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モダンメディア 60 巻 10 号 2014[ 腸内細菌叢 ]307 シリーズ腸内細菌叢 1 腸内細菌叢の基礎 Introduction to Intestinal Microbiota ひら やま かず ひろ 平 山 和 宏 Kazuhiro HIRAYAMA Ⅰ. 腸内細菌叢 Ⅱ. 消化管各部の細菌叢 われわれは膨大な数の微生物と共生している この微生物には 細菌をはじめ ウイルスや真菌 場合によっては原虫や寄生虫が含まれるが その数や宿主との相互関係で最も重要なのは細菌である 数としてはウイルスもかなり多く 例えば糞便中にも相当数のウイルスが含まれているといわれているが その多くは細菌に感染するウイルス つまりバクテリオファージであり 細菌の病原因子などに関与しているとはいえ 宿主との関係という点では圧倒的に細菌が密接である われわれの体には 数 100 兆個 重さにして 1 ~ 2 kgの細菌が常在している 細菌は皮膚をはじめとして 消化管 呼吸器系 口腔 膣などの 体の内側 を含めたあらゆる体表面に存在し それぞれの場所に固有のバランスを保って定着している これらの細菌はただそこに存在するだけでなく 細菌同士あるいは宿主とのクロストークを介して安定した複雑な生態系を構成している 中でもその数 種類ともに最も豊富なのが消化管である ヒトに定着している細菌の 90% は消化管に生息し 腸内細菌叢と呼ばれている われわれの体を形成する細胞数は約 60 兆個なので それをはるかに上回る 自分ではない細胞 が腸内にすんでいるという計算になる 腸内細菌叢は 腸内フローラの呼び名でも広く知られているが flora は植物を指す言葉であるとして 近年は microbiota や microbiome も多く用いられている 消化管内に定着する細菌は胃から大腸まで一様に存在しているわけではなく 消化管のそれぞれの部位に特有の構成を持っている 消化管の入り口である口腔には意外と多くの細菌が定着しており しかも常に外気に曝されているというイメージに反して酸素が存在すると生存できない偏性嫌気性菌も多い 唾液 1ml あたり 10 8 個以上の細菌が検出される しかし 胃に入るとその強力な酸性環境のために菌数は減少し 内容物中の細菌数は 食事直後には 10 5 ~ 10 7 /g となるものの 空腹時には 10 3 /g 以下しか存在しない 十二指腸から小腸の上部に常在する細菌もごくわずかである しかし 小腸の下部に向かって菌数は上昇し 大腸に達するとその菌数は急激に上昇して 10 11 /g 以上にのぼり その構成もほぼ糞便の細菌叢と同様となる 特に Bacteroidaceae Bifidobacterium( ビフィズス菌 ) Eubacterium Clostridium Peptococcaceae などの偏性嫌気性菌が著しく増加し 10 8 /g から 10 11 /g 近い菌数で優勢菌叢を占める Enterobacteriaceae Enterococcus Lactobacillus( 乳酸桿菌 ) などの通性嫌気性菌群は 10 7 ~ 10 8 /g 程度と 総菌数の 1/1000 以下の菌数にとどまる Ⅲ. 年齢による腸内細菌叢の変化腸内細菌叢の構成は 年齢によって変化していく われわれは 胎内では基本的に無菌の状態で過ごし 出生後初めて排泄される胎便には細菌は含まれないが 出生後数時間のうちには腸内に細菌が定着を始める 一過性に環境由来の好気性菌が出現した後 東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻獣医公衆衛生学教室准教授 113-8657 東京都文京区弥生 1-1-1 Laboratory of Veterinary Public Health, Graduate School of Agricultural and Life Sciences, The University of Tokyo (Yayoi 1-1-1, Bunkyo-ku, Tokyo) ( 9 )

