論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

Similar documents
thermofisher.com mirVana miRNA mimics/inhibitors 検索マニュアル

Untitled

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

博士学位論文審査報告書

Untitled

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

Untitled

論文の内容の要旨

計画研究 年度 定量的一塩基多型解析技術の開発と医療への応用 田平 知子 1) 久木田 洋児 2) 堀内 孝彦 3) 1) 九州大学生体防御医学研究所 林 健志 1) 2) 大阪府立成人病センター研究所 研究の目的と進め方 3) 九州大学病院 研究期間の成果 ポストシークエンシン

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

妊娠認識および胎盤形成時のウシ子宮におけるI型IFNシグナル調節機構に関する研究 [全文の要約]

<4D F736F F D F D F095AA89F082CC82B582AD82DD202E646F63>

Untitled

図 1 マイクロ RNA の標的遺伝 への結合の仕 antimir はマイクロ RNA に対するデコイ! antimirとは マイクロRNAと相補的なオリゴヌクレオチドである マイクロRNAに対するデコイとして働くことにより 標的遺伝 とマイクロRNAの結合を競合的に阻害する このためには 標的遺伝

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

<4D F736F F D F4390B388C4817A C A838A815B8358>

クワガタムシの大顎を形作る遺伝子を特定 名古屋大学大学院生命農学研究科 ( 研究科長 : 川北一人 ) の後藤寛貴 ( ごとうひろき ) 特任助教 ( 名古屋大学高等研究院兼任 ) らの研究グループは 北海道大学 ワシントン州立大学 モンタナ大学との共同研究で クワガタムシの発達した大顎の形態形成に

血漿エクソソーム由来microRNAを用いたグリオブラストーマ診断バイオマーカーの探索 [全文の要約]

報道発表資料 2007 年 8 月 1 日 独立行政法人理化学研究所 マイクロ RNA によるタンパク質合成阻害の仕組みを解明 - mrna の翻訳が抑制される過程を試験管内で再現することに成功 - ポイント マイクロ RNA が翻訳の開始段階を阻害 標的 mrna の尻尾 ポリ A テール を短縮

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

Microsoft Word - FHA_13FD0159_Y.doc

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

Microsoft PowerPoint - プレゼンテーション1

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

Untitled

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

人工知能補足_池村

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

研究目的 1. 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究 我々の体には 恒常性を保つために 生体内に侵入した異物を生体外に排除する 免疫と呼ばれる防御システムが存在する 免疫力の低下は感染を引き起こしやすくなり 健康を損ないやすくなる そこで 2 10W/kgのSARで電波ばく露を行い 免疫細胞

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

Microsoft Word - Gateway technology_J1.doc

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

【Webinar18】はじめようmicroRNA解析_

関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で


長期/島本1

■リアルタイムPCR実践編

Untitled

Microsoft PowerPoint - 資料6-1_高橋委員(公開用修正).pptx

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

記 者 発 表(予 定)

Microsoft Word - PRESS_

を行った 2.iPS 細胞の由来の探索 3.MEF および TTF 以外の細胞からの ips 細胞誘導 4.Fbx15 以外の遺伝子発現を指標とした ips 細胞の樹立 ips 細胞はこれまでのところレトロウイルスを用いた場合しか樹立できていない また 4 因子を導入した線維芽細胞の中で ips 細

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

Peroxisome Proliferator-Activated Receptor a (PPARa)アゴニストの薬理作用メカニズムの解明

Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

能性を示した < 方法 > M-CSF RANKL VEGF-C Ds-Red それぞれの全長 cdnaを レトロウイルスを用いてHeLa 細胞に遺伝子導入した これによりM-CSFとDs-Redを発現するHeLa 細胞 (HeLa-M) RANKLと Ds-Redを発現するHeLa 細胞 (HeL

