアブルー染色 正解 : 5. ビクトリアブルー染色解説 : B 型劇症肝炎の HE 染色と青色に染まるビクトリアブルー染色像を提示した 正解率 75.0% であった 次の回答率はオルセイン染色で その場合は濃茶ないし茶褐色を呈する ( 正解率 :75.0%) 設問 11 前立腺生検の HE 像です 前立腺癌の診断に必要と思われる免疫組織化学染色は 次のうちどれですか 写真 : 左図 HE 10 右図 HE 20 回答欄 : 1.CEA EMA 2.34βE12 p63 3.Vimentin SMA 4.ER PgR 5.CD30 CD79a 正解 : 2. 34βE12 p63 解説 : 前立腺生検の HE 像から 前立腺癌の診断に必要な免疫組織化学染色の選択問題 正解は 34βE12,p63 で 高い正解率を示した 正常前立腺では腺上皮細胞と基底細胞で構成される 34βE12 は基底細胞の細胞質を染める p63 は基底細胞の核を染める 腺癌の場合 基底細胞の消失 欠如がみられる ( 正解率 :92.7%)

7 設問 12 膵の Mucinous cyst adenoma の HE 像です 診断に必要と思われる免疫組織化学染色は 次のどれですか 写真 : 左図 HE 10 右図 HE 20 回答欄 : 1.ER PgR desmin 2.CD30 CD79a 3.c-kit S MUC1 MUC2 5.Chromogranin Synaptophysin 正解 : 1. ER PgR desmin 解説 : 膵の粘液性嚢胞腺腫 Mucinous cystadenoma の HE 像で 診断に必要と思われる免疫組織化学染色を求めた 多くの方 266/334(79.6%) が MUC1 MUC2 を回答され 正解の ER PgR desmin の 50/334(15.0%) を大きく上回り厳しい結果となった 粘液性嚢胞腺腫 mucinous cystadenoma は 厚い繊維性皮膜をもつ多房性腫瘍 被覆上皮は粘液性あるいは非粘液性高円柱上皮で 種々の程度の乳頭状増殖を示す 多くの例で間質が卵巣様 ovarian type stroma である この確認のために ER PgR desmin が必要となる ( 正解率 :15.0%) 設問 13 肝臓のCD68 免疫染色の標本です 陽性に染まっている細胞は次のうちどれですか 写真 : 左図免疫染色 (CD68) 20 右図免疫染色 (CD68) 40 回答欄 : 1. リンパ球 2. 内皮細胞 3. 胆管上皮細胞 4. クッパー細胞 5. 肝細胞 正解 : 4. クッパー細胞解説 : 肝臓の CD68 免疫染色陽性細胞を提示 ほとんどの方が クッパー細胞と回答され 98.8% の高い正解率であった CD68 はマクロファージ ( 脾 消化菅 肺 骨髄 ) とクッパー細胞 ( 肝 ) に存在する CD68 抗原と特異的に反応する ( 正解率 :98.8%)

8 設問 14 膜性糸球体腎炎疑い患者の腎生検 蛍光抗体法 (FITC 標識抗 IgG 抗体 ) 陽性像です IgG が沈 着しているのはどの部位ですか 写真 : 左図蛍光抗体法 (FITC 標識抗 IgG 抗体 ) 20 右図蛍光抗体法 (FITC 標識抗 IgG 抗体 ) 40 回答欄 : 1. メサンギウム領域 2. 糸球体毛細血管基底膜 3. 内皮細胞 4. 上皮細胞 5. 尿細管 正解 : 2. 糸球体毛細血管基底膜解説 : 膜性糸球体腎炎疑いで腎生検 蛍光抗体 IgG 陽性像を提示し沈着部位を求めた 正解の糸球体毛細血管基底膜が 76.7% で 次にメサンギウム領域 22.6% の回答結果であった ( 正解率 :76.7%) 設問 15 ヒルシュスプルング病疑いの小児で 直腸生検が施行され特殊染色を行った 診断に必要な特殊染色は次のうちどれですか 写真 : 左図 10 右図 20 回答欄 : 1. 鍍銀染色 2.PAM 染色 3. グリメリウス染色 4. グロコット染色 5. アセチルコリンエステラーゼ染色 正解 : 5. アセチルコリンエステラーゼ染色解説 : 小児ヒルシュスプルング病の診断に必要な特殊染色は 神経線維を染めるアセチルコリンエステラーゼ染色で 86.8% の正解率であった ヒルシュスプルング病は 別名先天性巨大結腸症とも呼ばれ 腸管無神経節症がその本体である 出生 5,000 人に1 人の頻度でみられる 正常消化管の壁には粘膜下神経叢 ( マイスナー神

9 経叢 ) と筋層間神経叢 ( アウエルバッハ神経叢 ) があり神経細胞が分布している ヒルシュスプルング病では 神経線維が増え神経細胞の分布している神経叢がみられない 診断には 注腸造影検査 肛門内圧検査や直腸粘膜吸引生検でアセチルコリンエステラーゼ陽性神経線維の有無を調べる ( 正解率 :86.8%) まとめ 1. 全 15 問の正解率の平均は 75.5% で 毎年約 9 割の正解率を示す日臨技フォトサーベイに比べ 低い結果となった 2. 正解率が低かった設問は 設問 2 の脱パラ不良 55.2% 設問 5の虫垂 59.5% 設問 8のアスベスト 39.5% 特に設問 12 は 多くの方が MUC1,MUC2 79.6% を回答され正解の ER PgR desmin 15% を大きく上回り非常に厳しい結果となった 3. 出題の中に 写真の出し方 選択項目の出し方にも多少問題があり 今後の検討課題と考える 4. 本精度管理が日臨技と比較し 正解率が低い要因としては 個人単位での回答も考慮される 結語最後に 今回の精度管理事業に参加頂いた九臨技会員各位に心よりお礼申し上げます また この精度管理が会員各位の自己研鑚の役に立てれば幸いです 病理検査担当 九州臨床検査技師会 病理検査部門員 坂本康弘 ( 熊本赤十字病院病理部 ) TEL: ( 内線 6380) FAX: byori@kumamoto-med.jrc.or.jp 協力委員 船瀬将一 ( 国立病院機構熊本医療センター ) 九州各県病理 細胞検査担当者 福岡県 大久保文彦 ( 九州大学病院 ) 佐賀県 榊保彦 ( 佐賀県医師会成人病予防センター ) 大分県 丸田淳子 ( 野口病院 ) 長崎県 今泉利信 ( 健康保険諫早総合病院 ) 宮崎県 大野招伸 ( 宮崎大学医学部附属病院 ) 鹿児島県舞木公子 ( 鹿児島大学病院 ) 沖縄県 山城篤 ( 那覇市立病院 )

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