308 まず定着するのは大腸菌や腸球菌といった通性嫌気性菌 すなわち酸素の存在の有無にかかわらず発育できる菌群である しかし 生後 3 日目頃には環境中に酸素があると生育できない偏性嫌気性菌 (Bifidobacterium や Bacteroides Clostridium など ) が登場し なかでも Bifidobacterium は急速にその菌数を増やして乳児の腸内で重要な位置を占めるようになる Bifidobacterium は生後数日から 1 週間ほどで菌数が 10 10 ~ 10 11 /g に達し 離乳までの間は腸内細菌叢の大半を占有する最優勢菌となる 出生直後に最優勢であった通性嫌気性菌群は Bifidobacterium と入れ替わるように菌数が減少し その 1/100 以下の低い菌数で安定する 離乳期になると腸内細菌叢も大人の構成へと変化していく Bifidobacterium はやや減少し 優勢菌ではあるものの最も数が多い菌群というわけではなくなる その菌種も B. breve や B. infantis などの乳児に多いものから B. adolescentis などの成人型の菌種に移行する 優勢菌叢を構成するのは Bacteroides をはじめとした Clostridium Eubacterium Bifidobacterium などの偏性嫌気性菌群であり 通性嫌気性菌群は嫌気性菌群よりも低い菌数で安定した成人型の腸内細菌叢が形成される 腸内細菌叢の構成は やがて加齢とともに老人型となっていく Bifidobacterium は減少し 個体によっては検出されなくなる場合もある 総菌数もやや減少する 加齢とともに増加するのはウェルシュ菌として知られる Clostridium perfringens や大腸菌のようないわゆる腸内腐敗のもととなる菌群で これまでにいくつもの疫学的な研究が これらの菌群の増殖を抑えて Bifidobacterium が優勢な菌叢を保つことが 老化を防ぎ健康を維持するのに重要であることを示唆している ここで述べた腸内細菌叢の年齢による変遷は 主に従来の培養法を用いた解析の結果に基づいた知見であるが 近年の分子生物学的な手法を用いた解析でも同様な腸内菌叢構成の変遷が確認されている この腸内細菌叢はどこから来るのであろうか 新生児は産道を通過するときに母親から菌を受け継ぐと考えられる また 授乳などを介しても母親から菌を受け継ぎ 周囲の環境から受け取る菌も重要な要素である 通常分娩と帝王切開で生まれた新生児を比較すると その菌叢に大きな差があることは知られているし 新生児から分離される Bifidobacterium の菌種には産院ごとに特徴があることも報告されている 一方で 後述する次世代シークエンサーを活用してヒトの常在菌の解析を大規模に行っている最新のヒトマイクロバイオーム計画の成果は 親子や兄弟などの家族のように生活の場を共有していても その腸内細菌叢の構成の類似度は他人との類似度と変わりがないことを明らかにしている たとえ双生児であってもそれぞれ特有の菌叢構成を持っていた ヒトの腸内菌叢がどこからやってくるのかについては まだまだわかっていないことが多い Ⅳ. 腸内細菌叢の安定性形成された成人型の腸内細菌叢はかなり安定しており 同じ個人の菌叢構成の特徴は時間がたっても比較的保たれている 同時に 個人間の腸内細菌叢構成にははっきりとした個体差が存在していて 経時的に繰り返し採材した糞便の細菌叢の構成を解析すると 同一個体から得られた試料はまとまったクラスターを形成し 別の個体から得られた試料とは独立したクラスターとなる さらに 食餌内容を完全にコントロールした研究においても 食餌の変化によって各個人の腸内細菌叢構成に変化は見られたものの 違う個体から得られた試料が一つのクラスターを作ることはなく 全く同じ食餌をとったとしても ( 少なくとも短期間の食餌コントロールでは ) 個人間の差は埋められないことが観察されている Ⅴ. 腸内細菌叢を変動させる因子腸内細菌叢は安定した生態系ではあるが さまざまな因子の影響を受けてその構成や活性が変化することもある 抗菌性物質の投与 特に経口投与は腸内細菌叢の構成に著しい影響を与える その影響は 投与した抗菌性物質の抗菌スペクトラムや吸収性などによってさまざまであるが 抗菌性物質の投与によって正常な細菌叢がかく乱されると 通常は低い菌数に抑えられている Clostridium difficile などの菌が増殖し 腸炎のリスクが高まることが知られている また 下痢や便秘をはじめ さまざまな疾病によって腸内細菌叢が変動することも数多く報告されている 食餌は腸内細菌叢の構成に影響を与える重要な外 ( 10 )

309 来因子である 伝統的な和食と典型的な欧米食を摂取しているグループの比較のような疫学的な研究から 牛肉や豚肉の比率の高い食事を摂取させる研究 肥満のモデル食である高脂肪食を与える動物実験など 多くの研究がなされている 宿主側のさまざまな因子も腸内細菌叢の構成に影響を与えている 胃酸や胆汁酸 各種の酵素や多糖類の分泌などは腸内細菌叢に影響を与える 例えば 無酸症や胃切除により消化管上部で菌が増殖することが知られている 腸の蠕動運動は消化管内容物の移動速度を決定し 消化管各部の菌叢構成に影響を与える 腸管内に分泌される抗体の効果などを介して 宿主の免疫状態も菌叢構成に影響していると考えられる ストレスは生体に複合的な反応を引き起こすが 各種のストレスで腸内細菌叢の構成に影響が現れることが報告されている 一方 積極的に腸内細菌叢をコントロールしようとする場合もある 宿主にとって有用な生菌を摂取するプロバイオティクスや腸内の有用菌の増殖を目的としたプレバイオティクスがその例である 特定保健用食品 ( トクホ ) にも 腸内細菌のバランスを整える 腸内の環境を良好に保つ といった効果をうたったものが数多く認可されている Ⅵ. 