論文の内容の要旨


1

H

平成14年度研究報告

核内受容体遺伝子の分子生物学

Untitled

本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

いることが推測されました そこで東京大学医科学研究所の氣駕恒太朗特任研究員 三室仁美 准教授と千葉大学真菌医学研究センターの笹川千尋特任教授らの研究グループは 胃がんの発 症に深く関与しているピロリ菌の感染現象に着目し その過程で重要な役割を果たす mirna を同定し その機能を解明しました スナ

PowerPoint プレゼンテーション

れており 世界的にも重要課題とされています それらの中で 非常に高い完全長 cdna のカバー率を誇るマウスエンサイクロペディア計画は極めて重要です ゲノム科学総合研究センター (GSC) 遺伝子構造 機能研究グループでは これまでマウス完全長 cdna100 万クローン以上の末端塩基配列データを

Untitled

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 P EDTA-2Na( 薄紫 ) 血液 7 ml RNA 検体ラベル ( 単項目オーダー時 ) ホンハ ンテスト 注 外 N60 氷 MINテイリョウ. 採取容器について 0

博第265号

PowerPoint プレゼンテーション

本日の内容 sirnaの基礎 sirnaのワークフロー RNAiの原理オフターゲット効果 sirna 実験の成功の秘訣 sirnaを低濃度で使う化学修飾 sirna を使う高効率なトランスフェクションを行う複数のsiRNAを個別に使う Single sirnas vs. sirna Pools Si

Microsoft PowerPoint - 601 群馬大学 原田先生.ppt

「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査の手続」の一部改正について

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

Slide 1

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

Microsoft PowerPoint - 04 池袋 一典 教授

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

Microsoft PowerPoint - 新アッセイ検索(ambion) 月版 (2).pptx[読み取り専用]

様式 F-19 科学研究費助成事業 ( 学術研究助成基金助成金 ) 研究成果報告書 平成 25 年 5 月 15 日現在 機関番号 :32612 研究種目 : 若手研究 (B) 研究期間 :2011~2012 課題番号 : 研究課題名 ( 和文 ) プリオンタンパクの小胞輸送に関与す

Untitled

NGSデータ解析入門Webセミナー

MB-lecture12.pptx

ASC は 8 週齢 ICR メスマウスの皮下脂肪組織をコラゲナーゼ処理後 遠心分離で得たペレットとして単離し BMSC は同じマウスの大腿骨からフラッシュアウトにより獲得した 10%FBS 1% 抗生剤を含む DMEM にて それぞれ培養を行った FACS Passage 2 (P2) の ASC

thermofisher.com Silencer Select pre-designed / validated siRNA 検索マニュアル

Microsoft PowerPoint - BIセンターセミナー2013.pptx[読み取り専用]

胞運命が背側に運命変換することを見いだしました ( 図 1-1) この成果は IP3-Ca 2+ シグナルが腹側のシグナルとして働くことを示すもので 研究チームの粂昭苑研究員によって米国の科学雑誌 サイエンス に発表されました (Kume et al., 1997) この結果によって 初期胚には背腹

トランスジェニック動物を用いた遺伝子突然変異試験の開発 改良 ( ) トランスジェニック動物遺伝子突然変異試験は, 突然変異検出用のレポーター遺伝子をゲノム中に導入した遺伝子組換えマウスやラットを使用する in vivo 遺伝子突然変異試験である. 小核試験が染色体異常誘発性を検出

HYOSHI48-12_57828.pdf

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

AJACS_komachi.key

PowerPoint プレゼンテーション

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

上原記念生命科学財団研究報告集, 30 (2016)

-119-

Transcription:

論文題目 腸管分化に関わる microrna の探索とその発現制御解析 氏名日野公洋 1. 序論 microrna(mirna) とは細胞内在性の 21 塩基程度の機能性 RNA のことであり 部分的相補的な塩基認識を介して標的 RNA の翻訳抑制や不安定化を引き起こすことが知られている mirna は細胞分化や増殖 ガン化やアポトーシスなどに関与していることが報告されており これら以外にも様々な細胞諸現象に関与していると考えられている mirna は細胞内のゲノムにコードされており primary-mirna(pri-mirna) と呼ばれる長い初期転写産物として転写される この初期転写産物は mrnaと同様に 5 末端に cap 構造 3 末端に poly A 配列が付加されている その後 種々のプロセシングステップを経て 21 塩基程度の mature mirna となり mirnp と呼ばれる effecter complex 内で標的 RNA 認識の guide RNA として機能する (Fig.1) 現在 mirna は human で 541 種類 mouse で 443 種類見つかっており (mirbase ver10.2 に登録されている mirna 数 ) それらは全遺伝子の 30% を制御しているとの予測もある しかし 現状では未知の部分が多く 今後の解析が期待されている 腸管上皮細胞は腸管の底部から繊毛先端に到達するまで 5 日程度と細胞の寿命が短いため 細胞増殖や分化に関する研究が非常に活発に行われている mirna 研究においても 腸管由来細胞株や腸管組織を用いた大規模 mirna クローニングが行われており 腸管は多くの mirna が報告されている組織の 1 つとなっている しかし それらのデータは組織としての発現プロファイルを与える一方 組織内のどの細胞で発現しているかという部位的な情報や どういう時期に発現変化が起こるかという時期的な情報を示してはいない そのため mirna が発現している細胞の同定 分化やガン化などの細胞形質の変化に伴う mirna の発現解析を行うことは mirna の機能解析に重要な示唆を与えるものと考えられる ヒト大腸ガン由来細胞株である Caco-2 細胞は 分化誘導によって小腸吸収上皮細胞の形質を獲得することが知られており in vitro での吸収上皮細胞分化メカニズムの解析や 薬物吸収テストなどに用いられている 腸管上皮細胞は組織からの精製 培養が困難であるため Caco-2 細胞を用いた in vitro 分化誘導系は腸管分化のメカニズムを解明する上で非常に重要な系となっている 我々は Caco-2 細胞を用いた in vitro 分化誘導系を用いて 腸管上皮細胞分化に関わる mirna の探索とその発現制御解析を行った 腸管分化に関与する mirna の報告は未だに無く 腸管分化時に発現量の変化する mirna を探索 同定することは腸管分化のメカニズムに新たな視点を導入することになると考えている