腸内細菌叢の宿主に対する影響かつて われわれヒトと細菌の関係といえば まず病原菌が考えられ 細菌とは征服すべき 敵 であった 一方で 20 世紀初頭のメチニコフの 酸乳による不老長寿説 のように微生物を摂取することにより健康を増進する という考えも古くからあった 腸内細菌叢はわれわれが生きていくのに必要不可欠であるとする説が唱えられたこともある この説は無菌動物の作製 維持が成功したことで否定されたが 現在では腸内細菌叢と宿主の関係はこれまで考えられていたよりもはるかに複雑でしかも広範囲にわたっていることが広く認められるようになっている 近年のさまざまな新しい研究技術の発展も 腸内細菌叢がわれわれの疾病や異常 さらには健康や正常な生理機能にも重要な役割を果たしていることを裏付け続けている 腸内細菌叢は その数や種類が膨大なだけでなく 活発な代謝活性を有している ヒトが持つ遺伝子は 全部で 2 万 ~ 2 万 5 千といわれているが 腸内細菌叢の持つ遺伝子の合計はわれわれの自前の遺伝子の 100 倍以上の 330 万ともいわれ さまざまな代謝産物が産生されている それらの代謝産物は腸管内だけでなく 吸収されて宿主体内にも取り込まれている ヒトの血液中に存在する小分子量の物質の 36% には腸内細菌叢が関与しているという研究者もいる 腸内細菌叢は その代謝や時には菌体そのもので われわれに多大な影響を与えているのである 腸内細菌叢が宿主に与える影響は 有益な場合もあれば有害な場合もある 腸内に常在している細菌であっても 抗生物質投与や宿主の免疫系その他の生理学的な異常などのためにそのバランスが大きく乱れることによって過剰に増殖したり 体内に移行してしまったりすればさまざまな疾患の原因となることがある 一方 正常な常在菌叢は 定着の場や栄養素の競合 抗菌性物質の産生などの機序によって 外来の病原体に対するバリアとして働くことが知られている 腸内細菌叢は ビタミンや短鎖脂肪酸など宿主にとって必要な物質を作り出す一方で 腸内腐敗産物や二次胆汁酸など有害な物質も作る 変異原物質や発癌物質を生成したり活性化したりすることによって発癌を促進もすれば それらを分解や不活化 吸着などで除去する働きによって癌の予防に役立つことも知られている 近年では腸管局所における影響だけでなく 全身的な疾病や健康への影響も認識されるようになってきた 例えば 腸内細菌叢は免疫系の正常な発達に不可欠である 膨大な数の細菌が消化管のたった 1 層の上皮細胞を隔てて向かい合っているわけであるから 宿主との間にひそかな攻防やクロストークがあっても当然なのかもしれない しかも 体の免疫システムの 70% 近くは腸管に存在するのであるから 腸内細菌叢がわれわれの免疫系の調節や発達に重要な役割を果たしていても不思議ではない 最新の研究によれば 腸内細菌叢は時には宿主の免疫を刺激して炎症を引き起こす一方で 腸内の常在菌が正常な免疫システムの維持に大きな役割を持っており 過剰なあるいは不適切な炎症が起こらないように制御していることが明らかになりつつある 腸内細菌叢が肥満やメタボリックシンドロームに深くかかわっていることを示す研究も次々に発表されている 肥満とそうではない組み合わせの一卵性 ( 11 )

310 双生児の腸内細菌叢を 細菌の持つ 16SrRNA 遺伝子配列によって解析 比較した研究では 肥満によって腸内細菌叢の多様性が減少していることが明らかとなった また 肥満者では腸内細菌叢のうちの Firmicutes 門の比率が上昇し 入れかわるように Bacteroidetes 門の比率が低下することも報告されている Firmicutes 門は Clostridium 属や Eubacterium 属 Peptococcus 属などを含む主としてグラム陽性菌のグループ Bacteroidetes 門は Bacteroides 属を代表とするグラム陰性菌のグループである 一方 過肥の女性では Clostridium などの菌数が有意に高いと同時に Bacteroides の菌数にも BMI と正の相関がみられたとする報告や BMI が 30 以上の人と以下の人とを比較した研究で Bacteroidetes 門の割合に有意な差は認められなかったという報告もある このように 用いられている解析方法が異なることなどもあって 必ずしも共通した結果が得られているとは言えないが ある種の腸内細菌叢の構成の変化と肥満の進行に関連があることは確かであろう 肥満にともなう腸内細菌叢の変化は 肥満につながる食生活の結果であると考えることもできる しかし 遺伝的に肥満するモデルマウス (Lep ob/ob ) では同じ飼料を与えてもヒトの肥満で見られたのと同様の菌叢の変化が観察されること 腸内細菌叢を持たない無菌マウスと細菌叢を持つ通常マウスを比較すると 通常マウスの方が飼料の摂取量が少ないにもかかわらず体脂肪量が多いこと などの知見は 肥満と腸内細菌叢との間に少なくとも食餌による影響を介さない何らかの直接の関連があることを示している 腸内細菌叢は 非消化性食餌成分を分解してエネルギー回収を向上させるという腸管内における働きだけでなく エンドトキシンによる全身の軽度な慢性炎症や各種のホルモン分泌に対する影響を介して 肥満や糖尿病の発生に影響を与えているらしい さらに最新の研究では 腸内細菌叢が自閉症やうつなどの精神疾患やストレスに対する応答 情動行動や学習などの脳機能に関連する現象にまで関わっていることを示唆する報告も見られるようになってきている Ⅶ. 腸内細菌叢の研究法と将来かつては腸内細菌叢の研究には もっぱら培養を基礎とした手法が用いられてきた しかし 腸内細菌叢を研究するのはしばしば困難である 腸内 特に大腸は酸素が存在しないなど非常に特殊な環境であり 栄養条件なども実験室内で再現することは難しい ロールチューブ法 プレートインボトル法 嫌気グローブボックス法といった高度な嫌気環境を可能にする方法や装置の開発 培地の組成をはじめとする培養技術の向上などが長年にわたって進められ 培養法も進歩し続けているが それでもなお 腸内に存在するすべての細菌を培養することはできない 腸内細菌叢が数百 ~ 1000 種を超えるともいわれる膨大な数の細菌から構成される極めて複雑な生態系であることも研究を困難にしている 腸内細菌叢を培養し 観察し 同定し 解析する作業には莫大な労力と時間が必要である 分子生物学的な手法は これらの問題を解決する一つの手段として盛んに用いられるようになった 分子生物学的な手法は主として細菌の遺伝子 特に 16SrRNA の遺伝子 (16SrDNA) の配列の違いを検出することを基礎としたものである 培養法に比べて労力や時間が削減され 培養法で要求される熟練も必要としない 菌が生きている必要がないので 試料の採取や輸送 保存にも制約が少ない FISH 法 クローンライブラリー法 DGGE 法 TGGE 法 T-RFLP 法 定量的 PCR 法 DNA マイクロアレイ法などがある さらに 新しい原理に基づくいわゆる 次世代シーケンサー の登場と強力なコンピューターの利用により メタゲノム解析が可能となった 次世代シーケンサー はそれまでのシーケンサーの数万倍もの能力を持ち 遺伝子情報解析の速度 経済性 網羅性を飛躍的に進歩させた 国際的な大規模プロジェクトも行われ 膨大な数の遺伝子情報を持った総合的なデータベースが構築されつつある ただし 培養に基づく研究が不要になったわけではない 腸内細菌叢の持つ代謝活性や宿主との あるいは細菌同士の相互作用の研究などには 細菌を培養することが重要であろう プロバイオティクスの候補となるような有用菌 ( 群 ) の探索 あるいは ( 12 )

311 有害菌を制御する手段を探る研究などにおいては 遺伝子配列の情報だけではなく 生きた菌株を手にすることが不可欠である かつて誤解されていたように腸内細菌叢の構成菌の大半は培養できないというわけでもない 直接観察された菌体 ( 全てが生きているとは限らない ) のうち培養可能な細菌の割合は 報告によってまちまちではあるが 10 ~ 50% と すべての細菌が培養できるわけではないものの 99% 以上の菌が培養不可能である土壌などの他の環境細菌とは対照的である また ヒトの糞便細菌叢を分子生物学的な手法を用いて解析したところ 0.5% 以上の割合を占めて検出された遺伝子配列の多くは これまでに培養されたことのある菌種の配列と一致するという報告もある その報告は 培養法で検出できない 細菌の多くが 培養できない のではなく 培養で きる けれども菌数がより多い他の菌に隠されて 培養されない だけであることを示唆している とはいうものの 優勢菌群よりも少ない菌数でしか存在せず 優れた選択培地が開発されていない菌群を培養法で検出することは 困難で莫大な労力が必要な作業であることは間違いない 例えば 腸内細菌叢のうちの 0.1% を占める細菌を培養で検出するためには 1000 以上の集落を同定しなければならない計算となる 培養を用いた研究手法においても 分子生物学的手法における次世代シーケンサーのような画期的な技術革新が期待される また 次世代シークエンサーの結果からターゲットを絞って培養や分離を試みる というように異なる手法を組み合わせることによって新たな成果が得られるようになればすばらしい ( 13 )