2. 方法 結果 Caco-2 分化誘導系による吸収上皮細胞分化を確認するため 吸収上皮細胞の分化マーカーとして知られている Lactase phlorizin hydrolase(lph) Sucrase-Isomaltase(SI) の発現量変化を RT-PCR を用いて検出した (Fig.2A) 分化誘導が確認された試料を用いて 吸収上皮分化誘導前後の Caco-2 細胞間での mirna の発現量変化を TaqMan mirna assay kit を用いて定量した Caco-2 分化誘導系において 多くの mirna がその発現量を変化させることが分かったが 我々はそれらの中から 分化後 Caco-2 細胞内で特に高い intensity を示し 分化誘導において高い発現誘導性を示す mir-194 に注目した (Fig.2B) 腸管上皮細胞は crypt 底部から繊毛の先端に向かって細胞分化が階層的に進むことが知られている (Fig.3A) Caco-2 細胞分化誘導系において発現上昇を示す mir-194 が in vivo において発現上昇を示すかどうかを検討するため mir-194 の発現分布を in situ hybridization (ISH) を用いて観察した (Fig.3B) その結果 mir-194 は分化した上皮細胞特異的に発現を示すことが明らかになった 以上から培養細胞系 in vivo の両解析において分化した腸管上皮細胞特異的発現が観察されることから mir-194 は腸管上皮細胞の分化 成熟に何らかの関わりを持っているのではないかと考えた mir-194 はヒトゲノムでは1 番染色体上に mir-194-1 が 11 番染色体上に mir-194-2 がコードされている (Fig.4A. mature mirna は全く同一の塩基配列 ) Caoo-2 細胞分化誘導系において どちらが分化誘導による mature mir-194 の発現誘導に寄与しているのかを検討するため RT-PCR を用いて pri-mirna の定量を行った (Fig.4B) その結果 mir-194-1 mir-194-2 共に分化誘導により発現上昇が起こることが明らかになった しかし mir-194-2 の方がより強い発現誘導を受けていることから ゲノム上に 2 カ所ある mir-194 gene のうち mir-194-2 に注目することにした 初めに mir-194-2 がどのような機構で発現が制御されているかを解析するために RACE 法を用いて pri-mir-194-2 の遺伝子構造を決定した (Fig.5) 我々が決定した遺伝子構造から mir-194-2 mir-192 は intron 上にコードされた intronic mirna であり その host RNA はタンパクをコードしていない non-coding RNA であることを示した 続いて pri-mir-194-2 の転写制御機構を解析するため 転写開始点近傍領域を Luciferase 遺伝子上流に組み込み dual luciferase reporter assay を用いて promoter 領域の同定を行った (Fig.6) 組み込んだ転写開始点近傍領域の deletion analysis から 部分的に保存された領域を含む-162~+21 の領域に十分な promoter 活性があることを確認し その領域中の-70~-52 領域に特に重要な配列を含むことが mutation analysis により明らかになった この-70~-52 領域に結合する転写因子を motif search を用いて探索したところ この領域に腸管特異的遺伝子の発現を制御している Hepatocyte nuclear factor-1 alpha(hnf-1α) の結合配列が含まれていることが分かった HNF-1αはホメオボックスを持つ転写因子であり 腸管においては Caco-2 の分化誘導の際に分化マーカーとして使用した LPH や SI などの小腸特異的遺伝子群の発現を制御していることが知られている

HNF-1α が pri-mir-194-2 の転写制御を行っているかどうかを検討するために pri-mir-194-2 promoter reporter と HNF-1α を co-transfection することで pri-mir-194-2 promoter の転写活性が上昇することを確認した (Fig.7A) また HNF-1α の推定結合領域である-70~-52 領域を欠失 もしくは変異させた pri-mir-194-2 promoter 変異体では HNF-1α の過剰発現による転写活性の上昇が観察されなくなることを確認した 以上から pri-mir-194-2 promoter の-70~-52 領域に過剰発現させた HNF-1αが結合し その転写を制御しているのではないかと考えられる さらに内在性の HNF-1αが mir-194-2 promoter に結合しているかどうかを検討するため Chromatin Immunopreciptation(ChIP)assay を行い 抗 HNF-1α 抗体で特異的に免疫沈降されたクロマチンに pri-mir-194-2 promoter 領域が濃縮されていることを確認した (Fig.7B) 以上から 腸管特異的遺伝子群を制御していることで知られる HNF-1αが 腸管上皮細胞で発現している mir-194 の発現も制御していると考えられる 最後に腸管上皮細胞分化において発現誘導の起こる mir-194 がどのような機能をもっているのかを検討するため luciferase reporter を用いた mir-194 の標的遺伝子評価実験を行った その結果 検討を行った 10 種の遺伝子のうち 4 種の遺伝子の 3 UTR が mir-194 の標的となり得ることを明らかにした 3. 結論我々は腸管上皮細胞の分化に関わる mirna の探索を行い 興味深い mirna として mir-194 を同定し その発現制御メカニズムについて解析を行った さらに mir-194 が標的として発現制御し得る候補遺伝子を 4 種同定した 我々の成果は腸管上皮細胞分化における mirna による発現制御機構の存在を示唆すると共に 腸管上皮細胞分化における mirna の役割の一端を明らかにした重要な知見であると考えている

Figure.1

Figure.2

Figure.3

Figure.4

Figure.5

Figure.6

Figure.7